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脳虚血症状で発症した急性大動脈解離の2症例

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Academic year: 2021

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症例報告

脳虚血症状で発症した急性大動脈解離の 2 症例

高橋 祐一1) 越阪部 学1) 東田 哲博1) 内田 貴範1) 金澤隆三郎1)  要旨:脳卒中診療において脳虚血症状で発症した急性大動脈解離を鑑別することは,単に致死的 疾患である大動脈解離を正しく診断することだけでなく,不適切な rt-PA 静注療法を避けるといった 点で非常に重要である.脳虚血症状を伴う急性大動脈解離は,頻度は低いが,意識障害や失語症と いった神経症状を伴い,脳卒中疑いで搬送される可能性がある.大動脈解離は解離部位に応じて非 特異的で多彩な症状を呈しうる.胸背部痛の訴えがなく脳虚血症状で発症した急性大動脈解離を見 逃さないために,血圧低値や左右差,胸部 X 線の縦郭拡大,D ダイマー高値といった急性大動脈解 離の臨床像を理解しておく必要がある.補助的画像検査の中で,頸部 MRA は,脳梗塞の病態評価 に有用である一方で,大動脈解離の補助的検査にもなり得る検査である.胸痛を伴わずに脳虚血症 状で発症し,最終的に急性大動脈解離の診断に至った 2 例を文献的考察を交えて報告する.

Key words: aortic dissection, painless, ischemic stroke, cervical MRA

1)流山中央病院脳神経外科 責任著者:〒270-0114 千葉県流山市東初石 2-132-2 流山中央病院脳神経外科 高橋祐一 E-mail: [email protected] (2020 年 3 月 31 日受付,2020 年 5 月 19 日受理) doi: 10.3995/jstroke.10810 はじめに  急性大動脈解離は,遺伝子組み換え組織型プラスミ ノーゲン・アクチベーター(recombinant tissue-type plas-minogen activator: rt-PA)静注療法の除外項目の一つであ り,脳卒中診療で見逃してはならない疾患である.一方 で,急性大動脈解離はしばしば診断が困難であり,診断 がつく前に rt-PA が投与され死亡に至った例も報告され ている1).脳虚血症状を伴う急性大動脈解離は,頻度は 低いが,意識障害や失語症といった神経症状が加わるこ とで診断の難易度が高まる.確定診断には頸動脈超音波 検査や造影 CT といった補助的画像検査が必要である が,各検査には一長一短があり,時間的制約の強い脳卒 中診療では適切に必要最小限の検査を選択する必要があ る.今回我々が経験した脳虚血症状で発症した大動脈解 離の症例をもとに,後方視的な視点から,脳卒中診療に おける鑑別診断としての急性胸部大動脈解離の臨床像や 画像所見について文献的考察を交えて報告する. 症  例  症例 1:70 歳,男性  主訴:左半身脱力  既往歴:不整脈(詳細不明)  現病歴:バイク運転中に自己転倒し,左片麻痺を認め たため,脳卒中疑いで救急搬送された.

 来院時現症:Japan Coma Scale(JCS) I-2,右上肢血圧 166/88 mmHg,脈拍 58 回/分,整,胸痛の訴えなし.顔 面を含む左片麻痺,右共同偏視,構音障害を認め,Na-tional Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS) 13 点.  初診時画像所見:胸部 X 線で明らかな縦郭拡大は認 めなかった.頭部単純 CT で明らかな急性期虚血性変化 は認めなかった.MRI 拡散強調画像で右島皮質に淡い 高信号域を認めた(Fig. 1A).MRA で右内頸動脈に起始 部から 35 mm にわたり狭窄を認めた(Fig. 1B).MRA 元 画像において右総頸動脈の信号異常が見られ,通常の頸 動脈狭窄症とは異なると思われたため(Fig. 1B-2),造影 CTを施行したところ,Stanford A 型の急性大動脈解離 と診断できた(Fig. 1C).近隣病院心臓血管外科に転送 し,緊急で大動脈置換術を施行,その後再度当院に転院 しリハビリテーションを行い,第 56 病日に modified Rankin scale(mRS) 1 で自宅に退院した.90 日後の外来 診察時,明らかな運動感覚障害は認めず,軽度の注意障 害のみ残存し,mRS 1 であった. 脳卒中 43: 235–239, 2021

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 症例 2:91 歳,男性  主訴:左半身脱力  既往歴:腹部大動脈瘤の血栓化による腹部大動脈閉 塞,4 カ月前に腸切除術.  現病歴:起床後に自室内で倒れているところを発見さ れた.救急隊接触時,開眼するも有意な発語なく,左片 麻痺を認めたため,脳卒中疑いで救急搬送された.  入院時現症:JCS II-10,右上肢血圧 95/59 mmHg,脈 拍 55 回/分, 整, 胸 痛 な し, 左 不 全 片 麻 痺,NIHSS 6 点.発症前の mRS は 1 であった.  初診時画像所見:胸部 X 線で明らかな縦郭拡大は認 めなかった.頭部単純 CT で明らかな急性期虚血性変化 は認めなかった.MRI 拡散強調画像で右島皮質,前頭 葉に淡い高信号域を認めた(Fig. 2A).MRA で右総頸動 脈から内頸動脈終末部の信号が欠損していた(Fig. 2B, C).  入院後経過:明らかな不整脈は認めないものの, MRA所見より何らかの塞栓性機序による右総頸動脈閉 塞症と診断した.本症例は,高齢であることに加え,4 カ月前に腸切除術を施行した既往を有しており,腹部大 動脈閉塞が既知であった.血栓回収術を行う場合,穿刺 部位として頸部,右肘動脈しかなく,rt-PA 投与の禁忌 ではないが,穿刺部他の出血性合併症リスクが高いと判 断した.当施設では,病前 ADL が良好であれば高齢で も治療を行うことがあり,本症例も病前の ADL は良好 に保たれていたため,家族と協議したうえで,rt-PA は 投与せずに血管内治療で血行再建を試みる方針とした.  血管内治療:右肘動脈は拍動が微弱であったため,右 総頸動脈を直接穿刺し病変にアプローチする方針とし た.右総頸動脈前壁を穿刺し,血管走行を確認するため に穿刺針から造影し,カテーテル挿入可能と判断した (Fig. 3A).9Fr シースを留置し,9Fr OPTIMO(東海メ ディカルプロダクツ,愛知)を右内頸動脈に留置した.1 回の穿刺で真腔を捉えることができ,その際に血管壁の Fig. 1 症例 1 70 歳 男性 A :DWI.右島皮質に淡い高信号域 B :頸部 MRA.TOF では右内頸動脈起始部に狭窄を認める.元画像では右内頸動脈狭窄(B-1)のみなら ず右総頸動脈に解離による double lumen を認める(B-2). C :造影 CT.Stanford A 型大動脈解離が確認された. Fig. 2 症例 2 91 歳 男性 A :DWI.右内包後脚,島皮質に淡い高信号域 B :頸部 MRA.TOF では右総頸動脈から右内頸動脈の描出がみられない. C :頸部 MRA 元画像.右総頸動脈の信号が消失している. A B B-1 C B-2 A B C

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異常は感知しなかった.撮影すると右内頸動脈は完全閉 塞していた(Fig. 3A).OPTIMO で右内頸動脈を遮断し 用手的に吸引すると,ゼリー状の新鮮な血栓が回収さ れ,右内頸動脈は末梢まで完全に再開通した.内頸動脈 近位部に動脈解離を疑う血管壁不整を認めたが,内頸動 脈分岐部に異常はなく(Fig. 3B,C),OPTIMO による血 管壁損傷が原因と考え,Carotid Wallstent 6×22 mm(Bos-ton Scientific, Marlborough, MA, USA)を 展 開 留 置 し た (Fig. 3D).穿刺部は直視下で縫合し手術を終了した.  術後経過:帰室後,上肢血圧の明らかな左右差に気づ き造影 CT を施行したところ,Stanford A 型の急性大動 脈解離を認めた(Fig. 3E,F).近隣病院心臓血管外科に 転送し緊急で大動脈置換術を施行するも,第 35 病日に 多臓器不全により永眠された.  本症例を報告するにあたり,それぞれ患者家族の同意 を得ている. 考  察  脳血管疾患の発症率は人口 10 万対 166 人2),一方, 大動脈瘤および解離の発症率は同 3 人3)と,単純な発症 率でも約 55 倍の差がある.脳虚血症状を呈する症例は 急性大動脈解離全体の 4.7∼32%4, 5)とされており,単純 に合算すると,脳卒中症状で発症した最大約 1000 例に 1例の割合で急性大動脈解離症例が潜んでいることにな る.Sakamoto らは,脳卒中疑いで搬送された症例の 0.31%が急性大動脈解離であったと報告している6).本 邦では,2005 年 10 月に rt-PA による血栓溶解療法が承 認された後,脳虚血症状を呈した急性大動脈解離患者に rt-PAが投与され死亡した例が 10 例報告された.この報 告を受けて日本脳卒中学会から注意喚起がされた1).し かしながら,近年においても急性大動脈解離に rt-PA を 投与してしまった事例がしばしば報告されている7).急 性期脳卒中診療の限られた時間の中で急性大動脈解離を 診断することがいかに難しいかということがわかる.  診断を困難にしている理由の一つは急性大動脈解離の 臨床像である.急性大動脈解離は,胸背部痛,腹痛,失 神,冷汗といった非特異的な症状をはじめとして,解離 する部位に応じてさまざまな臓器症状を呈するが,急性 大動脈解離の 10∼55%は胸背部痛を伴わないとされ Fig. 3 症例 2 血管内治療術中所見と胸部造影 CT A :右総頸動脈撮影.右内頸動脈は近位部で閉塞している(矢印). B :血栓回収後,右内頸動脈は再開通したが,起始部に解離所見(二重矢印)を認めた. C :頸動脈分岐部には明らかな異常所見は認めない(破線矢印). D :ステント留置後.ステントより近位側には明らかな異常所見は認めない(破線矢印). E,F:造影 CT で Stanford A 型の急性大動脈解離と診断.矢印は偽腔. A B C D E F

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る8).さらに脳虚血症状としての意識障害や失語症が加 わることにより,患者からの自覚症状,病歴聴取が困難 となり,診断を難しくさせている.脳卒中診療を行いな がら大動脈解離を診断するには,急性大動脈解離の臨床 像を理解し,まず疑うことが重要である.急性大動脈解 離は非特異的で多彩な症状を呈しうるが,過去の報告に て,上肢血圧の左右差,血圧低値,縦隔拡大,D-dimer 高値が有用な所見と言われている7, 9–11).特に血圧低値 や左右差は橈骨動脈を触知するだけでわかる可能性があ り,まず行うべき身体診察の一つである.  補助的画像検査として,造影 CT,頸動脈超音波検査 が大動脈解離の診断に有用であることはこれまでも報告 されている.頸動脈超音波検査では総頸動脈に及んだ動 脈解離や血流障害を検出できるとされている11–13).確か に頸動脈超音波検査は非侵襲的で簡便な検査であるが, 古賀らが行った全国アンケート調査において,脳卒中診 療の中で頸動脈超音波検査の施行率は 26%と報告され ている7).当施設のように救急室に装置を配置していな い場合や,配置してあっても脳卒中診療に普及していな いことが課題である.造影 CT は 1 回の撮影で大動脈弓 部から頸部,頭部まで含めた評価が可能であり,感度, 特異度ともに高く4),臨床所見で大動脈解離を疑う場合 には直ちに行うべき検査である.さらに CT perfusion を 用いれば梗塞巣からペナンブラ領域の評価を行うことも 可能である14).近年,造影 CT による造影剤腎症の発生 率は従来考えられていたよりも低い可能性があることが 報 告 さ れ て い る15)が, 腎 機 能 低 下(eGFR<60 ml/min/ 1.73 m2)や加齢は造影剤腎症のリスクファクターとされ ており注意が必要である16)  頸部 MRA は低侵襲で総頸動脈から内頸動脈の所見を 得ることができる.Matsumoto らは,総頸動脈の信号に 注目することで大動脈解離の診断の一助となったことを 報告している17).解離が頸部総頸動脈に及ぶ場合は,症 例 1 のように元画像で解離腔を直接確認できることがあ り,また,解離が総頸動脈起始部にとどまる場合でも, 総頸動脈の血流が低下すれば MRA の信号が減弱し異常 を検知することができる.通常の頭部 MRI/MRA に加え て,約 3∼4 分程度の時間で頸部 MRA が撮影できるた め,時間的効率も優れている.阿部らは,胸部大動脈解 離のスクリーニングとして大動脈弓 MRA の有効性を報 告しているが18),呼吸や心拍動のアーチファクトの影響 で診断の精度に課題が残る.  当施設では,従来より脳梗塞診断において MRI を基 本検査とする体制を採っており,MRA は頸動脈狭窄症 の有無を同時に診断し,さらに元画像から解離などの鑑 別に役立てるため,頸部から頭蓋内の撮像をルーティン としている.必要と判断した場合や MRI ができない症 例に対しては胸部から頭蓋内を撮像範囲とする CTA を 施行している.救急室に超音波検査機器を常備していな いためこれは行っていないが,各検査法の長所を有効に 活用することで大動脈解離の診断に役立つものと考えら れる.  今回提示した 2 症例は,いずれも脳虚血症状で発症 し,胸痛の訴えのない急性胸部大動脈解離の症例であ る.超急性期脳血管障害を疑われて救急搬送されてお り,血栓溶解療法や急性期血行再建術を念頭に置き診療 が進められた.いずれの症例も搬送直後は急性大動脈解 離を疑っておらず血圧測定も片側でしか行っていなかっ たことが反省点である.症例 1 は,血圧低値の所見もな く,臨床所見では単純な脳血管障害と区別することが困 難であったが,MRA の元画像で総頸動脈の解離に気づ き,CTA で確定診断に至ることができた.症例 2 で は,右上肢の拍動も弱く,後方視的に見ると大動脈解離 を疑うことができる所見ではあったが,腹部大動脈閉塞 をはじめとして慢性閉塞性動脈硬化症の診断もされてい たため,塞栓症と思い込んだことにより解離という観点 を失っていた.術中画像を後方視的にみると,シース留 置直後の造影で穿刺部より近位の総頸動脈に解離を否定 できない所見がわずかに認められるが,この段階で穿刺 部より近位の所見に着目することはなかった.再開通後 においても,遠位総頸動脈から内頸動脈移行部に有意な 異常所見がなかったため,内頸動脈の解離所見はカテー テルによる機械的損傷が原因で同部位に限局した病変と 判断し,ステント留置を行った.その後,上肢血圧の明 らかな左右差が判明し,CTA で確定診断に至ったもの である.脳卒中診療を行うにあたり,頻度は低いが急性 大動脈解離が紛れている可能性を念頭に置かなければい けないことを改めて痛感した. 結  語  脳虚血症状で発症した胸痛を伴わない急性胸部大動脈 解離を 2 例報告した.脳卒中診療を行うにあたり,まず は両側橈骨動脈の脈拍触知や両上肢の血圧測定を行い異 常の有無を確認することが大動脈解離の鑑別に重要であ る.頸部を含めた MRA とその元画像を観察する際は, 解離の可能性を鑑別に置いたうえで,他の検査と相補的 に用いることが大動脈解離の診断に有用と考えられた.  著者は日本脳卒中学会への COI 自己申告を完了して おり,本論文の発表に関して,開示すべき COI はない.

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Abstract

2 cases of cerebral ischemic attack caused by painless acute aortic dissection

Yuichi Takahashi, M.D., Ph.D.,1)

Manabu Osakabe, M.D.,1)

Tetsuhiro Higashida, M.D., Ph.D.,1) Takanori Uchida, M.D.,1)

and Ryuzaburo Kanazawa, M.D., Ph.D.1) 1)

Department of Neurosurgery, Nagareyama Central Hospital

Differentiating acute aortic dissection that develops cerebral ischemic symptoms in stroke practice is very impor-tant for avoiding inappropriate IV rt-PA therapy beyond delaying treatment of acute aortic dissection. Although acute aortic dissection with cerebral ischemic symptoms is infrequent, it may exist in patients who are suspected of stroke with neurological symptoms such as unconsciousness and aphasia. Acute aortic dissection can be non-specific and may depend on various symptoms such as where the tear is located in the aorta. In order to not miss out acute aortic dissection that develops with cerebral ischemic symptoms without chest and back pain, it is necessary to understand the clinical findings of acute aortic dissection such as low blood pressure, difference of right and left blood pressure, mediastinal widening on chest X-ray, and high D-dimer. In an auxiliary imaging operation, cervical MRA is useful not only for the evaluation of pathophysiology of cerebral infarction but also to diagnose acute aortic dissection. We report two cases of acute thoracic aortic dissection that developed with cerebral ischemic symptoms without chest pain along with a literature review.

Key words: aortic dissection, painless, ischemic stroke, cervical MRA 参考文献

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参照

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