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目 次 問 題 1. 研 究 の 背 景 1 2. 研 究 の 目 的 と 研 究 アプローチ 6 3. 先 行 研 究 7 1) 清 掃 活 動 に 関 する 先 行 研 究 2) 組 織 市 民 行 動 に 関 する 研 究 とその 尺 度 に 関 する 研 究 3) 文 脈 的 業 績 に 関

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明治大学大学院経営学研究科

2010年度

修 士 学 位 請 求 論 文

清掃活動が企業業績に与える影響の量的・質的調査研究

―質問紙法とM-GTAを用いての検証―

学位請求者 経営学専攻

4711093101 羽石 和樹

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i 目 次 問 題 1.研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.研究の目的と研究アプローチ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 3.先行研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 1)清掃活動に関する先行研究 2)組織市民行動に関する研究とその尺度に関する研究 3)文脈的業績に関する先行研究とその尺度に関する研究 4)職務満足感に関する研究とその尺度に関する研究 5)組織市民行動と企業業績に関する研究 第1研究(量的研究) 第1研究の仮説 1.仮説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 第1研究の方法 1.手続き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 2.調査項目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 第1研究の結果 1.分析の結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 1)信頼性係数 2)相関分析 3)デモグラフィック要因との関係 4)階層的重回帰分析 5)清掃活動と個人業績との関係 2.仮説の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 1)仮説1・仮説2の検証 2)仮説3の検証 第1研究の考察 1.考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 2.課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

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ii 第2研究(質的研究) 第2研究の方法 1.調査の手続き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 2.分析の枠組みと手続き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 第2研究の結果と考察 1.分析の過程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 1)概念の生成過程 2)カテゴリー化 3)調査対象企業の社長インタビューデータ 2.結果と考察および課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 1)結果と考察 2)課題 全体考察と今後の展望 1.全体考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 2.今後の展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 引用・参考文献 引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 付 録 付録1.第1研究で用いられた尺度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 付録2.第1研究で用いられた調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 付録3.第1研究の調査票協力企業一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82 付録4.第2研究で用いられた調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83 付録5.第2研究で作成された分析ワークシート ・・・・・・・・・・・・・・ 88

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1 問 題 1.研究の背景 バブル経済が崩壊し、失われた 10 年といわれた 90 年代以降、米国型の経営手法がもてはやされ、 日本企業は規模の大小を問わず、こぞって米国型の経営手法を取り入れた。それらすべてとはいえ ないが、日本企業に馴染まない経営手法も多くあり、それらの導入により日本の企業組織はかなり 疲労してしまったようである。しかし、ここ数年、日本的経営を見直す動きがではじめ、米国的経 営から日本的経営に振り子が振れはじめている。それは、年功序列・終身雇用制度の再導入、福利 厚生の再充実、匠の継承など、日本企業の持つ独特のアイデンティティーを日本企業自身が再評価 する昨今の風潮に見出される。たとえば、日本経済新聞(2008c)は、「成果主義の見直し広がる」と いう記事の中で、営業ノルマを廃止し組織への貢献度や後輩の育成指導を重視し、人事評価の尺度 に加える企業がではじめていると紹介している。 このように、日本的経営に目が向けられつつあるなか、「古き良き習慣」を取り入れる企業が増え 始めている。具体的には、そうした習慣とは朝礼であったり、挨拶であったり、掃除であったり(日 経 BP 社, 2006)、近江商人の「三方よし」の精神や石田梅岩の商人道などである。平井(2005)は、 「三方よし」の精神や石田梅岩の商人道は、現代の CSR(企業の社会的責任)につながっていると いっている。 バブル前の日本では、掃除や挨拶は当然のように見られた光景であった。古くから店内・店先を 美しく磨き、掃き清め、水を打ってからお客様を迎えることが商売の常道であり(倫理研究所, 2010)、 企業においてもオフィス内の清掃は従業員が当たり前に行っていた。しかし、バブルを境に企業で は効率や分業を追求し、掃除も業者へ依頼するようになり、従業員が自社の清掃をすることも稀に なっていった。加護野(2010)は、「目先の合理主義は、現場の重要な慣行を壊した。5S(整理・整 頓・清掃・清潔・躾)などもないがしろにされるようになった。小さなことだが便所のスリッパの 並び方は、経営精神の指数なのである」といっている。たが、その掃除に再び注目が集まりつつあ り、近年、多くの企業や自治体が早朝清掃を行う光景を目にするようになった。老舗の永続企業や 優良企業の共通点を探ると、そこには組織風土や顧客志向と合わせて、掃除や整理整頓、5Sとい うキーワードを見出すことができる。掃除をしている企業は業績が良いとか、掃除をして業績が良 くなったという経営者がいる。たとえば、ホンダクリオ新神奈川の相澤賢二社長は、「毎朝清掃をし ていると2台いっぺんに買ってくれるお客様がいたり、他メーカー販売店の社長の親戚が、今回は 掃除をしているホンダクリオで買うといったり・・・掃除で売れる店になった」(相澤, 2005)と いい、武蔵野の小山昇社長は、「手のつけられない落ちこぼれ集団を毎朝 30 分の掃除で日本経営品 質賞を受賞できるまでにした」(小山, 2007)といい、古田圡会計事務所の古田圡満所長は、「掃除 ですごい人づくりができ、業績が上がった」(古田圡, 2007)という。

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2 掃除を経営戦略に取り入れる企業や自治体も数多くある。それらの例をあげてみると、企業では、 イエローハット(鍵山, 2004)、伊那食品工業(塚越, 2004)、日本電産(日本経済新聞, 2008a)な どの有名企業が、あげられる。また、松下幸之助氏(皆木, 2006)や本田宗一郎氏(本田, 1985)など の歴史に名を残す名経営者も掃除を大切な経営思想と位置づけていた。松下幸之助氏の設立した政 治家養成塾である松下政経塾では、松下幸之助氏の「立派な指導者になるためには、まず朝早く起 きて、しっかりと身の回りの掃除をすることから」という教えから、現在も塾生は必ず掃除を実施 しており(上甲, 1994)、松下政経塾出身の横浜市の中田元市長は在任中も清掃活動をしていたと いう(鍵山, 2005)。また、本田宗一郎氏は、「工場を訪問したり見学したりした時もトイレの探訪 ばかりする。トイレを見れば会社や工場の経営者の思想が判断できる」(本田, 1985)といい、全国 に代理店網を引くにあたっては、代理店候補の店のトイレをみて、トイレの綺麗さにより代理店を 決定したというエピソードもある。京セラ元社長の伊藤謙介氏も工場視察の際は便所を見たという。 便所が汚い工場はどこかに問題があることが多いからだという(加護野, 2010)。 自治体においては、福島県矢祭町役場が職員の手でトイレを含めた役場内外の清掃をしたり(根本, 2008)、警察学校がトイレ掃除を教育カリキュラムに入れたり(産経新聞, 2008)、栃木県が観光地 のトイレに「とちぎハートフルトイレ」という認定を出す(栃木県広報課, 2008)といった取り組み もみられる。京都市の門川市長は自らも「掃除に学ぶ会」や「京都市便きょう会」でトイレ掃除を 行い、清掃活動を京都市の理念・指針としている(門川, 2008)。栃木県足利市でも「足利5S学校」 を発足させ(日本経済新聞, 2009a)、行政・学校・企業・住民など街をあげた取り組みをしている。 また、組織業績とは少し違うが、「掃除に学ぶ会」が荒れた学校の建て直しに清掃を利用したり(鍵 山, 2005)、広島県警が暴走族の更正にトイレ掃除を利用したり(鍵山, 2005)、元東京副知事の竹 花氏が新宿歌舞伎町の治安回復に清掃活動を利用したり(鍵山, 2005)、授業妨害などで問題のある 学校の卒業生が自主的に学校の清掃を行ったり(毎日新聞, 2008)、栃木県佐野市の住民が秋山川の 清掃奉仕をしたり(下野新聞, 2008)といったこともみられる。これらは、ニューヨーク市の犯罪率 低下を生じさせた「割れた窓」理論(Gladwell, 2007)と同様な効果をあげているといえる。和歌山 大学付属中学では、2009 年春の新学習指導要領に「掃除」が明記されたことを受け、集中力と思い やる心を養うために、掃除を授業に取り込んでいる(日本経済新聞, 2009b)。 掃除をする著名人をみてみると、マルチタレントの北野 武氏やプロ野球監督の星野仙一氏など がトイレ掃除をする実践例がある(産経新聞, 2006)。また、サッカーJリーグ監督の柱谷幸一氏は 試合の前には必ずトイレ掃除をするという(日本経済新聞, 2008b)。元巨人軍投手の桑田真澄氏も 高校生の時からトイレ掃除をしているといい、西武ライオンズに 2009 年ドラフト1位指名された花 巻東高校の菊池雄星投手は桑田氏に影響を受けて自身もトイレ掃除をするという(スポーツ報知, 2009)。菊池投手に限らず、プロゴルファーの石川遼選手もゴルフ場の洗面台掃除をするなど若い スポーツ選手などが掃除を意識的に行っている。一流のスポーツ選手や一流の芸人は遠征先のホテ ルを使っていないと思われるくらいきれいに使うともいう(鍵山, 2006)。歴史上の人物においても、

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3 旧日本海軍の東郷平八郎や広瀬武夫などが組織の規律維持のためにトイレ掃除をしていたようであ る(「坂の上の雲」ファンサイト, 2000)。 中小企業“R 社”(科学機器商社、宇都宮市、年商 30 億円、従業員数 40 名)では、約 10 年前に 父親より新経営者1に事業継承したが、その当時は家内工業ともいうべき旧態依然とした会社であっ た。事業継承後に現代に対応できる会社にすべく企業改革を行った。まず初めに、IT 化に取り組み、 次に能力主義人事考課制度の導入、目標管理制度の導入、そして国際規格である ISO の導入を行っ た。それらにより企業業績も回復し現代の企業と認められる会社にはなったが、その後も数々の経 営手法を導入したにもかかわらず、それ以上の業績向上はみられず、現状を維持するだけのものと なった。 その手詰り感の中、R社では、新経営者自らの元気のある優良企業の調査・研究により、これま で記してきた掃除というキーワードを発見した。また、同社の経営指導者であり、カリスマコンサ ルタントといわれる一倉(1997)の「環境整備は、私も全く意外であったが、私の考えまで変えてし まった。それは、環境整備はすべての原点であり、これ以外何もしなくても業績が上がっていく。 私のコンサルティングは環境整備に始まる」という話に背を押され、一倉(1997)や鍵山(2005)に指 導を受けた清掃活動を実践する経営者達の話に促され、新経営者は、2005 年に R 社に環境整備活動 2(清掃活動)を導入した。 R 社に清掃活動を導入し、定着し始めたころから業績に変化がみられるようになった。図1と図 2は R 社の業績推移であるが、清掃活動導入後から業績が向上していることがわかる。 1 筆者(羽石和樹)のことである。 2 R 社の清掃活動は次のように行われている。①毎朝 30 分間、徹底して掃除をする。②トイレ、壁、床、 窓、営業車、近隣清掃に力を入れる。③社長以下、幹部が率先して行う。④清掃活動を経営方針とする。 ⑤目的は「気づき」を得るためとする。

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4 図 1 R 社の 10 年間の業績推移(売上高) 単位:千円 筆者作成。 図 2 R 社の 12 年間の業績推移(経常利益) 単位:千円 筆者作成。 その効果の妥当性を確認するために、図3に日本の GDP(国内総生産)推移(Nikkei Net, 2009) 0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 3,500,000 97 .0 3 97 .0 8 98 .0 1 98 .0 6 98 .1 1 99 .0 4 99 .0 9 00 .0 2 00 .0 7 00 .1 2 01 .0 5 01 .1 0 02 .0 3 02 .0 8 03 .0 1 03 .0 6 03 .1 1 04 .0 4 04 .0 9 05 .0 2 05 .0 7 05 .1 2 06 .0 5 06 .1 0 07 .0 3 07 .0 8 08 .0 1 08 .0 6 0 10000 20000 30000 40000 50000 60000 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 IT 化 目標管理制度 ISO 導入 一連の経営手法の効果 環境整備の導入 経営手法の効果 環境整備の効果 マンネリ化

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5 と比較してみる。これをみると GDP は大きな変動もなく緩やかな伸びを示している。GDP の推移と R 社の業績推移を比較してみると、売上高は GDP と同じような推移を示しているが、経常利益の変動 は明らかに GDP の推移と違い、R 社の経常利益の伸びは景気変動による原因だけではないと推察さ れる。すなわち、この経常利益の伸びには、清掃活動の無駄取り効果により、無駄な経費の削減な ども影響しているのではないだろうか。 図 3 日本のGDP(国内総生産)の推移 単位:兆円 筆者作成(基礎データは日本経済新聞社)。 また、R 社においては次のような効果もあったといえる。①苦情・クレームが大幅に減少した(R 社 ISO データによる)。②お褒めの言葉が増大した(R 社 ISO データによる)。③営業員・技術員が 自主的に顧客へ販売した機器のメンテナンス清掃を実施するようになった。④風通しの良い社風に 変わった。⑤コミュニケーションが格段に良くなった。⑥組織市民行動3が随所に見られるようにな った。 他の例4として、“N 社”(眼鏡等企画開発・販売、名古屋市、年商 50 億円、従業員数 80 名)の事 例も図4に紹介する。やはり環境整備導入後の業績に何らかの変化が感じられる。だが、R 社も N 社も環境整備を導入して業績があがったというのは経営者の感覚的なものであり、それが本当に環 境整備によるものなのかは不明である。ここに科学的根拠はない。 3後述、先行研究の2)(p.8)を参照。 4 R 社は筆者が経営する会社であるので、研究としての客観性を担保するためにも他社事例をあげる。 480 485 490 495 500 505 510 515 520

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6 図 4 N 社の 11 年間の業績推移(経常利益) 単位:千円 筆者作成。 2.研究目的と研究アプローチ 以上のことから、本研究では、清掃活動及び、清掃活動と企業業績を結び付けられると思われる 組織行動について考察していく。清掃活動は何らかの組織行動に影響を与え、最終的に企業業績を 高めていると考えられるが、その影響の科学的裏付けを統計的に、また、現場調査によって検証し ていくことを本研究の目的とする。 具体的には関連する先行研究を整理した文献研究を行った後、 量的調査、質的調査、そして現場密着の参与観察(フィールド・リサーチ)などを組み合わせるト ライアンギュレーション5手法を用いて実証研究を進めていく。 第1研究では、清掃活動と企業業績の媒介変数として組織市民行動、職務満足感の2要因が、質 問紙を用いた量的調査法によってどう影響しているのかを検証していく仮説検証型のアプローチを 行う。具体的には、第1に、清掃活動が組織成員の組織市民行動のどこに影響を与え、それが結果 的に企業業績に効果をもたらすのかを検証する。第2に、清掃活動は組織成員職務満足感を高め、 それが結果的に企業業績に効果を与えていることを検証する。第3に清掃活動を積極的に行う組織 成員ほど個人業績が高いのではないかということを検証する。 5複数の技法を組み合わせて調査を行うこと。三角測量的方法、方法論的複眼とも呼ぶ。このようなアプ ローチの根底には、個々の調査技法がもつ強みと弱点について認識した上で、それぞれの技法の弱点を 補強しあうとともに、長所をより有効に生かしていこうという発想がある(佐藤, 1992)。 0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 教育研修の強化 環境整備の導入 環境整備時間の 短縮

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7 第2研究では、第1研究の結果を踏まえ、質的調査法(M-GTA6)によって現場の生の声を収集・ 分析し、清掃活動と企業業績の関係をさらに掘り下げて考察していく。それにより、組織市民行動 や職務満足感以外にも業績向上や組織活性化に大きく影響しているであろう変数を探索し、新たな モデル(仮説)の生成を目的とする仮説探索型のアプローチを行う。 3.先行研究 1)清掃活動に関する研究 清掃活動に関する研究は、組織行動の分野ではあまりみられないが、教育学の分野において多少 の研究がみられる。 山本・米山(1986)は、名古屋大学付属中学・高校の生徒全員を対象に掃除の意識調査を行い、責 任・規律のともなわない、ただ単に何をしてもよいというニュアンスのこめられている自由の状態 が、掃除によってどう改善されていくかという研究を行った。 古川・鎌倉・川根・土井(2000)は、生徒指導上の問題点の多かった長野県の松川中学に「自問清 掃」を導入し、その経過と展開を報告した。自問清掃とは、「自らに問う」、つまり、「何を、どのよ うに、どこまでやるかを自分に問い、よりよい方向に向かって自ら判断し決定する」という「自問」 を掃除に応用させたもので、「掃除は環境を美しくするものでなく、自分の心を磨くことである」と 捉え、清掃に対する発想を転換し、指示待ち人間を脱して、自分で汚れたところ、新しい清掃方法 を見つけて取り組む、といったものである(古川他, 2000)。 弓削・新見 (2002)は、学級集団において生徒が相互依存的に解決すべき課題の存在とその共有化 を認知する上での教師の役割を学校の日常活動の一つである清掃活動での教師の立場や行動の実態 を通して検証した。 教育の実践的取組みとしては、原田(2006)が、大阪の松虫中学陸上部を7年間で 13 回の日本一を 輩出する強豪校に育てた事例を検証し、「松虫中学で私がもっとも力を入れたのは清掃活動と奉仕活 動」という事例をもとに、家庭においても、親の生活態度を変えることが子どもの健全性を確保す るとして家庭内で親に掃除をやらせて成果をあげたものがある。 数は少ないが、組織行動の分野でも、掃除について触れられたものがある。田中(2004)の日本版 組織市民行動尺度作成において、清潔さというユニークな独自の因子が見出された。田中(2004)は、 「日本企業において自主的に職場をきれいに保つことは特別な意味があるのかも知れない」といっ ている。また、中西(2007)は、床にゴミが落ちていても誰も気にしないような現場は、マインドレ スな状態にあり、5Sを徹底することは、高信頼性組織としてのマインドを高めることにもつなが るといっている。 6 後述、第2研究の方法の1)(p.34)を参照

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8 ここまで、「清掃」「掃除」「清掃活動」「環境整備」と数々の用語が出てきたが、ここで用語の定 義をする。「清掃活動」とは、いわゆる「清掃・掃除」のことであり、「環境整備活動」の中の一部 の作業である。本研究では、環境整備の中の、特に「清掃活動」の効果の有効性を測定したいと考 えている。したがって、以後、本研究においては、「清掃活動」という用語を統一して使用する。 2)組織市民行動に関する研究とその尺度に関する研究 組織において事前には予測できなかった職務、あるいは誰の役割にも属さない役割が絶えず生じ てくるのが常であり、実際に行われている職務に必要なすべての活動をフォーマルな組織図や分掌 規程で完全に網羅することは事実上不可能である(外島・田中, 2004)。誰の役割でもない仕事は、 誰かがやらなければ組織はうまく機能しないので、どうしても、フォーマルに決められた自己の職 務や役割を超えた仕事を自発的にせざるをえなくなる。Brief & Motowidlo(1986)は、こうした行動 を組織の向社会的行動と呼び、その向社会的行動の一つに組織市民行動がある。 組織市民行動とは「①任意の行動であり、②公式の報酬システムによって直接、もしくは明確に 承認されているものでなく、③集合的に組織の効率化を促進するものである。」と定義される概念で ある(Organ, 1988)。この組織市民行動という言葉は 1980 年代になって初めて、職務業績のより質 的な面を表す概念として用いられるようになり、これまでほとんど証明されてこなかった職務満足 などの従業員の職務態度と職務業績との関係をうまく説明する概念として注目されるようになった (西田, 1997)。 それまでの研究でも、職務態度と職務業績との関係については何度も検証が試みられてきたが、 ほとんどは弱い関係しか示されてこなかった。それに対してOrgan(1988)は、これまで量的な基準 (生産高など)でのみ測定されてきた内部役割としての職務業績にかえて、組織市民行動のような 範囲外役割として業績を捉えることにより職務態度と職務業績との関係をよりうまく証明できると 主張した。その後くり返し行われてきた実証研究の結果からも、従業員の職務満足は、目に見える 職務上の業績よりも、組織市民行動と密接に関係があることが明らかになっている(西田, 1997)。 組織市民行動の類似概念としては、向社会的組織行動、組織的自発性、役割外行動などがある。 向社会的組織行動とは「①組織の成員が行う行動で、②個人、集団、あるいは成員の相互作用が存 在する組織に対して向けられる行動で、③向けられた個人、集団、あるいは組織の福利を促進しよ うとする目的で行われるもの」と定義される(Brief & Motowidlo, 1986)。組織的自発性とは「自主 的になされる役割外行動で組織の有効性に貢献するもの」と定義された(George & Brief, 1992)。組 織自発性は次の5つの形態からなっている。①協力者を援助する、②組織を守る、③建設的な提言 を行う、④自己啓発する、⑤善意を拡げる。これに対して、役割外行動とは「組織に利益をもたら す、あるいは利益をもたらすことを意図した行動で、任意になされ、かつ役割期待を超えるもの」 と定義され(Van Dyne, Cummings, & Parks, 1995)、自発的、意図的、肯定的、無私無欲という4 つの特徴をもつ。しかしながら、役割外行動は最近では組織市民行動とほとんど同義に用いられる こともあり、意味的にいくらか混乱を招いている(田中, 2004)。

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組織市民行動を測定するためにこれまで作成されてきた尺度に関する研究を検証する。組織市民 行動の尺度に関してもっとも早く研究を行ったのは、Smith, Organ, & Near (1983)である。彼らは、 多くの経営者からのインタビューの結果を最終的に 16 項目に構成し、因子分析法によってこの尺度 が2因子からなることを見出した。2因子とは、愛他主義因子(=altruism: 一対一の対人場面の中 で特定の人を意図して助ける目的で行う行動)と一般化された服従(=generalized compliance: 特 定の人物というより組織の人々にとって間接的な助けになるだろうという意識をもって行う行動) である。 次に Organ(1988)が、組織市民行動が5つの側面から構成されていると仮定し、①愛他主義(= altruism: 組織に関連する課題や問題を抱えている特定の他者を援助する効果のある任意のすべ て)、②誠実さ(=conscientiousness: 出勤、規則への服従、休憩をとるといった点で、組織に関す る最小限の役割要件をはるかに超えた従業員による任意の行動)、③スポーツマンシップ(= sportsmanship: 従業員が理想的な環境でないことに不満をいうことなく我慢をすることを厭わな い-すなわち、不満を言わない、ささいな苦情を口にしない、無礼な態度に不平を言わない、つま らないことを裁判沙汰にしない)、④礼儀正しさ(=courtesy: 助言、情報伝達、具申といった仕事 に関連した問題が他人に起こることを回避しようとして起こす任意の行動)、⑤市民の美徳(=civic virtue: 会社の生活に責任をもって参加あるいは関与しているか、それを気にかけている人が行う 行動)と定義した。その後、Podsakoff, Mackenzie, Moorman, & Fetter (1990)がこの定義に基づ いて項目を作成して、24 項目・5因子の多次元的尺度を開発した。この尺度は、これまででもっと も多くの研究で用いられているとされている(田中, 2004)。

Smith et al. (1983)や Organ(1988)の定義に基づかない独自の組織市民行動尺度の作成を試みた のがVan Dyne, Graham, & Dienesch(1994)である。彼らは組織市民行動を具体的に表す行動をQ 分類法によって 54 項目にまとめ、さらにそれらの項目を因子分析法によって 37 項目に選定した。 分析の結果、忠誠(=loyalty: 組織の運営や販売の促進に忠実であること)、服従(=obedience: 組 織の規則や方針を尊重し進んで努力しようとする)、社会的参加(=social participation: 組織にと って重要な対人的・提携的行動を行う)、自主的参加(=advocacy participation: 内部変革の周旋者 の典型)、機能的参加(=functional participation: 組織の機能に価値を付加する自己発達や参加活 動を行う貢献者の典型)の5因子から構成されていることが見出された。

Moorman & Blakely(1995)の尺度は、対人的援助(=interpersonal helping: 同僚が援助を必要 としているときにその仕事を助ける)、個別的主導権(=individual initiative: 個人や集団の業績を 改善するために職場で他の人たちと対話する)、勤勉さ(=personal industry: 義務として行うこと 以外に特別な仕事を成し遂げる)、誠実な応援者(=loyal boosterism: 組織の外部者に自分の組織の イメージを宣伝する)の4因子から構成されている。この尺度は自己評価ではなく他者評価の形式 で行われる(田中, 2004)。

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尺度、Becker & Vance(1990)の尺度、Morrison & Phelps(1999)の4因子モデル、Farh, Earley, & Lin(1997)の台湾版尺度、Settoon & Mossholder(2002)の対人的市民行動尺度がある。

日本における組織市民行動の尺度作成は、田中(2004)による日本版組織市民行動尺度の開発が行 われ、70 項目について主因子法による因子分析によって 40 項目にまとめ、さらにそれらを因子分 析した結果、5つの因子が見出された。すなわち、対人的援助、誠実さ、職務上の配慮、組織支援 行動、清潔さである。 本研究では、こうした状況を認識したうえで、主として、組織市民行動の概念を用いる。 3)文脈的業績7に関する研究とその尺度に関する研究

文脈的業績(contextual performance)とは、Borman & Motowidlo(1993)が提唱した概念で、課題 業績(task performance)と対をなす概念である。課題業績というのは、職場での業務の中核であり、 Motowidlo & Van Scotter(1994)によれば大きく2つに区分できる。1つは、組織が原材料から生産 品やサービスに変える活動であり、具体的には販売員であれば小売店で商品を売る、工場労働者で あれば製造工場で生産機器を操作する、教師なら学校で教える、外科医ならば病院で手術を行う、 銀行の窓口係であるならば銀行で小切手を現金化する、等があげられる。もう一つは、作業場の中 核部分を維持し点検する活動である。具体的にいえば、原料の供給を補充する、完成した生産品を 配分する、効果的かつ効率的に機能するための重要な計画を策定、調整、管理する機能があげられ る。 それに対して、文脈的業績は職務上の活動であることは課題業績と同じであるが、中核的な職務 に貢献をする活動でなく、中核的な職務が機能するためのより広範囲な組織的・社会的・心理学的 環境を支援する活動である。文脈的業績の具体的な活動としては、①自分の課題業績をうまく遂行 するのに、必要なときには、人一倍努力する、②正式には自分の役目ではない課題業績を自発的に 行う、③他者を助けたり、他者と協力したりする、④たとえ個人的には不便であっても、組織の規 則や手続きには従う、⑤組織の目標を支持・支援し保守する、という5点である(Borman & Motowidlo, 1993)。 Motowidlo(2000)の見解では、文脈的業績の定義上の本質は、“task(課業:自分が行うと決めら れている仕事)ではないもの”ということであり、課業に代表される中核的な業務をサポートする 「周辺の仕事」(すなわち文脈的業績)は見過ごされがちではあるが、意外にも仕事の文脈の維持や 推進に貢献している、ということなのである。 文脈的業績における研究としては、個人差として勤務経験、性格特性、職務自律性との関連性を 検討したものがある。勤務経験との関連性としては、Motowidlo & Van Scotter(1994)や Van Scotter(2000)が、職務経験の長い従業員ほど文脈的業績が高いことを示した。性格特性との関連性 としては、Van Scotter & Motowidlo(1996)が文脈的業績と人格5因子モデル(いわゆる「ビッグ5」)

7 企業業績の「業績」が主に売上高や経常利益等の数字上の業績を指すのに対し、文脈的業績の「業績」

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8による性格特性との関連を検討し、調和性・誠実性が文脈的業績と有意な相関関係を示した。職務

自律性との関連性としては、Gellatly & Irving(2001)が自分の仕事に自由裁量があると感じている 従業員ほど文脈的業績が高く、その傾向は従業員の性格要因に関わらず一貫していた。

文脈的業績が人事考課に及ぼす効果としての研究がVan Scotter & Motowidlo(1996)によって行 われている。彼らのデータによれば、従業員の全般的な業績(job performance)評価指数でもっとも 高い相関関係を示したのは、課題業績のほかに文脈的業績を構成する、対人的促進と職務専念の2 つの測度であった。文脈的業績をよく行う従業員ほど業績評価はよくなったのである。 文脈的業績と前述の組織市民行動の違いは、①組織市民行動が(基本的には)従業員の役割外行 動であって、しかも従業員の任意な行動であることが前提であるのに対し、文脈的業績はそれらを 前提として求めない、②組織市民行動が当該行動に対する対価を求めない自発的なものとしている のに対し、文脈的業績は代価が与えられないものであるとは定義されていない。特に②が重要で、 当該行動を行ったことによって金銭的な支払い(あるいは金銭的でないが相応な代価)ができるか どうかが、人事考課測定や人事評価の問題と関連するからである(田中, 2004)。 文脈的業績を測定するためにこれまで作成されてきた尺度に関する研究を検証してみる。まず、 Van Scotter & Motowidlo(1996)が Borman & Motowidlo(1993)の作成した 16 項目からなる尺度を 因子分析し、対人的促進(=interpersonal facilitation: 同僚の業務を補助する協力的で配慮ある援 助的行為)と職務専念(=job dedication: 規律に従って一生懸命働き、仕事での問題解決にイニシ アティブをとる)の2因子から構成されることを見出した。

次に、Coleman & Borman(2000)が文脈的業績に関連する研究で用いられている測定尺度の項目 内容を分析して 27 項目に集約し、それらを類似しているかどうかで分類させる課題を調査協力者に 行わせ、その結果をクラスター分析によって集約したものがある。その結果、対人的市民業績 (=interpersonal citizenship performance: 期待以上に協力的で促進的な努力によって組織のメン バーを支え、支援し、発展させる行動)、組織市民業績(=organizational citizenship performance: 組織そのものや組織の目的に対する忠節および忠誠心によって組織に対するコミットメントを示し たり、組織の規則や方針、手続きに従順な姿勢を示す行動)、職務/課題誠実さ(=job/task conscientiousness: 役割として必要条件を超えた必要以上の努力で、たとえば、仕事に専心する、 根気強さ、仕事の業績を最大化しようとする意欲)の3つの次元が見出された。

また、Johnson(2001)は、Coleman & Borman(2000)の3次元モデルに職務ストレスの処理 (=handling work stress: 困難な状況や仕事の負担への高度の要求に直面したときにも平静でい られること、予期しない知らせや状況に対して過剰反応しないこと、相手を責めたりするよりも建 設的な解決方法への努力をめざすことによって欲求不満を管理すること)を加えた4次元からなる 文脈的業績モデルを示した。 8 性格特性が大きな5因子(神経症傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性)から構成されているとい う考え方。この考え方をもとに、性格検査NEO-PI が作成された。

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12 以上のことを理解したうえで、本研究では組織市民行動とかなり近い概念である文脈的業績は用 いない。その理由は、統計処理をするときに、多重共線性9の問題による影響が出る可能性が高いか らであり、また、本研究の目的から組織市民行動の概念を使う方が妥当であると判断した。 4)職務満足感に関する研究とその尺度に関する研究 職務満足感とは、組織成員が自分の仕事に対して抱く肯定的な感情をいう(外島・田中, 2007)。 職務満足感の定義はLocke(1976)による「個人の職務ないし職務経験の評価から生じる、好ましく、 肯定的な情動の状態」が有名である。 職務満足感は、組織成員がキャリアを構築するうえで重要な要因となる。すなわち、仕事に対し て長期的に満足感を維持し続けることができるかどうかが、自分の思い描くキャリア発達の実現へ 影響するといえる(外島・田中, 2007)。 職務満足感の理論を考察していくと、Locke(1976)は価値充足理論として、職務満足感を規定す るのは個人の価値観であり、逆に充足されないときには職務不満足感が生じると考えた。この理論 では、人々が今の仕事に対して自分の価値観を充足できる経験を求めていて、さらにその欲求を量 的に知覚できて、実際の職務経験で充足された価値も認知できることが前提になっている(外島・田 中, 2007)。

Hackman & Oldham(1976)は職務特性理論として、人が仕事にやる気を起こすのは、今携わっ ている仕事の内容そのものが本人にとって意味があり楽しいためであるかもしれないとし、職務満 足感を高める職務の特性は、①スキルの多様性(=skill variety: 職務遂行にどれくらい多くのスキ ルが必要とされるか)、②課業同一性(=task identity: 仕事の最初から最後まで担当するのか、一 部を担当するのか)、③課業有意義性(=task significance: 担当する仕事が他の人にどの程度影響 を与えるか)、④自立性(=autonomy: 自分の仕事をするのにふさわしい自由裁量の余地があるの か)、⑤フィードバック(=feedback: 仕事の成果の良し悪しがどの程度はっきりわかるようになっ ているか)、の5つに分類されるとしている。 Spector(1997)は、仕事への満足感が人々の職場での行動にどのような影響を及ぼすかを研究し、 職務満足(あるいは不満足)感によって次の8つの潜在的効果が起こるとしている。①職務業績の 向上、②組織市民行動の生起、③従業員の消極的な職務行動の減少や欠勤率の低下、④離転職率の 低下、⑤バーンアウトの低減、⑥身体的・心理的な健康の増進、⑦従業員による組織の機能を阻害 する行動、すなわち非生産的行動が起こりにくくなる、⑧生活満足感への相乗効果。 職務満足感を測定するためにこれまで作成されてきた尺度に関する研究を検証してみる。多くの 人に知られ引用件数の多いものにWeiss, Davis, England, & Lofquist(1967)の開発したミネソタ式 9 説明変数間において非常に高い相関をもち、かつ説明変数と基準変数との間で相関がある場合には、 推定される標準偏回帰係数の値は不安定で多くの場合、一つ以上の説明変数においてマイナスの値や1 を超えることがある。このような現象を多重共線性の問題という。同じ性質をもった変数を同時に用い て分析を行うと多重共線性の問題が生じる危険性があるので、一方の説明変数を取り除いてから分析を 行う必要がある(渡部, 2002)。

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職務満足感尺度がある。この原版は 100 項目からなっているが、通常用いられているのは 20 項目か らなる短縮版である(外島・田中, 2007)。なお、JTB モチベーションズ研究・開発チーム(1998)は 日本語版を、高橋(1999)は日本語版短縮版を開発している。

このほか、Ironson, Smith, Brannick, Gibson, & Paul(1989)は、回答者の全体的な職務満足感を 測定するために 18 項目から構成される全体的職務満足感尺度を開発した。 また、Smith, Kendall, & Hulin (1969)は、独自に作成した職務満足感についての5次元モデルに基づいて 63 項目の尺度を 開発した。職務満足感尺度の中では、おそらくこの尺度が先行研究で最も多く使用されているとい われる(外島・田中, 2007)。 以上のことから、職務満足感は企業業績を高める要因であることは明らかであり、企業業績を高 める要因である職務満足感に清掃活動が影響を及ぼしている可能性の検証は不可欠である。そこで、 本研究では職務満足感の概念を用いる。 5)組織市民行動と企業業績に関する研究 組織市民行動はその定義より「組織にとって有効な機能の一部である」という仮説に基づいてい るが、その一方で、このような組織市民行動と組織の有効性(作業集団の量的および質的な生産性、 セールスチームの生産性、顧客満足や不満、売上高、収益性、および業務効率性など、多くの重要 な組織成果10)との因果関係に関しての有効な実証研究は数少ない(西田, 1997)。その中でも支持 されている研究として次の2つの研究がある。 組織市民行動が集団ないし組織の有効性に関するかどうかを実証した最初の研究は Karambayya(1990)である(Organ, Podsakoff, & Mackenzie, 2007)。Karambayya(1990)は 12 の異 なる組織における 18 のワークグループを対象に調査を行い、各ユニットの業績(作業集団の量的生 産性)とその構成員の組織市民行動を調べた。その結果、業績のレベルが高いと判定された成員の 方が業績の低い成員に比べて組織市民行動をより行っていることを発見した。

2つ目の研究は、Podsakoff, & Mackenzie(1994)によるもので、保険会社の代理店 116 店舗を対 象に組織市民行動と各代理店レベルでの業績(チームセールスの生産性)との関係について調べた。 その結果、組織市民行動が代理店レベルでの業績の 17%の変動を説明することを明らかにしている。 その他に、西田(2000)が組織市民行動と職場の業績(チーム生産性)に関する実証研究を行い、 上記2つの研究の問題点を指摘し、職務満足、組織コミットメント、組織公平性という要因を介し て間接的に組織市民行動が業績に影響をしていることを明らかにしている。また、Organ et al.(2007)が Karambayya(1990)の研究の問題の多くを回避した方法で実証研究をし、組織市民行動 は、作業集団の量的および質的な生産性、セールスチームの生産性、顧客満足や不満、売上高、収 益性、および業務効率性など、多くの重要な組織成果と確かに統計的に有意な関係であることを示 した。 10 筆者注釈

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14 第1研究(量的研究) 第1研究の仮説 1.仮説 第1研究の研究課題を検証するために以下に示す仮説を設定する。図5は第1研究における仮説 概念モデルである。 仮説1: 清掃活動を行う組織成員ほど、組織市民行動をより多く行うであろう。 仮説2: 清掃活動を行う組織成員ほど、職務満足感がより高いであろう。 仮説3: 清掃活動を積極的に行う組織成員ほど、職場での個人業績が高いであろう。 図 5 第1研究における仮説概念モデル ② ① ③ 筆者作成。 本研究では、上記 3 つの仮説を検証することを目的とするが、最終的な企業業績との関係について、 すなわち、図5の仮説概念モデルで設定した仮説(仮説1~3)以外の矢印については、先行研究 をもとに次のように考える。 ① 職務満足感から組織市民行動へ:この影響は、Spector(1997)によって職務満足感が高いほ ど組織市民行動を行うとことが示されている。 ② 組織市民行動から企業業績へ:この影響は、Karambayya(1990)、Podsakoff, & Mackenzie(1994)、西田(2000)、Organ, Podsakoff, & Mackenzie(2007)などの研究により 影響があることが示されている。 ③ 職務満足感から企業業績へ:この影響は、Spector(1997)が職務満足感によって8つの潜在 的効果が起こるとし、その第1に職務業績の向上をあげている。 個人業績 組織市民行動 職務満足感 清掃活動 企業業績 仮説3 仮説1 仮説2

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15 第1研究の方法 1.手続き 関東地方1都6県の科学機器商社7社と栃木県宇都宮市の民間企業 23 社の合計 30 社に勤務する 500 名を対象とした。調査方法としては各会社の社長もしくは支店責任者に直接依頼し質問紙を配 布してもらい一括して回収し返送してもらう方法をとった。 質問紙は 500 部配布し、444 部が回収された(回収率 88.8%)。清掃活動を実施する企業からは 357 部回収され(回収率 71.4%)、清掃活動を実施しない企業からは 87 部回収された(回収率 17.4%)。 そのうち無回答を除き、425 部を統計解析に用いることにした(有効回答率 85.0%)。調査期間は、 2008 年 10 月中旬から 11 月下旬の 1.5 ヶ月間であった。調査協力者の特徴は表1の通りである。 表1 調査協力者の特徴 項目 平均 内訳 性別 男性 266 名、女性 158 名 年齢 38.3 歳 10 代 3 名、20 代 88 名、30 代 142 名、40 代 110 名、50 代 51 名、60 代 15 名 学歴 高校卒 138 名、専門学校卒 65 名、短大卒 41 名、大学卒 161 名、大学院 6 名 勤続年数 10.4 年 3 年以下 101 名、4~10 年 149 名、11~20 年 93 名、21~30 年 52 名、 31 年以上 11 名 職階 一般社員 257 名、主任クラス 33 名、係長クラス 34 名、課長クラス 59 名、部長クラス 21 名、本部長クラス 1 名、役員クラス 19 名 職種 人事・労務・総務 18 名、営業・販売・マーケティング 188 名、製造・生産 9 名、技術 35 名、事務 88 名、研究・開発 1 名、経理・財務・会計 11 名、 他 72 名 職務形態 フルタイム 356 名、パートタイム 67 名 会社の規模 1~4 人 13 名、5~29 人 134 名、30~99 人 147 名、100~499 人 39 名 500~999 人 14 名、1000 人以上 78 名

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16 2.調査項目 質問紙は、デモグラフィック変数として、性別、年齢、学歴(高校卒・専門学校卒・短大卒・大 学卒・大学院修了)、勤続年数、職階(一般社員・主任クラス・係長クラス・課長クラス・部長クラ ス・本部長クラス・役員クラス)、職種(人事・労務・総務、営業・販売・マーケティング、製造・ 生産、技術、事務、研究・開発、経理・財務・会計、その他)、職務形態(フルタイム・パートタイ ム)、会社の規模(1~4名・5~29 名・30~99 名・100~499 名・500~999 名・1000 名以上)を 尋ねた上で、以下に示す尺度に含まれる質問項目を提示した。 清掃活動尺度 羽石・山内(2010)によって開発された尺度を使用した。評定尺度としては、実施の頻度について は「毎日行う」「週に3回以上行う」「週に1回以上行う」「月に2回以上行う」「月に1回以上行う」 「行わない」の6段階評定を、実施の継続については「5年以上継続」「3年以上継続」「1年以上 継続」「半年以上継続」「半年以下」「行っていない」の6段階評定を、実施意識については「進んで 行う」「決まりなので行う」「できれば行いたくない」「行わないほうがいい」「行わない」の5段階 評定を、清潔さ因子については「まったく当てはまらない」「わずかに当てはまる」「ある程度当て はまる」「かなり当てはまる」「非常に当てはまる」の5段階評定を使用した。 組織市民行動尺度

Organ(1988)によって開発され、その後 Podsakoff, Mackenzie, Moorman, & Fetter (1990)によ って修正された組織市民行動尺度 24 項目を田中(2004)によって邦訳されたものうち 19 項目を使用 した。評定尺度としては「常に行っている」「しばしば行っている」「たまに行っている」「めったに 行ってない」「まったく行っていない」の5段階評定を使用した。 職務満足感尺度 Weiss et al. (1967)の開発したミネソタ式職務満足感尺度のショートバージョン 20 項目を高橋 (1999)が日本語版短縮版として開発したものを使用した。評定尺度は「大変満足している」「少し満 足している」「あまり満足していない」「満足していない」の4段階評定を使用した。 個人業績指数 個人販売目標を持つ営業員を対象に、5年以上在籍している営業員は5ヶ年の販売目標達成度比 率の平均を、5ヶ年以下の在籍の営業員は在籍期間の販売目標達成度比率の平均を個人業績指数と した。

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17 第1研究の結果 1.分析の結果 1)信頼性係数 測定尺度の内的一貫性を調べるために、クロンバックのα係数を計算した。各尺度の信頼性係数 は表2に示す通りであった。一般的にα≧.70 であれば信頼性があるとみなされるので、「誠実さ」 が若干低めではあるが、全ての尺度において内的一貫性があるとことが示された。 表2 各尺度の信頼性係数 α係数 清掃活動 .704 誠実さ .656 スポーツマンシップ .737 市民の美徳 .738 礼儀正しさ .750 愛他主義 .865 職務満足感 .911 2)相関分析 清掃活動と組織市民行動、職務満足度の相関分析を行った。結果は表3に示すような変数間の関 係があることが明らかとなった。

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18 表3 相関係数 清掃活動 の強度 組織市民 行動 職務 満足感 誠実さ スポーツ マン シップ 市民の 美徳 礼儀 正しさ 愛他主義 清掃活動 1.000 組織市民行動 .325** 1.000 職務満足感 .189** .452** 1.000 誠実さ .205** .612** .234** 1.000 スポーツマンシップ -.093 .111* .008 -.013 1.000 市民の美徳 .244** .760** .348** .330** -.148** 1.000 礼儀正しさ .258** .772** .344** .384** -.085 .469** 1.000 愛他主義 .337** .850** .431** .412** -.055 .555** .588** 1.000 **. 相関係数は 1% 水準で有意 (両側) *. 相関係数は 5% 水準で有意 (両側) 清掃活動と組織市民行動との間には統計的な有意な正の相関(r=.325, p<.01)が、また組織市民行 動の下位尺度である「誠実さ」「スポーツマンシップ」「市民の美徳」「礼儀正しさ」「愛他主義」の 5項目の間の相関は、「誠実さ」に正の相関(r=.205, p<.01)が、「市民の美徳」に正の相関(r=.244, p<.01)が、「礼儀正しさ」に正の相関(r=.258, p<.01)が、「愛他主義」に正の相関(r=.337, p<.01) が、それぞれ統計的に有意な正の相関が認められた。つまり、清掃活動は組織市民行動に影響を与 えているといえる。清掃活動の強度が高いほど、誠実さがあり、市民の美徳が高く、礼儀正しさが あり、愛他主義があるといえる。しかしながら、スポーツマンシップだけには相関は認められなか った。 次に清掃活動と職務満足感との関係を見てみると、清掃活動と職務満足感との間にも統計的に有 意な正の相関(r=.189, p<.01)が認められた。つまり、清掃活動が職務満足感に影響を与えていると いえる。 3)デモグラフィック要因との関係 清掃活動と個人属性に何らかの関係があるのかを確認した。解析方法としては、それぞれのグル ープごとにt検定(対応のないt検定)または一元配置の分散分析、ならびに多重比較(Tukey 法) を行った。 ①性別による比較

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19 清掃活動を男女別で比較し、それぞれの清掃活動の平均値を検討するためにt検定(対応のない t 検定)を行った。分析の結果を表4に示す。この結果からもわかる通り、清掃活動に関しては、 男女間において統計的に有意な差が確認された(t=-2.10, p<.05)。清掃活動と性別の関係において は、女性の方が男性に比べて積極的に清掃活動を行っていることがわかる。 表 4 性別による比較 男性平均(S.D.) 女性平均(S.D.) t値 清掃活動 24.86(4.53) 25.86(4.81) -2.10* * p<.05 **p<.01 ②職位別による比較 次に、職階別による清掃活動の差異を調べた。手続きとしては、課長級以上を管理職、それ未満 を一般職と分類し、それぞれの平均値の差をt検定(対応のないt検定)で行った。分析の結果を 表5に示す。分析の結果、統計的な有意差は認められなかった(t=0.11, n.s.)。清掃活動と職位の 関係においては、職位に関係なく清掃活動を行っていることがわかる。 表 5 職位別による比較 一般職平均(S.D.) 管理職平均(S.D.) t値 清掃活動 25.23(4.85) 25.16(4.10) 0.11 * p<.05 **p<.01 ③職務形態による比較 次に、職務形態による清掃活動の差異を調べた。手続きとしては、フルタイム(正社員)とパー トタイム(非正社員)とに分類し、それぞれの平均値の差をt検定(対応のないt検定)で行った。 分析の結果を表6に示す。この結果からもわかる通り、清掃活動に関しては、職務形態において統 計的に有意な差が確認された(t=-2.94, p<.01)。清掃活動と職務形態の関係においては、パートタ イム(非正社員)の方がフルタイム(正社員)に比べて積極的に清掃活動を行っていることがわか る。 表 6 職務形態による比較 フルタイム平均 (S.D.) パートタイム平均 (S.D.) t値 清掃活動 24.93(4.74) 26.80(4.06) -2.94 ** * p<.05 **p<.01

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20 ④年齢による比較 次に、年齢による清掃活動の差異を調べた。解析の手法は、各年齢を4つのカテゴリー(20~29 歳、30~39 歳、40~49 歳、50 歳以上)に分類し、それぞれに清掃活動の平均値を求め、それを使 って一元配置の分散分析ならびに多重比較(Tukey 法)を行った。分析の結果を表7に示す。分析 の結果、統計的な有意差は認められなかった(F=1.58, n.s.)。清掃活動と年齢の関係においては、 年齢に関係なく清掃活動を行っていることがわかる。 表 7 年齢による比較 (1) 20-29 歳 (2) 30-39 歳 (3) 40-49 歳 (4) 50 歳以上 F 値 清掃活動 24.80 25.13 24.95 26.33 1.58 * p<.05 **p<.01 ⑤勤続年数による比較 次に、勤続年数による清掃活動の差異を調べた。解析の手法は、各勤続年数を4つのカテゴリー (1~5 年、6~10 年、11~20 年、21 年以上)に分類し、それぞれに清掃活動の平均値を求め、それ を使って一元配置の分散分析ならびに多重比較(Tukey 法)を行った。分析の結果を表8に示す。 分析の結果、統計的な有意差は認められなかった(F=1.33, n.s.)。清掃活動と勤続年数の関係にお いては、勤続年数に関係なく清掃活動を行っていることがわかる。 表 8 勤続年数による比較 (1) 1-5 年 (2) 6-10 年 (3) 11-20 年 (4) 21 年以上 F 値 清掃活動 24.92 25.60 24.72 26.02 1.33 * p<.05 **p<.01 ⑥学歴による比較 次に、学歴による清掃活動の差異を調べた。解析方法は勤続年数と同様に学歴を5つのカテゴリ ー(高校卒、専門学校卒、短大卒、大学卒、大学院修了)に分類し、それぞれに清掃活動の平均値 を求め、それを使って一元配置の分散分析ならびに多重比較(Tukey 法)を行った。分析の結果を 表9に示す。分散分析の結果、清掃活動(F=5.56, p<.01)は1%水準で統計的有意差が認められた。 さらにその結果を基に多重比較(Tukey 法)(p<.01)を行った。その結果、高校卒と専門学校卒との

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21 間および高校卒と大学卒の間に統計的有意差が認められた。以上の結果から学歴によって清掃活動 への取り組みに差があることがわかる。 表 9 学歴による比較 (1) 高校卒 (2) 専門卒 (3) 短大卒 (4) 大学卒 (5) 院修了 F 値 多重比較 (Tukey 法) 清掃活動 26.37 24.02 26.27 24.44 28.00 5.56 ** 1-2,1-4 * p<.05 **p<.01 注)多重比較の結果は、表記のグループの組み合わせに統計的有意差があったことを示す。 4)階層的重回帰分析 清掃活動を独立変数とし、組織市民行動の下位尺度(誠実さ、スポーツマンシップ、市民の美徳、 礼儀正しさ、愛他主義)と職務満足感を従属変数として階層的重回帰分析を行った。その手続きと しては、まず第1段階として性別・年齢・学歴・勤続年数・職階・職種・職務形態・従業員数を統 制変数として投入し、決定係数R2を算出する。第2段階として、清掃活動を投入し、R2を算出する。 そして、第1段階で求めたR2と第2段階で求めたR2との差を算出し、F検定を行い、その差が統計 的に有意であるかを検定した。結果は、表 10~表 15 に示す。また、それらをまとめたパス図を図 6 に示す。

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22 表 10 階層的重回帰分析の結果1 (従属変数:誠実さ) ブロック1 ブロック2 性別 年齢 学歴 勤続年数 職階 職種 職務形態 従業員数 清掃活動 .232 .189 .036 -.177 .178 .037 -.037 .141 .215 .191 .041 -.211 .183 .025 -.055 .189 .207 R2 R2の変化量 F値 .083 5.235 .120 .039 6.691 表 11 階層的重回帰分析の結果2 (従属変数:スポーツマンシップ) ブロック1 ブロック2 性別 年齢 学歴 勤続年数 職階 職種 職務形態 従業員数 清掃活動 .129 .107 -.004 -.001 -.022 .018 -.055 -.032 .137 .106 -.006 .014 -.025 .023 -.047 -.053 -.092 R2 R2の変化量 F値 .001 1.038 .006 .008 1.251

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23 表 12 階層的重回帰分析の結果3 (従属変数:市民の美徳) ブロック1 ブロック2 性別 年齢 学歴 勤続年数 職階 職種 職務形態 従業員数 清掃活動 -.054 .030 .082 -.082 .210 .129 -.119 -023 -.075 .033 .088 .041 .217 .115 -.141 .037 .255 R2 R2の変化量 F値 .103 6.389 .160 .059 8.982 表 13 階層的重回帰分析の結果4 (従属変数:礼儀正しさ) ブロック1 ブロック2 性別 年齢 学歴 勤続年数 職階 職種 職務形態 従業員数 清掃活動 .080 .019 .077 .023 .221 .034 .018 .019 .059 .022 .083 -.018 .227 .020 -.004 .078 .251 R2 R2の変化量 F値 .037 2.827 .093 .057 5.295

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24 表 14 階層的重回帰分析の結果5 (従属変数:愛他主義) ブロック1 ブロック2 性別 年齢 学歴 勤続年数 職階 職種 職務形態 従業員数 清掃活動 .168 .030 .052 .054 .183 .100 -.057 -.019 .144 .033 .059 .006 .191 .083 -.083 .050 .294 R2 R2の変化量 F値 .046 3.281 .123 .078 6.882 表 15 階層的重回帰分析の結果6 (従属変数:職務満足感) ブロック1 ブロック2 性別 年齢 学歴 勤続年数 職階 職種 職務形態 従業員数 清掃活動 .033 .019 .040 -.034 .245 .054 .037 -.006 .017 .021 .045 -.067 .249 .043 .020 .041 .198 R2 R2の変化量 F値 .034 2.636 .067 .035 4.000

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25 図 6 清掃活動と組織市民行動の下位尺度・職務満足感のパス図 清掃活動 誠実さ R2=.039 ** スポーツマンシップ R2=.008 市民の美徳 R2=.059 ** 礼儀正しさ R2=.057 ** 愛他主義 R2=.078 ** 職務満足感 R2=.035 ** **p<.01 .207 ** .255 ** .251 ** .294 ** .198 ** n.s. 筆者作成。 分析の結果から、清掃活動は、それぞれの変数に有意な要因としての予測力を示した。清掃活動 は、それぞれの変数に対して何らかの形で影響を与えていることが証明された。中でも特に「愛他 主義」「市民の美徳」「礼儀正しさ」に清掃活動が影響していることがわかる。逆に「スポーツマン シップ」には清掃活動は影響していないことがわかった。 分散分析の有意確率はすべての変数でp<.01 で有意であり統計的に説明力があるといえる。また、 第2段階で投入した標準化係数(β係数)の有意確率はスポーツマンシップを除きp<.01 で有意と なり、清掃活動はスポーツマンシップ以外の従属変数に対して影響力があると判断できる。スポー ツマンシップはp<.05 でも有意とならなかった。有意確率F変化量も標準化係数と同じく、スポー ツマンシップを除くすべての変数でp<.01 で有意となった。スポーツマンシップはp<.05 でも有意 とならなかった。 5)清掃活動と個人業績との関係 調査票を配布した企業のうち1社で個人業績開示の協力が得られた。この企業の個人販売目標を 持つ営業員 25 名を対象に清掃活動と個人業績の関係を調査した。調査協力者の特徴は表 16 のとお りである。

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26 表 16 調査協力者の特徴 項目 平均 内訳 性別 男性 25 名、女性 0 名 年齢 40.3 歳 学歴 高校卒 13 名、専門学校卒 3 名、短大卒 2 名、大学卒 7 名 勤続年数 14.2 年 3 年以下 5 名、4~10 年 5 名、11~20 年 7 名、21~30 年 5 名、30 年以上 3 名 職階 一般社員 5 名、主任クラス 5 名、係長クラス 3 名、課長クラス 6 名 部長クラス 4 名、役員クラス 2 名 職種 営業職関係 25 名 職務形態 フルタイム 25 名 会社の規模 30~99 人 25 名 調査は、調査票で入手した「清掃活動の意識」の項目から、「進んで仕事をする群(15 名)」と「決 まりだから行う群(9 名)」にわけ、個人業績との関係を、t検定(対応のないt検定)を用いて分 析した。結果を表 17 に示す。個人業績は、5年以上在籍している営業員は5ヶ年の販売目標達成度 比率の平均を、5ヶ年以下の在籍の営業員は在籍期間の販売目標達成度比率の平均を個人業績指数 とした。分析の結果から、「進んで清掃する群」の平均値(M=111.53)は、「決まりだからやる群」の 平均値(M=93.58)に比べ5%水準で有意に高いという結果が得られた(t(22)=2.340, p<.05)。 表 17 清掃活動と個人業績の比較 進んで清掃をする群の 平均(S.D.) 決まりだから行う群の 平均(S.D.) t値 個人業績指数 111.53(4.17) 93.58(7.11) 2.34 * * p<.05 **p<.01 2.仮説の検証 1)仮説1・仮説2の検証 相関関係の結果、清掃活動と組織市民行動・職務満足感との間には組織市民行動の下位尺度であ るスポーツマンシップを除き統計的に有意な正の相関が確認された(組織市民行動(r=.325, p<.01)、 誠実さ(r=.205, p<.01)、市民の美徳(r=.244, p<.01)、礼儀正しさ(r=.258, p<.01)、愛他主義(r=.337, p<.01)、職務満足感(r=.189, p<.01))。さらに重回帰分析の結果から、清掃活動はスポーツマンシ

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27 ップを除き他の変数に対して有意な要因としての予測力を示した(誠実さ(β=.207, p<.01:△ Adjusted R2=.039)、市民の美徳(β=.255, p<.01:△Adjusted R2=.059)、礼儀正しさ(β=.251, p<.01: △Adjusted R2=.057)、愛他主義(β=.294, p<.01:△Adjusted R2=.078)、職務満足感(β=.198, p<.01: △Adjusted R2=.035)。以上の結果から、仮説1の「清掃活動を行う組織成員のほうが、組織市民行 動をより多く行うであろう」と、仮説2の「清掃活動を行う組織成員のほうが、職務満足感がより 高いであろう」は共に支持されたといえよう。ただし、統計的有意差が認められなかった組織市民 行動の下位尺度であるスポーツマンシップに関しては再考の余地がある。 2)仮説3の検証 清掃活動と個人業績との関係を調べたt検定の結果、「進んで清掃する群(15 名)」の個人業績の 平均値(M=111.53)は、「決まりだからやる群(9 名)」の個人業績の平均値(M=93.58)に比べ5%水準 で有意に高いという結果が得られた(t(22)=2.340, p<.05)。この結果から、進んで清掃活動を行 う成員のほうが個人の業績が高いということがいえ、仮説3の「清掃活動を積極的に行う組織の従 業員は、職場での個人業績が高いであろう」は支持されたといえよう。

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28 第1研究の考察 1.考察 第1研究の結果として、清掃活動は組織市民行動と職務満足感に影響を及ぼしていることが確認 された。つまり、清掃活動を行う成員のほうが組織市民行動をより多く行い、そして、職務満足感 がより高いということがいえる。さらに、清掃活動と個人業績の関係においても、進んで清掃活動 を行う成員は、決まりだから行う成員に比べ、個人業績が高くなるという結果が得られた。個人業 績を把握できたサンプルが 25 と少数ではあったが、このような結果が得られたことは大変有効なこ とである。 これらの結果を踏まえると、清掃活動が組織市民行動と職務満足感を高め、また個人業績も高め るという結論が導き出される。第1研究での調査としてはここまでであり、これを企業業績と結び つけるためには先行研究11を引用する必要がある。すなわち、組織市民行動と企業業績の関係は

Karambayya(1990)、 Podsakoff, & Mackenzie(1994)、西田(2000)、Organ, Podsakoff, & Mackenzie(2007)などの研究で、職務満足感と企業業績の関係は Spector(1997)の研究で説明するこ とができる。職務満足感は組織市民行動を通して企業業績に影響を与えていることもSpector(1997) の研究で実証されている。また、企業業績は個人業績の集積であり、個人業績が高い従業員が多け れば企業業績も高くなるといえる。 総括すると、①清掃活動は成員の組織市民行動を高め、高い組織市民行動は企業業績を高める。 ②清掃活動は職務満足感を高め、高い職務満足感は企業業績を高める。③清掃活動は個人業績を高 め、高い個人業績は企業業績を高める、という関係が成り立つことになる。 一方、清掃活動とデモグラフィック係数との関係をみると、性別・勤務形態・学歴で統計的有意 差がみられ、職位・年齢・勤続年数では統計的有意差はみられなかった。この結果は、成果主義人 事制度の浸透によるものと思われるが、企業内での年功序列がなくなったことにより、職位・年齢・ 勤続年数の違いで清掃活動の取り組みに差がでなくなったものと推察される。しかし、性別・勤務 形態・学歴においては、いまだ「掃除は女性がやるもの」「掃除は非正社員がやるもの」「掃除は低 学歴者がやるもの」という認識があると推察される。特に性別における清掃活動の取り組みの差に ついては、ここにもジェンダー・ハラスメント12の問題が存在することが示唆された。すなわち、 女性の方が掃除をしているという事実は、「掃除のような雑務は女性がするのが当然」という暗黙の 認識が組織の根底にはいまだに存在しているといえ、小林・田中・栗田・羽石(2008)のいう「ジェ ンダー・ハラスメントとは、社会的性に基づく役割を他者に期待する言動」ということがまさに一 11 先行研究の 5)(p. 13)を参照 12 ジェンダー・ハラスメントとは、「性的関係を意図しないが女性を侮辱し、敵意を伝え、品位を落と すような態度をとること」と定義される(小林他, 2008)。

参照

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