(二女購74第購5誰言)
超音波腹腔内洗浄の安全性に関する実験的研究
東京女子医科大学外科学教室(主任:織畑秀夫教授)
桐 田 孝 史
ギリ タ タカ シ
(受付 昭和55年12月1日)
Experimental Study on Safbty of止e Usage of Ultrasonic Perito聡eal Lavage Takasbi K:mlTA, M.D.
Department of Surgery(Director:Pro£H五deo. ORIHATA)
Tokyo Women,s Medical College
The acute panperitonitis is now still considered as a serious disease, however, the prognase of this disease has been improving. One of the reasons of this impronement resulted from the application of intraperifbneal lavage w量th physiological saline during the surgical operation. EspeciaHy the applica−
tion of ultrasonic apparatus fbr the routi玲e lavage were more ef艶ctive.
The side−ef琵ct of the applicatiorl of ultrasonic peritoneal Iavage has been exalnined histologically,
haematologically as well as serologically。 Ultrason圭。 peritoneal lavage seelns to be sa免in using the apparatus with the cycle of 58 kHz and the output of 1.25 w/cm2.
目 次 1.緒言
1.超音波洗浄について 1.超音波洗浄の原理
2.本実験に使用した超音波洗浄器について 3.汎発性腹膜炎に対する超音波洗浄の効果
皿.実験1.超音波腹腔内洗浄の腹腔内臓器に及ぼす 組織学的影響
1・実験目的 2.実験方法 3.実験結果 4.小 括
IV.実験2.超音波腹腔内洗浄の血液に及ぼす影響 1.実験目的
2.実験方法 3。実験結果 4.小 括 V.考 按
1,汎発性腹膜炎の病態および治療
2.汎発性腹膜炎に対する超音波洗浄の意義 3.超音波の生体に及ぼす影響およびその安全性 i)血液に及ぼす影響
三i)組織に及ぼす影響 w.結 語
文献
1・緒 言
消化管穿孔による急性汎発性腹膜炎は,近年各 種抗生物質の開発,麻酔,術前術後管理の進歩,
ショックに対する治療法の進歩などにより,その 治療成績は著しぐ向上している.なかでも術中施 行される大量の生理食塩水による腹腔内洗浄は,
腹腔内汚染物質を除去し,非常に有効であると言 われている.とくに,上部消化管の穿孔において は,大多数の症例において,ドレーンの挿入なし で一次的に閉寵することを可能にしている.この ことにより,腸管の癒着による障害,創治癒の遷 延化などは著明に減少している.この生理食塩水
による腹腔内大量洗浄の効果を向上させるため,
超音波を応用した腹腔内洗浄器を試作した.超音 波腹腔内洗浄器の洗浄の原理は,キャビテーショ
ンであって,医療器具,機械部分,メガネ,宝石 等の洗浄に用いられているものと同様である。教 室の平林は,実験犬にて,生理食塩水による大量 腹腔内洗浄時に超音波洗浄を加えて,その有効性 を認めた1).超音波腹腔内洗浄器の安全性を確認 するため,開腹した実験犬にて,腹腔内臓器に超 音波照射を行ない,その組織学的変化および血液 に及ぼす影響について検討したので報告する.
H・超音波洗浄について 1.、超音波洗浄の原理
超音波とは,人に聞こえない程の高い周波数の 音として知られている.超音波の医学における応 用は,その反射を利用した診断的応用と,超音波 のエネルギーを利用した治療的応用とがある.超 音波洗浄は,もちろんそのエネルギーを利用した ものである.超音波による洗浄,殺菌の原理や機 構の説明は,複雑であり,現在まだ確立されてい ないが,その主なものとして,キャビテーション 作用が考えられている.液体中に強い超音波を出 すと,霧のようなものが吹き出されて,気泡が 成長する.そしてシャーという音が聞こえたりす
る.この現象が超音波のキャビテーションであっ て,これが発生した状態でないと,乳化や洗浄で 代表されるような超音波の破壊的効果は,ほとん ど存在しない.すなわち,液中の強力超音波の破 壊的作用においては,キャビテーションが重要な 役割を果たしていると言える.この現象は図1に 示すように,音圧の波高値Pmが,静圧Po(普 通は1気圧に近い)よりも大きい場合に,圧力の 瞬時値が,真に負圧となる時期を生じ,その時 に,液体が引きちぎられて破断し,空洞(cavity)
を発生することであり,圧力瞬時値が正にもどる と,その空洞がつぶれ,その瞬間に空洞のまわり の液体がはち合わせして,急停止するために正の 大きな圧力のパルスが発生する.この圧力パルス の値は,数気圧から数千気圧に達すると推定さ れ,この瞬間的な高圧のために,破壊作用や洗浄
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図1 キャビテーション説明図(文献(2)より引用)
物に付着している汚れの剥離が生ずる.他の一つ の作用は,被洗浄物表面とこれに付着している汚 れの間に,洗浄液を浸透させ,洗浄液のもつ化学 的洗浄効果を促進させることである2).一般にキ ャビテーションを発生させるには,超音波強度が ある一定の閾値を超える必要がある,その値は,
周波数,液:体中のガスの溶解度,液体の温度,表 面張力等により異なる.周波数が,100kHz以下 の低い場合では,低い出力でキャビテーションを 発生することが出来る,したがって,周波数は低 い方が良いと言えるが,低ければ低い程可聴音に 近づき,騒音の原因となる.また周波数が高くな ると,超音波の指向性が鋭くなって,超音波照射 が不均一となるために,洗浄の目的を果し得ない ことも起こり得る.そのうえ,液中での超音波の 減衰は,周波数のほぼ2乗に比例するので,周波 数が高くなると,超音波強度の減少を招く.これ らの諸点を考慮すると,医療器具および手指の 洗浄には,20〜50kHzの周波数が適当で,22kHz と29kHzのものが多く使用されている.この程 度の周波数でキャビテーションを発生させる出力 は,種々の条件により異なるが,振動輻射面につ いて。.3w/cm2以上であると言われている3)4).
2.本実験に使用した超音波洗浄装置について 本実験に用いた超音波洗浄装置は,写真1に示
したように,真空管を用いた発振器部と,π型 磁歪振動子とに分かれている.周波数は58kHz,
出力は0〜70w連続可変であるが,連続発振の場 合は40W,本実験では出力強度は,1・25w!cm2,
5w/cm2,】ow/cm2,20w/cm2で使用した.
3.汎発性腹膜炎に対する超音波洗浄の効果 教室の平林は,汎発性腹膜炎の手術に際して行
なわれる生理食塩水による腹腔洗浄において,超 音波洗浄を併用した場合の洗浄効果について実験 した.実験は,111〜14kgの雑種成犬を使用し,
全麻下に汎発性腹膜炎を作成する.その方法は,
実験犬自身の24時間以内に採取した糞便(体重 1kg当りIg)を,500mlの生理食塩水と混じ,十 分野樟後15分間静置し,その上澄み100mlを滅菌 注射器にて採取し,これを18Gエラスター針にて 腹腔内に注入し,腹部を十分にマッサージする.
注入1時間後に開腹し,微温生理食塩水500mlを 腹腔内に注入した後,用手にて十分撹伴洗浄す る.この洗浄液を腹腔内の異なった5ヵ所より,
それぞれ10mlずつ検体として,滅菌試験管に採 取する.残った洗浄液は十分に吸引排除する.以 降,用手洗浄,検体採取,洗浄液の吸引排除とい う一連の操作を繰り返す.以上が対照群である。
対照群の一連の操作に加え,用手洗浄後2分間の 超音波洗浄を3回,計6分間加えた群を超音波洗 浄群とし,対照群と比較検討した.対照群,超音 波洗浄群共に各々5頭ずつ行ない,各回の検体の 世数と平均世数,さらに第1回目の菌数を100とし たときの,2,3,4回目のそれが,それぞれ何
%に減少しているかを表わしたものが,表の1,
2であり,これをグラフにしたものが図2であ る.対照群では,洗浄前の菌数を100とすると,
1回目が15.5%,2回目が4.9%,3回目が2.3%
であるのに比べ,超音波洗浄群では,1回目が 7.8%,2回目が1.0%,3回目が0.4%である.
対照群と超音波洗浄群を比較すると,二元配置法 で分析した結果,5%の危険率で,超音波洗浄群 における細菌数の減少率が,対照群における減少 率より有意に大であると言えると報告した1).
ユ00
%
10
%
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0.ユ
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超 音 波 群
←一一●超音波群の平均
←一一一・対 照 群
●一一→対照群の平均
こ1ミ・聖
I II
図2 洗浄による細菌数の減少率
田
11L 実験1.超音波腹腔内洗浄の腹腔内臓器 に及ぼす組織学的影響
1.実験目的
開腹した実験犬の腹腔内を微温生理食塩水で満たし,
肝,膵,脾,腸管について,種々の超音波強度および時 間で照射し,その組織学的変化を検討し,超音波腹腔内 洗浄の安全性を確認する.
2.実験方法
i)照射直後組織摘出群
9〜13kgの雑種成犬に,チオペンタール200〜250mg で静脈麻酔を行ない,気管内挿管にて気道を確保する.
必要に応じて,チオペソタール50〜100mgを追加静注 する.19Gエラスター々こて静脈を確保し,術中5%ブド ウ糖500mlを点滴静注する.約15cmの腹部正中切開 にて開腹し,微温生理食塩水を腹腔内に満たす.腹腔内 臓器表面より1〜3cmの距離を保って,超音波強度L25 w/cm2,5w/cm2,10w/cm2で,各々5分,10分,30分
間,20w/cm2で10分間照射した.写真2は,腹腔内臓 器に超音波照射を行なっているところである.照射臓器 は,肝,膵,脾・腸管で,照射直後に組織を摘出し,組 織学的検討を加えた.
ii)生存実験群
i)と同様の方法にて,肝,膵,脾,腸管に,1.25w/
cm2C10wlcm2,20w/cm2の条件で,各々10分間超音波 照射を行ない,1週間生存させた後諸臓器を摘出し,組
表1 対照群の検体0.2ml当り細菌数及び洗浄による減少率
No,1 NQ.2 No.3 No.4 No.5
九二 減少率 菌数 減少率 菌数 減少率 菌数 減少率 脚数 減少率
11 13,600,000 650,000 270,000 580,000 100,000
2 7,160,000 580,000 160,000 460,000 260,000
1回目
3 9,280,000 880,000 230,000 420,000 140,000
4 10,760,000 950,000 380,000 420,000 120,000
5 4,920,000 990,000 一 一 580,000
平均 9,144,000 100% 810,000 100% 260,000 100% 470,000 100% 240,000 100%
1 540,000 80,000 65,000 60,000 20,000
2 908,000 880,000 79,000 80,000 40,000
3 800,000 200,000 75,000 20,000 20,000
2回目
4 760,000 120,000 74,000 50,000 10,000
5 728,000 260,000 65,000 120,000 20,000
平均 747,000 8.2% 148,000 18.3% 72,000 28.0% 70,000 14.8% 20,000 8.3%
1 73,600 13,000 25,000 30,000 2,000
2 91,200 12,000 37,000 20,000 6,000
3回目
3 79,600 25,000 49,000 27,000 5,000
4 88,000 22,000 28,000 24,000 5,000
5 一 18,000 62,000 } 2,0GO
平均 83,100 0.9% 18,000 1.8% 40,000 15.3% 25,000 5.3% 4,000 1.3%
1 40,800 2,000 18,000 9,000 1,000
2 52,400 5,000 16,000 7,000 2,000
3 54,000 9,000 24,000 10,000 1,000
4回目
4 61,200 11,000 6,000 25,000 3,000
5 70,400 3,000 26,000 15,000 3,ρ00
平均 55,760 0.6% 6,000 0.7% 182000 6.9% 13,000 2.8% 2,000 0.6%
織学的検討を加えた.
3.実験結果
i)照射直後組織摘出群
肝についての主な変化は,出力1.25w/cm2〜10 w/cm2では,グリソン四域のリンパ管の拡張が著
明にみられることで,これらの変化は,照射時間 および出力が増すと強くなる傾向がある.また 20w/cm2で10分間照射した場合では,グリソン七 三のリンパ管の拡張に加え,被膜下士細胞に軽度
の変性像が認められた.
脾については,1・25w/cm2では,ほとんど変化
が認められな:いが,5w/cm2では,被膜下の出 血」Ow/cm2では,出血を伴なう実質の組織破壊 が認められ,20w/cm2では,その変化は一層著明 なものとなる.
膵については,全例に間質の浮腫とリンパ管の 拡張がみられ,その程度は照射時間および出力に 比例して増強する.20w/cm2では,被膜直下の壊 死が認められた.
腸管については,粘膜下層の限局性浮腫および リンパ管の拡張がみられ,その程度は,肝,膵と 同様,照射時間および出力が増すと強くなる傾向
表2 超音波群の検体0。2m1当り細菌数及び洗浄による減少率
No.1 No,2 No,3 No.4 No.5
菌数 減少率 菌数 減少率 菌数 減少率 菌数 減少率 謝謝 減少率
1 5,100,000 1,700,000 1,100,000 4,300,000 150,000
2 4,300,000 500,000 700,000 4,600,000 40,000
3 5,800,000 900,000 800,000 3,800,000 180,000
1回目
4 4,200,000 800,000 800,000 5,800,000 130,000
5 5,500,000 900,000 1,200,000 4,800,000 150,000
平均 4,980,000 100% 960,000 100% 920,000 100% 4,660,000 100% 130,000 100%
1 340,000 75,000 110,000 100,000 10,000
2 350,000 59,000 ・100,000 130,000 10,000
3 380,000 57,000 100,000 140,000 16,000
2回目
4 480,000 78,000 130,000 190,000 10,000
5 440,000 72,000 120,000 120,000 11,000
平均 398,000 8% 68,200 7.1% 112,000 12.2% 136,000 2.9% 11,400 8.8%
1 56,000 13,600 6,300 26,000 1,300
2 57,000 10,700 8,200 15,000 600
3回目
3 64,000 9,500 7,300 29,000 1,100
4 60,000 11,200 10,600 31,000 1,700
5 79,000 7,600 8,400 43,000 1,400
平均 63,000 1.3% 10,520 1.1% 8,160 0.9% 28,800 0.6% 1,220 0.9%
1 19,000 5,200 3,600 13,000 一
2 14,000 3,600 5,400 31,000 300
3 18,000 5,700 5,800 15,000 300
4回目
4 17,000 4,800 2,100 25,000 400
5 17,000 2,900 1,600 16,000 300
平均 17,000 0.3% 4,440 0.5% 3,700 0.4% 20,000 0.4% 330 0.3%
みられた.また20w/cm2では,外縦走筋に層状 の変性,壊死の所見が認められた.写真の3〜10 は,1.25w/cm2〜20w/cm2の条件で10分間超音波 照射をした,肝,膵,脾,腸管の組織像である.
これら照射直後に摘出した臓器の組織所見とし て,ほぼ一定してみられるものは,1・25w/cm2〜
10w/cm2の条件では,組織液のうつ滞,リンパ管 の拡張などで,それは,必ずしも照射部に接して というよりは,臓器内で不定の分布を示し,出力 ないし照射時間が増すと,その程度は強くなる傾 向がある.実質細胞の変性,壊死の所見は,1.25
w/cm2〜10w/cm2の条件ではほとんど得られず,
脾にて,10w/cm2で散在性の実質破壊が認めら れただけであった.しかし,20w/cm2照射では,
肝,膵,脾,腸管に,変性,壊死の所見が認めら
れた.
ii)生存実験群
表3に,1・25w/cm2,10w/cm2,20w/cm2にて10 分間照射した直後組織摘出群と生存実験群を対比
した.1・25w/cm2照射 群は,直後組織摘出群,生 存実験群共に,すべての臓器で著変は認められな かった.肝では,10w/cm2および20w/cm2で照射
表3 照射直後組織摘出群と生存実験群の比較
照射直後組織摘出群 生存実験群
i)肝
1.25w/cm2 グリソン鞘口のリンパ管の拡張 被膜下の類洞のうつ血,グリソン鞘のリンパ管の拡張
10w/cm2 グリソン鞘域のリンパ管の拡張 グリソン鞘のリンパ管の拡張,類洞拡張
嵂撃ノフィブリン付着,被膜下の肝細胞に軽度の変性 20w/cm2 グリソン鞘のリンパ管の拡張
嵂潔コの肝細胞に軽度の変性
グリソン鞘のリンパ管の拡張,類洞の拡張,
嵂撃ノフィブリン付着,被膜下の肝細胞に層状壊死が著明
il)脾
1.25w/cm2 著変は認めない 被膜に軽度の出血
10w/cm2 実質内の出血を伴う組織破壊 被膜下に軽度の組織破壊 20w/cm2 被膜直下の組織破壊と著明な出血 被膜直下の軽度組織破壊と出血 iiD腸管
1.25w/cm2 粘膜下層の限局性浮腫とリンパ管の拡張 漿膜の浮腫状膨化
10w/c血2 粘膜下層の限局性浮腫とリンパ管の拡張 外縦走筋層に軽度の変性
20w/Cm2 外縦走筋層に層状の変性,壊死 外縦走筋層に軽度の変性 lv)膵
1.25w/cm2 間質の浮腫とリンパ管の拡張 漿膜の軽度肥厚
10w/cm2 間質の浮腫とリンパ管の拡張 垂球は認めない
20w/cm2 被膜直下の壊死 被膜直下の壊死
した生存実験群は,直後組織摘出群に比較して,
肝細胞の変性,壊死が強く認められた.脾では,
逆に10w/cm2および20w/cm2照射群は,共に実質 細胞の変性,壊死の所見は,直後組織摘出群の 方が,生存実験群よりやや強くみられた.腸管で は,筋層の変性,壊死の所見は,10w/cm2照射群 では,生存実験群に強く,20w/cm2では,直後組 織摘出群に強くみられた。膵では,20w/cm2に て,両面とも被膜直下の壊死が認められ,その差 異は特になかった.
4.小 括
教室の平林1)が,超音波腹腔内洗浄において有 効性を認めた1・25w/cm2照射群は,肝,膵,脾,
腸管のすべての臓器において,照射直後組織摘出 群および生存実験群共に,特に丁丁は認めなかっ た.したがって,この出力強度で超音波腹腔内洗 浄を行なう場合には,組織学的には十分に安全で あると思われる.出力強度および照射時間と臓器 の障害の程度は,ほぼパラレルであるが,臓器に
よりその障害の程度は異なり,脾にて高度,肝,
腸管は中等度,膵は軽度である.生存実験群は照 射直後組織摘出群に比べ,総体的にその障害がや や強いように思われるが,著明な差ではない.
IV・実験2.超音波腹腔内洗浄の血液に及ぼ す影響
1.実験目的
開腹した実験犬の腹腔内を微温生理食塩水で満たし,
超音波照射を加えた後,4週間生存させ,血液に及ぼす 影響を検討し,超音波腹腔内洗浄の安全性を確認する.
2.実験方法
9〜13kgの雑種成犬に,チオペソタール200〜250mg にて静脈麻酔を行ない,気管内挿管にて気道を確保す
る.必要に応じて,チオペソタール50〜100mgを追加 静注する.19Gエラスターを挿入して静脈を確保し,術 中および術当日は,5%ブドウ糖および生理食塩水を計 工,000〜1,500ml点滴静注する.約15cmの腹部正中切 開にて開腹し,微温生理食塩水を腹腔内に満たす.腹腔 内臓器表面より五〜3cmの距離を保って,周波数58kHz で下記の如く1i)〜V)にわけて,超音波照射を行なう.
この際,肝あるいは腹腔内の一ヵ所に集中的に照射する のではなく,各所に均等に超音波照射を行なう.
i)対照群(単開腹を1時間行なったもの)
ii)肝に超音波強度1・25w/cm2で,30分間照射した
群
iii)腹腔内に超音波強度1・25w/cm2で,30分間照射 した群
iv)肝に超音波強度10w/cm2で,30分間照射した群 v)腹腔内に超音波強度工Ow/c皿2で,30分間照射した
群
超音波照射後直ちに閉腹し,4週間生存させる.超音 波照射後1週間は,AB−PC 5QOmgを,朝夕の2回筋注 する.照射前,照射直後,3日後,1,2,3,4週間 後に実験犬の頚静脈より採血し,総蛋白,赤血球数,
白血球数,ヘマトクリット,血小板,GOT, GPT,アル カリフォスファターゼについて,その変動を調べた.な お,i)〜v)は,各々3銘ずつ行ない,検査値はその平 均である.
3.実験結果
表4〜11および図3〜10に示した.総蛋白の値 は,対照群および各照射群共に,術前に比べ術直 後には変動を示さないが,術後第3病目には,や や高値を示す.対照群および各照射群山に上昇し ているので,超音波の影響というより脱水等によ る影響が考えられる.しかし,術後第3週〜第4 週には,術前の値に復する.赤血球数において は,各照射群多少の変動を示すが,各照射群共,
術後第3週〜第4週には術前の値に復する.白血 球数は,照射直後には変動を示さないが,術後第
3今日〜第1週までは,かなりの増多を示す.こ の時,1・25w/cm2照射群および10w/cm2照射群の 間にとくに差異は認めない.しかし,対照群にも 同様の増多を認めるので,超音波の影響というよ り,開腹術等による影響が強く考えられる.術後 第4週には,術前の値に復する.ヘマト.クリット 値も多少の変動は示すが,術後第4週には正常に 復する.血小板の値も多少の変動は示すが,術後 第3週以降は術前の値に復する.血清GOTは,
対照群,照射群共に術後第3病日〜第2週まで一 過性の上昇を示すが,その上昇は,対照群に比較
9/dl
8
7
6
5
●一対照
×一Zに1.25w/cm2で30分照射
。一一一腹腔内に1.25w/cm2で30分照射
△一一一肝に1Gw/cm2で30分照射
〇一一 ?o内に10w/cm2で30分照射
声こここ映τ一\
ジ§身蒙ミ
万 700
600
・500
400
額窪 3days lw 2w
図3T.P。の変動
。一対照
3w
×一肝に1.25w/cm2で30分照射
。一一一腹腔内に1,25w/cm2で30分照射
△一・一閲に10w/cm2で30分照射
●一一腹腔内に10w/cm2で30分照射
滋\
△ /儀\ 玲、×≧≦i≧≦i§≦、
、陶O
4w
×
タ
へ△、、
、 、o
算術剛 後 3days lw 2w
図4 R.B.C.の変動
3w 4w
して,照射群とくに10w/cm2照射群にやや強い.
しかし,肝照射群と腹腔内照射群の問には,差異 は認めない.第3週以降は,各群共すべて正常に 復する,GPTにおいては,対照群は経過中すべ て正常であるが,照射群とくに10w/cm2照射群で は,術後第3病日〜第2週まで,一過性の上昇を
2万
1万
X 憶
レ!
!
×
△
\選
o一対照
x一肝に1.25w/cm2で30分照射 o一一一腹腔内に1.25w/cm2で30分照射
/ぺ R=蹴癬蠣・・
\
、 \
、・/ζ
@鴻
、 \ \
4w
万 30
20
10
鶴纏 3days lw 2w 図5 W・B.C・の変動
3w
●一対照
x一
福ノ1.25w/bm琴で30分照射。一一一腹腔内に1.25w/cm2で30分照射
△一一一肝に10w/bm2で30分照射
●一一腹腔内に10w/cm2で30分照射
需復 3醸 1w
2w 3w 4w図7 Platの変動
% 50
40
30
●一 ホ照
x一
フに1.25w/cm2で30分照射。一一一 ?o内に1.25w/cm2で30分照射
△一一一 フに10w/cm2で30分照射
。一一 ?o内に10w/cm2で30分照射
工50
ユ00
50
欝纏 3郎 1w
2w 3w 4w。一一一対照
×一肝に1,25w/cm2で30分照射 o一一一腹腔内にL25w/cm2で30分照射 △一一一肝に10w/bm2で30分照射 《…腹腔内に10而で30分照身寸
ハ
〃 黙X
! △_r \
図6 Ht変動
璽術剛」 後 3days lw 2w
図8 G.0.T.の変動
3w 4w
示す.しかし,術後第3週以降は,正常に復す る.またGOT同様肝照射群と腹腔内照射群の 間には差異は認めない.アルカリフォスファター ゼも,第3一日〜第2週まで軽度の上昇を示すも のもあるが,その値は,ほぼ正常値であり,第3 週以降は術前の値に復する.
4.小 括
総蛋白,赤血球,ベマトクリット,血小板,ア ルカリフォスファターゼに関しては,4週間の経 過中,著明な変動は示さなかった.白血球は,照 射後第3病日から第1週まで,かなりの上昇を示 したが,超音波照射の影響より,開腹術等による 一164一
100
50
●一対照
×一肝に1.25w/cm2で30分照射 o一『一腹腔内にL25w/cm2で30分照射 △一一肝に10w/cm2で30分照射 o一一腹腔内に10w/cm2で30分照射 バ
! 、 // 、 〆 、 / 、
/ 1へ
/ ●
10
5
鶴復 3days 1w 2w
図9 G.P.T・の変動
3w 4w
倹
/
●!
●一対照×一撃に1.25w/cm2で30分照射 o『一一腹腔内に1.25w/cm2で30分照射 △『一肝に/0w/cm2で30分照射
八●}腹腔内に10・/・m2で30分照射
\\
ミン\/
・一一塘鶴.
離3days lw 2w
図10Al−phos変動
3w 4w
表4T.P.の変動 (9/d1)
術前 術後 3days 1w 2w 3w 4w
対 照 6.3 6.2 7.1 6.4 6.6 6.8 6.6
肝に1.25w/cm2で3Q分照射 5.9 6.0 6.4 6.4 6.6 6、7. 6.2 腹腔内に125w/cm2で30分照射 6.5 6.0 7.7 7.6 6.8 6.4 6.5 肝に10w/cm2で30分照射 5.8 5.9 6.1 6.3 6.8 6.5 6.2 腹腔内に10w/cm2で30分照射 6.8 6.6 7.6 7.5 7.5 7.1 7.0
表5R.B.C.の変動 (×104)
術前 術後 3days 1w 2w 3w 4w
対 照 544 590 528 580 610 570 605
肝に1.25w/cm2で30分照射 608 562 680 6五1 580 541 650 腹腔内に1.25w/cm2で30分照射 529 521 539 545 530 580 508 肝に10w/cm2で30分照射 505 660 569 616 545 625 566 腹腔内に10w/cm2で30分照射 519 620 614 560 639 565 594
表6.W.B.C。の変動
術前 術後 3days 1w 2w 3w 4w
対 照 8700 7200 21800 16200 17900 13800 7500 肝に125w/cm2で30分照射 7500 8100 25800 12400 14800 11000 8300 腹腔内に1。25w/cm2で30分照射 9300 8500 12900 10900 1050b 12000 8300 肝に10W/Cln2・で30分照射 89QO 9500 222QO 118QQ 8600 10000 70GO 腹腔内に10w/c1n2で照射 9600 5700 21600 24000 13100 15800 10600
表7 Htの変動 (%)
術前 術後 3days 1w 2w 3w 4w
対 照 37 40 42 39 42.5 44 40
肝に1.25w/cm2で30分照射 48 46 44.5 43 43 48 44.5
腹腔内に1.25w/cm2で30秀照射 39 36 46 42.5 38 40.5 40.5
肝に10w/cm2で30分照射 35 39.5 40.9 33 44 43 38 腹腔内に10w/cm2で30分照射 42.5 49 44.6 46.2 43 41 41
表8 Platの変動 (×104)
術前 術後 3days 1w
2w
3w 4w対 照フ 15 14 19 26 14 10 15
肝に1.25w/Cln2で30分照射 15 17 22 21 8 17 21
腹腔内に1.25w/cm2で30分照射 16 15 24 18 12 21 18
肝に10w/cm2で30分照射 7 12 19 10 9 15 19 腹腔内に10w/cm2で30分照射 15 22 15 8 19 26 23
表9G.0.T。の変動
術前 術後 3days 1w 2w 3w 4w
対 照 10 18 77 36 75 42 5
肝に125w/cm2で30分照射 27 46 25 33 86 30 16
腹腔内に1.25w/cm2で30分照射 24 23 ユ8 34 60 24 28
肝に10w/cm2で30分照射 3 7 44 146 34 7 5 腹腔内に10w/cm2で30分照射 38 42 96 111 19 23 4
表10G.P。T・の変動
術前 術後 3days 1w 2w 3w 4w
対 照 18 18 35 28 24 27 7
肝に1.25w/cm2で30分照射 23 50 17 18 50 22 10
腹腔内に1.25w/cm2で30分照射 21 34 32 26 52 40 31
肝に10w/cm2で30分照射 2 18 23 21 82 28 14 腹腔内に10w/cm2で30分照射 51 67 91 110 46 30 22
表11Al−phosの変動
術前 術後 3days 1w 2w
3w
4w対 照 3.8 3.6 8.2 4.5 4.6 5.3 4.2
肝に1.25w/cm2で30分照射 3.5 3.6 7.4 7.1 9.9 5.7 4.2
腹腔内に1.25w/cm2で30分照射 5.7 5.5 8.7 6.8 8.7 4.6 6ユ 肝に10w/cm2で30分照射 3.6 5.5 9.0 7.1 8.4 ・5.1 7.3
腹腔内に10w/cm2で30分照射 2.1 2.8 11.7 8.8 6.6 4.9 3.7
影響が強いように思われた.GOT, GPTの一過 性の上昇は,超音波照射による影響があるように 思われるが,その影響が著明に表われているも のは,10w/cm2照射群で,教室の平林1)が,超音 波洗浄にて有効であるとした1・25w/cm2照射群で は,ほとんど表われていない.また,異常値を示 したものに関しても,術後第3週以降は,すべて 正常に復している.以上,血液学的には,超音波 腹腔内洗浄は,十分に安全であると思われる.超 音波照射の末梢血液に及ぼす影響が少なかった理 由の一つとして,本実験に用いた超音波洗浄器の 振動子部は,その面積が小さいため,超音波エネ
ルギーの総量が少なかったためと思われる.
V.考 按
1・ 汎発性腹膜炎の病態および治療
急性汎発性腹膜炎は,手術,術前術後の管理お よび化学療法の発達した今日でも,重篤な疾患の 一つである,その原因として最も多い消化管穿孔 の場合,穿孔の部位,大きさ,来院までの時間,
穿孔前の全身状態および原因疾患などよりその重 症度は異なるが,一旦,急性汎発性腹膜炎に進展 すると,時として,いわゆる細菌性ショックと呼 ばれている循環不全,腎,肺障害などを伴ない,
治療に困難を極めることがある.腹膜は,腹腔全 体を被覆する一層の中皮細胞で被われた結合織性 被膜で,女性における卵管開口部以外は,完全な 閉鎖腔を形成する.腹膜の総面積は,体表面積に ほぼ等しく,急性腎不全患者の腹膜透析に利用さ れる如ぐ半透膜で,吸収能,濾出能は大きく,腹 膜全体に炎症がおよんだ場合,この膜を介して行 なわれる体液移動により,生体の受ける影響は大 きく,反応も迅速である5).腹膜炎ショックを誘 発する因子として,玉熊は,(1)細菌性因子一 とくにエγドトキシソ,(2)組織や遊出細胞が 破壊されて生じた,nonbacterialの有毒物質,
(3) 腹腔内滲出液貯溜や体液移動によるhypo−
volemiaの3つが主であり,これらが穿孔の場 所,腹水の化学的性状,腸管麻痺などに左右され て,いろいろな程度に関連し合いショックが誘発 され,ひとたびショッ クに陥ると,エンドトキシ
ンならびに,これを引き金として放出される各種 のchemical mediaterの影響が複雑に加重され,・
特有の臓器障害に進展すると述べた6).・1急性汎発 性腹膜炎に対する治療の原則は,手術療法と化学 療法,およびショックに対する全身管理であるこ とは,言うまでもない.とくに手術療法は,その 原因療法であって, (1) 原発病巣の除去,(2)
感染源の遮断 i3)滲出液,膿汁の腹腔外誘導 の3つを,その目的としている.㌧かし,全身状 態が不良である場合,案外,躊躇されがちになる のが,手術療法であり,原発病巣の除去や感染源 の遮断を行なわず,保存的姑息的療法しか行なわ なかったものの予後は,決して良くない.術前術 後の管理,および麻酔の進歩した現在,可能な限 り,積極的に手術による根治的療法に,ふみきる べきである.腹腔内を汚染している滲出液や膿汁 を,一刻も早く有効に腹腔外に排出する方法とし て,腹腔内ドレーンがある.しかし,その挿入部 位,有効性などについては,種々の問題があり,
その使用に関しては,現在なお,はっきりした指 針がないというのが,実情である.牧野らは,腹 膜炎時の膿の進展と貯溜およびドレナージにつ いて,右半側でおこった穿孔は,最終的には,
M・rison窩とDouglas窩に,左半側でおこった穿 孔は,脾窩とDOUglas窩に,膿が貯溜しゃすく,
一旦,横隔膜下領域に貯溜した液体は,内圧の差 などのために,上体を挙上しても重力に抗して,
下方にはおりてこない.また,胃十二指腸穿孔の 早期のものでは,腹腔内を十分頃洗浄すれぽ,ド レーンの挿入は不必要であるが,虫垂や結腸穿孔 では,ドレーンの挿入が望ましいと述べた7).ま た,ドレーンの組織で被包されるまでの時間につ いて,Yatesは,わずか24時間以内に線維性被膜 で覆われ,ドレーンとしての効果を失うとした が,牧野らは,ドレーンの完全な被包には,少な くとも1週間はかかるとし,その間は有効である とした.しかし,ドレーン挿入のためにおこる腸 管癒着の問題,創治癒遷延化の問題腹壁搬痕ヘ ルニアの発生など不都合な点も多いため,最近で は,生理食塩水による大量腹腔洗浄を行ない,可
能な限り Ohne Drain にしようとする傾向がみ
られる.
2・ 汎発性腹膜炎に対する超音波洗浄の意義 1905年Priceが,腹膜炎による敗血症の治療と
して,はじめ腹腔洗浄を報告8)したが,以後約40 年間は,腹腔内を洗浄することが,逆に正常域に も炎症を波及させるというDeaverの説9)が主流 をしめていたため,たいした進歩は,みられな かった.しかし,1957年Bumettは,モルモット に,自己糞便による汎発性腹膜炎を作製し,i)
単開腹群,ii)開腹およびP&S(penicillin&
streptomycin)充満群, iii)開腹およびP&S筋 注群,iv)開腹および生理食塩水洗浄群, v)開 腹およびP&s加,生理食塩水洗浄群,vi)開 腹およびP&S加,生理食塩水洗浄十P&S筋
注群の各群に別けて,比較検討した,洗浄群は,
非洗浄群に比べて,予後は極めて良好であり,し かも,P&Sを洗浄および全身に投与した群の死 亡率は,対照群のそれが85%,その他の群,i)〜
v)のそれが25〜35弩であるのに比較して,0%
と最も良い結果を得た.この結果をもとに,数多 くの症例にP&S加,生理食塩水による腹腔洗 浄を行ない,骨盤腔内にドレーンを挿入してこの 洗浄液を吸引し,著明な死亡率の減少をみた10).
1970年Mckennaらは,術中1〜4Zの生理食塩水 にて腹腔洗浄をした後,両横隔膜下,骨盤腔内,
脚結上溝に,計4本のドレーンを挿入し,術後8 時間以内に,ペニシリンおよびカナマイシンを加 えた生理食塩水で,持続的腹腔洗浄を平均8Z行 ない,その後も回収液が清明になるまで洗浄を 続け,術後48時間までに平均24Zを用いて,良好 な結果を得た11).また,Nbonらは,1963年から 1967年までの4年間に行なった生理食塩水による 洗浄の199例と,カナマイシンおよびバチトラシ
ンを加えた洗浄液による洗浄の205例を比較検討 し,創および腹腔内の感染において,前老が24.1
%の感染率であるのに比べ,後者は1L7%と半分 以下であると報告した12).J・A・Huntらは,術中 51の微温生理食塩水にて,回収液が清明になる
まで洗浄し,横隔膜下および骨盤腔内に2本のド
レーンを挿入し,閉腹する.術後μの生理食塩 水に,工5mgの割合でゲンタシンを加えた洗浄液 2♂で,3時間毎に洗浄を行なった. 1日平均洗 浄量は161で,平均3日間行ない,回収液が清明 になったところで,ドレーンを抜去した.この方 法で,非常に良好な結果を得ている.とくに死亡 率は,最近の41例中では4例と少なく,10%以下 であったユ3).以上,種々の抗生物質を加えた洗浄 液により,洗浄が行なわれているが,前述の抗生 物質の他に,セファロスポリン系,合成ペニシリ ン,ポリミキシン,ネオマイシン等が用いられ,
それぞれについて,その有効性は認められてい る.しかし,1956年Pridgen1ρが,ネオマイシン の腹腔内投与による呼吸不全を報告して以来,
1961年には,Mullett&Keatsらにより,カナマ イシンの腹腔内投与により, 術後同様の呼吸不全 が報告され,腹腔内への抗生物質の投与に対して は,十分慎重でなくてはならないと警告がなされ
た.
本邦では,渡辺らにより,腹腔内洗浄に関して 数多くの報告があり,徹底的に洗うことにより,
倍数希釈で細菌は流されて,ほとんどの症例にお いては,培養によってさえマイナスとなるほどの 洗浄効果を認めた.感染源さえ除いて,十分洗浄 を行なえば,細菌学的には,ドレーンは挿入しな くても治癒するはずであり,これを数多くの症例 で,臨床的に立証した15).・教室の木村は,加温槽 を有する洗浄装置を作製し,ほぼ一定の温度でし かも短時間に,9〜151の生理食塩水による腹腔 内洗浄を可能にし,成人の汎発性腹膜炎に対して これを用い,良好な結果を得ている16).また教室 の鈴木は,実験犬に汎発性腹膜炎を作成し,人工 腹腔を装着した後,持続洗浄を行ない,炎症巣に 対する消炎効果および全身状態の改善において,
有効であると述べた17).以上,腹腔内洗浄の有効 性について述べたわけであるが,腹腔内洗浄を短 時間で,しかもより効果的なものとするため,19 78年教室の倉光らは,超音波のキャビテーション 作用を応用した,超音波腹腔内洗浄器を試作し た.超音波による洗浄は,機械部品,メガネ;宝
石等に利用されているが,医療の方面でも,すで に医療器具や手指の洗浄に応用されている.守屋 らは,周波数22kHz,出力。・165w/cm2の条件で,
蒸留水を用いて手指の超音波洗浄を行なった場合 には,菌の減少は,全く認められなかったが,蒸 留水の代りに,800倍ハイアミン液を使用した場 合には,わずか30秒で,外科的無菌状態が得られ るとした.すなわち,人体に応用し得る程度の周 波数,および出力では,超音波の除菌効果は極め て弱く,消毒液との併用により,はじめて十分な 効果が得られると述べた18).しかし,教室の平林 は,前述の如く,実験犬において周波数58kHz,
出力1・25w/cm2の条件で,生理食塩水下に超音波 洗浄を行ない,十分にその効果を認めている1).
3・超音波の生体におよぼす影響およびその安 全性
超音波に関する研究は,古く1899年K6rnigか らあったが,1918年Langevinが,実用的超音波 の発生に成功して以来,本格的に各方面に応用さ れるようになった.しかし,生物学的方面の研 究は,比較的新しく,1927年Wo・d&Loomis の,単細胞動物および小動物が,超音波により破 壊されることの報告にはじまる19).治療に関して は,1938年R・Pohlmanが,超音波を動物体に直 接作用させる方法を考案して以来,物理療法とし て,応用されるようになった.本邦でも,雄山,
笠原,笹川,新宅,有賀21),岡22)らによって,数 多くの研究がなされた.超音波を生体に照射した 場合におこる超音波の3大作用は,機械的振湯作 用,温熱作用および化学作用である.超音波の治 療的応用において,生体組織に及ぼす影響に関す る研究は数多くあるが,これらに共通している点 は,超音波強度が適当であれぼ,興学的に作用 し,機能あるいは代謝を促進し,強い照射あるい は過度に照射した場合は,麻痺的あるいは破壊的 に作用するということである.また,その効果 が,持続性をもつていることを特徴としている.
このことは,一次的な刺激によってばかりでな く,生物学的に有効な作用をもつ化学物質が,超 音波により生産され,その二次的作用によって,
生体反応が維持されると考えられている23)24).超 音波の生体に及ぼす影響は,その強さと作用時間 に左右されることは,言うまでもない.勝田は,
総エネルギー量が一定となるような,6通りの超 音波強度と超音波照射時間との組合わせについ て,絹糸草の発芽状態に対する超音波の効果を比 較し,総エネルギー量,すなわち超音波強度×作 用時間を等しくしても,超音波の効果は著しく異 なると報告している25).しかし,Valtonenは,
210〜2309のラットにおいて,周波数1メガサイ クル,超音波強度lw/cm2で1分間(A),3w/cm2 で1分間(B),2w/cm2で2分間(C),3w/cm2 で3分間(D),3w/cm2で5分間(E),腹部に 超音波を照射し,腸間膜のmast cellの障害度に ついて,対照と比較した.対照は,非障害mast cellが90%であるのに比較して,照射群は,超 音波強度と時間の積, ((A)が1,(B)が3,
(C)が4,(D)が9,(E)が15,著者は,こ れをultrasonic energyと表現している)に比例し て減少し,(A)で約70%, (B),(C)で約60
%,(D)で約50%,(E)で43%であったと述 べた。超音波は,普通の音波と同じく,密な物質 ほどよく伝達,浸透する.生体では,透過性の大 なものは,脾臓,脂肪,大脳,皮膚,腎臓,筋肉 の順で,組織によって,超音波エネルギーの吸収 が異っている.しかも,同一組織でも,生活体で あるがために,その時々により,刺激閾値が一定 しておらず,組織の反応は異ってくる.また,密 度の違う境界面においては,反射がおこり,その 局部に,超音波エネルギーが濃厚となる.超音波 照射を行なう場合には,照射部位にある臓器の状 態,密度の違いなどを,十分に考慮する必要があ る.例えば,空気を含む胃,腸管,あるいは肺で は,反射がおこり,内部には浸透しにくい.
i)血液におよぼす影響
超音波照射による,流血中の白血球におよぼす 影響は,現在まで数多くの報告があるが,美濃
口,猪子,井嶋,伊藤27),吉田28)らすべて,白血 球の増多を述べている.また,増多した白血球の 復元であるが,諸家により多少の違いはあるが,
遅くとも48時間以内に,その復元を認めている.
白血球像は,好中球の百分率および絶対数の増 多,核の左方移動,リンパ球の百分率の減少が知
られている.吉田28)は,周波数1,000K・C,超音波 強度1w/cm2および5w/cm2で,家兎の左季肋部,
耳翼部,大腿部,間脳部に照射したが,1w/cm2 照射群も5w/cm2照射野も,白血球増多において は,ほとんど差異を認めず,わずかに5w/cm2照 射群の方に,変化の程度が高度であると,報告し ている.超音波の赤血球におよぼす影響は,一般 に白血球に比較して,少ないと言われている.諸 家により,減少あるいは増加の種々の報告がある が,井嶋29)は,家兎の耳翼部,脾臓部,膝関節部 に,超音波照射時間をいろいろ変えて照射し,超 音波作用部位および時間の相違により,赤血球は 不変,増加または減少を示し,同じ生体に対する 作用でも,その部位および時間によって,それぞ れ傾向を異にすると報告した.小山30)は,家兎の 肝臓に超音波照射を行ない,照射:量の多い場合に は,赤血球の減少,少ない場合には,赤血球の増 加を認めた.この主な理由は,前者の場合は,照 射による赤血球の破壊,後者の場合は,照射が適 当な刺激となり,増血促進的に働いたと考えられ ている.超音波の血清蛋白に及ぼす影響につい て,中島31)は,血清総蛋白の減少,アルブミンの 減少,グロブリンの増加を認め,照射を中止する
と,正常に復すると報告している.原も同様の結 果を報告しているが,その回復の状態は,照射量 に関係し,1w/cm2あるいは2w/cm2で10分間照 射したものは,5時間以内に正常に復するのに比 較し,2w/cm2,3w/cm2,4w/cm2で30分間照射し たものは,24時間後ですら,十分に回復しなかっ た.また原は,超音波の肝機能におよぼす影響に ついて,家兎の右季肋部に,超音波強度1w/cm2,
2w/cm2,3呵cm2,4w/cm2で照射し,チ.モール混 濁試験,コバルト試験,ルゴール反応,沢田氏昇 天反応,BSP等について検査し,1w/cm2照射 群では,ほとんど肝機能障害を認めず,2字置cm2,
3w/cm2,4w/cm2照射群では,コバルト反応, BsP,
沢田氏昇示反応にて,軽度の肝障害を認めた32).
有賀は,慢性肝炎の活動型では,超音波照射によ り,GPT, LDHの上昇するものが多く,非活動 型および肝硬変では,酵素系に余り変化はみられ ない.これらの酵素系の変化は一過性(1週間以 内)であり,超音波照射により,増悪することは ないと報告している.
ii)組織に及ぼす影響
超音波の臓器に対する影響について,1949年,
K:oeppenおよびHorvath and Lennertは,治療量 の超音波を,動物の肝,脾,骨髄に照射しても,
何等の病的変化は生じないが,超音波強度を大に すると,肝では実質の障害を生じ,脾では,リン パろ胞内の幼若細胞が破壊されると述べ,肝,脾 への照射は,避けるべきであるとした.1954年,
Beier and Dornerは,動物の肝に,超音波強度 3w/cm2で5分間照射した場合は,肝細胞に変化 を認めないが,5〜6w/cm2の強度では,空胞形 成,出血性変化,壊死巣形成の変化を生じたと述 べた33)。1953年,D6nhardt&Preschは,ラット の肝に超音波照射を行ない,肝細胞の壊死,血管 の拡張,うつ血,一血栓形成等の変化と,血清中の リポイドの変化を報告している34).1954年,Hug and Papeは,肝に出力5w/cm2で超音波照射を 行ない,空胞形成を認め,これを超音波作用の特 徴的所見であるとした35).工953年目Quthamらは,
0・5MHzから3・8MHzまでの周波数で,出力強 度1w/cm2および10w/cm2とし,正常ハツカネズ ミ群と腫瘍ハツカネズミ群にわけて,工,5,25 分間超音波照射を行なった,正常ハツカネズミ 群の場合,1w/cm2では時間のいかんにかかわら ず,組織への影響は,ほとんど認められず,稀に 肝あるいは肺に,軽度のうつ血が認められただけ であった.10w/cm2では,いかなる周波数でも,
体温の上昇,市部から下肢にかけての麻痺,組織 の破壊,さらには死亡がおこり,周波数が高い 程,これらの作用は迅速でかつ高度なものであっ た.この際の組織学的変化において,肝の最も著 明な変化は,類洞の拡張とうつ血および壊死で,
この壊死は,多くの場合1ヵ所あるいは集合した 状態であるが,稀に多発性あるいは散在性のもの
がある.肺の変化は,うつ血および肺胞,気管支 周囲の出血である。小腸では,時に粘膜の出血,
粘膜下層の浮腫および好中球,リンパ球,組織球 の浸潤,絨毛先端の壊死がみられる.腫瘍ハツカ ネズミ群では,非照射群に比較して,腫瘍の発育 状態には特に差異を認めず,また組織学的にも,
超音波照射に起因すると思われる特徴的な変化 は,認められないと述べている36).本邦では,
1960,奥村らが,周波数1,000K・C,出力強度0,7 5w/cm2の条件で,開腹した成竹に超音波照射を 行ない,次のような結果を得た・肝においては,
15分間照射で,肝細胞に小さな空胞形成および充 血を認め,30分間照射では,肝細胞索は乱れ,肝 細胞は破壊され,壊死に陥りまた高度の充血像を 示す,腸管においては,漿膜側より照射をしたに もかかわらず,内腔側の粘膜に高度の破壊像,粘 膜上層に小出血がみられ,また同一筋層であって も,縦走筋と横走筋とでは,超音波に対する態度 を異にし,縦走筋の方が,横走筋より強い破壊像 を示していると述べた37).平林は,周波数58kHz,
超音波強度1・25w/cm2の条件で,肝に密着照射し た結果,3分間の照射ですでに巣状壊死などが認 められ,照射時間を長くすると,その変化は一層 著明なものとなると述べ,臓器への影響を考慮す る場合は,一ヵ所への集中連続照射は避け,また ある一定の距離をおくべきであるとした1).以上,
超音波の血液および組織に及ぼす影響について述 べたが,最近では,染色体,核分裂等に対する影 響に,目が向けられている.F孟sher, Bernstineら は,超音波を照射した白血球および組織の培養に おいて,対照群と比較し,染色体異常は,とくに 認められないと述べたが,Serrらは,診断に用 いる程度の強度で,超音波照射を行なった人の 且br・blastの培養において,核分裂の減少を報告
した.また,Macintosch and Daveyらは,超音 波照射を行なった人の血液の培養において,染色 体異常が多く認められたと述べている.ユ971年,
E・G・Lochらは,二倍体として胎児性脳細胞,
異数倍数体として正常羊膜由来の FK cell,子 宮頚癌由来のHeLa ce11を培養して,次の結果
を得た.診断領域で用いられる程度の超音波強度
。.olw/cm2,周波数2・5mHzでは,5〜45分聞照 射したが,3種類の細胞はすべて対照と比較し て,その成長および増殖において,差異は認めら れなかった.しかし,治療領域の超音波強度0・05 w/cm2〜3w/cm2,周波数870kHzで,各々10分間 照曝したものでは,その出力を上げると共に,細 胞の障害は増加し,その増殖能は低下する.3 種類すべての細胞に認められるが,羊水由来の
ζeK .ce11の感受性が,最も高いと述べた38).
以上,各方面から超音波の安全性について検討が なされているが,今後も一層の研究が期待され
る.
VI・結 語
汎発性腹膜炎手術時に施行される生理食塩水 による大量腹腔内洗浄に,超音波による洗浄を加 え,その有効性を認めた.その安全性を確認すべ く,組織学的影響および血液の変動について検討 し,次の結果を得た.
1.超音波腹腔内洗浄にて有効であるとした 1・25w/cm2照射では,肝,膵,脾,腸管のすべて の臓器において,組織学的影響は,ほとんど認め られなかった.しかし,出力強度が増すに従っ て,組織の障害は,ほぼパラレルに出現した.
2.血液への影響については,一過性に軽度の 変動を認めるが,超音波照射4週後には,すべて の検査値は正常に復した.
稿を終るにあたり,終始ご懇篤なるご指導とこ校閲を 賜わった恩師織畑秀夫教授に深甚の謝意を捧げるととも に,ご懇切なるご教示ご鞭錘を頂いた太田八重子教授,
倉光秀麿助教授,病理学教室梶田 昭教授に心から感謝 の意を表します.また,実験に際しご助言ご協力下さつ た平林,岡崎,村瀬,城谷,朝比奈,徳田,安部,水内 先生始め,教室員各位に感謝します.(なお本論文の要 旨は,第80回日本外科学会総会(仙台),および第227回 東京女子医科大学々会例会において発表した)
文 献
1)平林 武:汎発性腹膜炎に対する超音波洗浄 の実験的研究.東女医大誌48(4)369〜379 (1978)
2)実吉純一:超音波キャビテーション.超音波医