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はじめに糖尿病は冠動脈疾患の危険因子である 糖尿病があると心血管系事故のリスクは3 倍 心筋梗塞の既往が加わるとそのリスクは10 倍程度に跳ね上がることが知られている そして 糖尿病に合併する心血管疾患は重症である場合が多い 反対に 糖尿病症例にとっても冠動脈疾患は主な死亡原因の一つである 糖尿病は

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特 集

特 集

7.虚血性心疾患のリスクとなる病態

7-1.糖尿病・IGTと心血管疾患

伊藤  浩

1)

,小山 靖史

2) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学1),桜橋渡辺病院 心臓・血管センター 画像診断科2)

Relationship of diabetes mellitus and impaired glucose tolerance

to coronary artery disease:How to use MDCT?

Hiroshi Ito1), Yasushi Koyama2)

Summary

 It is well known that type 2 diabetes mellitus and impaired glucose tolerance (IGT) are based on insulin-tolerance and are risk factors for coronary heart disease. However, there has not been any appropriate approach to assess coronary atherosclerosis noninvasively or to estimate of the coronary risk in individual patients. Multidetector computed tomography(MDCT) has a high diagnostic value for detecting or excluding coronary artery stenosis, and is expected to screen for high-risk patients among patients with DM or IGT. The first target is coronary calcification. Cardiac MDCT scan for coronary calcium is a non-invasive method of obtaining information about the presence, location and extent of calcified plaque in the coronary arteries without radio-contrast agents. Calcium deposition is associated with the atherosclerotic process and with the high likelihood of adverse coronary events. The extent of coronary atherosclerosis, rather than the severity of stenosis, is the most important predictor of cardiovascular death. Since the amount of coronary calcification is correlated with the coronary plaque burden, the coronary calcium score (CCS) can be used for risk stratification of the patients. Among patients with DM, clinical study documented that CCS is the only predictor of myocardial perfusion abnormalities as well as outcomes. A higher CCS is associated with a higher incidence of cardiovascular events. Therefore, CCS evaluated with plane MDCT can be used for risk stratification among patients with DM and IGT. Assessing the morphology of coronary plaque is another goal of MDCT. Vulnerable plaque usually has a large lipid core covered with a thin fibrous cap. The vessel lumen area is preserved due to positive vascular remodeling. Lipid-rich plaque is demonstrated as low-density plaque on contrast MDCT. If a patient develops chest pain and contrast MDCT documents low-low-density coronary plaque, we can diagnose the patient as having unstable angina irrespective of patent or occluded coronary artery. We can determine a therapeutic strategy based on MDCT findings, such as the presence or absence of coronary plaque, severity of coronary stenosis and vulnerability of plaque. In cases of coronary artery disease and DM/IGT, we should manage insulin resistance first and then control the post-prandial hyperglycemia with diet, exercise and drug intervention. We can then evaluate the effectiveness of this intensive treatment by repeat MDCT study. Treatment seems to be successful if reduction in plaque volume and/or increase in the CT value of the plaque are observed. Thus, MDCT is useful to screen the high-risk group, to detect coronary plaque and to evaluate the impact of treatment in patients with DM and IGT.

1)Department of Cardiovascular Medicine, Okayama University, Graduate School of Medicine 2)Cardiovascular Center,

Sakurabashi Watanabe Hospital

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はじめに

 糖尿病は冠動脈疾患の危険因子である。糖尿病があ ると心血管系事故のリスクは3倍、心筋梗塞の既往が加 わるとそのリスクは10倍程度に跳ね上がることが知ら れている。そして、糖尿病に合併する心血管疾患は重 症である場合が多い。反対に、糖尿病症例にとっても冠 動脈疾患は主な死亡原因の一つである。糖尿病はもと より、その予備軍とされる耐糖能異常(impaired glucose tolerance:IGT)を有する症例数は増加の一途をたどって おり、冠動脈疾患への対策は喫緊の課題である。しかし ながら、医師、患者とも冠動脈心疾患に対する意識はあ まり高くないのが現状である。その理由として、糖尿病 症例は狭心痛などの自覚症状が乏しいことに加え、冠動 脈疾患の診断をするための適切な方法がなかったことが 挙げられる。最近、注目されているのが64列以上の多列 MDCTである。これにより冠動脈狭窄とともに、冠動 脈プラークの評価も可能となった。本稿では、IGT、糖 尿病における冠動脈疾患の病態とその診断、リスク層別 化におけるMDCTの役割に関して述べる。

冠危険因子としてのIGT、糖尿病

1.不安定プラークの病態  糖尿病の3大合併症に数えられていた網膜症や腎症は 細小血管病変であり、それに対する診断と治療戦略は 確立しつつある。それに対し、生命予後にかかわる急性 冠症候群は不安定狭心症、急性心筋梗塞、虚血性心臓突 然死を包括する疾患概念であり、不安定プラークの破 綻、局所の血栓形成による血管内腔の閉塞という機序が 共通している。不安定プラークの特徴は、大きな脂質コ アと菲薄化した線維性皮膜である(図1)。プラーク量は 大きいものの、血管サイズが拡大しているため(positive remodeling)、血管内腔は保たれていることが多い。菲 薄化した線維性皮膜の周辺部にはマクロファージやTリ ンパ球など炎症細胞が集積し、matrix-metalo protease などのコラーゲン分解酵素を分泌することにより、被膜 を脆弱化させ易破綻性プラークになる。そこに、ずり応 力の増大、冠動脈壁の内圧の変化、粥腫内出血などのス トレスが加わると、プラークと正常内膜の境界部分に亀 裂が生じ、プラーク破綻やびらん形成につながる。この ように不安定プラークの破綻には炎症が重要な役割を果 たしている。IGT、2型糖尿病に共通するインスリン抵 抗性がプラーク形成を促進することが明らかにされつつ ある。   2.冠危険因子としてのインスリン抵抗性  DECODE study、舟形studyなどの結果から、糖尿病 だけではなくIGTも動脈硬化性疾患発症のリスクである ことが知られていた1、2)。IGTとしては同じ境界型に属 する病態でも空腹時血糖の高いIFG(impaired fasting glycemia)ではなくIGTが心血管系事故に関連している ことも明らかとなってきた。最近注目されているメタボ リックシンドロームもIGTとの密接な関連が指摘されて いる。腹囲の増加に象徴される内臓脂肪の蓄積により惹 起される高血糖、脂質異常症、高血圧はたとえそれぞれ が軽微であっても、複合することで心血管系事故のリス クが約2倍に増加する。内臓脂肪型肥満では中性脂肪の 代謝産物である遊離脂肪酸とグリセロールが過剰に放出 され、放出された両者は門脈から肝臓に流入し、脂質異 常症、高血糖、ひいてはインスリン抵抗性を惹起する。 また、内臓脂肪細胞は各種アディポサイトカインを分泌 し、メタボリックシンドロームの病態に直接関与する。 TNF-αやレジスチンはインスリン抵抗性、レプチンや アンジオテンシノーゲンは高血圧、そしてplasminogen activator inhibitor type 1(PAI-1)は動脈硬化に関与する 血栓形成と関連する。一方で、アディポネクチンの分泌 は低下し、これらアディポサイトカインの変化が動脈硬 化の進展と糖尿病の発症に関与する。  メタボリックシンドロームと2型糖尿病、IGTに共通 する特徴に食後高血糖がある。食後高血糖も動脈硬化の 促進因子である。急激な血糖値の上昇が酸化ストレスを 増大し血管内皮を傷害するとともに、LDLコレステロー 図1 不安定プラーク 大きな脂質コアとそれ を覆う薄い線維性被膜 が特徴である.被膜の肩 の部分には炎症細胞が 集積しコラーゲン線維を 分解すれば,易破綻性プ ラークとなる.血管全体 のサイズが大きくなるリ モデリングのため,血管 内腔は保たれている.

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日獨医報 第55巻 第 1 号 2010 ルの酸化を促進する。その結果、形成された酸化LDL はスカベンジャー受容体を介してマクロファージに容易 に取り込まれ、泡沫化し冠動脈プラークに蓄積する。こ の反応に炎症細胞が加わることにより動脈硬化が進 展する。  IGT、メタボリックシンドロームでは空腹時血糖が正 常値に近く保たれていることが多く、そのため見逃さ れる可能性が高い。75gブドウ糖負荷試験を施行するか 食後血糖を計測しなければ診断できない。たとえば、急 性心筋梗塞で入院した症例の35%程度が糖尿病である。 しかし、残りの症例に75gブドウ糖負荷試験を施行する と多くの症例にIGTがみつかる。その結果、急性心筋梗 塞症例の70%程度がIGTを有することから、最大の危険 因子として注目されている。このようにIGT、2型糖尿 病を積極的に診断するとともに、もう一つ重要なことは 冠動脈疾患のスクリーニングである。

大血管障害の検査法

 糖尿病の3大合併症は網膜症、腎症、神経症であり、 糖尿病患者を経過観察しているときに、眼科的チェック や蛋白尿の判定は日常的になされてきた。それに対し、 冠動脈疾患に対するチェックは甘かったといえる。自覚 症状に頼るスクリーニングには限界が多い。神経症を合 併すると冠動脈疾患の胸部症状が自覚されにくく、たと え冠動脈狭窄病変をもっていても無症候性心筋虚血の頻 度が高いからである。このため糖尿病症例に対しては 定期的な心電図検査に加え、可能ならば運動負荷検査が 必要である。血管病変を評価するため頸動脈エコーによ る内膜中膜厚(intima-media thickness:IMT)やプラーク のスクリーニング検査も行われている。下肢上肢血圧比 (ankle brachial pressure index:ABI)は、非侵襲的に末梢 動脈疾患を診断するのに有用であり、0.9未満で下肢動 脈の狭窄が疑われる。現在注目されている検査に血流依 存性血管拡張反応(flow-mediated dilation:FMD)がある。 被験者の前腕を5分間の駆血し、解除後に上腕動脈にお ける血管径増加率を%FMDとして計測するものである。 前腕の虚血解除後に生じる血流量の増加により、上腕 動脈の血管内皮細胞から血管拡張物質(nitric oxide:NO) が放出され、血管が拡張する反応である。拡張度合いが 低いほど血管内皮機能が障害されているサインと考え、 現時点で動脈硬化を最も早期に診断できる方法である。  現実には膨大な糖尿病患者のすべてにこれらを実施す ることは困難である。糖尿病以外の冠危険因子を合併す る高リスク群を対象に、施設の検査容量の許す範囲で行 われているのが現状である。また、これらの検査では血 管内皮異常や動脈硬化病変を評価できても個々の症例に おける冠動脈病変の診断や心事故のリスクを予測するこ とは困難であった。

冠動脈CT

 今まで冠動脈疾患の診断といえば冠動脈造影がgold standardであった。しかし、組織学や血管内超音波検査 法の検討から、冠動脈造影で正常と判断された部位にも 動脈硬化プラークが存在することが明らかとされ、今で は冠動脈造影で狭窄を評価するだけではプラークを過小 評価することがわかってきた。また、急性冠症候群を発 症した症例の多くで発症前の狭窄度は50%以下であり、 狭窄度からは冠動脈イベントを予測するのも困難であ る。その理由として冠動脈プラークが存在しても、血管 サイズ自体が大きくなるリモデリングのため血管内腔が 保たれるものと考えられている。したがって、われわれ の関心は冠動脈の“内腔”から“壁”に向けられるように なってきた。64列MDCTは空間分解能が飛躍的に向上 したため、冠動脈壁の情報も観察できるようになって きた。 1.MDCTで冠動脈石灰化を診断する  電子ビームCTで得られたデータから、冠動脈に閉塞 性病変がある症例ではそのほとんどに冠動脈石灰化があ ること、そして冠動脈の石灰化が強いほど閉塞性病変が 存在する可能性が高いことが知られていた。逆に、石灰 化病変がなければ閉塞性病変の存在もほぼ否定できるこ ともいわれている。石灰化は加齢による退行変性ではな く、動脈硬化を反映する病的プロセスで生じる。石灰化ス コアは冠動脈石灰化を定量化した指標であり、冠動脈全体 の動脈硬化の進行度を反映するものと考えられている。  石灰化スコアの計測には造影剤を使用しない単純 MDCTで十分である。単純MDCTは冠動脈CTの約1/20 の被曝量で短時間で施行・解析できるうえ、腎不全症例 でも適応できるメリットがある。石灰化スコアの算出法 にはAgaston score、mass score、volume scoreなどがあ る(図2)。いずれも現在のMDCTとワークステーション

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を用いれば自動的に算出できる。一般的に男性が50歳、 女性が60歳未満では冠動脈に石灰化が認められること は稀である。冠危険因子が合併すると、より若年から冠 動脈石灰化が出現するようになる。糖尿病やIGT症例で は30歳代から冠動脈石灰化が認められることも少なく ない。図3に示すように、冠動脈石灰化スコアはインス リン抵抗性があるだけでも増加し、IGTから顕在性の糖 尿病と病態が悪化するほど高値となった3)。ここで注意 すべき点は、冠動脈石灰化の部位と冠動脈狭窄部位は必 ずしも一致するとは限らないことである。冠動脈石灰化 は冠動脈全体における動脈硬化の進行度を反映すると解 釈するほうがよい。  石灰化スコアはリスク層別化に用いることができる。 冠動脈造影で有意狭窄のあった1,225症例の内99.4%に 冠動脈石灰化を認め、石灰化を認めなかったものはわず かに8例(0.6%)であった4)。また、石灰化スコアが 0(ゼ ロ)の症例の心事故リスクは1年につき0.1%であり、冠 動脈疾患を合併している可能性はきわめて低い5)。石灰 化スコアが100を越える症例では、相対危険度が全心血 管系事故9.6、全冠動脈疾患事後11.1、非致死性心筋梗 塞と死亡9.2と、通常の冠危険因子よりも高いイベント 予測効果がある6)。図4は2万5千人の無症状性の症例の 予後を石灰化スコア別に平均5年経過観察したものであ る。石灰化スコアが100未満の症例の予後は良好である。 スコアが100以上になると、スコアが増加するにつれ生 命予後が不良となることがわかる7)。表1に冠動脈石灰 化スコアとプラーク量、そして心血管系事故のリスクの 関係を示す。石灰化スコアが81以上で心血管系事故リ スクが10倍、400以上で25倍ときわめて高リスクになる ことがわかる。 CT値(HU) 130~199 200~299 300~399   400 Factor 1 2 3 4 Dx DM 180 OGTT 148 IFG/IGT 93 NGT 14 あり DM インスリン抵抗性 51 p=0.0001 冠 動 脈 石 灰 化 ス コ ア︵ 中 央 値 ︶ p=0.0001 なし 0 50 26 100 150 200 図2 冠動脈石灰化スコア(Agaston score)の算出法 この症例は左前下行枝の近位部に石灰化が認められる.石 灰化のmax CT値よりfactorが割り当てられる.石灰化の面積 を計測してfactorとの積としてAgaston socreが算出される. ちなみに本例のスコアは16であった. 図3 インスリン抵抗性と冠動脈石灰化スコア 冠動脈石灰化スコアはインスリン抵抗性があるだけで増加する. 左図では正常例に比べて空腹時血糖上昇例あるいはIGT例で冠 動脈石灰化スコアが高値となる.さらに顕在性の糖尿病になる ほど石灰化スコアは増加する.

NGT:normal glucose tolerance,IFG:impaired fasting glycemia, IGT:impaired glucose tolerance,OGTT DM:DM diagnosed with OGTT,Dx DM:definite DM

(文献3より改変引用) Area = 4mm2

Max CT = 488 HU Score = 16

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日獨医報  第55巻  第 1 号 2010  IGTや糖尿病と診断され、虚血性心疾患のリスクが懸 念される症例であれば、まずは冠動脈石灰化の有無を観 察するとよい(図5)。冠動脈に石灰化がなければ、動脈 硬化を有する可能性はきわめて低く、今後2〜3年以内 に心事故を起こすリスクも低いといえる。それに対し、 冠動脈石灰化スコアが高値であるほど、閉塞性病変を有 している可能性が高く、心事故を発症する可能性も高い といえる。運動負荷検査や造影MDCTを施行して冠動 脈病変の有無を精査するとともに、積極的に治療介入す る必要がある症例といえる。 2.冠動脈狭窄病変の診断  冠動脈狭窄の診断には造影剤を用いて冠動脈CTを行 う必要がある。冠動脈CTのメリットにこの方法で狭窄 0.0 0.70 フォローアップ期間(年) 累 積 生 存 率 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 0.75 0.80 0.85 0.90 0.95 1.00 700~999(n=514) 400~699(n=955) 300~399(n=561) 101~299(n=2,616) 11~100(n=5,032) 1~10(n=3,567) 0(n=11,044) 1,000~(n=964) 図4 冠動脈石灰化スコアと生命予後 石灰化スコアが100未満の症例の生命予後はきわめて 良好である.石灰化スコアが100を越えると,石灰化 スコアの増加とともに生命予後は悪化する. (文献7より改変引用) CADの可能性 心事故リスク RR 対  処 25 20∼70%/10年 4.8%/年 閉塞性病変の可能性大 Extensive >400 CCS プラーク量 二次予防として(アスピリン、 スタチン)虚血評価が必要 F/U 1年 10 >1%/年 FRS予測の50%増 非閉塞性病変、 閉塞性病変の可能性も あり Moderate 81∼400 二次予防として(アスピリ ン、スタチン)F/U 1年 2 0.2%/年 FRS予測の半分 低い Small 1∼80 危険因子の治療 F/U 2∼5年 1 <2%/10年 <0.11%/年 <1% No 0 F/U>5年 表1 冠動脈石灰化スコア(CCS)の臨床的意義と対策 CAD:coronary artery disease,RR:risk ratio,F/U:follow-up

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が認められなければ冠動脈造影検査でも狭窄が否定でき るという陰性的中率が96〜99%と高いことがある。外 来で施行でき、冠動脈狭窄も診断できることから、冠動 脈病変の診断に積極的に用いられつつある。しかし、単 純MDCTで情報価値の高かった冠動脈石灰化も狭窄の 診断にとっては妨げとなるが、石灰化の軽度な症例では 狭窄の診断は正確である(図6)。また中等度狭窄の症例 では冠動脈インターベンションの適応になるか、冠動脈 CTだけでは診断できない場合もある。そのような場合 には運動負荷試験、あるいは冠動脈インターベンション 中の圧ワイヤによる冠狭窄の血行動態的評価により、適 応を決定することが大事である。 3.冠動脈プラーク性状の評価  冠動脈CTに期待されていることは冠動脈狭窄の評価 とともに冠動脈プラークの性状評価である。残念なが ら、MDCTの分解能が向上したといっても血管内超音 波法には適わない。したがって、冠動脈プラークの形状 中等度の冠動脈石灰化症例 高度の冠動脈石灰化症例 図5 冠動脈石灰化の2症例 左の症例は中等度の冠動脈石灰化症例である.本例は労作狭心症であったが,狭窄部位は石灰化の軽度な左回旋枝近位部であっ た.石灰化の部位と狭窄部は必ずしも一致するとは限らない.右は高度冠動脈石灰化症例である.三枝とも著明な石灰化が認 められ,冠動脈閉塞性病変の存在が示唆された.しかし,本症例では冠動脈造影で,有意な冠動脈狭窄は認められなかった. 冠動脈硬化の進行と冠動脈狭窄とは必ずしも相関するものではない. 図6 不安定狭心症の1例 新規発症の労作狭心症で来院された症例である.冠動脈CTで 左前下行枝近位部に高度狭窄を認めたため,冠動脈インター ベンションを施行した.

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日獨医報 第55巻 第 1 号 2010 評価よりも、CT値を用いてプラーク性状評価が試みら れている。CT値からプラークは、  ①>150HU 石灰化を主体とするプラーク  ②50〜150HU 線維性成分を主体とするプラーク  ③<50HU 脂肪を主体とするプラーク に分類される(図7)。不安定プラークは低CT値の脂肪成 分を主体とするプラークであることが多い。線維性成分 が豊富な安定プラークではCT値も高くなる。  現行のMDCTの空間分解能(400μm)では冠動脈プラー ク形状を観察することはチャレンジングな分野である。 冠動脈を短軸断面で観察すると、不安定プラークを生じ ている血管セグメントは血管サイズも大きくなる血管リ モデリングを呈していることが多い。不安定プラークの 形態に関する診断基準を適用すると、MDCTによる診 断が可能な場合もある8)。大基準として薄い線維性被膜 に被われた大きな脂質コア、90%以上の狭窄、破綻し たプラーク、小基準として石灰化プラーク、血管リモデ リングがある。MDCTで診断可能なものは、プラーク 性状(脂質、石灰化)、狭窄度、そして血管リモデリング である。

冠動脈CTによる診断の実際

 糖尿病やIGTから不安定狭小症を発症する症例は多 い。安静時胸痛を訴えて来院しても、その時点で胸痛や 心電図変化が消失している症例が多いのも事実である。 このような症例に対しては、冠動脈CTを用いて不安定 プラークの診断を行うとよい。  図8は安静時胸痛を主訴として来院した症例であるが、 来院時の心電図は正常、心エコーでも壁運動異常は認め られなかった。冠動脈CTを施行すると左前下行枝に石 灰化を伴うソフトプラークが認められ、そのソフトプ ラークの一部には造影剤が入り込んでおり、プラーク破 裂に伴い潰瘍が形成されているものと診断された。その 遠位部には高度の冠動脈狭窄が認められた。冠動脈血流 は維持されているものの、不安定プラークの破綻による CT値 >150 HU 50~150 HU <50 HU プラーク性状 石灰化 線維性 脂質または血栓

High density (>150 HU)

Intermediate density (50~150 HU)

Low density (<50 HU)

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不安定狭心症と診断され、入院加療となった。図9も不 安定狭心症の冠動脈CT画像である。左前行枝にかけて 多発性にソフトプラークを認める。プラークの破綻によ り造影剤が中に入り込んで潰瘍を形成しているプラーク もある。破綻したプラークに一時的に血栓が付着して閉 塞性病変になりかけた不安定狭心症と診断することがで きる。このように不安定プラークは、血管自体が拡大し、 その中に脂質成分の多いソフトプラークか石灰化混在す る混合プラークが存在することが多い。  これら2症例で示したように、不安定狭心症と診断さ れたとしても、必ずしも冠動脈プラークは冠動脈イン ターベンションを施行するほど狭窄が高度であるとは限 らないことである。このような場合には積極的な薬物療 法により冠動脈プラークを安定化することが望まれる。 図8 不安定狭心症の1例 左の画像で左前下行枝に石灰化を伴うソフトプラークを認める.右図は矢印で示した部位の短軸画像である.上段中央図で は低いCT値で黒く抜けたソフトプラークが認められる.下段中央図では石灰化とともに血管内腔の狭小化も認められる. 図9 不安定狭心症の1例 安静時胸痛で来院したものの,来院時には胸痛はなく,心電図は正常であった.造影MDCTを施行すると,左前下行枝に多 数のプラークが認められ,多くがソフトプラークであった,特に中間の白矢印の部位にはプラーク破裂による潰瘍が認めら れ,不安定プラークと診断された.

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薬物治療と冠動脈CT

1.冠動脈プラークの性状と薬物療法  糖尿病やIGT症例に冠動脈CTを施行し、高度狭窄を 示す冠動脈プラークが検出されれば冠動脈インターベン ションの適応を考えればよい。問題は有意狭窄ではない ものの冠動脈プラークが検出された場合である。プラー クの性状で治療戦略は異なるが、安定、不安定プラーク によらずアスピリンは必須である。不安定プラークが 疑われた場合には、強力に薬剤を用いたプラーク安定 化を行うべきである。プラーク安定化に有効とされる薬 剤に、スタチン、ACE阻害薬、ARB、ピオグリタゾン、 α-GI(glucosidase inhibitor)、n-3 必須不飽和脂肪酸が ある。冠動脈石灰化スコアも治療の参考にするとよい。 表1に示すように石灰化スコアが高いほど、将来の心血 管系事故のリスクが上昇するからである。石灰化スコア が81を越える症例は、積極的な薬物療法による加療が 推奨される。 2.腹部CTの有用性  次の症例は数回の安静時胸痛を主訴に外来受診した 68歳の男性である。来院時にはすでに胸痛は消失して おり、トロポニンTも陰性であった。危険因子として 高血圧、脂質異常症、IGTがある。身長171cm,体重 80kg,BMI 28,腹囲100cm、血圧138/76 mmHg,心拍 数52 bpmであった。来院時の心電図(図10)はV4〜6で T波の陰転化が認められたものの、心エコー図法では左 室壁運動は正常であった。当日、冠動脈CTを施行する と左前下行枝近位部に石灰化を伴ったソフトプラークが 認められた(図11)。一部の石灰化はソフトプラーク内 に認められた。ソフトプラーク内の石灰化病変は不安定 プラークに比較的よく認められる所見である。この時点 では冠動脈狭窄は有意ではないが、このソフトプラーク の破綻に伴う不安定狭心症と診断された。次はこの症 例に対する治療である。有意狭窄ではないため冠動脈 インターベンションの適応にはならない。血液データで はLDLコレステロールは正常であり、一見アスピリン の投与だけでよいように見受けられる(図12)。腹部CT では内臓脂肪量が多く(図13)、その目で血液データを 見直すと中性脂肪の高値、HDLコレステロールの低値、 そして食後高血糖が認められた。75gブドウ糖負荷試験 を施行すると糖尿病パターンを呈した。アスピリンに加 え、ピオグリタゾンとα- GIを投与したところ、その後 発作の出現は認められなかった。  この症例のように冠動脈CT検査のついでに腹部の plane CTを撮影することで、腹部内臓脂肪量を簡単に評 価することができ、治療方針の決定に重要な情報を提 供する。図14と図15はほぼ同年代の男性で、BMI 28と ほぼ同体型の2例の腹部CT画像と冠動脈CT画像を示す。 図14のケースでは内臓脂肪 77cm2と皮下脂肪 338cm2 図10 来院時12誘導心電図 V4〜6でT波の陰転化が認められたものの,梗塞Q波およびR波 の減高は認められなかった.

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左前下行枝近位部 図11 冠動脈CT画像(図10の症例) 左前下行枝近位部に石灰化とソフトプラークが認められた.その部分を拡大し,プラークを明瞭に描出したのが右図で ある.ソフトプラーク内に石灰化病変が認められる. TC LDL-C TG HDL-C hsCRP BS Urin Prot Urin S 164 mg/dL 106 mg/dL 173 mg/dL 31 mg/dL 0.54 mg/dL 172 mg/dL -+ 488万 6900 26.3万 38 IU/L 18 IU/L 22 IU/L 19.2 mg/dL 1.0 mg/dL RBC WBC Plt γGTP AST ALT BUN Crn 図12 入院時血液検査(図10の症例) 図13 腹部CT画像(臍部レベル)(図10の症例) 皮下脂肪,内臓脂肪とも多く,腹部大動脈には石灰化も認め られる.

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日獨医報 第55巻 第 1 号 2010 皮下脂肪有意の肥満であり、冠動脈石灰化はほとんど認 められなかった。それに対し、図15のケースは内臓脂 肪 163 cm2と皮下脂肪 261cm2と内臓肥満であり、石灰 化は373と冠動脈硬化が進展していることが示唆された。 当然、後者のほうが冠危険因子の厳重なコントロールが 必要な症例である。 3.糖尿病、IGTの治療とフォローアップ  2型糖尿病、IGT症例ではインスリン抵抗性を基盤と して有する。そのような症例が冠動脈疾患を発症したと きには、インスリン抵抗性に対する治療介入を考慮すべ きである。そのために使用される薬剤として、ピオグリ タゾン、ビグアナイドがある。それでも、食後高血糖を 合併する場合にはα- GI、グリニドにより制御する必要 がある。糖尿病症例に最もよく使われているSU剤には 冠動脈イベントを抑制する効果が十分でないことが多施 設共同試験から明らかにされており、それよりはインス リン抵抗性と食後高血糖の改善が得られる薬剤を考慮す べきである。  ソフトプラークが発見された症例では、適切な治療介 入をするとともに、その効果判定も必要である。治療後 1年程度で冠動脈CTを施行し、プラークの狭窄度あるい はCT値の変化からプラークの安定化を診断することが できる。積極的なスタチン治療を1年行うことにより、 図14 腹部CT画像と冠動脈CT画像:皮下脂肪型肥満症例 腹部CTでは皮下脂肪の蓄積が顕著である.冠動脈CTでは石灰化が認められなかった. 57歳男性(BMI 28) 冠危険因子:高血圧 内臓脂肪量:77 cm2 石灰化スコア:0 皮下脂肪量:338 cm2 図15 腹部CT画像と冠動脈CT画像:内臓脂肪型肥満症例 腹部CTでは皮下脂肪の蓄積もあるが,内臓脂肪の蓄積も顕著である.冠動脈CTでは著明な石灰化が認められた. 56歳男性(BMI 28) 冠危険因子:糖尿病 内臓脂肪量:163cm2 石灰化スコア:373 皮下脂肪量:261cm2

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冠動脈石灰化を抑制あるいは減少させることができたと いう報告がある9)。図16の症例は不安定狭心症の1例で ある。最初、右冠動脈近位部にソフトプラークが認めら れたが、適切なリスク管理を行って1.2年後に再度冠動 脈CTを施行すると、同部位の狭窄の改善とプラークの CT値の上昇が認められプラークが安定化したことが示 された。このように冠動脈CTによりプラーク性状の経 時的変化を観察することにより、個々の症例に適切な 治療がなされているか判定することができる。しかし、 被曝量を考慮すると冠動脈CTの施行は慎重であらねば ならない。 【参考文献】

1) The DECODE study group:Glucose tolerance and mortality: comparison of WHO and American Diabetic Association diagnostic criteria.Lancet 354:617-621,1999

2) Tominaga M,Eguchi H,Manaka H,et al:Impaired glucose tolearance is a risk factor for cardiovascular disease,but not

impaired fasting glucose.The Funagata Diabetic Study. Diabetes Care 22:920-924,1999

3) Meigs JB,Larson MG,D'Agostino RB,et al:Coronary artery calcification in type 2 diabetes and insulin resistance: the Framingham Offspring Study.Diabetes Care 25:1313- 1319,2002

4) Knez A,Becker A,Leber A,et al:Relation of coronary calcium scores by electron beam tomography to obstructive disease in 2,115 symptomatic patients.Am J Cardiol 93:1150-1152, 2004

5) Arad Y,Goodman KJ,Roth M,et al:Coronary calcification, coronary disease risk factors,C-reactive protein,and athero-sclerotic cardiovascular disease events:The St.Francis heart study.J Am Coll Cardiol 46:158-165,2005

6) LaMonte MJ,FitzGerald SJ,Church TS,et al:Coronary artery calcium score and coronary heart disease events in a large cohort of asymptomatic men and women.Am J Epidemiol 162:421-429,2005

7) Shaw LJ,Raggi P,Schisterman E,et al:Prognostic value of cardiac risk factors and coronary artery calcium screening for all-cause of mortality.Radiology 28:826-833,2003

治療前 治療1.2年後 図16 不安定プラークの治療経過を観察し得た1例 不安定狭心症と診断された症例である.診断時の冠動脈CT(左図)では右冠動脈近位部にソフトプラークが認めら れ,そのCT値は38と低値であり,脂質リッチな不安定プラークと考えられた.積極的に治療介入して1.2年後に 観察すると,右冠動脈近位部の狭窄がやや軽減し,同プラークのCT値は115に上昇し,線維性成分がリッチな安 定プラークになったことが示唆された

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日獨医報 第55巻 第 1 号 2010

8) Naghavi M,Libby P,Falk E,et al:From vulnerable plaque to vulnerable patient:a call for new definitions and risk assessment strategies:Part I.Circulation 108:1664-1672, 2003

9) Callister TQ,Raggi P,Cooil B,et al:Effect of HMG-CoA reductase inhibitors on coronary artery disease as assessed by electron-beam computed tomography.N Engl J Med 339: 1972-1978,1998

参照

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