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この会議の中心テーマとなったのは 東京のグローバルな魅力をどのように高めることができるのか ということであった 東京は 世界の都市総合力ランキング ではロンドン ニューヨーク パリに次ぐ第 4 位に位置しているものの 世界における都市のプレゼンスという意味では 決して高いとはいえない 世界における発

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Innovative City Forum Seminar

東京のグローバル・プレゼンスを高めるアイデア

Ideas for Revitalizing Tokyo’s Global Appeal

2015 年 2 月 26 日(木)19:00-21:00 六本木アカデミーヒルズ タワーホール(六本木ヒルズ 森タワー49F) 主催:森記念財団都市戦略研究所、アカデミーヒルズ 特別協力:株式会社大林組 はじめに 未来の都市とライフスタイルはどのような姿になっているのだろうか――。森記念財団都 市戦略研究所は、アカデミーヒルズ、そして森美術館と共催で「イノベーティブ・シティ・ フォーラム」(Innovative City Forum, ICF)と呼ばれる国際会議を開催している。これは、 「先端技術」、「都市開発」、そして「アート&クリエイティブ」の各分野で先進的な活動を 行う国内外の専門家を集め、分野を超えた議論、情報交換、そして交流を図ろうという試み だ。ICF のメイン・フォーラムは、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズで開催され、数多くのス ピーカーと数千人の参加者とともに、都市の未来を考える会合となっている。 2015 年 2 月、都市戦略研究所は、アカデミーヒルズとの共同主催で、ICF の趣旨にもと づく新たなセミナーとして「ICF セミナー 東京のグローバル・プレゼンスを高めるアイ デア」を開催した。

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2 この会議の中心テーマとなったのは、東京のグローバルな魅力をどのように高めることが できるのか、ということであった。東京は「世界の都市総合力ランキング」ではロンドン、 ニューヨーク、パリに次ぐ第 4 位に位置しているものの、世界における都市のプレゼンス という意味では、決して高いとはいえない。世界における発信によって都市の魅力を伝える 国際的なブランディングという点では、ソウルなどのライバル都市に劣っているという指摘 もある。しかし、2020 年の東京オリンピックの開催決定によって、今後、東京が世界的な 関心の的となる可能性が強くなってきた。まさに、東京のグローバル・プレゼンを高めるチ ャンスが到来しているといえるのである。 どのようにすれば、東京は有形・無形の都市の魅力を高めることができるのか。すべての 人々にとってよりよい場所となるために、東京はどのような課題を克服しなければならない のか。このような問題意識をもって、このセミナーでは、建築、都市ブランディング、そし てデザインなど様々な分野で国際的に活躍する方々をお招きし、東京の魅力や潜在性、課題 について語って頂いた。

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講演者プロフィール

アストリッド・クライン(Astrid Klein, 建築家) イタリア・バレーゼ生まれのアストリッド・クラインは、クライン・ ダイサム・アーキテクチャー(KDa)のディレクターである。KDa は ロイヤル・カレッジ・オブ・アート出身のマーク・ダイサムとアスト リッド・クラインによって東京で設立されたスタジオで、建築、イン テリア、そしてインスタレーションという多分野にわたってデザイン を行っている。KDa のアイデアやプロダクトに力を与えているのは、 新しいものへの強い好奇心、素材に対する繊細さ、細部へのこだわりという日本的な感覚と、 変化を続ける都市の環境である。これまでのクライアントはグーグル、TSUTAYA、ソニー、ヴ ァージン・アトランティック、ナイキ、ユニクロ、ヴァーチュなどが含まれる。KDa は東京都 心のクリエイティブなアート・スペースである SuperDeluxe の設立にも関わっている。ここで 生まれた PechaKucha Night は、20 枚のスライドを各 20 秒間で説明するプレゼンテーション・ イベントだが、その形式は世界で熱狂的に支持され、今や全世界 800 以上の都市で実践されて いる。 ジェイ・ティー・シン(JT Singh, 都市ブランディング戦略家) ジェイ・ティー・シンはカナダのトロント生まれで、現在は上海と 香港に拠点をおいている。2010 年、彼はジェイ・ティー・シン・ア ンド・カンパニーを設立し、以来、都市ブランディングと開発の戦略 家としてさまざまな都市や地域に関わってきた。彼の専門的な仕事は、 都市がグローバルな訴求力や国境を越えた行動力を高めることを目 的としている。しかし、その方法は、旧来の広告や PR キャンペーン によるものではなく、他分野にわたってローカルな文脈に根差したソ リューションを見出し、デジタルな領域とフィジカルな環境の双方においてグローバルな経験を 拡げていくことによっている。 彼のプロジェクトの中で世界的に認知を得たものの一つに、「ディス・イズ・上海」という上 海市のために制作されたマルチメディア・ビデオがある。これはこれまで世界で最も視聴された 公式観光ビデオと評されている。また、彼の「エンター・平壌」は、平壌市のために作られたビ デオで、インターネット上でたちまちに拡散し、CNN、BBC、Time などのグローバル・メディア で幅広く取り上げられた。シンのチームは、本年、気候変動、交通、教育などを視野に入れなが ら、都市のグローバル・プレゼンスを構築する新たな都市ブランディングのプラットフォームを 立ち上げる予定である。

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4 グエナエル・ニコラ(Gwenael Nicolas, デザイナー) グエナエル・ニコラは1966年にフランスのブルターニュで生まれ た。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号(工業 デザイン)を取得後、1998年に商品デザイン、インテリア・デザイ ン、そして建築に関する事務所である”Curiosity”(キュリオシテ ィ)を設立した。彼が創造する商品や空間に出会えば、そのデザイ ンが単に美しいだけでなく、考え抜かれた機能性を備えていること がわかるだろう。ユーザーを中心に据えたストーリー・ボードから生み出されるそのデザインは、 発見や予測不可能性という要素を常に含んでいる。最近では、ベルルッティ、フェンディ、レク サス、ルイ・ヴィトンをはじめとする国際的に高い評価を受けているブランドのデザインを行っ ているほか、世界クラスの商業施設を含む大型の複合ビルである銀座6丁目プロジェクトのイン テリア・デザイナーとしても選ばれている。これまでにKu/Kan賞、Wallpaper*デザインアワード、 IFデザイン賞など数多くの賞を受賞している。 モデレーター 市川宏雄(Hiroo Ichikawa, 明治大学専門職大学院長/森記念財団理事) 市川宏雄は、明治大学専門職大学院長で、森記念財団理事、明治大 学危機管理研究センター所長も務める。都市政策、都市・地域計画、 危機管理を専門とし、東京や大都市圏に関してさまざまな著作を発表 してきた。著書に『東京の未来戦略』(共著、東洋経済新報社、2012 年)、『山手線に新駅ができる本当の理由』(単著、都市出版、2012 年)、 『日本大災害の教訓』(共著、東洋経済、2011 年)、『日本の未来をつくる』(共著、文藝春秋、 2009 年)などがある。これまで政府や東京都の委員、日本テレワーク学会や日本危機管理士機 構などの責任者を歴任し、数多くの公的機関・民間団体の活動に携わってきた。早稲田大学理工 学部建築学科、同大学院博士課程を経て、ウォータールー大学大学院博士課程修了(都市地域計 画、Ph.D.)。1947 年、東京生まれ。

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アーバン・インタンジブル・バリュー

GPCI-UIV: Urban Intangible Values

市川宏雄(明治大学専門職大学院長/森記念財団理事)

都市が人間の感性に訴える力を評価する

2008 年からこれまで、森記念財団都市戦略研究所は「Global Power City Index」という 都市ランキングを発表してきた。これは、「経済」、「研究・開発」、「文化・交流」、「居住」、 「環境」、「交通・アクセス」という6 つの都市機能に着目して、70 に及ぶ指標から「都市 の総合力」を評価するものである。2014 年 10 月に発表された「GPCI-2014」では、ロン ドン、ニューヨーク、パリがトップ3 位を構成する結果となった。特に、ロンドンは 2012 年にロンドン・オリンピックの開催都市となったことで、海外から人々を招き入れる仕組み を生み、「都市の総合力」を高め、順位を上げることになった。 しかし、都市の魅力は経済活動の集積や、交通インフラなどの都市の「ハードウェア」に よってのみでなく、別の視点からも評価できるかもしれない。そこで、森記念財団では「ア ーバン・インタンジブル・バリュー」(Urban Intangible Values)と呼ばれる新たな評価指 標を作成した。これは、人が都市で生活をしたり、働いたりする中で感じる「人間の感性に

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6 訴える力」をとらえることを目的として行われた調査である。 この「アーバン・インタンジブル・バリュー」では、「都市総合力ランキング」とは異な り、都市の運営や人々の感覚という側面を重視している。具体的には、「効率」、「正確・迅 速」、「安全・安心」、「多様」、「ホスピタリティ」、そして「新陳代謝」という6 つの要素か ら評価を行った。 これらの各要素には、異なる視点に基づいた指標が設定されている。たとえば、「効率」 では、「都市機能や情報の蓄積」と「アクセシビリティ」という2 つの視点が設定されてい る。さらに、それぞれの視点のもとに、3 つの指標が与えられている。たとえば、「都市機 能や情報の蓄積」は、「オフィスエリアと官庁街の接近性」、「インターネット利用率」、そし て「人口当たりの日刊新聞の発行部数」によって評価される、という仕組みになっている。 「正確・迅速」をはじめとする、そのほかの要素にも、複数の指標が割り当てられている。 これによって、世界の21 都市を 36 指標によって評価しているのである。 感性的な価値からみる東京の魅力と課題 このランキングから東京という都市のさまざまな側面が見えてくる。たとえば、「地下鉄 の輸送力と利便性」、「公共の場における安心感」、「住民の親切さ」などの指標においては、 東京は非常に高い評価を受けている。特に「地下鉄の輸送力と利便性」は 2 位に大きな差

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7 をつけて首位についている。 一方、「事業申請に要する時間」や「創造的活動の形成」においては、東京は平均的、ま たはそれよりやや高い評価を受けている。現在、国家戦略特区でも事業申請のためのワン・ ストップ窓口を作ろうとしているが、必ずしも高い評価とは言えないのが現状である。また、 「創造的活動の形成」については、東京はライバルであるニューヨーク、パリ、ロンドンに はかなわない状況にある。 東京が低い評価を得たのは「街並みの多様性」で、これはかなり低いスコアとなった。こ の指標では、イスタンブール、モスクワ、クアラルンプールが上位に入っている。 さらに、それぞれの要素における東京のスコアを他の都市の平均値を比較すると、東京の 相対的な強みがわかる。東京が平均値より高いスコアを得ているのは、「効率」、「ホスピタ リティ」、そして「安全・安心」においてであった。東京はいずれの要素においても、飛び ぬけて優れているというわけではないが、バランスよく評価を得ているのが特徴である。 それでは、このような東京の魅力を世界の人々にも知ってもらい、東京のグローバルなプ レゼンスを高めるにはどのようにすればいいのか。そのアイデアを本日、お招きしたスピー カーから伺ってみたい。

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キラキラ東京 Sparkling Tokyo

アストリッド・クライン(建築家)

都市がさらに輝くために このプレゼンテーションのタイトルは「キラキラ東京」とした。東京はスパークリングで あり、すでに輝いている。街はきれいであり、秩序があり、そしてすべてがきちんと機能す る。しかし、私はこれをもっと輝かせたい。すでにうまくいっているけれども、次世代のた めに、もっと楽しい、元気な場所にしたい、そしてキラキラと輝く都市にしたい。 東京はたしかに輝いているが、少し「おとなしい」(otonashii)側面もある。もっと活力 に満ち、もっと多様で、もっと創造性があってもいいだろう。もっとカオスがあっていいし、 自然発生的なものがあってもいいかもしれない。クリエイティブな人々はそうした環境を好 む。カオスの中でこそ、創造的な解決策が出てくると思う。 25 年前に私が、ビジネス・パートナーだったマーク・ダイサムと東京に来たのは、当時 東京に数多く建てられていた大胆な建築を見たいと思ったからであった。しかし、現代にあ っては、そのような、象徴的で時代を代表する建物は少し減ってしまったように思う。

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9 「ビルバオ(Bilbao)効果」という言葉がある。これはスペインのビルバオというある街 に、(1990 年代後半、フランク・ゲーリーの設計による)グッゲンハイム美術館ができたと き、それまで誰も注目していなかった街が、急激に多くの人々の関心を集めて、経済も盛ん になったということがあった。私たちが設計した代官山T-SITE は、「代官山効果」ともい えるような、きっかけを作ったと思う。グッゲンハイム美術館ほどではないにしても、オー プン後、多くの人が代官山を訪れるようになった。人々は散歩をして、ぶらぶらと歩くこと ができる場所をこそ、求めているのだと思う。 東京に足りないミュージアム どのようにすれば、人々を都市にひきつけることができるだろうか。ビルバオを一つの例 としてとりあげたが、たしかに東京にも数多くのアート・ミュージアム(美術館)がある。 しかし、それ以外のミュージアムはどうだろうか。 東京には多くの有名なファッション・デザイナーがいる。山本耀司、イッセイ・ミヤケ、 川久保玲、そしてアンダーカバーといったデザイナーたちである。ロンドンには、ヴィクト リア・アンド・アルバート・ミュージアム(V&A)という博物館があり、ファッション・ デザインの歴史全体が展示されており、「着物」(kimono)も日本のユニークな服装だとし

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10 て紹介されている。デイヴィッド・ボウイのようなポップ・スターも日本の服装からインス ピレーションを得ており、その衣装すらV&A に展示されている。しかし着物の博物館や、 「ファッション・ミュージアム」は日本に存在しない。そんなミュージアムがあってもいい のではないだろうか。 「デザイン・ミュージアム」も日本にはない。日本のさまざまな驚異的なデザインは世界 的に有名で、日本に来る多くの人々が、こうしたデザインがどのように生まれてくるのかを 知りたがっている。たとえば、どこでも見かける醤油瓶がある。これは世界的によく知られ ている。世界最初のウォークマンもとても有名である。このような優れた製品の数々をミュ ージアムにまとめるべきではないだろうか。こうしたデザインを展示すれば、人々にインス ピレーションを与えることができるはずである。 日本の皆さんは謙虚すぎることがある。自分たちが作り出したものにもっと誇りをもって、 それを展示するべきだと思う。 ロンドンのデザイン・ミュージアムでは、さまざまな展示が行われている。大型の常設展 もあるし、そのときどきの企画展も行われている。たしかに、東京には 21_21 ギャラリー という素晴らしい施設があるし、デザイナーズ・ウィークという優れた取り組みがある。し かし、もしデザイン・ミュージアムがあれば、さまざまな商品のデザインを、パーマネント に展示することができるのである。 日本の自動車メーカーは素晴らしいデザインの車を生み出してきたが、「自動車博物館」 というものも、ないようにみえる。ホンダ、日産、トヨタ、スバルといった会社が優れた車 を生み出してきた。「自動車博物館」というものがあれば、もっと深く車を研究できるので はないだろうか。 ドイツには、たくさんの自動車メーカーがあり、それぞれがミュージアムを持っている。 ポルシェ、フォルクス・ワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツといった企業が、建築的に も優れた博物館で、車の進化の歴史について展示を行い、車に関心のない人々をも引き付け る観光名所になっている。 私は建築家であるので、「建築博物館」というものも日本にあったらいいと思う。建築界 のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」の受賞者37 名のうち、日本人は 5 分の 1 にあた る 7 名が受賞している。ロッテルダムやフランクフルトにも建築博物館はあるが、日本に は優れた建築家について学ぶ場所がない。 また、日本の漫画やアニメは世界的に有名である。では、マンガ博物館があるかというと、 ない。京都にあるマンガ・ミュージアムは気持ちのいい空間ではあるが、小規模で、あまり 人気があるようには見えない。「マンガ・ミュージアム」を作るための取り組みが必要だろ う。 日本を訪れる人々にとって、ミュージアムが大きな魅力になることは間違いない。お寺、 神社、庭園という伝統的な文化を発信する一方で、新しい文化も必要になる。それに人々は ひきつけられていく。

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11 ロンドンにはエキシビション・ロードというところがあり、自然史博物館、科学博物館、 そしてV&A ミュージアムがあるが、実は、このエリアに毎年 1100 万人が訪れている。つ い先ごろまで日本は1000 万人の観光客を誘致しようとしていた。日本にはもっとポテンシ ャルがあるだろう。 人々が集まる生き生きとしたストリートを エキシビション・ロードではかつて車が通っていたが、今は歩行者天国になっており、車 と人との共存が図られている。表参道では、大変残念なことに歩行者天国がなくなってしま った。本当に生き生きとした都市は、ストリートに人がいなければならない。人をひきつけ るのは人なのである。ブライトンでは、非常に長いベンチを設置して、ゆったりとした時間 をすごすことができる。サンフランシスコでは、移動式の公園というのがあって、駐車料金 を払いながら、道路の緑を確保している。 もっと人々がストリートに出て行ってほしいと思っている。特に六本木がそうである。六 本木ヒルズと森美術館、ミッドタウンと21_21 ギャラリー、そして新国立美術館が三角形 をなしている。しかし、この間を容易に移動することができず、その移動も楽しいものでは ない。道路沿いも殺風景である。この 3 か所を結ぶエキシビション・ロードを作り、人々 のための道を作ったら、素晴らしいのではないだろうか。

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12 また、ロンドンにはウェット・バレエという屋外の噴水の中で水の動きに合わせたバレエ のパフォーマンスを行っている。東京の夏はかなり暑くなるので、こうした噴水があれば、 気持ちよく、楽しい空間を作ることができるのではないだろうか。 都市における巨大なアートも一つの魅力である。東京にもアートはあるが、もっと大きく てもいい。こうした場所は写真を撮りたいと思う人を多くひきつけるのである。 もっと路上に人々が出てこなければならない。そのためには文化に投資をしなければなら ない。文化に投資をすれば、人々は街に出てくる。優れた建物に投資をすれば、人々がそこ に出てきて、お金を使う。これはwin-win の関係である。 25 年前、代々木公園では音楽やパフォーマンスがあった。しかし、いまや、こうしたも のは専用の場所を得て制度化されてしまって、カオス性や創造性を失ってしまったように見 える。渋谷も最近はつまらなくなってしまったという声を聞く。そうしたことを見逃しては ならない。 もっと文化を、体験的な瞬間、感情、ロマンスといったものを増やしていかなくてはなら ない。そして特に、意思決定の場に女性がもっと増えていかなくてはならない。女性こそ、 感情に訴えかけて人々を幸せにすることができるからである。

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都市のグローバルな重要性 Cities of Global Relevance

ジェイ・ティー・シン(都市ブランディング戦略家)

未来的な都市としての東京のイメージを打ち出せ 私は東京に来たのは 2 度目だが、とても素晴らしい都市で大好きである。私はこれまで 非常に多くの都市とコラボレーションをしてきたが、クライアントの多くは地方自治体であ った。地方自治体というのは、おそらくもっとも退屈なセクターである。だからといって私 がこれまでに仕事をした自治体を責めるつもりはない。確かさを必要とする仕事の中で、リ スクを冒すというのは困難なことである。しかし、新たな問題が発生し、新たな仕方で解決 しなければならない時代においては、リスクを冒さないこと自体が危険なことであるともい える。実験的な試みを行い、大きな成果を出さなくてはならない。 喜ぶべきことに、東京は実験的な都市である。東京は未来の都市であるというイメージを 世界中の多くの人々が抱いている。この非常にポジティブなイメージは、一つの強みであり、 この強みを生かすことが重要である。 東京の未来性を示す一つの例が、その洗練された地下鉄システムである。東京の地下鉄の

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14 システムはかなり複雑である。シンガポール、上海、ソウル、ニューヨーク、ロンドンなど にも地下鉄はあるが、東京の右に出るものはない。一方、私が暮らしていたトロントの鉄道 システムはかなり単純なものに見える。アメリカやヨーロッパでも未来に対する感覚は失わ れている。しかし、東京やこれからの未来を見ていくことができる都市である。 21 世紀型市民をひきつける力こそグローバルな影響力 東京はこの未来的な都市というイメージを強化しながら、グローバルな影響力を持ってい くことが必要である。グローバルな影響力(global relevance)とは、21 世紀を生きる人々 の価値に適応し、それを育てていくことだといえる。そして、都市の成功は、何よりも才能 や創造性をもって都市に生きる「人々」の質にかかっている。テクノロジーは飛躍的に進歩 しており、21 世紀の人々は、それまでとは全く異なった習慣や行動様式を持っている。都 市が、高い技術を持って世界中を駆け巡る人々をひきつけていくためには、こうした人々の 価値観を常に反映していなければならない。 それゆえ、「グローバルな魅力」とは、単に観光客だけでなく、学生、研究者、エンジニ ア、起業家、投資家、知的労働者、そしてスポーツ選手、あるいは映画祭、サミット、エン

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15 ジニアリングのための施設など、あらゆる流動的な資源をひきつける競争力だということが できる。才能のあるエンジニアたちは、国境を越えて働くことをいとわない人が多い。そし て、このような多動的(mobile)で、高い技能をもつ、知的労働者や技術労働者たちが「ど うしても行きたい」と思うような場所であることが、今日の世界経済における都市の成功を 意味するのである。 都市の魅力を伝えるメッセージ では「レピュテーション」(評判)とはなんだろうか。人々に与える強い印象こそが最も 貴重で役に立つ無形の資産である。これが、才能ある人々をグローバルにひきつける情緒的 な魅力である。 しかし、このような情報過多の時代に、人々に影響を与えるのはとても難しい。私たちの 社会はもはや注意障害の経済(attention deficit disorder economy)に陥ってしまっている。 都市が古いメディアで人々に働きかけようとしても、もう届かないのである。これは単に若 い人々だけでなく、より年配の人々にとっても起こっている現象である。このような時代に おいては、広告をうたないことが最大の広告になる。これはどういう意味だろうか。 ニューヨークが現在のような高い重要性を持つようになったのはそれが、極めて進んだク リエイティブ社会であり、科学、技術、そして文化に大きな影響を与えているからである。 広告ではなく、都市における人々の活動、創造性、都市の文明に寄与が、都市の価値を知ら しめるのである。 都市が人々やその知覚に影響力を持つためには、多くの仕方がある。都市には、ハードウ ェアがあり、ソフトウェアがあり、そしてオーグウェア(orgware)と私が呼ぶさまざまな 組織や制度がある。これらの都市のレイヤー一つひとつがその都市を表現するのである。今 やユニクロや無印良品は、直接的・間接的に日本や東京をあらわすシンボルとして世界の 人々に影響を与えている。そして「東京人」のユニークなアイデンティティも示している。 この場合、「都市そのもの」がメッセージになっているのである。 もちろん、「都市について」のメッセージも重要だ。プロモーション、広告、コミュニケ ーション、広報活動、こういったものが新しいメディア、デザイン、映像、マルチメディア、 アートという形で広がる。こうしたメディア以外は「注意障害の経済」では、機能しなくな っている。私が上海政府のために作ったビデオも、こうしたもののひとつである。 私は毎年、特にインドや中国における数百の都市を飛び回っている。しかし、もっとも憂 うべきことは、そこに生きている人々が2015 年という時代に追いついていないことである。 世界はものすごい速さで進んでいるというのに、まだ2003 年に生きているような人々がい るということである。テクノロジーは飛躍的なスピードで進んでいるのである。

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16 都市ソリューションを世界に これからの数年間の間に、都市が取り組まなくてはならない問題の一つは、気候変動の経 済である。今年 6 月には、ファレル・ウィリアムとアル・ゴアがきわめて大きなグローバ ル・コンサートを開催する。そのテーマは気候変動である。メインストリームのカルチャー に気候変動というテーマが初めて入ってくるのである。また、12 月には、パリで気候変動 のためのサミットが開かれる。気候変動というテーマはこれまで以上に重要になるだろう。 魅力ある未来の都市は、気候変動という問題に積極的に行動する都市であるはずだ。 もう一つの問題は、グローバルな都市化の傾向である。都市化ということが一つの新しい 産業になっている。現在、中国、インド、アフリカで新しい都市が数多く生まれている。そ こにおいては、建築、エンジニアリング、エネルギー、ごみ、建設、インフラストラクチャ ー、そしてロジスティクスの分野は一つの都市サービス・クラスターと呼べるものになって おり、自らの都市だけでなく、他の都市にも輸出可能で、移植可能なものとなっている。今 や、シンガポール、香港、そしてロンドンは、都市をどのように運営するかという点につい て、他の都市を助言する立場におかれている。これは都市の影響力について非常に大きなフ ァクターである。東京は、この意味では非常に大きな機会に恵まれているといえる。 さまざまな問題が生じるのは都市においてである、と同時に、その解決策も都市の中にあ る。ますます多くの人々が都市に居住し、都市が経済活動やエネルギー消費の大部分を占め ている。都市における問題に解決策を提供できる都市こそが、世界に大きなインパクトや影 響力を与えるのである。

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東京、スピニング・シティ Tokyo, the Spinning City

グエナエル・ニコラ(デザイナー)

目に見えない都市、東京との出会い 本日は、愛すべき東京について話をすることができることをうれしく思っている。25 年 前、私がなぜ東京に来たのかということから、お話ししたい。 子供のころ、私は、ルーカス・フィルムで映画監督をしていた兄に連れられて、「スター ウォーズ」を見に行った。このとき気が付いたことは、想像力があれば全く異なる生き方、 全く異なる世界を生きることができるということだった。そしてこの世界のどこかにその場 所が存在するのだと確信していた。それを見つけるためにパリに行き、そしてロンドンに行 った。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートに通っていたとき、東京について調べることがあ った。驚いたことに、東京については何の情報も得られなかった。それはまるで東京が目に 見えない都市であるかのようだった。 東京に来たのはバブル経済が終わったころだった。ウォーター・スタジオの酒井直樹(デ ザイナー)について読む機会があった。彼は新たなものを生み出す情熱について語っており、

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18 彼は、トヨタ、フィガロ、そして日産のためにデザインを行っていた。東京やジャポニズム を語ることなく、自らが必要と考えるものを生み出していた。私は彼に会うために、東京へ やってきた。彼に「ラブ・レター」を書いて、「私はあなたのような天才的なデザイナーと ともに仕事がしたい」と伝えた。しかし、返事がなかったので、小さな箱に、植物の種を入 れ、「これを私の仕事のサンプルとして見てほしい」と伝えた。彼は私のことを秘書に調べ させ、連絡を取ってくれた。その後、私は彼とともに働くことができるようになった。私は 大変に興奮した。 仏壇と住宅 現代的な車やデジタルカメラといったもののデザインを待っていた私に最初に与えられ た仕事は「仏壇」をデザインせよというものだった。東京では、これまでやったこともない ようなことをするようにいわれるのだ。そんなことができるのは、自らを理解した高度な文 化や社会だけだろう。仏壇は、あらゆる家族生活の中心である。キリスト教徒としてイエズ ス会の学校に通った私にとって、これは難題であった。私は求めに応じて、タイム・マシン のような「仏壇」を作った。このデザインは使用するときに表れ、使用しないときには消え てしまう、という仏壇であった。私は日本ではすべてが可能であると考えていた。 私は、住宅の建築も行った。ここでは、私はコンテクスト性というものを考慮することな く、デザインを行った。これは、渋谷区に作られた 3 階建ての住宅である。私は立地が決 まる前から、建物のデザインを行い、インテリアの細かな要素まですべてを設計した。この 建物を作りながら、私は東京ではすべてが可能であるということを学んだ。確かに、地震が あり、法規制もある。しかし、そうしたものを越えれば、もう限界はないのである。すべて は可能なのである。私たちの街をより良くするためにデザインを始めようではないか。 私たちが建物を建てるために、高さ、資材、そして耐震性などを測る審査を行うが、その 建物がどのような新規性を持っているのか、創造性という意味で価値があるのかを審査する べきである。そうすれば、建築家が世界中からやってきて、東京は素晴らしい場所になるこ とだろう。パリでは何も建てることができない。窓をはじめ、全てを規定通りにしなければ ならないからである。 動き続けるシステムとしての都市 東京が回転しているのを知っているだろうか。私が日本経済新聞の本社ビルの 2 階にシ ョールームを設計するように依頼されたとき、私は工場で刷られる新聞のロールをイメージ した大きなオブジェを作り出したいと思った。経済が最も厳しい状況だった今から4、5 年 前に作り出したものだが、成功に至ることができた。

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19 このプロジェクトで学んだことは、丸の内エリアが「動く都市」として計画されていると いうことだ。この地域にあるものは動かない皇居の周りをまわっている。すべての建物は 10 年、15 年、30 年で他の場所へ移るものとして計画されているのである。私の母は、私 が消えてしまいそうな都市に暮らしていてかわいそうだ、というけれども、クリエイターに とって、これは素晴らしいことである。自ら未来を計画することができるからである。 今、東京はますます速く回転している、東京はまるでオペレーティング・システムのよう である。ここにアプリケーションを作ろうではないか。東京に本当に欲しいもの、人々を助 けるもの、それが私がアプリケーションと呼ぶものである。通りへ出て、これが10 年後に は変化するのだと考え、そのために何ができるのかを考えたい。私が本当に関心を抱いてい るのは新しい大きな建物を建てることではなくて、人々の日常が変わることである。ただ一 つの中心を持ってまわるだけでなく、都市のあちこちでこのダイナミズムを生み出すことが できれば、素晴らしいことになるだろう。 さまざまなプロジェクトに関わりながら、どのようにすれば、都市の回転に貢献すること ができるのかが分かり始めてきた。新宿のユニクロのプロジェクトでは、全てが夜になると 消えてしまう。銀座でも同じことを試みた 私はレクサスとも仕事を行った。ここでは、現実のすべてのものが消えてしまうような空 間を作りたいと思った。このトンネルの中で車を走らせると、物体の大きさがわからなくな り、現実感はすっかり消えてしまう。ハイブリッド・カーは音も立てない。ここでは人々が 自らの経験を受け止めることができるように現実感覚を消し去ってしまうのである。

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20 日本に来て15 年、私は海外で日本での経験について表現したいと思っていた。ミラノ・ サローネでは、私が東京について抱いている考えを表現し、技術がどのように見えなくなっ てしまうかを示そうとした。日本では技術は目に見えない形で消えてしまうのだ。ここでは、 私は数百の小さなボールが空気によって浮かぶ空間を作り出した。すべてはプログラムされ ており、ボールの波をコントロールすることができる。私にとってこれこそが東京のイメー ジであった。それは人々や生活の動きである。今、ここから街を見下ろすとちょうどこんな 風に、光だけが見えるはずである。 *ここで約 400 名の参加者全員が、ニコラ氏が配布した蛍光ボールに携帯電話のライト で光を与え、舞台に投げるという即興のパフォーマンスに加わった。 東京へようこそ!

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パネル・ディスカッションから From Panel Discussion

講演後のパネル・ディスカッションでは、各登壇者に、「東京のグローバル・プレゼンス を高めるアイデア」を持ち寄ってもらった。ここで発言の一部を紹介する。 クライン 東京にはもっとアイコニックな建築が必要である。多くの人々が来て、都市がにぎやかに なり、経済も活性化されるだろう。また、建物を作ることだけが重要ではなく、どのような 活動を行えば、ストリートがもっとにぎやかになるのか、ということを考えるべきだろう。 人々が集まれば、「あっ、あそこで面白そうなものがある」と思った人々が、ますます増え ていくのではないか。また、東京では、たくさんの魅力あるコンテンツがあるが、それを発 信する場がまだ少ない。自信を持ち、世界に示すことが大切だろう。 シン 2020 年の東京オリンピックをカタリスト(触媒)として、都市における大きな問題を解 決する方法を示し、世界の諸問題に対して解決策を示すことができる都市なのだということ を証明することが大切だと考える。東京は高齢化しているが、バルセロナのあるプロジェク トでは、スマート・フォンやタブレットを使って、老人同士がソーシャルメディアを通じて

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22 つながりを深めることができるプログラムを作っている。いわば信頼のネットワークだ。ま た、これまでの伝統的なIT を用いて、行政が広く社会全体にソリューションを公募し、最 も優れたアイデアを採用するということが必要だ。都市がソリューションを獲得する方法も 変化しなければならないだろう。 ニコラ 日本の人々はみな、パリやニューヨークと比べて、東京が遅れていると感じている。しか し、実際には、東京は世界がこれから20 年後、30 年後に経験するであろうことを今、経験 している。東京の人々は今、もっとも最先端に一人で立っているのだということを理解して ほしい。ほかの人々がやっていることからインスピレーションを得られないし、自らのやり 方を見つけるしかない。東京は素晴らしい一つのシステムをなしている。コンビニエンス・ ストアへ行けば、その中にあらゆる機能が備わっている。今後は、電動自転車や電気自動車 を充電できるようになるだろう。日本における一つのキーワードは「融合」である。東京で はすべてが可能である。イサム・ノグチは使わないときに消えてしまうランプをデザインし た。狭い都市にあって、不要なときは40cm になる車があってもいい。すべての答えは手元 にある。技術と感性を結びつけるだけなのである。

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「欲求とはけっしてある特定のモノへの欲求で はなくて、差異への欲求(社会的な意味への 欲望)であることを認めるなら、完全な満足な どというものは存在しない

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

以上の基準を仮に想定し得るが︑おそらくこの基準によっても︑小売市場事件は合憲と考えることができよう︒

単に,南北を指す磁石くらいはあったのではないかと思

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

きも活発になってきております。そういう意味では、このカーボン・プライシングとい