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雑誌名 関西学院大学心理科学実践

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Academic year: 2022

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(1)

<公開講座講演録 開設記念シンポジウム「関西学 院大学の心理科学実践」話題提供1:保健・医療分 野>保健医療領域での実践と課題

著者 東 斉彰

雑誌名 関西学院大学心理科学実践

巻 1

ページ 5‑7

発行年 2020‑03‑31

URL http://hdl.handle.net/10236/00029528

(2)

目 的

関西学院大学文学部心理科学実践センターの開設にあ たり,筆者が多年にわたり実践してきた保健医療領域に ついての心理学的援助についての実践と課題について述 べたい。

本稿では,関西学院大学文学部・大学院心理学専攻出 身者として,同校で学んだ心理学の学問的基礎と,保健 医療領域を中心とした臨床心理学的実践の中で経験した ものとをつなげ,今後の専門職の養成に資するための議 論を行うことを目的とした。

方 法

関西学院大学文学部心理学科,同大学院文学研究科で の学びに続いて,主として保健医療領域で体験した心理 科学実践,および2箇所の大学,大学院での教育経験を 通して体験的に理解された保健医療領域における心理科 学実践について記述する。それらの結果を踏まえて,公 認心理師の時代における心理科学を基礎とした臨床実践 の課題について考察する。

結 果

(1)関西学院大学での学びと心理科学実践への影響 関西学院大学および大学院(以下関学)での心理科学 の教育は,以下の点に集約されると考える。

①徹底した自然科学的見解

日本では科学的実証性に乏しい心理援助方法が伝統的 に用いられてきた経緯があるが,関学ではアカデミック な実証性を担保する心理学的見解を重要視してきてい る。

②実験中心の教育

優れて実証性を確保できる実験法による研究を教授 し,科学的基礎を確実に習得する教育システムを有して いる。

③行動主義から認知主義への展開

筆者が大学院教育を受けていた1980年後半は,それ までの行動主義的方法論に加えて認知主義的方法論が加 味されつつあった。心理科学の時代的発展に相応した教 育体制が整っていたといえる。

以上のような関学での教育を経て,その後の筆者の実 践に対して,事実を客観的に見る目や,臨床実践の中で 見られる現象の説明をクリティカルに思考する礎を与え られた。その一方で,自然科学や実証主義的観点だけで は臨床実践や人間理解を十分に達成することはできない のではないかとの疑問も考えられた。

(2)筆者の心理科学実践について

筆者の関心領域および活動領域は以下のようなもので ある。精神科・心療内科などの保健医療領域を中心とし て,他に小学校・中学校などの教育領域,産業カウンセ リングなどの産業領域,ボランティア組織などの福祉領 域,犯罪被害者・加害者支援などの司法・矯正領域,開 業オフィスでの私設相談領域である。

あらゆる臨床心理学的実践領域を経験してきて確かめ られたのは,保健医療領域では比較的重症のクライエン ト(パーソナリティー障害や精神病,発達障害など)の 支援や,医師・看護師といった責任性の重い医療職との 連携が必要となることであった(東,2017)。

実践活動の内容は次の通りである。一つは精神科クリ ニックや大学病院,国立病院,民間総合病院の精神科・

心療内科・小児科等での心理療法,心理査定,コンサル テーション業務,他方,臨床心理士や医師,看護師,教 師,保育士,ソーシャルワーカー,産業カウンセラーな どへの対人援助研修であった。

臨床心理業務を経る中で基盤としてきた心理科学実践 的基礎とその発展について記述する。まず関学での徹底 した科学的思考に基づき,臨床実践の中で生起する事象

(症状,問題行動など)を観察して得られたデータを元

〜開設記念シンポジウム「関西学院大学の心理科学実践」〜

話題提供1:保健・医療分野

保健医療領域での実践と課題

東 斉 彰

キーワード:保健医療領域,科学性,哲学的思考

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

甲子園大学・羽衣カウンセリングオフィス

関西学院大学心理科学実践 Vol. 1 2020. 3 5

(3)

にアセスメントを行い介入方法を設定するという行動論 的方略を使用して行動療法的実践を行った。このような 方法論を基盤にして,人間理解の広範な方法を学習し,

現在は認知行動療法,統合・折衷的心理療法の実践を行 っている(東,2020)。

それらの実践を研究する方法として,事例研究,事例 比較研究などの質的研究に加え,哲学的思考を用いて心 理療法や人間理解の認識論や比較思想的観点からの考察 を試み現在に至っている。

考 察

以上のような結果を踏まえ,保健医療領域を念頭にお いた心理科学実践の現状と課題について考察する。また 公認心理師の時代における今後の心理科学実践家の育 成・養成についての提言を試みたい。

(1)大学における心理センターの役割

公認心理師や臨床心理士を養成する大学・大学院には 附属の心理学的な教育,実践のためのセンターがある。

筆者が今までに所属した2つの大学・大学院の実践経 験,ここまでに述べてきた関学での教育経験からの影響 を鑑みて,これからの心理センターの役割について若干 の考察を加えたい。

一つは教育機関としての役割である。心理学を学ぶ大 学生・大学院生は,心理学の基礎としての知覚,認知,

学習,パーソナリティー,発達,社会などの心理学を,

応用としての教育,産業,臨床などの心理学の基本を座 学で学んでいるだろう。そのような知識としての心理学 と,実際の適用として現場で行う対人援助実践との間に は大きな距離がある。臨床実践的感覚や倫理などは,心 理センターでの実践経験を積むことでしか得られないも のである。ここでは優れて実践的な臨床感覚を持つ指導 教員の力量が強く要請されるところとなる。

二つ目は地域に開かれた場としての心理センターの機 能である。心理センターでは地域のクライエントが来所 し,教員や心理スタッフの指導の下で大学院生がケース を担当することになる。心理学的援助による貢献という 意味では少々心許ないが,それでも発達障害や情緒障害 で不適応や苦痛に陥っている人々への援助として,比較 的低料金でセラピーを受けることができるし,大学院生 ゆえに,技術は未熟であるかもしれないが誠実かつ真摯 な態度を提供することで効果を及ぼすことが多い。とり わけ幼児〜学童期のクライエントは成人に比べて変化を 来しやすいので,クライエントおよびその家族に貢献で きる可能性が高くなるといえる。

第三に,学部生や大学院生が社会人として成長する場 を提供するということである。心理学を学修し実践する ということは,まさに人間という存在のあり方を学ぶと

いうことに直結する。クライエントの心の健康に資する ということは人間としての成長発展を促すということに 他ならず,そのためには当然心理支援者自身が生活する 人間として(山上,1990)機能している必要があろう。

心理センターは学部生・大学院生のそのような人間的成 長の場としてあるべきである。

(2)教育・研究・実践を専門職養成にどう活用するのか 心理学的実践に必須である,また関学の伝統である教 育・研究・実践の三位一体のシステムを心理学の専門職 養成にどのように適用し生かすことができるのかについ て考察したい。

まず教育については,当然だが他者を援助するための 知識を得させることが主眼となる。心理学,とりわけ応 用としての臨床心理学の知識を学修させることが必要と なるが,実践のためにはそのようなアカデミックな知識 の他に,臨床の現場における実践感覚が必要となる。そ れは一般的にカウンセリングマインドとも呼ばれる臨床 実践家としてのセンスである。クライエントの心理的現 象を科学的視点で客観的,実証的に見る目とともに,ク ライエントの感情的,感覚的な表出,時々刻々と変化す る心理的な揺れ(行動科学ではoscillationとでも言うべ きか?)を察知してとらえるといったことである。ま た,実践現場における倫理的観点(たとえば専門性の担 保,守秘性,インフォームド・コンセントなど)の体験 的学修も必要となろう。

次に研究については,関学での教育で強く薦められる 科学者−実践家モデルが挙げられる。何よりも研究とい う行いは心理学的援助の需要者にとっての利益,すなわ ち公共性に利することが必須となる。その際に求められ る点としてまず科学的視点が挙げられるだろう。そして 臨床心理学的援助の世界でよく見られるやや恣意的な心 理学的援助技法に対して,実証 的 か つ 批 判 的 な 見 地

(critical thinking)から考察する必要がある(Stanovich, 2013)。

そのことと同時に考えねばならないのは,実証的見方 も相対的にとらえることの必要性である。人間が物事を とらえる仕方,つまり認識の仕方には様々なものが考え られる。記述,説明,解釈,了解といった認識方法がそ うであるし,哲学的認識論の範疇では論理実証主義,行 動主義,認知主義,解釈学,現象学,社会構成主義とい った多様な考え方がある。

心の哲学の分野では,人の心をとらえる方法として,

物理的ではない(二元論的な)心,行動としての心,ソ フトウェアとしての(認知論的な)心,脳としての心,

理論的に作られたもの(仮説構成概念)としての心な ど,様々な心の と ら え 方 が 挙 げ ら れ て い る(Wallack and Wallack, 2013)。

関西学院大学心理科学実践 6

(4)

このような心のとらえ方の多様性を考慮に入れ,我々 は事実を観察し認識していく際に,被支援者の心理状態 および支援者の側のものの見方を一元的に規定するので はなく,多元的に考える必要があると考える。そして支 援の現場においては,その活動が対象者の健康と福祉へ の貢献であるという必要性から,支援は実用的(プラグ マティック)で,かつ被支援者と支援者がともに生きる 生活者という意味で共生的な観点を持つことが必要とな る。

(3)専門職教育はどうあるべきか

以上考察してきた論点から,専門職教育はどのような ものであるべきかを,まとめにかえて以下のように考え る。

①知識を持ち,伝達するものとしての専門職

心理支援者は大学,大学院,心理センターにて心理学 について深く学び,それを社会に還元して人々の心の健 康に貢献する責務がある。そのためには,学部教育およ び大学院教育において,心理学にとどまらずおよそ人間 を理解する多様な領域における知識を真摯に学び,体験 的訓練を通して実践的感覚を学ばなければならない。こ のことは以下の要項よりもまず優先されるべき役割であ ろう。

②人の生存,適応,幸福,自己実現を促すものとしての 専門職

心理専門職の責務は,まず生物としてのヒトが生存し 環境に適応することを保証し,次いで心を持った人間と してよりよく生きていく結果としての幸福感を促し,そ して人間性を有した存在として個性的に生きていくとい う,自己実現の過程を支援することであると考える。

③コミュニティに生き,共存する人間存在を支える者と

しての専門職

先述したように,人はコミュニティの中で生き,関係 性を保ちつつ生活している。支援者を含め,人が相互扶 助しつつ共存している事実を理解し,支える存在である ことが重要である。決して個人の支援にとどまることな く,近接する地域,国全体,他国家を含めた国際関係と いった地球規模において専門性を発揮したいところであ る。

④生活し,社会に役立つ自分を生きる者としての専門職 心理援助をする被支援者だけでなく,支援者も社会で 生活し貢献しうる自身を意識し,研鑽を積むとともに自 身の心身の健康を維持する必要がある。大学生,大学院 生,心理スタッフに限らず,支援者自身の生を大切にす ることを専門職としての最後の責務としたい。特に教員 等の心理スタッフは,学び成長する人としての学生を誠 実な態度で支援する必要があると考える。

引用文献

東斉彰(2017)協働・連携しながらクライエントに対 応するには−協働・連携,臨床心理学,第17巻 第1号,Pp.79-82

東斉彰(2020)心理療法・カウンセリングに生かす認 知療法−統合的認知療法の実際.誠信書房 Stanovich, K. E.(2013)How to think straight about psy-

chology. Person Education inc. 金 坂 弥 起 監 訳

(2016)心理学をまじめに考える方法−真実を見 抜く批判的思考.誠信書房

Wallack, L., and Wallack M.(2013)Seven views of mind. Tailor and Francis Group, LLC. London.岡隆 訳(2016)心の7つの見方.新曜社

山上敏子(1990)行動療法,岩崎学術出版社 保健医療領域での実践と課題 7

参照

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