【原著】血管疾患における遺伝子治療(HGF遺伝子を用いて)
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(2) 80. 日血外会誌 14巻 2 号 Table 1 Clinical trials of gene therapy for cardiovascular diseases Company Vascular Genetics Gene Vec/Pfizer. Vector/Gene plasmid/VEGF-2 Ad/VEGF-121. Collateral Therapeutics/Shering. Disease. Phase. PAD. phase III. CAD. phase IIb. PAD. phase I/II. CAD. phase I/II. Ad/FGF5. CAD. plasmid/VEGF-165. PAD, CAD. phase I. Genzyme. Ad/HIF-1. PAD. phase I. Genecell. plasmid/FGF1. PAD. phase I. Eorogene/Valentis. phase IIb. PAD, peripheral arterial disease; CAD, coronary arterial disease; Ad, adenoviral vector. 新生療法で使用されるウィルスベクターには,作成が. 血管新生療法の手段:組換えタンパクと遺伝子. 簡便であること,非分裂細胞にも導入できること,外 組換えタンパクと遺伝子のいずれを導入しても血管. 来遺伝子の発現が一過性であること等の条件が要求さ. 新生は起こることがわかっている.しかし実際的には. れ,動物実験ではアデノウィルス,ヘルペスウィル. 次の諸事情から組換えタンパク投与よりも遺伝子投与. ス,アデノ随伴ウィルスが用いられた.ベクターとな. の方が有利であると考えられている.組換えタンパク. るウィルスは前処理によって非増殖性に加工するが,. は半減期が短く有効組織濃度に到達させるために大. 作成の段階で増殖能をもつものがわずかに含まれるこ. 量・連続投与が必要である.一方,全身副作用を最小. とがあり,これをなくすことが重要課題である.また. 限にするために血中濃度の上昇を抑えなければならな. ウィルスベクターそのものの免疫原性からくる宿主へ. い.これら相反する条件を満たさなければならないた. の細胞毒性も問題のひとつである.以上のような理由. め投与量の設定が非常に困難である.しかし,遺伝子. でウィルスベクターは安全性の観点から臨床応用する. 投与ならば少ない投与量で持続的にタンパクを局所分. には解決すべき点が多い.. 泌させ,なおかつ全身への影響を少なくすることが可. ベクターを用いない方法としてnaked plasmid DNAを. 能である.naked plasmidまたはある種のベクター (媒体). 直接投与する方法がある.導入効率と発現持続期間で. による導入ならば局所に導入された遺伝子の発現期間. はベクターに比べて劣るが,安全性の面では非常に有. は約 2∼3 週間といわれており,恒久的な副作用が出現. 利である.ことに1999年にペンシルバニア大学で発生. する可能性も低く,むしろ遺伝子投与の方が安全であ. したアデノウィルスベクター利用の遺伝子治療での死. ると考えられている.そして組換えタンパクは非常に. 亡事例以来,ベクターを含めて遺伝子治療の安全性に. 高価で大量生産が困難であり経済面で劣る.このよう. つき慎重論が叫ばれており,naked plasmidの存在価値は. に,遺伝子治療の方が安全性,有効性,医療経済の面. 高い.また心血管疾患はその性質上,naked plasmidや非. から優れると考えられてきている.. ウィルスベクターを用いやすく,実際米国における心 血管疾患への遺伝子治療の47%がnaked plasmid (39%) あ. 遺伝子導入法,導入効率. るいはウィルスを用いないDNA-liposome法(8 %)を用. 遺伝子を用いた血管新生療法では,増殖因子をコー. いている (他分野疾患の遺伝子治療ではほぼ全部がウィ. ドした外来遺伝子を細胞内に効率よく導入することが. ルスベクターを使用).. 課題になってくる.現在,遺伝子のベクターとして一. naked plasmidの導入効率は非常に低いものであるが,. 般的なものはウィルスベクターである.ウィルスベク. それでも筋肉注射で導入できれば十分な血管新生効果. ターはウィルスが宿主細胞内にDNAやRNAを運搬する. をあげることができる.筋肉注射にて導入した場合,. 能力を利用して,標的の外来遺伝子をウィルス遺伝子. 筋肉は大きなgene reservoirとして働き,かつ導入された. に挿入し細胞内に導入しようというものである.血管. 細胞から分泌されたタンパクが周囲に効果を及ぼすの. 18.
(3) 2005年 4 月. 81. 森下:血管疾患への遺伝子治療 Table 2 TREAT-HGF/Stage 1, 2. である.Wolffら1)は筋肉注射という簡便な手技. Efficacy ratio. で遺伝子導入が可能であることを示した.そし てVEGFなど,分泌タンパクをコードする遺伝子. VAS >1cm >2cm. Ulcer Maximum size walking distance. 70.0%. 90.0%. 70.0%. 62.5%. (7/10). (9/10). (7/10). (5/8). (2/3). 57.1%. 100.0%. 33.3%. 66.7%. 100.0%. (4/7). (3/3). (1/3). (2/3). (4/4). 64.7%. 92.3%. 61.5%. 63.6%. 85.7%. (11/17). (12/13). (8/13). (7/11). (6/7). ABI. ならば必ずしも導入効率が高くなくとも十分な 2 mg. 効果発現をなし得ることが明らかにされた.局 所に導入された遺伝子の発現は数週間持続し,. 4 mg. 組換えタンパクの連続投与に比し安価かつ効果 的で,実際的である.彼らがこの導入法を確立. Total. した功績はさまざまな意味で大きいといえる.. HGF. 66.7%. Efficacy parameters. HGF(hepatocyte growth factor) は肝細胞の増殖 因子として1980年代に発見されたが,その後 HGFには強力な内皮細胞増殖作用をもつことが. Changes in ABI>0.1 Changes in pain scale (VAS) >1cm or more reduction Changes in ulcer size>25% reduction Maximum walking distance>25% increase 2 mg: n=14, 4 mg: n=8. 明らかになった.そしてHGFはVEGF同様,血 管新生作用があることが動物実験において示さ れた.HGFの内皮細胞増殖作用は内皮細胞に特異的で. 度)および第 2 ステージ(Fontaine IIb∼IV度まで拡大,. あり,b-FGFなどのように平滑筋細胞は増殖させないの. さらに用量を 2 段階に設定) 計22例において安全性およ. で,VEGFと同じく動脈硬化性疾患への治療効果が期待. び有効性を検討した.現在第 1,2 ステージの22例への. できる.さらにHGFは内皮細胞増殖因子であると同時. 投与ならびに 3 カ月のfollow-upが終了したが,遺伝子. に,低酸素状態あるいは高血糖状態で内皮細胞保護効. 治療に直接起因する重篤な有害事象は見られなかっ. 果を示すことが明らかとなった.同様の効果は他の内. た.また遺伝子投与後 4 週間まで血中HGFタンパク濃. 皮細胞増殖因子でもあるVEGFでも見られるが,VEGF. 度を追跡したが,有意な上昇を認めず,HGF遺伝子局. がこのような内皮障害時に発現が上昇するのと対照的. 所投与による全身性の影響は少ないことが示唆され. 2). にHGFは発現が低下している .また虚血心筋では組織. た.大阪大学遺伝子治療臨床研究審査委員会では,投. 内HGFが減少している一方でHGFの特異的受容体であ. 与後 3 カ月の時点で安全性の観点から臨床研究続行を. 3). るc-Metの発現は上昇していた .これらのことは,虚. 中止する理由は見当たらない旨報告している.有効性. 血,高血糖,高血圧など内皮機能障害の病態におい. については対象群を設定しないopen-labeled trialである. て,局所でHGFの要求がある一方,供給されるHGFは. ため,判定不能としている.客観的評価としては,0.1. 不足していることを示唆している.VEGFが追加療法で. 以上のABIの上昇は測定可能な17症例中11例に見られ. あるのに対してHGFは補充療法ということができ,. (65%),全25個の虚血性潰瘍のうち,長径で25%以上. HGFが血管新生療法のツールとしてより有用性が期待. であった(Table 2) . の縮小を認めたものが18個 (72%). できる.実際HGFの血管新生作用は虚血性心疾患に対. 疼痛スケールをVAS(visual analog pain scale:最強を. 4). しても有用であった.ラット冠動脈結紮モデル におい. 10cmとして現在の安静時疼痛をcm数で表現する) で評価. て,またブタ心筋梗塞モデルへのHGF遺伝子導入で血. し,1cm以上の疼痛減少を認めたのは13例中12例 (92%). 管新生を認めた.. であった.Fontaine IIb度の症例ではトレッドミル歩行試. わが国では,このHGF遺伝子を用いた血管新生療法. 験を施行し,最大歩行距離が25%以上増加した例は 7 例. が開始されている.我々は大阪大学において2001年 6 月. 中 6 例(86%)であった.これらはプラセボ効果を含む. からHGF遺伝子を用いたASOあるいはバージャー病に. ものであり,直ちに有効性の評価には結びつかない.. 対する遺伝子治療臨床研究を実施している.HGF遺伝. 大阪大学遺伝子治療臨床研究審査委員会では,プラセ. 子治療はnaked plasmid 2mg × 2 回または4mg × 2 回の筋. ボ効果を加味し,有効性ではなく改善度として評価し. 注にて遺伝子を導入し,第 1 ステージ(Fontaine III∼IV. ている.改善度の指標として,血行動態学的改善 (0.1以. 19.
(4) 82. 日血外会誌 14巻 2 号. 上のABIの上昇)と臨床的改善(IIbでは最大歩行距離の. までの臨床応用における有効性の報告は自覚症状の改. 25%以上の延長,IIIでは安静時疼痛の 2cm以上の改善,. 善が主体であり,血流改善や心機能改善の明らかな効. IVでは虚血性潰瘍長径の25%以上の縮小) の両方が改善. 果証明に不足している.現代の虚血性心疾患の治療戦. している群を「改善」,一方だけの場合「保留」,ともに. 略においては症状コントロール以外にも,心不全の進. 不変の場合 「不変」 とし,8 例で改善,10例は保留,4 例. 行予防や不整脈死の予防の方がむしろ重要課題と考え. で不変としている.造影での検討では一般に血管造影. られている.血管新生療法による局所的血流改善のみ. では径100∼150애m以上の血管しか描出されないため,. によってこれらがどの程度解決されるかは現在のとこ. 微小血管新生の検出は困難であった.既存血管の再疎. ろ不明であり,今後の臨床応用での大規模かつ長期的. 通像や治療前には認めなかった末梢血管の描出などが. な検討が必要である.そういった意味では遺伝子治療. 確認された症例もあるが,血管新生については断定不. による血管新生療法はまだまだ始まったばかりであ. 可能である.本研究ではコントロール群を設置してい. り,従来の内科的あるいは外科的治療と組み合わせて. ないため厳密な有効性の判定は困難であるが,このス. 用いる新しい治療戦略を確立するなど,治療法として. テージの後,無作為二重盲検試験を多施設で実施予定. の熟成が必要である.. であり,その結果が待たれる.. おわりに. 文 献 1) Wolff, J. A., Malone, R, W., Williams, P., et al.: Direct. 虚血性心疾患に対するVEGF,FGFを用いた遺伝子治. gene transfer into mouse muscle in vivo. Science, 247:. 療はすでに治験の結果が次々と発表されてきており,. 1465-1468, 1990.. 薬剤として市場に登場することが期待される.わが国. 2) Morishita, R., Nakamura, S., Nakamura, Y., et al.: Potential. で発見,開発されたHGFの効果にも今後期待できる.. role of an endothelium-specific growth factor, hepatocyte. 遺伝子治療はもはや特殊な疾患に限られた特殊な治療. growth factor, on endothelial damage in diabetes. Diabe-. 法ではなく,遺伝子もまた薬剤のひとつとして認識さ. tes, 46: 138-142, 1997. 3) Ueda, H., Sawa, Y., Matsumoto, K., et al.: Gene transfec-. れる時代に入ったといえる.. tion of hepatocyte growth factor attenuates reperfusion in-. 虚血性疾患を含めて遺伝子治療全般が抱える問題点. jury in the heart. Ann. Thorac. Surg., 67: 1726-1731, 1999.. として,安全性と効率性がある.今後さらに効果的な. 4) Aoki, M., Morishita, R., Taniyama, Y., et al.: Angiogen-. 遺伝子治療に向けて,ベクターおよびdeviceを含めて安. esis induced by hepatocyte growth factor in non-infarcted. 全性と効率性の高いdrug delivery systemの開発が必要で. myocardium and infracted myocardium: up-regultion of. ある.また,血管新生療法の治療としての限界も未だ. essential transcription factor for angiogenesis, ets. Gene. 不明で今後解明されるべき問題点である.実際,これ. Therapy, 7: 417-427, 2000.. Gene Therapy for Vascular Disease Ryuichi Morishita Division of Clinical Gene Therapy Science, Osaka University Medical School Key words: Therapeutic angiogenesis, Gene therapy, Vector. Therapeutic angiogenesis using angiogenic growth factors is expected to be a new treatment for patients with critical limb ischemia (CLI). As hepatocyte growth factor (HGF) has potent angiogenic activity, we investigated the safety and efficiency of HGF plasmid DNA in patients with CLI as a prospective, open-labeled clinical trial. Intramuscular injection of naked HGF plasmid DNA was performed into ischemic limbs of CLI patients graded as Fontaine IIb, III or IV. We investigated the safety and efficacy of HGF gene transfer in a phase I / early phase IIa study. (Jpn. J. Vasc. Surg., 14: 79-82, 2005) 20.
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