実践研究 ■要旨:研究の目的:特別支援学級在籍児童の漢字学習において、筆記回数と書きの再生成績の関係を明らかにする ことを目的とした。研究計画:操作交代デザインを用いた。場面:小学校の教室で実施した。参加者:特別支援学級 に在籍する 6 名の児童であった。独立変数の操作:筆記回数を 5 試行ごとに 3 回~ 7 回に変更し、以下の 5 種類の学 習方法を実施した。S1:空中に指で漢字を書く「空書きによる同時再生」、S2:紙面に指で漢字を書く「指書きによ る同時再生」、S3:薄い灰色の線を鉛筆でなぞる「同時再生+薄線プロンプト」、S4:手本を鉛筆で書き写す「同時 再生」、S5:手本を隠して鉛筆で書く「遅延再生」。行動の指標:学習直後および翌日に実施した書きテストにおけ る再生成績を比較した。結果:学習直後のテストでは 3 回筆記- 7 回筆記の間に大きな差は見られず、学習方法間で の再生成績の差が大きかった。翌日のテストでは、3 名の児童の S1・S2・S5 で 7 回筆記において成績が高かったが、 S4 では逆の傾向を示すなど、筆記回数と正答数の間に共通した関係は認められなかった。結論:少なくとも本研究 で扱った 5 種類の学習方法において、筆記回数を増加させることで書字獲得は促進されないことが示唆された。これ は児童の負担軽減に貢献しうる知見であると考えられた。 ■キーワード:漢字学習、漢字指導、筆記回数、再生成績、特別支援学級
特別支援学級在籍児童の漢字学習における筆記回数と再生成績の
関係
Written and recalled kanji learning performance of children in special support classes 河村 優詞(日本大学大学院 総合社会情報研究科)
Masashi Kawamura(Nihon University, Graduate School of Social and Cultural Studies)
Ⅰ.問題の所在と目的
文字学習は全ての教科学習の基礎となる重要な事項 である(藤岡,1997)が、特別支援学級における漢字 指導法開発は不十分であり、研究推進が求められてい る(河村,2017a)。 特別支援学級には ASD(自閉症スペクトラム障害) 児を含む知的障害以外の障害種の児童も在籍しており (国立特別支援教育総合研究所,2014)、担任にはさま ざまな社会的要請がなされる(河村,2017b)。その ような状況下で、知能検査の結果等を参照した指導の 個別化はなされず、国語の授業は一斉指導を中心に展 開される傾向がある(河村,2018a)。したがって、特 定の障害種・特性の児童へ有効な学習方法を見出すだ けではなく、多様な児童を含む集団に対して一斉に実 践できる漢字学習方法の効果を検討することが、現場 で効率的な指導を行うために必要である。 以上のような前提の下、河村(2019a)では、空中 に指で漢字を筆記する「空書きによる同時再生」、紙 面に指で漢字を筆記する「指書きによる同時再生」、 灰色の線を鉛筆でなぞる「同時再生+薄線プロンプ ト」、手本をみて視写する「同時再生」、手本を隠して 筆記する「遅延再生」の 5 種類の漢字学習方法(以 下、5 種類の漢字学習方法)を特別支援学級在籍児童 に交代で実施し、事後の漢字テストにおける書字の再 生成績に対する効果が比較検証された。結果、遅延再 生の効果が高く、空書き・指書きによる同時再生の効 果が低い等、特性の異なる児童間に一部共通した傾向 が見出された。しかし、この河村(2019a)では学習 量、すなわち筆記回数が全学習方法一律で 5 回と固 定されており、学習方法と筆記回数が再生成績に及ぼ す影響は定かではない。特別支援学級在籍児童におい て、より少ない筆記回数の漢字学習課題を選好する傾 向が報告されており(河村,2019b)、仮に筆記回数 を減らしても有効性が変わらない学習方法があれば、 より少ない負担で漢字学習を遂行させることができる ようになるだろう。また、現場教師の側にも児童の動機づけ低下を懸念して不必要に反復回数が多い学習方 法を非難する見解がある(向山,2002)。以上のこと から、学習の量、すなわち筆記回数と再生成績の関係 は明らかにすべき重要な研究課題であると考えられ る。 そこで本研究では先述の河村(2019a)で用いられ た 5 種類の漢字学習方法を対象とし、筆記する回数を 河村(2019a)の 5 回から 2 回ずつ増減させて 3 回~ 7 回とした際の、書き取りテストの再生成績への影響 を検討した。 また、漢字書字の獲得には運動学習に関する記憶が 存在することが知られており(佐々木,1984)、特別 支援学級在籍児童においても、鉛筆による視写より低 い成績ではあるものの指による筆記で書字が獲得さ れることがあった(河村,2019a)ため、運動学習は 漢字書字獲得に関与する可能性がある。一般に運動 学習では回数を増加させた場合に流暢性が高まり、所 要時間が短くなる(Lorge,1930)が、逆に動機づけ の低下や疲労によって所要時間が増加する可能性もあ り、実際に児童の漢字学習においてどのような現象が 生じるかは不明である。学習内容の維持には流暢性が 関わっており、漢字読みの学習については流暢性を高 めた場合、記憶が促進されるケースが報告されている (野田・松見,2009)ことから、学習量と流暢性の関 係を検討することができれば、より学習を効率化する 方法が見出せるかもしれない。そこで副次的に、流暢 性の指標として学習の所要時間を計測した。
Ⅱ.方 法
1.参加児と指導者 参加児は特別支援学級在籍の児童 6 名であり、河村 (2019a)と同一であったが、F 児のみ他の学習班に転 出したため不参加であった。A ~ G 児の呼称は河村 (2019a)と対応する。 A 児は田中ビネーにおいて IQ56(5 歳 8 カ月時点) で、ASD の診断を受けており、自治体の就学相談委 員会及び保護者の判断で入学時から特別支援学級に在 籍している 3 年生の男児であった。 B 児は診断・知能検査は未実施であるが、全教科に おける学習の遅れ等から全般的な知的発達の遅滞が予 想され、自己刺激行動等の ASD の傾向が見られる 3 年生の男児であり、学力不振を主訴として 2 年生進級 時に通常学級から特別支援学級に入級した。 C 児は診断・知能検査は未実施であるが、全教科に おける学習の遅れ等から全般的な知的発達の遅滞が予 想され、学力不振を主訴として 4 年生の 2 学期に通常 学級から特別支援学級に入級した 4 年生の男児であっ た。 D 児は診断・知能検査は未実施であるが、全教科に おける学習の遅れ等から全般的な知的発達の遅滞が予 想され、学力不振や授業中の離席等を主訴として 2 年 生の 3 学期に通常学級から特別支援学級に入級した 4 年生の男児であった。E 児は WISC-Ⅳにおいて FSIQ(全検査 IQ):69、 VCI(言語理解):72、PRI(知覚推理):74、WMI (ワーキングメモリ):76、PSI(処理速度):78(11 歳 3 カ月時点)であり、学力不振を主訴として 2 年生 進級時に通常学級から特別支援学級に入級した 5 年生 の男児であった。
G 児は WISC-Ⅲで FIQ(全検査 IQ):82、VC(言 語理解):83、PO(知覚統合):74、FD(注意記憶): 88、PS(処理速度):108(7 歳 8 カ月時点)であり、 医療機関より言語発達遅滞の診断を受け、学力不振や 授業中の離席などを主訴として 4 年生進級時に通常学 級から特別支援学級に入級した 5 年生(10 歳 5 カ月) の男児であった。 指導者は、担任である筆者であった。 2.場面 特別支援学級の教室であった。 3.材料 参加児が指導を受けたことのない新出漢字で、A・ B 児は 3 年生、C 児~ G 児は 4 年生の配当漢字(文 部科学省,2008)に含まれる漢字であった。漢字は以 下の規則で 1 試行の学習量である 3 文字 1 セットに分 けた(以下、漢字セット)。(1)合計画数が均一にな る。(2)同じ読み方や部首の漢字は同じ漢字セットに しない。(3)漢字セット内で最も画数の低い字が先 頭、中間、末尾に配置される漢字セットを作り、各学 習方法に均一に割り当てる。 なお、例文は、小学生向け教材である光村教育図書 製「あかねこ漢字スキル」において、漢字の手本の下 に書かれている例文から、1 つの読み方につき 1 例文 を、許可を得て引用した。 4.5 種類の学習方法 全 学 習 方 法 共 通 で、 黒 板 を 向 く よ う 促 し た 後、
30cm の小型黒板に 1 画あたり 1 ~ 2 秒程度で指導者 が漢字を書いた。1 字書くごとに漢字の左右にルビを 10cm 角程度で書いて指導者が読み上げ、更に例文を 読み方 1 種類につき 1 例ずつ下に書いて読み上げた (図 1)。これらの黒板の文字は各テスト配布前(手本 を隠す S5 のみ学習開始前)に全て消した。その後、 以下の S1 ~ S5 の内、いずれか 1 つの学習方法で学 習を実施した(図 2)。学習量は各学習方法で 3 回筆 記・7 回筆記の 2 つの条件があった。 (S1):「空書きによる同時再生」:黒板に書かれた漢 字に向かって利き手人差し指を向け、空中に指で漢 字を書かせた。 (S2):「指書きによる同時再生」:プリントに 110pt の 教科書体で書かれた漢字を利き手人差し指でなぞら せた。プリントには教示した例文の内、テストと同 様の例文が付され、漢字の左右には 16pt でルビが 付された(S3 ~ S5 も同様)。 (S3):「同時再生+薄線プロンプト」:プリントに黒 25%の灰色で書かれた漢字を鉛筆でなぞり書きさせ た。 (S4):「同時再生」:空白のマスに手本の漢字を鉛筆 で書き写させた。 (S5):「遅延再生」:S4 と同じプリントを用い、手本 と自分の書いた字を厚紙で隠して筆記を行わせた。 分からなくなった場合は厚紙を外して手本を見てよ いが、書くときには厚紙で再度隠してから書かせ た。 なお、プリントを使用する S2 ~ S5 では学習終了 後にその場で丸をつけ、回収した。誤字を把握可能な S3 ~ S5 では、誤字を確認した場合は指摘し、消しゴ ムで消して直させた。 5.研究デザイン概要 介入の有無ではなく、筆記回数間の比較を行うた め、結果が僅差であることが予想された。そこで行事 による疲労などの剰余変数を極力統制するため、河村 (2019a)と同様に複数の条件を交代で実施する「操作 交代デザイン(Barlow&Hersen,1988)」で 5 種類の 学習方法を 1 試行ごとに交代し、交代の順序にはラテ ン方格図を用いた。
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ͷ ͓ ͱ ͏ ͱ ͑͢ ͚ ͭ · ͭ 30cm ミニ黒板 S1 S2 S3 S4 S5 図 1 板書(河村,2019a) 図 2 各学習方法(河村,2019a)1 試行は 2 日間で構成された。指導は毎週火~金曜 日に実施した(図 3)。火曜日に先述の S1 ~ S5 のい ずれかの方法で 1 つ目の漢字セットを学習させ、手本 を見せずに紙面での書き取りテストを実施した(以 下、当日テスト)。テストには仮名が書かれており、 参加児に漢字の筆記を求めた。テストはその場で丸を 付けて回収した。誤答は余白に指導者が赤ペンで正答 を書き、視写させた。 水曜日は先に前日と同じテストを実施し(以下、翌 日テスト)、その後、S1 ~ S5 から前日と同じ学習方 法・同じ漢字セットの学習をさせた。以上の 2 日間で 1 試行とした。木・金曜日には次の試行に進み、図 3 のラテン方格図に即して学習方法を交代し、漢字セッ トも次に進んで同様の手順を反復した。 ラテン方格図の 1 列、すなわち 5 試行を行った後、 筆記回数を 3 回⇔ 7 回に交代した。 各学習方法のプリント 1 枚を書き終えることに要し た時間はストップウォッチ(CASIO 製 HS-3C8AJH) で計測し、筆記回数で割って 1 文字分の所要時間を算 出した。 試行数は 3 回筆記・7 回筆記の各学習量で漢字 9 文 字分である 3 試行ずつとした。 6.倫理的配慮事項 参加児の保護者に研究の目的と内容、不参加により 不利益を被ることはないこと、希望により参加を中断 可能であること等を口頭・書面で説明し、了承を得 た。また、研究期間終了後には、各参加児内で最も有 効であった学習回数・学習方法を中心とした指導に よってフォローアップ期間を設け、全参加児が 1 週間 以内に材料とした漢字全数を漢字テストにおいて正答 できるようになった。
Ⅲ.結 果
欠席や行事等で正規の手続きができなかったケース を全て除外し、図 4 に各参加児の当日テスト・翌日テ ストにおける平均正答数を示す。 1.当日テスト 以下、学習方法内で平均正答数が多い順に等号・不 等号で示す。括弧内はテストの平均正答数である。 A 児では S1 で 7 回筆記(0.3)> 3 回筆記(0.0)、 S2 で 7 回筆記(0.3)= 3 回筆記(0、3)、S3 で 7 回 筆 記(0.3) > 3 回 筆 記(0.0)、S4 で 7 回 筆 記(0.7) = 3 回筆記(0.7)、S5 で 3 回筆記(1.3)> 7 回筆記 (1.0)であった。 B 児では S1 で 3 回筆記(2.0)> 7 回筆記(0.3)、 S2 で 7 回筆記(2.0)> 3 回筆記(1.0)、S3 で 3 回筆 記(2.0)> 7 回筆記(0.7)、S4 で 7 回筆記(2.7)> 3 回筆記(2.3)、S5 で 7 回筆記(2.7)= 3 回筆記(2.7) であった。 C 児では S1 で 3 回筆記(1.3)> 7 回筆記(1.0)、 従属 変数 独立 変数 従属 変数 1 試行目 火 水 木 2 試行目 金 S1 で 漢字セット1 を 学習 漢字セット1 の 当日テスト 漢字セット1 の 翌日テスト S1 で 漢字セット1 を 学習 S4 で 漢字セット2 を 学習 漢字セット2 の 当日テスト 漢字セット2 の 翌日テスト S4 で 漢字セット2 を 学習 1 週間目 従属 変数 独立 変数 従属 変数 3 試行目 火 水 木 4 試行目 金 S3 で 漢字セット3 を 学習 漢字セット3 の 当日テスト 漢字セット3 の 翌日テスト S3 で 漢字セット3 を 学習 漢字セット1 の 1W テスト S5 で 漢字セット4 を 学習 漢字セット4 の 当日テスト 漢字セット4 の 翌日テスト S5 で 漢字セット4 を 学習 2 週間目 漢字セット2 の 1W テスト 以降 反復 S1 4 3 5 2 3 1 5 2 4 5 3 2 3 1 2 5 4 1 3 4 2 1 3 5 3 回筆記 7 回筆記 3 回筆記 7 回筆記 3 回筆記 … … 図 3 ラテン方格図による各学習方法の実施順序、およびスケジュール概要(河村(2019a)より一部引用)S1 S2 S3 S4 S5 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 4 3 2 1 0 S1 S2 S3 S4 S5 3 2 1 0 4 当日テスト 翌日テスト 平均正答数︵字︶ A 児 B 児 C 児 D 児 E 児 G 児 全試行欠席 全試行欠席 3回全試行欠席 3 回 7 回 図 4 テストの累積正答数 ※ F 児は転出、個人差あるため、A 児のみ縦軸変更
S2 で 3 回筆記(2.0)> 7 回筆記(1.0)、S3 で 7 回筆 記(2.3)> 3 回筆記(1.3)、S4 で 3 回筆記(2.7)> 7 回筆記(1.7)、S5 で 7 回筆記(3.0)= 3 回筆記(3.0) であった。 D 児では S1 で 7 回筆記(1.0)= 3 回筆記(0.3)、 S2 で 3 回筆記(1.0)> 7 回筆記(0.7)、S3 で 3 回筆 記(1.7)> 7 回筆記(0.7)、S4 で 3 回筆記(2.7)> 7 回筆記(2.3)、S5 で 7 回筆記(2.7)= 3 回筆記(2.7) であった。 E 児では S1 で 3 回筆記(2.0)> 7 回筆記(1.7)、 S2 で 3 回筆記(2.3)> 7 回筆記(1.7)、S3 で 7 回筆 記(1.7)> 3 回筆記(1.3)、S5 で回筆記(3.0)= 3 回筆記(3.0)であった。 G 児では S1 で 3 回筆記(1.3)> 7 回筆記(0.3)、 S2 で 7 回筆記(1.0)= 3 回筆記(1.0)、S3 で 7 回筆 記(1.0)= 3 回筆記(1.0)、S4 で 3 回筆記(3.0)> 7 回筆記(2.0)、S5 で 3 回筆記(3.0)> 7 回筆記(2.7) であった。 なお、E 児では、S4 の全試行で欠席であった。 2.翌日テスト A 児では S1 で 7 回筆記(0.0)= 3 回筆記(0.0)、 S2 で 7 回筆記(0.0)= 3 回筆記(0.0)、S3 で 7 回筆 記(0.0)= 3 回筆記(0.0)、S4 で 7 回筆記(0.3)> 3 回筆記(0.0)、S5 で 7 回筆記(0.7)> 3 回筆記(0.3) であった。 B 児では S1 で 3 回筆記(2.0)> 7 回筆記(0.3)、 S2 で 7 回筆記(2.5)> 3 回筆記(1.0)、S3 で 3 回筆 記(1.7)> 7 回筆記(1.5)、S4 で 7 回筆記(2.7)> 3 回筆記(2.5)、S5 で 3 回筆記(3.0)> 7 回筆記(2.0) であった。 C 児では S1 で 3 回筆記(1.5)> 7 回筆記(0.7)、 S2 で 7 回筆記(0.3)> 3 回筆記(0.0)、S3 で 7 回筆 記(1.3)> 3 回筆記(0.7)、S4 で 3 回筆記(3.0)> 7 回筆記(0.0)、S5 で 7 回筆記(2.0)> 3 回筆記(1.3) であった。 D 児では S1 で 7 回筆記(1.0)> 3 回筆記(0.0)、 S2 で 7 回筆記(1.3)> 3 回筆記(0.0)、S3 で 7 回筆 記(0.7)= 3 回筆記(0.7)、S4 で 3 回筆記(1.0)> 7 回筆記(0.7)、S5 で 7 回筆記(2.0)> 3 回筆記(0.7) であった。 E 児では S1 で 7 回筆記(0.0)= 3 回筆記(0.0)、 S3 で 7 回筆記(1.0)> 3 回筆記(0.5)、S5 で 7 回筆 記(1.0)= 3 回筆記(1.0)であった。 G 児では S1 で 3 回筆記(1.0)> 7 回筆記(0.0)、 S2 で 3 回筆記(1.0)> 7 回筆記(0.0)、S3 で 3 回筆 記(1.0)> 7 回筆記(0.5)、S4 で 3 回筆記(2.0)> 7 回筆記(1.0)、S5 で 3 回筆記(2.5)> 7 回筆記(1.5) であった。 なお、E 児では、S4 の全試行および S2 で 3 回筆記 する条件の全試行で欠席であった。 3.順位要約 以上の結果をまとめ、参加児・学習方法ごとに、テ ストの平均正答数が多かった条件を要約した(表 1)。 「=」は同値、「NA」は欠損値である。3 回筆記で平 均正答数が多いケース、7 回筆記で平均正答数が多い ケースそれぞれが各参加児内、各学習方法内で見られ た。3 回筆記と 7 回筆記が同値であるケースも全参加 児内で見られた。 4.所要時間 図 5 に各参加児の所要時間を、各条件の筆記回数で 割り、筆記 1 回あたりの平均秒数で示す。学習方法内 で平均秒数が長い順に等号・不等号で示す。括弧内は 平均秒数である。 A 児では S1 で 3 回筆記(30.8)> 7 回筆記(18.3)、 S2 で 3 回 筆 記(27.6) > 7 回 筆 記(26.3)、S3 で 3 回 筆 記(83.9) > 7 回 筆 記(72.2)、S4 で 7 回 筆 記 (10.7.1) > 3 回 筆 記(97.2)、S5 で 3 回 筆 記(118.6) 表 1 結果要約 平均正答数が多かった条件(=は平均が同値) 当日 翌日 S1 S2 S3 S4 S5 S1 S2 S3 S4 S5 A 児 7 回 = 7 回 = 3 回 = = = 7 回 7 回 B 児 3 回 7 回 3 回 7 回 = 3 回 7 回 3 回 7 回 3 回 C 児 3 回 3 回 7 回 3 回 = 3 回 7 回 7 回 3 回 7 回 D 児 7 回 3 回 3 回 3 回 = 7 回 7 回 = 3 回 7 回 E 児 3 回 3 回 7 回 NA = = NA 7 回 NS = G 児 7 回 = = 3 回 3 回 7 回 3 回 3 回 3 回 3 回
> 7 回筆記(96.8)であった。 B 児では S1 で 3 回筆記(14.9)> 7 回筆記(14.1)、 S2 で 3 回筆記(18.4)> 7 回筆記(13.8)、S3 で 7 回 筆記(34.1)> 3 回筆記(21.7)、S4 で 7 回筆記(25.1) > 3 回筆記(19.5)、S5 で 7 回筆記(28.6)> 3 回筆 記(25.7)であった。 C 児では S1 で 7 回筆記(14.1)> 3 回筆記(13.3)、 S2 で 3 回筆記(19.3)> 7 回筆記(19.1)、S3 で 7 回 筆記(41.9)> 3 回筆記(27.6)、S4 で 7 回筆記(27.7) > 3 回筆記(27.2)、S5 で 3 回筆記(30.6)> 7 回筆 記(26.8)であった。 D 児では S1 で 7 回筆記(10.9)> 3 回筆記(10.5)、 S2 で 3 回筆記(13.1)> 7 回筆記(10.2)、S3 で 7 回 筆記(49.0)> 3 回筆記(24.5)、S4 で 7 回筆記(44.3) > 3 回筆記(25.3)、S5 で 7 回筆記(35.0)> 3 回筆 記(31.6)であった。 E 児では S1 で 7 回筆記(15.0)> 3 回筆記(14.1)、 S2 で 7 回筆記(12.6)> 3 回筆記(12.3)、S3 で 7 回 筆記(23.6)> 3 回筆記(18.7)、S5 で 7 回筆記(33.0) > 3 回筆記(29.4)であった。 G 児では S1 で 3 回筆記(12.3)> 7 回筆記(11.4)、 S2 で 7 回筆記(14.7)> 3 回筆記(14.3)、S3 で 7 回 筆記(30.9)> 3 回筆記(28.7)、S4 で 7 回筆記(33.3) > 3 回筆記(30.7)、S5 で 3 回筆記(48.0)> 7 回筆 記(43.3)であった。
Ⅳ.考 察
1.テストの再生成績と所要時間 当日テストにおいて S1 ~ S5 の学習方法間の傾向 は河村(2019a)と同様であり、S5 の成績は高く、S1 S1 S2 S3 S4 S5 150 100 50 0 S1 S2 S3 S4 S5 60 40 20 0 S1 S2 S3 S4 S5 60 40 20 0 S1 S2 S3 S4 S5 60 40 20 0 S1 S2 S3 S4 S5 60 40 20 0 S1 S2 S3 S4 S5 60 40 20 0 所要時間︵秒/字︶ A 児 B 児 C 児 D 児 E 児 G 児 全試行欠席 図 5 学習時の 1 文字あたり所要時間 ※ F 児は転出 個人差あるため、A 児のみ縦軸変更~ S3 の成績が低い傾向が見られた。 しかし、表 1 に要約したように、筆記回数間の差に は一貫した傾向が見られなかった。同一参加児内・同 一学習方法内で筆記回数が多い条件の方が一概に成績 が高いという傾向は無く、3 回筆記の方が高い、ある いは 3 回筆記と 7 回筆記が同値となるケースも見られ た。先述の通り、運動学習では練習回数の増加によっ て流暢性が高まり、流暢性の向上が記憶に関係する可 能性がある。本研究において D 児の S3・S4・S5、B・ C 児の S3 など、7 回筆記する条件で筆記 1 回あたり の所要時間が短くなるケースが存在したが、それ以外 の参加児・学習方法ではほぼ同値、あるいは逆に 3 回 筆記する条件で所要時間が短い傾向が見られた。この ことから、筆記回数の増加によって流暢性が上がると 思われたが、筆記回数の増加に伴う動機づけ低下や疲 労で流暢性が向上しない、あるいは低下した可能性が 示唆される。以上のように、筆記回数を増加させても 流暢性が向上しないケースがあった。さらに本研究及 び河村(2019a)では指で筆記する方法は鉛筆での筆 記よりも再生成績が低く、特別支援学級在籍児童の漢 字記憶において運動学習が占める割合はそもそも小さ いことが予想される。筆記回数を増加させても再生成 績が向上しなかった原因として、以上のような要因が 想定できる。 翌日テストでは全参加児で成績の低下が見られた。 これは河村(2019a)と同様に児童の長期記憶の困難 を示す結果であり、課題において後述するように対策 を要する。 2.社会的妥当性 指導目標の社会的重要性、指導手続の社会的適切 性、指導効果の社会的重要性(Wolf,1978)の観点を 参考に述べる。 特別支援学級における教育内容を決定する際に準拠 すべき小学校学習指導要領(文部科学省,2008)およ び特別支援学校学習指導要領(文部科学省,2009)に は漢字を指導すべき旨が示されている。また、特別支 援学級在籍児童の漢字の獲得は将来の日常生活や職業 生活に影響しうる(河村,2017a)。さらに漢字の獲得 は参加児の保護者も要望しており、漢字の獲得は重要 な指導目標であると考えられる。 本研究は教育現場で既に知られている指導手続の効 果をデータ化する性質の研究であり、社会的適切性が 一定程度既に認められている手続きであったと考えら れる。また、本研究の手続きは在籍校校長・特別支援 学級主任(当時)に説明して倫理的問題がないことを 確認し、さらに担任が児童の逸脱や拒否、嫌悪的な表 情が一切ないことを確認しながら実施した。よって本 研究の指導手続は一定の社会的適切性を有すると考え られる。 本研究において筆記回数を増加させる方法が漢字書 字の獲得に対して有効でないケースが存在した。これ は参加児の負担軽減に貢献しうるデータであったと考 えられる。本研究における 3 回という筆記回数は一般 的な漢字ノートの 1 行分よりも大幅に少ない学習量で あり、筆記回数を少なく抑えた教材で学習すること は、事後の夏季・冬季休業中の宿題にも反映された。 ただし、後述するように翌日テストにおいて再生成績 が低下する傾向が見られたため、より指導効果を高め るためには別途検証課題が残る。
Ⅴ.成果と課題
本研究では 5 種類の漢字筆記を伴う学習方法におい て、筆記回数を増加させても再生成績が向上しない ケースが存在することが示唆された。これは現場にお ける児童の負担軽減に資するデータであると考えら れ、今後は筆記回数を過剰に増やすことを避けた学習 方法が実践されるべきであろう。 しかし、本研究には以下のような課題が残る。当日 テストと比較して、翌日テストで再生成績が大幅に低 下するケースが多かった。これは河村(2019a)と同 様の傾向である。誤答の大部分は解答欄が空白のまま というものであり、字形の歪み、画要素の増減はほぼ 見られなかった。読みを弁別刺激とした書きの獲得 には、読み-字形-音声間の刺激等価性が関与してお り、空白の回答は記憶の減衰によって刺激等価性が成 立しなくなった状態であると考えることもできる。刺 激等価性を成立・維持するための見本合わせ手続き (鶴巻,1995)や刺激ペアリング手続き(大森・山本, 2011;野田・豊永,2017;門屋他,2014)等を併用し た際の、再生成績の維持の程度も今後検証すべきであ る。 また、特別支援学級担任は児童の漢字記憶の困難さ に課題を感じることがあり(河村,2018b)、さらに 河村(2019a)では漢字の学習後、1 週間を経過する と記憶成績は極端に悪化している。初回の学習で有効 に記憶を促す方法だけでなく、学習の日数を増やす、 有効な復習の方法を検討する等の研究もなされるべきであろう。 さらに、S1 ~ S5 の複数を組み合わせた指導法が 現場向けに紹介されている(向山,2007;椿原他, 2008;福嶋;2011)。筆記回数の増加以外に漢字獲得 を促進する可能性のある方法として、学習方法間の組 み合わせや交互作用についても今後検証されるべきで あろう。 実践上の都合から、書字の流暢性としてプリント 1 枚の所要時間を計測して事後に筆記回数で割る方法を 用いたため、プリント内で流暢性がどのように変化し たかは不明である。プリント後半での流暢性の向上、 あるいは疲労に伴う流暢性の低下に言及するために は、本来 1 文字単位、あるいは 1 画単位の測定が理想 であろう。 参加児は少数であり、結果と参加児の特性との関係 が不明確である。先述の通り、多様な児童に対して同 時に実施可能な方法の有効性を研究する必要があり、 本研究では多様な参加児に同一の方法をとったが、本 来は個に応じた指導が理想であることは無論であり、 児童の特性・筆記回数・学習方法と再生成績の関係は 今後児童数を増やしてより詳細に明らかにするべきで ある。 付記:本論文は 2017 年に日本大学大学院総合社会情報 研究科に提出した修士論文の一部内容を含む。
〈文 献〉
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