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オーストラリア報告書 Luke Nottage シドニー大学法学部准教授 1. はじめに オーストラリアは6つの州及び2つの準州からなる連邦国家である 各州は独自の裁判制度 ( 手続法 実体法を含む ) 判例法 制定法を有するが 憲法は制定法に関してオーストラリア連邦高等裁判所への上訴や連邦法の特定

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オーストラリア報告書

Luke Nottage シドニー大学法学部准教授 1. はじめに オーストラリアは6つの州及び2つの準州からなる連邦国家である。各州は独自の裁判制度、 (手続法、実体法を含む)判例法、制定法を有するが、憲法は制定法に関してオーストラリ ア連邦高等裁判所への上訴や連邦法の特定の分野に関して連邦裁判所からの上訴を認めてい る。消費者保護に関連する最も重要な当該制定法は 1976 年取引慣行法(Trade Practices Act 1976、連邦法、改正)であり、企業の取引や州際通商に対し、憲法が連邦政府に権力を与えて いる。取引慣行法の執行はオーストラリア競争・消費者委員会(Australian Competition and Consumer Commission :略して ACCC’)が行う。この法律は各州及び各準州が、独自の監督機 関(例:ニューサウスウェールズ州の商業省下の公正取引局)により執行を受ける個人事業 やパートナーシップといった他の事業をも網羅する法律を制定するためのひな型としての役 割も果たしてきた。概して、消費者政策は連邦及び州政府に権限が分散されている。特に 1990 年代、広範な規制緩和・市場自由化が進み、規範の制定や執行についてはソフトなアプ ローチを採るようになってきた。オーストラリア政府の生産性委員会(Productivity Commission)は最近「オーストラリアの消費者政策の枠組についての調査」(Inquiry into Australia’s Consumer Policy Framework)の草案を出版したが、その中には、消費者の救済 へのアクセス(Access to Remedies1)に関する項目をはじめ、断片化する消費者行政への改

善を提言する章が含まれている。本稿は、オーストラリア最大の人口と経済を有するニュー

* Michael Cooper and Susan Dixon (Acting Manager, Mediation and Investigations Unit; and Manager,

Policy and Strategy Division, NSW OFT), Margaret Lothian (Principal Mediator, VCAT), Steve Mark (Legal Services Commissioner, OLSC), Gordon Renouf (Manager of Policy and Campaigns, Choice), Louise Sylvan (Deputy Chair, ACCC) の諸氏よりコメント及び情報の提供を受けたことに謝意を表する。記載のす べての見解は著者自身のものである。

* Japan Times 2008 年 3 月 3 日の記事 ‘Effective Consumer Protection’

http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/ed20080303a1.html;

及び国民生活センターの調整機関 http://www.kokusen.go.jp/ncac_index_e.html 参照 。

# http://www.oecd.org/dataoecd/26/61/36456184.pdf 参照。オーストラリアは下記を規定している。

(a)(内部苦情処理手続に関して、著者が起草に関与したAustralian Standard (AS 4608-2004 on ‘Disputes Management Systems’) (b) 多額支払クレジットカード保有者の保護 (c) 種々のADR (d) 少額訴 訟制度(本稿にて論述)(e) 集団代表訴訟制度(私訴)(f) 政府から得る救済(例:代表訴訟、詳細は著 者の’Report on Australia for the European Commission’s study on alternative consumer redress’参 照)http://ec.europa.eu/consumers/redress/reports_studies/index_en.htm

しかしながら、(g) 消費者団体による代表訴訟制度は個別に設けられていない。消費者団体は他の私人と 同様、集団代表訴訟に加わるか差止の訴えを起こすことができるが、その財政力に欠ける。

1 草案第9章参照: http://www.pc.gov.au/consumer 草案全体に対する著者の建設的批評については、Nottage, Luke

R, ‘The Productivity Commission’s Inquiry into Australia’s Consumer Policy Framework: A Partial Response’ 18(9) Australian Product Liability Reporter 122-7 (2008)参照。

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サウスウェールズ州における消費者 ADR に主に焦点を当てるが、他州(特にヴィクトリア州や 他の大きな州)や連邦政府所管における動向についても付記する。

残念ながら、連邦 ADR 諮問評議会(National Alternative Dispute Resolution Advisory Council)はこれまで消費者 ADR2に関して特別に調査を行ったことはない。当該項目に関する 最近の研究の中で良いものとしては、ニューサウスウェールズ州と類似点が多いヴィクトリ ア州における ADR の広範な研究が挙げられる。例えば、2007 年 6 月 4 日、IPSOS はヴィクトリ ア司法省の委託研究3として、ADR の需要者側の調査結果を公表した。この調査は電話による インタビュー方式を採り、1002 名の個人や中小企業をサンプル対象とした。その調査によれ ば、ヴィクトリア住民(約 5 百万人)の 35%が前年に少なくとも一度は紛争に遭遇していた。 対事業者との消費者紛争は合計 1,660,000 件あったと見られている (家族・近隣に関わる紛 争: 1,382,000 件、地方計画に関わる紛争:67,000 件、政府に関わる紛争: 185,000 件)。 日本と同様、最もよく起こる消費者紛争は、公益事業(8%)、金融(4%)、電器製品 (4%)、運輸・車(3%)、住宅建築(3%)、借家人(2%)関連である。消費者紛争の約 70%が自力により解決され、12%が第三者の支援を受けて解決、18%が解決に至っていない。 全体として、ヴィクトリア住民のわずか 11%が、ニューサウスウェールズ州の公正取引局 に相当するヴィクトリア消費者センター(Consumer Affairs Victoria:CAV)に、4%以下が他 の主な紛争解決機関に連絡を取ったことがあった。しかし、92%の人が CAV についての認識は あった。他の機関(下記第 1.3.2 部のオンブズマン制度等)の認知度は 25%~73%で、ヴィ クトリア紛争処理センター(コミュニティー司法センター、下記第 1.1.1 部に記載)について 認識している人はたった 16%であった。通常、ほとんどのヴィクトリア住民(89%)は自力に よる紛争解決を試み、51%が家族や友人から情報を求め、わずか 23%が外部機関に情報を求 めるとした。事業者との紛争解決が容易ではない或いは困難であると消費者が判断した場合、 25%は商品の返品を試み、53%が問題を直接供給業者に持ち込み(内、27%は当該手段を有効 と判断)、少数が CAV や ACCC といった機関(5%)から情報を得ていた。第三者機関に苦情を 申立てたり(例:CAV 3%)、より正式な調停や ADR を求めたり(例:CAV 2%)、警察(5%) や審判所・裁判所(2%)に訴える者も僅かにあった。 第二の最近の有益な研究として、ヴィクトリア州司法省の委託を受けて Chris Field 教授 が 2007 年 2 月 26 日に公表した ADR の供給側に関する調査が挙げられる。この研究はヴィクト リア州及びオーストラリア全般の ADR の歴史(第 4 章、付表5に歴史年表)、現行の ADR 提供 者(第 5 章において民間と公的 ADR の区別を行い、付表8に有益な ADR 機関のリスト、付表 7 に主な機関の概要)、「政府が ADR の資金援助をしてくれるのはどのような場合か?」等を含

IPSOS(市場調査会社)実施の Dispute Resolution in Victoria: Community Survey 2007,

http://www.consumer.vic.gov.au/CA256902000FE154/Lookup/CAV_Publications_Reports_and_Guidelines_2/$fi le/cav_report_dispute_resolution_com .

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む種々の質問事項(第 8 章)を考察したものであり4、これらの質問の多くは、現在の日本の 検討に深く関連するものである。 本稿の 2. 以下では、本プロジェクトにおいて他国の報告書が採用する三分類によるものに 代わり、オーストラリアにおける消費者 ADR サービスを提供する主要な機関及び事例や手法の 類型について要点を述べる。2.1 では、オーストラリアにおける重要な行政型(政府支援型) 消費者 ADR 機関について、中でも、日本の新しい政府助成による「法テラス」司法支援センタ ーに類似しているコミュニティー司法センター(2.1.1)について、また日本の国民生活セン ターや地方自治体主導の消費生活センターと似通った役割を担うオーストラリア競争・消費 者委員会(ACCC)やニューサウスウェールズ州の公正取引局(2.1.1 及び 2.1.2)について概 論する。1.2 では、司法型消費者 ADR サービス、特にニューサウスウェールズ州において広く 利用されている少額訴訟審判所について検討する。これは事実上、独自の法律に基づき、公 正取引局が運用する審判所(Tribunal)であり、拘束力のある審決を下すことができ、他州の 中には審判所が通常裁判所と近似しているところもある。日本において最も類似しているの は、簡易裁判所における少額訴訟の迅速手続であるが、これは消費者ニーズに特化した手続 ではない。1.3 では、民間型 ADR に触れる。第 2.3.1 部では、オーストラリアの消費者協会 「Choice(通称)」は個人の消費者紛争において正式な役割をほとんど果たしていないことを 概略する。2.3.2 は、現在オーストラリアにおいて大量の消費者紛争を集団で扱っている業界 団体ベースの「オンブズマン」制度に焦点を当てる。しかしながら、この制度の多くは法律 もしくは監督機関を通じて政府と結びついているため、行政型 ADR の要素も呈している。 2. では、種々の類型の機関における構成、手続、実務の主要点を要約するに留める。コミュ ニティー司法センター(Community Justice Centre)、ニューサウスウェールズ州の少額訴訟 審判所、金融サービスにおける主要なオンブズマン制度に関する詳細は、著者の 2006 年 EC 報 告書5に記載されている。代わりに第3部では、これまで広く著述されて来なかった消費者 ADR の二類型を考察する。3.1 では、ニューサウスウェールズ州において、住宅建築紛争につ いて、少額訴訟審判所に手続が移る前に公正取引局において行われる紛争解決制度を概観す る。3.2 では、弁護士に対する苦情を処理する弁護士会とニューサウスウェールズ州政府によ る共同規制制度を検討する。この二例は欠陥住宅及び法律専門職の自由化・拡大について懸 念が増している日本に関心の高い項目であろう6。4. は、国際モデルと消費者取引、オンラ イン ADR、オーストラリアにおける消費者 ADR の将来について短評し締めくくることとする。

4 Chris Field Consulting Pty Ltd, Alternative Dispute Resolution in Victoria, Supply-Side Research

Project – Research Report

http://www.consumer.vic.gov.au/CA256902000FE154/Lookup/CAV_Publications_Reports_and_Guidelines_2/$file /cav_report_adr_supply_side_research_2007.pdf.

5 前掲

6 例:Nottage, Luke R., ‘The ABCs of Product Safety Re-Regulation in Japan: Asbestos, Buildings,

Consumer Electrical Goods, and Schindler's Lifts’ Griffith Law Review, Vol. 15, No. 2, December 2006, http://ssrn.com/abstract=929941; および Nottage, Luke R., ‘Build Postgraduate Law Schools in Kyoto,

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2. 消費者 ADR の主要機関及び類型

2.1 行政型(政府支援型) ADR

2.1.1 コミュニティー司法センター (Community Justice Centres :CJCs)

コミュニティー司法センターの設立は、概してオーストラリアの ADR 史上における三 大発展の1つであり、1960 年代から 1970 年代にかけて司法へのアクセスに関心が高まった結 果のことである7。1980 年代以降、コミュニティー司法センターはオーストラリア全土に設立

されてきた。例えばニューサウスウェールズ州(NSW)では、1980 年にパイロット・プログラ ムが設置されて以来、住民に調停・紛争管理サービスが提供されてきた。現在多くのセンタ ーは 1983 年コミュニティー司法センター法(Community Justice Centres Act, 1983 (NSW)) に基づき、司法総督府(Attorney General’s Department、日本の法務省に相当)の 1 機関と してニューサウスウェールズ州政府の資金を受けて運営されている。ニューサウスウェール ズ州のコミュニティー司法センターは、「自由で信用のおける公平で利用しやすく任意」の サービスを提供することにより、紛争に対応し解決を図る個人・団体・コミュニティーを改 善し、よってコミュニティーの安全と調和に寄与することを目的としている8 調停とは、コミュニティー司法センターが単独で選任し訓練した 2 人の調停人(コミュニ ティー司法センターのコーディネーターに代わり面接担当官が適当な調停人を選任)が、紛 争当事者が紛争解決のために話し合う内容および合意内容を定めた場合、当該調停手続を運 営するものである。「ファシリテーション(促進)」とは、当事者(大抵の場合グループ) が紛争解決の専門家(ファシリテーター)の支援を受けて、解決すべき問題、達成すべき課 題、解決すべき紛争を明確化するための広範なサービスである。ファシリテーションはこれ らを明確化するだけで終わることもあり、また引き続き当事者が選択肢を探す支援や合意に 至るための代替案や努力内容を検討することも可能である。ファシリテーターは話し合う内 容や手続の結果について助言や決定を行う役割を担ってはいないが、その手続について助言 や決定を行うことは可能である。しかしながら、この制度は大抵、近隣関係紛争に利用され ている。コミュニティー司法センターの管轄は消費者と事業者間の紛争に限られている訳で はないが、調停の多くは消費者金融紛争等の消費者と事業者間の紛争に当たっている。 2.1.2 連邦競争・消費者委員会(ACCC) and Will They Come - Sooner and Later?’ Australian Journal of Asian Law, Vol. 7, No. 3, also at http://ssrn.com/abstract=986529.参照。

7 同時期に少額訴訟審判書(第 1.2 部)及び公的オンブズマン制度(近年種々の業界団体ベースの制度に拡

大:第 1.3 部)を設置 。前掲 Field 参照。

8 http://www.cjc.nsw.gov.au/参照。 NSW 法制改革委員会 2005 年報告書及びオーストラリアの他地方の類似セ

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オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)は、取引慣行法に基づき、競争法および消費者 保護法を執行する強力な連邦規制当局(JPA)である。ACCC は、消費者に与えられる最低限の 制定法上の保証を満たさない契約(第 5 章第 2 部違反:(例)商品として通用する品質や妥当 なサービスの質について)を供給業者が結ぶことを防止するため、誤認行為(第 5 章第 1 部第 52 条)や不当表示(第 53 条)に対する差止請求を職権で行うことができる。また、第5章も しくは第 4A 章(非良心的契約交渉/条件)違反により、消費者に損害が生じたもしくは生じる 恐れがあると ACCC が判断した場合、ACCC は消費者に代わり、損害賠償請求の代表訴訟を提起 することができる(第 87 条(1B))。また、欠陥商品により消費者が被害を被った場合、同 様に損害賠償請求の代表訴訟を提起することもできる(第 5A 章第 75AQ 条、1985 年 EC 製造物 責任指令がモデル、日本の 1994 年製造物責任法に相当)9。第 5 章(第 78 条)違反のみの理 由に基づき、刑事訴追を行うことはできない。しかし、ACCC は「いかなる条件、保証、権利、 救済の存在、除外、効果について(第 75AZC(1)(k)条)もしくは商品又はサービスの特別な基 準、品質、価値、等級について(第 75AZC(1)(a)-(b)) 条 )「虚偽表示又は誤認を招く表示」 を含む第 5C 章違反に対し、刑事罰を求めることができる。 ACCC のホームページ上の「消費者の権利についての苦情の申立て方」には、ACCC は私的な 契約上の紛争(例:保証請求に関するもの)に消費者を代表して関与することは一般的にで きない旨が記載されている10。これは以下のような法解釈によるものである。第 5 章第 2 部の 最低保証義務を満たさない供給業者(例:安全でないため商品として通用しない)は、法律 を違反している訳ではない。違反と見做されるのは、当該保証について(第 75AZC(1)(k)条に よる刑事罰も可能)もしくは商品又はサービスの品質等について不当表示がある場合のみで ある。この点で、供給業者の誤認行為や非良心的行為を禁止する第 4A 章違反を明示的に禁止 する第 5 章第 1 部の第 52 条違反とは区別している。当該規定の違反については、ACCC は代表 訴訟を提起したことがある11 9 比較法研究センターの平成 19 年内閣府委託研究「ドイツ、フランス、アメリカ、オーストラリアにおける金 銭的救済手法の動向調査」における、著者の Michelle Tan 教授との共同報告部分『オーストラリア取引慣行 法における損害賠償請求の概要と制度改正等の議論動向』参照。 10 http://www.accc.gov.au/content/index.phtml/itemId/54388#h2_94 http://www.accc.gov.au/content/index.phtml/itemId/3863/fromItemId/3667#h2_50 より厳格な文言が使用されている:「ACCC は取引慣行法により消費者取引に黙示される条件や保証の違反に ついて企業を訴えることはできない。つまり、消費者が売り手やサービス提供者と交渉し、必要に応じて消 費者自ら法的措置を採らねばならない。」 11私見によれば、さらに拡大解釈の可能性が残されていると見る。第 1 部や第 4A 章の文言はあまり直接的では ないが、第 5 章第 2 部は事実上商品として通用しない(安全でない)製品の供給を禁止しており、消費者は 損害賠償を含む救済を請求することができる。また第 5A 章のように、製造業者は危険/欠陥商品を供給して はならないとされているところ、消費者は一定の損害賠償を請求することが可能である(第 75AD 条)。第 5A 条は、被害を受けた消費者に代わり ACCC が代表訴訟を提起する権限を明確に規定している(第 75AQ 条)。 欠陥商品を供給した小売業者に対する代表訴訟が除外されるのは意外である。 しかし一方で、ACCC の狭義の 解釈は、第 5 章第 2 部の制定法上の保証請求への調停サービスを含む消費者の小売業者に対する救済請求へ の支援の範囲が狭いことを意味する。

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それでもなお、供給業者が制定法上の最低保証の明確な義務の履行を拒絶していると ACCC が考えた場合には、当該代表訴訟や差止の可能性が生じる。しかしながら、ACCC が資金を費 やしこのような選択肢を採るのは違反が広範囲に及ぶ場合に限られるようである。同様の理 由から、1992 年以降、1976 年オーストラリア連邦裁判所法(Federal Court of Australia Act 1976)第 4 章の規定により、取引慣行法等の連邦法の一定の違反について ACCC は代表訴訟に おいて代表当事者や集団の一員になることが可能になったが、これまで代表訴訟に参加した ことはない12。従って、ACCC の紛争を調停する役割は、日本の消費者生活センターが行ってい るような職員が紛争の一方当事者から得た主要な情報や主張を他方当事者に伝える「シャト ル外交」(斡旋)に比べて、かなり消極的なものである。毎年 ACCC が受理する苦情件数 (例:2006 年は 47,337 件13)は日本の消費者生活センターの受理件数よりも少ないようであ る。大部分は州の公正取引当局を含む他の機関に申し立てられている。 2.1.3 州立公正取引当局 (例:ニューサウスウェールズ州公正取引局) 各州は取引慣行法の消費者保護規定を模範に法律を制定したが、これはすべての業者に適 用される。例えば、ニューサウスウェールズ州の 1987 年公正取引法は、制定法上義務とされ る保証(第 4 章第 4 部)を規定しており、誤認行為(第 42 条)、非良心的行為(第 43 条)及 び商品又はサービスの保証や品質等についての不当表示(第 44 条)を禁止している。当該規 制は商業省公正取引局の所管である。法律違反を防止するため差止請求が可能である(第 65 条)。犯罪は第 42 条及び第 43 条違反では成立しないが、制定法上の保証義務の違反について 明示のそのような除外規定はない(第 62 条参照)。このことから、公正取引局に ACCC より広 範な権限が与えられていることが分かるが、犯罪は取引慣行法違反があって初めて成立する ものであり、公正取引局は制定法上の契約保証を違反しただけの供給業者に対する権限の行 使は除外するよう制限的に(第 87(1B)条代理訴訟における ACCC のように)解釈している。し かし、ACCC と比較すると公正取引局は供給業者の保証違反を訴える消費者のために事件への 介入を進んでするようである14。公正取引局の職員は充実しており、公正取引局が供給業者を 訴追する明確な権限を有している非良心的行為、誤認行為、不当表示関連の事件についての 審理に対してはより広く開かれた対応をしている。 12 EC への報告書(前掲)の連邦代表訴訟の著者の説明及び評価を参照。

より詳細については Cashman, Peter K の研究、 Class Action Law and Practice (Federation Press, 2007) を参照。

13 http://www.accc.gov.au/content/index.phtml/itemId/811183/fromItemId/668577

ACCC Annual Report 2006-7, p 44 参照。しかし当該年次報告書には消費者保護よりもむしろ企業の他企 業に対する不満や競争法の問題(価格協定等)が含まれている。残念ながら、当該報告書や他の公に入手可 能な情報は、消費者保護に最も直接関係する取引慣行法の規定に関連させて消費者の苦情を分類しておらず、 事件の処理方法についての情報もない。

14 例:パンフレット ‘Warranties’ (June 2007, FTC37) 中の ‘What if there is a dispute?’(「紛争が起

きたらどうするか」)において、消費者がまず供給業者に連絡を取り、それでも問題が解決できない場合、 公正取引局に電話もしくはウェブサイトにアクセスするよう勧めている。

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公正取引局はまた、公正取引法の下でいかなる違法行為でも複数回行った者に対し十分な 理由の提示を求めることができる(第 66A 条)ことから、ACCC より広範な権限を有している と言える。その求めに対する対応に不満がある場合、公正取引局は更にニューサウスウェー ルズ州最高裁判所に対し「取引禁止命令」を下すよう求めることができ(第 66B 条)、当該命 令には被害者への損害賠償も含まれる。他方で、ニューサウスウェールズ州の公正取引法は 公正取引局による単に損害賠償を請求する団体訴訟の提起については規定していない(第 68 条参照)。唯一の団体救済のメカニズムは差止請求のみであるが、これも公正取引法違反の 場合しか認められない(第 65 条)。

2003 年以降、ニューサウスウェールズ州の 1989 年住宅建築法(Home Building Act 1989 (NSW))の改正により、民間住宅(50 万ドル以下)の建築に関する紛争については、消費者・ 取引業者・借家人審判所(Consumer, Trader and Tenancy Tribunal : CTTT、下記第 2.2 部) の住宅建築部にて処理する前に、公正取引局の公正取引センター(下記第 3.1 部に詳述)にお いて紛争解決を図ることが要請されている。センターの職員は紛争の非公式な調停を試みる。 紛争は、CTTT の審判手続前もしくは手続中に紛争の解決を支援する公正取引局の建築検査官 に付託されることもある。もし建築業者が検査官の是正命令に従わなければ、1989 年住宅建 築法により処罰の対象となる。加えて、公正取引局はオンラインで建築業者のライセンス登 録を行っており、当該オンライン情報には、ライセンスの停止や罰則の通知、支払保険額 (1997 年以降)、CTTT の命令違反(2002 年以降)が含まれている。 この法改正により、公正取引局が受理した住宅建築問題に関する消費者の苦情件数は、 2002-3 年に 1732 件だったのが 2003 年には 6275 件に増加し、以後当該レベルに落ち着いてき ている。2006~7 年に受理した苦情 6112 件の内、5128 件は次の通り処理された。2251 件 (44%)は公正取引局の職員が建築業者との交渉を促進して解決、1533 件(30%)は検査官 による調停及び技術査定により解決、1344 件(26%)は CTTT もしくは他の紛争解決者に付託 された15。不動産に関する苦情も 2002~3 年の 1732 件から 2006~7 年の 2650 件と着実に増加 し、公正取引に関する苦情も 21,918 件から 25,290 件へ増え、公正取引局に寄せられた消費者 の苦情の総数は 24,458 件から 34,052 件に増加した。調査によれば、全体の 85%は非公式な レベルでの解決に成功している(2003~4 年の成功率は 67%)。申立人による取下げや CTTT への付託等を含むものの、約 96%が 30 日以内に解決されている。その一方で、調査によると、 ニューサウスウェールズ州のどの政府機関に援助を求めれば良いか知っている人の比率は大 幅に減少している16 15 残り 984 件の内、 308 件は未解決であり、その他は取り下げられた。 建築業者が破産もしくは追跡不能、

或いは公正取引局の所管外の事案であった。OFT, A Year in Review 2006-7,

http://www.fairtrading.nsw.gov.au/pdfs/corporate/publications/ft333.pdf , pp 29-30 参照。

16 2003-4 年は 73%が知っていると答えたのに対し、2006-7 年は僅か 66%の認知度だった。同書 pp 18-19。苦情

の多くは公正取引情報センターのフリーダイアルに電話で寄せられ、サービス要請の総数約 650 万件の内、 毎年約 100 万件が該当する。しかし苦情内容の比率を見ると、住宅建築 (13%) 、公正取引一般 (24%) は借家 人 (33%)より低い。他は事業規制 (13%)、車 (13%)。同書 p 21。

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2.2 少額訴訟制度 増加する事件数やコストの削減を図るため、1990 年代以降、オーストラリアの異なる管轄 区において数多くの通常裁判所が、民事事件において裁判所付属 ADR への強制付託制度を導入 した。しかし、低コストの「少額訴訟審判所」や他の専門裁判所が紛争解決にとり最も重要 であることには変わりない。当該裁判所の通常審理は略式で短く、実際多くの事件が審理前 に終結する。少額訴訟審判所の設立は、1960 年代から 1970 年代に司法へのアクセスについて 議論された結果生じた、オーストラリアにおける紛争解決制度の三つの大きな変革の第二点 目と考えられる。コミュニティー司法センター(上記第 2.1.1 部に記載)に比較して、当該裁 判所は消費者及び貧困者のニーズに特に傾注している。他の消費者保護を求める市民から更 なる推進力が沸き起こり、それを政治家が取り上げ、1974 年の取引慣行法等に結実した。少 額訴訟審判所の人気の高さは、強力な事前規制の代案として手軽な制度を用意し、実際それ は事業者にも納得してもらいやすいものであったことが一因であると考えられる。 1973 年に最初の少額訴訟審判所がクイーンズランド州で設立された。ほとんどの州がまず (専門家による)特定紛争審判所(specialist Tribunals、例:ニューサウスウェールズ州、 ヴィクトリア州)を設置したが、その代わりに通常審理に簡易手続を加えたところもあった (例:サウスオーストラリア州)。他の審判所や特定紛争解決機関が 1970 年代から急増し、 効率のよい規模の審判を求めて、また、機関や手続の調和を求めて合併を推進する声が高ま った。例えば、1998 年には少額訴訟審判所と住宅借家人審判所が併合され、新たにヴィクト リア民事行政審判所(Victorian Civil and Administrative Tribunal:VCAT)となり、管轄の 訴額の上限が引き上げられ、少額請求に強制調停の可能性が導入された。 同様にニューサウスウェールズ州では、公正取引審判所と住宅審判所が併合され、2002 年 に公正取引局内において CTTT が再編成された。CTTT はまさに公益主導機関であり、「より優 れたより公正な市場を構築するのに役立つ利用しやすく迅速で費用対効果の高い紛争解決サ ービス」を消費者に提供することを目的としている。その8つの事務所において年間約 6 万 件の苦情を処理しており、その管轄は住宅・借家人関係紛争、自動車、一般消費者と企業と の問題にも及ぶ。その内訳は借家人関係紛争が全体の約 3/4 を占め、一般消費者関係は約 10%、住宅建築関係は約 7%、自動車関係が約 2%となっている。 CTTT は当事者間の調停の促進し、また調停が不成立の場合は拘束力のある決定を行うとい う2つの権限を有する。取り扱う事件の約 3/4 は、審理前に、もしくは滅多にないことではあ るが、決定直前に通常開かれる調停期日に調停が成立する。ほとんどすべての調停や審理は

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一人の審判所構成員が行い、積極的に議論や証拠収集手続に関与する17。特に複雑な建築紛争

では迅速な事件処理が採用される。25,000 ドルを超える紛争の場合、特定紛争審判所構成員 は合同会議もしくは現地での協議に当事者の鑑定人を参加させることができる18。消費者・取

引業者・借家人審判法(Consumer, Trader and Tenancy Tribunal Act 2001 (NSW))は、状況 に応じて柔軟かつ変則的に独自の手続を広く定めることができるような権限を審判所に与え ている。例えば、書面のオンライン提出や電話による口頭弁論や証拠手続を認めているが、 これまでのところ書面のみに基づく判断の事例はほとんどない。消費者事件の多くは、消費 者が低額の申立料を支払って、一般・住宅建築・自動車部門が手続を執り行う。自動車及び 一般事件の管轄訴額の上限は 25,000 ドルだったが 2007 年 9 月 1 日より 30,000 ドルに引き上 げられた19 。当該部門で扱われる消費者事件の多くは、住宅建築紛争(500,000 ドル以下)と 異なり、当事者は自分の代わりに弁護士を代理に立てることは出来ない。これには、形式張 らずに相互に受け入れ可能な結果を求めることを重視する審判所の考えが背後にある。加え て、費用があまりかからないようにするためである。(オーストラリアの通常裁判所の手続 のように)被告が勝った場合に費用を負担しなければならないことを懸念する消費者にとり、 利用しやすいように制度設計がなされている。さらに非公式性を進めるため、万一決定が 「公正・衡平」でなかった場合、再審が行われるようになっている。他方、「法律の瑕疵」 が認められた場合、ニューサウスウェールズ州最高裁判所に上訴することができる。しかし ながら、毎年、上訴件数はわずか 20~30 件ほどで、ほとんどすべての事件は却下もしくは CTTT へ差し戻される20 一般に少額訴訟審判所についてオーストラリアで議論され続けている問題は、適切な管轄 訴額と料金、遅滞の可能性、手続および実体的判決理由の非公式性(審判所は法の適用に拘 束されるべきか、より広い公正を加味してもよいか)、弁護士その他代理人の関与、利用類 型(企業による申立を認めるかどうか、企業の債権回収請求に追われる危険性がある。不利 な立場にある社会集団や民族が十分に代表されていない。)等についてである。オーストラ リア全域でこれらの問題や他の点について相当の多様性が見受けられる。そこで、生産性委 員会のオーストラリアの消費者政策の枠組についての政府調査の草案は、勧告案 9.3 において、 17 CTTT は当事者が紛争解決に至るよう最善を尽くさなければならないため、審理前に審判所構成員(審判所所

長 Tribunal Registrar ) により 執 り 行 わ れる 事 前 の 協 議( preliminary conference )の 期 日 中 に 調停 (conciliation)を予定に入れる(第 54 条)。当事者は合意に至るよう強制されることはなく、提出された 情報は当事者の同意なしにその後の審理手続に使用することはできない。(法律はまた CTTT の費用による外 部の調停への付託を規定しているが、これは係争額が大きな場合や類似事件について複数の請求がなされて いる場合(例:高齢者村において)等に限られる。)当事者は口頭弁論準備書面に記入し、書面をやり取り しなければならない。調停人の前で和解が成立した場合、調停人は当事者が審判所命令(Tribunal Order) を作成する手助けをする。不成立の場合は、通常即座にもしくは同日中に審理手続に移行する。

18 CTTT Annual Report 2006-7, p 10 and p 18. 審判所構成員は当事者及び/もしくは訴額の高い紛争の場合

任命される技術専門家と共に係争物件の現場を訪問する。

19 www.fairtrading.nsw.gov.au/corporate/legislation/consumerclaimsactamendments.html 参照。(CTTT の管

轄を拡大するための他の施策を詳述。)申立料:32 ドル(訴額 10,000 ドルまで)、65 ドル(10,000 ドル~ 25,000 ドル)、172 ドル(25,000 ドル超)

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特に管轄訴額と料金の統一化および当事者の反対がない場合は提出書面のみに基づく決定の 増加を提言している21 様々な審判所が一定の消費者紛争の種類に応じて専門部を設けているため、さらに多様性 が広がっている。例えばヴィクトリア州では、ヴィクトリア民事行政審判所(VCAT)はクレジ ット、法律実務、住宅建築に関する消費者紛争に通常調停を利用する。少額(15,000 ドルま で)の住宅建築紛争については、別個の調停に付すことは大抵ない。さらに、調停が試みら れたが不成立の場合、即座に審理手続に移行する。それと対比して、15,000 ドル以上 100,000 ドルまでの請求事件は自動的に調停に付される。約 70%の調停が成立し、時間と費用の大き な節約に繋がっている。調停が不成立の場合、通常同日に「将来の方針決定のための審理 (directions hearing)」が行われ、審判所は再び調停を試み、専門家に関する規則および証 拠提出期日を定める。より大きく複雑な事件は直接「将来の方針決定のための審理」に付さ れ、その後通常「強制協議(compulsory conference)」という審判所構成員が行う評価型調 停(調停人が法的問題や主張の整理を助ける)に似た手続に移る22。ヴィクトリア民事行政審 判所は調停人のための詳しい行動規範を有している。調停人は、民間の調停人や常勤および 非常勤の審判所構成員と共に審判団(Panel)に任命される。また最近、専用の「調停センタ ー」設備を開設した23 ヴィクトリア民事行政審判所は、特に住宅建築紛争については、ニューサウスウェールズ 州における同等の機関である CTTT よりも成功しているようである。2007 年 12 月、ニューサ ウスウェールズ州立法審議会(議会上院)は公正取引局における「住宅建築サービスについ ての調査」を公表したが、特に CTTT に批判的な内容であった。2006 年 12 月に公正取引局が 完了した「運営審査」や 2007 年 6 月に外部のコンサルタントが行った審査、並びに消費者や その他(CTTT 自身によるものはないが)から寄せられた調査への種々の意見において特定さ れた問題がまとめられている。主な批判は、特により複雑で技術的な住宅建築紛争における 経験や遅滞・費用の意識および審判所構成員の専門性の不足に集中した。この調査報告書は CTTT に 2006 年及び 2007 年の審査結果の迅速で実質的な実施の完了を求め、CTTT を特に対象 とした議会の別の調査の立上げを検討していることを記述している。また他にも公正取引局 がマックォーリー司法センター(Macquarie Legal Centre;コミュニティー司法センターの1 つ)が行っている小規模の住宅建築弁護サービスについて 2007 年後半に完成した報告書を公 表し、最終的には CTTT での処理に終わることになるかもしれない住宅建築紛争用の大規模で 長期的な弁護サービスを公正取引局自らが消費者のために設立するよう勧告している。 21 前掲 pp 163-5. 22 http://www.vcat.vic.gov.au/CA256902000FE154/Lookup/domestic_building/$file/mediation-

domestic_building.pdf with http://www.vcat.vic.gov.au/CA256DBB0022825D/page/Mediation-Code+of+Conduct?OpenDocument&1=30-Mediation~&2=10-Code+of+Conduct~&3=~と比較

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(より少ない)事案を早期紛争解決を行うために強制的に付される住宅建築サービス(Home Building Service (HBS))制度を導入した住宅建築法(Home Building Act (NSW))の改正にも 関わらず、上記(第 2.1.3 部)及び下記(第 3.1 部)に詳述の通り、より複雑で技術的な住宅 建築紛争における経験や遅滞・費用の意識および審判所構成員の専門性の不足といった CTTT に係る問題24は依然として解決されていない。ニューサウスウェールズ州では、毎年約 45,000 件の住宅が新築され、約 150,000 件の登記住宅が改築されるため、住宅建築紛争は深刻な問題 である25。住宅所有者は自分の住宅に愛着心を持ち多額のお金を投資するので、建築業者との 紛争は頻繁に起こり即座にエスカレートする。1997 年、3つの公的調査(特に「Dodd 報告 書」)を受けて、政府機関である建築サービス法人(Building Services Corporation)が再編 され、ライセンス、保険、検査権限の一部が、消費者省と共に新しい公正取引局に編入され た。しかしながら、政府の広範な規制改革の余波を受けて、住宅建築事業を監視する検査官 は公務員である必要が無くなってしまった。それにより、住宅所有者は民間の「建築コンサ ルタント」を検査官として雇うことが認められ、実際多くの人がその方法を採った(コスト 削減よりむしろ迅速なサービスを求めて)。さらに、当該コンサルタントは消費者や建築業 者に公正取引局内の公正取引審判所においてさえ住宅建築紛争の鑑定人としてかなりの費用 で雇われるようになってきた。当該審判所が 2002 年に CTTT の一部になったとき、無料で紛争 調停に関与する 28 名の公的検査官を含む「調停・コンプライアンス」課と共に、住宅建築サ ービスが公正取引局内に設立された。下記(第 3.1 部)に詳述の通り、他の多くの紛争が手続 の初期段階で解決されるようになってきている一方、未だなお住宅建築紛争の多くは、費 用・遅滞・技術の専門性不足等、同様の問題を抱えている。 2.3 民間型 ADR (特に業界オンブズマン制度) 2.3.1 完全民間型 ADR ADR サービスを有料で提供する多くの他の民間組織や個人による消費者紛争の解決はほとん ど見られない。例えば、民事紛争の仲裁は、主に英国の法制度や実務からの流れで、オース ト ラ リ ア に は 長 き に 渡 る 伝 統 が あ る 。 仲 裁 人 協 会 ( Chartered Institute of Arbitrators(CIArb))といった組織は、仲裁人への研修や仲裁人の任命および仲裁手続の運営 支援を行っている。しかし消費者紛争ではなく、圧倒的に企業間の紛争解決に集中している (ベルギーやごく最近では米国において企業や団体が契約の標準書式に仲裁条項を挿入する ようになったことから)。オーストラリアにおける仲裁もまた営業用不動産に関わる紛争等 の極めて特殊な分野においてのみよく使われてきた。オーストラリアの消費者は企業と基本 契約を結ぶ際に、もしくは紛争が生じた後に、紛争を仲裁で解決することに同意する場合も あるが、これは極めて稀である。問題となるのは、消費者問題特有の事案に対処できる仲裁

24 General Purpose Standing Committee No 2, Report 25, pp 52-61,

http://www.parliament.nsw.gov.au/prod/parlment/committee.nsf/0/D9F780D9C38E3EFACA257325001AAA11

25 General Purpose Standing Committee No 2, Report 25, pp 52-61,

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人や仲裁機関の専門性や研修の不足である。別の障害は、民間型仲裁は時間がかかり特に費 用が高いことである26。そのような問題により、1980 年代以降、商事紛争には民間型調停が広 く利用されるようになった。しかし、当該紛争に巻き込まれる消費者にとっては、種々の政 府支援型調停を無料で利用することができ(上記 2.1 部および下記 2.3.2 部参照)、少額訴訟 審判所において低費用で紛争解決を図ることができるため(上記 2.2 部)、民間型仲裁にかか る費用は常に高額すぎると考えられる。 2.3.2 オンブズマン及び他の業界ベースの制度 おそらく消費者の苦情を最も多く扱っている民間型 ADR 機関は業界団体ベースの制度であろ う。1980 年代後半から急増し、「オンブズマン」制度と呼ばれる。これは、これまで主に政 府の独占事業であった公益事業等が自由民営化されたことに由来している。それ以前は、政 府機関によるサービスに関する苦情は公的「オンブズマン」制度により処理されていた。 しかし 1970 年代から各州において民間の制度が設置されるようになった。これは、「司法へ のアクセス」への関心の高まりによる、コミュニティー司法センターや少額訴訟審判所の設 立と共に挙げられるオーストラリアにおける ADR の第三の主要な発展である。現在も公的「オ ンブズマン」制度は他の政府活動に関する多くの苦情を取り扱っており、当該制度は裁判所 制度や行政審判所に比べてより非公式なものとなっている。しかし、政府が直接サービスを 提供しなくなった分野においては、民間の業界団体が独自の非公式な「オンブズマン」制度 を設立し、消費者からの苦情の解決にあたっている。政府の関与がほとんどなかった分野に おいても同様の制度が創設されてきた。これら新しい「オンブズマン」制度はほぼ完全に民 間である。但し、反競争効果について業界団体を取り調べる場合は、ACCC が最小限の政府規 制を加えることもあり、消費者に副次的に効果がもたらされる。 しかしながら、歴史的経緯を反映して、最大のオンブズマン制度は未だかなり政府による 監督を維持する傾向にある。電気通信業界オンブズマン(TIO)は政府と最も直結している制 度に分類される一例である。電気通信業界オンブズマン制度への参加は、1993 年に制度が開 始されて以来、電気通信事業者として認可を受けるための法的要件となっている。この制度 はインターネット・サービス・プロバイダー(ISPs)や携帯電話サービス事業者に拡張され、 1999 年電気通信(消費者保護・基準)法(Telecommunications (Consumer Protection and Standards) Act 1999(連邦法))の下、現在約 1000 の会員を誇る。第 128 条は、当該制度に より消費者に無料で調査・指導・決定の手続を行うよう規定している。この法律はその他の 詳細についてはあまり規定していない。電気通信業界オンブズマンは 2007 年、プレミアム携 帯電話サービスに関する苦情を含み約 10 万件の苦情を扱った。ほとんど全ての苦情は、電気 通信業界オンブズマンが事案をサービス・プロバイダーに差し戻す等して非公式に解決され た。しかし約 800 件は、(消費者ではなく)会員のみを拘束する 1200 ドルまでの「決定」に より解決が図られた。また 56 件の紛争を「レベル4」と呼ばれるものに昇格させた。つまり 26 CIArb が中小企業・消費者間紛争用に検討した調停・仲裁はまだ運用されていない。 http://www.arbitrators.org.au/4627,01,1-0-Mediation-arbitration+scheme.php 参照。

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これは、苦情を却下、拘束力のある決定、1 万ドルまでの指導、(滅多にないが)5 万ドルま での拘束力のない勧告を行うことができるものである27

あまり直接的ではないが、ある意味、より強力な政府規制が働く、第二類型に分類される 制度が金融サービス事業者に纏わるものである。2001 年金融サービス改革法(Financial Services Reform Act 2001 (連邦法))では、オーストラリア金融サービス・ライセンスを取 得するためには、オーストラリア証券投資委員会(Australian Securities and Investment Commission:ASIC、1998 年より当該分野の監督機関)により承認を受けた外部の紛争解決機関 の会員になることが求められ、ASIC は当該承認のための方針(PS139)を策定した。この方針は 1997 年に連邦政府が公表した国家の「業界ベースの消費者紛争解決制度のためのベンチマー ク(‘Benchmarks for Industry-based Customer DR Schemes’)」に大幅に追従しており、実 務の要点および利便性、独立性、公正性、説明責任、効率性・効果性の基本原則を打ち出し た。これらの制度はすでに政府のベンチマークに合致して立案されていたので、主な民間オ ンブズマン制度は ASIC の承認を得ることができ、その会員もライセンスを取得することがで きた。 最初の「民間」オンブズマン制度は、1989 年に創設されたオーストラリア銀行業オンブズ マンであり、英国で 1987 年に設立された銀行オンブズマン制度に着想を得た。2003 年 8 月に オーストラリアの制度は、25 の会員銀行の活動範囲の拡大と広範な金融サービス市場との関 連 を 受 け て 、 銀 行 ・ 金 融 サ ー ビ ス オ ン ブ ズ マ ン ( Banking and Financial Services Ombudsman :BFSO)と改名された。次に設立された民間制度は、現在の損害保険照会・苦情受 付会社(General Insurance Enquiries and Complaints Ltd:IEC、1991 年創設、現会員:83 の 保険会社)および金融業会苦情サービス(Financial Industry Complaints Service:FICS、 1991 年生命保険会社向けに創設、現在 2500 会員を有し、管理投資、ファイナンシャル・プラ ンニング、株式仲買等のサービスも提供)である。その後、多くの小規模オンブズマン制度 が設置され、特に保険ブローカーや消費者信用組合等の特定金融サービス向けや電気通信業 界オンブズマンや水道・エネルギー供給に関するもの等、政府とより直結した制度が生まれ た。2003 年には、主要な制度が年間約 25 万人の事件処理を行い、その大半は住民や小売客で、 合算で 2500 万ドル超の予算がつぎ込まれたと推定されている。これら全てが消費者による苦 情という訳ではないが、例えば 2004 年には、BFSO(職員数 44 名)は 32,000 件を超える電話 を受け付け、その中から書面により 6104 件の新しい紛争を受理した(90%が個人からのもの、 27 http://www.tio.com.au/publications/annual_reports/ar2007/annual_200704.html 参照。制定法上の基本原理 に関わらず、TIO のウェブサイトは政府や業界(注:業界から財政支援を受けてはいるが)及び消費者の利 益から独立して運営していることを強調している。「TIO は評議会(Council )及び理事会(Board of Directors )により統治され、評議会の推薦に基づき理事会が任命した独立したオンブズマンにより運営さ れる。評議会は TIO メンバーの代表 5 名と消費者の代表 5 名から成り、独立した議長を有する。その中には 元通信大臣の経歴の持ち主や弁護士もいる。オンブズマンは制度の日常運営に対し責任を負うが、政策や手 続き上の問題については評議会がオンブズマンに助言を与える。」と掲載されている。

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1402 件のオンライン受付を含む)。約半分が 60 日以内に解決されるが、90%は BSFO が苦情 を転送して正式調査が開始される前にサービス提供者により解決が図られる。 このように紛争解決の成功率が高い主な理由は、当該制度が消費者の費用負担なしに認可 供給業者に対する請求を認めており(要求はしていない)、その決定が消費者ではなく供給 業者のみを拘束するからである。これはオンブズマン機関が調査開始後に解決を勧めるのを 容易にしている。通常、職員が一方当事者の口頭もしくは書面による主張や証拠を他方当事 者に伝える「シャトル外交」手段が用いられる。そのため、これは日本の消費者生活センタ ーや業界団体ベースの製造物責任 ADR センター28において利用されている紛争解決促進技術 (斡旋)に類似している。 しかしながら、後者のセンターについては、専門的に訓練を受けた独立した調停人による 正式な調停が十分に行われていないという批判がある。さらに、事件が企業のみを拘束し消 費者を拘束しない決定というレベルに昇格させられるリスクを企業は負うため、オーストラ リアの業界制度の方が消費者にとって好ましいと思われる。また、当該決定は一般的に厳格 に法律に従う必要はなく、規範やその他適正な業界慣行の基準(例:FICS Rule 5)を満たせ ば足りるため、上記のようなレベル昇格によるリスクがより高まることになる。 しかし、当該決定の厳密な法的根拠についてオーストラリアの裁判所は未だ明確な判断を 下していない29。他の点について、オーストラリアのオンブズマン制度の評価は分かれている。

1999 年に公表された消費者救済研究(Consumer Redress Study)において、連邦財務省 (Commonwealth Treasury)は、「制度の利便性について消費者は大いに満足しており、制度 の独立性についての満足度には大きな差があり、紛争の結果については一般的に不満足であ る。」と報告した。FICS が 2002 年から 2003 年にかけて行った調査によれば、調査対象とな った苦情申立人の半数以上が相手方との対面による議論を行う方が、(拘束力のある)勧告 や決定を行う手続よりも紛争解決手段として望ましいと考えている。何故なら、そのような 議論は「より公正(27%)」であり「時間を節約(27%)」できるからであり、また特に「事 案について十分に説明する機会(82%)」が与えられ、「企業が状況を理解(53%)」し、 「相手方の意見を聞く(40%)」ことができるからである。FISC は初期の段階で、電話会議 によることが多いものの、より公式な調停を導入することにより対応している30 他によく挙げられる提案として、(1)制度の組織機構の簡素化(2)制度間における協 同(例えば IT を通じて)(3)制度の併合を検討(より焦点を当てた制度の長所や英国の数

28 Nottage, Luke R. and Yoshitaka Wada, ‘Japan's New Product Liability ADR Centers: Bureaucratic,

Industry, or Consumer Informalism?’ Zeitschrift fuer Japanisches Recht (Journal of Japanese Law), Vol. 6, pp. 40-81、および SSRN: http://ssrn.com/abstract=837965 参照。

29前掲の EC への報告書 pp 5-6 を参照。特にどの法律に基づくのか不明確である。(a) 行政法 (例えば、企業

会員のみが公平性や決定者の指導等について訴えることができ、消費者の唯一の選択肢は決定に従わないこ とだけである。)(b) 仲裁法(企業会員および消費者双方が仲裁法制に頼ることができる。)(c) 契約法

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百人もの職員を抱える金融サービスオンブズマン制度の道を辿る危険性の双方について認識 してはいるが)(4)新興の体系的問題を特定・対処しながらも、各苦情を解決する中で生 じる対立に敏感であること(5)弁護士の関与に上手く対処する(特に会員企業を代理する 弁護士に敵対的アプローチを採らないよう奨励する)(6)低所得者や他の弱い消費者への 支援の促進を行う必要があるとされる。生産性委員会の最近の草案は、消費者金融や関連金 融案内に従事する全ての事業者は ASIC が求めているような金融サービス業向けのオンブズマ ン制度に入ることを規制により強制することを助言している。勧告案 9.2 は以下の通りである。 「オーストラリア政府は、消費者のため、次の手段により ADR の効果を改善すべきであ る。 ・電気通信業界オンブズマンの機能を拡大して、全ての電気通信プレミアムコンテンツ サービス、有料テレビ放送、その他の関連サービスやハードを対象とする。 ・関連する既存の州や準州の ADR 機関を統合した国家エネルギー・水道オンブズマンを 立ち上げる。 ・金融 ADR サービスの更なる統合。 – 既存の金融 ADR サービスを統合して消費者向け紛争解決を1つの傘下に収めるが、 その傘下で各機関の独立性を維持したサービスを行う余地を残す。 – 取り扱う消費者紛争について共通の訴額の上限を採用する。 –クレジットを含む新たな業界 ADR サービスは全てこの制度の一部になることを求め る。 ・業界ベースのオンブズマン制度にカバーされないあらゆる消費者の苦情を一貫して扱 う効果的・適切に財政援助された ADR のメカニズムを確保する31 オーストラリアにおける業界制度の第三の類型は、政府との共同規制によるものである。 業界もしくは専門家団体は、その設計、構造、運用、資金に関して共同で責任を負う。この ような機関はたいてい「コミッショナー」が主導し、特に官民の医療サービスや法律サービ スによく見られる。ニューサウスウェールズ州法律扶助委員会( NSW Office of the Legal Services Commissioner (OLSC))は主に法廷弁護士や事務弁護士に対する消費者の苦情を調停 しており、詳細は下記 3.1 部に記載する。 2.4 ADR 制度の中における消費者団体の役割 31 前掲 pp 156-62 参照。最後に挙げた ADR メカニズムは事業者に拘束力のある決定を下すことはできないが当 事者に調停に参加するよう強制することができる機関を想定している。私見では、消費者ではなく企業だけ が当該調停への参加を強制されることを明確にすべきであると考える。

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オーストラリア消費者協会(人気のある月刊誌名「Choice 」に最近名称変更しイメージチ ェンジを図った)は、消費者の利益を促進するため設立された完全民間組織である。しかし ながら、現在は主にその会員および他の消費者に特に製品・サービスの品質や安全に関する 情報を(特に月刊誌「Choice 」や一部会員専用のウェブサイトを通じて)提供している。 また、現存の政府や産業界の制度(2.3.2 部に記載のオンブズマン制度等)や法律・政策改正 討論に関する「消費者の声」を提示している。毎年、協会は消費者から約 1 万件の電話を受 け付け、協会にとり重要なものとして記録している(例:製品の安全性について、その他キ ャンペーンや政策の発案について)。おそらく電話のわずか約 2%が特定の苦情に関するもの である。協会の職員は法的情報や法的助言を与えないが、消費者に業者との問題解決に関す る消費者の権利や情報等一般的な助言は与える(ウェブサイトからも入手可能)。Choice は 消費者と供給業者の間に立って交渉促進に関わることは滅多にないが、代わりに、そのよう な要請を受けると、当該サービスを提供する機関(ACCC や特にニューサウスウェールズ州の 公正取引局に相当する州の機関等)やより公式な紛争解決を提供する機関(CTTT や次のセク ションで説明する業界オンブズマン制度等)に付託する。しかしその一方で、潜在的な問題 分野を特定し、Choice 誌に掲載し、消費者問題について規制当局や他の政策立案者と交渉す るための情報入手源として、消費者からの当該要請に頼っている部分もある。 3. 消費者 ADR の詳細な論議 本稿の 3. では、おそらく日本では特に関心が高いと思われるが英語の文献もあまりない消 費者 ADR の2つの類型に関する手続と構造に焦点を当てる。まず、住宅建築紛争解決はニュー サウスウェールズ州公正取引局(NSW OFT)が担当しているため、完全なる「行政型 ADR」で ある(第 3.1 部)。一方、ニューサウスウェールズ州法律扶助委員会(NSW OLSC)は、州政府 およびニューサウスウェールズ州事務弁護士会と弁護士協会の共同規制によるものなので、 「行政型 ADR」と一部「民間型 ADR」の側面を有する(第 3.2 部)。 3.1 ニューサウスウェールズ州公正取引局住宅建築紛争解決 上記(第 2.1.2 部)に記載の通り、2003 年に行われた法制改革により、CTTT に移管される 前に公正取引局により解決される住宅建築に関する苦情件数は大幅に増大した。2006 年 7 月 1 日から 2007 年 6 月 30 日の 1 年間に、公正取引局公正取引センターが受理した消費者からの申 立件数は 5652 件で、99%が 30 営業日以内に次の 3 つの方法の何れかにより処理された。1 つ 目はセンター職員が大抵別途電話をかけて建築業者と連絡を取ることにより、2251 件が解決 した32。2 つ目はセンターが 1344 件の申立を別の機関や CTTT に付託した。3つ目の方法は、

32 NSW Inquiry Report No 25 (December 2007) p 48, Figure 4.1 data and flowchart 参照。更に 2008 年 3 月 28

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残り 2057 件を公正取引局の住宅建築サービス(HBS)に付託したものである。HBS はこの他に 消費者から直接 460 件の書面による申立を受理した。この両者を合わせた 2517 件の 95%の予 備的査定を 10 営業日以内に完了した。単にコンプライアンスの問題に関するものについては (例:建築業者が無認可であるという申立)、正式調査のため HBS の調査部に送致された。他 に、HBS の 28 名の検査官による係争物件の現地査察を行わずに、例えば(軽微な紛争の場 合)警告書の送付により解決される事案もあったが、ほとんどの事件(2517 件中 1784 件)で は、当事者立会いの下、検査官による現地査察が行われた。検査官は事件の付託を受けてか ら 2 日以内に 97%の申立人と連絡を取り、平均 19.5 日以内に査察もしくは付託を行い、査察 後 5 日以内に「申立査察勧告(‘Complaints Inspection Advice’ (CIA))」を公布した。従 って、HBS の検査官は CIA を合計 33-41 営業日(7-8 週間)以内に公布していることになる。 CIA とは、通常の建築業務や事案のあらゆる状況に鑑みて、紛争解決のために建築業者(時に 消費者)が為すべき内容が記された検査官の査定文書である。すべての当事者が署名を行う が、法的に拘束力のある契約書ではない。(従って、企業間の建設紛争で頻繁に利用される、 ある種の拘束力のない「専門家の決定」による紛争解決のようなものである。)しかしなが ら、ほとんどの事件(1784 件中 1533 件)において、当事者は CIA に従い、事案は解決されて おり、残り 251 件のみが CTTT へ付託されている。 検査官により行われる現地での調停手続中に、深刻な問題が生じることもあり、それは懲 戒処分(例:是正命令、「理由明示」要請、戒告、ライセンス没収)の対象となる可能性も あるため、HBS の調査部への報告書に記載される。調査部は別の職員を調査に当てるが、検査 官の報告書は機密扱いとはされない33。また、CTTT における建築業者と消費者間のその後の民 事手続において証拠として採用され得る。私見では、このことが一因で、最終的に CIA を作成 することになる検査官の現地調停の成功率が高くなっていると思われる。第二の要因として は、関連業種における背景が考えられる。ほとんどの業者は、建築業のライセンス並びに紛 争の対象となる特定の業種において資格や経験を有しており、同業者の専門家に信頼を置い ている。また苦情を申立てる消費者も素人に技術的・慣例的な基準を説明してくれる中立的 な公務員を信頼することができる。更に、28 名の検査官の半数は正式認定を受けた調停人で あ り 、 残 り 半 数 は 紛 争 解 決 者 協 会 ( LEADR – Association of Dispute Resolvers (www.leadr.com.au))による基本的な調停技術研修を修了した者である。成功の第三の要因と しては、調停の非公式で威嚇的でない性質が挙げられる。手続は CTTT(或いは裁判所)では なく、消費者自身の「領地(自宅)」もしくは現地で審判所構成員(又は裁判官)を関与さ せて行われる。第四に、検査官による当該調停は初期の段階で行われる点が挙げられる。よ Service)のインタビューを基に詳述。センターが解決した 2251 件の内訳は、消費者による取下げ、建築業者 による全面的容認もしくは救済、当事者間の和解によるものである。 33検査官や他の公正取引局職員は、CAV の調停に携わる職員等のように公的な「調停政策(‘Conciliation Policy’)」の対象とならない。 http://www.consumer.vic.gov.au/CA256902000FE154/Lookup/CAV_Publications_Reports_and_Gu idelines/$file/conciliation_policy_sept_04.pdf . しかし、後者の「原則」は明示的に守秘義務を含んでい ない。

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り公式で法的な(そのため素人にとっては分かりにくい)書面を CTTT や裁判所に提出する必 要が生じる前に調停が行われることになる。裁判所に訴える場合、出訴料や弁護士や専門家 に支払う訴訟費用が必要となるが、検査官は無料で技術的サービスを提供してくれるのであ る。 ニューサウスウエールズ州議会の最近の HBS に対する調査(上記第 2.2 部記載)は、当該制 度の更なる改善を勧告した。センターや HBS 職員が消費者に十分かつ正確な情報を提供できる よう、また検査官が関連業種における能力(p 51)を養成するよう、より良い研修を行うこと を求めている。しかしながら、HBS は、CTTT が住宅建築紛争を解決する際に直面している問題 に比して、センターや HBS が当該分野において上手く機能していることを自負しているようで ある。HBS はまた、同様の早期紛争解決を他州、例えばタスマニア州やヴィクトリア州(より 効率的な VCAT 制度を目指しているものと思われる)でさえ検討していることを指摘している。 従って、HBS は調査の更なる勧告の中でも、(消費者だけではなくむしろ)例えば消費者が欠 陥建築の疑いやその他の理由から最終支払を差し控えているのを迅速に解決するため、建築 業者が HBS に申立をする手続に焦点を当てている。現状ではこのような場合、建築業者が採り 得る選択肢は一般的に CTTT もしくは裁判所に消費者を提訴するしかない。この段階では、紛 争はすでに高額な費用を要する正式な手続になっているので、調停が成立する見込みはあま りない。事件が審理手続に移行すれば、審判所や裁判所の手続は、HBS の早期紛争解決手続に おいて当事者が争点整理を行うよりもずっと長い時間がかかることになる。34 34 2006 年 7 月 1 日から 2007 年 6 月 30 日にかけて、例えば、CTTT の住宅建築部門は 3709 件の申立を受理し、 その内 2/3 が消費者、約 1/3 が建築業者によるものであった。申立の内、 48%が 28 日以内に審理手続に入り、 65%が第一回期日において或いはそれ以前に解決され、36%が 35 日以内に解決された。 CTTT Annual Report 2006-7 p 24 参照。同期間において、最終的に CTTT まで行った HBS が扱った全ての事件の内、83%が 35 日以 内に第一回期日を開き、68%が一日の弁論期日では終結しなかったが、39%が 49 日以内に解決されている。 (前掲、調査 p 48)

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Figure 4.1 Office of Fair Trading complaints resolution process 2006-2007, showing volume of complaints and performance in relation to them167

48 Report 25 – December 2007

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3.2 ニューサウスウェールズ州法律扶助委員会

州により、法律扶助のユーザーと弁護士間の紛争を解決する制度は幾分異なる。この分野 における先駆者はニューサウスウェールズ州であり、法律扶助委員会が最初に当該紛争を処 理した。同様の制度がクイーンズランド州やヴィクトリア州そして最近英国で開始された35

法律扶助委員会(OLSC)は 1993 年にニューサウスウェールズ州法制改革委員会が「法律専門 職 の 精 査 ― 弁 護 士 に 対 す る 苦 情 」 ( ‘Scrutiny of the Legal Profession – Complaints Against Lawyers‘)という報告書36を公表した翌年に設立された独立法定機関である。この機 関は司法総督府を通じて議会に報告を行うが、コミッショナーの決定は自身もしくは議会に よる再審査の対象とはなっておらず、ニューサウスウェールズ州最高裁判所による不服審査 (例えば自然的正義違反)の対象となっているのみである。OLSC はニューサウスウェールズ 州や連邦政府から直接助成を受けているのではなく、弁護士が保有する信託基金を通じて得 た利益を基にした公共目的基金(PPF)により資金が拠出されている。OLSC は政府との共同規 制制度の一環として、ニューサウスウェールズ州事務弁護士会(Law Society of NSW:事務弁 護士の専門家団体)およびニューサウスウェールズ州弁護士協会(NSW Bar Association:法 廷弁護士の専門家団体)と共に、職業上の行為やお粗末なサービスに関する苦情を調べ紛争 解決に当たっている37。その任務は、効果的な苦情処理を行うことにより法律扶助に対する消 費者の満足度を向上させ、職業上のコンプライアンスを促進し、弁護士が消費者問題に集中 するよう奨励するばかりではなく、法制度に対する住民の現実的な期待を向上させることに ある。その中核となる価値は 1993 年の報告書に遡るが、「公正性、利便性、信頼性、問題解 決、教育、チームワーク、社会正義、改革、共感」である38 OLSC が設立される前は、事務弁護士会と弁護士協会のみが自らの会員に対する苦情を処理 していた。弁護士規則の下で違法行為となる深刻な事件のみを扱っていたので、ほとんどの 苦情を調査せず、調査した中でも僅かな事件についてのみ、規則に従い制裁を加えた。その ため、特にクライアントからの大きな不満を招き、偏見が見受けられた。1993 年の報告書及 び OLSC の制度はこのような懸念に対処するべく、政府を巻き込み共同規制制度を創設し、違 法行為による懲戒処分にまで至らないようなお粗末なサービスに対する苦情も対処しようと 試みた。 制度運営開始初年度には、OLSC は 6700 件の電話相談を受け付け、2801 件の書面による申立 を受理した。2005-6 年は、ニューサウスウェールズ州の法廷弁護士や事務弁護士の総数が 35 例えばヴィクトリア州では、法律扶助委員会は 3318 件の問合せを受け、554 件の調停を行い、21 件の正式 決定を行った。(前掲: Fields) 36 No 70, http://www.lawlink.nsw.gov.au/lawlink/lrc/ll_lrc.nsf/pages/LRC_reports . 37 2007 年まで OLSC は不動産譲渡専門弁護士に対する苦情も扱っていたが、現在は NSW OFT(不動産譲渡専門弁 護士を所管する政府機関)が直接扱っている。

38 OLSC Annual Report 2005-6 参照。

http://www.lawlink.nsw.gov.au/lawlink/olsc/ll_olsc.nsf/pages/OLSC_ar0506; and also http://www.lawlink.nsw.gov.au/lawlink/olsc/ll_olsc.nsf/pages/OLSC_aboutus .

Figure 4.1   Office of Fair Trading complaints resolution process 2006-2007, showing volume of  complaints and performance in relation to them 167

参照

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