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第2章
子どもに料理の手伝いをさせたい保護者の背景に関する分析
滋賀大学データサイエンス学部 饗庭拓真
1.問題の所在 「食」をめぐる環境は技術の進歩により、昔と今では大きく違っている。特にサービス 面では、外食産業の多様化や宅配サービスの充実、さらにコンビニエンスストアなどの小 売店舗数の増加など、手軽に食事をとることができるようになった。近年では、スマート フォンやパソコンの普及により、インターネットを介した食材や食品の購入サービスが充 実し、より「手軽に」「おいしい」食事をとることができるようになった。また、お惣菜な どの調理済み食品を購入し、家に帰って食べる「中食」も増加傾向にある。この背景には、 人口構成における少子化や核家族化、単身世帯の増加や女性の社会進出など、世帯構造の 変化が要因として挙げられる。 先述の背景から、現代社会において各家庭における子どもの手伝いは、家族生活を送 る上で重要な要素となっている。特に、子どもによる家庭での料理のお手伝いは、生活技 能を身につけるだけでなく、家族としての一員としての役割を果たすという、貴重な教育 の場でもあると元兼ら(2008)は位置づけている。また、共働きのケースなど、子どもが両 親に代わって料理を担当せざるを得ないという状況も想定され、子どもに料理を会得させ たい親が多いと考えられる。加えて、高橋ら(2013)の研究では、食事の手伝いをする子ど もは、残食が少なく、また食事時の挨拶をいつもする割合が高いことが分かっている。子 どもの料理の手伝いは子どもの成長の上で重要な役割を担っている。さらに、家庭内で料 理の手伝いをするという行為は、親の方針や親と子の関わりが関係していると考えられる。 以上を踏まえて、子どもに料理の手伝いをさせたいと考える親は、どういった家庭状況や 心理からそう考えているかを本稿では明らかにする。続く第 2 節では、先行研究を整理し、 分析するにあたり仮説を設定する。第 3 節では使用するデータと変数の整理を行い、第 4 節で分析結果を示す。第 5 節では、分析結果を基に考察を行う。 2.先行研究と仮説の検討 2-1.先行研究 先行研究として、子どもとの共食や食育についての研究は多いが、子どもの料理に関す る手伝いという点に焦点を絞ると、研究は乏しかった。 野松ら(2015)は、小学 5 年生の家庭での食事の手伝いの状況を明らかにし,家庭の食事 の手伝いの状況に、子どもから見た保護者の時間的ゆとり感や経済的なゆとり感、子ども の共食の状況が関連しているかを検討した。その結果、男子の 8 割、女子の 9 割が何らか の食事の手伝いをしており、保護者に時間的なゆとりがなくても、子どもが手伝いをする5 機会は奪われないとし、結論として、保護者は時間的なゆとり感がなくても子どもと食事 を共にし、子どもに食事の手伝いを経験させているとした。 磯部ら(2008)の研究では、男子大学生について、調理技術の向上に関する過去の経験と して、家庭での手伝いの影響が最も強いことを示している。また、望ましい食生活を実践 する力を身につけるには、少しでも家庭での実践や家庭科の調理実習などを通し、調理経 験を増やすことが望まれると述べている。 元兼ら(2008)は、小学 6 年生に対し、食事の手伝いをしているか調査したところ、頻度 に差はあるものの調査対象の 73 人全員がしていると答えた。また、有意差は出なかったも のの、ご飯を「朝・夕しっかり摂れている」タイプほど食事の手伝いの頻度が少なく、逆 に「朝・夕ともしっかり摂れていない」タイプほど手伝いの頻度が高いことが報告されて いる。ここから元兼らは、保護者が子どもの世話を手厚くしているか否かに関係している とし、品数が豊かな家庭では保護者が準備など全てやり、子どもは手伝うまでもない状況 になっていると推察している。 これらの研究は、いずれも子どもの家庭環境についての記述が目立ったが、子どもが料 理をしている点について、親の意識についての記述はなかった。 2-2.仮説の検討 第 1 の仮説として、「共働きの家庭ほど子どもに料理をさせたいと考えている」を設定す る。元兼ら(2008)によると、10%の子どもが、子どもだけで夕食を買って食べることがあ ると答えている。第 1 節でも述べた通り、共働きなどの事情により、子どもに料理をさせ たいと考える親が多いと考えられる。また、野松ら (2015)により、保護者に時間的なゆと り感がない子どもの方が食器洗いの手伝いをしている割合が高いことが明らかとなってい る。その傾向がこの仮説でも成り立つかを検証する。 第 2 の仮説として、「中学生の頃料理をしていた保護者ほど、子どもに料理をさせたいと 考えている」を設定する。磯部ら(2008)によると、調理技術の向上には、過去の家庭での 手伝いが影響を強く与えると結論付けている。子どもを持つ保護者は、自身が料理をして いた経験から自身を投影し、子どもにも同じように料理をさせたいと考えるのかを検証す る。 第 3 の仮説として、「家族と一緒に食事をとることを重視している保護 者ほど、子どもに 料理をさせたいと考えている」を設定する。野松らの、保護者は時間的なゆとり感がなく ても子どもと食事を共にし、子どもに食事の手伝いを経験させているという結論が出てい るので、今回の研究でも同じ結果が得られるか検証する。また、料理の手伝いを親と子の コミュニケーションの場ととらえる場合、家族とのコミュニケーションを大切にしている 保護者ほど子どもに料理をさせたいと考えていると予想されるため、検証する。 以上の仮説を検証するために、 会社 X の利用者の中で、子どもがいる利用者を抽出し、 その中で共働きの世帯がどの程度いるかなど、必要な項目について記述統計から確認する。 次に、仮説ごとにクロス集計とカイ二乗分析を行い、仮説が成り立つかどうかを検討する。 最後に、他の変数についても関連がみられるかどうかを重回帰分析によって検討する。
6 3.データと使用する変数 3-1.使用するデータ 使用するデータには、「 食とライフスタイルに関する調査 」(以下本調査と表記)を使う。 調査の概要を表1に示す。このデータは会社 X の利用者に限定しているものの、自分の子 どもに料理をさせたいか尋ねていること、また家庭環境や回答者の属性についても尋ねて いることから、本課題を行う上で適切なデータである。なお本調査で得られたデータの内、 配偶者と子ども(未就学児から高校生まで)と同居している女性 の回答者に限定して分析 をおこなう1)。 表1.調査概要 3-2.使用する変数 目的変数には「子どもに料理をさせたいか」を使用する。本調査では回答者に対し、本 人の料理に関する意識について11項目尋ねている。この中から「① 自分の子どもにも 料理をさせたい」を使用する。本稿では料理に関する意識について5段階(あてはまる・ どちらかといえばあてはまる・どちらともいえない・どちらかといえばあてはまらない・ あてはまらない)で尋ねている。このうち、「あてはまる」、「どちらかといえばあてはま る」と回答した集団と、それ以外の集団の2パターンに分けた。 説明変数には、共働きかどうか、中学生の頃の料理の経験、家族と一緒に食事をとるこ とを重視するかの3変数を使用した。共働きかどうかについては、問 18 の本人の働き方 の項目から、共働きかどうかを2カテゴリにした。中学生の頃の 料理の経験と、家族と一 緒に食事をとることを重視するかについては、目的変数同様に二値化を行った。 統制変数として、同居家族の人数と回答者の年齢を使用した。この変数の内、年齢は代 表値として十代刻みでの利用を行った。なお、欠損値のある回答者は分析から除外し、重 回帰分析では最終的に欠損値のない 348 名を使用した。 調査名 食とライフスタイルに関する調査 調査対象 会社Xの利用世帯の中で主に調理を担当している人 調査時期 2020年9月17日~2020年10月2日 調査方法 留置法(郵送による回収) 抽出方法 会社Xの利用世帯から無作為抽出 計画標本 2000 サンプルサイズ 986 回収率 49.3%
7 表2.使用する変数の記述統計量 表2に使用する変数の記述統計量を示す。なお、それぞれの変数の内、欠損値は省 き、有効パーセントで表記を行っている。この表によると、子どもに料理をさせたい母親 はかなりの割合で存在していることがわかる。一方で自身が中学生の頃料理をしていたと 回答した人は 28.8%と、比較的少ないことがわかった。 4.分析 4-1.基礎的な分析 まず基礎的な分析として、子どもに料理をさせたいと答えた割合について、帯グラフを 図1に示す。 子どもと同居する女性(n=365) 変数 % 目的変数 子どもに料理をさせたい 86.3 その他 13.7 説明変数 共働き 共働き 77.4 共働き以外 22.6 料理経験 中学生のころよく料理をしていた 28.8 その他 71.2 家族との食事 家族と一緒に食事をとることを重視する 82.2 その他 17.8 統制変数 年齢 20代 2.2 30代 29.6 40代 52.9 50代 11.2 60代 1.9 70代 2.2 同居家族人数 3人 35.5 4人 49.5 5人 17.6 6人 4.4 7人 3.0
8 図1.目的変数の度数分布 集計結果から、「自分の子どもに料理をさせたい」と答えた回答者の、およそ 86%が「あ てはまる」、「どちらかといえばあてはまる」と回答し、料理をさせたいという意識は高い ということが分かった。 次に、三つの説明変数(「共働きか」「中学生の頃の料理経験」「家族と一緒に食事をとる ことを重視するか」)それぞれの回答内容について、目的変数「自分の子どもに料理をさせ たい」に対して差があるのかを確認するため、グラフを作成し、図2~4に示す。 図2.働き方別に見た、子どもに料理をさせたいと答えた割合 45.8 40.5 9.9 1.9 1 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 子どもに料理をさせたいか(%) 1 あてはまる 2 どちらかといえばあてはまる 3 どちらともいえない 4 どちらかといえばあてはまらない 5 あてはまらない 87.6% 86.1% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0% 共働き 共働きではない 共働きかどうか
9 図3.中学生の頃の料理経験別に見た、子どもに料理をさせたいと答えた割合 図4. 家族と一緒に食事をとることへの意識別に見た、 子どもに料理をさせたいと答えた割合 この結果より、家族と一緒に食事をとることを重視すると答えた人ほど、子どもに料理 をさせたいと考えていることが示唆されるが、これには家族の同居人数や回答者の年齢な どの別変数と交絡している可能性がある。そのため、次節では多変量解析によってこれら の変数を統制した上でも、家族と一緒に食事をとることを重視すると答えた人ほど、子ど もに料理をさせたいと考えているということが言えるかどうかを確認する。 90.5% 85.2% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0% 中学生の頃料理を よくしていた その他 中学生の頃の料理経験 89.3% 75.4% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 100.0% 家族と一緒に食事を とることを重視する その他 家族と一緒に食事をとることを重視するか
10 4-2.多変量解析 本節では、「家族と一緒に食事をとることを重視する」人ほど子どもに料理をさせたいと 考えているかどうかに ついて、多変量解析によって検討する。表3は、目的変数を「自分 の子どもに料理をさせたい」としたときの二項ロジスティック回帰分析の結果である。こ の表から前節で述べた通り、家族と一緒に食事をとることを重視すると答えた人ほど、子 どもに料理をさせたいと考えていることが分かった。その他の説明変数に関しては有意な 結果にならなかったため、共働きであることや、中学生の頃の料理経験については、目的 変数に対して有意な変数にはならなかった。また、統制変数である、同居家族人数と回答 者の年齢に関しても、有意な値は示さなかった。 表3.二項ロジスティック回帰分析の結果 5.考察 本稿では、「子どもに料理をさせたいか」を目的変数として、どういった特性が目的変数 に影響を与えているかについて、ロジスティック回帰分析の結果から考察する。分析結果 より、「家族と一緒に食事をとることを重視する」人ほど、自分の子どもに料理をさせたい という意識が高いことが分かった。仮説として述べていた、「家族と一緒に食事をとること を重視している保護者ほど、子どもに料理をさせたいと考えている」は立証できた。背景 として、食事が家族とのコミュニケーションの一部となっていることが示唆される。保護 者としては、子どもに料理をさせる、もしくは一緒に料理をすることで、親と子のコミュ ニケーションをとることを重要視しているように考えられた。料理の手伝いを親と子のコ ミュニケーションの場ととらえる場合、家族とのコミュニケーションを大切にしている保 護者ほど、子どもに料理をさせたいと考えていることが推察される結果となった。 一方で、「共働きの家庭ほど子どもに料理をさせたいと考えている」、「中学生の頃料理を していた保護者ほど、子どもに料理をさせたいと考えている」という仮説については、立 証できなかった。共働き家庭に関しては、両親が忙しいため、食事 の準備を子どもにして 変数 B Exp(B) 中学生の頃料理をよくしていた(ダミー) 0.522 1.686 共働き(ダミー) -0.015 0.985 家族と一緒に食事をとることを重視する(ダミー) 1 2.719 ** 同居家族の人数 0.073 1.076 回答者の年齢(代表値) -0.067 0.936 切片 0.999 2.715 n Nagelkerke R2 Cox-Snell R2 Note. +p<.10 *p<.05 **p<.01 ***p<.001 348 0.048 0.026
11 おいてほしいという意識が働くと予想していたが、有意な値にはならなかった。また、自 身の子どもの頃の料理経験から、自分の子どもにも自己投影させ、料理をさせたいと考え る保護者がいるよう考え仮説を立てたが、これも棄却された。子どもに料理の手伝いをさ せたいか否かについては、親の自己投影や時間的ゆとり感は寄与しないと推測される。 統制変数で、家族の同居人数と回答者の年齢を加えたが、結果から、目的変数はこの統 制変数に依存していないことがわかった。 最後に、今後の課題について指摘する。今回の調査では、 会社 X 利用者に向けた調査で あったため、他の集団で同じ調査を行うと結果が変わってくる可能性がある。特に食事の 手伝いに関しては、利用者は食事の準備の手間が非利用者よりも楽であるという側面もあ るため、慎重な解釈が必要であると考えられる。 また、使用した変数について、「共働き」は、アルバイトやパートなどの非正規雇用者も 含まれているため、時間に余裕のある保護者も共働きの対象となっている。普段の料理に 割ける時間など、具体的に時間のゆとり感について検討する必要がある。 さらに、今回の調査では、普段料理をしている人を回答者と し、そのうち子どもと同居 している人を調査対象にしたが、性別をみたところ、回答者が女性に大きく偏り、男性の 回答者が僅かであったため、調査対象を女性とした。思想における性別差を見る場合、男 性回答者の割合を増やすなど、今後の検討が必要である。 6.むすび 今回の調査では、「家族と一緒に食事をとることを重視する」人ほど、自分の子どもに料 理をさせたいという意識が高いことが明らかになった。少子化や核家族化、単身世帯の増 加や女性の社会進出など、世帯構造の変化が進む中で、子どもの家庭における役割も変化 していくことが考えられ、今後も保護者の意識について調査・研究を重ねるべきだと感じ た。料理は、子どもや家族とのコミュニケーションの場でもあるという結果から、 会社 X としても商品開発やプロモーションにも工夫が期待できるようにも考えられる。 注 1)配偶者と子どもと同居している男性の回答者は 13 名、配偶者と子どもと同居している 女性の回答者は 365 名であり、配偶者と子どもと同居している男性の回答者の人数が極端 に少なかったため、今回の分析では対象を女性に限定した。 参考文献 磯部由香, 2008,「男子大学生の調理技術と食生活との関連」『三重大学教育学部紀要』, 第 59 巻 社会科学 101-105. 髙橋睦子, 2013,「子どもの食事の準備や後片付けと関連する家庭内因子について」『尚 絅学院大学紀要』,第 66 号 61-73. 野末みほ, 2015,「小学 5 年生の家庭での食事の手伝いと保護者のゆとり感や子どもの 共食の状況との関連」『栄養学雑誌』,Vol.73 No.5 195-203. 元兼君枝, 2008,「食生活か見た家族関係の実態(第 1 報)-小学生の食環境に関する子
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