修士論文(研究報告書)要旨
論文(報告書)タイトル: 「産業融合と企業の行動に関する研究」
学籍番号:AM18014
氏 名:ZHANG FENGLUYIN
指導教授:伊藤善夫教授
【論文(報告書)の構成】
はじめに 第1 章 問題意識,研究目的および研究アプローチの提示 第2 章 産業融合に関する先行研究 第3 章 事例研究 第4 章 評価モデルの提示 第5 章 実証結果 第6 章 考察 第7 章 今後の課題 おわりに 参考文献【論文(報告書)の内容】
1. 問題認識と研究目的 産業融合が新製品・サービスを生み出すことに寄与しているということはすでに明らかになっている (金,2015:p.65)。しかし,先行研究に関する産業融合と企業行動の関係についてはほとんど論じら れていないように見受けられる。そのため,本研究では,産業融合という意図を持つ日本企業を中心と して,研究開発においての事例を分析し,産業融合の意図が日本企業の研究開発の成果にどのような影 響を与えるのかを評価する。 2. 研究アプローチ まず,産業融合に関する先行研究及び日本企業の研究開発の現状を調査する。また,IT 産業における 融合の事例にもとづいて,産業融合の意図が何を意味しているのかを分析する。さらに,評価モデルを 構築し,評価モデルの構成概念を明確にした上で,観測変数を検討する。観測変数を測定するために, アンケート調査を,上場日本企業を対象に実施し,アンケート調査の結果に基づいて,集めたデータを 利用し,評価モデルを実証する。実証結果を検討した上で,考察する。 3. 産業融合に関する先行研究 「産業融合過程で日本企業の倒産や吸収合併などが発生する一方,日本企業の規模の拡大や事業範囲の 拡大,新規の財・サービスの開発など,大きなビジネス・チャンスも生まれる(植草,2000:p.35)。」と いうことが指摘されている。堀(2017:p.146)によれば,「産業融合は企業融合によって加速化される。 産業融合は,異分野統合による新企業を設立させることが多い。」と述べている。先行研究による産業融 合の説明によって,産業融合は異なる産業が融合し,日本企業が新製品やサービスを生み出し,イノベー ション創出も促進できると考えられる。また,ネット技術の融合により,多種多様な考え,思考が創発的 に結びつき,そこから新たな発想が生まれ,新規事業開発の可能性が高まると考えられている。 4. 事例研究 日本企業は産業融合意図の重要性を認識し,積極的に産業融合的な事業を展開している。また,デジタル化・ネットワーク化からAI・IoT による産業構造変化が可能になっている。そこで,産業融合の意 図を持つ,IT・IoT・AI を用いて異なる産業を融合する事例として,「資生堂」,「トヨタ」および「ダイ キン」を挙げ,それぞれの産業融合事業を説明し,三社が産業融合という意図を持つことによって,自社 の研究開発成果が高くなることを確認した。 5. 実証 本研究では,「日本企業の産業融合の意図が強くなるほど,研究開発の成果が高い」という評価モデル を設定した。2019 年 7 月時点で,日本上場企業のうち,過去 3 年間に,研究開発投資を計上している, 売上高上位2000 社を調査対象にするアンケートで回答データを収集し,共分散構造分析で分析するこ とにより評価モデルを実証した。評価モデルの 「産業融合の意図」という構成概念に関しては 「顧客ニーズの充足度」,「異業種への進出の意 図」,「異業種他社との製品開発連携意図」という 三つの観測変数を測定し,信頼性統計の結果は 0.743 であった。もう一つの「研究開発の成果」 という構成概念に関しては「過去5 年の新製品・ サービスの市場シェア」,「画期的な製品・サービ スが占める市場シェア」,「新規事業の売り上げ比 率」という三つの観測変数を測定し,信頼性統 計の結果は0.680 であった。二つの構成概念と もに,許容可能な0.5 という α 係数値を超えており,一定の信頼性があると考える。評価モデルの適合 度について,適合度検定有意確率は0.289 であり,GFI の計算結果は 0.924,AGFI は 0.8000,CFI は 0.968,RMSEA は 0.077 であった。AGFI 以外,有意確率,GFI,CFI, RMSEA の各指標は基準を充 足している。したがって,モデルの設定が妥当と判断できる。「産業融合の意図」と「研究開発の成果」 との間にどのような関係性が存在するのかを実証するために,構造係数を計算し,係数=0 とする帰無 仮説を5%の有意水準で棄却することができた。構造係数の推定値は 0.52 であり,「日本企業の産業融 合の意図が強くなるほど,研究開発の成果が高い」という評価モデルが実証された。 6. 考察と結論 本研究では,上海の資生堂中信化妆品有限公司を中心として事例を分析し,考察した。2019 年 8 月 28 日から 9 月 5 日まで,評価モデルを確認するために,中国において,フィールドワークを行い,資生 堂の研究開発の現状,将来の開発方向および異業種連携状況についての状況を調査した。調査の結果に より,産業融合の意図を持つ日本企業は日本国内だけではなく,海外においても積極的に産業融合を遂 行している。 本研究では,産業融合の背景や概念を提示し,日本企業の研究開発にとって産業融合の意図を持つ必 要性を明確にした。また,事例分析およびアンケート調査を行い,評価モデルの分析結果に基づき,日 本企業の産業融合の意図が日本企業の研究開発の成果にどのような影響を与えるかについて明らかに した。それらに基づいて,「日本企業の産業融合の意図が強くなるほど,研究開発の成果が高い」という 結論を導いた。