「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響 -物理分野の直落信念と MIF 素朴概念に関して-
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第57巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.57,No.2. 平成19年2月 February,2007. 「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響 一物理分野の直落信念とMIF素朴概念に関して−1. 吉野 巌・小山 道人 北海道教育大学教育学部札幌枚教育心理学第1研究室. TheEffectofAwarenessofOne’sNaiveConception OntheCorrectionofNaiveConception: Focusingonthe“Straight−down−belief’and“MIFConception. YOSHINO Iwao and KOYAMA Michito. DepartmentofEducationalPsychology,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 要 約 本研究は,複数の方法で自らの素朴概念に気づかせることにより(メタ認知的モニタリング),素朴概念 が修止され,止しい科学的概念が獲得されるかどうかを検証した.1つは,個々の具体的な素朴概念が心内 に形成される過程・根拠について,正しい科学的概念と共にビデオで学習させる(素朴概念形成メカニズム 学習群)方法であり,もう1つは,素朴概念という一般的な心理現象の存在をメタ認知的知識としてテキス トで教示する(素朴概念気づきテキスト教示群)方法である.大学生を,これら2群の他に対照群と統制群 の計4群に分け,直落信念(運動する物体から落下する物体は真下もしくは斜め後方に落ちる)とMIF素 朴概念(運動する物体には同じ方向に力がかかっている)に関連するテスト問題を学習の事前,直後,1週 間後(遅延)の3回行わせた.その結果,素朴概念形成メカニズム学習の単独の効果は直後テストではなかっ たものの遅延テストでは認められた.素朴概念気づきテキストの学習効果は全く見られなかった.. 素朴概念とは?. まずは図1の問題(McCloskey,etal.,1983). こに落ちるだろうか.図1の下に3つの選択肢が ある.走っている人(の頭)が×印の地点に来た. を考えてみてほしい.ある人が走っている途中で,. 時にボールが地面に落ちたとして,(a)のように手. 持っていたボールの手を離すと,そのボールはど. を離した地点より前方に落ちるか,(b)のように手. 1本研究は,小山道人の卒業論文(2003年度)を修正・加筆したものである.また,本研究の一部は日本教育心理学会第46会 総会(2004年)において発表した.. 165.
(3) 吉野. 巌・小山 道人. を離した地点の真下に落ちるか,(C)のように手を. する;直落信念」(McCloskey,etal.,1983),「運. 離した地点より後方に落ちるか,が選択肢である.. 動している物体には,それと同方向の力がかかっ. この間題を大学生に考えさせると,半数ぐらいの. ている;MIF概念(motionimpliesaforce)」. 人は(b)真下か(C)後方を選ぶ.しかし正解は,「慣. (Clement,1982)などの誤った素朴概念がよく. 性によってボールは前に進もうとするが同時に重. 知られている.これらは,子どもだけでなく大人. 力もかかるため,放物線を描きながら前方に落下. でももっているような強い素朴概念である.. する」(つまり(a))というものである.中学校な. 素朴概念はなぜ修正されにくいのか. どで慣性について学習していても,多くの大学生. 誤った素朴概念は,学校教育で正しい科学的概. は日常経験に基づく直感的な考え方をしてしまう. 念を学習しても容易には修正されないことが知ら. のである.. れている.実際,上述の直落信念に関して言うと,. 中学校理科で「慣性」を習った後でも,多くの人 は依然として「走行中の車からボールを落下させ. 二. たとき,そのボールが手を離した地点の真下もし くは後方に落ちる」と考えてしまうのである.も しくは,授業で習った直後であれば,こうした問. 題に対して正しく考えることができる場合も少な くない.しかし,授業終了後数ヶ月もしくは数年. 二_二三_ 解答のパターン. 図1.ボールの落下問題(McCloskey,etal.,1983). を経ると,授業で習った正しい科学的概念は忘れ 去られてしまったのか,再び素朴概念に基づく思 考に戻ってしまうのである. このように素朴概念が修正されにくい理由は,. いくつか考えられる.第1に,素朴概念それ自体 この例のように,学習者が自らの狭い経験から. が知識として非常に強力である場合が多いことで. 過度に一般化して作り上げた概念もしくはルール. ある.典型的な素朴概念は,日常生活の知覚・認. のことを素朴概念(naiveconception),誤概念,. 知的体験の中から徐々に形成されたものであり,. ル・バー(元)などと呼んでいる(細谷,2001. スキーマ(自らの経験によって構成される一般化. ;村山,1989;進藤,2002a).“素朴’’といって. された概念)の一種であると言える.日常体験の. いるのは,日常生活の中ではそれほど矛盾がなく. 中で長い時間をかけてゆっくりと心の中に形成さ. 一貫した概念知識である(場合によっては非常に. れるスキーマは,自身の中での信頼度が非常に高. 合理的でさえある)が,熟達者・専門家のもつ科. いため,それと矛盾する情報を適切に解釈できず,. 学的概念とは異なっており,多くの場合誤りを含. 容易には修正・破棄されることがない,という特. んでいるからである.素朴概念には,しばしば研. 徴がある.素朴概念に対する信頼度が非常に高い. 究対象となる物理学的概念(素朴物理学)や生物. 場合は,正しい科学的概念が無視されたり,例外. 学的概念(素朴生物学)の他にも,心理学的概念. として解釈されたり,素朴概念にあうように歪. (素朴心理学,心の理論)や数学的概念などが知. 曲・改ざんされたり(麻柄,1996),もしくは新. られている(数学に関する素朴概念については既. たな別の素朴概念が構成される,などのことが起. 報(吉野・川端・川村・長内,2005)に詳述した. きる.麻柄(1990)によると,「チューリップな. ので参照のこと).本研究では物理に関する素朴. ど球根を植える植物には種ができない」と思って. 概念を研究対象とするが,「物体は運動している. いる子どもに,チューリップのめしべのねもと(子. ものから落下した場合,真下もしくは後ろに落下. 房)をカッターで解剖させ,種子があることを確. 166.
(4) 「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響. 認させたが,何人かはそれが「たね」であること. 照合過程が生起しないまま科学的概念が受容され. をなかなか認めなかったばかりか,「これが茎の. ることに原因があると主張している.すなわち,. 中を降りていって球根になる」と発言した子ども. 教授者が生徒のもつ素朴概念を念頭におかずに科. もいたという.これはまさしく上記の好例と言え. 学的概念のみを教授すると,科学的概念と素朴概. る.素朴概念に対する信頼度がそれほど高くない. 念とがお互いに関連づけられることがないため,. 場合は,反例・反証を示したり実験で事実を確認. 生徒は両者が矛盾することに気づかないまま学習. させれば素朴概念が修正される可能性は高いが,. を進めてしまうことになるのである.. 素朴概念が強力である場合は修正されるとは限ら. 素朴概念の修正とメタ認知. ないのである.. 第2の理由は,授業等で正しい科学的概念が教. 以上のように考えると,素朴概念を修正するた めには,まず自らがもつ素朴概念に気づくことが. 授された後,素朴概念と科学的概念はお互い矛盾. 重要である.さらに,その素朴概念と正しい科学. するにも関わらず,それぞれ狐立に知識の中に併. 的概念を接続・照合させることによって,素朴概. 存してしまう,という状況が起きやすいことであ. 念と正しい科学的概念との間に矛盾があることに. る.例えば,中島(1995)は,子どもが地球の形. 気づき,「なぜ両者は矛盾するのか」,「新しい概. について「地面は平である」という知識と「地球. 念は今まで素朴概念で理解できていた事象をどの. は丸い」という相矛盾する知識を併存させている. ように説明できるのか」,「なぜ自分は素朴概念を. ことを指摘している.また,麻柄(1996)は大学. 身につけてしまったのか」という問題を解消して. 生を対象とした研究で,正しい知識(ピストンの断. いく必要がある.しかし実際は,学習者が自らの. 面積が同じであれば,かかる大気圧の力は同じ)を学習. 素朴概念に気づいてさえいなかったり,素朴概念. して取り入れても,その知識が誤った既有知識(=. の根拠を碇示するよう求めてもきちんと説明でき. 素朴概念:真空は物を引き寄せる)と相互交渉をもち. ない場合が多いのである.. えないと,正しい知識を用いて問題解決すること. このような状況では,自分自身の知識の状態や. ができないことを示している.また,進藤(2002a). 理解活動を正確に把握できていない,すなわちメ. は「力の分解」に関する問題を大学生に解かせる. タ認知的モニタリングが十分に機能していないこ. 実験を行い,「力の平行四辺形」を描けば問題を. とになる.メタ認知やメタ認知的モニタリングの. 解けるという正しい知識を持っている人でも,よ. 詳細については既報(吉野・篠原・吉田・高坂・. り日常的な問題状況(荷物を紐で持つ2人それぞれに. 工藤,2003)を参照していただきたいが,簡単に. かかる力,絵画を壁に取り付ける2本の紐それぞれにか. 説明すると,メタ認知的モニタリングとは自らの. かる力)では素朴概念を用いて問題を解いてしま. 認知状態をモニターし適切に機能しているかどう. う(1分力が分解前の力より大きくなることはない,分. かをチェックするメタ認知のはたらきである.メ. 解角度(2辺がなす角度)が大きくなっても分力は変わ. タ認知的モニタリングが十分に機能していれば,. らない,などと考える)傾向があることを見いだし. 我々は,素朴概念と矛盾するような科学的知識を. た.このように,2種類の相反する知識があたか. 与えられた時に,「既有知識との間に矛盾はない. も全く別の無関係な知識として同時に存在してし. か?」ということを絶えずチェックし,矛盾が生. まうと,学校の授業やテストなどの文脈では正し. じた場合には,なぜ矛盾が生じるのかについて理. い科学的知識を用いて考えることができるが,そ. 解し,既有知識を科学的知識の中に合理的に位置. の一方で,より日常的な文脈では素朴概念に基づ. づけようとするだろう.しかしながら,進藤. いた問題解決をしてしまう(中山,1998)という ことが起きる.このような状況に関して,進藤 (2002a)は,科学的概念と素朴概念間の接続・. (2002b)によると,素朴概念とは矛盾する科学 的概念を学習する際,通常の場合にもましてこの メタ認知的モニタリングが生起しにくい,すなわ. 167.
(5) 吉野. 巌・小山 道人. ち,素朴概念と科学的概念の間の矛盾に気づきに. せる方法である.麻柄(1990)の方法に類似して. くいのだという.彼は,その原因について以下の. いるとも言えるが,本研究では,個々の素朴概念. ように述べている.. がなぜ身につきやすいのかを地球上での環境条件 や日常的な経験場面と関連させて合理的に説明す. 学校教育でルール命題形式などにより明確な形で言語. る.例えば,直落信念については,「運動してい. 的に教授される知識と違って,素朴概念は日常の経験. る物体から落下する物体を見る時,人は運動して. から自生的に形成されたものである.このため,学習 者自らもそうした知識の保持自体に無自覚的であり,. いる物体に視点を合わせており,この移動する知. またルール命題で言語化できるような明確な知識の状. 覚的準拠枠の中で落下する物体を見る.すると,. 態にない場合があると思われる.すなわち,教授され. その知覚的準拠枠の中では,物体はまっすぐ落下. た内容に対応する既有知識をモニターする場合でもそ ういった知識の保持に無自覚的であれば,モニタリン グの過程は生起しにくいし,また,仮にモニタリング. するように見える」という錯視説(McCloskey et.al.,1983)によって説明を行う.この学習によ. を試みた場合でも,着目属性やその他(値域)につい. り素朴概念と科学的概念の接続・照合が促進され. て不明確な場合には,新旧の知識の照合過程は生起し. る,すなわち素朴概念の獲得過程が合理的に説明. にくいと考えられる.. されることによって,素朴概念が科学的概念の中 で再構成されることが期待される.この方法によ. このように,学習者がメタ認知的モニタリング を行うのが難しい場合には,教授者が外的にモニ タリング(他者モニタリング)を行うことによっ. る実験群を「素朴概念(NaiveConception)形成 メカニズム学習群(N群)」とする.. もう1つは,素朴概念という一般的な心理現象. て,学習者が素朴概念の存在に気づくようにし向. の存在をメタ認知的知識としてテキストで教示す. けてやる(メタ認知的支援という)必要がある.. る方法である(進藤(2002b)を参考にした).. 素朴概念のモニタリングを促進させる方略として. これにより,引き続く課題解決を行う時に「今の. は,素朴概念の根拠を科学的ルールに適切に位置. 自分の考え方は素朴で間違った知識に基づくもの. づける(麻柄,1990;例.チューリップにも種はでき. ではないか?」などのメタ認知的モニタリングが. るが,種の遺伝形質は親と同一ではなく,何色の花が咲. 促進されることが期待される.この方法による実. くかわからないのは観賞植物としては不都合だから球根. 験群を「素朴概念気づきテキスト群(T群)」と. を植える),科学的ルールの例外例を考えさせた上. した.. で(例.内角の和が1800にならないと思う三角形を描か. これら2つの方法の効果を検証するための対照. せる)それを検証させる(進藤,1993),科学的. 群として,素朴概念を一切学習せず科学概念のみ. 概念の教授前に素朴概念を用いて解くと考えられ. をビデオで学習する「科学概念(ScientificCon−. る問題解決を行わせる(進藤,1995),より日常. ception)学習群(S群)」,全く学習をしない統. 的な題材の中で科学(数学)的概念を教授する(高. 制群を加え,計4群とした.N群は素朴概念生成. 垣,2001)ことなどが効果的であるとされている.. メカニズムだけでなく科学概念も学習するので,. 本研究では,「素朴概念に気づかせる」ような働. S群と比較することによって,素朴概念形成メカ. きかけをより直接的に行うことで,素朴概念が修. ニズムの学習効果を検証できる.また,T群と統. 正されるかどうかを検証したい.. 制群とを比較することにより,素朴概念気づきテ. 本研究の目的と仮説. キストの効果を検証できる.さらに,N群とT群. 本研究では,「素朴概念への気づき」を実現す. を比較することにより,具体的な素朴概念の学習. るために2つの方法を用いる.1つは,個々の具. ではなく,一般的な素朴概念に関する知識を学習. 体的な素朴概念が心内に形成される過程と根拠に. するだけでも素朴概念の修正ができるかどうかも. ついて,正しい科学的概念と共にビデオで学習さ. 検討する.. 168.
(6) 「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響. 本実験では,まず学習前に事前テストを行って 4群の等質性を確認した上で,学習の直後に直後 テストを行う.ただし,学習直後は素朴概念が修. 正されたように見えても,時間がたつと素朴概念 に基づいた考えが再びあらわれてくる可能性があ る.そこで,さらに学習の約一週間後に遅延テス. トを行い,学習直後の効果及び学習の一週間後の 効果を調べることとした. 本実験の仮説は次の2点である.. ① 素朴概念形成メカニズム学習群は科学概念 学習群に比べて直後テストの得点が高くな り,その得点差は遅延テストでより大きくな るだろう.. ② 素朴概念気づきテキスト群は統制群に比べ. 図2.「物体にかかる力」問題の例.. て直後テストの得点が高くなるだろう.しか し,素朴概念形成メカニズム学習群に比べれ. る物体にどのような力がかかっているか(国中の. ば成績は低いだろう.. 太い矢印)を3つの選択肢から選ばせる問題であ る.. 方 法 対象者. 北海道教育大学札幌校の学生114名が,素朴概. (要素朴概念気づきテキスト(T群用).このテ. キストは,素朴概念という心理現象の一般的な存 在をメタ認知的知識として教示することによっ て,メタ認知的モニタリングを促進するためのも. 念形成メカニズム学習条件(N群:24名),科学. のである.具体的には,「強い風を送ると火は消. 概念学習条件(S群:24名),素朴概念気づきテ. える」という素朴概念を例示し,人は日常経験を. キスト教示条件(T群:35名),統制群(31名),. 過剰に一般化したり特殊化して誤りを含む概念を. の1要因4条件の実験に参加した.. もつこと,その修正は困難であり,自らのもつ概. 材 料. 念が誤りであることに気づく必要があること,な. ①テスト課題(事前テスト,直後テスト,遅延 テスト).「放物運動」に関する問題10間と「物体 にかかる力」に関する問題10間の計20間であり,. どを説明した文章である(全文はAppendixl 参照). (卦学習ビデオ(S群用).放物運動と物体にか. 全て3択とした.事前テスト 直後テスト 遅延. かる力について,正しい科学的概念を教授するビ. テスト(1週間後)のいずれも全く同じ問題であ. デオである.第2著者が黒板での図解や映像に. る.出題順序により学習が転移しないように正答. よって講義を行うもので,4分30秒の長さである.. 率の低い順で構成された.「放物運動」問題は,. 「放物運動」に関しては,人が走りながら携帯電. 図1の問題のように運動している物体から別の物. 話を落とす映像(固定カメラで撮影)を,スロー. 体を切り離して落下させたり,運動している物体. 及び軌跡の明示をして再生することにより,携帯. に別の力を加えることによって,その運動軌跡が. 電話が手を離した位置よりも前方に落下すること. どうなるかを3つの選択肢から選ばせる問題であ. を確認させる(図3).また,空気抵抗が強くか. る.全て,放物線を描く軌跡が正答である.「物. かる例として「人が走りながら紙くずを落とす映. 体にかかる力」問題は,図2のように運動してい. 像」(固定カメラで撮影)を軌跡を明示して提示し,. 169.
(7) 吉野. 巌・小山 道人. 跡を明示して提示し,移動する視野内では空気抵 抗によって物体が相対的に後ろに落ちるように見 える(錯覚)ことを確認させる.この説明によっ. i▼l. 口 .⊂l.∴. ロ □. 、 ̄. 雷≡妄二 三. て,物体が後ろに落ちると考えてしまうような素 朴概念の形成メカニズムを理解させるわけであ る.. 図3.固定カメラ撮影による携帯電話落下の軌跡.. 空気抵抗がかかるために携帯電話に比べれば後方 であるが手を離した地点よりは前方に落下するこ とを確認させる.. 「物体にかかる力」に関しては,ボールが斜面 →水平面を転がり空中へ投げ出される映像を, ボールにかかる力をベクトル表示したものを画面 上に合成してスロー再生することにより,斜面と 水平面では重力と垂直抗力,空中では重力のみが かかっていることを確認させる.. (動学習ビデオ(N群用).S群用ビデオと同じ. 図4.“追跡カメデ’撮影による携帯電話落下の軌跡.. 左は携帯電話が落ち始めた瞬間(カメラのほぼ 正面),右は地面に落ちた瞬間(カメラの斜め右 方向).. 内容に加え,典型的な素朴概念がどのように心内 に形成されるかを解説する内容である.放物運動. 「物体にかかる力」に関しては「慣性」と「慣. に関しては錯覚説(知覚的参照枠としての視点も. 性力」の区別が難しいことがMIF素朴概念の形. 動くため直落しているように見える)に基づいた. 成の原因であることを指摘し,ボールの進行方向. 解説を行った.すなわち,普段,運動している物. に実際には力がかかっていないことを示す.さら. 体を目で追うのと同じように,カメラを三脚上で. に,机の上で物体を押す映像に,かかっている力. 回転させて運動物体を追跡するような映像を提示. ■. した.図3と同じ「携帯電話を落とす場面」をこ のような“追跡カメデ’で撮影し,携帯電話が落. ちる時の軌跡を映像中で白点で表示した.図4の 左側は携帯電話が落ち始めた瞬間であり,カメラ のほぼ正面時の画像である.一方,右側は携帯電. 話が地面に落ちた瞬間であり,カメラがある程度 右側に回転した時点での画像である.このような 「移動する視野」の中では,携帯電話がほぼ直落 するように見える(錯覚)ことを確認させる.こ. 図5.物体にかかる力のベクトル表示.矢印は,重力,. の説明によって,我々が直落信念を身につけてし. 抗力,摩擦力,押す力を示す.摩擦力の大きい 状況では,物体を押している間は物体は動くが (逆向きの摩擦力がかかることはあまり意識さ れない),押すのをやめると物体は止まってしま. まうメカニズムを理解させるわけである.また,. 空気抵抗が強くかかる例として,「紙くずを落と す場面」をやはり追跡カメラで撮影したものを軌. 170. う.. 「.
(8) 「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響. をベクトル表示したものを合成し,「地球上では 必ず摩擦力が発生するため,進行方向に力がか. 表2.「物体にかかる力」問題の各テスト平均点と SD(括弧内). 事前テスト 直後テスト 遅延テスト. かっている(力を加えなければ物体は動かない) と思いこんでしまう」ことを解説する(図5).. N群 2.50(1.50) 8.55(1.82) 8.35(2.39) S群 2.32(1.11) 7.84(2.46) 6.05(2.80). 手続き 全ての群の被験者は,まず事前テスト(20間). T群 2.68(1.70) 2.18(1.18) 2.32(1.25). を行った.続いてN群とS群は学習ビデオを視聴. 統制群 2.54(1.53) 2.33(0.92) 2.13(0.99). し,T群は素朴概念気づきテキストを読んだ(統 制群は何も行わない).次に,各群とも直後テス. 事前テストの平均点は,「放物運動」問題では2.6. ト(事前テストと同じ20間)を行った.また,全. 点,「物体にかかる力」問題では2.5点と非常に低. 員がこの1週間後に全く同じ問題からなる遅延テ. く,この時点でほとんどの被験者が素朴概念を有. ストを行った.なお,1週間後の遅延テストを受. していると言える.. けるまでは,問題の解答を人に聞いたり,自分で 調べたりしないように注意した.. 「放物運動」問題. 次に,「放物運動」の直後テストと遅延テスト の結果について述べる.各テストの各群ごとの平. 結 果. 均点は表1に示した通りであるが,それをグラフ 化したのが図6である.N群とS群については,. とし,「放物運動」問題,「物体にかかる力」問題. ストの正答率が8割以上の者(N群:4名,S群 念の非保有者として分析から除外した.この結果,. 囁■単計. :5名,T群:13名,統制群:7名)は,素朴概. ︵東沖山H︶. ともに各10点満点で採点した.その上で,事前テ. 分析に用いた各群の人数は,N群:20名,S群: 19名,T群:22名,統制群:24名となった. 「放物運動」問題,「物体にかかる力」問題の 各群の平均点を表1,表2に示す.4群の等質性 を確認するため,各群の事前テストの平均得点に. 21090076543つ′■’−0. テスト(事前,直後,遅延)の得点は1間1点. 事前テスト 直後テスト 遅延テスト. 図6.「放物運動」問題の事前/直後/遅延テストの平 均点. ついて1要因の分散分析を行った.その結果,「放. しても,「物体にかかる力」問題(ダ(3,84)=0.20,. 表1.「放物運動」問題の各テスト平均点とSD(括 弧内). N群 2.75(2.02) 9.50(0.83) 8.70(2.60) S群 2.42(1.87) 9.11(0.88) 8.58(2.29) T群 2.50(2.26) 2.23(2.52) 2.41(2.82) 統制群 2.54(1.69) 2.50(2.47) 2.13(2.15). 4 ■3 2 1 0 1 Z ■. 事前テスト 直後テスト 遅延テスト. 平均占⋮の差. ♪>.10)に関しても有意な差は見られなかった.. 9 8 7 6 ■.ヽJ. 物運動」問題(ダ(3,84)=0.10,♪>.10)に関. 直後一事前. 遅延一事前. 図7.「放物運動」問題の直後・遅延テストと事前テ ストとの平均点の差. 171.
(9) 吉野. 巌・小山 道人. 直後テスト・遅延テストともに平均で8∼9点と. この間題の遅延テストではS群の成績の低下が目. 劇的に向上し,遅延テストでの成績低下もわずか. 立っている.一方,T群と統制群については,直. であるが,T群と統制群については,成績が事前. 後テスト遅延テスト共に成績が低いままである.. テストと全く変わらず低いままであることが見て 取れる.. 次に,事前テスト得点を規準とした「平均点の 差」(「直後一事前」と「遅延一事前」)を被験者. 事前テストの成績の高低に関係なく学習の効果. 毎に求め,群毎にその平均を求めた(図9).こ. を数値化するため,事前テスト得点を規準とする. の「平均点の差」に関して,群とテスト時期の2. 「平均点の差(=得点の伸び)」を算出した.す. 要因の分散分析を行った結果,群の主効果(ダ. なわち,各被験者毎に,「直後テスト得点から事. (3,81)=73.43,♪<.01),テスト時期の主効果(ダ. 前テストを引いた得点」(直後一事前)と「遅延. (1,81)=9.50,♪<.01),交互作用(ダ(3,81)=. テスト得点から事前テストを引いた得点」(遅延. 6.26,♪<.01)の全てが有意であった.群の主. 一事前)を求め,群毎にその平均を求めた(図7).. 効果についてtukeyの多重比較を行ったところ,. この「平均点の差」に関して,群とテスト時期の. N群・S群とT群・統制群の間に有意差が確認さ. 2要因の分散分析を行った.この結果,群の主効. れた(いずれも♪<.01).N群とS群の間には有. 果のみが有意であり(ダ(3,81)=73.15,♪<. 意差は認められなかった.テスト時期の主効果は,. .01),下位検定(tukeyの多重比較)においてN. 遅延テストの成績が直後テストに比べて有意に低. 群・S群とT群・統制群の間に有意差が確認され. 下したことを示している.交互作用に関しては,. た.図からわかるように,N群とS群はビデオ学. N群,T群,統制群の平均点の差が直後テストと. 習後に平均点が7点近く上昇し,1週間後でも成. 遅延テストでほとんど変化しないのに対し,S群. 績は変わらなかったのに対し,T群と統制群は成. では遅延テストで平均点の差(=成績の伸び)が. 績の伸びが全く見られなかった.なお,テスト時. 低くなったことを示していると言える. 9. 期(直後or遅延)の主効果は有意ではなかった(ダ. 凸0. (1,81)=2.60,♪>.10).テスト時期×群の交互 作用は有意ではなかった(ダ(3,81)=0.77,♪>. 「放物運動」問題と同様に,表2の各群の平均. テスト得点を図8にグラフ化した.放物運動問題 と同様に,N群とS群の得点が直後テストと遅延 テストで劇的に向上したことがわかる.ただし,. ︵感知由︶明君計. 2109凸07■6﹁⊃43210. 直後一事前. 遅延一事前. 図9.「物体にかかる力」問題の直後・遅延テストと 事前テストとの平均点の差. 考 察 本研究では,大きく2つの方法で「素朴概念へ 事前テスト 直後テスト 遅延テスト. 図8.「物体にかかる力」問題の事前/直後/遅延テス. トの平均点. 172. 7■ 6 5 4 3 2 1 0 1 2 ■■. 「物体にかかる力」問題. 平均点の差. .10).. の気づき」を促進させることにより,素朴概念の 修正効果が見られるかどうかを検討した.第1の 方法として,素朴概念気づきテキストを提示する.
(10) 「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響. 群(T群)を設けたが,この群では予想に反して. きな効果があったと言えるだろう.. テキストによる効果が全く見られなかった.この. 一方,「物体にかかる力」問題では「個々の具. テキストは,一般的な素朴概念の存在を教示する. 体的な素朴概念への気づき」の効果が若干見られ. ことにより,自分自身の素朴概念(本実験の場合. た.まず,直後テストでは科学概念を学習するこ. は,直落信念とMTF概念)のモニタリングを促. とのみによる効果が非常に大きく,両群間に有意. 進させようとするものであった.しかし,結果か. 差は認められなかった.しかし,遅延テストでは. ら考えると,そうした一般的な情報を提示するこ. 交互作用が認められたことからも明らかなよう. とによって「自分は何らかの素朴概念を持ってい. に,N群の成績は全く低下しなかったのに対し,. るかもしれない」という一般的可能性については. S群の成績は有意に低下した.S群では学習の効. 漠然と知り得ても,個々の素朴概念の存在に気づ. 果が0になってしまったわけではないが,長続き. くことにはつながらない,ましてや素朴概念の修. しなかったことになる.. 正などほど遠いということがわかる.J.T.ブルー. このように,N群とS群では,学習ビデオが大. アー(1993)によれば,領域固有の知識と技能は. 幅な成績の改善をもたらし,1週間後でもその効. 学習に大きく影響するが,一般的な方略を教えら. 果は減退しなかった.S群が「放物運動」問題で. れたとしても,学習にはほとんど影響しないとい. N群同様に高成績だったのは,映像上に現れた放. う.このように,知識というものが結局は領域固. 物運動の軌跡それ自体に大きなインパクトがあ. 有的な制約を大きく受けていることを考えると,. り,素朴概念を否定するための反例として十分. T群に提示した素朴概念気づきテキストの効果が. だったということなのかもしれない.一方「物体. 認められなかったことは当然と言えるかもしれな. にかかる力」問題では,放物運動の軌跡とは異な. い.個々の素朴概念を修正するには,やはりそれ. り,「力」を直接視覚化できないために映像にそ. ぞれの領域の文脈の中で考えていく必要があるだ. れほど大きなインパクトがあるわけではなかっ. ろう.. た.そのことがS群の遅延テストでの成績低下を. 第2の方法は,個々の具体的な素朴概念が心内. 引き起こしたのではないだろうか.N群では,我々. に形成される過程と根拠について,止しい科学的. 人間が「運動している物体にはそれと同方向の力. 概念と共にビデオで学習させる方法であった.す. がかかっている」と考えてしまう傾向があること,. なわち,素朴概念気づきテキストのように一般的. そう考えてしまう合理的な理由を提示したことで. な素朴概念の存在を示唆するのではなく,個々の. (素朴概念が形成された根拠・プロセスの説明),. 具体的な素朴概念に気づかせた上で素朴概念と科. 科学概念と素朴概念の接続・照合がうまく行われ. 学的概念とを接続・照合させることを狙ったもの. たと考えられる.その結果,1週間後でも正しい. である.この「個々の具体的な素朴概念への気づ. 科学概念による判断が可能となったのであろう.. き」の純粋な効果を,素朴概念形成メカニズム群 (N群)と科学概念学習群(S群:科学的概念の. 以上をまとめると,本研究では,一般的な素朴. 概念の存在を示唆するだけでは自らの知識が素朴. みを学習する)との比較によって検証した.その. 概念かどうか疑うようなメタ認知的モニタリング. 結果,「放物運動」問題では,直後テスト・遅延. の機能を促進させることにはつながらないこと,. テストともN群とS群の間に有意差はなく,「個々. 素朴概念が形成される根拠や過程の説明を科学的. の具体的な素朴概念への気づき」の効果は見られ. 概念と一緒に提示すると,素朴概念の修正にある. なかった.両群とも学習後の成績上昇が同程度に. 程度は有効であることが示唆された.ただし前者. 大きく,また1週間後の遅延テストでもほとんど. に関しては,モニタリングは促進したが個々の素. 成績が落ちなかったことから,放物運動に関して. 朴概念への信頼度が強すぎたために素朴概念を修. は,科学概念の学習だけでも素朴概念の修正に大. 正するまでには至らなかった,という可能性も残. 173.
(11) 吉野. されている.後者に関しては,素朴概念形成メカ. 巌・小山 道人. ただし,そうした説明を与えるかどうか以前の. ニズムの説明を受けることによって,自分がもっ. 問題として,授業では正しい科学的概念のみを教. ている素朴概念に明確に気づくことに加え,なぜ. 授するのではなく,素朴概念を意識し,素朴概念. そのような知識を身につけてしまったのか(反省. と科学的概念とが接続・照合するような授業を行. 的モニタリング),既有知識の中のどの部分を修. うべきであることは言うまでもない.例えば,教. 正すれば正しい科学的知識となりえるのか(素朴. 授者は単元の冒頭で,生徒がどのような既有知識. 概念と科学的概念の接続・照合)といった思考を. をもっているかを調査し,把握しておくべきであ. 促したと考えられる.また,人間の認識の性質と. る.また,そうした調査の結果を生徒にフィード. してそうした誤った知識を身につけたことは当然. バックすることによって,素朴概念に気づかせる. なのだという感覚をもつことによって,納得的に. ということも重要である.この間題に関して,吉. 素朴概念を棄却する(進藤,2002a)ことを可能. 野・川端・川村・長内(2005)は,中学校の数学. にさせる側面もあると考えられる.. 領域における実践的研究において,素朴概念を. 本研究で明らかになった素朴概念形成メカニズ. フィードバックしたりメタ認知的支援を行うこと. ムの説明の効果については,課題領域によって異. が素朴概念の修正に一定の効果をもつことを明ら. なる結果が得られたので,今後は様々な課題領域. かにした.課題解決やそのフィードバックによっ. において追実験を行う必要性がある.特に,「物. て生徒がもっている素朴概念を意識化・言語化さ. 体にかかる力」のように,実際に視覚化すること. せたり,「なぜそう考えるのか」というメタ認知. ができない概念については,素朴概念形成メカニ. 的発間をすることによって生徒のモニタリングを. ズムの説明の効果が大きいことが期待されるの. 促進する,ということが重要である.こうしたメ. で,同様に視覚化が難しい「電流」領域などでの. タ認知的支援の教育実践における効果については. 研究は価値があるであろう.なお,素朴概念形成. 数学領域では研究されているが(例えば,加藤,. メカニズムを説明することによって,知識の状態. 1999),理科領域ではほとんどなく(仲島・吉野,. がどのように変容したか,素朴概念がどのように. 2006),今後の研究が望まれるところである.. 科学的概念の中で再構成されるのか,といった問 題については本研究からはわからない.今後は, 引用文献. 個人の知識の変容といったことにも注目した研究. Bruer,J.T.1993SchooIsjbrThought:AScienceof. が必要となってくるであろう.. 最後に,本研究結果の教育的応用について考察 する.本研究で用いた課題領域は,中学・物理の 「慣性の法則」や「物体にかかる力」といったも. のに関連しているので,中学理科授業にそのまま 応用できる可能性もある.しかし,本実験で用い. た,直落信念に対する. 「錯視説」による説明や. MIF概念に対する「摩擦がある状況では物を動 かすには常に力をかける必要がある場合が多い」. という説明を中学生が十分納得して理解できるか どうかについては,実際の中学生を対象にして検 証しなければわからない.中学生でもそうした説 明を理解できるのであれば,授業の中に取り入れ ることは十分意味のあることであろう.. 174. LearmngintheClassroom.Cambridge,MA:TheMIT Press.[松田文子・森敏昭(監訳)1997 授業が変わ る 認知心理学と教育実践が手を結ぶとき.北大路書 房.]. Clement,J.1982 Students’preconceptionsinintroduc− torymechanics.AmericanJournalofPhysics,50, 66−71.. 細谷純 2001教科学習の心理学.東北大学出版会. 加藤久恵1999 数学的問題解決におけるメタ認知の機 能とその育成に関する研究.広島大学大学院教育学研 究科博士論文(未公刊). 麻柄啓一1990 誤った知識の組み替えに関する一研究.. 教育心理学研究,38,455−461. 麻柄啓一1996 学習者の誤った知識はなぜ修正されに くいのか.教育心理学研究,44,379−388 McCloskey,M.,Washburn,A.,&Felch,L.1983Intui−.
(12) 「素朴概念への気づき」が素朴概念の修正に及ぼす影響. tivePhysics:Thestraight−downbeliefanditsorigin. ノ「眉r〃〟/「イエ津l・バJ〃r〃/(J/八.l・(、/川/rJ押.・ム・(げJJわJg‥1ム・ナナト. 進藤聡彦 2002a 素朴理論の修正ストラテジー.風間書 房. 進藤聡彦 2002b 知識の獲得に及ぼすメタ認知の役割一. 0町,α〃dCo卯オfわ〃,り,636−649.. 村山功1989 自然科学の理解.鈴木宏昭・鈴木高士・ 村山功・杉本卓(共著),教科理解の認知心理学,新曜. 既有知識のモニタリングと素朴概念の修正の関連から −.山梨大学教育人間科学部紀要,3(2),252−260.. 高垣マユミ 2001高さのプリコンセプションを変容さ. 社(第3章).. 仲島恵美・吉野巌 2006 素朴概念の修正におけるメタ 認知的支援の有効性−メタ認知的支援による素朴概念 の背景の意識化によって素朴概念は修正されるか−.. せる教授ストラテジーの研究.教育心理学研究,49, 274−284.. 吉野巌・川端健裕・川村麗衣・長内普子 2005 素朴概. 日本教育心理学会第48回総会発表論文集,243.. 念の修正におけるフィードバックとメタ認知的支援の. 中島伸子1995 「観察によって待た知識」と「科学的. 効果一中学校数学授業における実践的研究−.北海道. 情報から待た知識」をいかに関連づけるか一地球の形 の概念の場合−.教育心理学研究,43,113−124.. 中山迅1998 学校知と日常知の隔たり:素朴概念の問. 教育大学紀要(教育科学編),55(2),1−11.. 吉野巌・篠原宗弘・吉田典史・高坂康雅・工藤敏夫 2003 数学学習における「吹き出し法」のメタ認知的. 題.湯澤正通(編著),認知心理学から理科学習への提. 効果の検討.北海道教育大学紀要(教育科学編),54(1),. 言.北人路書房.. 13−23.. 進藤聴彦1993 適用範囲の縮小過剰型の元の修正方 略.教育心理学研究,41,135142. 進藤聡彦1995 誤法則を明確化する先行課題が法則の 修正に及ぼす効果.教育心理学研究,43,266−276.. (吉野 巌 札幌校助教授) (小山 道人 えりも町立えりも中学校). Appendixl素朴概念気づきテキスト 私たちは日常生活の経験から様々な科学知識を獲得しています.そして,日常生活の経験から獲得した科学 知識は私たちの心に強く刻まれています.なぜなら,それは私たちが子どもの頃から非常に長い時間をかけて 完成したものだからです.一旦,私たちの心に強く刻まれてしまうとその科学知識は容易に変化することはあ りません. それゆえ,日常生活の経験から獲得した科学知識には十分注意する必要があります.なぜなら,日常生活か ら獲得した科学知識が必ずしも正しいとは限らないからです.もし,錯覚や思い込みによって「誤った科学知識」 を獲得したとしても容易には修正できません. 残念ながら私たちは,私たち自身が持つ「誤った科学知識」の存在に気づいていません.これが日常生活で 獲得した「誤った科学知識」の修正を困難にする原因です.ゆえに,たとえ「正しい科学知識」を丸暗記した としても,私たちは長い時間をかけて築き卜げた「誤った科学知識」を優先してしまうのです. 例えば,このような例があります.ある子どもが,火力を上げようとしてふいごで風を送っている職人の様 子を見て言いました.「あんなことをしたら,火が消えてしまうのに」と.恐らく,その子どもは「ロウソクの 火を吹き消す」という経験を一般化して,「強い風を送れば,火が消える」という知識を作り上げていたのでしょ う.しかし,実際は「強い風を送れば,火は強くなる」のです.くすぶる木炭をうちわであおいだ経験があれ ば納得がいくでしょう.ロウソクに息を吹きかけて火が消えるというのは,ごく限られた特殊な条件での結果 であって,「強い風を送れば,火が消える」のは「誤った科学知識」なのです. もし「正しい科学知識」を獲得するのであれば,庄)自らの経験と照らし合わせて物事を判断することを一時 中断する.②私たちが「錯覚や思い込みによって獲得した科学知識」と「学校教育で学んだ科学知識」との矛 盾を明らかにする.③私たちが持っていた科学知識が「誤った科学知識」であったことに気づくことが必要な のです.. 175.
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