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女性の階層的地位をめぐる論点

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女性の階層的地位をめぐる論点

脇 田 彩

1.背景

 階層研究は,大規模な社会調査のデータを活用し,分析方法を洗練しながら 多くの量的実証研究を行い,成果を上げてきた.主に教育・職業・所得によっ て測られてきた階層的地位は現在に至るまで,重要な社会的地位であると考え られる.また近年の日本ではいわゆる「格差論」が流行し,その焦点は従来の 階層研究と必ずしも同じではないが,階層的地位の不平等への社会的関心が現 在でも高い事を示しているだろう.女性もまた当然階層的地位の影響を強く受 けているし,階層的地位の不平等とジェンダーによる不平等の関わりにも関心 が持たれている.それにもかかわらず,階層研究において女性やジェンダーを

どう扱うべきか,または端的に,女性の階層・階級的地位をどう決定すべきか について,明確な合意はなされていない.

 それは階層的地位に関わる研究が,その分析のもととなる調査の対象を長い

間男性に限ってきたのみならず,女性の階層的地位を見ないで済むような前提

を持ってきたからであるとされている.階層研究の「知的性差別」を批判した

J.Ackerはまず,階層の単位は家族であり,家族の階層は男性世帯主の職業的地

位を中心とした地位によって決定されるという前提を指摘している(Acker

l973).さらに階層研究は性別による不平等を認めながら,それと階層構造は

無関係とされているとする1}.彼女が指摘したような前提に基づくと,女性の

階層的地位というものは独自に測定されるものとはならず,せいぜい父親の階

層的地位と夫の階層的地位を比べる事でその世代間移動が考えられるだけに

なってしまっても不思議ではない(安田1970:223−245).しかしながら,この

前提は女性の社会的地位への関心の高まりとともに自明のものとは考えられな

(2)

くなってきている.

 日本の階層研究においても,特に1985年社会階層と社会移動調査(以下,

SSM調査と略記)で初めて女性がSSM調査の対象に含まれて以降2},こうした 前提の見直しをも伴った,ジェンダーと階層(あるいは階級)に関する実証研 究が積み重ねられているが,女性の階層的地位をどう測定すべきかについては 現在でも明らかにされているとは言いがたい.本稿では日本における実証研究 を簡単に振り返り,女性の階層的地位を考える際の重要な論点として階層的地 位の尺度と単位について検討し,その測定のために何が必要となるのか提示し

たい.

2.日本における先行研究の概要

 今田幸子は1985年SSM調査のデータをもとにまず,女性の地位達成過程と世

代間移動を見ている(今田1989,1990).このうち地位達成過程研究について

は,女性に当てはめた場合,次の3つの点が問題になる事が今田によって示さ

れている。第一は,女性は無職者が多く,またたとえ現職があったとしても

キャリアの中断を含む事が多いため,研究の対象者が限られるという点であ

る.女性では,出身階層の影響を受けて,教育,初職,ilii職と次々に達成して

いく様をパス図が見られるような,典型的な地位達成過程研究が想定する対象

になる者が少ないという事である.これは裏を返せばこうした研究がAckerに

よって指摘されたような前提のもと,男性のみを対象として想定していたとい

う事を示していると言えるかもしれないが,女性へ拡張したとしても一部の女

性間の地位達成過程構造しか描き出せず,男性の場合のような普遍性を持たな

いという事になる.あるいは,現職ではなく教育や初職までの達成を見るとい

うのも,女性の地位達成過程を扱うための一つのやり方かもしれない(岩永

1989,1990).どちらにしても,対象か分析範囲かを限る事になり,女性に関し

ては地位達成過程の一部しか扱えない事になる3).第二に,ライフサイクル要

因の影響の仕方や労働市場における位置が男女で違うため,男女で地位達成の

構造は大きく違っているはずであるが,男女別にパス図を提示してもその違い

は反映されないという点である4).第三に,地位達成過程研究において結果変

(3)

数となっている職業的地位,特に職業威信スコアのジェンダー中立性へ疑問が 呈されている点である.同じ職業についていても男女でその階層的地位が同じ

と言えないとすれば,男女別に地位達成過程の構造を見ているとしても同じも のを測っているとは言えず,単純な男女比較も難しいという事になる.

 これらの問題点に,後続の研究はどのように対応してきたと言えるだろう か.SSM調査を利用した分析では,家族形成や就業構造とも結びつけられた分 析を含む,女性のライフコースに関わる研究が多く行われている.こうした研 究において焦点は,女性がどのように地位達成するかというより,就業してい るかどうか,ことに継続的に就業しているかどうかに置かれがちである.こう した研究は第一に就業の有無に注目する事によって多くの女性を研究対象に含 める事ができ,第二にライフサイクル要因や労働市場によってなぜ彼女らが地 位達成過程研究の対象とならないのかを説明する.こうしてライフコースに関 する研究は,地位達成過程研究を補完するような形になっていると言えよう.

Ackerの指摘した前提の問い直しという面から見るとまず,これらの研究は地 位達成過程研究も含めて,階層的地位の単位を基本的に個人としている事が重 要である5}.ジェンダーによる不平等と階層構造の関連についても,労働市場 における男女の位置の違いを指摘する事で明らかにできている部分があると考 えられる.

 世代間移動をはじめ職業分類等のカテゴリーを用いた分析としては,階層帰

属意識の決定要因の研究や世代間移動表分析・階級分析などがある.階層帰属

意識は階層的地位そのものでない事に注意しなくてはならないが6),女性につ

いては世帯に,男性については本人に,それぞれ準拠した変数によって規定さ

れている事が示唆されている(盛山1998).女性本人の職業分類をもとにした

移動表は,無職を1つのカテゴリーとして含めるなどの工夫を加えて作成され

ている(今田1989,1990).一方で父親と夫の職業分類等による移動表によっ

て,つまり女性の階層的地位は男性世帯主の地位によって決定されるとした場

合の,結婚による女性の世代間移動も見られている(安田1970) (橋本健二

2007).橋本健二はまた,女性個人の職業的地位による階級分類と,その夫の

階級分類をともに考慮した階級分析を行っている(橋本健二2001).これらカ

(4)

テゴリーを用いた研究においてはまさにAckerの指摘した,階層的地位の単位 は家族であり男性世帯主によってその家族の地位は決定されるという前提が,

その分析枠組みを作る際に常に問われる事となる.女性の階層的地位は女性本 人,男性世帯主,世帯全体,あるいはそれらの組み合わせ,どれによる変数に よって決定されるのかがあらかじめ論じられ,あるいは実証研究の結果経験的 にどれかを採るべきであると主張されるのである.

 この他,性別役割分業やライフスタイル,家族内の性別役割分業,配偶者選 択,夫婦間の勢力関係,教育達成の男女差などが,階層とジェンダー双方に関 心を払って実証的に研究されている.このように多様な研究がなされてきてい るのは,ジェンダーと階層の複雑な結びつきゆえだろう.また最近の傾向とし て,女性間の「格差」7,や女性の貧困にも目が向けられ始めている(橘木 2008) (橋本健二2007).離別を経験した女性の貧困は周知の事であり,

Ackerも女性世帯主の割合が大きい事を指摘しているが,日本では男性世帯主 を経済的に頼る事ができない女性の存在によって,階層研究の前提が揺らぐと いう論調はないようだ.しかし晩婚化や高齢化などもあって単身女性が増えれ ば,夫の地位で代用する事が最初から不可能な女性たちの階層的地位も無視す る事ができなくなるだろう.

3.階層の尺度

 このように先行する実証研究を概観すると,女性の階層的地位を測定する際 の尺度と単位がまちまちであって,どう考えるべきか明確になっていない事が 分かる.そこで以下ではこの階層的地位の尺度と単位について,それぞれ考察 を加える事とする.もちろん男性だけの階層的地位を考えるとしても,特に階 層の尺度として何を採用するかは研究によって違う.しかし男性の場合,各研 究がどのような尺度を指標としていたとしても,それによって測定されようと している階層的地位は一貫していると見られていると思われる.それに対し て,女性の階層的地位を測定しようとする場合には,尺度と単位をどう設定す るかによって,想定される階層的地位は明らかに違うものになってしまう8).

女性の階層的地位を考える事によって,こうした尺度や単位が問い直される,

(5)

とも言い換えられるだろう.

 階層的地位の尺度としてよく挙げられるのは教育・職業・所得の3つであ り,実際多くの階層研究はこの3つ,特に職業的地位を表す指標を中心に階層 的地位を測定している.地位達成過程研究では現職の職業威信スコア,移動表 研究では職業分類が用いられる事が多い.だからこそ,女性の階層的地位を測 定しようと試みる時,無職や非正規雇用,キャリアの中断を含む人の割合が大 きい事が問題になる.しかし階層の定義によると,階層的地位は必ずしも教 育・職業・所得によって決定されるものに限られないと思われる.社会階層の 定義は,たとえば原純輔によって次のようになされている(原1981).社会的 資源(social・resources)とは,①社会の大多数の成員の欲求の対象になっている,

価値が制度化されている,②人々の欲求に対して相対的に希少であって,すべ ての人々の欲求を充足することはできない,③何らかの社会的メカニズムに よって,人々の間に不均等に配分されている,という3つの特徴を備えたあら ゆるものである.そして,つまり多くの資源配分を受けている高い地位から,

わずかの配分しか受けない低い地位にいたる社会的地位のハイアラーキー(hier−

archy)が 〈社会階層〉(social・stratification)と呼ばれるのである.

 ではなぜ,職業的地位が中心的な尺度として扱われてきたのだろうか.この 事はどのように正当化されうるのだろうか.橋本健二のように,マルクス主義 的「階級」概念を用いるのであれば,正当化は容易である.彼は初期の女性の 階級分析から一貫して階級とは「生産関係上の同種の位置を占める諸個人の集 群」 (橋本健二1989)であると明確に定義しているから,実質的には本人の職 業によって階級は決まり,無職の人はどの階級にも所属しないと言う事ができ る9).R. Eriksonは階級の単位は家族であるとしながらも,社会階級の分化は生 産組織によってもたらされると考えて,階級は家族成員の職業を初めとする生 産システムにおける位置に基づくとする(Erikson 1984:502−503).このよう に,あらかじめ階層的地位(ここでは「階級」だが)を生産システムと強く結 びついたものと考えるならば,職業的地位がその中心的な尺度となるのは当然

である.

 しかし日本の階層研究の主流ではこうした考えは採られておらず,職業的地

(6)

位を中心的な指標として階層的地位を測るのには別の理由が必要である.前出 の原は,「職業は,職業所得,職業上の権限,職業威信などの分化を直接もた らすとともに,他の多くの社会的資源も,職業と多かれ少なかれ関連を持っ て」おり,他の尺度で測った階層において人々が占める位置も職業を共通の基 盤としてある程度の一貫性を持つとし,「人びとの総合的な社会的地位を知ろ うとする場合の,最良の指標である」 (原1981:38)と言う.つまり,職業的 地位は多くの社会的資源の分布を決定し,あるいはその分布と関連しているた めに,階層的地位の指標に相応しいという事だろう.また岡本英雄は女性の階 層的地位をどのように捉えるべきかを論じる中で,「現実の社会の中で希少な 資源として富の持つ比重が大きい限り,階層を職業や財産を離れて考えてみて も現実と遊離した理論になってしまう恐れがあ」 (岡本1990:10)るとしてお り,社会的資源の中でも特に富の分布を反映するものとして職業が重要である 事が示唆されている.

 橋本摂子は階層的地位1°)の尺度としてどの指標を選ぶか,その判断基準は階 層的地位の定義にはない事を明確に指摘している.その上で,なぜ職業的地位 が尺度とされてきたのかについて,1つは原と同様「職業的地位は関係的資源

(勢力,威信)・物的資源(所得)・文化的資源(教育)がすべて含まれた多 義的な指標である」 (橋本摂子2003:56)からであるとする.しかし彼女はそ れだけでなく,次のようにも述べる.

 職業が無数にある価値尺度の代表として用いられ,かつ単純化の暴力に 耐え得たのはそれなりの一「学術的」ではないにせよ一明快な理由が ある.それは労働が,被雇用者が大部分を占める産業社会において,財貨 獲得のためのもっとも一般的な手段であり,またそれゆえに経済資源の配 分に対する主要な政治的介入の場をなしてきたためである.あるいはこの ような言い方も可能であろう.つまり,財貨獲得のための数ある手段のう ち,もっとも制度化された手段が労働なのである.

(中略)

 職業(広義には労働状況)とは,これまで階層研究が仮定してきたよう

(7)

な,単に労働市場における個人の役割やそこから派生する勢力(威信)を あらわすニュートラルな指標ではない.それは人々が広く共有する欲望と 利害の争点である経済資源の獲得手段と配分状況を示す経験的な裏付けを

もった指標であり,さらに重要なことには,個々人の「自由」の実現に対 するその規定力の強さゆえに,リベラリズム的平等権に基づく公正/不公 正にもっとも鋭敏な反応を示す領域にあるという点である. (橋本摂子

2003:56)

 経済的資源の配分状況だけに関心があるのならば,所得や財産がその指標と

して第一に考えられるだろう.だが橋本摂子の考えによれば,職業的地位は財

貨獲得のための最も制度化された手段であって,その配分が公正になされてい

るかには多大な関心が払われている.職業的地位は単に社会的資源の分布を表

していると言うより,現代社会においてそれをもたらす主な要因であると考え

られていると言えるだろう.さらに言えば,職業的地位の達成は経済的資源を

得る,最も正当化された手段であると考えられているのではないか.地位達成

過程研究は出身階層の影響よりも教育達成の効果が強い事を示して,結果変数

である現職の達成が属性(ascription)的ではなく達成(achievement)的であるとし

たが(Blau&Duncan 1967),職業的地位はたとえば相続や投資といった他の

経済的資源の獲得手段よりもずっと,達成的であると見なされる可能性に開か

れている.上述した,多くの社会的資源の分布を決定しあるいはそれに関連し

ているという点とも相まって,現代社会において職業的地位はそれ自体が追求

されるものである.橋本は階層的地位が職業的地位の指標によって測られると

いう,その根拠は階層論の外部から持ち込まれているため,「職業が第一の政

治的争点となること自体の是非を問うこともできる」とする.しかし階層研究

のリアリティはその外部に委ねられており,「事実としてそうある現実から階

層研究もまた自由ではなく,むしろ現実世界の範が外れればその存在理由その

ものを失うような状況に陥る可能性」 (橋本摂子2003:57)があるというので

ある.以上の事から,職業的地位が階層的地位の主な尺度とされる事には充分

な理由があると言うべきだろう.

(8)

 では女性の階層的地位を測る際も同様に,職業的地位を中心に考えるのが妥 当であると言えるだろうか.現代日本では女性についても,個人の職業的地位 を主な指標として測られる階層的地位に,少なくとも階層的地位の一側面とし てのリアリティはあると考えられる.遅くとも男女雇用機会均等法(1985年)

以降,職業的地位を追求する女性を肯定的に捉える見方が確実にある.もちろ ん女性は労働市場において不利な立場にあり,また家庭内の性別役割分業も根 強い中でライフサイクル要因の影響も大きく受けており,男性に比べて職業的 地位の達成が全体として難しい事は,ジェンダーと階層に関係する実証研究も 明らかにし続けてきた事である.実際,典型的な地位達成過程研究の対象とな るような,継続的にキャリアを積み重ねていると考えられる女性,具体的には フルタイムでの就業を継続する女性は時代を通じて約2割であって,「女性の 社会進出」が進んでいるというイメージに反して変化は少ない(田中2㎜).

しかしたとえ一部の女性に対してでも,男性と職業的地位を競い合い達成する

「選択肢」が開かれたと目された以上,女性は一律に男性(父親・夫)の階層 的地位を借用するとはもはや考えられない.ひとたび女性の職業的地位へ目が 向けられれば,たとえ今後ほとんどの女性が専業主婦になったとしても,女性 個人の職業的地位を最初から無視して階層的地位を決定する事はできない.性 別役割分業に関連して,女性の高学歴化やパートタイムでの就業率の増加にも かかわらず,性別役割分業意識というイデオロギーは変化しても現実はそれに 対応しないとよく言われる(尾嶋2000).しかし女性の就業についてのイデオ ロギーの変化は翻って全ての女性に対して,男性と同じように職業的地位を評 価する視点を開いた,とは言えるのではないだろうか.女性についても,その 職業的地位を中心として階層的地位を測定するのは妥当であると考えられる.

 職業的地位を尺度とした場合,正規雇用で学卒後キャリアの中断なく働き続 ける,地位達成過程研究の対象となるような人が女性では少ない,という点に ついてはどう考えればよいのだろうか.前出の橋本摂子の答えは明快である.

 階層研究で見出されるのは,結局のところ同じゲームの参加者という前

提の成立する範囲での,限定された不平等でしかない.職業指標で代表さ

(9)

れるゲームにおける不平等を検証するならば,プレイヤーはあくまでも有 職者に限定せざるをえないのである.無理な統合を敢行し,代替指標を考 案したところで,無職者と有職者がともに参加する(現実的な)ゲームが 特定できない以上,両者を直接に比較して共通する不平等を発見すること は不可能である.

 無職者と有職者を同時に取り込むためには視点の転換が必要であろう.

代替案として求められる課題は,職業の有無を超えた統一的な指標より も,むしろそのような指標を放棄した上で無職女性を取り込むことのでき る分析手法の確立にある.階層研究が職業指標で代表されるゲームを扱う 領域である/しかないならば,双方を視野に入れた政治的に生産的な分析 手法とは,そのゲームからの排除と疎外の構造へと焦点をずらすことでは ないだろうか. (橋本摂子2003:58)

 階層研究はあくまで一元的な指標(職業的地位)を持つゲームを解明する事 に専心し,対象はそのゲームのプレイヤー(有職者)に限定する.そして女性 がその属性のためにゲームから「排除」r疎外」される事が多いのであれば,

どのように「排除」 「疎外」されているかを説明する.これはまさに,地位達 成過程研究とそれを補完するような形になっているライフコース関連の研究と の関係と考える事ができるのではないだろうか.この組み合わせは,女性の階 層的地位の全体像を明らかにする1つの有効な方策であると評価できるだろ

う.これによって,「無職女性を扱うためには迂回策を取らざるをえないとし ても,有職女性のこうむる不平等の,単一のゲームにおける単純な検分は可能 であり,それはそれ自体で今後も価値を持ち続ける」 (橋本摂子2003:59).

そして無職や非正規雇用の女性については,ライフコース関連の研究を用いて そのゲームからどのように「排除」されているかを説明する事ができる.この ように男性をその対象として想定してきた階層的地位をそのまま女性にも当て はめれば,女性の階層的地位は著しく低いという事になるだろうが,その現実 をデータを用いて提示する事も重要だろう。

 この方法を採れば,階層的地位を一元的に測定する事ができ,対象となる

(10)

人々の地位を比較する道も開かれる.盛山和夫は,無収入労働と職業を統一的 に把握する(岡本1990)という志向を批判して,「これまでの階層論の基本枠 組みを根本的に解体してしまいかねない危険性をはらんでいるという認識と,

解体した後に新たな「階層論」が出現しうる保証は何もないという惧れの感覚 とが欠けているように思われる」 (盛山1994:ll1)と述べている。女性の階層 的地位を見る際には,職業的地位とそれ以外の地位を同様に扱う研究がある.

たとえば主婦を1つの職業と捉えて,その職業威信を推定する研究などもあっ たが11},無収入の労働は職業と同じように社会的資源,特に経済的資源をもた らすとは言えないので,他の職業同様に扱うわけにはいかない.個人の職業的 地位によって一元的に階層的地位を測定しようとすれば,無職の人は階層的地 位から「排除」されていると見るのが妥当だろう且2}.

 一方で,階層的地位の尺度として所得も無視するべきではないだろう.技術 的な制約もあり,所得は職業的地位に比べて階層的地位の指標とされる事が少 なかったが,今日のいわゆる「格差論」は所得に着目しており5},階層研究に おいても所得を尺度とした分析が増えているようだ.経済的資源の分布を表

し,世帯の生活水準や消費水準を直接決定するのは主に所得と財産だから,職 業的地位よりもむしろ所得を指標とする研究も必要とされるのは当然だろう.

所得を指標と考えれば,就業しているかどうかや従業上の地位によって研究の 対象を限る必要はなくなる.ただし女性の場合,個人の収入が世帯収入に寄与 する度合いが低い事が多いため,所得を尺度とすると事実上,女性本人の変数 だけでなく配偶者や世帯の変数を考え合わせる事となるだろう.そして配偶関 係や本人以外の変数を考慮する必要があるとなると,基本的には個人に結びつ けられた変数で測られる職業的地位よりも複雑で,多元的な階層的地位を想定

しなくてはならないだろう.

 このように,職業的地位を階層的地位の尺度とする考え方には十分な妥当性 があるが,所得も考え合わせる事が必要である.また尺度の問題は,階層の単 位を個人とするか世帯とするかにも深く関わってくる事が見えてくるだろう.

次節ではこの2つ目の論点,階層の単位について考察する,

(11)

4.階層の単位

 女性の階層的地位が論じられる時,必ず問題になるのが階層の単位である.

Ackerが男性中心の階層研究の前提として第一に挙げたのも,単位が世帯であ るという点であった.もっとも,階層の単位を世帯と考える事自体は女性個人 の変数を無視する事ではないという点は,はじめに指摘しておかなくてはなら ない.S. Szelenyiは女性の階級はやはり男性世帯主によって決まるとするCon−

ventional View(Goldthorpe 1983)に対して,家族のうち労働力参加・労働状況 という観点からして最も高い位置を占める個人によって家族の地位が決まると するDominance Mode1(Erikson・1984),夫妻両方の雇用状況から家族の階級的 地位を決定するとするJoint・Classification M()de1(Heath&Britten 1984)など,

世帯を単位としながらもその地位形成への女性の「貢献」を考慮するモデルを 評価している(Szelenyi 1994)13).確かに家族を階層の単位として想定する事 は, 「世帯内の異質性」 (白波瀬2005)を分析に反映させ,家族内で階層が異 なるものとする可能性を否定する事になるが,Conventional View以外では必ず しも男性世帯主による決定を意味しない.Dominance Modelは女性の地位が優 越していれば女性の地位によって家族の地位を決定するし,Joint・Classification Mode1は必ず女性個人の階級的地位を家族の階級的地位に取り入れる.

 S.Walbyは女性個人の地位を階層研究に取り込むには,2つの方法があるとし た(Walby 1986).第一は「家族を単位とする事をやめる」,第二は「女性の 行動を家族の地位の決定要因の1つに含める」という道である.Dominance

ModelやJoint・Classification Modelは後者のやり方で,女性を階級研究に取り込ん でいると言えるだろう.前出のSzelenyiも,ツェンダーと階級を扱う研究を整 理するのに,単位を個人としているか家族としているかによって大きく2つに 分けている(Szelenyi 1994).

 単位が個人であるべきか世帯であるべきかは,経験的に検証される問題なの

だろうか.盛山は「専ら,家族を単位とすることが個人主義的方法や結合分類

よりも「有効」であることを論証することにつとめている」と伝統的アプロー

チを擁護する」.Goldthorpeを評価する.その一方で, Goldthorpeへの「反対論者

にとって重要なことは,女性の状況はもはや家族ましてや夫の状況には還元で

(12)

きない独自の意義を,少なくとも女性個人々々の主観的意味世界においてもっ ていることであり,そうした主観的意味への配慮のない階級分析には,たとえ それがどんなにデータ分析上表面的に有効であろうとも欠陥がある,というこ とであ」り,「ゴールドソープの議論が正しいとしても(中略)現在までの経 験的事実にとって家族を単位とする分析が有効であることを確認したにすぎな い」 (盛山1994:116−117)と指摘する.確かに女性の階層的地位を考える事に よって,単位を含めて階層研究の前提が問い直されるようになったきっかけの 1つとして, 「女性の社会進出」が言われるようになり女性の社会的地位への 関心が高まった事が挙げられるだろう(1985年社会階層と社会移動全国調査委 員会編1989).Ackerも従来の階層研究が多くの就業する女性や男性世帯主の いない世帯を扱えない事を,大きな批判の根拠としている.しかし女性個人を 単位とするべきとの主張は,女性個人の階層的地位が全く上昇せず,世帯単位 で見たあるいは夫の階層的地位に何ら影響を与えなくても,提起されうるもの である.牛島千尋も「女性の階級」研究の課題としてその単位を取り上げた中 で,女性の「弱い労働市場へのコミットメントが意味するのは,市場状況や職 場状況の水準の低さであって,階級構造に位置を占めないということではな い」と指摘している(牛島1995:43).女性個人の階層的地位を考える視角が 切り開かれた事が重要なのであって,少なくとも経験的な検証によってのみで

は,単位の問題は解決されないだろう.

 女性本人の地位によって階層的地位は判断されるべきという考え方は,特に 前節で検討した職業的地位や学歴を中心に階層的地位を考える時,説得力を持 つのではないか.所得の場合は,世帯収入が世帯成員全員の生活水準を決定す るし,つまり主たる稼ぎ手がいる世帯ならばその稼ぎ手の収入が世帯成員全員 に大きく影響すると言えるが,同じようにたとえばある世帯成員の職業的地位 が世帯成員全員に共有される,とは言えないだろう.本人がある職業的地位に ついているという事と,配偶者がその職業的地位についているという事はまっ たく違う.配偶者がある職業的地位についている時,本人もその職業的地位に よって配分される社会的資源を同様に得ているとは言い難いからである.

 また「世帯内の異質性」 (白波瀬2005)を階層研究に取り入れようとする場

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合にも,家族は階層的地位を共有するとは単純に言えなくなり,個人を単位と する地位の重要性が浮かび上がってくる.家族社会学で行われてきた「勢力関 係」 (夫婦の意志決定パターン)の決定要因を探る研究(岩間2008:151−168)

を参照すると,この世帯の異質性という考え方は分かりやすくなるのではない だろうか.階層的地位の指標が何であるにせよ,個人を単位とする地位によっ て家族内の勢力関係が変化するとしたら,勢力や威信,あるいはその使い道の 決定権という事で言えば富でさえ,必ずしも世帯を単位として分布する社会的 資源ではないと言えるかもしれない.個人を単位とする地位は職業的地位,あ るいは職業的地位に大きく影響を与える学歴を尺度と考える時に最も際だつ が,他の尺度を用いていても個人を単位として階層的地位を捉える事は可能で

ある.

 だが,階層・階級的地位の単位を世帯とする見方も,特に生活水準・消費水 準を考えに入れるのであれば必要だろう.最初に確認した通り,家族を単位と する事自体が女性を階層・階級研究から原理的に排除しているわけではない.

一律に男性世帯主の地位によって世帯の地位が決定されるという前提は破棄さ れるべきだとしても,世帯を単位とする地位という考え方を無視する事はでき ない.岩間暁子は上述の勢力関係研究にあらわれるような, 「個人が保有する 社会経済的資源の違いやジェンダーが,家族成員間の関係性に及ぼす影響」,

家族内部の権力関係を指摘しながらも, Couples Careers に着目し, 「異 なる社会階級出身の男女の,家族と家計における相互依存的な意志決定プロセ ス」を分析の焦点とするBlossfeld&Drobnicを引いて,「家族が社会経済的資源 を共有する単位であるという面を考慮」 (岩間2008:48)する必要性を強調し ている(Blossfeld&Drobnic 2001).

 また,世帯を単位と考えれば,個人を単位と考えた時に生じるいくつかの間

題を軽減する事ができる.第一の問題は,個人だけを階層の単位とすると,無

職の人など収入や職業的地位を持たない人を,階層研究において直接は扱えな

いという事である.もし世帯を単位と考えるならば,他の世帯成員の地位に

よって世帯としての階層的地位を決定する事ができるから,より多くの人々を

対象にできるだろう.第二に,女性の個人を単位とする地位,たとえば職業的

(14)

地位や所得に関わる変数の意味するものは,階層研究が想定してきた男性のそ れとは違うかもしれない,という問題がある.特に職業的地位は,同じ職業に ついている男女が同じ職業威信を持っていると言えるのか,疑問を持たれる所 だろう.また各世帯成員にとっても,主に家計を支える者の職業的地位の方が 階層を判断するのに重要で14),女性の職業的地位はその意味でも威信や勢力と 言った社会的資源にあまり結びついていない可能性さえある.その点たとえば Dominance Modelを採用して世帯を単位とした地位を決定すれば事実上,男性 および男性同様にキャリアを継続する女性の地位にのみ基づいて各世帯成員へ と階層的地位が割り当てられる事になり,この問題は軽減できると考えられ

る.

 このように考えると,個人を単位とする事と職業的地位を尺度とする事,世 帯を単位とする事と所得を尺度とする事にはそれぞれ,密接なつながりがある ように思われる.階層的地位の尺度と単位の関係については,EriksonがD.

Lockwoodにならい,労働状況(work situation)と市場状況(market・situation)を区別 している(Erikson 1984).労働状況は生産システムにおける位置であって,

主に職業によって決定され,その単位は個人である.対して市場状況は世帯の 消費水準を決定する,狭義の経済的地位を指し,その単位は家族である.

Erikson自身は後者に基づく家族の階級を1人の家族成員の労働状況によって決 定されると考え,Dominance・MOdelを提示したのだが,前節で述べたように職 業的地位を中心に階層的地位を考える事に相応の根拠があるとすれば,個人を 単位とする考え方も無視しえないだろう.平田周一も女性の社会的地位と職業 的地位の関係を考える上で,この労働状況と市場状況の区別に言及し,両者の 関係は時代や社会や性によっても異なるのではないかと述べている(平田 1989).Szelenyiの整理によれば生産関係に基づいて階級を考える論者はやは り,個人を単位とする(Szelenyi 1994).またE.0. Wrightは本人の職業等に基

づく「直接的な階級位置」は「生産中心の階級経験」と「消費中心の階級経 験」両方に影響を与えるが,家族等の地位に基づく「媒介された階級位置」は

「消費中心の階級経験」にのみ影響し,この「生産中心の階級経験」と「消費

中心の階級経験」が「階級アイデンティティ」を作り上げる,という図を描い

(15)

ている(wright 1997:136).この考えでも,多くの女性の家計への寄与度が低 い時,女性の「直接的な階級的地位」は「消費中心の階級経験」にほとんど影 響しないとしても, 「生産中心の階級経験」を決定するのはやはり個人を単位

とした地位という事になる.階層的地位の尺度と単位は一方を決定すれば他方 も決まるというまでの関係ではないが星5,,どちらの尺度(単位)に注目するか はどちらの単位(尺度)をその際重視するかに影響すると言えるのではないだ ろうか.

5.個人の地位と世帯の地位

 以上のように2つの論点に注目して考察すれば,女性の階層的地位を測るた めには,個人を単位とする地位と世帯を単位とする地位という2つの側面を考 えなくてはならない事は明らかだろう.それも2つを統合した新しい地位を作 るべきというのではなく,相互に還元できない2側面をそれぞれ解明し,両側 面の関連を描き出す努力が今後求められるだろう.この関連を明らかにするに 当たっては,これまでも女性の階層・階級的地位を考えるために参照されてき た多くのその周辺の研究が援用されなくてはならない.ライフコースに関わる 研究は,女性が就業するかどうか,あるいはもっと限定してキャリアを継続さ せる形で就業し続けるかどうか,という個人を単位とする地位の達成にとって は決定的に重要な分岐点について,世帯を単位とする地位と関連させて説明す ることができる.勢力関係に関する研究は,個人を単位とする地位によって世 帯内の異質性がどのようにもたらされるかを示す.性別役割分業意識の分析は

イデオロギーの変化がどのように起きているのかを示すとともに,実際の性別 役割分業がどの層で変化しているのかと照らし合わせる事で,何が性別役割分 業を支えているのかを解明するのにも役立つだろう.配偶者選択についての研 究は言うまでもなく,出身階層や個人を単位とする地位によって男女がどのよ

うな配偶者を得,そして世帯を単位とする地位を獲得していくのかを見ること ができる.

 個人の地位と世帯の地位を区別しその関連を見ている実証研究としては,前

述した橋本健二による女性の階級分析(橋本健二2001)や,橋本摂子による女

(16)

性本人と配偶者,それぞれの地位に基づく地位達成過程の分析(橋本摂子 2002)などが挙げられるだろう.橋本健二は女性本人の職業的地位と配偶者の 職業的地位,そして配偶関係を考慮して女性の階級分析を行っている.その結 果,男性と比べれば複雑ではあるものの,「彼女たちの人生の多くは,本人の 所属階級,配偶関係,夫の所属階級というわずかな要因によって決定されてい る」 (橋本健二2001:209)と,全ての女性を対象として,その経験する階級社 会を統一的に描き出している.橋本摂子は「地位指標を本人による独立的地位 と配偶者を経由する借用的地位の二相に分け,両者の接続関係の一端を探る」

(橋本摂子2002:78)として, 本人の地位を用いる「独立モデル」と,夫の地 位を用いる「借用モデル」とによってそれぞれ,所得を尺度とする地位達成過 程を見ている. 「独立モデル」による分析では初職から現在まで正規雇用の者 のみを対象に男女比較を行い,「借用モデル」による分析では女性間の比較を 行って, 「女性にとっては独立的地位の達成と借用的地位の達成は互いに排他 的な軸をなし,このことがさらに女性の地位に関する認識の混乱を引き起こし ている可能性がある」 (橋本摂子2002:86)とする.こうした先行研究を参照

しながら,また前節で述べた尺度と単位の関係を念頭において,女性の階層的 地位を一層よく解明する研究が必要とされるだろう.

 ところでなぜ,女性の階層的地位を考えると,こうした2側面が表れてきて しまうのだろうか.背景には言うまでもなく,個人を単位として見た場合の女 性の階層的地位の低さがある.よって女性の階層的地位は採用する尺度や単位

によって全く違うものになってしまいかねない.女性においては,個人を単位 とする地位と世帯を単位とする地位との乖離が大きいのである.だからこそ,

両側面とその関連を見る事が必要となってくると言えるだろう.男性の場合,

現時点ではこの乖離が大きくなく,一貫性があると想定されているからこそ,

2つのいずれも重要な側面を分けて考える必要に迫られないのだろう.とはい

え原理的には男性の階層的地位にも2つの側面はあるはずで,男性にも雇用の

流動化等が起きているとされる事を考えると,男性の階層的地位を考えるため

にも本稿で検討したような論点が問題になっていく可能性がないわけではな

い.特に今後もし,ジェンダーと個人を単位とする地位の配分の関係が変化し

(17)

ていくならば,男性についても個人を単位とする地位と世帯を単位とする地位 を区別してその関連を考える事が必要となってくることだろう16》.

1)Acker自身は前提を次のように6点にまとめている.

 (1)階層システムの単位は家族である.

 (2)家族の社会的位置は,男性世帯主の地位によって決定される.

 (3)女性は家庭内に生きるので,女性の地位は彼女らが結びつけられる男性の地位に   よって決定される.

 (4)女性の地位は彼女らの結びつけられる男性と同等である.

 (5)女性が固有の社会的地位を得るのは,彼女らが男性に結びつけられていない時の   みである.

 (6)女性は多くの点で男性と対等ではなく,性差に基づいて異なった評価をされる.

  しかし,これは階層構造とは無関係である.

2)1975年までは,SSM調査の調査対象は男性のみであった.その理由は,女性が初め  て対象となった1985年調査の報告書によればまず,1975年調査より以前は移動表の分  析が中心で,そこでは階層の単位は家族であったからである,とされている(1985年  社会階層と社会移動全国調査委員会編1989).その後階層研究の中心となった地位  達成過程の研究では,分析の対象は基本的に個人となるので,女性も調査対象に含め  たというのである.しかし,続いてフェミニズム運動の影響も指摘されている事から  分かるように,女性が調査対象に含められるようになったのは,ジェンダーに関する  意識の変化があったからでもあると考えられる.

3)特に対象を大きく限る場合,そこで描かれるパス図はあくまで,対象となったごく  一部の女性の中でどのような地位達成過程があるのかを示しているに過ぎないものと  なる.しかし実際は教育や初職達成の時点では,彼女らはたとえば現職を持たない女  性達とも競合していると考えられるので,パス図の意味合いは男性の場合とは大きく  異なってしまう.

4)米国で男女別の地位達成過程研究を行ったTreiman&Terrellは男女の地位達成過程  が類似しているとしているし(Treiman&Terell・1985),日本では今田の分析によれ  ば女性の方が開放性が高いとされるが,それは男女格差がない事を意味しないと今田  は強調する(今田1989,1990).

5)1985年SSM調査で女性が対象に含まれるようになった理由として,地位達成過程研  究が階層研究の主流になった事が上げられている(1985年社会階層と社会移動全国調  査委員会編1989).

6)女性の階層帰属意識が何によって決定されるかを調べる事によって直接,女性の階

 層的地位が何によって,あるいはどのような単位で決定されるのかを知る事ができる

 と考える事はできない(盛山1998)(神林2005).

(18)

7)いわゆる「格差論」と階層研究の違いについて,佐藤嘉倫は第一に職業的地位より  も所得を中心に議論がなされている点,第二に非正規雇用を視野に入れている点を挙  げている(Sato 2008).

8)たとえば女性に関しては前節で取り上げた問題点等のために,無職の者や継続的な  キャリアを持たない者が無視しえないほどの割合で存在している,職業的地位に見  合った所得が得られない場合がある,などという事が考えられるので,尺度を職業的  地位とした時と所得とした時では「階層的地位」として測られているものは異なって  くると想定されるだろう。しかし男性に関してはこうした想定はなされておらず,む  しろ職業的地位を中心として複数の尺度が密接に関連している事が,階層的地位の  人々にとっての重要性やリアリティを支えている,と目されているように思われる。

9)にもかかわらず,後述するように,橋本健二はこの「個人単位で決定される客観的  な階級所属」だけではなく「家族と連接化した階級所属」の重要性をも指摘し,後の  研究でも女性本人の階級所属と夫の階級所属をともに考慮して階級所属を決定してい  る.

10)橋本摂子は安田三郎にならい,階層的地位ではなく「社会的地位」という用語を  使っているが,これは一般に階層的地位と言われているものを指していると考えて差  し支えないだろう.

11) 日本では肥和野佳子が1985年SSM調査を利用してこの研究を行っているが(肥和野  1989),1995年SSM調査にはこの時利用された質問項目がない.

12)赤地麻由子もまた,職業経歴と家族経歴の相互作用に注目して, 「職業経歴に偏重  しがちであった地位達成過程の分析に,家族社会学の分野で発達たたかわされたしつ  つあるライフコースの理論枠組を導入すること」を提唱しており,地位達成過程研究  とライフコース研究を関連づけるべきとしている.しかし彼女はむしろそれによって   「無職を多く含む既婚女性のデータを分析するのに適した新しい地位達成過程の概念  化」 (赤地1999:299)が可能になるとしている.

13)こうした諸モデルは1980年代に英sociology誌上で行われた論争から来ている.

  (佐藤1987), (盛山1994), (牛島1995)がレビューしている.

14)2節で述べたように,この事は階層帰属意識の決定要因を探る研究によって示唆さ  れている(盛山1998).

15)所得を指標としても世帯収入ではなく個人収入に着目したり,職業的地位を中心に  考えるとしても配偶者の地位を重視したりする局面もある事だろう.

16)本稿のような考察を行う事は階層的地位の問い直しにもつながる面があり,男性を  対象としてきた階層的地位のリアリティの分解と再編という趣がないわけではない.

 しかし階層的地位の尺度となってきた職業的地位や所得等が女性の社会的地位を考え

 る上でも重要であるからこそ,このような考察を経て女性の階層的地位を測定しよう

 とする事が必要であると考える.

(19)

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参照

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