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首都と地方の極端な格差ただし 地域別にみると大きなばらつきがある 第 1 表をみると 00 年における1 人当たりの月収が最も高いモスクワ市 (1,300ルーブル) と最も低いイルクーツク州ウスチオルダ ブリャート自治管区 (1,ルーブル) の格差は 倍以上になっている モスクワ市民の場合 サイド

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ロシア国民の所得分布と消費スタイルの変化

ロシア東欧経済研究所 調査役 芳地 隆之 はじめに 1.国民の所得分布 2.消費スタイルの変化 3.小売分野における外資進出例

はじめに

近年のロシア、とりわけモスクワなど都市部の住民の消費意欲にはめざましいものがある。1998 年の経済危機以降、ロシア経済が回復するに従って国民所得は増加し、購買力の上昇により消費 構造に変化が生じている。その一方で貧富の差や首都と地方の所得格差の拡大が指摘されて久し い。ここ数年のモスクワの急速な発展と地方経済の立ち遅れは国内の不満を高めているが、富の 集中は、従来のニューリッチだけでなく、都市部における中間層の拡大を促している点に注目す べきであろう。そこで本リポートでは、ロシアにみられる所得分布と消費スタイルの変化を紹介 するとともに、今後の対ロ・ビジネスの可能性について考えてみたい。

1.国民の所得分布

伸びる所得と消費支出 2003年上半期におけるロシア国民の個人所得および消費支出は前年同 期比でそれぞれ30.2%、23.8%増加した1)。2003年の実質可処分所得の伸び率は9.2%と予測されて おり2)、そうなると、前年の伸び率(8.9%3))を上回る。ロシア国家統計委員会によれば、2003年 1~8月の国民所得は5兆4,078億ルーブル(前年同期比28.3%増)、うち消費支出にあてられたの は3兆8,154億ルーブル(同22.9%増)、貯蓄に回ったのは1兆392億ルーブル(同54.1%増)であっ た4)

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首都と地方の極端な格差 ただし、地域別にみると大きなばらつきがある。第1表をみると、 2002年における1人当たりの月収が最も高いモスクワ市(16,300ルーブル)と最も低いイルクーツ ク州ウスチオルダ・ブリャート自治管区(1,410ルーブル)の格差は10倍以上になっている。モス クワ市民の場合、サイド・ビジネスや未納税分を加えると実質的な収入は公式統計の1.5~2倍に なるといわれるので、実際にはさらに大きな格差となろう。ちなみに2000年の日米両国の年収を みてみると、米国では1位のコネチカット州(4万720ドル)と50位のミシシッピ州(2万900ド ル)が約2倍の格差(米国商務省のデータ)、日本でも1位の東京都(437万円)と48位の沖縄県 (213万円)が約2倍の格差(経済産業省のデータ)であり、ロシアの格差の大きさが際立つ。 モスクワ以外で所得の高い地方は、チュメニ州のヤマロ・ネネツ自治管区(2位。月収1万5,105 ルーブル)、ハントィ・マンシ自治管区(3位。同1万2,723ルーブル)、極東のチュコト自治管区 (4位。同1万268ルーブル)など、石油で潤う特殊な地域である。国内第2の都市でありながら、 モスクワに大きく遅れをとっているサンクトペテルブルグは16位で、同市の平均月収は5,301ルー ブルであった。 消費支出にいたっては、モスクワ(1万5,600ルーブル)が、2位のヤマロ・ネネツ自治管区(6,300 ルーブル)の2.5倍、8位のサンクトペテルブルグ(3,900ルーブル)の4倍と他を圧倒している。 (第1表)ロシアにおける地域別の1人当りの月収、消費支出、平均賃金 (2002年10~12月調べ) (単位 ルーブル) 地 域 月 収 消費支出 平均賃金 順位 金額 順位 金額 順位 金額 中央連邦管区 ベルゴロド州 ブリャンスク州 ウラジーミル州 ヴォロネジ州 イワノヴォ州 カルガ州 コストロマ州 クルスク州 リペツク州 モスクワ州 オリュール州 リャザン州 スモレンスク州 タンボフ州 トヴェリ州 トゥーラ州 ヤロスラブリ州 モスクワ市 48 69 79 55 85 63 73 59 40 28 58 56 43 47 76 53 29 1 3,187.4 2,727.4 2,433.7 2,902.7 1,857.6 2,790.1 2,615.9 2,868.2 3,375.0 3,881.2 2,870.4 2,897.5 3,269.9 3,238.1 2,575.7 2,926.6 3,857.6 16,257.5 33 26 10 44 7 28 15 18 57 70 40 27 52 42 22 23 39 88 1,921.4 1,761.8 1,354.8 2,120.4 1,278.1 1,802.4 1,529.7 1,585.7 2,430.0 2,918.7 2,049.0 1,786.9 2,270.3 2,080.6 1,701.5 1,709.2 2,044.7 15,588.3 44 73 57 68 77 42 64 61 51 20 65 50 52 74 53 55 37 8 4,233.9 3,117.1 3,813.2 3,410.3 3,072.8 4,340.7 3,570.5 3,628.4 3,995.9 6,147.9 3,544.5 4,019.7 3,964.7 3,099.3 3,963.8 3,948.5 4,734.8 11,095.4

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北西連邦管区 カレリア共和国 コミ共和国 アルハンゲリスク州 ネネツ自治管区 ヴォログダ州 カリニングラード州 レニングラード州 ムルマンスク州 ノヴゴロド州 プスコフ州 サンクトペテルブルグ市 南部連邦管区 アドゥイゲヤ共和国 ダゲスタン共和国 イングーシ共和国 カバルダ・バルカル共和国 カリムイキヤ共和国 カラチャイ・チェルケス共和国 北オセチア共和国 クラスノダル地方 スタヴロポリ地方 アストラハン州 ヴォルゴグラード州 ロストフ州 沿ヴォルガ連邦管区 バシコルトスタン共和国 マリ・エル共和国 モルドヴィア共和国 タタールスタン共和国 ウドムルト共和国 チュヴァシ共和国 キーロフ州 ニジェゴロド州 オレンブルグ州 ペンザ州 ペルミ州 コミ・ペルミャク自治管区 サマラ州 サラトフ州 ウリヤノフスク州 ウラル連邦管区 クルガン州 スヴェルドロフスク州 チュメニ州 ハントィ・マンシ自治管区 ヤマロ・ネネツ自治管区 チェリャビンスク州 シベリア連邦管区 アルタイ共和国 ブリャート共和国 22 12 25 8 26 46 64 14 44 65 16 70 82 86 50 84 72 54 37 71 38 52 35 39 83 78 31 68 80 67 32 60 77 21 87 18 62 74 75 23 5 3 2 42 45 33 4,379.2 6,258.9 3,969.9 7,517.6 3,949.6 3,262.4 2,778.8 5,979.2 3,267.4 2,776.5 5,301.2 2,663.9 2,217.7 1,737.3 3,106.3 2,002.6 2,631.4 2,904.7 3,527.4 2,656.7 3,524.2 2,966.0 3,581.6 3,516.7 2,071.6 2,502.8 3,687.0 2,740.0 2,412.0 2,742.0 3,624.4 2,855.1 2,519.2 4,501.8 1,609.2 4,822.8 2,810.8 2,592.2 2,588.2 4,357.2 9,884.0 12,722.5 15,104.5 3,314.7 3,267.3 3,618.9 61 79 50 63 48 68 35 80 51 36 81 14 11 1 46 4 17 30 65 55 47 32 64 58 9 8 53 29 20 25 54 16 21 67 3 83 24 34 19 73 85 86 87 49 13 41 2,596.2 3,721.4 2,251.3 2,706.7 2,166.3 2,861.0 1,963.7 3,762.2 2,261.7 1,963.8 3,907.4 1,503.1 1,366.5 414.6 2,123.3 873.1 1,583.5 1,837.9 2,758.0 2,419.8 2,150.7 1,887.3 2,735.2 2,487.3 1,321.4 1,314.3 2,388.1 1,803.0 1,636.5 1,760.3 2,395.3 1,578.8 1,699.9 2,806.1 761.9 4,277.9 1,744.8 1,955.3 1,629.6 3,040.1 4,738.1 5,597.8 6,317.8 2,194.5 1,452.6 2,066.4 26 15 23 6 29 36 25 14 47 66 18 72 88 62 83 76 75 85 45 63 40 56 59 41 84 81 43 54 82 69 48 58 79 33 86 30 70 71 67 28 5 3 1 38 60 34 5,556.8 7,878.7 5,823.4 14,357.9 5,215.3 4,790.5 5,626.0 8,856.2 4,148.5 3,495.4 7,392.0 3,144.6 2,146.9 3,613.1 2,800.5 3,075.2 3,094.7 2,712.6 4,192.7 3,577.7 4,388.1 3,919.9 3,744.2 4,343.0 2,795.6 2,893.6 4,309.0 3,958.2 2,850.4 3,341.3 4,099.6 3,755.0 2,987.2 5,051.4 2,590.3 5,134.2 3,316.6 3,295.7 3,451.0 5,338.3 14,944.4 17,772.8 19,220.0 4,664.9 3,714.0 4,991.0

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トゥワ共和国 ハカシヤ共和国 アルタイ地方 クラスノヤルスク地方 タイムィル自治管区 エヴェンキ自治管区 イルクーツク州 ウスチオルダ・ブリャート自治管区 ケメロヴォ州 ノヴォシビルスク州 オムスク州 トムスク州 チタ州 アギン・ブリャート自治管区 極東連邦管区 サハ共和国 沿海地方 ハバロフスク地方 アムール州 カムチャッカ州 コリャーク自治管区 マガダン州 サハリン州 エヴェンキ自治管区 チュコト自治管区 61 41 66 19 6 17 27 88 20 49 30 24 57 81 7 34 15 51 11 9 10 13 36 4 2,837.8 3,354.1 2,771.6 4,745.0 8,030.5 4,900.8 3,927.1 1,408.8 4,594.7 3,117.7 3,768.5 4,293.9 2,897.5 2,276.1 8,001.6 3,596.7 5,322.0 3,030.5 6,651.8 6,805.3 6,782.1 6,143.3 3,550.5 10,267.8 6 31 45 74 69 43 60 2 71 75 59 62 12 5 84 66 77 38 76 56 72 78 37 82 1,105.3 1,875.5 2,121.5 3,142.6 2,885.0 2,109.3 2,591.0 444.9 2,958.5 3,175.2 2,492.1 2,673.0 1,382.8 952.7 4,635.0 2,803.0 3,428.6 2,028.2 3,359.7 2,429.1 2,970.7 3,542.2 2,011.2 4,201.0 46 32 78 17 4 13 21 87 35 39 49 19 27 80 10 24 16 22 9 7 11 12 31 2 4,179.7 5,084.9 2,998.8 7,433.9 16,077.1 8,880.6 6,108.5 2,505.6 4,975.4 4,425.4 4,044.0 6,716.0 5,390.1 2,968.0 10,111.3 5,771.6 7,749.2 6,035.5 10,864.4 13,156.4 10,021.5 8,992.2 5,125.1 18,088.6 ロシア全体 4,597 3,267 5,504 (出所)『国民の所得および生活水準』(全ロシア国民生活水準センター。2003年)。 徐々に形成される中間層 2003年4月末にロシア統計国家委員会が発表した同年第1四半期の 所得階層分布によれば、所得層上位10%にロシア国民全体の貨幣所得の29.6%が属する一方、下位 10%は同2%しか占めていない4)。両者の数字は前年同期比で微増、微減(上位10%は29.3%、下 位10%は2.1%)であったが、2002年の所得別階層の分布(第2表)をみると、月平均所得2,000ル ーブル以下の層の割合が前年の42%から30%へ縮小する一方、4,000ルーブル以上の層の割合は全 国民の3割以上になっている。貨幣所得の増加が全体を底上げし、中所得層が徐々に形成されて いると考えていいのではないか。プーチン大統領のイニシアチブで設立された戦略策定センター 作成の「社会経済発展プログラム」(2003~2005年)では、年金財源のための新たなメカニズムが 年金制度の安全性を確保し、年金生活者の生活レベルの向上に寄与することから、2005年の国民 の実質可処分所得は前年比で24~28%上昇するとみている5) (第2表)ロシアにおける所得階層分布

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(単位 %) 1人当たり月収 (ルーブル) 2002年 2001年 ~500.0 500.1~750.0 750.1~1,000.0 1,000.1~1,500.0 1,500.1~2,000.0 2,000.1~3,000.0 3,000.1~4,000.0 4,000.0~ 0.8 2.3 3.9 10.7 11.9 21.0 15.2 34.2 1.8 4.3 6.3 14.9 14.3 21.3 13.5 23.2 (出所)ロシア統計国家委員会『ロシアの社会・経済情勢』(2002.12)。 (第3表)モスクワ市民の所得分布 (単位 %) 1人当たり月収 (ルーブル) 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 ~500 500~1,000 1,000~1,500 1,500~2,000 2,000~2,500 2,500~3,000 3,000~3,500 3,500~4,000 4,000~5,000 5,000~6,000 6,000~7,000 7,000~8,000 8,000~10,000 10,000~12,000 12,000~1,4000 14,000~18,000 18,000~22,000 22,000~30,000 30,000~38,000 38,000~54,000 54,000~70,000 70,000~100,000 100,000~ 3.8 10.1 10.8 9.9 8.4 7.1 6.1 5.1 8.1 6.0 4.5 3.5 4.9 3.2 2.1 2.6 1.4 1.3 0.5 0.4 0.1 0.1 0.0 2.1 6.9 8.6 8.5 7.7 6.9 6.1 5.3 8.8 6.8 5.3 4.2 6.2 4.2 2.9 3.6 2.0 2.0 0.9 0.7 0.2 0.1 0.0 1.2 4.8 6.5 7.1 6.9 6.4 5.9 5.3 9.0 7.3 5.9 4.8 7.2 5.0 3.6 4.7 2.7 2.8 1.3 1.0 0.3 0.2 0.1 0.7 3.4 5.3 5.9 6.1 5.9 5.5 5.1 9.0 7.5 6.2 5.2 8.0 5.8 4.2 5.6 3.3 3.5 1.6 1.3 0.5 0.3 0.1 0.4 2.5 4.3 5.1 5.4 5.4 5.2 4.9 8.9 7.6 6.5 5.5 8.6 6.3 4.7 6.3 3.8 4.1 1.9 1.6 0.6 0.3 0.1 0.3 2.1 3.7 4.6 5.0 5.1 5.0 4.8 8.8 7.7 6.6 5.6 9.0 6.6 5.0 6.7 4.1 4.4 2.1 1.7 0.6 0.4 0.1 (注)2002~2005年は推定値。 (出所)『ロシアの生活水準』(全ロシア国民生活水準センター。2002年)。 モスクワ市民の生活水準 次にモスクワ市民の所得を見てみよう。第3表は2000~2001年の実績

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ならびに2002~2005年の予測値である。かなり細分化されているので、たとえば2001年の分布を もう少し大きなカテゴリーで分けてみると、①3万ルーブル以上が2%、②3万~1万ルーブル が15%、③1万~5,000ルーブルが23%、④5,000~2,500ルーブルが27%、⑤2,500~1,000ルーブ ルが25%、⑥1,000ルーブル以下が9%となる。それが2005年の予測になると、①5%、②27%、 ③29%、④24%、⑤13%、⑥2.4%と階層が全体として上方にシフトしていく。これに従えば、モ スクワでは1人当たりの平均月収3万ルーブル(約1,000ドル)~1万ルーブル(約320ドル)の 層が全体の4分の1以上を占めることになる。

2.消費スタイルの変化

中間層の平均像 ロシアの中間層は、3人家族・月収約1,000ドルが平均像とされる。このよう な階層に属する家庭は現在、モスクワやサンクトペテルブルグを中心に約100万世帯あるといわれ ており、彼らの消費支出の4分の1が食料品に、10分の1が衣服に充てられているという6)。モス クワの市場研究機関、Comcon Mediaによれば、2001年におけるロシア国民の冷蔵庫と洗濯機の所 有率は10人に1人であったのが、2002年に入ると5人に1人に上昇した。なお、同機関はリッチ・ クラスの目安のひとつとして持ち家率を挙げており、モスクワ市民の持ち家率は2001年の1%か ら、2003年には3%に上昇したという7) 食料品消費にみる変化 所得の伸びが著しいモスクワ市民の食生活は、他の地方に比べると、 パンとミルクの消費量が減り、野菜や果物、肉の消費量が増えているという(砂糖、じゃがいも、 魚、卵、バターなどはほぼ同じ)8)が、それに比例して植物油の生産が、2000年(160万t)、2001 年(175万t)、2002年(185万t)と伸びている9)。なかでも、ロシアの伝統的な料理(たとえば ロシア風クレープ、ブリヌィ)に欠かせないヒマワリ油の需要が高い。一方、比較的安価な菜種 油、大豆油の消費は低下しており、この傾向は消費者に品質を重視する余裕のでてきたことを示 していよう。こうした変化に合わせて、米国食品メーカーCargill Foodsは2003年春に、中央黒土 地域のヴォロネジ市近郊にヒマワリ栽培地と搾油所の建設を決定した。投資額は8,000万~9,000万 ドル、建設予定の搾油所では年間30万tのヒマワリの種の加工を可能にするという8) 洗練さが求められる化粧品 米国化粧品大手Avon Productsは2003年9月、モスクワ州南西部の

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ナロフォミンスク近郊において工場建設に着手したことを発表した10)。投資額は4,000万ドルで、 工場の敷地面積は2万325㎡。800人以上を雇用し、クリームやローション、マスカラ、デオドラ ンド、香水など年間1億8,500万個を生産する予定である。同社は1995年にモスクワで直販を始め、 その後ロシア欧州部やウラル地方、西シベリア地方に事業を拡大した。現在、Avon Productsは、 ロシアで洗練された高級化粧品の需要が急増するとみており、今回の決定は急成長する化粧品市 場に対応したものであるという。生産の開始は2004年半ばを予定している。 ルィノクの減少 2002年のモスクワにおける商品の小売売上高は約38億ドル。うち35%はいわゆ る青空市場(ルィノク)によるものである。ルィノクでは種類の豊富な野菜や果物が安価で購入 できる半面、食肉の鮮度など衛生面での不安がつきまとう。ルシコフ・モスクワ市長はルィノク の削減する政策を進めており、2002年の240カ所から2003年初めには156カ所にまで減少したが11) ルィノクが多い理由には、価格面以外にも、人口約1,100万人を有するモスクワ市の中心部だけで は、買い物客の需要をカバーできるだけの空間がないという点がある。モスクワ市の住民1,000人 当りの小売販売の敷地面積は、2001年の39㎡から2003年には45㎡まで拡大したものの、EU諸都市 (226㎡)、チェコの首都プラハ(175㎡)と比較すれば、まだまだ小さいといわざるをえない。 人を集める郊外大型店 そのためモスクワ市中心部で提供される商品の価格は高価か安価かの 極端に分かれがちである。だが、中間層が買い物する場合は、適度な価格と豊富な品揃え、さら には駐車場の確保が重要であり、そのニーズを満たすために増えてきているのが郊外の大型店で ある。現在、西側小売大手のロシア市場に占めるシェアは4.5%と、ポーランド(30%)、チェコ(44%)、 ハンガリー(61%)の中欧諸国に比べるとまだまだ小さい11)。不透明な法制度や、ロシア国内小 売大手(最大手は7 th Continet、Pratyorochka、Perekrestokなど)の全国展開に苦戦する西側企業 は少なくないが、中欧市場への進出が頭打ちになった現在、ロシア市場の魅力は以前よりも増し ているといえる。そこで次に、ロシアに進出して成功を収めている外資系小売企業の例をいくつ か挙げる。

3.小売分野における外資進出例

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●Metro Cash & Carry ドイツ小売大手Metroグループ傘下である同社は2001年11月1日、モスク ワに2つの大型卸売店をオープンした。投資額は約5,000万ドル。両店舗の敷地面積は1万300㎡、 食料品および一般消費財の種類は約1万5,000種類に上る。ケルバーMetro社長が開所式で強調し たように、Metro Cash & Carryは、基本的に商品は現地調達とし、モスクワの2店の商品の70% はロシアの国内業者から供給されているという12)。Metro Cash & Carryはモスクワにさらに3号

店、4号店、サンクトペテルブルグにも2店舗を開設しており、2004年以降は本格的な小売店舗 を開く予定である。 ●Ikea スウェーデンの家具大手がモスクワに最初の大型モールをオープンしたのは2000年3月、 2つめは2001年12月であった。ともに3万1,000㎡という大きな敷地面積に、ソファやベッドなど の大型家具、組み立て式で持ち帰り可能なもの、そしてインテリア小物までがシステマティック、 かつ比較的安価で提供されており、ロシア人客の人気は高い。また、同社はEBRDの共同融資に よって2002年12月、モスクワ郊外にメガ・モール(大型ショッピングモール)を開設した。敷地 面積は17万㎡で、約150店舗のほか、スケート場、子供の遊技場、カフェ、レストラン、バー、フ ァストフード店があり、1万1,000台分の無料駐車場も完備している。メガ・モールのターゲット はモスクワに住む中間層である。フランスのハイパーマーケット・チェーン、Auchanやイタリア のファッション・メーカー、Benettonも入っているが、ブティックのうち20店舗はロシア市場へ の新規参入ブランドである13)。なお、メガ・モールでは現在、第2期工事が進んでいる。 ●Stockman フィンランドの小売大手は1998年、モスクワの中心部にショッピングアーケード型 の店舗を開設した。高級衣料、化粧品、食料品を揃えて、いわゆるニューリッチ層、西側企業や モスクワの在外公館の人々を相手にビジネスを行っているが、2003年5月、Ikeaのメガ・モール 内に中間層を対象とした衣料品店のオープンを決定した14) ●AVA ドイツの日曜大工・園芸用品小売チェーンストア、AVAは2002年春にモスクワ郊外の環 状高速道路の近くに敷地面積2万6,500㎡のショッピング・センターを開設した(投資額は4,000万 マルク。ただし土地代を除く)。同社は年中無休で、開店時間は8~24時。自家用車をもたない買 い物客に対しては、最寄りの地下鉄駅までの無料送迎バスのサービスを行っている(Ikeaも同様 のサービスを行っている)。リンデAVA社長によると、2001年3月時点でモスクワ市民の購買力は

(9)

ドイツ全体の平均購買力の70%に達しているという15) (第4表)2003年におけるA.T.カーニーのグローバル小売指標 順位 国 名 前年 順位 カントリ ーリスク (評価の 際 の 比 重:40%) 住民1人当 たりの近代 的な小売販 売面積 (評価の際 の 比 重 : 20%) 外国小売業 者の進出数 (評価の際 の 比 重 : 20%) タイムプ レッシャ ー (評価の 際 の 比 重:20%) 評価 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 ロシア スロバキア 中 国 ハンガリー インド トルコ モロッコ エジプト ベトナム チュニジア 韓 国 チ リ ブルガリア スロベニア フィリピン マレーシア ルーマニア タ イ ラトビア ウクライナ 南アフリカ チェコ メキシコ 台 湾 ベネズエラ インドネシア 香 港 ポーランド イスラエル コロンビア 4 2 1 3 6 9 5 10 7 - 14 8 18 - 26 22 20 16 - 12 15 23 13 11 17 27 21 24 25 19 51 59 67 71 48 44 55 52 49 54 67 56 48 74 52 61 46 59 61 34 55 67 61 62 36 38 78 65 61 34 95 80 73 69 100 72 98 98 99 85 44 73 62 20 32 60 73 84 50 98 79 47 83 74 78 92 51 78 12 82 76 59 41 53 94 76 88 88 82 88 59 94 76 82 76 59 59 35 82 94 82 29 53 47 88 71 41 0 94 82 87 100 86 69 34 86 18 24 17 13 54 10 54 34 73 42 59 47 29 22 6 66 13 15 18 18 5 39 9 4 72 71 67 67 65 64 63 63 59 59 58 58 58 57 57 57 57 56 56 56 55 55 54 52 51 51 50 49 48 47 (注)各指標の内容は次のとおり。カントリーリスク:0(ハイリスク)~100(ローリスク)、住民1人 当たりの近代的な小売販売面積:0(飽和状態)~100(非飽和状態)、外国小売業者の進出数:0 (飽和状態)~100(非飽和状態)、タイムプレッシャー:0(早急な進出を推奨)~100(進出を 急ぐべきではない)。

(出所)A.T.Kearney, Emerging Market Priorities for Food Retailers.2003.

(10)

2003年の投資予定額は約7億ドル(前年は約3億7,000万ドル)である9)。郊外に進出する欧州小売 大手の進出例をいくつか紹介したが、今後の彼らの戦略は、郊外の大型店からルィノクに代わる 都市中心部の中小規模店舗の開設、またサンクトペテルブルグなど他の大都市への進出にシフト していくものと思われる。

第4表に示したのは、2003年9月に発表された米国シカゴの企業コンサルタント会社、A.T.カ ーニーが新興諸国における食品小売市場に関して行った調査結果(Global Retails Development Index =GRDI)である。これによると、2003年はロシアが第1位(前年は4位)となった。GRDIの評 価は主に4つの要素(カントリーリスク、住民1,000人当たりの近代的な小売販売面積、外国小売 業者の進出数、タイムプレッシャー)からなっており、ロシアは近代的な小売販売面積がいまだ 小さい、外国小売業者の進出数が少ない、タイムプレッシャーが高い=同市場に関心を有する企 業は進出を急ぐべきである(タイムプレッシャーは1999~2003年のGDP成長率と1998~2002年の 小売販売面積の拡張率のギャップによって算出)との評価がなされている。一方、チェコ(22位) やポーランド(28位)の場合は、前者は小売販売面積がすでに大きい点(指数:47)、後者は(5 年前には注目されていたものの)すでに17の外国小売業者が進出しており、市場が飽和状態にあ る点(指数:0)から、進出には熟慮が必要との評価につながった。 さらにGRDIは、ヨーロッパ最大の市場としてのロシアに注目している。ロシア国内には13の100 万人都市がある(その人口はロシア全体の20%以上を占める)が、たとえばノヴォシビルスク市 には40の食料雑貨店しかなく、販売面積が500㎡に過ぎないなど、未開拓市場が少なくない。国民 が所得の80%を消費財の購入に、なかでも食品のための支出割合が高い現状では、食料品ビジネ スの大きなチャンスがあるといえよう。 ロシア市場への進出にはまず大店舗の開設と考えられがちだが、GRDIによれば、店舗の形式と ビジネスの成功には直接関係がないとしている。フランスのハイパーマーケット、Carrefourは西 ヨーロッパ市場では食料品とその他(衣料品、マルチメディア製品、家庭用品など)を同程度の スペースに配置しているが、ロシアでは前者のスペースを大きくとっているという。 貧富の格差の拡大が強調された1990年代から、現在のロシアでは所得分布が多様化し、とりわ け中間層が拡大しつつある。こうした点に注目し、きめ細かいマーケティングや柔軟な対応を行 うことが今後の対ロ・ビジネス成功の鍵になると思われる。

【注】

(11)

1)Interfax Statistical Report, 2003.8.9-15. 2)russland.RU, 2003.8.11.

3)ロシア統計国家委員会。 4)Interfax News Service, 2003.4.30. 5)http://www.gov.ru 6)Textilwirtschaft, 2003.9.4. 7)Berliner Zeitung, 2003.8.25. 8)russland.RU, 2003.7.31 9)Vereinigte Wirtschaftsdienste, 2003.8.5 10)Avonプレスリリース。http://www.avoncompany.com 11)Moskauer Deutsche Zeitung, 2003.8.21.

12)Metro Groupプレスリリース。http://www.metrogroup.de 13)EBRDホームページ。http://www.ebrd.com

14)FBC Business Consulting, 2003.5.18. 15)AVAプレスリリース。http://www.ava.de

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