DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.33
幼児の食物選好に与える視覚情報の検討
稲 田 祐 奈
a・山 口 真 美
b・金 沢 創
a,*
a日本女子大学 b中央大学
Experimental research on the influence of visual information
on the food preference of toddlers
Yuna Inada
a, Masami Yamaguchi
b, and So Kanazawa
a,*
aJapan Women s University bChuo University
In this study, we investigated the influence of visual information on the food preference of toddlers. Forty 2- to 3-year-old toddlers participated in two tasks: a naming task and a preference task. We prepared photographs of vege-tables and fruits and then made line drawings of the photographs. We selected high and low familiarity foods based on wholesale quantity orders for the last six years. At first, we presented the high and low familiarity food images side by side. Participants were asked to choose a favorite one and say the name of the food. Results showed that the effect of the naming task on preference was different between vegetables and fruits. The visual information of color and texture might be important factors for a food’s visual preference.
Keywords: food, familiarity, visual preference toddlers
本研究では,幼児における食物選好に与える視覚情報 の影響について検討した。実験では親近性の高低によっ て,命名課題と選好課題を実施し,これらを野菜と果物 について,写真と線画を刺激として検討を行った。親近 性の高い食物と低い食物はそれぞれ過去6年間の年間卸 売量のデータを基に選定した。実験の結果から,野菜と 果物では命名と選好の関連性が異なることが示唆され た。さらに,色やテクスチャといった視覚情報は食物の 視覚的選好を決める重要な要因となることが示唆され た。 これまでの研究から,乳幼児は接触経験が多い食物を 選 好 す る こ と が 示 さ れ て い る(Birch & Marlin, 1982; Houston-Price, Burton, Hickinson, Inett, Moore, Salmon, & Shiba, 2009a; Houston-Price, Butler, & Shiba, 2009b; Maier, Chabanet, Schaal, Issanchou, & Leathwood, 2007)。Birch &
Marlin (1982)は,食物の摂食回数とその後の選好につ いて2歳児を対象として検討を行った。実験の結果幼児 は試食した頻度の高い食物を選択したことから,接触し た回数とその後の食物の選好には相関があることが示唆 されている。接触回数と選好の関連は乳児に対して行わ れたMaier et al. (2007)でも示されており,生後7 ヵ月 児でも,嫌いな食物に繰り返し接触することにより,そ の後の摂取量が増加することが示されている。 摂食行動を指標とした食物への選好は,より単純な視 覚的な繰り返し提示によっても変容することが示されて いる。Birch, McPhee, Shoba, Pirok, & Steinberg (1987)は 摂食による味覚的な繰り返し提示と視覚的な繰り返し提 示が摂食行動と視覚的選好に与える影響も検討し,この 実験の結果,摂食することによって視覚的選好,摂食行 動の双方を促進し,視覚提示は視覚的選好を生じさせる が摂食行動は促進しないことが示された。Houston-Price et al. (2009a)でもBirch (1979b)の結果と同様に,視覚 的繰り返し提示により視覚的選好が生じることが示され た。 一般的に親近性は,繰り返し経験することによって, Copyright 2016. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author. Division of Psychology, Graduate
School of Integrated Arts and Social Sciences, Japan Women’s University Nishi-ikuta Campus, 1–1–1 Nishi-ikuta, Tama-ku, Kawasaki, Kanagawa 214–8565, Japan. E-mail: kanazawas@ fc.jwu.ac.jp
形成されることが示されており(Zajonc, 1968),経験を 通して物や刺激の知識を得ることで生じる(Aldridge, Dovey, & Halford, 2009)。特に食物の親近性は,繰り返し 食物を経験することにより生じる(Zajonc, 1968)。繰り 返しの経験の中でも,特に摂食は最も強い影響をあたえ ることが示されており(Kalat & Rozin, 1973),これによ り味の親近性だけではなく,匂いの親近性,視覚的な親 近性も高まる (Aldridge et al., 2009)。さらに親近性の形 成には,摂食だけでなく,繰り返しの視覚的提示も効果 があることが示されているため(Aldridge et al., 2009), 視覚経験も影響すると考えられる。親近性は子どもたち を取り巻く幅広い環境において形成されるとされ(Ro-zin, 1990),例えば,学校(Cullen, Eagen, Baranowski, Ow-ens, & de Moor, 2000; Morris & Zidenberg-cherr, 2002) ,地 域の店(Baranowski, Lin, Wetter, Resnicow, & Hearn, 1997; Cooke, Wardle, Gibson, Sapochnik, Sheiham, & Lawson, 2004),テレビ (Borzekowski, 2001)などで形成されるこ とが示されている(Aldridge et al., 2009)。 さらに,親近性が高まるほど,その食物をより選好す るようになることが実験的に示されており(Cooke, 2007),幼児の食物の選好の要因として「親近性」が重 要であると言えるだろう。Birch (1979a)は,8種類の果 物を順序づけさせることにより幼児の果物の選好の要因 を検討した。その結果,3∼4歳児の果物の選好におい て重要な要因は「親近性」であった。この「親近性」と は,果物の名前をいえる,日常的に家庭でよく食べるな どの経験からくるものである(長谷川,1996)。 Houston-Price et al. (2009b)では,両親への質問紙を 指標として親近性を定義し,親近性の高い食物と低い食 物では,親近性の高い食物の摂食回数が高いことが示さ れており,この結果は野菜でも果物でも一貫していた。 Birch (1979b)によると,選好の高い食物ほど摂食量が 多いことから,Houston-Price et al. (2009b)の結果は親 近性が高い食物を選好したと言えるだろう。しかしなが ら,この実験結果は用いた食物による偏りがある可能性 がある。具体的には,この研究で用いられた親近性の高 い野菜はニンジン,スイートコーンであり,親近性の低 い野菜はラディッシュ,クレソンであった。この実験に おいて親近性の高い野菜は,スイートコーンという甘み のある食物であるため,親近性の高さによって摂食回数 が促進されたのではなく,ただ単に甘い食物をよく食べ たという可能性が考えられる。 そこで本研究では,食物の親近性の効果を野菜と果物 で系統的に比較検討する目的で,親近性の高低が命名や 選好に与える影響を検討した。実験では親近性を出荷量 によって操作的に定義し,親近性の高低によって,命名 課題と選好課題を実施し,これらを野菜と果物につい て,写真と線画を刺激として検討を行った。 出荷量による操作を行うため,農林水産省(2007)発 表の年間卸売量の多少を親近性を示す指標として用いた のは,両親などへの質問紙調査で調べる方法よりも簡便 かつ客観的に親近性を推測できると考えたためである。 Wada et al. (2012)は,日本において一年の中で年間卸売 量の変化が大きいイチゴでは,イチゴのニオイが伴うと イチゴ画像に対する乳児の注視行動が,時期によって変 化することを示した。これは,年間卸売量の増減によ り,接触経験量が年間を通して変化したことによる注視 行動の変化であると考えられる。本研究では ,これを 参考に,年間卸売量が接触経験量を予測する指標となる と考え,これを指標として採用した。 さらに,本研究では,親近性が高いことを確認するた めに命名課題を実施した。長谷川(1996)によると,「親 近性」とは果物の名前をいえる,日常的に家庭でよく食 べるなどの経験からくるものである。本研究では年間卸 売量という新しい指標で親近性を定義することを試みて いるため,親近性の裏づけとして命名課題を行った。こ れまで親近性の高い食物は選好されることが示されてい るため,命名課題と選好課題の間にも何らかの関連があ ると予測される。 以上のことから,親近性の高い食物は命名でき,選好 が生じるとの仮説を設定した。 さらに本研究では視覚情報に絞り,条件を限定するこ とで,野菜と果物に対する選好や命名の違いを細かく検 討することとした。日常で見る状態に近く,色とテクス チャの情報を伴う写真と,色がなく表面の情報を貧弱に した線画を比較することで,視覚情報の要素を分離して 初めて食物の視覚的選好の要因を詳細に検討することが できると考えられる。 また本研究で対象とした年齢は,2∼3歳の幼児とし た。幼児期では食物の選好の要因(Birch, 1979)や食物 の拒否(Rozin, 1986)が発達につれて変化していくこと が示されており,食物の選好が成立する重要な時期だと とらえることができる。 方 法 実験参加者 2∼3歳の幼児40名が実験に参加した。写真条件では, 20名(平均3歳2 ヵ月,2歳6 ヵ月∼3歳7 ヵ月)が実験 に参加した。線画条件では, 20名(平均3歳2 ヵ月,2歳 6 ヵ月∼3歳7 ヵ月)が実験に参加した。実験参加者は
10月から12月の間に実験に参加した。幼児の保護者は, 母親あるいは父親であった。保護者には,2,000円分の 図書券が渡された。 実験刺激 食物画像はデジタル画像素材集から選定し,刺激を作 成した。刺激として使用する食物は,農林水産省のウェ ブページで公開されている,青果の年間卸売量統計デー タをもとに選定した。野菜47種類,果物23種類の平成 18年度から23年度までの各食物における平均年間卸売 量を算出し,上位4種類を親近性の高い食物,下位4種 類を親近性の低い食物とした。野菜,果物ごとに食物を 選定後,食物の画像の背景をグレーに統一し,Figure 1 (a)の画像を作成した。この食物の写真を2階調化し, 2階調化のしきい値は画像によって見た目で判断し,線 画を作成した(Figure 1 (b))。 実験では,親近性の高い食物画像と低い食物画像を左 右に対提示した。野菜条件では,キャベツとししとう, だいこんとうど,はくさいとカリフラワー,たまねぎと にんにくの食物画像,果物条件では,みかんとびわ,バ Figure 1. Food images used in experiment.
ナナとレモン,リンゴとすもも,なしとうめの食物画像 が対提示された。親近性の高い食物画像と低い食物画像 の提示位置はカウンターバランスがとられたが,刺激 セットの提示順序は固定であった。対提示する食物の組 み合わせは,色,形状等が視覚的に類似した食物であっ た。 実験手続き 幼児には,11.6インチPCモニタによって,1366×768 ピクセルの解像度,32ビットカラーモードで刺激を提 示した。対提示する各刺激の画面上のサイズは 6 cm× 8 cmであった。視距離は30 cm程度で実験を始めたが, 幼児の動きによって視距離は一定ではなかった。幼児は 個別にテストされた。実験では机上のノートパソコンの 前に座らせた状態で,幼児は画面上の刺激を観察した。 実験者1名が刺激を提示しているモニタの横に座り,幼 児とともにモニタが見える位置に座った。実験者は「ど ちらが好きか」を口頭で尋ね,2肢強制選択課題を行っ た。その後,実験者が対提示されている2つの食物を1 つずつ指さし,それぞれ「これは何か」と口頭で尋ね, 命名課題を行った。命名課題においてフィードバックは 行われなかった。写真条件,線画条件の双方を実施した 幼児には,まず線画条件を,次に写真条件を行った。保 護者は幼児の横に座り,可能な限り幼児に話しかけない ように教示されたが,幼児が課題を遂行しない際は,実 験者と協力して促すよう指示された。刺激提示時間は固 定ではなく,実験参加者が回答するまで提示された。写 真条件,線画条件ともに参加した場合,1名当たりの実 験時間は10分程度であった。試行間の間隔は固定では なく,継続して課題に向かえない幼児には適宜休憩をは さんだ。幼児の回答は実験中に1名の実験者により記録 用紙に記録された。 命名課題では親近性の高低を独立変数,親近性の高低 の画像それぞれにおける命名の正答人数を従属変数とし て,選好課題では親近性の高低を独立変数,選好人数を 従属変数として二項検定を行った。 結 果 命名課題 命名課題の結果をFigure 2に示す。この課題における 命名の基準は,命名を求められた食物に対して,正しく 食物の名前を回答したこととした。 まず写真条件の結果について説明する。2∼3歳児が 親近性の低い食物よりも,親近性の高い食物をより命名 できるかを検討するため,親近性の高い食物,低い食物 それぞれの正答人数を二項検定により調べた。その結 果,野菜条件では,親近性の低い食物よりも高い食物を よ り命 名 で き る 2∼3 歳 児 が 多 か っ た(両 側 検 定: p<.01)。刺激ペアごとに見ると,刺激ペアのうち3ペア で,親近性の低い食物よりも,親近性の高い食物で命名 できる2∼3歳児が多かった(両側検定: キャベツVS.し し と う: p<.01, だ い こ ん VS. う ど: p<.01, は く さ い VS.カリフラワー: n.s., たまねぎVS.にんにく: p<.1)。 果物条件では,親近性の低い食物よりも高い食物をより 命名できる 2∼3歳児が多かった(両側検定: p<.01)。 刺激 4ペアのうち3ペアで,親近性の低い食物よりも, 親近性の高い食物で命名できる2∼3歳児が多かった(両 側検定: みかんVS.びわ: p<.01, バナナVS.レモン: n.s., リンゴVS.すもも: p<.01, なしVS.うめ: n.s.)。 次に線画条件の結果について説明する。野菜条件で は,親近性の低い食物よりも高い食物をより命名できる 2∼3歳児が多かった(両側検定: p<.01)。刺激ペアご とに見ると,刺激ペアのうち3ペアで,親近性の高い食 物を命名できる 2∼3歳児が多かった(両側検定: キャ ベツVS.ししとう: p<.01, だいこんVS.うど: p<.01, は くさいVS. カリフラワー: n.s., たまねぎ VS. にんにく: p<.05)。果物条件では,親近性の低い食物よりも高い 食物をより命名できる2∼3歳児が多かった(両側検定: p<.01)。刺激4ペアのうち3ペアで,親近性の高い食物 を命名できる 2∼3歳児が多かった(両側検定: みかん VS.びわ: p<.01, バナナVS.レモン: p<.05, リンゴVS.す もも: p<.01, なしVS.うめ: n.s.)。 以上の結果により,画像や食物カテゴリにかかわら ず,2∼3歳児は親近性の低い食物に比べ,高い食物を より命名できる2∼3歳児が多いことが示された。 選好課題 選好課題の結果をFigure 3に示す。2∼3歳児が親近性 Figure 2. Number of toddlers who said food name
の高い食物をより選好するかを検討するため,親近性の 高低で選好した人数に偏りがあるかを二項検定で調べ た。 まず写真条件の結果について説明する。野菜条件で は,親近性の高い食物と低い食物の選好に偏りは見られ なかった(両側検定: n.s.)。刺激ペアごとに見ると,刺 激ペアのうち 1ペアで,親近性の高い食物を選好する 2∼3歳児が有意に多かった(両側検定: キャベツ,し しとう: n.s.,だいこん,うど: p<.05, はくさい,カリフ ラワー: n.s.,たまねぎ,にんにく: n.s.)。果物条件で は,親近性の低い食物よりも高い食物をより選好した (両側検定: p<.01)。刺激ごとに見ると,刺激ペアのう ち3ペアで,親近性の高い食物を選好する2∼3歳児が有 意に多かった(両側検定: みかん,びわ: p<.01,バナ ナ,レモン: p<.01,リンゴ,すもも: p<.05, なし,う め: n.s.)。 次に線画条件の結果について説明する。野菜条件で は,親近性の高い食物と低い食物の選好に偏りは見られ なかった(両側検定: n.s.)。また,刺激ペアすべてにお いて親近性の高い食物を選好する人数と親近性の低い食 物を選好する人数に偏りは見られなかった(両側検定: キャベツ,ししとう: n.s., だいこん,うど: n.s.,はくさ い,カリフラワー: n.s.,たまねぎ,にんにく: n.s.)。果 物条件では,親近性の低い食物よりも高い食物をより選 好した(両側検定: p<.05)。刺激ごとに見ると,刺激 ペアのうち1 ペアでのみ親近性の高い食物を選好した (両側検定: みかん,びわ: n.s.,バナナ,レモン: p<.05, リンゴ,すもも: n.s.,なし,うめ: n.s.)。 以上の結果により,2∼3歳児は親近性の低い食物よ りも高い食物を選好することが果物条件でのみ示され た。 さらに,この果物条件の結果について,写真条件と線 画条件での比較を行った。果物条件の親近性の高低それ ぞれ選好人数を写真条件と線画条件で比較するため, オッズ比を算出したところ,写真は線画に比べて親近性 の高い食物を選好するオッズが2.27倍になり(オッズ比 2.27, 95%信頼区間1.12–4.64, p<.05),線画よりも,写真 で親近性の高い食物を選好する傾向が強いことが示され た。野菜条件では写真条件と線画条件の比較において差 は見られなかった(オッズ比 1.23, 95%信頼区間 0.66– 2.29, n.s.)。 考 察 本研究では,食物の親近性の効果を野菜と果物で系統 的に比較検討するため,親近性を出荷量によって操作的 に定義し,親近性の高低が命名や選好に与える影響を検 討した。本研究の仮説として,親近性の高い食物は命名 が可能であり,選好が生じるとの仮説を設定した。長谷 川(1996)によると,「親近性」とは果物の名前をいえる, 日常的に家庭でよく食べるなどの経験からくるものであ る。このことから,命名できることは親近性が高いこと を意味していると考えられる。 実験では親近性の高低によって,命名課題と選好課題 を実施し,これらを野菜と果物について,写真と線画を 刺激として検討を行った。命名課題の結果,画像や食物 カテゴリにかかわらず,2∼3歳児は親近性の低い食物 に比べ,高い食物をより命名できることが示された。選 好課題の結果,2∼3歳児は親近性の低い食物よりも高 い食物を選好することが果物条件でのみ示された。さら に,この結果は線画条件より写真条件でより強い傾向を 示した。 本研究では Wada et al. (2012)を参考に,年間卸売量 という指標を使って親近性の高低を推測した。年間卸売 量を指標として使用した理由は,両親などへの質問紙調 査で調べる方法よりも簡便かつ客観的に親近性を推測で きると考えたためである。親近性や接触頻度と,本研究 で使用した年間卸売量のデータの間の一致性については 検討していないが,保護者への接触頻度の聞き取りも, 本来の親近性や接触頻度を正確に示している指標とは言 えず,この指標を使用しても予測の域を出ないと考えら れる。本研究では,より簡便に親近性や接触頻度を予測 する指標として,年間卸売量のデータを挑戦的に使用し た。 実験の結果,本研究で定義した親近性の高い食物をよ り命名できた点,さらに親近性の指標を両親への質問紙 から決定し,親近性が高い食物を選好したHouston-Price et al. (2009b)の研究と類似した結果であった点から,年 間卸売量は親近性を予測する指標として妥当であったと Figure 3. Number of toddlers who preferred for high
言えるだろう。ただし,年間卸売量を指標とする場合 は,季節間変動を考慮しなければ正しく親近性や接触頻 度を予測できない可能性がある。この点に関して,本研 究の対象年齢は2∼3歳であり,すでに各季節を2∼3回 は経験しており,この経験は相殺されていると考えられ るため,本研究において季節性による影響は少ないと考 えられる。 命名課題によって年間卸売量を親近性の高低の指標と することが妥当であったかを確認したが,親近性の高い 食物を低い食物に比べて命名することができるという点 は,長谷川(1996)が親近性の要素として「名前を言え る」点が含まれると述べた点を補足する結果であり,本 研究も親近性と命名には関連があることを示したと言え る。さらにこの傾向は食物カテゴリにかかわらず野菜と 果物の双方で見られたことから,これに関係なく親近性 と命名の関連性があることが示された。 選好課題の結果,果物条件については,親近性の高い 食物を選好した人数と低い食物を選好した人数に有意な 偏りが見られたため(Figure 3),2∼3歳児は果物につい て親近性の低い食物よりも高い食物を選好することが示 された。これは,幼児の摂食行動から親近性の効果を検 討し,親近性の高い食物に対する摂食回数が多いと示し た,Houston-Price et al. (2009b)と,幼児が親近性の高 い食物を選好するという点で一致する結果である。 しかし,本研究において最も強調すべき点は,命名と 選好について,野菜と果物で異なる結果が得られたこと である。本研究では,親近性の高い食物は,命名でき, さらに選好が生じるとの仮説を設定したが,この仮説は 果物においてのみ支持される結果となった。野菜につい ては先行研究や本研究における果物の結果とは違い,親 近性が高く,命名できても選好しないことを示した。野 菜も果物も一貫して親近性の高い食物を命名できるにも かかわらず,選好では両者で違いが見られた。 Birch (1979a)の研究では果物のみの選好の要因につ いて検討しており,「親近性」が選好に影響するという 結果が得られている。本研究でも果物についてはこの結 果を支持したと言える。Houston-Price et al. (2009b)が 行った実験では,親近性の高低で摂食回数を比較したと ころ,野菜,果物双方で親近性の高い食物への摂食回数 が高かった。野菜において本研究と Houston-Price et al. (2009b)とは異なる結果となった。Houston-Price et al. (2009b)では見られた親近性の高い食物への選好が,本 研究では見られなかった原因は,選定した食物の特徴に あると考えられる。Houston-Price et al. (2009b)で用い た親近性の高い野菜は,ニンジン,スイートコーンと いった甘い野菜であったため,摂食回数が親近性の低い 野菜(ラディッシュ,クレソン)に比べて摂食回数が高 くなった可能性がある。本研究において使用した野菜 は,多くが緑色で甘い食物ではなく,Houston-Price et al. (2009b)に比べ,味や見た目において野菜を象徴する食 物であると考えられるため,野菜の選好を調べるうえで 適当な食物を選定していると考えられる。Houston-Price et al. (2009b)は,野菜の「苦味」が摂食行動に影響する とも述べており,摂食によりもともと苦味を知っている ことにより,視覚的選好にも苦味が影響し,選好が生じ なかった可能性がある。Rozin, Hammer, Oster, Horowitz, & Marmora (1986)によると「まずさ」も重要な要因で ある。この研究では,食物の拒否の要因を 4つに分類 し,そのうちの分類の1つとして「まずさ」を挙げてい る。これは,食物の味や匂い,食物のテクスチャを感覚 感情的に嫌うことにより拒否するものである(長谷川, 1996)。野菜はまずさと選好が結びついたことによって 選好が生じなかったと考えられる。さらに,果物で親近 性の効果がより顕著であったことは,「甘味」の影響が 考えられる。「甘味」は幼児の選好に重要な要因となる ことも知られているためである(Birch, 1979)。Houston-Price et al. (2009b)において,ニンジン,スイートコー ンといった野菜がラディッシュやクレソンよりも選好さ れたのは親近性の影響ではなく,「甘さ」の影響があっ たと考えられる。 本研究では,命名課題,選好課題ともに写真と線画で の比較を行った。日常で見る状態に近く,色とテクス チャの情報を伴う写真と,色がなく表面の情報を貧弱に した線画に分け,視覚情報の要素を分離して検討するこ とで食物の視覚的選好に影響する視覚情報を詳しく検討 できると考えた。命名課題では食物カテゴリ条件間で写 真と線画で正答人数には差が見られなかった。しかし, 選好課題では,果物条件において線画条件よりも写真条 件で親近性高低での選好人数の偏りが大きかったことか ら,色やテクスチャによって,視覚的選好が強まること が示された。 本研究で対象とした年齢は,スプーンやフォークなど の食器を使って食べたり,コップから飲物を飲んだりで きるようになるなど,自分一人で食事をできるように なった2∼3歳の幼児であった(長谷川,1996)。食事の 形状が液状から固形に変化したり,好き嫌いが生じたり するなど,乳児期から幼児期の間の食行動の変化は著し い(長 谷 川,1996)。 幼 児 期 で は 食 物 の 選 好 の 要 因 (Birch, 1979a)や食物の拒否(Rozin et al., 1986)が発達 につれて変化していくことが示されており,特に選好の
要因は,3歳では「親近性」,4歳では「甘さ」の次元の 比率が高くなり,年齢で違いが生じると示されている (Birch, 1979a)。この時期は食行動が年々変化するととも に,食物に対して新たな経験をする時期であると考えら れるため,その後の食物の選好や選択について重要な時 期だととらえることができる。 これまで,乳幼児の食物の選好を検討する研究は,好 き嫌いを軽減させることを主な目的として進められてき た。特に,食物の選択や食べる量など摂食行動を指標に 食物の嗜好を調べる研究が多くなされてきた。しかし, 食べる際の経験は味覚だけではなく,食物を口に入れる 前の視覚,嗅覚,触覚の経験も伴う。そのため,それぞ れの感覚での経験がどのようなものであったかも食物の 選好に影響すると考えられる。本研究では視覚に注目し 選好を調べた。その結果,視覚的選好であっても野菜と 果物,写真と線画とで結果が異なることが示された。こ れは視覚情報によって食物の選好が変化することを示し ていると考えられるため,本研究によって幼児の食物の 選好における視覚の役割の重要性を示したと言える。 謝 辞 本研究は科学研究費補助金(基盤研究(A) 課題番号: 21243041, 挑戦的萌芽研究 課題番号: 24653216)の補 助を受けて行われた。本研究の刺激提供をいただきまし た,食品総合研究所の和田有史先生,実施においてご協 力いただいた,中央大学山口研究室の皆様に御礼申し上 げます。 引 用 文 献
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