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板材の面外曲げ疲労強度に及ぼす曲げ加工の影響

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法政大学大学院理工学・工学研究科紀要 Vol.56(2015年3月) 法政大学

板材の面外曲げ疲労強度に及ぼす曲げ加工の影響

EFFECT OF BENDING-WORK ON FATIGUE STRENGTH OF PLATE UNDER OUT-OF-PLANE BENDING

大川 輝 Hikaru OHKAWA 指導教員 大川 功

法政大学大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程

Fatigue test were performed on 90°V-shape bending-worked cold rolled carbon steel sheet under fully-reversed out-of-plane bending to investigate the effect of bending-work on fatigue strength of plate.

For annealed specimens after bending-work, the fatigue strength is influenced only by elastic-plastic stress concentration at critical location. Fatigue life of bending-worked specimens without annealing can be evaluated taking the effect of stress concentration and work-hardening into consideration.

Key Words : Fatigue strength, Bending-work, Out-of-plane bending, Work-hardening, Annealing

1.緒論

常温における塑性加工により製造された実機部材の疲 労に関しては,実用上の必要性からこれまでに多くの研 究がなされてきた.これらの部材では,加工時の塑性変 形により生じる表面層近傍での材質変化 [1]~[4] や残留 応力[5]~[8]がその疲労強度に大きな影響を及ぼすこと が知られており,これらの影響因子の疲労強度への寄与 を分離し,個々に定量的な評価をする研究[9]~[12]もなさ れている.

プレス加工により板材から立体的な製品を得る際に成 形の主体となるのは曲げ変形であることから,板材では 各種成形法のうちで曲げ加工は最も重要なものの一つで ある.しかし,個々の製品についての疲労強度の評価は なされているものの,製品やその製造過程が多岐にわた るためか,曲げ加工された状態での板材の疲労強度に関 する研究例は,平板材に比べて極めて少ない[13]~[14].

著者らはこれまでに,種々の曲率半径をもつように 90°V 型曲げ加工したアルミニウム合金板材の試験片を 用いて面外曲げ疲労試験を行い,板材の疲労強度に及ぼ す曲げ加工の影響について検討してきた[15]~[17].その 結果,曲げ加工材の疲労強度は曲げ加工半径の減少にと もなって低下する傾向を示したが,これは曲げ加工部内 側に生じる応力集中の影響により疲労き裂が早期に発生 し,かつ繰返し初期段階でのき裂成長が速くなるためで あることがわかった.しかし曲げ加工半径が極端に小さ くなると,長寿命域での疲労強度は増加するという特異 な傾向を示した.これは,曲げ加工材の疲労強度が応力 集中の影響のみならず,加工にともなう材質変化や残留 応力等の影響も同時に受け,これらの影響の程度が曲げ

加工度に応じてそれぞれ変化することに関連していると 考えられる.

本研究では冷間鋼板に曲げ加工を施したままの試験片 と,これに低温焼鈍を施して曲げ加工により生じる材質 変化等の影響を除去した試験片の双方を用いて面外曲げ 疲労試験を行った.これらの試験結果に基づき,板材の 疲労強度に及ぼす曲げ加工の影響について検討するとと もに,両材の疲労寿命特性を対比することにより,曲げ 加工材の疲労強度に及ぼす応力集中の影響と材質変化等 の影響について個別に評価した.

2.試料及び試験方法

(1)供試材及び試験片

供試材は冷間圧延鋼板(SPCC)である.素材板の化学成分 及び機械的性質を表1に示す.疲労試験片はその長手方向 が圧延方向と一致するように採取した.まず,厚さ2.3mm の素材板を平面研削盤にて表面粗さRmaxが2.5μmで厚さが 2mmの板に仕上げ,これを図1(a)に示す形状の平板平滑試 験片に機械加工した.これにさらに挟み角が90°で曲げ加 工部内側の曲率半径Rが3mm及び1mmとなるように曲げ 加工を施し,図1(b)に示す曲げ加工試験片を製作した.曲 げ加工は,90°溝下型と90°上型をプレスブレーキに取付 け,冷間における一回型曲げ成形とした.以後,曲げ加工 を施したこれらの試験片をそれぞれR3及びR1曲げ加工材 と表記する.曲率半径の小さいR1曲げ加工材においても,

曲げ加工による初期き裂などの欠陥は認められなかった.

本研究では,上記のような機械加工及び曲げ加工を施 したままの試験片(未熱処理材)に加えて,加工により 生じる材質変化や残留応力の影響を除去する目的で加工 後に低温焼鈍(真空中600℃で30分間保持後炉冷)を施

(2)

した試験片(低温焼鈍材)も用意し,次節で述べるよう に両材の比較試験を行った.なお,4% 濃度のナイタール にて表面を腐食し,切断法により結晶粒径を測定したと ころ,圧延方向に沿った平均結晶粒径はいずれも 33~

34 μm程度で,低温焼鈍による相違はみられなかった.

(2)試験方法

疲労試験には曲げ変位一定型の面外曲げ疲労試験機 (東 京衡機製造所製, PBF-30C) を用い,繰返し速度1000cpmで 両振りの曲げ変位を負荷して疲労寿命特性を調べるとと もに,繰返し曲げモーメントの変化を測定した.公称曲げ 応力𝜎𝑛は,𝑁𝑓⁄ 時点での曲げモーメントを用いて次式よ2 り算出した.

(1) ここで,b及びtはそれぞれ試験片最小断面部の板幅と板 厚である.繰返し数が107回を超えても破壊しない場合は 打切りデータとし,この打切りデータの上限の応力を疲労 限度として定義した.

曲げ加工材では曲率半径Rが小さいため,疲労き裂の発 生箇所となる曲げ加工部内側表面での残留応力や硬さの 測定は困難である.そこで,曲げ加工により生じる加工層 及びこれを除去するために行った低温焼鈍が疲労強度に 及ぼす影響を検討するため,未熱処理及び低温焼鈍後の各 試験片を板幅方向中央において長手方向に沿って切断し,

主としてこの断面内での硬さを測定した.切断によって生 じた加工層は,約50μm 電解研磨することにより除去した.

マイクロビッカース硬さ(測定荷重0.98N,保持時間20s)

の測定箇所を図1に示す.A-Aは長手方向に切断した断 面内で,試験部最小幅部分の硬さを板厚方向に沿って測定 した箇所,B部は曲げ加工による硬化の影響が及ばない領 域(最小断面部から試験片長手方向に沿っておよそ20mm 離れた箇所)であり,平滑材ではこれらに加えて最小断面 部表面中央のC部においても硬さを測定した.硬さにかな りのばらつきがあることを考慮して,複数枚の試験片を用 いて同様の測定を行い,A-A部については6回,B及びC 部については 20 箇所以上での硬さを測定し,その平均値 を測定結果として用いた.

また,未熱処理及び低温焼鈍後の平滑材の最小断面部中 央に貼りつけた電気抵抗線ひずみゲージによりこの箇所 に生ずる繰返しひずみを測定し,多段振幅変動法を用いて 繰返し応力-ひずみ関係を求めた.この関係を用いて,等 価ひずみエネルギー密度法(ESED法)とNeuber則[18] によ り応力集中部に生じる弾塑性の最大曲げ応力を評価した.

疲労き裂の観察は平滑材とR3曲げ加工材について行っ た.き裂観察に用いた試験片は,き裂の発生箇所となる最 小断面部表面を2000番までのエメリー紙を用いて研磨し,

最終的に粒度 0.2 μmのアルミナ粉末の懸濁液により鏡面 仕上げした.所定の繰返し数ごとに試験機を停止し,静的 曲げモーメントを負荷して開口させた状態の表面き裂を レプリカフィルムに写し取り,これを光学顕微鏡により観

察した.き裂の発生は,板幅方向に沿って長さ0.1mmのき 裂が認められた時点とした.

Table 1 Chemical composition and mechanical properties of the material.

Chemical composition wt%

C Si Mn P S

0.039 0.01 0.17 0.011 0.008 Mechanical

properties

Yield stress MPa 241 Tensile strength MPa 340

Elongation % 44

Fig.1 Configuration of smooth and bending-worked specimens.

Fig.2 S-N diagram.

𝜎𝑛=6𝑀 𝑏𝑡2

C

B A A

2

(a) Smooth specimen

(b) Bending-worked specimens

2

A A

B R3, 1

(3)

3.試験結果及び考察

(1)曲げ加工にともなう硬さの変化及び繰返し変形挙動 低温焼鈍前後における各試験片の板厚方向に沿ったマ イクロビッカース硬さの変化を図2に示す.図中の破線は 図1のBに示す曲げ加工の影響が及ばない部分の硬さを表 しており,この箇所での硬さは未熱処理材では103,低温 焼鈍材では99と大きな相違は認められない.図2(a)の未熱 処理の平滑材では,圧延及び表面研磨の影響により表面で はやや硬さが高いものの内部ではほぼ一様である.R3及び R1曲げ加工材では,曲げ変形が大きい内,外側表面付近で 曲げ加工にともなう明瞭な硬化が認められ,この箇所での 硬さは加工の影響を受けない部分と比較するとR3 材では およそ40,R1材では60程度高くなっている.一方,図2(b) の低温焼鈍材の硬さは中央部での値がやや高いものの全 般に平坦な分布形となり,曲げ加工により生じた硬化は低 温焼鈍によりほぼ消失している.

多段振幅変動法により求めた平滑材の繰返し応力-ひ ずみ関係を図3に示す.表面硬化層を有する未熱処理材の 繰返し応力-ひずみ関係は,低温焼鈍材のそれと比べると 高応力域における塑性ひずみがやや小さくなるものの,顕 著な相違は認められない.両材の繰返し応力-ひずみ関係 をRamberg-Osgoodの式

(2)

により近似した.Eは縦弾性係数,kは繰返し強度係数及 びnは繰返し硬化指数で,これらの値を図3中に示す.

図4(a)は未熱処理及び低温焼鈍した平滑材の繰返し過程

における曲げ応力振幅の変化を表したものである.高応力,

短寿命域では,熱処理の有無によらず応力振幅は初期に急 減した後漸減する傾向を示し,この間平均応力は生じなか った.一方,長寿命域では曲げ応力振幅はほぼ一定である とみなすことができる.図4(b)に示すR3曲げ加工材では,

高応力域における初期の応力振幅の減少は少ないものの,

変化傾向は平滑材と類似しており,この傾向はR1 曲げ加 工材についても同様であった.

この曲げ応力振幅の変化に対応する硬さの変化を,平滑 材を用いて確認した.寿命が105回程度となるような応力 𝜎𝑛≅ 240MPa を負荷して試験部の表面硬さを測定したと ころ,繰返しの初期に低温焼鈍材ではおよそ5程度,未熱 処理材では 10 程度硬さが低下し,曲げ応力振幅の減少に 対応して材料は軟化していることがわかった.

(2)疲労寿命特性

図5 は𝑁𝑓⁄2 時点での公称曲げ応力𝜎𝑛を用いて各材の寿 命試験結果を表したものである.図5(a)の未熱処理の場合,

曲げ加工材の疲労限度は平滑材に比べて全般に低下する 傾向を示すが,有限寿命域においては逆にR3曲げ加工材 の疲労強度は平滑材よりも若干高い.一方,図5(b)に示す 曲げ加工を施した後に低温焼鈍した試験片の疲労強度は 平滑材よりも明瞭に低下し,曲げ加工半径Rの減少にとも なって強度低下は著しくなる.このような低温焼鈍の有無

による曲げ加工材の疲労強度低下の様相の相違は,曲げ加 工によって生じる硬化や残留応力が,き裂の発生箇所とな る加工部内側表面付近での疲労き裂の発生と初期成長を 抑制するか否かに関係していると考えられる.図2(b)に示 したように,低温焼鈍後に加工硬化の影響はほとんど消失 することから,曲げ加工材の強度低下は加工部内側に生じ る応力集中に起因するものであると考えられる.

上述の曲げ加工材の疲労強度の変化は,曲げ加工の程度 に依存する.ここでは次式のように,中立面の移動を無視 して求められる板の外側表面に生じる円周方向の最大ひ ずみを曲げ加工度 𝛽(%)と定義した.

(3)

Fig.3 Cyclic stress-strain relation in smooth specimens under out-of-plane bending.

Fig.4 Change of bending stress with number of cycles.

𝜀𝑡=𝜎𝑛 𝐸 + (𝜎𝑛

𝑘)

1𝑛

𝛽 = 1 2𝑅𝑖𝑛

𝑡 + 1

× 100

0 0.001 0.002 0.003 0.004 0

100 200 300

Total strain t Bending stress n MPa

Non-annealed Annealed E = 197.7GPa

k = 707.4MPa n = 0.1364 Non-annealed Annealed

E = 202.5GPa k = 688.0MPa n = 0.1330

(4)

式中の𝑅𝑖𝑛は曲げられた板の内側曲率半径,t は板厚であ る.平滑材に対する曲げ加工材の疲労強度の割合 𝜎 𝜎⁄ 𝑠𝑚 と曲げ加工度 𝛽の関係を,寿命Nf =105回とNf =107回につ いて表したものが図 6 である.熱処理の有無によらず曲 げ加工度の増大にともなって疲労強度は低下するが,曲 げ加工により生じた硬化層を有する未熱処理材では強度 低下の割合が小さいことがわかる.

(3)疲労き裂の発生及び成長挙動

前節で述べた未熱処理材と低温焼鈍材における寿命特 性の相違を,疲労き裂の発生,成長の観点から考察した.

表面き裂は,平滑材では最小断面部の四隅から,R3曲げ加 工材では加工部内側表面の中央付近から発生,成長した.

図7は, 𝜎𝑛≅ 240MPaの繰返し応力下での平滑材及びR3 曲げ加工材の疲労き裂の成長曲線を示したものである.い ずれも板幅方向に沿って発生した多数のき裂が合体,成長 して10mm程度の長さに達すると,急速に伝ぱして破断に 至った.ここではこれらのき裂のうち,直接破壊に関与し たものを4本選んでその成長を表示した.

図7(a)の未熱処理の場合,寿命はやや相違するものの,

平滑材とR3曲げ加工材のき裂成長曲線に大きな違いは認 められない.一方,図7(b)の低温焼鈍した場合は R3曲げ 加工材のほうが平滑材よりもき裂は早期に発生し,かつ成 長も速い.き裂発生寿命を比較すると未熱処理の場合,平 滑材では6.3×104回,R3曲げ加工材では2.9×104回と両者 に大きな相違はないが,低温焼鈍した場合のき裂発生寿命 はそれぞれ,5.5×104回及び7.7×103回で,R3曲げ加工材 のほうがかなり早い時期にき裂が発生することがわかっ た.

平滑材では 1/4 楕円形のき裂面をもつ縁き裂の表面長 さ cの,また曲げ加工材では半楕円のき裂面をもつき裂 の表面長さの半長 c の変化から増分多項式法によりき裂

成長速度dc/dNを求め,これをき裂長さcに対して表示

したものが図 8である.いずれの場合も多数のき裂が発 生し,これらの成長と合体が主き裂の成長に関与するた めプロットは大きくばらついているが,図8(a) の未熱処 理の場合,平滑材とR3曲げ加工材のき裂成長速度はほぼ 同程度である.これに対し,図8(b)の低温焼鈍した場合,

R3曲げ加工材では,とくにき裂長さの短い領域でのき裂 成長が平滑材よりも速いことがわかる.以上のように,

低温焼鈍の有無により曲げ加工材のき裂の発生,伝ぱ挙 動が明瞭に異なるのは,曲げ加工により生じた硬化層の 有無に関連したものであると考えられ,これは前節の曲 げ加工材の疲労寿命特性の相違とも符合する.

(4)曲げ加工部に生じる応力集中が疲労強度に及ぼす影 響

曲げ成形にともなって危険部位に生じる応力集中は,曲 げ加工材の疲労強度に多大な影響を与える.そこで,図 1 の平滑材及び曲げ加工材の最小断面部における応力状態 を弾性有限要素法により解析した.図9(a)は各試験片の最 小断面部表面での板幅方向に沿った応力分布を表したも

Fig.5 S-N diagrams.

Fig.6 Relation between fatigue strength and working degree in bending.

Fig.7 Crack growth curves.

0 20 40 60

0.6 0.8 1 1.2

Working degree in bending  % Fatigue strength /sm

Non-annealed

Annealed

Nf = 105 Nf = 107

Nf = 105 Nf = 107

R3

R1

(5)

のである.曲げ加工部表面では二軸応力状態となっている が,第二主応力の値は小さく,疲労き裂はほぼ板厚方向に 沿う最大主応力面上で発生,成長する.曲げ加工材では,

挟み角を開く方向の曲げモーメントが作用する場合に生 じる最大主応力を公称曲げ応力で除した値σ/𝜎𝑛を用いて 応力分布を表示した.平滑材では応力はほぼ一様な分布と なるが,両端でわずかに高く,この箇所での弾性応力集中 係数Ktは1.05である.一方,R3及びR1曲げ加工材では 内側表面中央付近の幅広い領域にわたって顕著な応力集 中を生じる.この部分での応力集中係数Ktはそれぞれ1.30 及び1.70で,曲率半径Rの減少にともなってKtの値は急 増する.

面外曲げを受ける板材の内部では三軸応力状態にある ことから,三つの主応力より計算されるMisesの等価応力 を公称曲げ応力で除した値𝜎𝑒𝑞/𝜎𝑛の板厚方向に沿う分布 を求めた.平滑材では最小断面部の両端の,曲げ加工材で は内側表面中央における分布を図9(b)に示す.平滑材では 直線的で上下面で対称な分布となるのに対し,曲げ加工材 では非対称な曲線状の分布となり,曲率半径の減少にとも なって曲げの中立軸は内側表面に向かって移動する.また,

内側表面に近づくほど応力集中は顕著となることから,前 節で述べたように,曲げ加工材における疲労き裂の発生箇 所が例外なく内側表面となることとも符合する.

この応力集中を考慮して,曲げ加工材の寿命を評価した.

弾性応力集中係数Ktを公称曲げ応力𝜎𝑛に乗じた 𝐾𝑡𝜎𝑛に対 応する寿命を平滑材のS-N線図上で求め,これを曲げ加工 材の予測寿命とした.図10 はこの寿命と実寿命を比較し たものである.図10(a)の未熱処理の場合,予測寿命は全域 にわたって大きく安全側に偏る結果となり,この傾向はと くにR1 曲げ加工材において顕著である.一方,硬化層の 影響がない低温焼鈍材では,図10(b)に示すように長寿命域 では係数3の範囲に収まるものの,短寿命域では安全側に 偏る傾向を示す.これは短寿命となるような高応力を繰返 した場合には,応力集中部における塑性変形が増大し,実 質的な応力集中係数が低下するためであると考えられる.

このことから,平滑材のS-N線図に基づいて曲げ加工材の 疲労寿命を広範囲にわたって精度良く予測するためには,

高応力域では局所的な塑性変形の影響を考慮する必要が ある.そこで,本研究ではひずみエネルギー密度に基づい て導出された等価ひずみエネルギー密度法 (ESED 法)と

Neuber則の2つの簡便法を用いて曲げ加工部における弾塑

性の最大曲げ応力を求め,これを平滑材のS-N線図に適用 して曲げ加工材の寿命を予測した.まず,図3に示した平 滑材の繰返し応力-ひずみ関係(式(2))を利用して,曲げ加 工部内側表面中央付近に生じる弾塑性の最大曲げ応力を 求めた.ESED 法と Neuber 則により得られる弾塑性応力 𝜎𝐸, 𝜎𝑁と公称曲げ応力𝜎𝑛の関係は,式(2)中の材料定数 E,

k及びnを用いて,それぞれ次式により与えられる.

(4)

Fig.8 Comparison of crack growth rate.

Fig.9 Distribution of bending stress.

Fig.10 Comparison of predicted and actual lives.

10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5

Crack growth rate dc / dN m / cycle

(a) Non-annealed

Smooth R3

10-5 10-4 10-3 10-2 10-10

10-9 10-8 10-7 10-6 10-5

Crack length c m Crack growth rate dc / dN m / cycle

(b) Annealed

Smooth R3

-1 0 1 2

Normalized bending stress /n

Distance from center of minimum cross-section mm

-10 0 10

Inner surface

Outer surface

(a) Width direction

Smooth R3 R1

Kt=1.05 Kt=1.30 Kt=1.70

-1 0 1

-1 0 1

Distance from center mm

Normalized equivalent stress eq/n Smooth R3 R1 Inner surface

Outer surface

(b) Thickness direction

𝐾𝑡𝜎𝑛= 𝜎𝑁[1 + 𝐸𝑘−1𝑛 𝜎𝑁1−𝑛𝑛 ]

12 100101102103104105106107 100

101 102 103 104 105 106 107

Actual life Nfa Predicted life Nfp

R3 R1 Factor of 3

(a) Non-annealed

100101102103104105106107 Actual life Nfa

R3 R1 Factor of 3

(b) Annealed

(6)

(5)

これらの式から,未熱処理材と低温焼鈍材のESED法及び

Neuber 則による弾塑性応力集中係数𝐾𝜎𝐸= 𝜎𝐸⁄𝜎𝑛及び

𝐾𝜎𝑁= 𝜎𝑁⁄𝜎𝑛を算出した.なお,縦弾性係数には両材の平

均値E=200.1GPaを用いた.図11は,両材における弾塑性

応力集中係数𝐾𝜎𝐸と𝐾𝜎𝑁の公称曲げ応力𝜎𝑛の増加にともな う変化を示したものである.公称曲げ応力𝜎𝑛が増加し塑性 変形が増大すると,弾塑性応力集中係数𝐾𝜎は𝐾𝑡よりも低下 する.しかし,いずれもESED法の方がNeuber則よりも 弾塑性応力集中の程度をやや小さく見積もる傾向がある.

ESED法とNeuber則により求めた曲げ加工部に生じる弾

塑性応力の最大値𝐾𝜎𝜎𝑛を平滑材のS-N線図に適用し,曲げ 加工材の寿命を評価した結果を図12に示す.図12 (a),(b) の未熱処理材では,図10 (a)の場合よりも寿命予測精度は 向上するものの,長寿命域では依然として安全側に偏って いる.これに対し,図12 (c),(d)に示す低温焼鈍材の場合,

予測寿命は広範な寿命域にわたってほぼ係数3の範囲に収 まり,精度は良好である.このことから本供試材の場合,

試験を行った曲げ加工半径の範囲では,加工により生じる 材質変化や残留応力等の影響を無視できれば,危険部位に 生じる弾塑性の最大曲げ応力を求めて平滑材のS-N線図に 適用することにより,曲げ加工材の疲労寿命を十分な精度 で評価できることが示された.なお,図 11 に示す弾塑性 応力集中の相違に対応して,ESED法よりもNeuber則の方 が全般にやや安全側の予測寿命を与える傾向がある.

(5)曲げ加工にともなう材質変化が未熱処理材の疲労強 度に及ぼす影響

図 12(a),(b)に示したように,曲げ加工を施したままの

試験片では,応力集中の影響を考慮すると全般に安全側の 寿命評価となり,この傾向は曲率半径の小さいR1 曲げ加 工材においてより顕著である.これは未熱処理の曲げ加工 材では,応力集中の影響のみならず,曲げ加工度に応じて 材質の変化や残留応力の影響も同時に受けるためである と考えられる.残留応力を生じる際には,加工硬化や結晶 構造の変化等の材質変化も同時に起こる場合が多いこと から,両者が疲労強度に及ぼす影響を個別に評価するのは 容易でないが,残留応力の影響は初期残留応力が減衰しな い場合には,静的な平均応力が付加されたのと同等である とみなして耐久限度線図を用いて評価される[8], [9].また 加工硬化の影響は,疲労強度と硬さ[1], [3]あるいはこれら の増分間の関係[2], [11]を利用して評価される.

本研究と同様に,90°V型曲げ加工を施したSPCC板材 の疲労試験を行い,残留応力の変化について調べた研究例 [13]が報告されている.曲げ加工部内側には引張りの,外 側には圧縮の残留応力を生じるが,内面での引張残留応力 のほうが小さく,107回の繰返し後にはほぼ消失すること が示されており,軟質材では繰返しにともなって残留応力 が減衰するといわれていることと符合する[5], [8].疲労き

裂の発生箇所となる曲げ加工部内側表面付近に生じる引 張り残留応力は,曲げ加工材の疲労強度を低下させると考 えられる.本研究では残留応力の測定は行っていないが,

上記のことから残留応力が疲労強度に及ぼす影響は軽微

Fig.11 Change of elastic-plastic stress concentration foctor 𝐾𝜎 with nominal bending stress 𝜎𝑛.

Fig.12 Comparison of predicted and actual lives.

Table 2 Effect of work-hardening on fatigue limit of bent spesimens.

Specimen

Decrease in fatigue limit

MPa ∆𝜎𝑤ℎ

MPa

𝛴𝑡∆𝐻𝑉∆𝑡 N/mm Non-Annealed

∆𝜎𝑤𝑛𝑎

Annealed

∆𝜎𝑤𝑎

R3 12 38 26 49.5

R1 27 65 38 67.7

𝐾𝑡𝜎𝑛= 𝜎𝐸[1 +2𝐸𝑘−1𝑛 𝑛 + 1𝜎𝐸1−𝑛𝑛 ]

12

103 104 105 106 107

Predicted life Nfp

Factor of 3 (a) Non-annealed

ESED

R3 R1

Factor of 3 (b) Non-annealed

Neuber

103 104 105 106 107 103

104 105 106 107

Predicted life Nfp

Factor of 3 (c) Annealed

ESED

R3 R1

Actual life Nfa

103 104 105 106 107 Factor of 3

(d) Annealed Neuber

Actual life Nfa 1

1.5 2

Elastic-plastic stress concentration factor K

Neuber ESED R1 Kt =1.70

R3 Kt =1.30

(a) Non-annealed

50 100 150 200

1 1.5 2

Neuber ESED R1 Kt =1.70

R3 Kt =1.30

Nominal bending stress n MPa (b) Annealed

Elastic-plastic stress concentration factor K

(7)

であると考え,以下,曲げ加工により生じる加工硬化が疲 労強度に及ぼす影響について検討する.

加工硬化の影響は,表面における硬化量のみならず硬化 層の深さにも依存することが指摘されている[2], [4], [11].

そこで,曲げ加工部に生じる硬度増加の総計[2]を加工硬化 の程度を表す量として用いた.すなわち,図2の板厚方向 の硬さ分布に基づき,微小厚さ∆t部分での硬さの増加量

∆HV∆tを板厚にわたって加え合わせた 𝛴𝑡∆𝐻𝑉∆𝑡 を加工硬 化の尺度とした.残留応力がなく繰返しによる硬化または 軟化の影響も無視できるとすると,低温焼鈍材では加工硬 化の影響がないため,未熱処理材と低温焼鈍材の曲げ加工 による疲労強度低下の差異が,未熱処理材の加工硬化によ る強化分に相当すると考えることができる.

未熱処理の平滑材の疲労限度177MPaからの曲げ加工材 の疲労限度の低下量 ∆𝜎𝑤𝑛𝑎と,低温焼鈍した平滑材の疲労 限度163MPaからの曲げ加工材の低下量 ∆𝜎𝑤𝑎を表2中に示 す.これらの差 ∆𝜎𝑤ℎ= ∆𝜎𝑤𝑎− ∆𝜎𝑤𝑛𝑎 だけ,曲げ加工時に 生じる加工硬化により材料は強化されたと考えられる.こ の ∆𝜎𝑤ℎ と加工硬化の総量 𝛴𝑡∆𝐻𝑉∆𝑡 の値も表2中に併せて 示す.この曲げ加工による加工硬化量とその疲労強度への 寄与の程度は曲げ加工度に依存する.図 13 は硬化量,疲 労限度の増加と曲げ加工度相互の関係を図示したもので

ある.図13(a)に示すように,硬化量と疲労限度はともに曲

げ加工度のべき乗則に従って増加すると仮定すると,図中 に示す2つの式から ∆𝜎𝑤ℎ= 0.2340 × 𝛴𝑡∆𝐻𝑉∆𝑡1.208 なる 関係が得られる.図13(b)は,この硬化量と疲労限度の増加 量の関係を示したものである.図中の直線は,R1曲げ加工 材の実験点を通るように引いたものであるが,今回試験を 行った曲げ加工度50%程度の範囲内では,両者の関係はほ ぼ直線で近似できる.

以上のことから,未熱処理の曲げ加工材の疲労強度を次 のように推定した.まず図13(a)に基づき,曲げ加工にとも なう加工硬化により全体に疲労強度が増加し,曲げ加工度 に応じて元の線図が ∆𝜎𝑤ℎ だけ上方にシフトした仮想的な 平滑材のS-N線図を考える.加工硬化により繰返し応力-

ひずみ関係は大きく変化しないものとして図3に示す平滑 材の応力-ひずみ関係を用いると,式(4)または(5)から弾塑 性応力集中係数 𝐾𝜎が求められる.さらに,加工硬化により 強化された仮想的な平滑材のS-N線図上で,弾塑性応力集 中の影響を含む応力𝐾𝜎𝜎𝑛に対応する寿命を求めれば,これ が応力集中と加工硬化双方の影響を考慮して求めた未熱 処理の曲げ加工材の寿命となる.図14 は,上記の手順に より得られた未熱処理の曲げ加工材の予測寿命を実寿命 と比較したものである.応力集中の影響のみを考慮して得 られた図12(a),(b)の場合と比較すると,ESED法,Neuber 則を用いた場合ともに,寿命予測精度は向上し,未熱処理 の曲げ加工材の寿命をほぼ評価できることがわかる.

一般に,板材から成形される実機部品の大半は,曲げ加 工を施したままの状態で使用されることが想定される.こ のような場合,曲げ加工部材の疲労強度は,成形後の危険 部位に生じる応力集中にともなう弱化や加工による材質

変化や残留応力による強化(あるいは弱化)に依存すると 考えられる.後者の疲労強度への寄与は,曲げの加工度や 成形方法,材質等により相違するため,各部材について個 別に評価することが必要であるが,本研究で用いた SPCC のような軟質材の場合,残留応力の影響を無視して応力集 中と加工硬化双方の影響を考慮することで比較的精度よ く寿命を予測できることがわかった.しかし,曲げ成形後 の部材の形状や加工度の大きさにより危険部位での応力 集中と加工による材質変化や残留応力の疲労強度への寄 与の割合は変わるため,以前に行ったアルミニウム合金曲 げ加工材の疲労[15]においてみられたように,曲げ加工半 径が小さく加工度が大きくなると疲労強度は逆に増加す るという特異な現象も起こり得る.これらの点も含めて今 後さらに検討を進めたい.

Fig.13 Interrelation between increase in fatigue limit, total amount of increase in hardness and working degree in bending.

Fig.14 Comparison of predicted and actual lives.

0 10 20 30 40 50 60

0 20 40 60 80

Working degree in bending  %

Total amount of increase in hardness

(a)

A1=11.49, b1=0.4534

A2=4.463, b2=0.5475

Increase in fatigue limit  w MPa

Σ𝑡∆𝐻𝑉∆𝑡 N/mm

0 20 40 60 80

0 10 20 30 40 50

(b)

Total amount of increase in hardness Increase in fatigue limit w MPa

∆𝜎𝑤ℎ= 0.5435 × Σ𝑡∆𝐻𝑉∆𝑡

Σ𝑡𝐻𝑉𝑡

Σ𝑡𝐻𝑉∆𝑡 = 𝐴1𝛽𝑏1

∆𝜎𝑤ℎ= 𝐴2𝛽𝑏2

104 105 106 107 104

105 106 107

Actual life Nfa

Predicted life Nfp

Factor of 3 (a) Non-annealed

ESED

R3 R1

104 105 106 107 Actual life Nfa

Factor of 3 (b) Non-annealed

Neuber

R3 R1

(8)

4.結論

曲げ加工により成形された板材の疲労強度について検 討するため,90°V型曲げ加工を施した冷間圧延鋼板を用 いて両振りの面外曲げ疲労試験を行った.曲げ加工を施し たままの試験片に加えて,これを低温焼鈍して加工による 材質変化等の影響を除去した試験片も用い,両試験片の疲 労寿命特性を対比することにより疲労強度に及ぼす応力 集中と材質変化等の影響を個別に評価した.

低温焼鈍によって加工硬化層の影響が消失した曲げ加 工材では,曲げ加工半径Rが小さくなるにつれて疲労強度 は低下する.これは曲げ加工部内側に生じる応力集中の影 響によるもので,この箇所に生じる弾塑性応力集中を考慮 することにより疲労寿命を十分な精度で予測することが できる.一方,曲げ加工を施したままの状態での使用が想 定される場合には,その疲労強度は応力集中の影響のみな らず,加工により生じる材質変化や残留応力の影響も同時 に受ける.本研究で用いた軟質鋼板の場合,応力集中の影 響のみを考慮すると安全側の寿命評価となるが,残留応力 の影響を無視して応力集中と加工硬化双方の影響を考慮 すれば比較的精度良く寿命を予測できることがわかった.

参 考 文 献

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17) 大川 慶,工藤 充史,安藤 丈裕,大川 功:アルミニ ウム合金板材の面外曲げ疲労強度に及ぼす曲げ加工の影響,

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18) A. Moftakhar, A. Buczynski and G. Glinka:Calculation of elasto-plastic strains and stresses in notches under multiaxial loading,International Journal of Fracture,Vol. 70,pp.

357-373,1995.

Table 1  Chemical  composition and  mechanical properties of  the material.  Chemical  composition wt%  C  Si  Mn  P  S  0.039  0.01  0.17  0.011  0.008  Mechanical  properties
Table  2  Effect  of  work-hardening  on  fatigue  limit  of  bent  spesimens.

参照

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