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果樹等を資源とした農村観光地域における旅行者の特性と現地行動 ―山梨県甲州市勝沼地域を事例として―

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果樹等を資源とした農村観光地域における旅行者の特性と現地行動

―山梨県甲州市勝沼地域を事例として―

Tourist Characteristics and Behaviour in Rural Destinations with a Focus on Fruits ―A Case Study of Katsunuma, Koshu City, Yamanashi Prefecture―

菊地 淑人*、髙橋 瑞季** KIKUCHI Yoshito *, TAKAHASHI Mizuki ** 農村観光では、農産物がもつ観光的特性が観光地域における観光目的・行動等にも影響を及ぼすと考えられる。 本稿では、国内有数のブドウ・ワイン産地である山梨県甲州市勝沼地域を対象に、「高付加価値の果樹」を資源 とする観光地域における旅行者の特性や現地行動を検討した。その結果、ブドウ購入が来訪者の主要な来訪目 的のひとつとなっており、その傾向はリピーター層ほど強く、購入を目的とする層は域内の回遊性も低いこと などが指摘された。他方、レンタサイクルを用いた旅行者は、時期に応じた地域の観光資源を回遊しているこ とが明らかとなった。高付加価値の果樹を資源とした農村観光は、購入が来訪の目的化することでリピーター 獲得につながる一方で、観光行動の充実には域内交通手段の整備等を通じた面的な回遊の向上が課題として指 摘できる。

キーワード: 農村観光(rural tourism)、果樹(fruits)、来訪目的(purpose of a visit)、回遊性(migratory)

1.はじめに 日本では、1990 年代より「グリーンツーリズム」 ということばで農村観光の普及がはじまり、平成 6 年(1994)に「農山漁村滞在型余暇活動のための基 盤整備の促進に関する法律」(農山漁村余暇法)が制 定されたことで法的にもその促進が図られることと なった。その後も、同法の改正に伴う農林漁業体験 民宿業(農家民宿)の導入など、都市・農村交流の 促進等が図られてきた。また、平成29 年度以降は、 地域資源を活⽤した⾷事や体験等を総合的に提供し、 農村観光を持続可能な産業へと展開するため、イン バウンド需要も狙いとして「農泊地域」整備に向け た施策が農林水産省を中心に推進されている。 こうした政策的な変遷とともに、国内の農村観光 に関する事例研究なども多角的におこなわれ、特に 受入体制等に着目した研究は多くみられる 1)、2)、3)。 他方、来訪要因や行動特性など、ゲストに着目した 研究は限られているのが現状である 4)、5)。また、単 に農村観光といっても、観光資源となる農作物その ものやその栽培を反映した農村景観の特徴はさまざ まであり、その違いは旅行者の来訪目的や現地での 行動に異なる影響を与えていることも考えられる。 しかし、既往研究では、そうした資源的特性を前提 とされることが少なかった。 その点で、農作物がもつ特性を前提として、農村 観光における旅行者の特性、行動等について分析す ることは、農山村における観光地経営を考えるうえ でも重要だと考えられる。 2.研究の目的・方法及び調査対象地域概要 (1) 研究の目的 本稿では、果樹、そのなかでも嗜好品的な価値が 高く、結果として市場における取引価格も高額な農 産物(以下、「高付加価値の果樹」という)の生産地 域を対象に、旅行者の特性・現地行動等について分 析をおこなうことで、観光資源となる農産物の特性 が旅行者の特性や現地における行動など及ぼす影響 の一端を明らかにする。 高付加価値の果樹は、嗜好品としての稀少性から 生産地への来訪が価格面や品種の多様性といった面 で優位に働き、果物狩りなどの体験を前提とした観 光とも高い親和性をもつといった特徴がある。その *山梨大学大学院総合研究部生命環境学域、**株式会社協和コンサルタンツ 研究ノート [観光研究]2020. 9 / Vol. 32 / No.1 日本観光研究学会機関誌

Journal of Japan Institute of Tourism Research The Tourism Studies, 2020. 9/Vol. 32/No.1 PP. 61~68

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ため、本稿における研究対象としても適したものと して位置づけられる。 (2) 研究の方法 前述の目的を踏まえ、本稿ではケーススタディの 対象地域において、以下の2 つの分析をおこない、 その結果から高付加価値の果樹を資源とした観光地 域の現状と域内交通手段が果たす役割について考察 した。 まず、来訪者の属性及び来訪目的・手段等を把握 するため、調査対象地域を来訪した旅行者を対象と するアンケート調査を実施した。当該調査から得ら れたデータの分析に基づき、高付加価値の果樹を観 光資源とする観光地域における旅行者の特性及び現 地行動の現状と課題について明らかにした。 次に、アンケート調査結果を踏まえ、より回遊性 の高い旅行者の行動の在り方について明らかにする ため、車、徒歩を中心とする現状において、オルタ ナティブな域内交通手段の利用実態に関する分析を おこなった。つまり、現地で稼働しているレンタサ イクルシステムに着目し、利用時に記録された移動 軌跡データ(1 年間分)について GIS を用いて分析 した。こうしたデータについて、アンケート調査で 得られた来訪者全体の行動特性と比較することで、 その可能性と課題を検討する。 (3) 調査対象地域とその概要 本稿では、ブドウ及びワインの国内有数の産地で ある山梨県甲州市勝沼地域(図-1・2)を調査対象 地域とする。当該地域はブドウやワインの国内有数 の産地であるとともに、特に戦後にはモータリゼー ションの流れのなかで観光ブドウ園が多数開園する など、農産品を活かした観光地としても発展してき た 6)。都心部からのアクセスもよく、年間の入込客 数は1,966,168 人 (1)を誇る。他方、ブドウの収穫やワ インの新酒のシーズンである8 月〜10 月頃とそれ以 外の時期で入込客数に大きな変動が生じるといった 課題も抱えている。 3.旅行者の来訪目的・行動等の把握 (1) アンケート調査の概要 調査は、勝沼地域のブドウ収穫期かつ観光シーズ ンの最盛期である2018 年 9 月 16 日(日)、9 月 17 日(月・祝)、9 月 22 日(土)、9 月 23 日(日)(4 日間)に、当該地域の観光拠点施設である「勝沼ぶ どうの丘」(以下、ぶどうの丘)において実施した。 調査はグループごとに1 回答を依頼した。調査員 による配布後、自記式でおこない、記入後に回収し た。回収された調査票は355、うち有効回答数は 352 であった。 設問は、回答者の属性データに加え、1) 日常的な ブドウの摂取や飲酒等に関する食生活、2) 来訪目的 等、3) 現地における観光行動で構成される。 (2) 当該地域への旅行者の特徴 1) 旅行者の基本属性 アンケート回答者に関する属性は表-1 に示す通 りである。勝沼地域への来訪者は関東圏からの来訪 が80.7%と多数を占めており、結果、日帰りの割合が 全体の72.4%と高い傾向を示す。また、リピーター層 が全体の69.8%に達しており、極めて高いことも特徴 甲州市 勝沼地域 至・東京 至・松本 至・静岡 至・佐久 図-1 調査対象地域の位置 図-2 調査対象地域の観光資源分布

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である。他方で、現地における滞在時間は 5 時間以 下が全体の65.6%を占めており、多くの旅行者が目的 を絞り込んで来訪していることが想定される (2)。 2) 来訪目的 来訪目的(複数回答)の上位は「ブドウ狩りをす る」(51.9%)、「ワインを試飲する」(41.9%)、「ワイ ナリーへ行く」(40.6%)となった。初回来訪者層と リピーター層で比較すると、「ブドウ狩りをする」は 近似する割合であったが、「ブドウを購入する」は2 つの層で20%以上の差がみられ、リピーター層の方 がブドウの購入を来訪目的としていることがわかっ た。他方で、もうひとつの主要な観光資源であるワ インについては、リピーター層は「ワインを試飲す る」と回答する割合が初回来訪者層より減少する一 方で、「ワイナリーへ行く」「ワインを購入する」に ついては初回来訪者数よりわずかながら高くなって いる(表-2)。こうしたことから、初回来訪者とリ ピーター層では当該地域の農産物に対する観光資源 としての認識に差異があることが指摘できる。 3) 品種に対する認知・摂取経験 主要な観光資源であるブドウに関する品種の認 知・摂取経験について質問した(表-3)。摂取経験 を示す回答割合について、初回来訪者層とリピー ター層を比較した場合、いずれの品種でもリピー ター層のほうが高い意向を示している。特に、生産 量が少なく、市場流通が限られている品種 (3)、主に 醸造に用いられる品種 (4)については、リピーター層 は初回の来訪者と比べて10%以上高く、山梨が代表 的産地である「甲斐路」「甲州」については、30%以 上の差がみられた。 このように、リピーター層ほど産地ならではの多 様な品種を認識し、摂取経験をもっており、現地の 来訪が地域の農産物の理解に繋がっていることが指 摘される。 表-1 回答者の基本属性 表-2 来訪目的 居住地 旅行形態 山梨県内 北海道 関東 中部 近畿 中国 四国 九州・沖縄 日帰り 宿泊 回答数(%) 18(5.3) 1(0.3) 276(80.7) 30(8.8) 9(2.6) 2(0.6) 3(0.9) 3(0.9) 回答数(%) 255(72.4) 973(27.6) (N=342) (N=352) 来訪回数 滞在時間 初回 複数回 〜2時間 3時間 4時間 5時間 6時間〜 回答数(%) 106(30.2) 245(69.8) 回答数(%)48(14.0) 68(19.8) 47(13.7) 62(18.1)118(34.4) (N=351) (N=343) 東北 0(0.0) 来訪回数 購入して食 べたことが ある 贈答・試食 などで食べ たことがあ る 知っている が食べたこ とがない 知らない 初回(%) 76(75.2) 25(24.8) 0(0) 0(0) 複数回(%) 214(89.5) 24(10.0) 1(0.4) 0(0) 初回(%) 66(68.0) 20(20.6) 3(3.1) 8(8.2) 複数回(%) 186(81.6) 26(11.4) 10(4.4) 10(4.4) 初回(%) 62(62.6) 24(24.2) 4(4.0) 9(9.1) 複数回(%) 179(78.5) 35(15.4) 10(4.4) 4(1.8) 初回(%) 59(60.8) 30(30.9) 4(4.1) 4(4.1) 複数回(%) 179(76.5) 37(15.8) 12(5.1) 6(2.6) 初回(%) 19(23.5) 15(18.5) 14(17.3) 33(40.7) 複数回(%) 125(57.3) 46(21.1) 15(6.9) 32(14.7) 初回(%) 12(14.6) 4(4.9) 9(11.0) 57(69.5) 複数回(%) 61(21.3) 45(15.7) 32(11.1) 92(44.9) 初回(%) 4(5.0) 6(7.5) 8(10.0) 62(77.5) 複数回(%) 26(13.1) 26(13.1) 24(12.1) 123(61.8) 初回(%) 11(13.6) 16(19.8) 26(32.1) 28(34.6) 複数回(%) 68(33.0) 68(33.0) 45(21.8) 25(12.1) 初回(%) 18(20.9) 19(22.1) 20(23.3) 29(33.7) 複数回(%) 60(28.8) 63(30.3) 47(22.6) 38(18.3) マスカット・ ベーリーA 甲州 藤稔 ゴルビー 巨峰 デラウェア ピオーネ シャイン・ マスカット 甲斐路 初回 複数回 回答数(%) 回答数(%) ブドウ狩りをする 50(53.2) 111(51.4) ブドウを食べる 20(21.3) 47(21.8) ブドウを購入する 23(24.5) 102(47.2) ブドウのスイーツを食べる 6(6.4) 13(6.0) ワイナリーへ行く 35(37.2) 91(42.1) ワインを試飲する 48(51.1) 82(38.0) 醸造工程を見学する 8(8.5) 19(8.8) ワインを購入する 21(22.3) 67(31.0) 郷土料理を食べる 25(26.6) 70(32.4) 果物(ブドウ以外)のスイーツを食べる 7(7.4) 14(6.5) ワインを飲みながらそれにあった料理を楽しむ 10(10.6) 29(13.4) ブドウ畑の景色を見る 35(37.2) 71(32.9) 名所旧跡を訪ねる 4(4.3) 7(3.2) 温泉に入る 18(19.1) 57(26.4) ハイキングをする 6(6.4) 2(0.9) その他 1(1.1) 12(5.6) (N=310) 来訪回数 来 訪 目 的 表-3 ブドウ品種の認知度

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(3) 現地における観光行動の特性 1) 現地まで及び域内での交通手段 現地までの交通手段は自動車(50%)、電車(34%) が多数を占めている。また、域内での交通手段につ いては、自家用車(36.3%)、徒歩(32.5%)、バス (14.0%)、タクシー(8%)、観光バス(5.7%)、レン タカー(3.2%)、レンタサイクル(0.6%)となって いる。現地に自動車で来訪した旅行者は 84.1%が域 内移動も自動車を利用し、同様に電車で来訪した旅 行者については徒歩(64.6%)、バス(20.0%)の利 用が多数を占めている。図-2 に示したように拠点 となる勝沼ぶどう郷駅から観光ブドウ園・ワイナ リー等が集中するエリアへは距離・高低差があり、 徒歩での移動は相当の時間を要する。そのため、徒 歩での域内移動の場合は、拠点となる駅に近接する 勝沼ぶどうの丘及びその周辺の観光ブドウ園などが 主たる観光対象となっている。 2) 現地での行動 現地における行動について把握するため、時系列 で立ち寄り先、実施内容、交通手段を質問した。得 られた回答をもとに、現地での行動を以下の5 つに 類型化したうえで整理した。 ①ぶどうの丘のみの来訪 ②ぶどうの丘+観光ブドウ園(ブドウ購入やブドウ 狩り等)(+その他観光施設(ワイナリー以外)) ③ぶどうの丘+ワイナリー(ワイン購入や食事等) (+その他観光施設(観光ブドウ園以外)) ④ぶどうの丘+観光ブドウ園+ワイナリー(+その 他観光施設) ⑤ぶどうの丘来訪+観光施設(観光ブドウ園・ワイ ナリー以外) そして、得られたデータをもとに、前述の域内交 通手段、現地までの交通手段、来訪目的でクロス集 計をおこなった。表-4 は主要な項目を抜粋したも のである。 来訪先については、②(41.7%)、①(28.4%)の順 で多いが、ぶどうの丘のみを来訪している層が3 割 近く存在することは注目される。 また、これらについて、域内交通との関係をみる と、①は徒歩(52.5%)、②は自家用車(43.9%)利 用者が多い。徒歩で移動する来訪者の 41.2%が①、 自家用車利用者の 43.9%が②の行動パターンをとっ ている。 現地までの交通手段との関係では、②は自家用車 が 58.0%に及び、電車の 33.0%との違いが顕著であ る。また、自家用車利用者の50.0%は②の行動パター ンをとっている。 さらに、来訪目的との関係では、ブドウ購入と回 答した人の 42.1%は①を選択していることは、域内 の回遊性を考えるうえで重要である。なお、ブドウ 狩りと回答した人の 64.0%が②を選択しており、ワ イナリーへの訪問とセットにはなっていないケース が多いことがわかる。 以上のことから、現地への来訪手段としての「電 車」、現地における移動手段としての「徒歩」が域内 全体への回遊行動のひとつの障壁となっており、あ 自家用車 徒歩 合計 自家用車 電車 合計 ブドウ狩り ブドウを買う 合計 回答数 12 21 40 27 30 60 11 16 60 ABC内の全体に占める割合 30.0% 52.5% ー 45.0% 50.0% ー 18.3% 26.7% ー ①〜⑤全体に占める割合 21.1% 41.2% 27.4% 26.5% 34.5% 28.4% 9.9% 42.1% 28.4% 回答数 25 15 57 51 29 88 71 10 88 ABC内の全体に占める割合 43.9% 26.3% ー 58.0% 33.0% ー 80.7% 11.4% ー ①〜⑤全体に占める割合 43.9% 29.4% 39.0% 50.0% 33.3% 41.7% 64.0% 26.3% 41.7% 回答数 9 7 25 10 19 33 7 8 33 ABC内の全体に占める割合 36.0% 28.0% ー 30.3% 57.6% ー 21.2% 24.2% ー ①〜⑤全体に占める割合 15.8% 13.7% 17.1% 9.8% 21.8% 15.6% 6.3% 21.1% 15.6% 回答数 8 6 14 10 5 17 14 1 17 ABC内の全体に占める割合 57.1% 42.9% ー 58.8% 29.4% ー 82.4% 5.9% ー ①〜⑤全体に占める割合 14.0% 11.8% 9.6% 9.8% 5.7% 8.1% 12.6% 2.6% 8.1% 回答数 3 2 10 4 4 13 8 3 13 ABC内の全体に占める割合 30.0% 20.0% ー 30.8% 30.8% ー 61.5% 23.1% ー ①〜⑤全体に占める割合 5.3% 3.9% 6.8% 3.9% 4.6% 6.2% 7.2% 7.9% 6.2% 回答数 57 51 146 102 87 211 111 38 211 ABC内の全体に占める割合 39.0% 34.9% ー 48.3% 41.2% ー 52.6% 18.0% ー ③ ④ ⑤ 合計 行動パターン A.域内交通手段(N=146) B.現地までの交通手段(N=211) C.来訪目的(N=211) ① ② 表-4 行動パターンと交通手段・来訪目的の関係

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わせて、ブドウの購入が主たる来訪目的となること で、鉄道駅近接の観光拠点施設のみの滞在で目的を 達せられる状況を生み出していることが指摘できる。 (4)小結 ブドウという高付加価値の果樹等を観光資源とし た勝沼地域では、リピーター層ほどブドウ品種など の摂取経験も多く、ブドウの購入が来訪目的とも なっていた。観光資源が高付加価値であるがゆえに、 購入が来訪目的の中心となっていくことは当然のこ とともいえる。しかし、購入が来訪目的となること で、域内の回遊性が低下しており、駅にも近接した 観光拠点施設周辺への滞在に留まっていることも データから明らかとなった。 畑の景観などブドウ・ワインに関する地域資源を 多角的に発信し、魅力ある観光コンテンツとしてい くためには、観光ブドウ園、ワイナリーなどが集中 して立地するエリア(図-2)への回遊性を高めてい くことが求められる。そうしたことは、結果的に、 観光を通じたブドウ・ワインのさらなる消費拡大に 対しても効果的である。その点において、農村地域 ゆえの域内交通の制約は大きな課題といえ、手段の 多様化は、購入にとどまらない農村観光を促進する うえで重要である。 4.レンタサイクルを用いた観光行動の解析 (1) レンタサイクル及びデータの概要 現在、勝沼地域では、自家用車、徒歩以外で時間 的制約を受けない域内交通手段としてレンタサイク ルがある。 甲州市役所が運用しているレンタサイクルシステ ム「ぐるりん」は2016 年 4 月に供用が開始され、電 動アシスト自転車30 台で運用されている。 貸出、返却(乗捨を含む)のためのポートは、市 内3 ヶ所(JR 中央本線塩山駅、勝沼ぶどう郷駅、甲 州市役所勝沼支所)に設置され、旅行者を中心に利 用が利用されている。利用時には、搭載されたGPS ロガーによって位置情報が 3 分間隔で取得され、 サーバー上に保管される。 本研究では、甲州市役所及び株式会社ドコモ・バ イクシェアから提供を受けた2018 年 9 月 2 日から 2019 年 9 月 1 日(365 日分)に自転車管理番号別に 取得されたログデータ(タイムスタンプ、位置座標) を分析対象とした。自転車管理番号及びタイムスタ ンプに基づいてレンタサイクルの利用状況について 把握するとともに、タイムスタンプ及び位置座標を もとに季節等をふまえた行動特性の比較をおこなっ た。後者については、ログデータの前処理をおこなっ たうえで、GIS ソフ 2 トウェアである ESRI ArcGIS Desktop(ver.10.7)を用いて、位置座標のカーネル 密度、移動ルートの線密度について月別の解析処理 をおこなった。 (2) 利用状況 各月の対象日数及びレンタサイクルの延べ稼働台 数(平日/土休祝日)を表-5 に整理する。 延べ稼働台数の日平均をみると、4、5 月及び 8〜 11 月は土休祝日では 10 台/日を超えており、それ 以外の月と二極化している。また、ブドウの収穫シー ズンと重なる9、10 月は平日の稼働台数も多い。他 方、5 月、11 月などは土休祝日と平日の稼働台数に 大きな差があり、土休祝日の日平均が平日の 4.4 倍 (台) (人) 図-3 入込客数とレンタサイクル延べ稼働台数 の変動比較(入込客数:2017-2018 年/稼働台 数:2018-2019 年) 表-5 レンタサイクルの月別利用状況 平日 (日平均) 土休祝日 (日平均) 日平均比較 (休日/平日) 2018年 9月 29(11) 300(10.3) 129(7.2) 171(15.5) 2.2 2018年10月 31( 9) 334(10.8) 162(7.4) 172(19.1) 2.6 2018年11月 30( 9) 223 (7.4) 93(4.4) 130(14.4) 3.3 2018年12月 31(11) 76 (2.5) 33(1.7) 43 (3.9) 2.3 2019年 1月 31(10) 75 (2.4) 41(2.0) 34 (3.4) 1.7 2019年 2月 28( 9) 63 (2.3) 38(2.0) 25 (2.8) 1.4 2019年 3月 31(11) 147 (4.7) 70(3.5) 77 (7.0) 2.0 2019年 4月 30(10) 241 (8.0) 106(5.3) 135(13.5) 2.5 2019年 5月 31(12) 180 (5.8) 47(2.5) 133(11.1) 4.4 2019年 6月 30(10) 113 (3.8) 48(2.4) 65 (6.5) 2.7 2019年 7月 31( 9) 110 (3.5) 61(2.8) 49 (5.4) 1.9 2019年 8月 31(10) 250 (8.1) 113(5.4) 137(13.7) 2.5 合 計 364(121) 2112 (5.8) 941(3.9) 172 (9.7) 2.5 対象日数 (うち休祝日) 延べ稼働台数

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(5 月)、3.3 倍(11 月)と他の月に比して顕著に高く なる。 なお、表-6 の通り、例年、勝沼地域の入込客数 はブドウの収穫シーズンにあわせて例年7〜10 月に 急増するが、レンタサイクルの稼働は8〜11 月に利 用が増える。また、4〜5 月にも増加する時期がみら れる。ブドウシーズン終了後の11 月土休祝日の稼働 台数などもあわせて考えると、レンタサイクルの観 光利用は、収穫シーズンにおけるブドウ購入・ブド ウ狩りのみに限定しない多様な目的が推測される。 (3) レンタサイクルを利用した観光行動の特性 レンタサイクル利用者の滞留や移動ルートについ て検討するため、位置座標のカーネル密度及び移動 ルートの線密度について時期別に解析した。ここで は、旅行者による利用が多いと考えられる土休祝日 について、データの絶対量の違いによる偏りを避け るため、日平均の稼働台数が多い月(10 台/日以上) を対象に検討する。対象となったのは、2018 年 8 月〜 11 月及び 2019 年 4 月〜5 月(6 ヶ月)である(表- 5 網掛け)。 そして、対象とする6 ヶ月間の解析から得られた時 期ごとの傾向を踏まえ、対象期間を4・5 月(春)、8〜 10 月(夏〜秋:ブドウシーズン)、11 月(秋:新酒シー ズン)の3 時期に区分して再解析した(図-4、5)。 いずれの時期においても、カーネル密度解析から、 ワイナリー周辺の密度が高くなっており、密度が高 くなるワイナリーに違いはあるものの、いずれの時 期においてもレンタサイクルを用いたワイナリーへ の訪問が積極的におこなわれているといえる。 他方、時期的な違いについては以下の点が指摘で きる。 4・5 月は、カーネル密度解析からはワイナリーを 中心に滞留がみられるが、他の時期と比べて顕著な 傾向はみられない。他方、移動ルートの線密度は対 象地域南部に高密度のエリアがみられた。扇状地ゆ えに勝沼バイパス以南は勾配がきつくなり、南ほど 標高が高い。そうしたことから新緑あるいは桃の花 を俯瞰する景観を目的とした移動がおこなわれてい ることが推測される。このように、春は、特定地点 への滞留の集中が限られているなかで、広範囲への 図-4 レンタサイクル移動軌跡のカーネル密度分析(1:4-5 月 2:8-10 月 3:11 月) ベースマップ:(C)OpenStreetMap Contributors 図-5 レンタサイクル移動軌跡の線密度分析(1:4-5 月 2:8-10 月 3:11 月) ベースマップ:(C)OpenStreetMap Contributors

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移動がおこなわれていることから、農村景観を目的 としたサイクリング需要が生まれているといえる。 8 月〜10 月は、カーネル密度の高いエリアが他の 時期と比べて比較的広範にわたっており、特に、観 光ブドウ園が集中するエリアや歴史的町並みが受け 継がれる甲州街道沿い(旧勝沼宿)のエリアなどで は面的に高くなっていることは特筆される。なお、 これを月別にみると、観光ブドウ園が集中するエリ アへの面的な滞留は10月に比べて8月のほうが顕著 である (5)。他方で、歴史的町並みが残るエリアへの 滞留の集中については当該期間に共通しており、ワ イン・ブドウとあわせて、町並みなどの地域資源に も来訪者の意識が向いていることが指摘できる。ま た、移動ルートの密度の高いエリアは3 時期のなか でもっとも狭く、特に主要な貸出ポートである勝沼 ぶどう郷駅から距離的に遠いワイナリーに向かう行 動の流れは他の時期と比べても顕著に希薄である。 11 月になると、カーネル密度の高いエリアはワイ ナリーに集中し、対象3 時期において最も明瞭に点 をなしている。山梨県産の新酒(ワイン)は11 月 3 日を解禁日とすることが、2008 年に山梨県ワイン酒 造組合によって定められた。そのため、11 月はさま ざまなイベントが実施されるとともに、ワインを目 的とした来訪が盛んになる。そうしたことがレンタ サイクルによる行動にも影響を与えているといえる。 こうした傾向は、行動ルートの線密度にも顕著に現 れている。 (4) 小結 本稿における分析対象とした利用頻度の高い3 時 期に限ってみた場合、レンタサイクル利用者の観光 行動は、いずれの時期においてもワイナリー来訪が 大きな目的となっている。ただし、もうひとつの主 要な観光資源であるブドウの収穫時期においては、 観光目的も多様化し、ぶどう狩りや町並み等、多様 な観光資源が対象とされており、時期による違いも みられる。 また、いずれの時期においても、移動ルートは幹 線道路以外にも広がっており、集落内、あるいはブ ドウ畑のあいだに位置する道路などを利用して移動 していることも推測される。こうしたことから、レ ンタサイクルの利用は農村景観など多様な資源に触 れられる域内交通手段として機能しているといえる。 5.おわりに 農村観光全般において、「農山漁村で魅力に感じる 体験」に関する主要な回答は、「自然の風景、景観」 (80.1%)、「郷土料理などの食体験」(50.6%)、「温泉 入浴」(35.1%)、「果物・野菜などの収穫」(28.9%)、 「里山・森林の散策」(27.1%)、「特産品などの買い 物」(22.3%)となるアンケート調査結果 (6)が報告さ れている。 他方、本稿の分析を通じて、高付加価値の果樹の 典型であるブドウなどを資源とした代表的な観光地 域である勝沼地域では、購入することそのものが主 たる来訪目的のひとつとして位置づいていることが 明らかとなった。それはリピーター層ほど顕著であ り、さまざまな品種を認知するなど産地に関する情 報も得ている一方で、購入が目的化することで旅行 者の回遊性は低下している。また、現地までの交通 手段が自家用車・電車、域内交通手段が自動車・徒 歩となることは、観光対象のあいだの点的な移動、 また、時間的制約等に繋がり、十分な回遊性に繋がっ ていない。それでもリピーターを獲得できている要 因は、高付加価値の果樹という観光資源の特性(購 入が目的化)に依拠するところが大きいだろう。 また、現在、地域で稼働しているレンタサイクル は、稼働台数自体は限定的であるものの、ワイナリー への来訪を中心に、時期に応じた地域の観光資源を 回遊する手段となっている。主要道路から外れた場 所も移動ルートとなっており、景観等を含め、面的 に地域資源を享受することにもつながっている。こ の点にレンタサイクル等の域内交通手段が回遊行動 の広がりに資する可能性を指摘できる。 高付加価値の果樹が観光資源であることは、産地 の価格面での優位性、産地ならではの体験の提供な ど観光との親和性が高い。そして、「購入」が来訪の 目的化することで、リピーター層の比率が高くなり、 持続的な入込客数の確保につながるという特性があ る。他方、来訪目的の画一化は、現地での行動が観 光拠点施設での購入に留まり、多様な観光行動につ ながらず、また、より俯瞰的な地域の魅力の認知に つながらないという状況も招く。 こうした一連の特徴は、農村観光のなかでも、特 に高付加価値の果樹が観光資源として位置づくこと によってみられる特性として理解できる。その点で、 農村観光の促進にあたっては、観光対象となる農作

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物がもつ観光的な特性を踏まえた観光動向の把握と それをもとにした観光地経営に関する議論の充実が 期待される。 謝辞:レンタサイクル「ぐるりん」の移動軌跡データの提 供については、甲州市役所観光商工課、株式会社ドコモ・ バイクシェアの協力を得た。また、アンケート調査の実施 にあたっては、岩田美耶氏の協力を得た。感謝申し上げ ま す。 なお、本稿は令和元年度山梨大学地方創生支援教育研究 プロジェクト「農山村における地域ストーリー(物語性) の形成とそれを活かした観光資源発信手法の検討」(研究 代表者:菊地淑人)の成果の一部である。 【補注】 (1) 勝沼ぶどう郷周辺、2018 年(平成 30 年山梨県観光入 込客統計調査報告書)。 (2) 別設問において勝沼地域来訪前後の来訪先について 訪ねたところ、来訪前については57.6%、来訪後につ いては63.2%が「特になし」と回答している。 (3) 甲斐路、藤稔、ゴルビー。 (4) 甲州、マスカット・ベーリーA。 (5) 10 月には範囲が狭まり、一部の観光ブドウ園に集中す るようになる。また、8 月は大規模観光施設(ハーブ 庭園旅日記)への来訪も集中しており、お盆・夏休み 等を背景とする比較的多目的での来訪が推定される。 (6) 農協観光(2016):『平成 27 年度都市農村共生・対流 総合対策交付金 観光と連携したグリーン・ツーリズ ムの推進 報告書』。2015 年 9 月 25 日(金)~27 日 (日)にツーリズムEXPO ジャパン 2015 来場者を対象 に実施した調査データ。複数回答、N=291。 【引用・参考文献】 1) 大野剛志(2010):グリーン・ツーリズム導入における 新規参入者の役割:北海道夕張郡長沼町R区を事例とし て,村落社会研究ジャーナル17,pp.11-22 2) 鬼山るい,中島正裕(2016):グリーン・ツーリズムの 持続的な運営に向けた関係組織の特性分析―群馬県利 根郡みなかみ町「たくみの里」を事例として―,農村 計画学会誌35,pp.327-332 3) 蔵本祐大,十代田朗,津々見崇(2019):わが国の国際 グリーン・ツーリズムの受入態勢に関する研究,観光 研究30(1),pp.19-28 4) 杉本興運,岡野祐弥,菊地俊夫(2013):レンタサイク ル利用による観光回遊行動の実態:長野県安曇野市に おけるGPS・GIS 支援による調査とデータ解析,観光 研究24(2),pp.15-27 5) 福永万里子,柴田祐(2016):農家民宿を繰り返し訪れ る要因と地域との交流に関する研究,日本建築学会研 究報告 九州支部 計画系55,pp.377-380 6) 山梨大学大学院総合研究部生命環境学域菊地研究室・ 甲州市教育委員会編(2019):勝沼のブドウ畑及びワイ ナリー群の文化的景観調査報告書,甲州市・甲州市教 育委員会 (受稿 2020 年 5 月 30 日) (受理 2020 年 8 月 20 日)

参照

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