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省エネルギーと安全に貢献する電動車両制御・システム

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Academic year: 2021

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33 featur e ar ticles Vol.95 No.11 742–743  環境・安全・情報でグローバル社会に貢献するオートモティブシステム技術

省エネルギーと安全に貢献する

電動車両制御・システム

Dynamic Motor Control System for Enhancing Energy Effi ciency and Safety of Electric Vehicles

環境・安全・情報でグローバル社会に貢献するオートモテ

ブシステム技術

feature articles

宮崎

英樹  山本

立行

Miyazaki Hideki Yamamoto Tatsuyuki

小林

  横山

Kobayashi Hitoshi Yokoyama Atsushi

日立グループは,電動車両のモータ応用技術として,省エネルギー と安全に貢献する制御技術・システムの研究開発を行っている。モー タの優れたトルク応答性を活用して,路面が低摩擦な状況でも素早 いトルク変化で滑らずに走行を継続するモータ利用のトラクション制 御とアンチロックブレーキをEV試作車で実証評価した。また,実際 の走行状態に近い条件でモータや他のコンポーネントの熱とエネル ギー消費を解析する手法とともに,電動制駆動制御の将来技術とし てG-Vectoring制御と電動ヨーモーメント制御を提案している。 1. はじめに

HEV

Hybrid Electric Vehicle

:ハイブリッド自動車)や

EV

Electric Vehicle

:電気自動車)などの電動車両が持つ 特徴は,環境に配慮した省エネルギー性のほかに,優れた 加減速性能による走行性能の進化や,電気エネルギーを蓄 えた社会インフラとしてのポテンシャルがある1)。将来的 なモビリティの在り方は多様であり,世界中で新しい試み が実験,実証されている。日立グループは,ユーザー視点 で自動車の将来像を構想し,それを支える部品・システム 技術を研究している。 ここでは,電動車両の省エネルギー性と緊急時の運動性 能向上を両立させる制御システムを将来の課題と捉え,試 作車の評価とシミュレーションで検討した結果について述 べる。 2. 次世代電動車両のコンセプト 事故の予防には,ステレオカメラなど,視認性を高めて, 判断ミスを補償する技術が有効である。一方,事故直前の 回避には緊急時の運動性能向上が挙げられる。電動車両の 駆動モータは,指令に対するトルク応答性が約

1 ms

と速 いことから,路面摩擦や車輪のスリップを考慮して車両を 瞬時に制御することに適している。一方,自動車の「曲が る」,「止まる」を扱うステアリングやブレーキも電動化が 進み,電動パワーステアリングはすでに広く普及してい る。駆動モータが緊急時に運動性能を向上させる機能を果 たそうとすると,ステアリングやブレーキと協調した制御 が必要である。一例として,減速・制動時にモータとブレー キが協調する回生制動や,ステアリングで自動車に横加速 度が生じた場合に,これをモータやブレーキで補償する

G-Vectoring

制御を提案した2),3)。将来的にはモータとブ

レ ー キ の 協 調 で モ ー タ

TCS

Traction Control System

,

ABS

Antilock Brake System

)を実現することが期待される (図1参照)。 駆動モータにとって「止まる」ことは,車両の運動エネ 駆動モータ G-Vectoring 回生協調ブレーキ モータABS, TCS 電動パワー ステアリング ブレーキ制御 図1│電動車両制御 モータは「走る」機能だけでなく,「曲がる」,「止まる」の機能もステアリング, ブレーキと協調して制御する。

(2)

34 2013.11   ルギーでモータを発電させ,電気エネルギーを作りだすエ ネルギー回生が主な機能である。そこで,運動性能向上と ともに,回生による省エネルギー性をどこまで両立できる かが課題であり,

EV

試作車により評価することにした。 日立グループが構想する電動車両制御のロードマップを 図2に示す。環境技術としてのモータと電動制御が安全対 応技術と融合し,さらには情報技術とも融合して,将来的 には自動運転に向かう姿を想定している。 3.EV試作車による実証評価 日立グループで開発したモータ,インバータ,リチウム イオン電池を,市販の車両に搭載して

EV

試作車を作り, 電動制御の評価を行った(図3参照)。搭載したコンポー ネントと

EV

試作車の主な仕様を表1に示す。 電動車両制御として評価した機能は,駆動モータを用い て,路面が低摩擦な状況に素早いトルク変化で滑らずに走 行が継続できるモータ

TCS

ABS

である。従来,

TCS

ABS

は専用のコンポーネントを備えて,ブレーキ制御とエ ンジン制御として実施している。今回は路面摩擦が小さい 状況において,車輪が空転傾向になって速度が変化するこ とを検知し,駆動モータのトルクを制御してスリップを抑 制する制御を検討した(図4参照)。 氷結路において,

EV

試作車を発進させた際のモータ

TCS

の効果を図5に示す。駆動輪でトルクを小刻みに変化 させており,スリップせずに発進できている。 0 0 −100 0 100 20 40 0 50 100 1 2 3 4 5 6 7 0 1 2 3 4 時間(秒) 従動輪(リア) 駆動輪(フロント) アクセルベダル位置 モー タ ト ル ク( Nm ) 車輪速度 ( km/h ) 5 6 7 アク セ ル ペ ダ ル 位 置( % ) 図5│モータTCSの実証結果 氷結路の発進では,フロントの駆動輪でトルクを小刻みに変化させ,スリッ プを防ぎながらの発進が可能である。 車輪速度 ABS 車輪速 センサー 信号 最終トルク指令 モータ回転速度 算出 T N 要求トルク モータ ABS, TCS モータ トルク 制御 インバータ モータ ギ ヤ ・ デフ 図4│モータTCS,ABSの制御方法 ABS,TCSが機能する環境では,車輪が空転し,速度が変化することを検知し, モータのトルク制御でスリップを抑制する。 ギヤボックス付きモータ インバータ リチウム イオン電池 図3│EV試作車の構成 日立グループが開発したモータ,インバータ,リチウムイオン電池を市販車 両に搭載してEV試験車を試作した。 環境 現在 安全 情報 自動運転 制駆動力 制御 駆動力デマンド パワートレイン制御 センサフュージョン ナビゲーション協調 ステレオカメラ 外界認識 モータ駆動制御 バッテリ制御 エンジン診断,排気 ブレーキ制御 ナビゲーション 電子電動化 車両安定 制御 エネルギー・安全統合制御 図2│電動車両制御のロードマップ 環境技術のモータと電動制御は,安全対応の技術,情報技術と融合し,自動 運転に向かう。 モータ 最大トルク180 Nm,最高回転数12,000 min -1 出力90 kW,永久磁石型,水冷 インバータ 耐圧600 V,最大電流400 A 両面直接水冷型IGBTモジュール リチウムイオン電池 電圧350 V(@SOC50%) 容量8.34 kWh / 1充電走行距離80 km* 車両重量 1,151 kg 最高速度 140 km / h *試験コースの実験結果から算出した値

注:略語説明 IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor),SOC(State of Charge) 表1│EV試作車の仕様

ギヤボックス付きモータとバッテリはEV(Electric Vehicle)試作車向けの専用 設計である。

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35 featur e ar ticles Vol.95 No.11 744–745  環境・安全・情報でグローバル社会に貢献するオートモティブシステム技術 同様に,氷結路でのモータ

ABS

の試験結果を図6に示 す。駆動輪(フロント)と従動輪の速度差から駆動輪がト ルク制御で車両をしっかりグリップし,スリップ防止して いる。また,この状態でモータは回生制御されており省エ ネルギーと運動性能向上の両立を確認することができた。 4. 熱とエネルギーの解析技術

EV

の駆動モータは,常時連続的に使用されており,出 力も一様でないため,内部温度が許容範囲に収まるかが懸 念される。モータの熱解析に関する報告は多いが,内部の 熱抵抗・熱容量に関するパラメータの同定法が課題である。 そこで,日立グループは実験結果を参照して解析モデル (熱抵抗・熱容量から成るモータの熱回路網)を反復的に 修正する方法を検討した(図7参照)。また,同様な方法 でモータのロータに固定された磁石の温度を推定する方法 も検討した4)。 熱解析にはモータやインバータの損失推定値を用いる が,モータ電流をあらかじめ解析し,基本波とともに高調 波成分も考慮して損失を計算する。車両の走行パターン と,主要コンポーネントの損失推定値から,バッテリのエ ネルギー消費も解析できる。

EV

試作車の実走行パターン からモータ内部のコイル温度とバッテリの残存容量を解析 した結果を,実測値と比較して図8に示す。モータ温度に 関する誤差は,主にケース温度などの境界値誤差に起因す ると考察しており,さらに精度向上を図っていく。 5. 電動制駆動制御の将来技術 日立グループは,車両の横加加速度に比例した制駆動力 を付与することによって旋回中の走行安定性や乗り心地を 向上できる

G-Vectoring

制御を提案している2)。開発当初 は加減速制御装置として電子制御式の摩擦ブレーキとエン ジンを想定してきたが,加減速を制御できる装置であれば 電気モータによっても実現可能である。電気モータを用い れば,摩擦ブレーキで

G-Vectoring

制御を行う場合よりも, エネルギー回生によって消費エネルギーを低減できる。 電動

G-Vectoring

の燃費効果は,カーブを含んだ道路の 条件を決めれば解析的に求めることができる。例えば,

1

つ の 走 行 例 と し て 距 離

10 km

の 間 に, 曲 率 半 径

30 m

50 m

100 m

のカーブが各

2

つ存在する道路であれば,摩 擦ブレーキを使用して

G-Vectoring

制御を行う場合よりも 電力量消費率を約

5

%改善することができる3) また,車両運動性能を向上できるモータシステムとし 0 60 50 −50 0 70 80 90 1 2 3 4 5 0 1 2 3 時間(秒) 回生トルク 4 5 従動輪(リア) 駆動輪(フロント) アクセルベダル位置 車輪速度 (km/h ) モー タ ト ル ク( Nm ) 0 50 100 アク セ ル ペ ダ ル 位 置( % ) 図6│モータABSの実証結果 駆動輪と従動輪の速度差を検知してモータトルクを変化させ,スリップを防 止し,回生を続行する。 供試モータ 温度実測 損失計算 熱回路網 温度解析 実測値 比較 誤差 誤差を小さく するよう修正 変更 入力 トルク 回転数 時間 実験評価 パ ラ メ ー タ 同 定 図7│モータの熱設計パラメータ同定法 実験結果を参照して,熱回路網モデルのパラメータ(熱抵抗と熱容量)を反復 的に修正し,収束させていくことが特徴である。 0 30 76 78 80 82 84 86 88 90 40 50 60 200 400 600 計算 計算 実測 実測 モー タ コ イ ル 温 度( ℃ ) バ ッ テ リ 残容量 ( % ) 800 時間(秒) 時間(秒) 1,000 1,200 1,400 1,600 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 図8│モータコイル温度とバッテリ残容量のシミュレーション EV試作車の実走行パターンを入力してモータ内部のコイル温度とバッテリの 残容量を解析で求めた。

(4)

36 2013.11   て,インホイールモータが広く知られている。インホイー ルモータは,左右独立に制駆動力を発生できるため,車両 にヨーモーメントを生成し,車両の旋回方向をアクティブ に制御できる。ただし,高速走行になるとモータ回転速度 が上昇し,発生できる左右輪間のモータトルク差が減少す るという面もある。そこで,日立グループは「電動ヨーモー メント機構」という新たなアクチュエータを開発してきた5) (図9参照)。複列配置した遊星ギヤを左右輪間に連結し, 片側の遊星ギヤにモータトルクを入力することで,

1

個の モータで左右輪に逆向きのトルクを発生できる。旋回中に は,左右輪の速度差に比例した速度でモータが回転する が,直進時にモータは回転しない。車速上昇に伴うトルク 低 下 が 生 じ な い た め, 比 較 的 小 さ い モ ー タ(定 格 出 力

1 kW

3 kW

程度)でも,全車速において十分なトルクを 発生できる。この機構は,微小なヨーモーメントを高精度 に制御できるため,車線維持支援システムのような予防安 全システムにも適用できる。 6. おわりに 電動車両は,市場への普及が確実に進みつつあり,今後, 自動車としての魅力が重要視されると予想してモータを応 用した電動車両制御を研究している。モータは,これまで 高出力・小型,高効率が性能指標であったが,今後は制御 を含めて静音・静粛で応答性に優れた特性が求められる。 車両全体での電動駆動制御は,従来のようにモータを試験 装置で評価するだけでは把握できない。そのためにも試作 車を用いた実証評価や,走行シーンを想定したシミュレー ションなどで,実際に近い実証評価がますます重要になっ てくると考える。 1) 廣田:電動車両の現状と未来,車戴用パワーエレクトロニクスの最新技術,自動 車技術会シンポジウム,No.09-12,20124803,pp1∼6(2012.2) 2) 山門,外:加加速度情報を用いた車両横運動と連係して加減速するドライバモデ ルの提案,自動車技術会論文集,Vol.39,No.3,pp53∼58(2008.5) 3) 横山,外:電気モータを用いたG-Vectoring制御のエネルギ回生効果,自動車技術 会論文集,Vol.44,No.4,pp1027-1032(2013.7) 4) 今西,外:電動車両用モータのロータ温度推定技術の開発,自動車技術会秋季学 術講演会,63-20135861(2013)

5) 横 山, 外: 電 動DYCシ ス テ ム の 開 発,自 動 車 技 術 会 論 文 集,Vol.40,No.3, pp641∼646(2009.6) 参考文献など 宮崎英樹 1983年日立製作所入社,日立オートモティブシステムズ株式会社 技術開発本部先行開発研究センタ所属 現在,次世代電動車両のモータシステム開発研究に従事 電気学会会員,自動車技術会会員 山本立行 2001年日立製作所入社,日立オートモティブシステムズ株式会社 技術開発本部先行開発研究センタ所属 現在,次世代電動車両のシステム開発研究に従事 自動車技術会会員 小林仁 2002年株式会社日立ユニシアオートモティブ入社,日立オートモ ティブシステムズ株式会社技術開発本部先行開発研究センタ 所属 現在,次世代電動車両のシステム・制御開発研究に従事 横山篤 1997年日立製作所入社,日立研究所情報制御研究センタグリー ンモビリティ研究部所属 現在,走行制御システムの研究開発に従事 自動車技術会会員 執筆者紹介 エンジン コントローラ ヨーモーメント モータ 出力対向トルク リングギヤ(車体固定) リングギヤ 右輪軸 左輪軸 モータ 入力トルク 出力対向トルク 300 mm 図9│電動ヨーモーメント制御 1個のモータで左右輪に逆向きのトルクを発生させ,ヨーモーメントを制御す ることが特徴である。

表 1 │ EV 試作車の仕様

参照

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