制 度 複 合 体 と し て の 憲 法
鵜 澤 剛
一 は じ め に 二 個人 権の 二重 性と 憲法 三 法制 度の 生成 と個 人の 権利 行使 四 制度 原理 とし ての 個人 権 五 お わ り に 一
は じ め に
⑴
通説 的な 憲法 学説 にお いて、﹁ 制度
﹂が
﹁権 利﹂ の対 語で ある こと は周 知の 通り であ る。 その 典型 は、 個人 の権 利・ 自由 の保 障に 対し て﹁ 制度 的保 障﹂ が語 られ る場 合で
( )
ある
。﹁ 制度
﹂の 問題 であ ると は、 すな わち
﹁権 利﹂
1
の問 題で はな いこ とを 意味 し、 主観 訴訟 を原 則と する 我が 国実 定訴 訟制 度の もと では
、出 訴の 原則 的否 定を 意味
( )
する
。た とえ ば政 教分 離規 定に 対す る違 反が あっ ても
、客 観訴 訟た る住 民訴 訟︵ 地方 自治 法二 四二 条の 二︶ のよ うな 訴 2
訟形 態が とく に用 意さ れて いれ ば格 別、 そう でな けれ ば訴 訟で 問題 とな しえ ない
︵周 知の よう に、 政教 分離 を制 度
的保 障と 理解 する こと につ いて はさ まざ まな 問題 があ るが
、こ こで は立 ち入 ら
( )
ない
︶。
3
もっ とも
、近 代法 にお いて は、 すべ ての 法は さし あた り﹁ 客観 法︵ ob je kt iv es Re ch t︶
﹂の かた ちで 存在 する ので あり
、そ の保 護し てい る利 益が 個々 の法 主体 に個 別的 利益 とし て帰 属す るも ので
、か つ、 その 実現 が個 々の 法主 体 の意 思︵ 選択 に︶ 委ね られ てい ると きに
、は じめ て﹁ 権利
︵s ub je kt iv es Re ch t︶
﹂︵ 主観 法︶ が観 念さ
( )
れる
。そ の意 味
4
では
、す べて の﹁ 権利
﹂︵ 主観 法︶ は﹁ 客観 法﹂ の存 在を 前提 とす るも のだ とも いえ る。 また
、﹁ 権利
﹂の 保障 を実 効的 たら しめ るた めに は、 裁判 制度 等の これ を担 保す る﹁ 制度
﹂が 必要 であ るこ とは いう まで もな いこ とで ある か ら、 理念 的あ るい は問 題発 見的 概念 とし て﹁ 権利
﹂を 語る なら とも かく
、﹁ 権利
﹂を 現実 的存 在と して 問題 にす る 以上
、そ れは
﹁制 度﹂ の存 在を 不可 欠の 前提 とす ると もい える だ
( )
ろう
。
5
しか し、 この よう な至 極当 然の こと を脇 にお けば
、﹁ 権利
﹂は
﹁制 度﹂ とい う﹁ 客観 的な もの
﹂に 対置 され る
﹁個 人的 なも の﹂ と考 えら れて きた
。殊 に個 人主 義の 原理 に立 脚す る憲 法上 の人 権に つい ては そう であ った
。
⑵
とこ ろが、ヴ ァイ マル 期の ドイ ツで
、ル ドル フ・ スメ ント が、 いわ ゆる
﹁統 合理 論﹂︵ In te gr at io ns le hr e︶ の もと
、基 本権 を国 家の
﹁実 体的 統合
﹂︵ sa ch li ch eI nt eg ra ti on
︶の 契機 と位 置づ け、
﹁価 値体 系﹂
︵W er ts ys te m︶ ある い は﹁ 価値 秩序
﹂︵ We rt or dn un g︶ と把 握し たの をき っか
( )
けと して
、以 降、 ドイ ツで は、 基本 権を 単な る主 観的 権利
6
とし てだ けで なく 客観 的秩 序と して も捉 えよ うと する 傾向 が生 ま
( )
れる
。こ の傾 向は
、い わゆ るス メン トシ ュー レと
7
呼ば れる スメ ント の弟 子筋 の論 者の あい だの みな らず
、た とえ ば連 邦憲 法裁 判所 の実 務に も大 きな 影響 を与 え、 今 日、 ドイ ツ的 基本 権理 論の 特徴 とし て数 えら れる ほど で
( )
ある
。
8
こう した ドイ ツの 傾向 は、 我が 国で もす でに
、か なり の程 度に 紹介
・検 討が 進ん でい る。 とり わけ 実践 的な 解釈 論的 主張 とし ても 見逃 せな いの が、 小山 剛の 見解 であ る。 小山 は、 防御 権と して の自 由権 とな らぶ 理論 枠組 みと し
て、 法制 度保 障論 の﹁ 内容 形成 テー ゼ﹂ とし ての 再構 成を 試
( )
みる
。
9
⑶
この よう な学 説状 況の なか で、 本稿 は、﹁フ ラン ス行 政法 史上 最初 にし て最 大の 体系 化で あり
、か つま た最 も生 産的 な法 思想 家で あ
( )
った
﹂と 称せ られ るモ ーリ ス・ オー リウ の個 人権 論を 素材 に、 憲法 上の 人権 の主 観性 と客
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観性 とい う主 題に つい て考 察す るも ので ある
。中 心的 な検 討対 象と する のは
、晩 年の 著作
﹃憲 法精 義︹ 第二 版︺
﹄
︵一 九二 九年
︶の 第四 部﹁ フラ ンス の社 会の
c o n s t i t u t i o n
﹂で
( )
ある
︵な お、 本稿 では
、﹁ 憲法 上の 権利
﹂の 呼称 とし て、
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フラ ンス の議 論に おい ては
﹁個 人権
﹂︵ dr oi ts in di vi du el s︶ を、 ドイ ツの 議論 にお いて は﹁ 基本 権﹂
︵G ru nd re ch te
︶を
、我 が国 の議 論あ るい は一 般的 な議 論を する 場合 には
﹁︵ 憲法 上の
︶人 権﹂ をそ れぞ れ用 いる こと にし たい
︶。 もと より
、こ こで
、オ ーリ ウの 学説 をト ータ ルに 検討 し論 評し よう とい うの では ない
。オ ーリ ウほ ど多 彩な 人物 はめ ずら しい
。﹁ 制度 理論
﹂と 呼ば れる 法哲 学の 流派 の創 始者 であ り、 熱学 等の 他の 学問 分野 にも 明る い一 方で
、 膨大 な判 例評 釈を 著す など
、﹁ 堅実 で緻 密な 実定 法学
﹂と して の一 面も
( )
ある
。本 稿で 行う のは
、わ ずか に、 オー リ
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ウ個 人権 論の 内容 を、 関連 する ドイ ツの 憲法 学説 や法 概念 との 対比 で明 らか にし
、そ の位 相と 含意 を探 るこ とだ け であ る。 ドイ ツの 憲法 学説 や法 概念 と対 比さ せる のに は、 以下 の三 つの 理由 があ る。 第一 に、 今日 のド イツ 基本 権論 にと って 基本 文献 の一 つに 数え られ るペ ータ ー・ ヘー バー レの
﹃基 本法 一九 条二 項の 本質 的内 容の 保障
﹄は
、ス メン ト シュ ーレ の流 れを 汲み つつ も、 他面 でオ ーリ ウか ら多 大な イン スピ レー シ
ョ
ンを 受け てい るこ とで( )
ある
。ヘ ーバ ー
13
レに よる オー リウ の読 解に はか なり 不正 確な 点が ある こと がす でに 指摘 され てい
( )
るが
、ド イツ 的基 本権 の二 重性 論
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との 対比 でオ ーリ ウの 個人 権の 二重 性論 の特 徴を 明ら かに する こと が、 それ 自体 とし て、 有益 な作 業で ある こと は 否定 でき ない であ ろう
。第 二に
、オ ーリ ウの
﹁堅 実で 緻密 な実 定法 学﹂ は、 ロー マ法 研究 者と して 出発 した とい う
その キャ
( )
リア に負 うと ころ も大 きい 一方 で、 ドイ ツの パン デク テン 法学 に対 する 深い 造詣 に支 えら れて いる 部分 も
15
かな り
( )
ある
、と いう こと があ る。 その 意味 で、 オー リウ の学 説を 理解 する には
、ド イツ の伝 統的 法律 学に おけ る用
16
語法 を参 照す るこ とが 有益 であ る。 第三 に、 筆者 の能 力や 関心 の問 題が ある
。筆 者は オー リウ 研究 をラ イフ
・ワ ー クと して きた わけ でも なく
、フ ラン ス法 研究 者で すら ない
。ド イツ 公法 学を 比較 法研 究の 対象 とし
、と りわ け古 典 的な ドイ ツ法 的概 念枠 組み に関 心を 持っ てき た筆 者に とっ て、 かろ うじ て可 能な のは
、パ ンデ クテ ニス トと して の オー リウ とい う角 度か らの 接近 であ る。 以上 のよ うに
、本 稿の 検討 は、 その 広さ にお いて も深 さに おい ても はな はだ 限定 的な もの にと どま るが
、オ ーリ ウ個 人権 論に 関す る我 が国 憲法 学の 研究 が必 ずし も盛 んで ない 現状 にか んが み
( )
れば
、こ のよ うな かた ちで 本稿 を公
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表す るこ とに も、 いく ばく かの 意義 は認 めら れよ う。 斯く の次 第で
、こ こに 筆者 なり の分 析を 示し
、﹁ オー リウ 研 究の 権威 であ り、 制度 理論 の日 本に おけ る最 も良 き理
( )
解者
﹂で ある 磯部 力先 生の 御教 示を 仰ぐ もの であ る。
18
︵
︶ 芦部 信喜
︵高 橋和 之補 訂︶
﹃憲 法︹ 第四 版︺
﹄︵ 岩波 書店
・二
〇〇 七年
︶八 四頁
。
︵!
︶ 渋谷 秀樹
﹃日 本国 憲法 の論 じ方
﹄︵ 有斐 閣・ 二〇
〇二 年︶ 一八 六頁
。
︵"
︶ 参考 文献 まで 含め
、小 山剛
﹁人 権と 制度
﹂西 原博 史編
﹃岩 波講 座・ 憲法
!・ 人権 論の 新展 開﹄
︵岩 波書 店・ 二〇
〇七 年︶ 五二
~五 六頁
。
︵#
︶ 石川 健治
﹁﹃ 基本 的人 権﹄ の主 観性 と客 観性
﹂西 原博 史編
﹃岩 波講 座・ 憲法
!・ 人権 論の 新展 開﹄
︵岩 波書 店・ 二〇
〇七 年︶ 五~ 九頁
。
︵$
︶ 石川 健治
﹃自 由と 特権 の距 離︹ 増補 版︺
﹄︵ 日本 評論 社・ 二〇
〇七 年︶ 一〇 三頁
。
︵%
︶ Ru do lf Sm en d, Ve rf as su ng un dV er fa ss un gs re ch t, in :d er s. ,S ta at re ch tl ic he Ab ha nd lu ng en un da nd er eA uf sä tz e, 3. Au fl ., 19 94 ,S .2 60 ff .
︵6
︶ 戦後 ドイ ツの 公法 学の 傾向 につ いて は、 栗城 壽夫
﹁西 ドイ ツ公 法理 論の 変遷
﹂公 法研 究三 八号
︵一 九七 六年
︶七 六頁 以下
、藤 田宙 靖﹁ 法現 象の 動態 的考 察の 要請 と現 代公 法学
﹂同
﹃行 政法 学の 思考 形式
︹増 補版
︺﹄
︵木 鐸社
・二
〇〇 三年
︶三 七六 頁以 下。
︵7
︶ Br un -O tt oB ry de ,F un da me nt al Ri gh ts as Gu id el in es an dI ns pi ra ti on :G er ma nC on st it ut io na li sm in in te rn at io na lp er sp ec ti ve ,2 5W is .I nt ʼl L. J. 18 9( 20 07 ); Wi nf ri ed Br ug ge r, De rm od er ne Ve rf as su ng ss ta at au sS ic ht de ra me ri ka ni sc he nV er fa ss un gu nd de sG ru nd ge se tz es ,A öR 12 6, 20 01 , S. 37 1f f.