Carcinological Society of Japan
2018
年度日本甲殻類学会・学会賞受賞論文研究紹介
Cancer 28: 1–5 (2019)「テナガエビ属の生息密度および体サイズ組成の定量的評価にお
ける潜水動画撮影の有効性」の紹介
An introduction to “Validity of underwater movie recording for quantitative abundance
estimate and body size measurement of Macrobrachium shrimps”
齋藤 稔
1*・浜野龍夫
1・中田和義
2Minoru Saito, Tatsuo Hamano, and Kazuyoshi Nakata
はじめに
テナガエビ属Macrobrachiumは,外洋に面した河
川や汽水域に多産する大型のエビ類である.しか し,夜行性で日中は礫や植生に隠れる生態から(例 えば,Fiévet et al., 1996; Lammers et al., 2009),相対 的な生息量の比較は篭などで可能なものの(中田 ら,2005),定量的な調査は困難であり,生態解明 の 制 限 要 因 と な っ て い る. 一 方, 地 域 で は 直 径 15 cmほどのエビ玉網を用いた夜間の自家採集が行 われている.日中においてもこの網を用いれば,潜 水時に礫を裏返すことで容易に成体を採集すること ができる.そこで,エビ玉網の代わりに動画撮影機 材 を 使 い, 生 息 状 況 調 査 す る 方 法 を 開 発 し た (図1).この調査法で,さらに発見率に基づいた補 正を行えば(例えば,Dorn et al., 2005),採捕せず とも,生息密度と個体群組成を同時に調べられる. そこで,通し回遊性のテナガエビ属2種(ヒラテテ ナガエビM. japonicum, およびミナミテナガエビM. formosense)を対象に,潜水動画撮影調査による発 見率と調査効率を河川でのケージ実験で,全長推定 の正確さ・精度を河川で調べ,有効性を検証した. 潜水動画法 潜水動画撮影での調査には,次の3つの機材を使 用した(図1). (ア) 防水ケースに収納した,動画撮影が可能なデ ジタルカメラ (イ) 金属製定規を支えるアーム付きのステー (ウ) 竹製のL字型の定規.エビを石の間から追い 出すことにも使う ステーを使用することで,定規の取り付けが可能と なり,動画のぶれ軽減につながる.調査手順は,以 下の通りである. (1) 潜水して,動画を撮影しながら,下流から上流 に向かって河床の石を裏返して進む (2) 狭い間隙に隠れている個体を発見した場合,L 字型の定規で手前へと追い立てる (3) 後に静止画から体サイズを測定するため,対象 種の横にステーに取り付けた定規,またはL字 型定規を持って来る 1 徳島大学生物資源産業学部附属水圏教育研究セン ター 〒770–0861 徳島県鳴門市瀬戸町堂浦字地廻り壱 96-14
Education and Research Center for Aquascience, Faculty of Bioscience and Bioindustry, Tokushima University, 96– 14 Jimawari, Dounoura, Seto-cho, Naruto, Tokushima 771–0361, Japan
E-mail: [email protected] 2 岡山大学大学院環境生命科学研究科 〒700–8530 岡山県岡山市北区津島中3–1–1
Graduate School of Environmental and Life Science, Okayama University, 3–1–1 Tsushima-naka, North Ward, Okayama, Okayama 700–8530, Japan
* 現所属(Present address):山口大学大学院創成科学 研究科
〒755–8611 山口県宇部市常盤台2丁目16–1 Graduate School of Sciences and Technology for
Innova-tion, Yamaguchi University, 2–16–1 Tokiwadai, Ube, Ya-maguchi 755–8611, Japan
(4) 後に画像から性や抱卵の有無を判別するため, 体側を映す (5) 後日,パソコン画面上で動画を確認して種や性 を判別し,動画に映し込まれた定規を用いて体 サイズの推定を行う なお,トランセクトや方形枠等を用いて調査面積を 算出できれば,対象種の生息密度を求めることが可 能である. 発見率と調査効率 徳島県日和佐川中流域に実験ケージ(4×2 m)を 設け,ケージ内に収容した2種のテナガエビ類の発 見率と調査効率を3通りの調査手法(潜水動画撮 影・潜水エビ玉網採集・タモ網採集(一般的なキッ クサンプリング);順に,以下動画法・エビ玉網・ タモ網)で比較した.放流個体の密度(約1.5, 3.0, 6.0個体/m2), 種組成(ヒラテテナガエビのみ・ミナ 図1. 潜水動画法の調査機材(a)と調査の様子(b).
テナガエビ類調査における水中動画の有効性 ミテナガエビのみ・2種の混合)を変え,採集,ま たは撮影を行った.なお,雄・雌・未成体(全長 40 mm未満)の個体数の比率は,いずれの実験設定 においても1 : 1 : 1とした. 不等分散に対応可能な線形モデルの拡張である一 般 化 最 小 二 乗 法(GLS; Pinheiro & Bates, 2000)を用
い,AICに基づいてモデル選択を行ったところ,テ ナガエビ類成体の発見率は調査手法により異なるも のの,性や密度の影響は認められなかった(表1). また,種や種組成による変化も示されなかった(G 検定;動画法:G=0.049, p=0.952;エビ玉網:G= 0.162, p=0.922; タ モ 網:G=1.845, p=0.397). 動 画法とエビ玉網では,テナガエビ類成体の発見率が 高く(順に,0.955, 0.874;表1), これら調査手法が 絶対的な生息量の指標として有効であることが確認 された.これまで,複雑な微細生息場に隠れる性質 は,目視や電気ショッカー調査における発見率低下 の 要 因 と さ れ て き た(例 え ば,Fiévet et al., 1996; Brewer & Ellersieck, 2011).本調査法では,礫を裏 返すことが発見漏れや重複観察の抑制につながるた め,逆に高い発見率へとつながった.この特性は, 限られた調査面積で対象種を発見することが求めら れるマイクロ生息場調査(Fiévet et al., 1996)におい て も 有 用 で あ ろ う. 一 方, タ モ 網 で は 発 見 率 が 0.097と低かった.ただし,放流個体数と発見個体 数との間に有意な相関が見られた(ケンドールの順 位相関係数;τ=0.331, p<0.01).そのため,十分な 調査面積が確保された場合には,相対的な生息量の 指標として有効である可能性が示された. 未成体の発見率と密度の間には,エビ玉網(発見 率:0.338)のみにおいて有意な回帰式が得られ (GLS; t=3.049, p<0.01), 相対的な個体数の指標と しては利用可能であることが示された.小型個体の 発見率が低い傾向は魚類やザリガニ類の目視調査に お い て も 示 さ れ て お り(例 え ば,Fulton et al., 2012), 小型個体の活性が高いことと,裏返す基準と したこぶし大より小さい石の間に隠れたことによる と考えられた. 成体の採集効率(CPUE, 動画で確認した個体も 便宜上採捕したとみなす)は,設定した密度の範囲 内において,動画法,エビ玉網,タモ網の順であっ た(図2).動画法とエビ玉網の切片,すなわち, エビがいない場合の推定CPUEに有意差は認められ なかった(GLS; t=0.472, p=0.655).動画法の調査 効率は3手法の中で最も高く,また,採集した標本 の処理も不要であることから,フィールドでの作業 時間短縮に役立つと考えられた. 体サイズ推定 日和佐川水系にて,ヒラテテナガエビとミナミテ ナガエビの雄・雌・未成体をそれぞれ10個体ずつ, 水中で動画撮影した.その後,ただちに採集し,種 や性の判別,全長計測を行った.後日,動画から種 や性の判別,5 mm刻みでの全長の推定を行い,比 較した.動画法による種と性の判別結果は,60個 体全てにおいて正しかった.淡水産エビ類の種同定 には,額角の歯数などの微細な形態形質が用いられ ることが多い.そのため,採集した個体を再放流す る場合,野外で長時間作業を行う必要が生じてい た.今回の結果から,体色や模様といった生時に見 られる形質(例えば,浜野ら,2000)が種の判別に 表1. テナガエビ類成体の採集個体数に影響を及 ぼす要因特定のためのGLSモデルの詳細. 係数 モデル 飽和 最良 切片† 動画‡ 0.087 -0.091 エビ玉網 0.181 0.181 タモ網 0.033 0.033 ヒラテテナガエビ -0.165 雄 -0.161 傾き(発見率) 放流個体数×動画‡ 0.903*** 0.955*** 放流個体数×エビ玉網 -0.088* -0.088 放流個体数×タモ網 -0.849*** -0.849*** 放流個体数 ×ヒラテテナガエビ 0.055 放流個体数×雄 0.048 対数尤度 -136.27 -133.68 AIC 294.5 281.4 ΔAIC 13.2 ― † : エビの密度0個体/m2での推定採集個体数 ‡ : 他の係数の基準(ミナミテナガエビのメス) ***: p<0.001, **: p<0.01, *: p<0.05 Saito et al.(2015)のTable 3を許可を得て一部改変の 上,転載.
有用であることが示された. 発見率と同様にGLSを用いたモデル選択を行っ たところ,全長の推定値に対する種や性の効果は示 されなかった.動画法での推定全長と実測値はほぼ 等しく,その誤差はおよそ5 mmであった(図3). ただし,大型個体ではやや推定精度が低くなってい た.ヒラテテナガエビやミナミテナガエビの年間成 長量は概ね15~20 mmであることから(平賀・山 中,2005),動画法では,これらエビ類の年級群の 判別が可能な精度が得られていると考えられた. まとめと課題 潜水動画法は,発見率と調査効率が高く,種や密 度によるバイアスが無いことから,テナガエビ類成 体の定量的調査法として有効であることが示され た.体サイズについても,年級群の識別が可能な精 度を有していた.したがって,本調査法により,対 象種を標本として持ち帰ることなく,定量的,かつ 再検証可能な形で個体群組成を調査できることが実 証された.機械学習による画像認識ができれば,動 画解析のさらなる省力化も可能であろう.ただし, 透視度の低い水域や塩分躍層が生じる汽水域では, 動画の映像が不鮮明となり,使用が困難である.ま た,人力で礫を動かせない渓流域では,夜間調査等 を検討する必要がある.これについては,ウェアラ ブルカメラの普及により実施が容易になりつつあ り,今後のさらなる発展が期待される. 潜水動画法使用にあたって 以下に,筆者らが潜水動画法にて調査を行う際に 経験的に行っている・認識していることを記す. フィールド調査の参考となれば,幸いである. 機 材 ・カメラマウントとアームのねじ留め箇所にばね座 金を挟むと,現地でのアーム角の調整が容易にな る ・L字型の定規の柄の長さは,40 cm程度あれば, テナガエビ類が逃げにくい.ヌマエビ類対象の場 合,25 cm程度でも問題ない ・L字型の定規の短尺には,チタン製丸棒に2 mm 刻みで目盛の入った“centipede”や百円ショップ で売られている角型の金属製定規も使える.ただ し,重心調整が必要 野外調査 ・浮き石を横から覗くと触角が見えることが多いの 図3. 潜水動画法でのテナガエビ類の推定全長と 実測全長の関係.Saito et al.(2015)のFig. 5 を許可を得て一部改変し,転載. 図2. テナガエビ類成体の密度と採集効率の関係. Saito et al.(2015)のFig. 4を許可を得て一部 改変し,転載.
テナガエビ類調査における水中動画の有効性 で(特にヒラテテナガエビ), まずはL字型の定規 を用いて下に隠れている個体を入口付近へと追い 立てる ・L字型の定規でエビを軽くつつくと(頭胸甲あた りや体軸に沿わせるのがおすすめ), 対象個体を撮 影しやすい場所へ誘導できる ・頭大以上の石の場合,ゆっくり動かせば,テナガ エビ類は遊泳せずに石の陰に入ろうとするので, 計測が容易になる ・浅瀬で逃げられた場合,カメラを動かさずにエビ が居た地点にL字型の定規をかざせば,画面上で 体サイズの推定が可能 ・水深がある場所(概ね50 cm以深)で逃げられた 場合,エビが停止するまでの遊泳経路を目視で確 認した上で追いかけ,定規を対象個体の近くに置 くことで,データの再取得が可能 ・対象個体が映ったか確証が持てない,あるいは体 側を映せなかった時には,事前に決めたハンドシ グナルにて種と性別を動画に記録すると,後の データ処理に役立つ 謝 辞 山口県農林水産部水産研究センター(当時)の畑 間俊弘博士には,甲殻類の採集方法についてご教示 いただきました.鹿児島大学の鈴木廣志先生には, 動画調査におけるテナガエビ類の種判別に関して, 有益なご助言を賜りました.徳島県美波町のみなさ まと徳島大学総合科学部の学生諸氏(当時)には, フィールド調査に便宜をはかり,ご協力いただきま した.本稿掲載にあたっては,太田悠造CANCER 編集委員長にお世話になりました.本研究の一部 は,河川環境管理財団から助成を受けました.厚く 御礼申し上げます. 文 献
Brewer, S. K., & Ellersieck, M. R., 2011. Evaluating two ob-servational sampling techniques for determining the distribution and detection probability of age-0 Small-mouth Bass in clear, warmwater streams. North Ameri-can Journal of Fisheries Management, 31: 894–904. Dorn, N. J., Urgelles, R., & Trexler, J. C., 2005. Evaluating
active and passive sampling methods to quantify cray-fish density in a freshwater wetland. Journal of the North American Benthological Society, 24: 346–356. Fièvet, E., Tito de Morais, L., & Tito de Morais, A., 1996.
Quantitative sampling of freshwater shrimps: compari-son of two electrofishing procedures in a Caribbean stream. Archiv für Hydrobiologie, 138: 273–287. Fulton, C. J., Starrs, D., Ruibal, M. P., & Ebner, B. C., 2012.
Counting crayfish: active searching and baited cameras trump conventional hoop netting in detecting Euastacus
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