Title Studies on Behavioral and Brain Pathological Changes in MiceCaused by Toxoplasma gondii and Neospora caninum Infections of the Central Nervous System( 内容と審査の要旨(Summary) ) Author(s) 猪原, 史成 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 甲第477号 Issue Date 2017-03-13 Type 博士論文 Version ETD URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/56191 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
氏名(本(国)籍) 猪 原 史 成(京都府) 主 指 導 教 員 氏 名 帯広畜産大学 教授 横 山 直 明 学 位 の 種 類 博士(獣医学) 学 位 記 番 号 獣医博甲第477号 学 位 授 与 年 月 日 平成29年3月13日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第3条第2項該当 研 究 科 及 び 専 攻 連合獣医学研究科 獣医学専攻 研究指導を受けた大学 帯広畜産大学
学 位 論 文 題 目 Studies on Behavioral and Brain Pathological Changes in Mice Caused byToxoplasma gondii And Neospora caninum Infections of the
Central Nervous System
(トキソプラズマおよびネオスポラの中枢神経系 への感染によるマウスの行動変化と脳病態に関 する研究) 審 査 委 員 主査 帯広畜産大学 教 授 石 井 利 明 副査 帯広畜産大学 教 授 横 山 直 明 副査 岩 手 大 学 教 授 板 垣 匡 副査 東京農工大学 准教授 古 谷 哲 也 副査 岐 阜 大 学 准教授 高 島 康 弘 学位論文の内容の要旨 トキソプラズマおよびネオスポラはアピコンプレックス門に属する偏性細胞内寄生性原 虫である。これら原虫の慢性感染期には重篤な臨床症状を示さないが,原虫は宿主の脳内 に潜伏感染する。脳内に感染した原虫が宿主の神経系の異常を引き起こすことが示唆され ているが,その神経障害のメカニズムは不明な点が多い。そこで本研究では,中枢神経系 への原虫感染が宿主の脳機能に与える影響を解明することを目的とし,感染マウスモデル を用いた行動変化と脳病態について解析した。 トキソプラズマは,ネコ科動物を終宿主とし,ヒトを含めたほぼ全ての鳥類・哺乳類を中 間宿主とする原虫である。近年,トキソプラズマ感染が様々な精神疾患の発症リスクを高 めていることが報告されている。また,トキソプラズマはげっ歯類への感染により天敵で あるネコに対する逃避行動の減少や,記憶・学習の障害など様々な行動の変化を引き起こ すことが知られている。行動変化に関する先行研究において,トキソプラズマ感染により 情動行動や記憶・学習に重要なモノアミン類の産生や代謝の異常などが報告されているが, その感染により行動変化が生じる機構の詳細は未だに明らかにされていない。そこで第 1 章では,トキソプラズマ感染によるマウスの行動変化,原虫の局在,病変部位,神経伝達 物質量の変化を解析することにより,感染による宿主の行動変化とそれに関係する脳領域, および脳機能障害の解明を試みた。 初めに,トキソプラズマ感染が宿主の行動に与える影響を解析するために,非感染群, (3)
感染群を設定し,感染 37 日目から恐怖条件付けテストを行った。その結果,感染群では非 感染群と比較して恐怖記憶の指標となるすくみ時間の減少を認めた。このことは,トキソ プラズマ感染によりマウスの恐怖記憶の固定が障害されたことを示唆している。トキソプ ラズマ感染による宿主の行動変化には,脳内での原虫の局在や病変部位が関与していると 考えられている。そこで感染 45〜54 日目に脳を採材し,脳領域ごとの原虫の局在を解析し, 病理組織学的検索を行った。その結果,脳領域での原虫の偏在は認めないものの,大脳皮 質が他の領域よりも重度に障害されることが示された。すなわち,組織的な障害から生じ た神経細胞の機能的な異常が,トキソプラズマ感染による恐怖記憶障害を引き起こしてい ることが推測された。次にトキソプラズマ感染による神経伝達物質量の変化を検証するた め,感染 40 日目と 52 日目に恐怖記憶に重要な大脳皮質と扁桃体を採材し,モノアミン類 (ドパミン,ドパミン代謝物,セロトニン,セロトニン代謝物,ノルアドレナリン)量を 比較解析した。その結果,感染マウスでは大脳皮質においてドパミン代謝物量の増加が確 認され,大脳皮質の機能低下を補うためにドパミン代謝が亢進していることが示唆された。 また,感染マウスの扁桃体では恐怖応答の活性化に必要なセロトニンが減少し,さらに大 脳皮質と扁桃体で神経の活性化に重要なノルアドレナリンの減少が示された。個々のマウ スが示した恐怖記憶と神経伝達物質量との間で相関解析を実施したところ,すくみ時間と 大脳皮質におけるドパミン代謝物量との間に負の相関を認め,扁桃体ではすくみ時間とセ ロトニン,ノルアドレナリン量との間に正の相関を認めた。これらの結果は,大脳皮質に おけるドパミン代謝の亢進や,扁桃体でのセロトニン,ノルアドレナリン量の減少が恐怖 記憶の固定の障害を引き起こす要因であることを示唆している。以上の結果より,トキソ プラズマ感染マウスでは恐怖応答を担う大脳皮質および扁桃体における神経機能の異常が 記憶の障害を引き起こすことが示された。 ネオスポラは,イヌ科動物を終宿主とし,ウシ,ヒツジなどを中間宿主とする原虫で, トキソプラズマと遺伝学的,形態学的に非常に近縁な種である。ネオスポラは宿主の中枢 神経系に感染することで斜頸や後駆麻痺などの神経症状を引き起こすことが知られている が,その機構は不明な点が多い。神経症状の発症機構を理解するには,不顕性期の脳の異 常を理解することが手がかりとなる。そこで第 2 章では,ネオスポラ不顕性感染期の脳病 態を理解するために,不顕性感染マウスモデルを構築し,原虫感染が宿主の情動行動に与 える影響を解析した。さらに脳内の原虫の局在,病変部位,神経伝達物質量および遺伝子 発現量について解析した。 まず,非感染群,感染群を設定し感染 30 日目にオープンフィールドを指標とした行動測 定を行った。その結果,感染群において自発運動量の低下が認められた。本実験に用いた ネオスポラ感染マウスは明らかな臨床症状を示さないことから,感染による神経系の異常 が示唆された。次に,感染 40〜50 日目に脳を採材し,脳領域における原虫の局在の解析お よび病理組織学的検索を実施したところ,原虫は脳内に広く分布しており,小脳以外の領 域に病変を形成する傾向を認めた。また脳領域ごとの遺伝子発現量の解析では,各脳領域 において炎症性サイトカインであるインターフェロンガンマや腫瘍壊死因子アルファの発 現の増加を認めた。神経伝達物質量の解析では,グルタミン酸,グリシン,ガンマアミノ 酪酸,ドパミン,セロトニン量の変化が見られた。さらに各脳領域において,感染群では 神経活性のマーカー遺伝子 (c-Fos)とシナプスの可塑性に重要な遺伝子 (Arc)の発現量が 低下していた。以上の結果から,ネオスポラ感染により脳内で生じた慢性的な神経炎症が 神経細胞の機能不全や神経細胞死を引き起こし,マウスは自発運動量の低下に至ることが 示唆された。 本研究により,第 1 章ではトキソプラズマ感染による宿主の恐怖記憶固定の障害,関係 する脳領域およびその機能障害が明らかとなり,第 2 章ではネオスポラ感染により引き起
こされる脳病態と神経機能の異常が明らかとなった。これらの知見は,これらの原虫感染 が引き起こす宿主の神経系障害の機序を理解する上で非常に有用であると考えられる。 審 査 結 果 の 要 旨 近年,様々な病原体が宿主の行動変化や神経系の異常を引き起こすことが示唆されてい るが,その神経障害のメカニズムは不明な点が多い。トキソプラズマおよびネオスポラは慢 性感染期には重篤な臨床症状を示さないが,これらの原虫は脳内に潜伏感染する。本研究で は,トキソプラズマおよびネオスポラの慢性感染がマウスの行動および脳機能におよぼす 影響を解析し,それぞれの原虫感染により生じる神経障害のメカニズムを明らかにするこ とを目的とした。 トキソプラズマの研究では,マウスを用いて非感染群および感染群を設定し,恐怖条件付 け試験を行った。その結果,トキソプラズマの慢性感染により恐怖記憶の固定が障害される ことを見出した。また,脳領域での原虫の偏在は認められないものの,大脳皮質が他の領域 よりも重度に障害されることが示された。さらに,トキソプラズマ感染マウスでは大脳皮質 におけるドパミン消費の増加や,恐怖応答の制御に重要な扁桃体でセロトニンの減少が生 じていることが認められ,これら神経伝達物質量の異常が恐怖記憶の障害を引き起こすこ とが明らかとなった。以上の結果より,トキソプラズマ感染マウスでは恐怖応答を担う大 脳皮質および扁桃体における神経機能の異常が記憶の障害を引き起こすことが示された。 ネオスポラの研究では, マウスを用いて非感染群および感染群を設定し,オープンフィ ールド試験を行った。その結果, 感染群において自発運動量の低下が認められた。次に脳 領域における原虫の局在や病変部位を解析したところ,原虫は脳内に広く分布しており, 小脳以外の領域に病変を形成する傾向が認められた。また,脳領域ごとの遺伝子発現量の解 析では,各脳領域において炎症性サイトカインであるインターフェロンガンマや腫瘍壊死 因子アルファの発現の増加が認められた。神経伝達物質量の解析では,グルタミン酸,グ リシン,γアミノ酪酸,ドパミン,セロトニン量の変化が見られた。さらに各脳領域にお いて,感染群では神経活性のマーカー遺伝子 (c-Fos)とシナプスの可塑性に重要な遺伝子 (Arc)の発現量が低下していた。以上の結果から,ネオスポラ感染により脳内で生じた慢性 的な神経炎症が神経細胞の機能不全や神経細胞死を引き起こし,マウスは自発運動量の低 下に至ることが示唆された。 本研究により,第1章ではトキソプラズマ感染による宿主の恐怖記憶固定の障害とそれ に関係する脳領域を明らかにし,さらに特定の神経伝達物質量の変化がマウスの恐怖記憶 障害の発生に関与する可能性が示された。第2章ではネオスポラ感染により引き起こされ る脳病態と神経機能の異常が明らかとなった。これらの研究は,原虫感染が引き起こす宿 主の神経系障害の機序を理解する上で必要な科学的知見を提供し,その価値は高く評価さ れるものである。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論 文として十分価値があると認めた。 基礎となる学術論文
1)題 目: Changes in neurotransmitter levels and expression of immediate early genes in brain of mice infected with
著 者 名: Ihara, F., Nishimura, M., Muroi, Y., Furuoka, H.,Yokoyama, N. and Nishikawa, Y.
学 術 雑 誌 名: Scientific Reports 巻・号・頁・発行年: 6:23052,2016
2)題 目: Toxoplasma gondii infection in mice impairs long-term fear memory consolidation through dysfunction of the cortex and amygdala
著 者 名: Ihara, F., Nishimura, M., Muroi, Y., Mahmoud, M.E., Yokoyama, N., Nagamune, K. and Nishikawa, Y.
学 術 雑 誌 名: Infection and Immunity
巻・号・頁・発行年: 84(10):2861-2870,2016 既発表学術論文
1)題 目: Starvation of low-density lipoprotein-derived cholesterol induces bradyzoite conversion in Toxoplasma gondii
著 者 名: Ihara, F. and Nishikawa, Y. 学 術 雑 誌 名: Parasites & Vectors
巻・号・頁・発行年: 7(1):248,2014
2)題 目: Role of the chemokine receptor CCR5-dependent host defense system in Neospora caninum infections
著 者 名: Abe, C., Tanaka, S., Nishimura, M., Ihara, F., Xuan, X. and Nishikawa, Y,
学 術 雑 誌 名: Parasites & Vectors 巻・号・頁・発行年: 8:5,2015
3)題 目: Transcriptome and histopathological changes in mouse brain infected with Neospora caninum
著 者 名: Nishimura, M., Tanaka, S., Ihara, F., Muroi, Y.,
Yamagishi, J., Furuoka, H., Suzuki, Y. and Nishikawa, Y. 学 術 雑 誌 名: Scientific Reports
巻・号・頁・発行年: 5:7936,2015
4)題 目: Induction of depression-related behaviors by reactivation of chronic Toxoplasma gondii infection in mice
著 者 名: Mahmoud, M.E., Ihara, F., Fereig, R.M., Nishimura, M. and Nishikawa, Y.
学 術 雑 誌 名: Behavioral Brain Research 巻・号・頁・発行年: 298:125-133,2016