日本産科婦人科学会香川地方部会雑誌 vol. 4, No. 1, pp.13 - 17, 2002 (平 14,9月 13 一 症 例 一
チョコレート嚢腫管理中に発生した
卵巣類内膜腺癌の
1
症例
高 松 赤 十 字 病 院 産 婦 人 科 上 田 万 来 日 , 後 藤 真 樹 , 玉 井 暁 子 ,J
j
J府 理 子I 宇 都 宮 由 紀 子 , 野 々 垣 多 加 史概 要
近年子宮内膜症は卵巣癌の発生母地として注目 されているo 今回我々は,卵巣チョコレート嚢腫 管理中に発生した卵巣類内膜腺癌の1例を経験し たので報告する。症例:41歳 1回経妊 1回経産 の女性。平成 11年 3月に外陰部領痔感を主訴とし て当科を受診した。初診時,左右卵巣はそれぞれ 33X24mm, 38x43mm と腫大し, CA125, CA19-9は 正常だった。以後3ヶ月ごとに外来にてのフォロー アップとした。平成 12年6月に超音波にて腫大傾 向を認めたため, MRIを施行した。左右卵巣の直 径はそれぞれ 55mmと 65mmで,壁の肥厚や充実性 部分を認めなかった。その後 6ヶ月間 GnRHアナ ログ療法を行ったが,腫蕩マーカーは抵抗性を示 した。平成 13年8月に両側卵巣腫蕩が再腫大した ため,経躍的にエタノーノレ固定術を行ったところ, 内容液の細胞診がクラス血であったため,平成 13 年8月 15日に開腹術を施行した。術後診断は卵巣 癌1c期(類内膜腺癌)と子宮内膜癌1b (類内膜 腺癌)で、あった。子宮内膜症は良性疾患であり,不 妊症との関連から,保存療法を選択することが多 い。今回の経験より,子宮内膜症の長期間管理中 に定期的に超音波や腫虜マーカーのフォローが欠 かせないと思われる。 緒 臼 子宮内膜症は良性疾患であり,近年 GnRHアナ ログ療法をはじめとするさまざまな保存療法で長 期間フォローアップされる症例が多いが,いずれ の方法も内膜症病変を完全に治癒することはでき ず,残存した病変より悪性腫療を発生することが 問題となる。今回我々は,チョコレート嚢腫の管 理中に発生した卵巣類内膜腺癌の1症例を経験し たので,若干の文献的考察を加えて報告する。 症 例 患 者 :41歳 1回経妊 1回経産 家族歴・既往歴:特記すべきことなし 月経歴:初経 12歳,月経周期 28日型,整, 持続期間4日間 現病歴:平成 11年 3月外陰部損痔感を主訴として 当科外来を受診した。超音波検査では左卵巣に 33x24mm,右卵巣に 38x43mmの嚢腫を認めた。腫場 マ ー カ ー は CA125: 33U/ml 正常く35U/ml), CA19-9: 13U/ml (正常<37U/ml) で、あった。以後 3ヶ月ごとの外来フォローアップとした。平成 12 年 6月に超音波で増大傾向を認めたため,骨盤 MRI (図 1)を施行した。左卵巣は 55mm,右卵巣は 65mm 図 1 平成 12年 6月の骨盤 MRI. 充実性部分は認めなかった。OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
14 100 80 60 40 20
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チョコレート嚢腫管理中に発生した卵巣類内膜線癌の 1症例 産婦香川会誌4券 1号 図2 GnRHアナログ療法終了6ヶ月後の超音波診断像 図3 卵巣内容液の細胞診像 核が大小不同で偏在し, N/C比大の異型細胞の集塊を認めた。 ヘモジデリンを食食したマクロファージも認めた(矢印)0ト〆//刊
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CA125 Hll.3. H12.3. H12.6. H12.9. H13.2. H13.8 H13.8. H13.12 図4 腫場マーカーの推移OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
2002年9月 上回他 と腫大していたが,壁の肥厚や明らかな充実性部 分は認めなかったため,GnRHアナログ療法を6ヶ 月間行った。終了後両側の卵巣嚢腫はやや縮小し たが,腫場マーカーは軽度上昇した。その後両側 卵巣嚢腫が再度腫大したため(図2),平成 13年 8月2日に経臆的エタノーノレ固定術を行い,左右卵 巣よりそれぞれ100ml,50mlのチョコレート様の 陳│日性血液を吸引した。細胞診は左右ともクラス