小学校環境教育実践の原理的考察(2)
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(2) 釧路論集一北海道教育大学釧路校研究紀要一第40号(平成20年) Kushiro Ronshu,−Journa】ofHokkaido University of−Education at Kushiro−No.40(2008):71−78. 小学校環境教育実践の原理的考察(2) 大 森 北海道教育大学釧路校子どもと環境教育研究室. Examinationofenvironmentaleducationinelementaryschool(2) SusumuOMORI Hokkaido University ofEducation、Kushiro campas いわゆるコンクリートジャングルのような環境での実践で. はじめに. 2004年に提唱した「行動主体形成としての小学校環境教. ある。. 育実践」(『小学校環境教育実践試論』創風社)を批判的発. 展的に彫琢するため、本稿では、釧路論集第39号「小学. 1節 活動主体としての子ども像と環境教育実践. 校環境教育実践の原理的考察(1)」を踏まえ、実践事例分. −「僕の木を切ったのは誰か(2年生・生活科)」1992. 析から子どもの環境教育実践における教育的価値について. 年一. 考察し、持続可能性に向けた教育としての環境教育実践を. 実践事例から、活動主体としての子ども像について述べ. 探る一歩としたい。. る。 実践は次のように学級の子どもが持ち込んできた問題か. 1章 子どもの環境教育実践における教育的価値の考察. ら始まる。. 本章では、過去に分析し抽出した教育的価値を視野に、. 6月のある日・・「朝、学校に来る時、僕の木を切って. 以下の二つの視点に依拠した実践事例分析を行う。. いる人がいました。5人の男の人が枝を切って、トラ. まず、「私たちが人間として、自分たちの制度や行為を転換. ックいっぱい積んでいたんです。僕は注意しようと思. できなければならないこと、しかも徹底して、あらゆる参. ったんだけど、怖くてできませんでした。どうしたら. 加者の知性とエネルギーを結集してそうできなければなら. いいのかわからいので、みんな教えてください」。. ない」とする人間観による「自らの周りの状況を変えるこ. 「僕の木」というのは、学区域の通学路沿いの好きな樹木. とによって、いかに自分たち自身を変えることができるの. を選んで自分の名札を付け1年間観察させようとした実践. か」(ユーリア・エンゲストローム1999年)という「拡張. である。. による学習」を念頭に置いた、子どもが当事者として対象. 教師は「丸に棒をつけるような樹木の絵を描いたり、『木っ. にかかわり、対象を改変していく活動過程のなかで、どの. て生きているんですか』と話したり、身近に生きている『ス. ような人格形成がなされているのかを探る。. ズメを知らない』という子どもたち」に対し、「必死に生き. 次に、これまでの産業革命以来の「工業化のための教育」. ている野生/ト動物や植物とのかかわりを育てたい(=関係. から「環境のための教育」への転換(ジョン・フィエン2001. 性の構築)」と考えていた。. 年)を展望し「環境についての教育」と「環境を通しての. そのような実践的文脈の中で子どもの問いが学級に持ち込. 教育」は、「環境のための教育」に収赦されることによって. まれた。. より有効な環境教育となるとする環境教育実践構造を念頭. 問いを持ち込んだ当事者である子どもは、対象である自分. に実践事例分析を行い、その環境教育実践構造の有効性を. の樹木(自宅横の公園の樹木)の変化を捉え「どうすれば. 抽出したい。. よいのか」を学級に持ち込んだのである。そして、謎解き. 以上二つの立場を踏まえ実践分析を試みる。. のような授業が学級の中で展開していき、子どもたちは、 否応なく現実世界に入り込んでいった。. 実践記録は、『小学校環境教育実践試論一子どもを行動主. 「どうして注意しなかったの」「須沼君の木でしょ」「そ. 体に育てるために』(大森享2004年創風社)と『21世紀 の環境教育』(大森享・伊藤幸男編2006年ルック)からの. れ密漁じやないの」「きっと上野動物園(注;学校から. 引用であり、実践フィールドは、東京下町の荒川区と墨田. 徒歩30分程の所にある)に運んでゾウにやるんだよ」。. 区である。 どちらの区もー人当たりの緑地面積が都内最低に位置する、. 突然、吉田真理さんが「区役所で聞けばわかるかもし れない」と言い出しました。. ー71−.
(3) 大 森. 宰. 子どもの生活での興味■関心を対象に、問いを生み出そう. 「公園については区役所に聞けば何かわかるかもしれ. としている。. ない」という真理さんの話でした。 当事者が持ち込んだ問いに共鳴した学級が話し合い解決方. 休み時間、子どもたちは「地下室からギターのような. 法を探り、区役所に電話するというツール(探究のための. 音が聞こえてきた」「おばけがいる」「きっと、ここに. 道具)を発見した。こうして、問いを持ち込んだ当事者で. はお墓があったんだ」とさわいでいました。私は、こ. ある須沼君のために、班ごとに電話の掛け方を相談し、ア. の事から授業を練りました。. ドバイスを与えていくという展開に学びは飛躍した。. 子どもが問いを生み出す対象は、日々子どもと生活をとも. 須沼君の詣ではよくわからないという事で、「直接話し. にしている教師によって多様に発見される。 「みんな、お墓だ、お墓だって言っているけど、それ. てもらおうよ」と岡胡さん。「そうだよ。公園に来て説 明してもらおう」・・。. 本当なの?」. 電話をかけた結果、教師が事前に連絡し依頼していた公園. これが、最初の教師の投げかけである。「お墓だ、お墓だと. 緑地課ではなく、「区のサービスセンターの人」と話してし. 言っていることは本当か」という対象を学級に提示する。. まい、解決できず、次の方法として直接公園に来て話して. 最終的な結論は、「お兄ちゃんが言っていたから」でし. もらうことになり、説明を聞き納得して学校に戻るという. た。 「お墓だ、お墓だ」と騒いでいた子ども達は、はっき. 実践である。 対象(公園樹木=僕の木)との応答から主体(須沼君)が. りしていないことを自覚してきました。お慕だったら. 問いを持ち、共同体(学級)に持ち込み、学級が主体とと. おもしろいのになあ、と思っている子どももいました。. もにツール(電話での聞き取り)を生み出し、分業(班ご. 「どうしたら本当のことわかるかな。先生は、本当の. とに電話のかけ方の相談や須沼君の電話かけそして報告会. ことを知りたいなあ。お墓だったかもしれないよ。」. など)を行い、現実世界から生じた. 教師の投げかけが続く。対象と主体との応答関係から学級. 問い(対象と主体の応答関係)を解決していった。 意気揚々と公園に向かう子ども達とそのエネルギーの. に「本当はどうなんだろう」という問いが育ったことは、. 素晴らしさにワクワクしながら歩いて行く私の姿があ. 男子を中心としたグループが放課後毎日、学校近くの公園. りました。‥学習者自身が持った問いを探究する時の. の土を掘っていたことからも伺える。. 主体性といったことへの着目といってよいかと思いま. このように探究の道具として聞き取り調査や地面を掘るな. おじちゃん・おばあちゃんに聞いてきたり、斎藤君という. どを使い児童なりの探究を続けている。. す。 この実践事例から、学習者が対象との応答関係から問いを. 子ども達の聞いは、①公園の貝殻はどこから来たのか (昔、ここは海だったのか) ②音無川ってどこを流. 持ち、個人では解決の当事者として立ち現れることができ ない「最近按発達領域」(ヴィゴツキー1978年)を学びの. れていたんだろう ③たぬきはどうしていなくなった. 共同体としての学級と教師の指導および区役所職員によっ. のだろう という3つの問いにまとまっていきました。. て乗り越えていったことが読み取れる。. 教師の働きかけで、対象との応答関係から3つの問いが生. 児童は自分たちの力で問いの解決を行い、自分たちの力を. み出される。問いを追究し始めた学級集団は、グループや. 自覚したことで、エンパワーされている。. 家族・学級で、聞き取り調査、音無川探しの町探検(探究. ここでは「学習と発達の統合を社会的、文化的、関係的な. のツールとしての橋げたの跡や膏無川という文字などを探. 活動の文脈の中で捉え直」し「人間の発達を社会的・協働. すという、学級が生み出した独自の視点で実施)、住職・区. 的な創造の過程と理解する見方」(山住勝広2004年)が大. 役所公園緑地課職員・児童のおじちやんが学びの「共同体」. 切である。. に参加していった。. 学習者である子どもが対象との応答関係から問いを生み出. 「・・私は、和尚さんに質問しなくて、みんなの言っ. し、学びの共同体としての学級の子ども達と協働しながら. ている話を聞いて、みんなの意見でよくわかってうれ. 区役所に電話をかけ、区役所担当者から公園で説明を聞く. しいなあと思いました」 「今度調べると 、どんなことがあるのか、わくわく、. という活動の中に、当事者性を持って自主的に解決してい った活動主体としての子ども像を読み取りたい。. どきどきする」 ここには、協働的探究的な学びをする子どもの声がある。. 2節 所与の世界を課題としての世界に変える環境観を育. 「私がびっくりしたのが、三河島公園ができた年と弟. てる環境教育実践. が生まれた年が一緒だったからびっくりしました。」 「三河島公園の前は、駐車場で、その前は貨物の引き. −「音無川はこのままでいいのか(2年生・生活科)」1992. 年一. 込み線で、その前は田圃。いろいろなことが分かって. 実践事例は、脱文脈化した教科書から子どもが抱くであ. よかったです」というように、いろいろな変化を経て. ろう問いを構想するのではなく、. 現在があるという認識を獲得しています。. −72−.
(4) 小学校環境教育実践の原理的考察(2). そのことは「どうして、東京にはきれいな川がないの かなあ。どうして苦みたいに、木がいっぱいないのか. 主権」(中西正司・上野千鶴子2003年)の行使をして. なあ。もっと東京にいっぱい木がほしいと思っていま. 学校教育の場に適応しながら行勤知(実践知)を学ん. いる住民運動から学び、それを環境教育実践としての. す」というような、現状に対する不満を子ども達から. だ実践事例・・。. 出させています。. 住民運動から学ぶとは、教師がその運動の中に「自己. 実践事例の最終段階での子どもの声には、音調べをするこ. 教育運動」としての側面をつかみとり、それを子ども. とで、「所与の世界」であった周りの環境の見方が変化し不. の学びとして創造する事、子ども自身が住民運動の当. 満が出、「課題としての世界」となったことが読み取れる。. 事者である住民から学ぶという二つを意味する。(大森. 享 2004年). 「私の現在の状態をこうあってほしい状態に対する不足と とらえ」たとき、所与の世界としての現実世界が課題とし. まず、実践事例を概観する。. ての世界に変わる。. 子ども達の学びの対象として住民運動とその結果誕生した. 「新しい現実を作り出そうとする構想力を持った時に、は. 「都立尾久ノ原公園」を取り上げ、学びの共同体として学. じめて自分のニーズとは何かがわかり、人は当事者になる」. 級・保護者(特に父親)・区役所職員・住民運動団体「下町. のであり「ニーズをつくるというのは、もうひとつの社会. みどりと仲間たち」事務局長野村圭佑・下町河川シンポジ. を構想することであ」(中西正司・上野千鶴子2003年)る。. 実践事例では、今も暗渠になって駅前を流れている「音無. ウムの方々、探究の道具として、自転車・聞き取り調査・ トンボなど、分業として「トンボ探検隊」による調査活動、. 州を掘り出したい」という意見と「車も大事」「道路も大事」. ルールは協働的探究活動を進めるということである。 対象の探究によって、学習者である児童は「放置された工. 「掘り出しても、たばこのポイ捨てなどで汚れる」という 意見対立で3時間ほどの討論が続いている。. 場跡地に自然が蘇ったのだから、『自然が自然をつくった』。. この実践事例では、学習者の視点から音調べを行い、過去. だから都立尾久ノ原公園ではなく、自然立尾久ノ原公園」. から現実世界を問い、未来を展望する「所与の世界」を「課 題としての世界」に変える環境観を育てている。. いらないコンクリートは劃す」(蝦名)という人間・社会と. 今ある生活・環境に何の不満も疑問もない所に、環境を変. 自然の共存について学んでいる。. (岡田)という自然の復元力や、「土と雨水が大切。だから. えていこうとする要求も意欲も生まれてはこない。学習者. 「ここは荒川区なのか。こんな自然がいっぱいあって、私. である子ども達が、生活・環境という学びの対象と向き合. はこのような自然があったほうがいい」(斎藤)「都立尾久. い、対象とかかわりながら、対象を変えていく活動主体と. ノ原公園で、草花遊びや虫取りなどいろいろな遊びをしま. して環境教育を進めていくには、正に、所与としての世界. した。面白かった」(平野)というような環境観と「区立荒. を課題としての世界に変えていく周りの親方=環境観をい. 川公園はコンクリートだけど都立尾久. かに育てるのか、対象との応答関係からどのようにそれを. ノ原公園は自然がいっぱい。この公園は誰が作ったのだろ. 進めていくのかということが問われる。. う」(細矢)という問いから「僕は、野村さんたちの考えに 賛成です(注;トンボの楽園としての跡地利用)。少ない人数. 3節 住民運動の教育的価値と環境教育実践. で都議会・区議会と何年も戦ったのはすごい」(洪)という. −「ぼくらはトンボ探検隊(5年生理科・総合/第47回読. その環境を生み出す地域の力(=住民運動)について、具. 売教育賞)」1995年一. 体的に学んでいる。 「昔は、ただトンボをいっぱいとって喜んでいたけど、こ. 本節では、地域環境を生み出した住民運動の教育的価値 を考察し環境教育実践を創造した実践事例を分析する。. の学習から『トンボにもトンボの人生がある』と思いまし. 持続可能な地域社会であれ、トンボと共存できる地域社会. た」(岡田)「卵を産んで必死に生きて、トンボも人間もみ. であれ、どのような地域社会を誰がどのように生み出して. んな同じじや」(康島)という『大関松三郎詩集・山芋』の. いくのか、という課題に対し「より良い環境とは何か」を. 「虫けら」などを連想させる子どもと「野生小動物とのコ. 合意形成し、請願・署名運動により議会で承認され、それ. ミュニケーション的かかわり」(尾関周二1995年)も読み. を実現していった住民たちの行動から、地域環境を生み出. 取れる。 教師は、学習者の問いを育て、住民運動が学習の対象と. す住民自治を学ぶことは重要である。 住民が工場跡地をトンボの楽園として残す運動を行い、そ. なる段階までの学びの筋道を構想し、子ども達の最初の対. れを生み出していったことを、子ども達が学習した実践事. 象として屋上プールのヤゴを設定し、その後トンボに羽化. 例である。. する段階で、「私の育てたトンボはどこに行くのだろう」「そ. 現実世界を変革する実践知として行動の仕方や行動の. もそも、屋上プールのヤゴはどこから来たのだろう」とい. 価値を教えることは、21世紀の環境教育にとって重要 である。現実世界を変えることなくして、環境問題の. う問いを生み出し、次の対象として区内の公園が設定され、 「トンボ探検隊」というツールが誕生している。. 解決はありえないからである。‥現実世界で「当事者. そして、区立自然公園と「原っぱと水たまりの広場(=都. ー73−.
(5) 大 森. 立尾久ノ原公園)」の比較により、最終段階の対象として住. 値を考察する上で、「環境のための教育」という視点は重要. 民運動が登場してくるという学びの筋道である。. となる。. 実践を生み出した源泉としての住民運動について触れた. 「環境のための教育」を考察の軸に据えることで、学習者 である子どもたちが対象を改変するという活動が視野に入. い。. 東京都荒川区隅田川沿いの都立尾久ノ原公園は、「下町みど. り、テキストとしての対象に働きかけることで、働きかけ. りと仲間たち」(事務局長 野村圭佑)による住民運動によ. た子ども達がェンパワーされ自己肯定感や社会性を身につ. って「トンボの楽園」として誕生した。水銀垂れ流しとい. け、民主主義を学ぶことや、学ぶことと生きることが統一. う環境汚染などで移転した旭電化工場の跡地利用をめぐる. され、探究的協働的な学習が展開される。. 話し合いにより放置されていた跡地に、原っぱと水たまり. この実践事例は、東京都墨田区の人工河川荒川に接する小. が出現し、トンボが舞う下町の原風景が蘇った。. 学校をフィールドとしたものである。実践は「所与の世界」. 下町の原風景としての景観とトンボの棲息地を守り、住民. を「課題としての世界」に変える環境観を育てるところか. の環境教育の場としてそのまま残そうとした住民運動であ. ら始まる。年度当初、児童の荒川とのかかわりは次のよう なものだ。. る。「下町みどりと仲間たち」による生物調査とトンボ研究 者の協力により貴重なトンボの生息の確認とその宣伝、署. 「私は、荒川で遊んだことがない」「僕は野球の練習で、. 名運動・請願運動を経て都立尾久ノ原公園は誕生した。. 荒川のグランドに行っているよ」‥・小学校3年生. この住民運動の聞き取り調査によって、教師は次のような. の子ども達は、学区域に接する荒川のことを、こう語. 構想を練っている。. った。. 屋上プールのヤゴを採集し、飼育・観察することから. 実践事例では、荒川に棲息する小動物(クロベンケイガニ・. 動物学習を行い、羽化後は、トンボという生物種にと. ハゼ・ヤゴ・トンボ‥)や江戸川区区民が河川敷に造っ. って荒川区の都市環境はどうなのか、という視点から. た「五色池(=トンボ池)」、絶滅危倶種=ヒヌマイトトン ボのヤゴ放流などの「環境を通した教育」による直接体験. 「旭電化跡地」利用についての行政・住民(区公園緑. 地課,下町みどりと仲間たち、野村圭佑さん)の対応. から始まっている。. に学びながら、都市空間における自然と人間の共存の. 児童・保護者の集約的な「きたない・あぶない−ちかよら. 考え方(ビオトープ思想・近自然工法等など)を学ぶ。. ない」という荒川観が、「荒川は生き物がいっぱいで僕らの. 地域環境を生み出す力を分析し、地域環境を創造する取り. 自慢です」(恩田)・「子どものころからこの地域に住んでい. 組みを対象として取り上げ、地域環境観の形成と地域を作. ますが、こんなに蟹がいたなんてびっくりしました」(父. る主体の運動について具体的な人を通して学んだ事例と言. 親)・「息子に連れられて、日曜日家族で荒川に来るように. える。教師が住民運動から抽出した教育的価値は、住民運. なりました」(母親)などと大転換している。. 6月8日火曜日・・ヒヌマイトトンボのヤゴをヨシ原. 動が持っている地域環境観とその環境観を実現するための 運動内部で合意した環境計画と目指す環境を実現する行動. に放流した。・・「まわりの葉っぱでモシヤモシヤ。下. 知(実践知)としての意見表明・合意形成・宣伝活動・議. はドロで、長靴がうまった。ドロがはねて、すごいと. 会制度の活用などを学習材として学び、「より良い環境を享. 思った」(山岸)。「こんな所にいるのかと思った。ドロ. 受する主体の形成」を促したといえる。. と水と混じっている所で、きたないなあと思った」(吉 羽)。けれど「ドロは汚いけれど、あんな所でトンボに. なれるのか、と思った。でも、なれるのですごいと思. 4節 子どもが活動主体として現実世界にかかわる環境教. った」(畔上)。「イトトンボのヤゴが自分からドロの中. 育実践 −「ほったぞ!ぼくらのじまんの池. に入っていった。よく入れたなあと思った」(中村)。. ヒヌマイトトンボにとっての快適な棲息空間は、必ず. (3年生 理科・総合)」1999年一 学習者・学習集団が対象との応答関係から問いを持ち、. しも子ども達が生活している空間の心地よさとは一致. 当事者性を持って探究し始めよ. しない。他の生物にとっての棲息空間を実際に体感し、. うとするとき、学びの共同体として共に探究する学級集団. 認識を広げていくことが大切だろう。 「所与の世界」を「課題としての世界」に変える環境観を. やネットワークの力に依拠しながら「最近接発達領域」を. 豊かに育てる教育手法として、ここでは、野生小動物が棲. 乗り越えていく。. 息している空間での体験の重要さを指摘している。環境を. (児童が学顔に対象を持ち込むことも含め)学びの対象と. なるテキストを選定し、それにより学習者・学習集団が対. 通した教育は、学習者の五感に働きかけ情動・感情・暗黙. 象との応答関係から何を探究するかという,言わば、学び が展開するであろうデザインの骨格にあたる部分の授業設. 知の領域から環境についての教育・環境のための教育へと 学習者の探究を促す。 「ヒヌマイトトンボのヤゴを放流した所は、ヨシがい. 計は教師が行う。. っぱいで、ドロ水やドロとヨシ原のジャングルの中で. 教師が環境教育実践における対象とそこから学ぶ教育的価. −74−.
(6) 小学校環境教育実践の原理的考察(2). 育っています。そのままにしておいて欲しいと思いま. 子ども達は、月3回土曜日午後2時間程を使い、池を 振り出した。3ケ月後,2mX6mXlmの池を掘った。. す」(畔上)。. 「ドロとヨシ原のジャングルの中で」ヤゴは棲息して. 親は子ども達の働く姿にびっくりし「家ではこんなに. いる。そのヨシ原には「カニもいるなんて不思議だな. 手伝いなんかやりません」(母親)と感心していた。完. あと思った」り、「ハゼはこんな汚い川にいるとは思っ. 成したトンボ池に、注意書きと製作者の名前入り手作. ていな」かったのに、「川の水が引いていて、石をどか. り看板を立て、日常的に池でのゴミ拾いや生き物観察. すと、ハゼがいっぱいいた」り「五色他には、ヨシ原 とドロがあ」り「オタマジャクシとか、トンボやヤゴ. を子ども達は実施した。・・「僕はあの池は生き物の他. がすんでいて『いいところだなあ』と思いました。こ. 川はみんなに自慢できると思います。‥自然にできた. んな所がある荒川がいいです」と、子ども達は語り始. 川ではないけれど、州の周りは自然がいっぱいです。. めた。ドロとヨシ原や干潟は「汚くて、すごい所だっ. 僕たちの手で自然に近づける事が少しでも出来るんだ. にしたいです。‥こんなにたくさんの生き物がいる荒. た」のに、「ヤゴやカニやハゼ」等「生き物がいっぱい. と思いました。みんなで作った事を思い出せば、僕は. のいい場所」とわかった時、子ども達の見方は「こん な所がある荒川がいい」と変わっていった。生命がい. ゴミを絶対に捨てません。大人の人にも捨てないでも らいたいです。・・」・・・. っぱいあふれた干潟やヨシ原を「そのままにしておく. 11月11日帰りの会で、子ども達は次のことを決定し. ことがいい」のでありその生き物に適した棲息環境は. た。. 人間から見ていかに「きたなく」見えても、表面的に. (1) ゴミは捨てない。ゴミは持ち帰る。. 考えることは良いことではないという環境観に、子ど. (2) 生き物を取り過ぎない。. も達は変わっていった。・・. 「ゴミを捨てている人がいる。今度、トンボ他の周り. 以上のような「環境を通した教育」によって、子どもと保. を奇麗にしよう」「この前、トンボ池に行ったら、ゴ. 護者の荒川に対する環境観の転換がもたらされている。こ. ミがあったので、拾ってきた」という会話が日常的に. れと並行しながら、「とりたてての教育」として、五色池で. 出てきた。. 採取したヤゴと学区域で採取したアゲハ蝶の幼虫を飼育観. この実践では、子どもが現実世界を変えることで子ども自. 察をしながら理科学習=昆虫学習を行っている(詳細は、. 身がェンパワーされたこと(例えば、知らないおじさんが. 『小学校環境教育実践試論一子どもを行動主体に育てるた. 昼食の弁当を、トンボ池を見ながらのんびりと食べている 様子を見たり、保育園児がトンボ池でヤゴ取りをしている. めに』創風社2004年)。. ここで、再度確認しておきたいのは、環境を通しての教育・. のを見てうれしくなった‥)が伺える。. 環境についての教育は、環境のための教育を念頭に構造化. 現実世界を変革することは子どもにとって、地域社会の一. される点である。. 員としての誇りや自信となり、エアンパワーされると言え. 大森実践事例では、「トンボ池を作りたい」という子ど. る。. も達の声が出てくるまでに、荒川の自然・/ト動物とか. 所与の世界が課題としての世界に変わったとき、学級集団. かわる自由で多様な接近(原体験)を1学期かけて行 っていた。. は、環境を変える環境計画を生み出していく。 1999年8月5日第4回水シンポジウムで、1学期のま. ‥これら一連の取り組みを「第4回水シンポジウム」. とめを3年生が発表した。共同作品「こんな川がいい」. (模造紙の絵)にはトンボ池が書かれていた。‥9月. (日本土木学会・東京都主催)で発表する際に、共同. で措いた「こんな川がいい」の中に「トンボ池」があ. 下旬自分たちも‥「自分たちで自分たちのトンボ池を. った。このような経過を経て9月下旬、大森が構想し. 掘りたい」と言い出した。. ていた子ども達による「トンボ他作り」が始まったの. こうして模造紙に書いたトンボ池が、子ども達の生みだし. である。. たい環境観に基づく設計図であった。作業日・分担・道具. 教師は、すでに、学区域横の河川敷に子ども達が主体的に. (シャベル、手作りペットボトルシャベルなど)・ルールを. 「トンボ池」を作ること(環境のための教育)を念頭に教. 決め池撮りが始まっている。. 授=学習過程(環境を通した教育・環境についての教育). この実践事例では、地域の公共空間に池を掘るという合. を組織していたといえる。. 意形成を教師が進めてしまい、その結果、子どもの意見表. 大森は異動が決まった3月の時点で既に建設省荒川下. 明に基づく合意形成や、地域住民の持つ地域環境観(例え. 流工事事務所事業計画課課長と「トンボ他作り」の打. ば、お花畑にしたい、桜を植えたい等)との交流により、. ち合わせをしていた。その時、大森は「子ども達がそ. 子どもの環境観がより豊かに形成されたと思われる部分が. の気にならなければやりません」と明言していた。. 欠落している。. こうして、子ども達による「トンボ池作り」が9月下旬か. 国土交通省(当時建設省)荒川下流工事事務所事業計画課. ら始まっていった。. 課長と教師の相談で進み、教師自身が工事事務所から知ら. −75−.
(7) 大 森. されていなかった「荒川をよくする墨田区民会議(以下区. ていることは三つあります。一つめは隅田公園と深く. 民会議)」から、後日反発を受け、対応に苦慮している。「区. かかわりを持つきっかけとなった桜の木を切ったこと. 民会議」とは、1997年河川法によって、流域住民の声を取. です。‥二つめは、プレゼンテーションのときのこと. り入れ、環境に配慮した河川づくりをする河川行政の転換. です。私は、公園にウンティを造って欲しいと発表し. により、荒川流域自治体毎に一般公募した市民からなる河. ましたが、結局は通りませんでした。私は悔しかった. 川づくりの一翼を担う墨田区の会議である。. けど大森先生が予想した造らない理由を聞いて少しだ. 地域公共空間にかかわる教育的配慮として、子ども達が意. け納得しました。でもやっぱり納得がいきません。‥. 見表明し合意形成していく「公論の場」をいかに教師が組. みんなが普段当り前のように使っている公園について. 織するのかは重要な実践的課題と言える。. 考え、実行したことはとてもすてきな思い出になりま した」矢島怜。. 5節 子どもが社会参画する環境教育実践. この矢島の作文中「二つめは・・。」の部分。矢島グ. −「隅田公園再生プロジェクト. ループは、ウンティの規格・価格を調べ、設置場所を. (6年生 総合)」2005年−. 操示し、さらに「小さい子の場合は大人が見守って欲. この実践事例は、隅田公園を対象に、「隅田公園(環境). しいとか、あくまで自己責任ですよ」(要旨)の看板設. を通しての教育」と「隅田公園(環境)についての教育」 から、学級・保護者・町会長・公園ボランティア・区公園. 置を含めた提案をしたことに対して区の説明がなかっ. 緑地課職員の「公論の場」と学びの共同体の協働・探究に. この点については、これからの教育を考える上で重要. より、隅田公園再生プロジェクトとして現実世界の公園を. な問題提起として受け止めたい。. たことによる。. 変えていった「環境のための教育」である。. 「公論の場」とは意見を出し合い、ある事項に対する. 「環境のための教育」として学習者である子ども達が活動. 公的な合意形成をする場と私(実践者)は押さえてい. 主体として立ち上がるためには、丁寧に環境観を育て、子. る。だからこそ、隅田公園にかかわる住民ボランティ. どもたち自身が環境計画を生み出す過程こそが大切である。. ア・町会長・区役所道路公園課職員を教室に招き、子. 教師は、前年5年生の時に隅田公園横・隅田川沿いの桜並. ども達の提案に対して意見を述べ、合意形成を促し、. 木の子ども達による間伐やマレーシアの小学校との中継テ. 子ども達が当事者として現実世界に立ち現れる教育活. レビ会議(全5回)の実施を経て、6年生で隅田公園フィ. 動を組織した。しかし、できそうな提案に対してはい. ールドワークを何回も行い、子ども達の意見表明形成を行. いのだが、実現不可能な提案に対しては、あまり明確. っている(『21世紀の環境教育』参照)。. な意見を述べず、教師を通じて何となく子ども達に伝. 以下、子ども達の感想とそれに対する教師の思いを記す。 「私たちが公園に行った時、ブランコの高さが上がっ. 想した造らない理由』を話したということだ。今後考. えて欲しい旨が区役所職員からあり、結果的に私の『予. ていました。私たちは嬉しくなって、すぐに公衆電話. えたいことは、「子どもだから」という理由で、大人の. から担当者にお礼を言いました。・・(公論の場で)大. きちんとした意見を伝えず、すべて教師に伝えさせよ. 人の人達は、私達とは違う意見を言ってくれました。 『もうちょっと調べた方がいいんじやないですか』『こ. 風潮であり、社会が持つ様々な教育力の結集による子. うとする、言わば学校教育にすべてを任せようとする. れは良いと思います』等。色々な意見が聞けて良かっ. どもの成長を促す取り組みの大切さの検討、このこと. たです」小池彩希。. の中には、子どもを一区民として見ようとしない・子 どもの意見表明に対してきちんと向き合わない、子ど. 「区役所と連絡をとり、鳥の巣箱の材料を送ってもら いました。2個完成し木にかけました」町山拓也。. もの市民性を育てる教育の蓄積がない、等の問題があ. 毎月1回のゴミ清掃活動は、区役所と連絡を取り地域. る。 ・・公共空間(隅田公園)を学ぶことによって市民性. 住民ボランティアの人たちにも集まってもらい、主催 者として子ども達が住民・区職員に挨拶した。. を育てるという教育の目的はどうだったのか、単に知. 「私は実を言うと最初は面倒くさかった。‥でも隅田 公園のゴミ拾い、ブランコの高さを変える、実のなる. 識としてのみ学ぶのではなく、行動を通して言わば当. 木を植える・・など自分たちで計画し、他の班の人た. るという取り組みはどうだったのか、今後、学習主体. ちの計画を聞くうちに、だんだんやる気になっていま. である子ども達の言説から探究していきたいと思う。. 事者として公論の場に参加し、行動主体として成長す. した。‥計画が現実になって、すごいなあと思いまし た。だって、色々な所から色々な人が来る一つの公園. 2章 活動主体形成と環境教育実践. に私たちの『考え』があるんだから。・・」外山某月。. −まとめにかえて−. 「私たち、′ト梅小学校6年1組は5年生の終わりごろ. 小学校環境教育実践を、「より良い環境を享受できる主体. から隅田公園に深くかかわってきました。印象に残っ. の形成にかかわる教育」として把握し、実践手法として、. 一76−.
(8) 小学校環境教育実践の原理的考察(2). く所与としての世界を課題としての世界に変える環境観を 豊かに育てる><学習者が到達した環境観に基づいて、環. 通しての教育」「環境についての教育」「環境のための教育」 に参加する。. 境計画を生み出す><教師は、学習者の意見表明・合意形. 環境のために社会に参画する環境教育実践は、シチズンシ. 成をする場としての「公論の場」を組織する><現実世界 の改変・維持・管理を学習者が行い、より良い環境を享受. 最後に、小論で展開した考え方を試論的にまとめ終わりた. するという原体験を教師は組織する>。. い。. ップ教育(=政治と民主主義の教育)とも言えるだろう。. 学習者は、民主主義を学びながら活動主体として「環境を. <1>環境教育実践構造 文脈に沿ったテキストとしての環境を通した教育 −. 環!尭のための教育(対象の改変). 「取り立てての教育」としての環境についての教育. <2>対象の改変と子どもの人格形成 環境のための教育(対象の改変)⇔子どもの人格形成 エンパワーメント(人間力・生きる力). 自己肯定感・社会の一員 地域を作る主体形成 課題化的認識を促す コミュニケーション能力・・・・. <3>知の枠組みと環境教育 情動・感情・暗黙知にかかわる=環境を通した教育 内容知にかかわる=環境についての教育 活動知(実践知)にかかわる=環境のための教育 上記は相互に関連しながら、子どもの知を形成する。 <4>活動主体形成の環境教育実践と子どもの人格形成 依存しつつ自律する子どもの成長発達に寄り添い、社会における応答関係を保障し、「子どもの主体性」を社会的・ 協働的に促すこと。 「子どもを活動主体」として捉え、活動の動機と目的の一致を促し、活動の意味を読み解き活動の主人公として子 どもの成長発達を促す。 <表1>実践一覧(上から、本稿の実践事例分析順) ルー/レ. 共同体. 分業. 主体. ツール. 聞き取り調査. 対象. 電話・話し合. の時の決まり. 相談. い・聞き取り. 交通ルール 学級・保護者区 音無川探検隊 学級. 漢字・地図・探 音無川・地域環 検・話し合い■. 職員・住職・お じいちやん 泳がない・交 学級・保護者 トンボ探検隊 学級. 聞き取り プランクトン プールのヤゴ. 通ルール. ネット・ペット. 野村圭佑. ボトル水槽・ト ンボ探検隊・地 図・自転車・話. し合い・聞き取 り. 77.
(9) 大 森. 池掘り日時 学級・保護者 池掘り分担. 亭. 学級. 網・自転車・シ 荒川の小動物. 地域住民・近隣. ヤベル・パケ. の保育園と小 学校・ガールス. ツ・話し合い. カウト(国土交 通省)(荒川を. よくする区民 会議). プレゼンテー 学級・保護者■ 班の作業・プレ 学級. 調査・アンケー 隅田公園 ト・公論の場・. ションの仕方 区職員・町会 ゼンテーショ 長・地域ボラン. 話し合い. ティア・校長・ 公論の場. ・意見表明・イ ンターネット. 引用文献 大森享2004年『小学校環境教育実践試論一子どもを行動主体に育てるために』創風社 大森享・伊藤幸男編2006年『21世紀の環境教育』ルック 尾関周二1995年『現代コミュニケーションと共生・共同』青木書店 ジョン・ フィエン2001年『環境のための教育』東信堂 中西正司・上野千鶴子2003年『当事者主権』岩波新書 野村圭佑1993年『隅田川のほとりによみがえった自然』どうぶつ社 ヴィゴツキー2001年『新版 思考と言語』新読書社 山住勝弘2004年『活動理論と教育実践の創造』関西大学出版部 ユーリア・エンゲストローム1999年『拡張による学習』新曜社. −78−.
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