SNSにおける方言使用の実態─エセ方言はいつ、誰
に使うのか─
著者
三宅 和子
著者別名
MIYAKE Kazuko
雑誌名
文学論藻
巻
92
ページ
62(1)-42(21)
発行年
2018-02
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00012222/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaSNSにおける方言使用の実態
─エセ方言はいつ、誰に使うのか─
三 宅 和 子
1 .はじめに
方言が気軽に使われる時代である。2005年前後に起きた、女子中高生 を中心とする一大方言ブーム(注1)が沈静化しても、自分の生育地方言でも ない方言を遊び感覚で使う風潮は続いている。田中(2007)は方言をと り替え引きかえ着脱するように使用する現象を「方言コスプレ」と呼ん だ。三宅(2006)はケータイ・メールの中に見られる自身の方言ではな い方言の遊びが「親しさ志向」で行われていることを指摘した。若い人 に見られる方言の使い方は、「共通語の中に適当に投入され(中略)心理 的効果を発揮する「要素」である」と指摘し、「方言のアクセサリー化」 という考え方を提唱したのは小林(2004)であった。 このような、方言を断片化して使ったり自身の方言ではない方言を 使ったりする現象は、メディア上に顕著に現れる。特に若者の間で利用 されるモバイルメディアにおいて、方言ブームのころはケータイ・メー ル、そして現在はスマートフォン(以降スマホと略す)におけるSNS(特 にLINE)で頻繁にみられる現象である。 総務省情報通信政策研究所(2017)の調査によると、若者のスマホ使 用は95%を超える。SNSの中ではLINEが飛びぬけて利用率が高いが、こ のほかTwitterやFacebookなどを含む主要なコミュニケーション・アプ リのいずれかを使っている若者は10代で82.9%、20代で97.7%に達し、そ の使用時間は 1 日 2 時間を超える。ほとんどの若者が日常的にSNSを 使っているといえよう。このように日常生活に溶け込んだSNSの中で、若 者は方言(生育地の方言ではない方言を含む)をどのように使用してい るのだろうか。 SNSにおける方言使用を考えるときに留意しておきたいことがいくつ 六 二かある。まず、モバイルメディアが発達して、一度つながった相手とは 断絶なくつながり続けることができるようになったことである。知り 合った人たちの情報は登録され保持されるため、連絡が一時途絶えたと しても、いつどこにいてもコミュニケーションが再開できる。LINEのよ うに過去のやり取りが吹き出しで残っていると、しばらく時間がたって もその続きから会話が再開できる。従来、進学や就職で生まれ育った土 地を離れることによって途絶えがちだった友人関係が保持され、薄らい だり消滅したりした生育地の方言が、どこに移動しても使えたり出てき たりする素地が整えられた。 また、SNSをはじめとする電子メディアのコミュニケーションが「書 きことば」であることも重要な点である。気軽に方言が使えるようになっ た要因の一つに、生の(音声の)方言使用では超えなければならない発 音やアクセント、イントネーションの難しさを、「書きことば」であるが ゆえに容易に乗り越えることができる(三宅2005)ことがあげられる。現 代は「話しことば」のような「書きことば」が日常のコミュニケーショ ンの中心になりつつある、これまでにない時代である。逆の言い方をす れば、日常が「書きことば」の中に色濃く反映される時代になったとい うことでもある。 三宅(印刷中)は、若者の日常のコミュニケーションに欠かせなくなっ たLINEのやりとりを、スクリーンショットで記録し分析している。実際 に起こっていることがらと同時進行してLINEのやり取りが進んでいる 様子を提示し、リアルとヴァーチャルが融合したコミュニケーションの 展開がみられることを明らかにした。このようなモバイルメディアの使 い方は、若者の間では特殊なことではなくなっている。方言話者が常時 モバイルメディアを使用することによって、生育地から移住してもコ ミュニケーションが分断されることなくつながるようになった。例えば 福岡出身の方言話者が東京で、福岡の友人と同時進行的に関連行動をし ながら、逐次LINEで方言を使った会話を進めて盛り上がることが可能で ある。私たちはモバイルメディアを使い、離れた空間の中で従来と変わ ることのないコミュニケーションを続けながら生活することができる。 「方言」と「標準語」使用の明確な切れ目がない世界を生きているのであ 六 一
る。時空間の切れ目が曖昧になり、ことばやコミュニケーションの様態 にも影響を与えているのである。 本稿は、このようなコミュニケーション変化の背景の中、首都圏に生 活する若者が使うSNS上で、方言がどのように用いられているかを、特 に以下の点に注目して行ったアンケート調査の報告である。 1 )方言およびエセ方言(注2)は誰に使われているか。 2 )エセ方言の使用は対面とSNS上で違いがあるか。 3 )どのような方言がエセ方言として、どの程度使われているのか。
2 .調査概要
東京都文京区のT大学に通う若者を対象に、SNS上の方言・エセ方言 使用の実態と使用意識に関するWEBアンケート調査を行った。本調査の 概要は以下の通りである。 調査時期:2017年 2 月 1 日~ 2 月10日 調査対象者:T大学文学部在学中の18~22歳の男女 調査対象者の内訳:全57名。うち標準語話者(注3)48名(男14名、女34名)、 方言話者 9 名(男 3 名、女 6 名) 調査方法:学内の教育支援システムを利用したWeb調査 標準語話者対象と方言話者対象の 2 種類のアンケート 今回のような方言・エセ方言の使用に関する意識調査においては、客 観的な基準を設けて「共通語」、「〇〇方言」と区別する必要はないと判 断し、回答者自身が「標準語」と考えているもの(東京を含む首都圏で 使われていることば)を「標準語」と呼ぶこととする(注4)。「標準語話者」 とは、自身を標準語話者と認識している者のことで、「方言話者」とは自 分自身を方言話者と認識している者をさすこととする。調査は大学内の 教育支援システムを利用して行ったため、回答者に学生以外は含まれて いない。アンケート内容は、方言話者対象と標準語話者対象とで若干の 異なりがある(巻末の資料を参照)。標準語話者向けには、SNS上と対面 でのエセ方言使用の有無、エセ方言の種類や使用する理由、エセ方言を 六 〇受け取った経験の有無やその印象などを聞いた。方言話者向けには、SNS 上と対面での方言の使用の有無、使用する相手や理由、エセ方言を受け 取った経験の有無やその印象などを聞いた。具体的なアンケート内容は、 【資料】(調査A:地方出身の人/方言を話す人用、調査B:標準語/共通 語を話す人用)として、巻末に提示した。以下、「標準語話者」、「方言話 者」の順で調査内容と結果を示す。なお、本稿では男女差は分析してい ない。
3 .調査結果
3 - 1 .「標準語話者」調査の結果 調査対象者全57名のうち、標準語話者は48名(男14名、女34名)であっ た。以下、アンケートの質問項目順にその結果を提示し、その後調査結 果の傾向を述べる。 3 - 2 で結果をまとめる。 1 .普段使用するメディア(複数選択可) メディア PCメール 携帯/スマホメール SNS(LINE、Twitter、Facebookなど)その他 件数 27 40 47 0 2 .最もよく使うメディア メディア PCメール 携帯/スマホメール SNS(LINE、Twitter、Facebookなど)その他 件数 1 3 42 2 普段使用するメディアはSNS(47件、97.9%)、次いで携帯/スマホ メール(40件、83.3%)である。しかし最も頻繁に使うメディアとして は、SNS(42件、87.5%)をあげている。総務省情報通信政策研究所 (2017)の調査では、7 つの代表的なSNSのいずれかを利用する割合が10 代で82.9%、20代で97.7%であったが、これとほぼ符合する結果である。 3 .SNSでエセ方言を使うことがあるか 使う/使わない はい いいえ 件数 37 11 五 九4 .SNSで使うエセ方言はどんな方言か。最も使う例を 2 つあげよ 方言 関西方言 北関東方言 九州方言 東北方言 その他 1 例目件数 35 1 1 0 0 2 例目件数 29 0 1 2 1 約 8 割(37名、77.1%)の回答者がエセ方言を使っていると認識して いることがわかる。使っているエセ方言の例を 2 つあげてもらったとこ ろ、そのほとんどが文末表現で「関西方言」として分類できるものであっ た。 1 例めで35件(94.6%)、 2 例めでも29件(78.4%)と、圧倒的に関 西方言をベースにしたエセ方言が多い。なお、 2 例目の「その他」の 1 件は「いろいろ」という回答であった。 5 .SNSで使うエセ方言は何方言といわれるものか この質問には無回答や「わからない」が多く、勘違いの回答もあった ので集計不可能と判断した。 6 .SNSでエセ方言を使う理由(複数選択可) 理由 いろいろな方言を 使ってみたいから その方言が好きだから 雰囲気がやわらかくなるから 親しい感じがするから その他 件数 1 4 25 26 11 SNSでエセ方言を使う理由では、「親しい感じがするから」(26件、 70.3%)、「雰囲気がやわらかくなるから」(25件、67.6%)が最も多く選 択されており、エセ方言が対人関係に配慮した役割を担っていることが わかる。「その他」を選択した11名中10名は、以下のように具体的な理由 を説明している。 〇方言に憧れがあるから 〇関西の芸能人のまねをしていたら、書き言葉でも使うようになり癖 として抜けなくなってしまったため 〇無意識に友人の癖が移った 〇相手に合わせている 〇漫画に影響されて日常会話で使用するうちに自然と口から出るよう 五 八
になった。SNSはその延長 〇出身は埼玉ですが、家族は関西出身で家でも方言を使います。その ため、SNSでも親しい間柄の人には使うことが多いです。標準語よ り柔らかい印象を受けることはあると思います 〇おどけて見せるため 〇あんまり使わない 〇友達に関西の子がいて、その子とやりとりしていて無意識に使って しまうことがある 〇ネットスラングとして浸透しているから、いわゆる『なんJ語』(注5)と して使っている 7 .SNSでエセ方言を使う相手は(複数選択可) 相手 同郷の親 しい友人同郷のあまり親しくない友人 異郷の親しい友人異郷のあまり親しくない友人 方言話者 誰にでも その他 件数 40 2 31 2 5 2 6 SNSでのエセ方言使用相手は、「同郷の親しい友人」(40件、108.1%)(注6) が最も多く、次に「異郷の親しい友人」(31件、83.8%)であった。ここ でも「親しさ」とエセ方言使用に関連があることが示唆された。なお、 「その他」を選択した 6 名の相手は、「家族、親しい友人、エセ方言を使っ ている人」であった。 8 .SNSでエセ方言をその方言出身者にも使うか(例.エセ関西方言を 関西出身の人に) 使う/使わない はい いいえ 件数 14 23 9 . 8 の理由 ( 1 )「はい」の場合(複数選択可) 理由 無意識に 使っている相手を選んで使っている 方言話者に 親しい人に 相手がどう思っているか見極めて 方言話者には使わない無答 件数 7 5 1 1 1 1 1 五 七
( 2 )「いいえ」の場合(複数選択可) 理由 相手が不快に 思うだろう 相手に間違いを指摘されそう 方言話者の知り合いがいない 無答 件数 13 4 1 3 SNSでエセ方言をその方言出身者に使うかに関しては、「いいえ」とす る回答のほうが多かった(23名、62.2%)。その理由として、「相手が不 快に思うだろう」とする者が過半数の13件であった。いっぽうで「はい」 と答えた回答者のうち「無意識に使っている」( 7 件)が半数を占めたが、 「相手を選んで使っている」( 5 件)も多かった。総じて、方言話者に対 してエセ方言を使うことには慎重で、気軽に使うことを慎む傾向がうか がえる。 10.SNS以外(対面や電話)でエセ方言を使うか 使う/使わない はい いいえ 件数 38 11 11.10の理由 ( 1 )「はい」の場合(複数選択可) 理由 いろいろな方言を 使ってみたいからその方言が好きだから 雰囲気がやわらかくなるから 親しい感じがするから その他 件数 2 7 20 21 5 対面や電話でエセ方言を使っている回答者は38件(79.3%)で、SNS で使っている割合とほぼ同じであった( 3 の回答を参照)。エセ方言を使 う理由としては、「親しい感じがするから」(21件、55.3%)、「雰囲気が やわらかくなるから」(20件、52.6%)が最も多く選択されていた。対面 や電話でも、SNSよりもその傾向が低いものの、エセ方言が対人関係に 配慮した役割を担っていることがわかる。なお「その他」を選択した回 答者の具体的な理由は以下の通りである。 〇よりニュアンスが伝わる気がするから。 〇関西の芸能人のまねをしていたら癖になってしまったため 五 六
〇既に記述した通り、もともと日常会話で使用しているから 〇家では使用します。親が使うのでそれに合わせます 〇SNSで使う流れで自然と ( 2 )「いいえ」の理由として 4 名が以下の具体的な理由をあげている。 〇文字だけだと柔さの調節が難しい。声だと調節ができるので(方言 を)わざわざ使う必要がない(カッコ著者) 〇発音できない 〇出てこない 〇対面上では失礼にあたると思うから 12.エセ方言が混じったメッセージをもらった経験 エセ方言受信 はい いいえ 件数 45 3 13.12で( 1 )「はい」の場合、エセ方言をくれた相手(複数選択可) 相手 同郷の親 しい友人同郷のあまり親しくない友人 異郷の親しい友人異郷のあまり親しくない友人 方言話者 誰にでも その他 件数 40 2 30 4 10 2 3 14.12で( 1 )「はい」の場合、何方言といわれるものをもらうか 方言 関西 博多 九州 広島 静岡 鳥取 茨城 東北 件数 38 3 2 1 1 1 1 1 エセ方言の混じったメッセージをもらった経験の有無に関しては、「は い」の回答が45件(93.8%)で、ほとんどの回答者はエセ方言混じりの SNSをもらっている。相手は「同郷の親しい友人」(40件、88.9%)が最 も多く、次いで「異郷の親しい友人」(30件、66.7%)であった。 6 の回 答(自分が送る相手)と同様、「親しさ」がエセ方言を受け取る際にも影 響を与えていることが示唆された。 五 五
エセ方言の種類に関しては関西方言が38件(84.4%)と圧倒的に多く、 4 の回答(自分が使うエセ方言の例示)と同様の傾向があることがわかっ た。また、自分が使用する種類よりも幅広い種類のエセ方言をもらう傾 向もみてとれる。 15.エセ方言を受け取ったときの印象(複数選択可) 印象 不快だ 嬉しい 楽しい 親しみを感じる その他 件数 3 2 13 28 15 エセ方言の混じったメッセージをもらった時の印象で最も多いのは 「親しみを感じる」の28件(62.2%)、次に「その他」の15件(33.3%)、そ して「楽しい」の13件(28.9%)であった。「その他」を選択した15名以 外からもコメントがみられ、合計18件の意見が寄せられた。そのうち、 「なんとも感じない」でひとくくりにできるコメントが12件、批判的なコ メント「余りにも方言を多用していると伝える気を疑います」、「馬鹿に されているように感じる」、「その相手の出身と知性が測られる」が 3 件、 ニュートラルなコメント「あまり親しくない人からもらったときは出身 がそちらなのかな?と思う」、「あんまり使わないからよくわからない」が 2 件であった。総じて親しみや楽しさというポジティブな感覚をもつか、 慣れてしまって特に何も感じないかという結果で、不快感や違和感をも つと答えた回答は少数であった。 3 - 2 .「標準語話者」調査のまとめ 標準語話者は約 8 割の回答者が、エセ方言をSNS上でも対面でも使っ ており、 9 割以上がSNS上で受信していた。また使用するエセ方言、も らうエセ方言のいずれにおいても、その大半が関西方言であった。 SNS上でエセ方言を送る場合も受け取る場合も、相手は親しい友人がほ とんどである。親しさ志向が強く、同郷であっても親しくないとエセ方 言を送らない。エセ方言をSNSで使う理由として、約 7 割が「雰囲気が 柔らかくなるから」、「親しい感じがするから」と回答している。対面や 電話のような口頭でも「雰囲気の柔らかさ」、「親しい感じがする」を選 五 四
んでいるが、それぞれ 5 割、5.5割であることから、SNSの方がより強く その効果が現れると感じていることがわかる。 注目したいのは、 6 割の人がエセ方言を方言話者には使わないと回答 していたことである。使わない理由として、方言話者が不快に感じるだ ろうと推測しており、これは 3 - 3 でみる方言話者のエセ方言を受け取っ たときの印象に関する回答と通ずるものがある。いっぽうで、エセ方言 を使う人のうち 5 割弱は無意識に使っている。エセ方言をもらうと親し みや楽しさを感じるとポジティブに捉える回答者が多い中、エセ方言に 慣れてしまってなんとも感じないようになってきている回答者も少なく ない。 3 - 3 .「方言話者」調査の結果 調査対象57名のうち、方言話者は 9 名(男 3 名、女 6 名)と少人数で あった。以下、アンケートの質問項目順にその結果を提示し、その後調 査結果の傾向を述べる。 3 - 4 で結果をまとめる。 1 .普段使用するメディア(複数選択可) メディア PCメール 携帯/スマホメール SNS(LINE、Twitter、Facebookなど)その他 件数 3 8 7 0 2 .最もよく使うメディア メディア PCメール 携帯/スマホメール SNS(LINE、Twitter、Facebookなど)その他 件数 0 1 8 0 普段使用するメディアは携帯/スマホメール 8 件、次いでSNS 7 件、 PCメール 3 件である。しかし最も頻繁に使うメディアはSNS( 8 件)で あった。これは標準語話者の結果と同様である。 3 .SNSで自分の方言を使うか 使う/使わない はい いいえ 件数 8 1 五 三
4 .SNSで使う自分の方言は何方言か 方言 大分弁 群馬弁 静岡弁 上州弁 遠州弁 無回答 件数 1 1 1 1 1 4 9 名中 8 名がSNSでも方言を使っていることがわかる。使っている方 言に関しては無回答がかなりあり、回答されたものは大分、東海/関東方 言であった。 5 .SNSで方言を使う相手は(複数選択可) 相手 同郷の親 しい友人同郷のあまり親しくない友人 異郷の親しい友人異郷のあまり親しくない友人 誰にでも その他 件数 5 1 2 0 3 1 *「その他」を選択した 1 名は、「(方言話者だが)方言を使わない」と答 えている。 6 .SNSで方言を使う理由(複数選択可) 理由 自分らしくあ りたいから 雰囲気を柔らかくしたいから 相手に親しみを表現したいから特に考えずに使っている その他 件数 4 0 2 4 1 7 .SNS上での方言使用を意識しているか 使用意識 意識して いない あまり意識していない 少し意識している いつも意識している 件数 2 5 2 0 SNSでの方言使用相手は、「同郷の親しい友人」( 5 件)が最も多く、次 に「異郷の親しい友人」( 2 件)であった。標準語話者のエセ方言使用と 同様に、「親しさ」が方言の使用に影響していることが示唆された。 いっぽうSNSで方言を使う理由に関しては、「自分らしくありたいか ら」と「特に考えず使っている」が最も多く各 4 件、「相手に親しみを表 現したいから」が 2 件であった。「その他」を選択した 1 名は「無意識。 五 二
方言を話していることに気づかず指摘される」と答えており、「特に考え ず使っている」に含まれると考えられる( 6 件)。この結果は、7 の「方 言使用を意識しているか」への回答で「意識していない」、「あまり意識 していない」が 7 件であったこととも符合しており、総じてSNS上で方 言を使用することに関してあまり意識していないといえそうだ。 8 .SNS以外(対面・電話など)で方言を使う相手(複数選択可) 相手 同郷の親 しい友人同郷のあまり親しくない友人 異郷の親しい友人異郷のあまり親しくない友人 誰にでも その他 件数 6 2 2 0 3 0 対面や電話での方言使用相手は、「同郷の親しい友人」( 6 件)が最も 多く、「異郷の親しい友人」と「同郷のあまり親しくない友人」が 2 件ず つであった。ここでも「親しさ」が方言の使用に影響を与えていること がわかる。 9 .出身地に帰ると方言を使うか 相手 まったく 使わない同郷の人には使う親しい人には使ういつでも使う その他 件数 1 1 2 6 1 10.帰省時に「ことばが変わった(「東京弁になった」など)」と言われ た経験 ことばが変わったと言われた はい いいえ 件数 1 8 11.10は、いい意味でいっていると思うか いい意味で言っていると思う はい いいえ 件数 2 6 帰省すると方言を「いつでも使う」という回答のほか、「同郷の人に 五 一
は」、「親しい人には」という条件付きで「使う」を入れると、一人以外 は全員方言を使っている。「その他」1 件は「出身地に帰ったり同じ出身 地の人と話してると無意識のうちに方言になっている」であった。この 結果は、10の「ことばが変わったといわれた」経験があるかの質問に「い いえ」と回答していることと符合する。大半の回答者は「ことばが変わっ た」があまりいい意味ではないと理解をしており、帰省した時には、土 地のことばでコミュニケーションするという慣習や規範が共有されてい るものと思われる。 12.SNSで自分の方言のようなエセ方言をもらったときの印象 エセ方言を 受け取ると 不快だ 嬉しい 楽しい 親しみを感じる その他 件数 3 0 2 2 2 自分の方言とおぼしきエセ方言をもらったときの印象は、「不快だ」 3 件と、その逆の印象の「楽しい」、「親しみを感じる」各 2 件ずつがある。 「その他」 2 件は「何とも思わない」、「冗談として捉える」と答えており、 全体的にはポジティブな感覚のほうが優勢である。しかし、 8 の標準語 話者への質問「エセ方言を方言話者に使うか」に「はい」(14件)より 「いいえ」(23件)が多かったことを思い起こしたい。その理由で最も多 かったのが「相手が不快に思うだろう」(13件)であった。方言話者のネ ガティブな反応は多くはないが確かにあり、それがエセ方言使用者の意 識に反映されているのではないだろうか。 3 - 4 .「方言話者」調査のまとめ 少人数でかつ首都圏在住者の調査であるため、限定的な結果ではある が、いくつか注目したい点をあげる。ほとんどの人がSNSで自分の方言 を使っているが、使用相手は親しい友人が多かった。自身の方言を「自 分らしさ」や「親しさ」の表象として使用しており、 親しい相手には同 郷ではなくとも方言を用いるとする者がほとんどであった。大半の回答 者が帰省すると方言を使用する。しかし、SNSでは方言と共通語の使い 五 〇
分け意識が明確にあるわけではない。エセ方言を受信することに関して は、親しさや楽しさを感じる回答者がいるいっぽうで、不快感を抱く回 答者が一定数いることも明らかになった。
4 .おわりに
本調査は首都圏で行った調査である。首都圏ではない地域で調査すれ ば異なる結果が見られるであろうし、多人数であったり地方出身者にさ らなるバラエティがあったりすれば、結果は違ってくると考えられる。し かし、メディア上での若者間の方言使用の現在を考えるための資料は、提 供できたのではないかと考えている。以下、本調査で得られた結果をま とめる。 1 )方言およびエセ方言は誰に使われているか 方言、エセ方言ともに、親しい人に対して多く使われており、親しい 人間関係を保持したり促進したりする役割を担っていることが分かった。 また、エセ方言は方言話者には使われにくいこともわかった。方言話者 の中には自分の方言に似たエセ方言を使われることに不快感を抱く者が いる。エセ方言話者はこれに配慮して使用を抑制している。 2 )エセ方言の使用は対面とSNS上で違いがあるか エセ方言の使われ方は、SNS上であれ、対面や電話であれ、大きな違 いはなかった。ただし、SNS上で 9 割以上の人がエセ方言を使っている のに対し、対面や電話では 8 割であったことから、メディア上のほうが エセ方言が使われやすい傾向がある。また、エセ方言使用の効果として 「雰囲気が柔らかくなる」、「親しい感じがする」ととらえられており、SNS 上のほうがそれがより強く表れるととらえられていることが分かった。 3 )エセ方言として、どのような方言がどの程度使われているのか エセ方言の 8 ~ 9 割が関西方言であった。エセ方言を使っているとい う意識さえあまりないようになってきている者もおり、エセ方言の慣用 化が進んでいることが分かった。 四 九三宅(2005、2006、2008、2013など)では、ケータイにおける親しさ 志向の言語ディバイスとして、絵文字・顔文字・記号、規範はずれの文 字使用、古語や方言があることを示してきた。モバイルメディアがケー タイからスマホにシフトし、SNSが登場してからは、emoji(unicodeの emojiで、絵文字とは異なる)やスタンプなどのヴィジュアル要素がさら にそれに加わったことになる(三宅2013、2016)。SNS上のエセ方言も、 その効果として「親しさ」「柔らかさ」「楽しさ」があげられていたこと から、親しさ志向の言語ディバイスとして力を発揮していると考えるこ とができる。これらは、日本語の体系からはみ出した余計者ではなく、現 代の若者がもつ言語レパートリー(注7)の様々な要素として、心理的効果を 発揮しているといえよう。 三宅(印刷中)は、「言語資源」という表現を使って、このような言語 ディバイスの役割を説明している。LINEのやり取りでは、リアルと ヴァーチャルが融合したコミュニケーションが展開しているが、その中 での方言が、対人関係配慮や対人関係をスムーズに保持したり促進した りする「言語資源」として機能しているという見方である。方言のアク セサリー化(小林2004)、おもちゃ化(田中2007)の中で述べられている ことは、若者の言語レパートリーにある「言語資源」の活用というとら え方と根底でつながっていると考えられる。 付記 本調査は、T大学2016年度秋学期の著者の授業「日本語概説」、「日本語学演習 Ⅰ」「日本語学演習ⅡⅢ」受講の学生にご協力いただいた。記して感謝申し上 げたい。 注 1 .流行にのって、『ちかっぱめんこい方言練習帳』(主婦と生活社)、『ザ・方 言ブック』(日本文芸社)など、様々な方言のハウツー本が刊行された。 2 .本稿では、生育地方言ではない方言を「エセ方言」と総称し、「ニセ方言」 とほぼ同義で使用する。「方言」 は地域方言をさす。 3 .学術的には「(全国)共通語」とするべきであろうが、一般の学生は東京 とその周辺のことばを「標準語」、東京とその周辺に住む者を「標準語話者」 という大まかな括りで考える場合が多いため、アンケート調査の文言では 四 八
「標準語」を使用した。本稿でも「標準語」に統一して論を進める。 4 .田中(2007)も、「「ニセ方言」の「方言」としての正確性については、発 話者/受信者側共にあまり期待しない。また、「ニセ方言」として採用される 要素も限定的だ」と述べている。 5 .「なんJ語」とは、 2 ちゃんねるの実況板である「なんでも実況J」で幅 広く使われているネット語をさす。 6 .「SNSでエセ方言を使う」に「はい」と答えた回答者は37名であったため、 「SNSでエセ方言を使う相手は」の回答者は37名以下であるはずだが、40名 がこの選択肢を選んでいた。そのため割合が100%を超えてしまった。 7 .言語レパートリーとは、各自がもっている言語の能力や知識の全範囲をさ す(Blommaert,J.&AdBackus2013)。新しい言語の見方や研究を志向す る社会言語学でたびたび使われる用語。近年日本でも注目されている欧州評 議会(言語政策部門)による複言語複文化主義の考えにみられるように、個 人のもつ言語能力を体系的にとらえるというより、様々な要素が集まった複 合的・融合的なものとしてとらえられている。 参考文献 かわいい方言で日本を幸せにする会編(2005)『ちかっぱめんこい方言練習帳』 (主婦と生活社) コトバ探偵団(2005)『ザ・方言ブック』日本文芸社 小林隆(2004)「アクセサリーとしての現代方言」『社会言語科学』第 7 巻第 1 号 pp.105-107. 社会言語科学会 総務省情報通信政策研究所(2017)「平成28年情報通信メディアの利用時間と 情 報 行 動 に 関 す る 調 査: 概 要 」http://www.soumu.go.jp/main_content/ 000492876.pdf 2017/9/1参照 田中ゆかり(2007)「「方言コスプレ」にみる「方言おもちゃ化」の時代」『文 学』第 8 巻第 6 号 pp.123-133.岩波書店 田中ゆかり(2011)『「方言コスプレ」の時代─ニセ関西弁から龍馬語まで─』 岩波書店 田中ゆかり(2016)『方言萌え!?─ヴァーチャル方言を読み解く』岩波書店 富田英典編(2016)『ポスト・モバイル社会-セカンドオフラインの時代へ』 世界思想社 三宅和子(2005)「携帯メールの話しことばと書きことば─電子メディア時代 のヴィジュアル・コミュニケーション」『メディアとことば』第 2 巻 pp.234-261 ひつじ書房 三宅和子(2006)「携帯メールに現れる方言─「親しさ志向」をキーワードに ─」『日本語学』第25巻第 1 号 pp.18-31.明治書院 三宅和子(2008)平成20年 4 月「ケータイ方言─ハイブリッドな対人関係調整 四 七
装置」『國文學』53巻 5 号 pp.92-103 学燈社 三宅和子(2013)「モバイル・メディアにおける絵文字の盛衰」『日本語学』第 32巻第 7 号,pp.72-79 明治書院 三宅和子(2016)「身近なやりとりからことばを見つめ直す」『日本語学』第35 巻第 2 号pp.40-51.明治書院 三宅和子(印刷中)「LINEの中の方言─場と関係性を醸成する言語資源」小林 隆編『コミュニケーションの方言学』ひつじ書房 メイロウィッツ・J『場所間の喪失(上)電子メディアが社会的行動に及ぼす 影 響 』 新 曜 社(Meyrowitz,J.1985No Sense of Place: The Impact of Electronic Media on Social Behavior, New York: Oxford University Press.)
Blommaert, J. & Ad Backus.(2013)Superdiverse Repertoires and the Individual.InIngriddeSaint-GeorgesandJean-JacquesWeber(eds.) Multilingualism and Multimodality: Current Challenges for Educational Studies.Rotterdam:SensePublishers.
四 六
【資料】モバイルメディアにおける方言使用調査 調査A:標準語/共通語を話す人用 *方言使用と意識の変化について調べています。アンケートにご協力く ださい。 1 .使っているメディアを教えてください(複数選択可)。 ( 1 )PCメール( 2 )携帯/スマホメール ( 3 )SNS(LINE、Twitter、 Facebookなど)( 4 )その他( ) 2 .最もよく使うメディアはどれですか。 ( 1 )PCメール( 2 )携帯/スマホメール ( 3 )SNS(LINE、Twitter、 Facebookなど)( 4 )その他( ) 3 .SNSでエセ方言を使うことがありますか。( 1 )はい ( 2 )いいえ *( 1 )「はい」の人は 4 番以降から最後まで答えてください。 ( 2 )「いいえ」の人は10番以降から最後まで答えてください。 4 .SNSで使うエセ方言は、どんなものですか。最も使う例を 2 つ上げ てください。 例.~するやん よかたい ( 1 ) ( 2 ) 5 .SNSで使うエセ方言は、何方言といわれるものですか。 ( ) 6 .なぜSNSでエセ方言を使いますか(複数選択可)。 ( 1 )いろいろな方言を使ってみたいから ( 2 )その方言が好きだから ( 3 )雰囲気がやわらかくなるから ( 4 )親しい感じがするから その他( ) 7 .SNSでエセ方言を使う相手はどんな人たちですか(複数選択可)。 ( 1 )同郷の親しい友人 ( 2 )同郷のあまり親しくない友人 ( 3 )異郷の親しい友人 ( 4 )異郷のあまり親しくない友人 ( 5 )方言話者 ( 6 )誰にでも ( 7 )その他( ) 8 .SNSでエセ方言をその方言出身者にも使いますか(例.エセ関西方言 を関西出身の人に) ( 1 )はい ( 2 )いいえ 四 五
9 . 8 の理由を聞かせてください。 ( ) 10.SNS以外(対面や電話)でエセ方言を使いますか。 ( 1 )はい ( 2 )いいえ 11.10の理由を聞かせてください。 ( 1 )いろいろな方言を使ってみたいから( 2 )その方言が好きだから ( 3 )雰囲気が柔らかくなるから( 4 )親しい感じがするから ( 5 )その他( ) 12.エセ方言が混じったSNSをもらったことはありますか。 ( 1 )はい ( 2 )いいえ 13.12で( 1 )「はい」の場合、どんな人からエセ方言をもらいますか (複数選択可)。 ( 1 )同郷の親しい友人 ( 2 )同郷のあまり親しくない友人 ( 3 )異郷の親しい友人 ( 4 )異郷のあまり親しくない友人 ( 5 )方言話者 ( 6 )誰にでも ( 7 )その他( ) 14.12で( 1 )「はい」の場合、何方言といわれるものをもらいますか。 ( ) 15.12で( 1 )「はい」の場合、どんな気持ちになりますか(複数選択可)。 ( 1 )不快だ ( 2 )嬉しい ( 3 )楽しい ( 4 )親しみを感じる ( 5 )その他( ) 調査B:地方出身の人/方言を話す人用 *方言使用と意識の変化について調べています。アンケートにご協力く ださい。 1 .使っているメディアを教えてください(複数選択可)。 ( 1 )PCメール( 2 )携帯/スマホメール ( 3 )SNS(LINE、Twitter、 Facebookなど)( 4 )その他( ) 2 .最もよく使うメディアはどれですか。 ( 1 )PCメール( 2 )携帯/スマホメール ( 3 )SNS(LINE、Twitter、 Facebookなど)( 4 )その他( ) 四 四
3 .SNSで自分の方言を使うことがありますか。 ( 1 )はい ( 2 )いいえ *( 1 )「はい」の人は 4 番以降から最後まで答えてください。 ( 2 )「いいえ」の人は 8 番以降から最後まで答えてください。 4 .SNSで使う自分の方言は、何方言ですか。( ) 5 .SNSで方言を使う相手はどんな人たちですか(複数選択可)。 ( 1 )同郷の親しい友人 ( 2 )同郷のあまり親しくない友人 ( 3 )異郷の親しい友人 ( 4 )異郷のあまり親しくない友人 ( 5 )誰にでも ( 6 )その他( ) 6 .なぜSNSで方言を使いますか(複数選択可)。 ( 1 )自分らしくありたいから ( 2 )雰囲気をやわらかくしたいから ( 3 )相手に親しみを表現したいから ( 4 )特に考えずに使っている ( 5 )その他( ) 7 .SNSで方言を使っている、使っていないということを普段意識して いますか。 ( 1 )意識していない ( 2 )あまり意識していない ( 3 )少し意識している ( 4 )いつも意識している 8 .SNS以外(顔を合わせて/電話など)で方言を使う相手はいますか (複数選択可)。 ( 1 )同郷の親しい友人 ( 2 )同郷のあまり親しくない友人 ( 3 )異郷の親しい友人 ( 4 )異郷のあまり親しくない友人 ( 5 )誰にでも ( 6 )その他( ) 9 .出身地に帰ると方言を使いますか。 ( 1 )まったく使わない ( 2 )同郷の人には使う ( 3 )親しい人には使う ( 4 )いつでも使う ( 5 )その他( ) 10.出身地に帰ったとき、言葉が変わった(「東京弁になった」など)と 言われたことがありますか。 ( 1 )はい ( 2 )いいえ 11.10は、いい意味でいわれていると思いますか、 ( 1 )はい ( 2 )いいえ 四 三
12.SNSで自分の方言のようなエセ方言をもらったとき、どう思います か。 ( 1 )不快だ ( 2 )嬉しい ( 3 )楽しい ( 4 )親しみを感じる ( 5 )その他( ) 四 二