行為選択の分析枠組 : 欲求,価値,人間の行為選択
9
0
0
全文
(2) . . 平成 2年3月. 北海道教育大学紀要 (第1部C) 第4 0巻 第2号. Journalof Hokkaido University of]臥iucation(SectionIC)VOI .2 .40 ,No. ・. Mar ch ,1990. 行為選択の分析枠組 -- 欲求, 価値, 人間の行為選択 --. 大. 坪. 嘉. 昭. まず複雑な行為選択の分析枠組, それを部分的に表現するモデルを考えるための出発点として, 単純な反 応ないしは行動をとりあげ, その分析モデルを提示することにする. 第1にとりあげるのは, 反応ないしは行動がほとんど固定化していて, どのような反応ないしは 行動を行なうかを選択する余地がほとん どないようなケースである. その一例として, 梅干を口に 入れた場合の普通の人間の反応を考えてみよう. このケースにおいて は, その人間が通常の生理学 的状態であるならば唾液の分泌が昂進するという反応が生じる確率はほとんど1である. 逆に唾液 の 分泌が昂進しないという確率はほぼ0である. これを無条件反射モデルとして 定式化すると次の ようになる. P(R,ICo )キ1 P(R -Co )キ0 :Co (例. 梅干を口にいれた) 初期状況, R1(例. 唾液の昂進反応) 応: 反 , R2(例. 唾液の非昂進反応) ) は事後確率ない し条件付き確率と 呼ばれて いる 確率 で, 状況Co このモデルにおいてP(凡1Co が生起した場合に Rfが生起する確率を表わす. これは反応や行動が生理学的に固定しているよう ・なケースであるが, 外見上は同様なモデルで表 現できる行動として深い催眠中の暗示に従う行動や習慣 化した行動がある. 例えばある人間が深い 催眠状態において, 「目が醒めると, あなたは窓を開けたく なります」とか 「おしっ こに行き たくな ります」 という催眠暗示をかけられたとする. この場合も催眠から醒め た後でその人間が窓を開け る確率, ないしはお手洗いに行く確率はほとんど1である. 窓を開けた当人に 「なぜ窓を開けたの か」 と尋ねるなら 「部屋が暑いから」 などといった答えがかえってくる. 当人は実際にそう思って いるとしても,部屋が暑くなくとも暗示に従って窓を開けた であろうことにかわりはないの である. 習慣化された行動の場合もほぼ同様なモデルで表現することができる. ただしそのようなモデルは 催眠の結果や習慣化の結果を表現するモデルであり, 催眠のメカニズムや習慣化の過程を説明する モデルたりえないということは言うまでもない. これらの固定された反応, ないしは行動に対して, ある 人間が飲料水を飲むか, 飲まないか の行. .・. . ● . ●. ●.・ 1・ . . ・..●. ● ● ● . ・ ● ●. ● ,.・ ● .‐ ●.●. ●● ’ ・1 .} . ・ ・・・ . ・‘’ . 」●●’ ●.● .・ .. 1. 予備的考察.
(3) . 大 坪 嘉 昭. 動選択の場合は, その人間がどの程度喉がかわいた状態にあるのかを考慮に 入れるこ とが必要に な ってくる. すなわち無条件反射モデルや暗示効果 モデルではほとん ど無視してもよかっ た欲求の 強さ (欲求が充足されていない程度) を考慮することが必要になってくる. 事後確率表現を使って これを欲求充足モデルとして定式化すると次のように なる. ( 1 ) 欲求がより強いならばそれを満たす行動B,が起きる確率は欲求が弱い場合以上になる. IF(N, 〉 N2 ) .. THEN. P(B,IC0 ( N, )≧P(B,rCon N). 2 ( ) 欲求の強さ (すなわち欲求が充足されない程度) がある程度 (N) を越えるとその欲求を満 たそうとする行動が生じる確率は1に近く なる.( 1 )の THEN 以下の比較式で”〉“でなく”≧” と し た の は こ の こ と に よ る. IF(N≧N ) THEN P(B,ICo ( N)キ I. CO :初期状況 (例 飲料水がある) . N, N. , N2 , N :欲求の強さ, 欲求の充足されていない程度(例. 喉が渇いて声が出にく いほ どである, 水を飲み過 ぎゲッ プがでそう…) . B,:欲求を充足する行動 (例. 水を飲む) このように欲求が満たされているか どうかによ って人間の行動選択を説明することは単純, 明快 なモデルなので, 人間のさま ざまな行動の動因として人間が生得的に有している欲求, すなわち本 能を考え, その本能を充足する行動として人間の行動を説明するモデルが古い心理学 では栄えた. 例えば心理学の先駆者の一人であるとされて いる W.ジェームズは噛む, 嘗める, 握る, 模倣,敵対, ) また W マク ドゥ 同情など4 0余りもの本能をあげ,それによ って人間の行動を説明しよ うとした1 . . ガルは, 闘争本能, 拒否本能, 好奇本能, 怒り本能, 自己卑下本能, 自己主張本能, 集合本能, 製 } 作本能などをあげ, それによ って人間の行動を説明しようとした2 . 人間の行動を本能によ って 説明 しようとするいわゆる本能心理学はやがて本能心理学があげてい る様々 な本能が必ず しも人間に生まれつき備わっているものではないということ, その多くは後天 )を前にして後退を余儀なくされた 的に習得されるもの であることを示す数々のデータ3 . そのような難点を解消しようとして心理学において次の二つの試みが行われてきた. その第一は 欲求を生理的欲求, 第一次欲求からより高次な欲求, 文化的欲求にわたるものとして階層化して分 類する数々の試みである. すなわち人間の欲求を飢えや渇きをいやす欲求, 休息.睡眠欲求のよう に どんな人間 (動物) にも共通してみられる欲求, 性欲や母性愛のように生理的土台に基づきなが らも後天的・文化的な要因にも影響されているような欲求, 尊敬・自尊心のように高次な欲求など } 第二は高次な欲求が下位の欲求 生理学的欲求からいかにして派生 に分類する数々の試み である4 , . するのかを説明する試みである. その説明手段として使われたのがパブロフの古典的条件反射モデ ) ルやオペラ ント条件付けモデルであった5 . 欲求を第一次的 ・原初的欲求から高次な欲求へと分類し, 高次な欲求が低次な欲求からいかに派 生す るのかを説明しようとする試みを通じて, 次のようなことが徐々に明らかになってきた. 第一は人間の欲求を生理学的欲求に根 ざす欲求とそれから派生する欲求としてとらえるだけでは.
(4) . . 不十分であり, 文化を学習し創造していく過程を通じて欲求が形成されていく 側面の理解がそれに 劣らず重要であるということである. 第二は現実に人間がいだいている具体的な欲求の大部分は, これは生理学的欲求, これは文 化的欲求といったように, 生理学的欲求と文化的欲求のいずれか一 ) 方に分類できるようなものではないということである6 . このように欲求をとらえ直すことを前提とするならば先に提示した欲求充足モデルは人間の行為 選択のモデルとして十分に適切なモデルであるといえるのであろうか. すなわち欲求を自明なもの とは考えず, 欲求それ自身を人間の生理学的 土台と文化との関わりにおいて説明した上で, そのよ うな欲求を充足する過程として行為 選択をとらえることは適切 であると言えるのだろうか. 否であ る, と結論を先に述べた上 で, その所以を明らかにし, 人間の行為選択を分析するにふさわしいと らえかたを探求するための2章に移ることにする.・. 2. 欲求, 価値, 人間の行為選択 倫理学や精神分析学と同様に社会学においても, しばしば欲求は文化と対立するものとしてとら えられてきた. また価値を文化的理想と密接に関わる概念としてとらえ, 価値を欲求と対立する概 念とみなしてきた. 例えば作田啓一は価値体現的意味を有する客体 (望ましいもの) と欲求充足的 意味を有する客体 (ほしいもの) を区別するにあたり, まず次のように欲求と文化の対立関係を説 く.「われわれがしばしば経験するとおり, 文化の様式に従うと, 特定の場所と時間においては, 有 機体にねざす欲求のたちどころの充足を断念しなければならない. たとえば食事や睡眠の欲求が毎 日のスケジュ ールによ って充足の時間を区切られているように. こう して文化と欲求は対立する. 7 ) あるいは欲求は文化の制限をとお して充足される.」 そして価値もまた欲求充足の否定・犠性との関連のもとでのみ, その意味が明らかになると説く. 「複数の欲求が競争し 選択が行なわれ [ある欲求の] 犠性の上で何らかの客体が追求される時, , , その時にはじめてこの客体は価値をもつ. (中略) . 食物や衣服を得るために, 労働が行なわれると 8 }([ ] 内は本稿筆者の補足) しよう. 労働は休息の欲求を否定する.」 このような記 述に対して労働によ って得られる食物や衣服の価値は休息欲求の犠性との関連だけ でなく, 食欲や体温維持欲求, 美に関わる欲求との関連でも理解 できるの ではないかとの 思いが湧 いてくる. しかし作田は, 微妙な表現ながらも, 基本的にはそれを否定する. 「価値は欲求との連関 なしには正しくとらえることはできない. この連関を抜きにすると, 価値は超経験的, 神秘的な客 体となってしまう. しかし, 価値をポジティ ヴな欲求充足的な意味に限定してしまうと, それは欲 求の対象ということにとどまってしまう. その場合には, 価値という特別の用語を使用する必要は ほとんどなくなる. 価値は欲求の充足との関連においてとらえる必要があるが, それにもかかわら ず, 否定された欲求, 犠性になった欲求との結びつきによ ってのみ, 分析的用語としての独自な意 } 味を も つ.」9. 作田の価値論 (これは 『貨幣の哲学』 における G.ジンメルに負うところの多い価値論である) が 以上のようなものにとどまるならば, ある行為を選択するということは, 選択しなか ったそれ以外 の行為によ って享受することができたであろう欲求充足の断念でもあるという, う っかりして見過 ごされることがあるかもしれない行為選択の-側面を指摘する主張にとどまる. そのような 主張に は平凡な意義程度しか見いだしえない. 行為選択の犠性, 断念の側面, 言い換えればコストの側面 は先述した欲求充足モデルを少々 手直しすればとらえことが可能であるし, 犠性になっ た欲求充足. ● ● ● . ・ ● r . ● ● 、 .・ . ・ L ● .・ 1.●. 行為選択の分析枠組.
(5) . 大 坪 嘉. 昭. だけでなく, 選択された行為にともなう欲求充足と関連 付けて行為選択を理解することにも十分な 意義がある. もちろん, 作田の論は以上のような論にと どまっ ているわけ ではない. 作田は 「価値を形成する o }と指摘した上で 選択がいかな のは選択過程であって,犠性はこの過程の 一つの顕現にす ぎない.」l , る シ ス テ ム ・ レ フ ァ レ ン ス の も と で汗千な わ れ る の か を 問 う.. 「社会学や文化人類学の価値の概念においても 選択から価値が生ずるとみなす見解が有力であっ , て, シ ス テ ム・レ フ ァ レ ン ス が 問 題 に な っ て く る. た だ そ こ では 目 的 - 手 段 の 体 系 だ け が 問 題 に な っ. ているわけ ではない. ここで問題になっているのは, むしろす でに述べた論理的一貫性ないしは意 味の一貫性と呼ばれる [文化体系に由 来する] システム である. [中略] ジンメルは 『貨幣の哲学』 の中では, 二つの 体系の差異の側面に焦点をおかないで, 両体系に共通する犠性もしくは排除の側 面に焦点をおいた. しかし彼は別のところ で 〈目的-手段〉 体系とは区別された く 貫性〉 体系す 1 1 )([ ] 内は本稿筆者の補足) なわち文化体系のもつ 「統一」 の内容を明確にとらえている.」 作田が引用 しているのはジンメ ルの 『芸術の哲学』 からの次のような一節 である. 「断片的な孤立 した感覚から理解可能 な関連した世界像を形成していくことが認識の本質であるように, また, 連 関のない, あるいは孤立した諸関心を和解させながら統 一することが道徳の責務 であるように, 互 いに別な方向に向か っているもろもろの印象, 観念, 刺激の充満の中に統一を発 見し, あるいは創 1 1 ) 造することが, 美的な満足の究極的な動機の 一つ である.」 作田の価値論の意義は人間の行為選択 をシステムと関わる過程としてとらえ, システムとの関わ 2 ) りの中で価値をとらえて いるところにある1 . 人間は時には一時的な衝動に駆られて非合 理的な行動に走ることもあるが, 自己が位置する現在 の状況を認識し, その状況においてある行為を選択することがどのような結果をもたらすのかを予 測し, さらにそれらの予測される結果を自 己のより遠い目的や, 文化体系との関連 (緊張関係も含 む) で評価 できる存在である. ある状況においてある欲求が充足される可能性がほとん どないと行 為者が認識するならば, その欲求がいかに強いものであったとしても, それを充足しようとする行 為が選択される確率はほとんど0であろう. どんなにある異性が好きであ ったとしても, 受け入れ られる可能性が0であるならば, 求婚をさ し控えるのが普通である. すなわち, 欲求の強さはただ ちに行為の選択につながるとは限らないの である. またある行為の選択結果が欲求を満足させると判 断しても, それが倫理的要請に反するならば, ・るのが人間 である 欲求充足モデルは人間以外の動物の行動を その行為を選択することを断 念でき . 説明するには, あるいは, 人間と他の動物とに共通する行動の側面を説明するにはそれなりの有効 性があるかもしれない. けれども知的・社会的存在でもある人間の行動選択を説明するモデルとし ては不十分す ぎる. このような筆者の考えからすれば, 作田の価値論は十分な意義を有している. しかし, 難点もあ る.. その一つは く目的-手段〉 体系と意味の 〈一貫性〉 の体系の区別を強調するあまり, その関連が 見失われがちであるということ である. ある目的に照らして如何なる手段が有効 であるのかを判断 するためには, 行為選択が行なわれる状況を できるだけ正しく認識することが必要である. この認 識は文化体系と深く関わる過程である. また行為選択が目的-手段の体系との関わりで行なわれる もの であっ たとしても, その行為選択を十分理解するためには行為者の目的が文化体系といかに関 わっているのかの 理解も必要である. 第二. 作田は確かに体系一般との関連における広義の価値もとらえている が, そのような価値の.
(6) . . 一般的なとらえかたよりは, 一貫性の体系, 文化体系との関kわりにおいて生ずる価値に限定する方 を選択している. そのような限定は作田の研究関心には適合しているのかもしれない. しかしなが ら く目的-手段〉 の体系との関連においても行為選択をとらえることの重要性を考えるならば, そ. 第三. 作田は価値と欲求を対立的にとらえがち であるがその根拠づけに十分な説得力はない. 先 に見たように, 作田は次のように述べていた.「価値は欲求の充足との連関においてとらえる必要が あるが, それにもかかわらず, 否定された欲求, 犠性になっ た欲求との結びつきによってのみ, 分 1 3 ) 析的用語としての独自な意味を持つ.」 確かに価値を欲求を充足する対象ないしは対象の欲求充足的特性などといった意味に限定するな らば, 欲求充足に加えてわざわざ価値という概 念を使う必要はない. けれども, そのことから 「否 定された欲求, 犠性になっ た欲求との結びつきによ ってのみ, 分析用語としての独自な意義を持つ」 ということを導くことは適切 ではない. ・のような 人間は行為を選択することを通じて ある欲求充足を選 び, 別な欲求充足を断念する. そ 選択, 欲求の充足, 断念がなんらかのシステムとの関連, 緊張関係において行なわれているという ことをとらえるためには欲求充足という用語だけでは不十分 であるというところにこそ価値という 用語を使用する必要性が存するのである. 人間の欲求が盲目的なもの でなく, 状況や因果関係の認 識, 美に対するあこ がれ, 崇高さに対する畏敬と希求を伴うところに価値は生じる. あるいは文化 に飼い慣らされてい ない欲求, 時代に先駆けた洞察を行なう頭脳に生じた欲求が文化体系と対立・ 葛藤する中で価値は生じる. 価値は実体的な概念ではない. 行為選択を通じての欲求の充足や断念 などが目的-手段体系,文化体系との何らかの関わりにおいてなされているととらえるならば,我々 はその過程を価値を期 待してなされる行為選択の過程として分析することができる. imp l i i t )を備 c s そのような人間の行為選択の過程を適切にとらえ, しかもよい意味での簡潔性( y えたモデルを提示するこ とは困難である. けれども不完全さを恥じて何も提示しないよりは, 不完 全なモデルであっても提示した方がベターであるということから提示するのが, 次章の主観的価値 期待値評定モデルである. 不完全ではあるが, 人間の行為選択を表現するモデルとして’ 少なくと も欲求充足モデルよりははるかに有効であろう. 定性的記述の補助として ブラックボッ クス的な定 式化も行なうが, 副作用として強引さが生じることを自覚した上での定式化である.. 3. 主観的価値期待値評定モデル 行為が選択されるに際して行為者がおかれた環境を構成する諸客体のうち行為選択に何らかの関 わりを有する客体の集合を状況とよぶ. この状況は行為の選択・実行結果にともなって変化するこ とがあるが, 行為が実行される直前, 行為者がいかなる行為を選 択するかの判断が進行中の状況を 初期状況とよび, これを Coで表わすことにする. その初期状況 Coにおいて行為者が行為 A, , A2 よりなる行為の選択肢から行為選択を行なうケ←スについて考えることにする. わかりやすさとい う便宜のために行為の選択肢が二つの行為からなるケー スに焦 点をあてるが, 一般化して行為の選 択肢が A,から Akの K 個からなる場合に拡充することは容易 である. このようなケースにおいて, 行為選択を左右するものとしてあげられるのは次の三つである. その第一は, 行為 Afを選択した場合にいかなる結果がいかなる確率 で生起すると行為者が考え. ’. . ●, .● . . . ●,. ・. して 〈目的-手段〉 の体系と意味の く一貫性〉 の体系との関連を考えるならば, 作田のように価値 概念を狭義の価値に限定する道を選ぶことは貧しさにつながるように思われる.. . ●● ●.● . ●. ,. ●. ・ ●. 行為選択の分析枠組.
(7) . 大 坪 嘉 昭. ているのか, その主観的な確率 である. ある行為を選択した場合に生じるかもしれないと行為者が 考える結果は一つ であるとは限らない. 仲間から銀行強盗に誘われた男による, それに加わるか加 わらないかの行為選択を例とするならば, 銀行強盗に加わるという行為を選択した場合に起きるか もしれないさま ざまな結果が気にかかる, すなわち首尾よく成功する, 奪うことには成功するが人 を殺してしまう, 20 00万円の分け前にあずかる, 奪った金の 配分 で自分が殺されるなど, 起きるか もしれない様々 な結果が気にかかる. 加わらなかった場合にしても, 同様 である. ここ では単純化 し て 行 為 A,の 結 果 と して R, , 2… R, j… R, m が, 行 為 A2 の 結 果 と して R2 , 2… R2 j…R2 。 が起こ , R, , R2. りうると, 行為者に考えられているとする. この場合において, 行為 Aぎを選択した場合に結果 Rv がいかなる確率 で生起すると行為者が考えているのか, その主観的な確率は次のように定式化する こ と が でき る.. ( 1 ) 状況 Coに おいて行為者が行為 Afを選択したら結果 Ru がどれだけの確率 でおこると思わ れているのか, その主観的確率 P (R”ICo n A … … … (3. 1式) f(メ ニー l (メ ニー ) then ブ ニー se ブ ニー ,2・ i ,2… m e ,2…n). ここ で留 意すべきことは, 行為選択に直接関わるのは Rf jの客観的な生起確率ではなく主観的な 生起確率であるということ である. 客観的な生起確率が行為選択者の合理的認識能力を通じて主観 的生起確率に反映することはある. けれども, 常にそう であるとは限らない. 銀行強盗計画が既に 警察に密告されているの で, 成功する確率が客観的には0であるにもかかわらず, 成功する可能性 が高いと当人が思っている場合において, それに加わるか どうかの選択に影響を与えるのは後者の 主観的確 率の方であり, 客観的確率ではない. P (R”ICo r I Af ) に関わる判断, すなわち状況 Coにおいて行為 Afを選択した結果として, ど のような事象が生じがちであるのかの判断は, その状況を構成する様々 な自然的客体, 文化的客体 と自分自身に関する認識を経ることによ って行なわれる. その際に頼りとされるのは自然科学や人 文・社会科学, 法律, 社会的慣習・常識などの文化を学習することを通じて形成してきた能力であ る. ガラスと鉄の硬度に関する知識は鉄釘でガラスに氏名を刻 むことができないことを教えてくれ る. 交通法規はハン ドルを どちらにきれば向こうからや ってくる車と衝突しないで済むのかを教え てく れる. 逆に日本における人間関係の基底をなす文化を理解 していないあるイ ギリス人は, 相手 の日本人の 「ウーン」 といっ た返事を 「イエス」 と解釈して, 来るはずのない相手を待つこともあ る.. .. ただし, あらゆる文化的成果を活用 したとしても, どのような結果がどの程度起こりうるのかを 正確に判断できない場合が少なくない. 時には文化の習得結果として形成された認識能力としては 説明 できない部分を多分に含む個人的・対人的体験のほう が頼りとなることがある. 街角の占いの お告げの方が頼りとされることもある. 行為選択を左右するものと してあげられる第二は, 起きるかもしれないそれぞれの行為選択結果 がその行為者にとっ ていかほどの価値があると思われているのか, その評価 である. すなわち行為 A,の結果として生ずるかもしれない R, , 2…RU…R, m と行為 A2の結果として生ずるかもしれな ,R, い R2 ・R2 , 2… R2ヂ・ n の そ れ ぞ れ の 価 値 の 行 為 者 に よ る 評 価 であ り, こ れ を 次 の よ う に 表 現 す る こ , R2. とにする. 6.
(8) . 行為選択の分析枠組 2 ) 起きるかもしれない結果 Rf ( ブに対する行為者の 評価, すなわち結果 Ruの行為 者にとっての 価値. D(Rf )… … … … … … … … (3. 2 式) j l 2‐ ) . ・ ‐n .m e =1 =1 f(省: se ブ= =. ) then ブ = (i ニー , ‐ ,2 ,2i. )と(3, 行為 Afを選択した結果として享受 できる価値の 主観的期待値を左右するのはこの D(Ru A 生起するかもしれない結 )の積である. すなわち行為 zを選択した際に 1式)の P(R可 Co n Aぎ 果Ruの価値がどんなに高いと しても, Ru が生ずる確率がごく 低いと思われるならば (すなわち P(R”ICon Aぎ )が0に近いならば 行為 Aぎの結果の価値の 主観的期待値が高まることには寄与 しな い と いう こ と であ る。. 行為選択を左右するものと してあげられる第三は, A, , A2という行為それ自身に対する行為者の 評価である. 人間が行なう行為のうちには, 行為それ自身の価値を求めてなされるような行為, そ れによ って生ずる結果がもたらす価値よりは, 行なう行為それ自 身の価値のためになされるものが ある. 楽器を演奏する行為のうちには, 素晴らしい演奏をして他者に 喜びを与えるためになされる ようなものもあるけれども, その演奏自身を楽しむためになされるようなものもある. スポーツや 、 道徳行為 宗教的行為にはそのように行為の結果の価値よりは その行為自身の価値を 芸術行為, , , 重視してなされる行為が豊富に見られる. 例えば別れたいと 思っている夫に多額の保険 金がかけて あり, 二人で登山中に夫をつき落としても絶対に ばれることがないという ような状況にあ っても, 大部分の妻は殺人という行為の忌ま わしさから保険金を手に入れるに至る行為を選択することはな し、 .. ・. また行為選択において行為にともなう結果が重視される場合であっても必ずしも行為それ自身の 価値がまっ たく度外視されるというケースは少ない. このような意味での行為それ自身に対する評価に関しては, 次のような定式化にと どめる. 3 ) 行為 Afそれ自身に対する行為者の評価 ( D(A … … … … … … … … (3. 3 式) ) (Z =1 ,2. D(Rv ) と D(Aぎ ) , すなわち行為 Afの選択結果として起こりうる事象の評価や, 行為 A-それ自 身の評価は, その行為者に内面化されているところの道徳基準や鑑賞基準としての文化に準拠して なされる. 人間の欲求や感情はそのような文化を内面化することを通じて形成・洗練されてきたと ころの何が望ましいことで, 何が恥ずかしいこと, 罪深いことであるのか, 何が美しく, 何が醜い ことであるのかに関する心的傾向を豊富に含んでいる. ただし文化に飼い慣らされていない感情や欲求, 文化的洗練を経ていないような感情や欲求, 文 化に抑圧されながらも噴出する可能性を失っていない感情や欲求, 既存の文化を否定しつくりかえ たいと願う人間の欲求や 感情もまた存在する. 行為の結果や行為それ自身に対する評価にそのよう いるよ な感情・欲求が重大な影響を与え, 文化体系と パーソナリティ 体系が激しい緊張関係におち ・ してはならない うなケースを捨象 ‐ . また, 行為者の パーソナリティ に 外在するにとどまっているような文化も行為の結果や行為それ 自身の評価に影響を与えることが少なくない. 内面化されていないけれども, 知識としては知 って いる道徳的基準, 鑑賞基準としての文化や他者の評価傾向, 評価結果に関する情報が行為者の評価.
(9) . 大 坪 嘉 昭. に影響を及ぼすことがよくある. 行為やその結果は他者が高く評価 してく れる (くれそうな)場合, その価値がより大きく思われる場合がしばしばある. 道徳基準, 鑑賞基準としての文化がいまだ行 為者に十分に内面化されていない場合, その行為者はしばしば自己の外にある基準に頼りがちであ る. 子どもの, そして人間の価値意識の形成過程を理解する上でこのことを軽視しないほうがよい. 以上述べてきた主観的価値期待値評定モデルのうち定式化された部分だけに関して強引さを自覚 した上でまとめを行なうと 次のようになる. ( 4 ) 行為 A, , 行為 A2のいずれを選択する かの判断はそれぞれに関する次のような価値の主観確 ) と E(A2 率期待値, E(A. ) を比較する判断として表現できる. 1) A,という行為それ自身の価値,およ びその選択にともな って生じうる結果の価値の主観確 率的期 待値. E , )=D. 1P(R, )+ X ),D(R, “ , jIC0 ( A,. 2) A2と いう行為それ自身の価値,およ びその選択にともなって 生 じうる結果の価値の主観確. 率的期待値 E(A)=D. ) )+ZP(R扇 C0( A).D(Rj 〈注〉. ip inc l lgy f t 1) W.James esofPsycho .403f . ,Pr ,vo12 ,Henry Hol ,1890 ,pp ionto Soc i l 2) W. McDougal roduct aIPsycho ogy . ,Anlnt ,1920 , Methuen 3) とりわけ, 文化人類学やいわゆる野生児に関する諸研究は, 人間に生得的なものであると考えられていた様々な 欲求や行動性向が後天的な学習を通じて形成されるもの であることを示す豊富なデータを提供してきた. 4) それらをオーバーピューした上で, 人間の生理学的欲求と文化的欲求との切り離しがたさについて論じている文 献として, 見田宗介 『価値意識の理論-欲望と道徳の社会学』 弘文堂, 197 ・ -1 4年, 98 05頁参照. 5) 辰野千尋 『学習心理学』 金子書房, 196 5 5- 2 0頁参照 , .. 6) 見田宗介, 前掲書, 1 03一105頁. 7) 作田啓一 『価値の社会学』 岩波書店, 19 72年, 1 4頁. 8) 同上書, 16頁. 9) 同上書, 16一17頁. ) 同上書, 20頁. 10 ) 同上書, 2 1頁. 11 12 ) 人間の行為選択をシステムと関わる過程としてとらえる作田のそのような価値論は,G.ジンメルの影響以上に, T.パーソンズ等に影響のもとで書かれたものであることは 「価値概念」 の前節にあたる 「行為の概念」 の内容を一 読するだけでも明白である. 同上書, 3-1 3頁. T,Parsons i ISys tems a es sPaperback Ed , , ,The Soc ,a Free Pr ,1964 $( T,Par i l l ion ) sons & E,A,Sh ed , . ,Harper & Rowリー951 ,Toward a generaITheoryof Act. 13 ) 作田啓一, 前掲書, 1 7頁. (本 学助 教 授・ 函 館分校). RU.
(10)
関連したドキュメント
私たちの行動には 5W1H
高齢者の外科手術では手術適応や術式の選択を
現行選挙制に内在する最大の欠陥は,最も深 刻な障害として,コミュニティ内の一分子だけ
Bemmann, Die Umstimmung des Tatentschlossenen zu einer schwereren oder leichteren Begehungsweise, Festschrift für Gallas(((((),
◆
「欲求とはけっしてある特定のモノへの欲求で はなくて、差異への欲求(社会的な意味への 欲望)であることを認めるなら、完全な満足な どというものは存在しない
問題例 問題 1 この行為は不正行為である。 問題 2 この行為を見つかったら、マスコミに告発すべき。 問題 3 この行為は不正行為である。 問題
(1)対象者の属性 対象者は、平均年齢 72.1 歳の男女 52 名(男 23 名、女 29