原
著
〔東女医大誌 第61巻 第12号頁1068∼1076平成3年12月〕心血管手術麻酔におけるジアゼパムの効果
一血中ジアゼパム濃度,血行動態,血漿
カテコラミソ濃度との関係一
東京女子医科大学麻酔科学教室(主任:藤田昌雄i教授)
ソ ネ ヨリ コ 曽 根 依 子(受付平成3年8月20日)
PlaSma Diazepam and Catecholamine Levels during Cardiovasucular Anesthesia
Yoriko SONE
Department of Anesthesiology(Director:Prof. Masao FUJITA) Tokyo Women’s Medical College
The benzodiazepines have an important p蓋ace in anesthetic practice as sedatives, hypnotics and occasionally as induction agents. Diazepam has been used sat童sfactorily for induction of anesthesia in patients with ischemic heart diseas.e, but圭t has a prolonged action especially after larger doses or repeated adminis.trations. The a藍m of the present study was to evaluate the usefulness of d童azepam in combination with fentanyl and oxygen/air ventilation as a sole intravenous anesthetic techniqu6 for
cardiovascular surgery. Plasma diazepam concentration andりlasma catecholamine levels were
measured during anesthesia. Simultaneously, hemodynamic parameters were collected.
Maximum plasma diazepam concentration(587.1±230.2 ng/m1)was reached at 5 minutes after i.v. administration of O.12±0.04 mg/kg of diazepam followed by gradual decline of the plasma leveL This dose of diazepam produced decrease in plasma catecholamine levels and inhibition of sympathetic
nerve activity. Five minutes after the diazepam administration, mean arterial pressure was slightly decreased due to decrease in cardiac index, and plasma diazepam level was suffic童ent to induce hypnosis for induction of anesthesia. Additional administration of diazepam after extracorporeal circulation(ECC)effectively lowered plasma epinephrine level which had been significantly elevated immediately after ECC.
The author suggests重hat administration of O.12±0.04 mg/kg of diazepam is sufficient to induce hypnosis for量nd.uction of anesthesia, to produce stable hemodynamics and lower plasma catechola− mine levels. Addit孟onal diazepam after ECC is also effective to lower plasma catecholamine leVels.
緒 言
ベンゾジアゼピン誘導体であるジアゼパム(Di−
azepam:DZ)は,鎮静,催眠,抗不安作用,抗痙
攣作用,筋弛緩作用を有し,麻酔科領域において
は術前前投薬や麻酔導入薬として広く臨床使用さ
れている1)2).麻酔導入時に少量のDZ投与を行う
と抗不安作用や中枢性交感神経系の抑制による血
行動態の安定を得るととができる3)4)ため,特に,
心血管手術においてはDZ一フ.エンタニール麻酔
が広く用いられている.し.かし,DZ投与量と中枢
性交感神経抑制効果との相関関係は乏しく,その
効果も個体差が大きい.麻酔導入時におけるDZ
投与量と血漿カテコラミソ(catecholamine:CA)
濃度および血行動態について..の報告は散見され
る5)∼15)が,DZ血中濃:度が血漿CA濃度や血行動
態に及ぼす影響を検討した報告はない.また,体
外循環(extracorporeal circulation:ECC)後の
DZの血中濃度については検討されていない.本
研究では,心血管手術症例に対し麻酔導入に使用
されたDZの挿管前の血中濃度およびその後の経
時的な変化を検討する目的で研究1を行った.次
に,研究2において気管内挿管,外科的侵襲,お
よびECC等の侵害刺激時のDZの効果を検討し
た.さらにECC離脱後の塩中DZ濃度および血漿
CA濃度,血行動態の変化よりDZ追加投与の必
要性について検討した.
DZ血中濃度ならびに活性代謝産物であるデス
メチルジアゼパム(DMDZ)16)17)の血中濃:度は,高速液体クロマトグラフィー(high performance
liquid chromatograpy:HPLC)法により測定し,
血漿CA濃度(HPLC法),および血行動態に及ぼ
す影響を検討した.
対象と方法
1.研究 1
対象は冠動脈再建術症例6例と弁置換術症例6
例の計12例であり,年齢,体重ならびに術前心カ
テーテル検査結果および常用薬は表1に示した.
麻酔前投薬は前日就眠前トリアゾラム経口投
与,手術室入室2時間前に常用薬(亜硝酸薬,カ
ルシウム拮抗薬等)の投与とベント’バルビタール
50mg経口投与し,手術室入室30分前にスコポラ
ミン0.3∼0.5mg,塩酸ペチジン35∼50mgの筋注
を行った.手術室入室後,心電計(四肢,V5誘導),
非観血的血圧計,酸素飽和度計を装着し,末梢静
脈路を確保した後,擁骨動脈に観血的動脈圧測定
用カニューレ,右内頚静脈よりSwan−Ganzカ
テーテル⑧を挿入留置した.麻酔導入は,DZ
(5∼10mg),フェンタニール(20μg/kg),パンク
・ニウム0.1mg/kgを静脈内投与し,気管内挿管
を行った.その後,フェンタニールは胸骨切開ま
でに30μg/kg,総量40μg/kgまで追加投与し,吸
入麻酔薬(イソフルレン1MAC以下)にて維持し
た.呼吸管理は,呼気終末炭酸ガス濃度と動脈血
酸素飽和度を指標に適正換気を行った.手術中は,
必要に応じてノルエピネフリン,ドーパミンの投
与を行った.麻酔導入前,DZ投与後5分(気管内挿管前),
15,30,45,60分の6時点で,血中DZ濃度,血行
動態並びに血漿CA〔ノルエピネフリン(NE),エ
ピネフリン(E),ドーパミン(DA)〕濃度の測定
を行った.心拍数(HR),平均動脈圧(mAP),平均肺動
脈圧(mPAP),肺動脈懊入圧(PCWP),中心静
脈圧(CVP),心拍出量(熱希釈法)(CO)を測定
し,心拍出係数(CI),全末梢血管抵抗(TPR)を
算出した.血漿CA濃度と血中DZ濃度の測定は,動脈血
を抗凝固剤(アンダロクロット)加試験管に5m1採
血し直ちに4℃,3,000回転15分間遠心分離し血漿
を得た.その後,一70℃にて凍結保存し,測定時に
前処理(表2)後,HPLC法にて測定した.ただ
し,血漿CA濃:度は電気化学切出法にて行った.
検出装置はL5000, VMD−501(Yanako社),測
定条件は分析カラム;Chemco 5−ODS−H,移動層
表1 患者背景(研究1) 年齢(歳) 体重(kg) 男性:女性 @(名)LVEDP(mmHg)
@ (n=11) LVEF(%) @(n=9) 心係数(1/min・m2) @ (n=8) 58.5±12.2 58.8±12.9 7:5 12.4±7,1 56.0±8.3 2.76±0.65平均値±標準偏差
服用薬剤:強心剤7例,カルシウム拮抗剤8例,亜硝酸剤9例,βプロッカー3例,ジアゼパ ム1例. 施行手術:冠動脈再建術6例,弁置換術6例(僧帽弁置換術3例,大動脈弁置換術1例,僧 帽弁および大動脈弁置換術2例).LVEDP:Left ventricular end diastolic pressure, LVEF:Left ventricular ejection frac額on.
表2 前処理法
1)血漿カテコラミシ .血漿 活性アルミナ トリス緩衝液(pH8.6) DHBA(内部標準物質)↓
1.Om120mg
2.Oml 2ng セパコールミニカラムに入れ20分間混和↓
アスピレーターで吸引脱水↓
*蒸留水1mlを加え15秒混和↓
綿アスピレーターで吸引脱水↓
*,綿を3回繰り返す↓
2,000回転 2分間 遠心分離(脱水)↓
0.1N HCI 100μ1添加し2分間混和↓
4℃ 10分間放置後2分間混和↓
2,000回転 2分間 遠心分離(抽出)↓
HPLC 40μ1注入
2)血中ジアゼパム 血漿300μ1,CH3CN 300μ1 1分間混和↓
12,000回転 10分間 遠心分離↓
HPLC 10μ1注入
の流量;1ml/min,圧;120∼140kg/m2,設定荷電
圧;+700mV,移動.層の.成分は86v/v%0.1M
KH2PO4,14v/v%MeOH,1−octanesulfate Na
(半井),10mg/1EDTA−2Naである.また,血中
DZ濃度は紫外線法にて行った.検出装置は
Shimazu LC−9A,.YANACO Spectromonitor M一
515,測定条件は分析カラム;Ultron N・C、8L,移
動層の流量;0.8m1/min,検出波長;UV−250nm,
移動層の成分は57v/v%10mM KH2PO4,43v/
v%CH3CNである.
研究1で得られた血中DZ濃度より, one−
component Inodelにて分布容積係数,排泄速度定
数,血中半減期を算出した..
結果は平均値±標準偏差(mean±S.D.)にて示
し,統計学的処理はpaired t testにて5%の危険
率(p<0.05)をもって有意差ありとした.
2.研究 2
対象は,冠動脈再建術が施行された虚血性心疾
患症例男性10例,女性2例の計12例である.年齢,
体重ならびに術前カテーテル検査結果は表3に示
した.左心室拡張終期圧(LVEDP)20mmHg以
上の4例には,手術室入室前より大動脈内バルー
ンパンピング(IABP)が挿入されていた.
方法は,研究1と同様であるが,研究2では麻
酔深度の維持および術中覚醒予防の目的でECC
離脱後DZを5mg追加投与した.
血中DZ濃度および血漿:CA濃度,血行動態の
測定は,麻酔導入前,DZ投与後5分,気管内挿管
時,皮膚切開時,胸骨切開時,ならびにECC離脱
時,DZ追加投与後5,15,30,45分前10時点であ
る.結 果
1.研究 1
1)血中DZ濃度の推移
麻酔導入までの,DZ投与量は0.12±0.03mg/
kg,フェンタニールは18.5±3.4μg/kgであり,そ
れぞれの総投与量は0.13±0.03mg/kg,39.5±
8.0μg/kgであった.血中DZ濃:度(図1)は, DZ
表3 患者背景(研究2) 年齢(歳) 体重(kg) 男性:女性 @(名)LVEDP(mmHg)
LVEF(%) 心係数(1/min・ln2) @ (n=5) 63.2±10.9 61.!±9.8 10二2 13.2±7,2 52.9±16.1 2.54±0,35 平均値±標準偏差 IABP:Intra aortic balloon pumping(十)4例,(一)8例,服用薬剤:カルシウム拮抗剤11例,亜硝酸剤12例,βプロッカー8例. LVEDP:Left ventricular end diastolic pressure,
投与後5分で最高値,513.0±264.8ng/mlを示し
たが,その後経時的に減少し60分で151,3±88.6
ng/mlであった.
DZ分布容積係数は0.32±0.201/kg,排泄速度
定数は2.6±1.8,血中半減期は2.6±1.3hrであっ
た.全例,麻酔導入前には血中DMDZ,およびDZ
は検出しなかったが,DZ投与後2例でDMDZを
ng’m1 800 5000
dlqzepαm ↓ 5 15 30 45 60 min くmgon:SD) 図1 血中ジアゼパム濃:度(研究1)検出した.1例は弁置換術症例でDZ投与後45分
に血中DMDZ濃度が14.Ong/ml,もう1例は冠動
脈再建術症例で15分に33.4ng/mlであった.
2)血行動態の推移
血行動態の変化は表4に示した.HRは, DZ投
与後5分で減少傾向を示したが,麻酔導入前と比
較し全ての測定時点で有意差を認めなかった.
mAPは, DZ投与後5分で低下し15分より増加傾
向を示したが,有意な変化ではなかった.mPAP
は,DZ投与後15分(p<0.01)で有意な低下を認
めた.CIは低下し, DZ投与後30分(p<0.05)で
有意差を認めた.TPRは, DZ投与後30分(p<
0.05)と45分(p<0.05)で有意な上昇を認めた.
3)血漿CA濃度の推移
血漿NE濃:度(表5)は, DZ投与後5分(p<
0.05),15分(p<0.01),30分(p<0.001)で有意
に減少した.一方,血漿E濃度(表5)と血漿DA
濃度(表5)には,有意な変化を認めなかった.
血漿CA濃度(NE, E, DA)と血中DZ濃度には
有意な相関関係は認めなかった(図2).
表4 血行動態(研究1) 心 拍 数
ibeats/min) 平均動脈圧immHg) 平均肺動脈圧@(mmHg) i〃min・m2)心 係 数 idynes・sec・cm−5)全末梢血管抵抗
麻酔導入前 73.3±15.2 86,5±18.1 29,1±12.5 2.79±0,83 1,630±771
DZ投与後5分
71,8±17.0 79.8±17.7 26.9±13.6 2.41土0.47 L730±777 15分 71.7±16.1 80.9±16.7 22.7±8.4‡ 2.24±0.27 1,795±668 30分 70.0±18,9 ・83.1±15,2 30.8±21.3 2.12±0.18† 1,879±614† 45分 82.3±19.0 85.8±10。0 28.0±17.6 2.39±0.78 1,751±522† 60分 82.8±20.5 90,0±20.2 28,2±16.1 2.12±:0.20 2,054±673 †:p<0.05,‡:p<0.01vs麻酔導入前. 平均値±標準偏差 表5 血中ジアゼパム濃度と血漿カテコラミン濃度(研究1) ジアゼパム ing/ml) ノルエピネフリン @ (P9/ml) エピネフリン@(P9/ml) ドーパミンiP9/mD 麻酔導入前 0 437±262 77±125 68±196DZ投与後5分
513±265 315±282串 10±20 53±175 15分 293±186 318±310** 85±179 122±350 30分 203±121 306±322*** 67±126 0 45分 163±94 ・389±351 101±220 16±29 60分 151±89 552±446 106±146 17±39 *:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001vs麻酔導入前. 平均値±標準偏差P9/mI 1,000
田
山500
Z
◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆ ◆ ◆ 3 ◆ し ・織◆◆ ◆◆ δ●’ ハ.一,・.し一・ 0 500 でρ00ng/ml
DZ
図2 血中ジアゼパム濃度と血漿カテコラミン(ノル エピネフリン,エピネフリン)濃度の相関関係(研 究1) ◆実線:NEy=一〇。317x十336(r=0.36,n=33), ●破線:Ey=一〇.047x十50(r=0.20,n=33)。 」2.研究 2
1)血中DZ濃度の推移.
麻酔導入までの,DZ投与量は0.12±0.04mg/
kg,フェソタ「ニールは17.4±4.6μg/kgであり,そ
れぞれの総投与量は0.22±0.04mg/kg,36.6±
8.9μg/kgであった.血中DZ濃:度(図3)は, DZ投与後5分で最高
値,587.1±230.2ng/mlを示し,その後経時的に
減少しECC離脱時は65.8±23.9ng/mlであった
が,DZ追加投与後5分では300.8±84.5ng/mlと
ng’m1 1000 500 0. ぬとど ロ 1 ::=:::::=:diozepqm…………糞………卜鋤
5 互 5I S丁 ECC O 5 15 3045 mh. 図3 血中ジアゼパム濃:度(研究2) 1:after intubation, SI:skin incision, ST:ster・ notomy. 増加した.麻酔導入前に血中DMDZが3例に検出され
た.3例の麻酔導入前血中DZ濃度は54.8,179.9,
Ong/mlであり,それぞれの血中DMDZ濃度は
73.0,29.4,87.Ong/mlであった.他の9例は,
どの計測時点においても血中DMDZは検出され
なかった.2)血行動態の推移
血行動態の変化は,表6に示した.HRは, DZ
投与後5分値では変化なく気管内挿管制に上昇し
たが,麻酔導入前と比較し有意差は認めなかった.
ECC離脱時は麻酔導入前と比較し有意(p<
表6 血行動態(研究2) 心 拍 数ibeats/min) 平均動脈圧immHg) 平均肺動脈圧@(mmHg) i1/min・m2)心 係 数 idynes・sec・cm−5)全末梢血管抵抗
麻酔導入前 74.3±20.1 95.6±15.7 14.7±3.7 3.32土1.25 1,403±450
DZ投与後5分
74.7±18.1 81.2±11.9† 15.3土2.3 2.66±0.71 1,507±490 気管内挿管後 81.8±15,9 91,1±11.8 16.1±4.8 2.79±0.71 1,623±491 皮膚切開後 68.3±11.2 90,1±12,9 13.2±3,1 2.41±0.55† 1β51±469纏 胸骨切開後 76,3±11.9 95.9±14.1 14,1±3,6 2.56±0.75 1β59±479*ECC離脱後
101.0±11。2纏 70.9±10.0傘零 16.8±3.9 3.07±0.57 1,065±281‡DZ追加投与後5分
100.3±12.9料 78,8±7.7* 19.3±3.4‡ 3.65±1,01 1,043±364‡ 15分 92.1±11,2‡ 83.9±9,9 21.1±3.3零* 3・85±0・.94 1,043±387‡ 30分 90.8±14.0 88.8±10.0† 19.8±5,0† 3.06±0.78 1,358±414 45分 85.1±5.2† 81.9±11.5† 19.0±2.2† 3.23±1.01 1,279±514 †:p<0.05,‡:p<0.01,*:p<0.005,**:p〈0.001vs麻酔導入前. 平均値±標準偏差表7 血中ジアゼパム濃度と血漿カテコラミン濃度(研究2) ジアゼパム ing/ml) ノルエピネフリン@ (P9/ml) エピネフリン@(P9/ml) ドーパミン iP9/ml) 麻酔導入前 23±53 270±148 333±325 0
DZ投与後5分
587±230 231±131 107±150*串 31±88 気管内挿管後 479±188 243±147 163土220* 6±23 皮膚切開後 300±134 163±134 197±383 7±16 胸骨切開後 256±110 288±203 88±110* 12±28ECC離脱後
66±24 2,632±719榊 968±940* 2,500くDZ追加投与後5分
300±85 2,354±1,031**索 872±869 2,500〈 15分 259±57 2,433±957*称 497±538 2,500< 30分 194±53 L992±1,252* 446±520 2,500く 45分 191±101 2,105±1,309** 501±511 2,500〈 *:pく0.05,**:p<0.01,***:p〈0.001vs麻酔導入前. 平均値±標準偏差0.001)に上昇し,DZ追加投与後減少し,追加投
与後30分で有意差を認めなくなった.mAPは,麻
酔導入前と比較してDZ投与後5分(p<0.01)で
有意な低下を示したが,気管内挿管時は上昇した.
ECC離脱時は麻酔導入前と比較し有意(p<
0.001)に低下したが,DZ追加投与後5分値(p〈
0.01)で上昇した.mPAPは,胸骨切開時までは
有意な変化を示さず,ECC離脱後上昇し,麻酔導
入前と比較しDZ追加投与後5分(p〈0.01),15分
(p〈0.001),30分(p<0.05),45分(p<0.05)で有意な上昇を認めた.CIは,皮膚切開時(p<0.05)
に有意な低下を認めたが,ECC離脱後上昇傾向を
示した.TPRは,麻酔導入前と比較し皮膚切開時
(p<0.001),胸骨切開時(p<0.01)に有意な上昇
を認めた.ECC離脱時よりDZ追加投与後15分ま
では麻酔導入前と比較し有意な三値(p<0.Ol)を
示したが,追加投与後30分以降は有意な変化は認
めなかった.3)血漿CA濃度の推移
血漿NE濃度(表7)は,胸骨切開時までは減
少傾向を示したが,ECC離脱時は麻酔導入前と比
較し有意に増加した(p〈0.05).血漿E濃度(表
7)はDZ投与後5分(p<0.01),気管内挿十時
(p<0.05),胸骨切開時(p<0.05)有意に減少し
た.ECC離脱時は麻酔導入前と比較し上昇傾向を
示し,DZ追加投与後30分で有意差(p<0.05)を
P9/m1 1ρ00囮
ハ四500
Z
◆ ■◆
◆ ◆ ‘ ◆ ● ◆ ● ● ● ◆◆ ◆ ◆ ◆。◆o ◆ 傷.一一,,一 津’
一÷ぞ姦詣◆8
0 5 1,ng/ml
DZ
図4 血中ジアゼパム濃度と血漿カテコラミン(ノル エピネフリン,エピネフリン)濃度の相関関係(研究2,ECC前)
◆実線:NEy=一〇.176x十302(r=0.24,n=48), ●破線:Ey=0.147x十79(r=0.13,n=48).認めた.血漿DA濃度は,有意な変化を認めな
かった,血漿CA濃度(NE, E, DA)と血中DZ
濃度には有意な相関関係は認められなかった(図
4).考 察
手術侵襲に対するストレスフリーという概念の
もとにDZやフェンタニール麻酔時の生体内分泌
応答反応について既に多くの研究がなされてお
り,特に交感神経系の反応の指標として血漿CA
濃度が注目されている5)∼15).DZ投与により血漿
CAの低下がみられる.この機序は,中枢性には交
感神経系の緊張や血管運動神経の緊張を調節して
いる延髄腹側のGABA(γ一aminobutylic acid)性
抑制神経によるものとされている.健常者におい
ては末梢血中NEの神経終末からの放出を抑制
することにより血漿NE濃度を低下させると言
われている3).大量フェンタニール麻酔は,強い鎮
痛作用を有し心疾患患者に対して安定した麻酔が
得られ,麻酔導入時や外科的侵襲,人工心肺など
の刺激に対する交感神経の緊張の上昇を抑制する
とされているため臨床上多用されている.しかし,
外科的侵襲時において血漿CAの上昇,血圧の上
昇をみるとの報告もある9).また,フェンタニール
のみでは充分な就眠効果が得られているとは言い
がたく,術中覚醒の問題も存在する18).このため,
DZが前投薬や麻酔導入薬として併用されてい
る.しかし,併用されたDZの血中濃度に関する報
告は少なく,特にECC離脱後に関するものはな
い.冠動脈再建術症例の麻酔導入時の血漿E,NE
濃度が測定されその報告がある。Hicksら10)によ
るとフェンタニール単独使用時15μg/kgでは血
漿NE濃度は上昇し,30μg/kgでは変化ないが左
室機能の低下がみられ,50μg/kg以上で血漿NE
濃度が低下したと報告している.Tomichekら11>
は,DZを0.125∼0.5mg/kg投与後にフェンタ
ニール50μg/kg投与して,フェソタ一一ル単独投
与量に比し血漿E,NE濃度とも有意に低下した
としている.さらにまた,DZ,フェンタニール各々
単独では,血行動態に及ぼす影響はわずかである
が,併用により心抑制をまねく可能性があり,過
量投与には注意すべきであると報告している19).
本研究においては麻酔導入時使用されたジアゼパ
ムは0.12±0.04mg/kgと諸報告7)∼9)11)12)より比較的少量であった.また,フェンタニールは導入時
20μg/kg,総量50μg/kg以下であった.麻酔導入
時,DZ投与5分後において,血漿NE, E濃度は
低下し,交感神経の緊張の上昇を抑制していると
思われる.その抑制効果はDZ投与60分まで継続
し,外科的侵襲をうけた時点においても認められ
た.ECC離脱時より外因性NE, DAが投与されて
いるためその両者の血漿濃度は高く2,000pg/ml
以上を示し,DZ投与による両者の変化はみられ
なかった.血漿E濃度は,麻酔導入前に比較して
高いがDZ追加投与後徐々に減少傾向を示し,追
加投与が有用であったと思われる.
DZの就眠有効血中濃度の報告は少ない.今回
の結果では,DZ投与後5分値で587.1±230.2ng/
mlであった.西山ら20)によると麻酔導入では500
ng/ml以上で呼名反応が消失したと報告してい
る.一方,Lunnら5)によると前投薬としてDZ 10
mgの経口投与後フェンタニール20μg/kgの静脈
投与で意識消失が得られたとされている.また,、
研究1より得られた分布容積係数は,他の報告16)
より低値であった.これは,心疾患による循環動
態の変化が影響したものと考えられた.これらの
結果より本研究でのDZ初回投与量はその血中濃
度から充分量であると考えられる.麻酔導入から
ECCの終了までの平均時間(±SD)は330.3(±
63.1)分であった.ECC離脱直後の血中DZ濃度
は65.8±23.9ng/mlであり麻酔導入後5分値に
比して12.8%と低い.今回の血中DZ濃度は総
DZ量を測定しており,無輸血体外循環症例(12例
中11例)では総蛋白量(5.1±0.4g/dl)が低くDZ
の遊離型比率は増加していると思われる玉6)。また,
DZの代謝産物であるDMDZは薬理学的活性を
有し,投与量が増加すると作用延長の可能性が示
唆されている.DMDZの活性は, DZの約1。5倍で
ありその半減期は約2倍である1)17).その血中への
出現は,血中DZ濃度の減少と相反する.今回その
代謝産物の一つであるDMDZの検出は,麻酔導
入前に血中DZが検出された症例を含め24例中5
例でありその濃度は100ng/ml以下であった.
ECC後の血中DZ, DMDZ濃度に関する報告はな
いが,その濃度から代謝産物の効果を考慮しても
追加投与の必要性があると思われる.
冠動脈再建術終了直後より,高血圧を経験する
ことがある.その原因が,中枢性の交感神経の緊
張の上昇,血漿CA虚血の上昇などによると考え
られている21).この観点からもDZの投与がこれ
らを抑制するに適すると思われる.本研究におい
てもECC離脱後,血漿E値は高値を示し交感神
経が緊張した状態であった.DZ(5mg)の投与に
より血漿E値は低下した.TPRはECC前より低
値であったが30分後には上昇しその抑制効果は充
分であったとはいえない.しかし,ECC離脱後は,
必ずしも心機能が充分回復しているとは言いがた
く,また,血輸血症例においては,安易に投与量
を増加すべきではない.
DZの心1血管系に及ぼす影響は少ないが,末梢
血管抵抗の低下,冠血管抵抗の減少,冠血流の増
加または不変,心筋酸素消費量の減少などをもた
らす22)}25).左室拡張終期圧(LVEDP)の高い患者
ではDZ投与によりLVEDPを低下させ心機能
の改善が得られる26).このような効果は心不全や
冠虚血患者には有利な作用であると考えられる.
LVEDPが20mmHg以上の左室機能低下症例に
対して,他の症例と使用DZ,フェソタニール量お
よび血行動態的には有意差を認めずに安全に麻酔
導入ができた.しかし,術前よりIABPが施行さ
れていたため,DZによる心機能に対する評価は
できなかった.HRへの影響は, mAP低下に対し
代償性に増加すると言われている22).本研究では,
DZ投与後5分値で, CIの減少, TPRの増加傾向
を示し,mAPの有意な低下をみたが,有意なHR
の:噌加は認められなかった.これは,フェン断口ー
ルの影響に加え,陰性変時作用を有する薬剤の服
用によるものと考えられる.虚血性心疾患症例に
おけるβプロッカーは術前72時間前に中止され
ている.しかし,陰性熱時作用,陰性富力作用を
有するカルシウム拮抗剤は手術直前まで投与され
ていた.気管内挿小時にmAPが上昇.しその後有
意な血行動態の変化は認められず,ECC前には昇
圧剤や外因性CA投与の必要はなく経過した.
ECC離脱後血行動態に問題を起こすことなく追
加投与が可能であった.
結 語
麻酔導入時の就眠量における血中DZ濃度は
587.1±230.2ng/mlであった.血漿CA濃度は減
少し,交感神経の緊張の上昇は抑制された.その
抑制効果は,DZ投与60分まで継続し,気管内挿管
時,外科的侵襲時においても有効であった.DZ投
与5分後で,CIの低下によりmAPが麻酔導入前
値に比し有意に低下した.
ECC離脱直後の血中DZ濃度は65.8±23.9ng/
mlであり,血漿E濃度は麻酔導入前値に比較し
有意に上昇していた.DZの追加投与により1血漿
E濃度,TPRの有意な上昇を抑制した.
稿を終えるにあたり,多大なる御指導,御校閲を賜
りました藤;田昌雄教授,白井自明助教授に深謝いたします.また,本研究において御協力いただいた東京女
子医科大学麻酔学教室員ならびに研究補助員の皆様
に感謝いたします.本研究における血中ジアゼパム濃度測定に必要な
デスメチルジアゼパムは武田薬品工業株式会社より
分与されたものを使用した.文 献
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