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組織成長のマネジメント・コントロールへの影響に関する実証研究

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組織成長のマネジメント・コントロールへの

影響に関する実証研究

――組織規模の視点からの考察―― 福 島 一 矩* 要旨:本研究は,組織成長のマネジメント・コントロールに及ぼす影響の解明に向けて, 組織規模がマネジメント・コントロールに及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。 具体的には,組織規模がマネジメント・コントロールに及ぼす直接的・間接的影響,マネ ジメント・コントロールの組織業績への影響を検討した。その結果,組織規模がマネジメ ント・コントロールに及ぼす直接的影響,組織構造を介した間接的影響が確認された。ま た,これらの影響が,マネジメント・コントロールのタイプにより異なることが示唆され た。 キーワード:組織成長,組織規模,マネジメント・コントロール,組織構造,組織業績 1 はじめに 近年,組織成長とマネジメント・コントロール の関係性を模索する萌芽的研究が行われつつあ る。第1は,スタートアップ期におけるマネジメ ント・コントロールの採用に関する議論であり, 組織規模の拡大に応じて多様なタイプのマネジメ ント・コントロールの採用が開始されることが指 摘されてきた(Davila, 2005;Davila and Foster, 2007;など)。第2は,組織ライフサイクルとマネ ジメント・コントロールの関係性に関する議論で あり,組織ライフサイクル間でマネジメント・コ ントロールが異なることが指摘されてきた(Md. Auzair and Langfield-Smith, 2005;Moores and Yuen, 2001;など)。 しかし,前者はスタートアップ期に焦点を当て ており,長期にわたる組織成長を議論の対象とし ていないこと,後者は組織ライフサイクルの測 定・分類基準の更なる検討が求められること(福 島,2011)などの課題も残されている。 そこで,本研究では長期にわたる組織成長を議 論の対象とし,組織成長を規定する要因である組 織規模(Greiner, 1972)に着目し,組織規模とマ ネジメント・コントロールの関係を検討する。こ れまでも組織規模とマネジメント・コントロール の関係は広く議論され,組織規模の拡大が直接的 にマネジメント・コントロールの高度化・洗練化 を 及 ぼ す こ と が 指 摘 さ れ て き た(Hoque and James, 2000;朴・浅田,2003;吉田・妹尾,2010; など)。他方で,組織規模の拡大は,組織構造,意 思決定スタイルなど,マネジメント・コントロー ルに影響を与える組織コンテクストを形成・変化 させることが指摘されてきたが(今口 , 1993; Chenhall, 2007)このような組織成長とマネジメ ント・コントロールの間接的関係を考慮した研究 は少ない。そのため,組織規模の拡大が組織コン テクストを介してマネジメント・コントロールに 影響を及ぼすという関係性も考慮する必要があ る。 さらに,マネジメント・コントロールは,組織 業績の向上に貢献することが想定され,その関係 性が広く議論されてきた(Ittner and Larcker, 1998)。そのため,組織規模に応じて利用される

* 西南学院大学商学部 〒 814-8511 福岡市早良区西新 6-2-92

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マネジメント・コントロールが組織業績に及ぼす 影響についても考慮することが必要である。 以上のような問題意識から,本研究では,組織 規模とマネジメント・コントロールの直接的・間 接的な関係およびマネジメント・コントロールと 組織業績の関係を実証的に明らかにすることを目 的とする。以下では,第2節で研究フレームワー クの提示,第3節で仮説の構築,第4節で分析方 法と分析データの収集および変数の設定,第5節 で分析結果と考察を述べる。 2 研究フレームワーク 本節では,組織規模とマネジメント・コント ロー ルの関係性およびマネジメント・コントロールと 組織業績の関係性の解明に向けた研究フレーム ワークを示す。 まず,組織規模とマネジメント・コントロール の関係性には,直接的関係と間接的関係が想定さ れる。直接的関係とは,組織規模の拡大が直接的 にマネジメント・コントロールに影響を与える関 係を指す。組織規模の拡大がマネジメント・コン トロールの利用に与える影響は広く指摘されてき た(Hoque and James, 2000;朴・浅田,2003;吉 田・妹尾,2010;など)。たとえば,組織規模が大 きいほど,予算差異情報が多様な目的で利用され ること(朴・浅田,2003),財務目標を重視した業 績管理,事業戦略と業績目標の整合性の確保,挑 戦的な業績目標の設定が行われること(吉田・妹 尾,2010),バランスト・スコアカードの利用度が 高いこと(Hoque and James, 2000)などが明らか にされてきた。そのため,組織規模の拡大がマネ ジメント・コントロールに影響を与えるという直 接的関係が想定される。 一方,間接的関係とは,組織規模の拡大が組織 コンテクストを介してマネジメント・コントロー ルに影響を与える関係を指す。組織規模の拡大に 応じて組織構造,意思決定スタイル,組織文化・ 風土など,マネジメント・コントロールに影響を 与える多様な組織コンテクストが形成・変化され ることが指摘されてきた(今口,1993;Chenhall, 2007)。そのため,組織規模の拡大が組織コンテ クストを介してマネジメント・コントロールに影 響を与えるという間接的関係も想定される。 次に,マネジメント・コントロールと組織業績 の関係性について,マネジメント・コントロール が組織業績に及ぼす影響は広く議論され(Ittner and Larcker, 1998),その影響関係が想定される。 以上から,本研究では,組織規模の拡大がマネ ジメント・コントロールに及ぼす直接的・間接的 影響および,マネジメント・コントロールが組織 業績に及ぼす影響を想定した研究フレームワーク を構築する(図1)。 研究フレームワークを構成する概念について, まず組織規模概念は,組織の売上規模(朴・浅田, 2003;など)を取り上げる。組織規模を示す変数 には,ほかにも従業員数も考えられるが(Hoque and James, 2000;吉田・妹尾,2010;など),業種 特性などの影響も予想されるため,より的確に組 織規模を示すと考えられる売上規模により議論を 行う。 次 に,組 織 コ ン テ ク ス ト 概 念 は,組 織 構 造 (Greiner, 1972;Miller and Friesen, 1984;など)

を取り上げる。組織では,成長する過程で製品ラ インの拡大などを通じて大規模化が進み,分権的 な組織構造が構築されることが指摘されてきた (Khandwalla, 1972 ; Galbraith and Nathanson,

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1978)。そこで,本研究では,組織コンテクスト概 念について,組織構造により議論を行う。 続いて,マネジメント・コントロール概念は, インターラクティブ・コントロールと診断型コン トロール(Simons, 1995)を取り上げる。Simons (1995)は,インターラクティブ・コントロール (interactive control systems)と 診 断 型 コ ン ト ロール(diagnostic control systems)に加えて, 信条システム(beliefs systems)および事業境界 システム(boundary systems)からなるマネジメ ント・コント ロールの体系を示した。そのうえで, Simons(1995)は,組織成長に応じて多様なコン トロールが利用されることを主張しており,組織 規模との関係性が想定される。 本研究では,マネジメント・コントロールと組 織業績の関係を議論するため,先行研究を踏まえ, これらの4つのコントロール・システムのうち, 診断型コントロールとインターラクティブ・コン トロールのみに焦点を当てる。先行研究では,4 つのコントロール・システムと組織業績の関係を 検討する研究は例外的であり(Widener, 2007), その多くは,診断型コントロールとインターラク ティブ・コントロールのみに焦点を当ててきた (Abernethy and Brownell, 1999 ; Henri, 2006b)。

これらの研究では,2つのコントロール・システ ム間で戦略変化と組織業績の関係に与える影響が 異なること(Abernethy and Brownell, 1999),組 織能力に与える影響が異なること(Henri, 2006b) などが指摘されてきた。そこで,本研究でも診断 型コントロールとインターラクティブ・コント ロールのみを取り上げる。 インターラクティブ・コントロールは従業員の 情報探索範囲を戦略的不確実性まで拡大させ,機 会探索行動を刺激し,組織学習と新たな戦略創発 を促すこと,診断型コントロールは重要業績変数 をモニタリングし,意図された戦略を実行するこ とを目的とする。加えて,インターラクティブ・ コントロールは,診断型コントロールがモニタリ ングする情報も利用されるため(Simons, 2000), インターラクティブ・コントロールの利用度が高 まるにつれて,診断型コントロールの利用度も高 ま る こ と が 経 験 的 に 示 さ れ て お り(Widener, 2007),コントロール・システム間の影響関係も含 める。 最後に,組織業績概念は,非財務業績と財務業 績を取り上げる。マネジメント・コントロールは 組織業績に影響を与えるだけでなく(Ittner and Larcker, 1998),非財務業績の向上が財務業績に 影響を及ぼすことも指摘されるため(Ittner and Larcker, 2009),組織業績間の影響関係も想定さ れる。 3 仮説構築:組織規模,マネジメント・コン トロール,組織業績の関係性 続いて本節では,組織規模の拡大がマネジメン ト・コントロールに及ぼす直接的・間接的影響お よび,マネジメント・コントロールが組織業績に 及ぼす影響について仮説構築を行う。 3.1 組織規模とマネジメント・コントロールの 直接的関係 まず,組織規模の拡大がマネジメント・コント ロールに及ぼす直接的影響について仮説を構築す る。組織規模の拡大がマネジメント・コントロー ルに与える影響について,大規模企業の方が小規 模企業よりも,予算差異情報(朴・浅田,2003), バランスト・スコアカード(Hoque and James, 2000),ABC/ABM(Chenhall and Langfield-Smith, 1998),インターラクティブな業績管理(吉 田・妹尾,2010)の利用度が高いことなどが指摘 されてきた。また,Simons(1995)は,組織成長 に伴って,診断型コントロールやインターラク ティブ・コントロールが利用されるようになるこ とを主張した。このように,組織規模の拡大に 伴ってマネジメント・コントロールの高度化,洗 練化などの利用スタイルの変化が推察されるた め,次の仮説を設定する。 H1a 組織規模の拡大は,直接的にインターラク ティブ・コントロールの利用を促進する。 H1b 組織規模の拡大は,直接的に診断型コント

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ロールの利用を促進する。 3.2 組織規模とマネジメント・コントロールの 間接的関係 次に,組織規模の拡大がマネジメント・コント ロールに及ぼす間接的影響について仮説を構築す る。組織では,その成長過程で製品ラインの拡大 などにより大規模化が進み,分権的な組織構造が 構 築 さ れ る(Khandwalla, 1972 ; Galbraith and Nathanson, 1978)。また,分権化された組織では, 業務の多様化,業務プロセスの公式化,機能別の 専門化に加えて,コントロールの精緻化や公式化 が進む(Khandwalla, 1972;Bruns and Waterhouse, 1975;Merchant, 1981;など)。このように,組織 成長に伴う分権化は,診断型コントロールの利用 を促進することが推察される。 また,Greiner(1972)が,組織が成長するにつ れて,分権化が進み,対話型のマネジメントが利 用されることを主張するように,組織成長に伴う 分権化は,インターラクティブ・コントロールの 利用を促進することが推察される。以上から,次 のような仮説を設定する。 H2a 組織規模の拡大により,分権化が進むこと で,インターラクティブ・コントロールの 利用が促進される。 H2b 組織規模の拡大により,分権化が進むこと で,診断型コントロールの利用が促進され る。 3.3 マネジメント・コントロールと組織業績の 関係 最後に,マネジメント・コントロールが組織業 績に及ぼす影響について仮説を構築する。マネジ メント・コント ロールが組織業績に及ぼす影響は, 予算管理や業績管理を中心として広く議論されて きた(Ittner and Larcker, 1998)。インターラク ティブ・コントロールおよび診断型コントロール と組織業績の関係について,インターラクティ ブ・コントロールや診断型コントロールはマネ ジャーの注意や組織学習に影響を与え,財務業績 や非財務業績の主観的評価を向上させること (Widener, 2007),戦略的変化に従って予算管理 をインターラクティブ・コントロールの手段とし て利用することで財務業績や非財務業績の主観的 評価が向上すること(Abernethy and Brownell, 1999)などが指摘されてきた。しかし,インター ラクティブ・コントロールは財務業績や顧客関連 業績の主観的評価に直接的な影響を与えないこと を示す研究もある(Bisbe and Otley, 2004)。この ように,マネジメント・コントロールと組織業績 の間に一定の関係は見出せないが,探索的に次の 仮説を設定する。 H3a インターラクティブ・コントロールの利用 は,組織業績に正の影響を与える。 H3b 診断型コントロールの利用は,組織業績に 正の影響を与える。 4 研究方法 続いて本節では,分析方法および分析データの 収集,分析に用いる変数の設定について述べる。 4.1 分析方法 本研究では,組織規模がマネジメント・コント ロールに直接的・間接的影響を与え,さらにマネ ジメント・コントロールが組織業績に影響を与え るという関係性を想定した研究フレームワークを 構築した。そこで,組織規模,組織コンテクスト (組織構造),マネジメント・コントロール(イン ターラクティブ・コントロール,診断型コントロー ル),組織業績(非財務業績,財務業績)間の関係 性を共分散構造分析により明らかにする。 4.2 分析データの収集 分析のためのデータは,2010 年2月に実施した 郵送質問票調査により収集した。調査対象は,東 証一部・二部および新興市場(東証マザーズ,大 証ヘラクレス,JASDAQ,名証セントレックス, 札証アンビシャス,福証 Q-Board)上場の製造業 1,435 社であり1) ,主として本社経理担当部門長宛

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てに送付し,主要事業の実情について回答を求め た。回収期限後を含む回収数は 126 社(8.8%)で あった。分析に用いるデータは,回答に不備があ るものや,欠損値のあるものを除いた 108 社 (7.5%)である。 4.3 変数の設定 分析に用いる変数は次のように測定し,操作化 を行った2) 。 4.3.1 組織規模 組織規模は,朴・浅田(2003)などを参照し, 2009 年度の連結売上高3) により測定し,自然対数 変換を行った。 4.3.2 組織コンテクスト(組織構造) 組織構造は,分権化の程度を加護野ほか編 (1993)や木島編(2006)などを参照した1つの質 問項目で測定した。 4.3.3 マネジメント・コントロール マネジメント・コント ロールは,Abernethy and Brownell(1999),Widener(2007)などを参 照し,予算管理の利用スタイルを4つの質問項目 で測定し,確認的因子分析を行った結果,次の2 因子が抽出された(表1)。第1因子は,事業部長 の日常的な予算達成状況の把握や,事業部門内部 で日常的に話し合いが行われており,組織内での 日常的な討論やマネジャーの徹底的な情報活用 (Bisbe et al., 2007 ; Widener, 2007),非公式なコ ミュニケーション(Dent, 1987)といったインター ラクティブ・コントロールの特徴を有しているた め「インターラクティブ・コントロール」と名付 けた。第2因子は,事業部門内の定期的な話し合 いや,予算と実績が乖離した場合に話し合いが行 われており,インターラクティブ・コントロール ほど頻繁にモニタリングや話し合いが行われず, 一 定 の 期 間 ご と に 実 施 さ れ る こ と(Widener, 2007),例外管理をベースとすること(Abernethy and Brownell, 1999 ; Henri, 2006b)といった診断 型コントロールの特徴を有しているため「診断型 コントロール」と名付けた。変数の操作化にあ たっては,高い因子負荷量を示した質問項目の平 均値を得点化した。

4.3.4 組織業績

組織業績は,Ittner and Larcker(2009)を踏ま え,業績達成状況の主観的評価を4つの質問項目 で測定し,確認的因子分析を行った結果,次の2 因子が抽出された(表2)。第1因子は,営業利益 目標や売上高目標の達成度について因子負荷量が 高く,「財務業績」と名付けた。第2因子は,品質 目標や納期目標の達成度について因子負荷量が高 く,「非財務業績」と名付けた。変数の操作化にあ たっては,高い因子負荷量を示した質問項目の平 均値を得点化した。 表1.マネジメント・コントロールに関する確認的因子分析 平均値 標準偏差 インターラクティブ・コントロール 診断型コントロール 事業部門内の日常的ミーティング 4.61 1.222 0.762 0.331 事業部長の日常的な状況把握 4.88 1.439 0.732 0.063 事業部門内の定期的ミーティング 6.00 0.957 0.329 0.742 事業部門内の臨時的ミーティング 5.67 0.986 0.060 0.707 固有値 2.163 1.053 寄与率 0.307 0.291 Cronbach’s α 0.728 0.705 注1)バリマックス回転後の因子パターン

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5 分析結果と考察 本節では,分析結果と考察を述べる。 組織規模,組織構造(分権化),マネジメント・ コントロール(インターラクティブ・コントロー ル,診断型コントロール),組織業績(非財務業績, 財務業績)間の関係性について共分散構造分析に よる推定を行った。分析モデルに含まれる変数間 の相関係数は表3,分析モデルの推定結果は図2, 表4のとおりである。 分析の結果,モデルの適合度指標は,カイ二乗 値=5.150(df=4,p 値=0.272),GFI=0.985, CFI=0.976,RMSEA=0.052 であり,概ね当て はまりの良いモデルであると考えられる。そこ で,本分析モデルの推定結果に基づき,仮説検証 を行う。 まず,組織規模とマネジメント・コントロール の直接的関係について,組織規模の拡大がイン ターラクティブ・コントロールの利用を直接的に 促進することは確認されず,仮説 1a は支持され なかった。一方,組織規模の拡大が診断型コント ロールの利用を直接的に促進することが確認さ れ,仮説 1b は支持された。 仮説 1a に関する分析結果は,組織成長が進む につれてインターラクティブ・コントロールが利 用されるという主張(Simons, 1995)とは異なる 結果を示している。インターラクティブ・コント ロールは戦略的不確実性が高い環境で利用される ことが指摘されるように(Widener, 2007),組織 成長と戦略的不確実性の間に明確な関係が見出せ ないことを示していると考えられる。 次に,組織規模の組織構造を介したマネジメン ト・コントロールとの間接的関係について,組織 規模の拡大が分権化を促すことは確認されたが, 分権化がインターラクティブ・コントロールの利 用を促進することが確認されず,仮説 2a は支持 されなかった。一方,分権化が診断型コントロー ルの利用を促進することは確認され,仮説 2b は 支持された。 仮説 2a に関する分析結果は,組織が成長する につれて,分権化が進み,対話型のマネジメント が利用されるという主張(Greiner, 1972)とは異 なる結果を示している。組織デザインを行ううえ で,組織構造,責任共有,診断型コントロール, インターラクティブ・コントロール4) 間のバラン スが重要であるという主張(Simons, 2005)もあ るように,組織構造との関係のみでインターラク ティブ・コントロールの利用が決定されるわけで はないことを示していると考えられる。 最後に,マネジメント・コントロールと組織業 績の関係について,インターラクティブ・コント ロールの重点的利用は,財務業績達成度の主観的 評価を高めることが確認されたが,財務業績達成 度の主観的評価を高めることは確認されず,仮説 3a は部分的に支持された。一方,診断型コント ロールの重点的利用は,非財務業績達成度の主観 的評価を高めることが確認されたが,財務業績達 成度の主観的評価を高めることは確認されず,仮 表2.組織業績に関する確認的因子分析 平均値 標準偏差財務業績 非財務業績 営業利益目標達成度 3.45 1.462 0.854 0.080 売上高目標達成度 3.57 1.348 0.850 0.039 品質目標達成度 4.44 1.105 0.083 0.853 納期目標達成度 4.79 1.200 0.036 0.849 固有値 1.932 1.527 寄与率 0.365 0.364 Cronbach’s α 0.842 0.841 注1)バリマックス回転後の因子パターン

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図2.分析モデルの推定結果 注1)*** p < 0.01,** p < 0.05,* p < 0.1 注2)カイ二乗値=5.150(df=4,p 値=0.272),GFI=0.985,CFI=0.976,RMSEA=0.052 注3)統計的に有意なパスのみ記載 表3.分析モデルに含まれる変数間の相関関係 平均値 標準偏差 (1) (2) (3) (4) (5) (6) 組織規模 10.94 1.818 (1) 1.000 分権化 4.53 1.115 (2) .226* 1.000 インターラクティブ・ コントロール 4.75 1.183 (3) .139 .142 1.000 診断型コントロール 6.05 0.723 (4) .365** .332** .409** 1.000 非財務業績 4.62 1.071 (5) .096 .195* .073 .246* 1.000 財務業績 3.51 1.307 (6) .083 .136 .135 .054 .117 1.000 注1)ピアソン(Pearson)の相関係数 注2)** p < 0.01,* p < 0.05(両側) 表4.分析モデルのパス解析統計量 標準化推定値 推定値 検定統計量 確率 分権化 ← 組織規模 .226 .139 2.403 .016 インターラクティブ・ コントロール ← 組織規模 .112 .073 1.150 .250 インターラクティブ・ コントロール ← 分権化 .116 .124 1.193 .233 診断型コントロール ← 組織規模 .297 .139 3.548 *** 診断型コントロール ← 分権化 .236 .181 2.824 .005 診断型コントロール ← インターラクティブ・コントロール .285 .206 3.471 *** 非財務業績 ← インターラクティブ・コントロール −.007 −.006 −.070 .944 非財務業績 ← 診断型コントロール .223 .280 2.207 .027 財務業績 ← インターラクティブ・コントロール .175 .194 1.734 .083 財務業績 ← 診断型コントロール −.139 −.213 − 1.344 .179 財務業績 ← 非財務業績 .135 .165 1.396 .163 注1)*** p < 0.001

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説 3b は部分的に支持された。 そのほかには,Widener(2007)と同様にイン ターラクティブ・コントロールの重点的利用が診 断型コントロールの利用を促すことが確認され, インターラクティブ・コントロールの重点的利用 が診断型コントロールの利用を促し,非財務業績 達成度の主観的評価を高めるという間接的な影響 関係も確認された。 仮説 3a,3b に関する分析結果は,インターラ クティブ・コントロールが直接的に財務業績の主 観 的 評 価 を 高 め な い と い う 結 果(Bisbe and Otley, 2004)とは異なった結果を示しており,マ ネジメント・コントロールと組織業績の間に一定 の関係性を見出せないことを示しており考えられ る。 6 むすびに 以上,組織規模,マネジメント・コントロール, 組織業績の関係性を検討してきた。その結果,ま ず,組織規模の拡大がマネジメント・コントロー ルに与える影響は,インターラクティブ・コント ロールと診断型コントロールで異なることが示唆 された。インターラクティブ・コントロールにつ いては,組織規模の直接的影響に加えて,分権化 を介した間接的影響も確認されなかった。一方, 診断型コントロールについては,組織規模の直接 的影響に加えて,分権化を介した間接的影響も確 認された。診断型コントロールは意図された戦略 の実行に向けて重要業績変数をモニタリングする 手段であり,Simons(1995)も主張するように, 組織規模の拡大や組織構造の変化によって利用の 必要性が生じるコントロール手段であることが推 察される。 次に,インターラクティブ・コントロールと診 断型コントロールでは組織業績に与える影響が異 なることが示唆された。インターラクティブ・コ ントロールは財務業績達成度の主観的評価を高め ること,診断型コントロールは非財務業績達成度 の主観的評価を高めることが確認された。また, インターラクティブ・コントロールの重点的利用 は,診断型コントロールの利用を促進し,非財務 業績達成度の主観的評価を高めるという間接的な 影響も確認されており,インターラクティブ・コ ントロールは組織業績全般に対して正の効果を持 つことが推察される。 しかし,本研究にはいくつかの残された課題も 存在する。第1は,組織規模以外の変数を用いた 組織成長とマネジメント・コントロールの関係性 の検討である。近年では,組織ライフサイクルと マネジメント・コントロールの関係性を模索する 萌芽的研究が行われつつある。本研究では,組織 規模のインターラクティブ・コントロールに対す る直接的影響,間接的影響ともに確認されなかっ たが,組織ライフサイクルによりインターラク ティブ・コントロールの利用度が異なることを示 す研究もある(福島,2011)。組織ライフサイクル は,組織規模を含めた多様な要因により規定され るため(今口,1993),組織成長を捉える有用な概 念である。そこで,組織ライフサイクルの測定・ 分類基準の更なる検討を含め,組織ライフサイク ルがマネジメント・コントロールに与える影響を 示す研究も求められる。 第2は,組織成長により構築・変化する多様な 組織コンテクストを含めた検討である。たとえ ば,組織成長は,組織構造の変化だけでなく,組 織文化・風土などの形成・変化をもたらす(Quinn and Cameron, 1983)。自発性や俊敏さなどを有す るフレキシブルな組織文化・風土の組織では,業 績管理システムを注意喚起や戦略的意思決定に利 用 す る こ と な ど も 指 摘 さ れ る よ う に(Henri, 2006a),組織文化・風土がマネジメント・コント ロールに影響を及ぼすことが予想される。このよ うに,組織成長の多様な組織コンテクストを介し たマネジメント・コントロールへの影響の検討も 求められる。 第3は,マネジメント・コントロールの組織プ ロセスに対する影響の検討である。本研究では, マネジメント・コントロールの組織業績に対する 直接的影響を検討したが,マネジメント・コント ロールが組織能力や組織学習などの組織プロセス に与える影響(Henri, 2006b;Widener, 2007;な

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ど)を介した組織業績に対する間接的影響も考慮 することが求められる。 参考文献 今口忠政.1993.『組織の成長と衰退』中央経済社. 加護野忠男・角田隆太郎・山田幸三・㈶関西生産性 本部編.1993.『リストラクチャリングと組織文 化』白桃書房. 木島淑孝編.2006.『組織文化と管理会計システム』 中央大学出版部. 朴景淑・浅田孝幸.2003.「企業規模と予算管理シ ステムとの関連性に関する研究:2001 年の日本企 業におけるアンケート調査結果に基づいて」『管 理会計学』12(1):15-29. 福島一矩.2011.「組織ライフサイクルとマネジメ ント・コントロールの変化」『原価計算研究』35 (1):131-141. 吉田栄介・妹尾剛好.2010.「日本企業における業 績・予算管理の利用に関する実証研究」『原価計算 研究』34(2):35-45.

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Bruns, W. J. Jr. and J. H. Waterhouse. 1975. Budgetary control and organizational structure. 補遺 分析に用いた質問項目 変数 質問項目 (1)組織構造 分権化 事業部門には事業活動に関する大幅な権限委譲がされている。 (2)マネジメント・コントロール 事業部門内の日常的ミーティング 予算の達成に向けて事業部門長が参加する事業部門内の話し合いが日常的に行われる。 事業部門長の日常的な状況把握 事業部門長は予算の達成状況を日常的に把握している。 事業部門内の臨時的ミーティング 予算と実績が乖離した場合,事業部門長と事業部門内のミドルの間で話し合いが行われる。 事業部門内の定期的ミーティング 予算の達成に向けて事業部門長が参加する事業部門内の話し合いが定期的に行われる。 (3)組織業績 貴社の主要事業における直近 3 年間の平均的な目標の達成度はどの程度ですか。 営業利益目標達成度 営業利益目標 売上高目標達成度 売上高目標 品質目標達成度 品質目標 納期目標達成度 納期目標 注1)各質問はすべて 7 点尺度で調査している。

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注 1)調査対象企業が上場する証券市場名称は調査実施時の名称 である。 2)分析に用いた質問項目については,補遺を参照いただきた い。 3)分析対象企業には純粋持株会社も含まれるため,本研究で は連結データによる分析を行った。連結対象企業が存在しな い企業については,単体データを用いている。 4 Simons(2005)では,インターラクティブ・コントロール に代わって,インターラクティブ・ネットワークという概念 を用いている。インターラクティブ・ネットワークは,水平 的インターラクションをインターラクティブ・コントロール に付加している。本研究では,インターラクティブ・コント ロールとインターラクティブ・ネットワークを厳密には区別 せず議論している。

The impact of organizational size growth on management control : an empirical research

Kazunori Fukushima(Department of Commerce, Seinan Gakuin University)

Abstract : The purpose of this paper is to reveal the relationship between organization growth and

management control. The paper discuss about the impact of organizational size growth on management control, and management control on organizational performance. This study revealed that organization growth affects management control both directly and indirectly. The direct effect is that the bigger firms have grown, the more dependent on diagnostic control systems. The indirect effects are that the bigger firms have grown, the more decentralized organizational structure has been designed, then the more dependent on diagnostic control systems. In addition, interactive control systems affect financial performance and diagnostic control systems affect non-financial performance positively.

Key words : Organization Growth, Organizational Size, Management Control, Organizational

参照

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