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日本手話対のポーズと者交替分析

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Academic year: 2021

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日本手話対話のポーズと話者交替の分析

Analysis of Pauses and Turn-Taking

in Spontaneous Dialogue by Japanese Sign Language

堀内 靖雄

1

有本 泰子

2

黒岩 眞吾

1

Yasuo Horiuchi

1

, Yoshiko Arimoto

2

, and Shingo Kuroiwa

1 1

千葉大学

1

Chiba University

2

千葉工業大学

2

Chiba Institute of Technology

Abstract: In this research, we analyzed turn-taking in spontaneous dialogue by Japanese Sign Language

(JSL) in relation to the type of pauses. We classified pauses into three categories depending on the difference in movement. Three dialogue data by six native signers of JSL were used for the analysis (each dialogue was about 5 minutes long). As a result, it was suggested that two categories of pauses, "Hold" and "Loose", have the function which suppresses listeners from beginning utterance and "Home position" has the function of giving all participants the right to take next turn.

まえがき

音声や手話は対話型自然言語であり,リアルタイ ムで他者とのコミュニケーションを行うことが可能 である.実時間対話において,対話参加者は自分勝 手に発話を開始するのではなく,話者交替に関する 社会的な規範に基づいて発話を行うことにより,協 調的な対話が実現されていると考えられる.音声対 話については[1]で話者交替規則が提案されており, 対話参加者は話者交替規則に基づいて発話を開始し ていると考えられている.音声言語の話者交替に関 してはさまざまな研究が行われているが日本手話の 話者交替についてはほとんど研究が行われていない. 先行研究として[2-6]などに加え,我々の先行研究に おいても日本手話対話における話者交替時の分析を 行っている[7-8].これらの研究においては日本手話 の話者交替時に発話の重なりが多いことが指摘され ている.そこで我々は日本手話対話を日本語音声対 話と量的に比較し,日本手話対話の方が日本語音声 対話に比べ,発話の重なりが多く,また,話者交替 時の発話の重なりの時間長も日本手話の方が長いこ とを示し,手話と音声の伝送メディアの性質の違い ではないかと考察した[9].これまでの日本手話の研 究では日本手話会話における話者交替時に発話の重 なりが多くみられることから,音声言語と異なる話 者交替メカニズムが存在するのではないかと考えら れてきたが,我々は[1]の話者交替規則の観点から話 者交替箇所を詳細に分析した結果,日本手話による 会話も音声会話と同様に話者交替規則を志向してい るという考えを示した[10]. 一方,話者交替に関する先行研究では文献[1]を始 めとして,分析の単位にターン構成単位 (TCU; turn-constructional unit) が用いられることが多かったが, TCU の認識にはポーズ,統語情報,韻律情報等の 様々な要因が関与するため,TCU を単位とする話者 交替の分析結果を対話システムなどに応用すること は難しいと考えられる.そこで本研究では対話シス テムなどへの応用を想定し,物理的に認識しやすい 単位として,ある一定時間以上の無音(ポーズ)で 分割される間休止単位 (IPU; inter-pausal unit) [11]に 基づいて,日本手話対話の分析を行う.間休止単位 (以後 IPU)とはポーズにより分割される単位であ るため,まず始めに手話におけるポーズを定義する 必要がある.我々の先行研究[7-9]ではポーズを定義 した上でIPU に基づいた分析を行っているが,それ らではポーズの種類は区別せずに分析を行っている. しかしながら,手話のポーズにはその手の状態によ って,複数種類のポーズが存在する.IPU における 話者交替に関する分析を行う場合,ポーズ後の IPU に対して,その直前のポーズの種類が話者交替など の会話現象に影響を与えることが予想される.そこ で本研究ではIPU を分割するポーズについて,その 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-B903-01

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種類と前後のIPU の話者交替の現象について分析を 行うことにより,ポーズの種類の違いが後続する発 話の話者交替/話者継続に対して,影響を与えるの かを明らかにすることを目的とする.その際,[1]の 話者交替規則を考慮すると,疑問文の後は次話者を 指定することになり,話者継続ではなく,話者交替 が生じる可能性が高くなることが予想される.そこ で本研究の分析では先行発話が疑問文であるか平叙 文であるかを区別した上で,ポーズの種類の違いと その前後の話者交替/話者継続の関係について,明 らかにすることを本研究の目的とする.

手話データと分析手法

収録データ

本研究で使用した日本手話対話データは3 対話(5 分×3 対話,計 15 分)である.いずれの対話も 2 人 1 組で行われており,両者は収録前から面識のある 親しい間柄である.また,実験参加者6 名はすべて 日本手話のネイティブサイナーである.3 組のうち 1 組はテーマを決めずに行った自由対話であり,残り の2 組は事前にアンケートを実施し,両者の意見が 分かれたテーマについて対話を開始し,以後は自由 に対話を継続した対話データである.これらの対話 データはプロンプタを用いて収録された.プロンプ タとはカメラの直前に設置されたガラス(ハーフミ ラー)上に原稿を投影することにより,カメラから 視線をそらすことなく原稿を読むことができる装置 である.対話収録では実験参加者は別々の部屋でプ ロンプタ上のハーフミラーに投影された相手の映像 を見ながら対話を行った.投影される映像の大きさ や位置は実験参加者の視線の位置が通常の対話を行 うときと同じになるように配慮して設定した.

手話の単語区間

手話単語は単語の意味を表す本質的な動きとその 動きの開始状態までの遷移動作が存在する.本研究 では前者を単語の「本体」,後者を「わたり」と呼ぶ. ここで「わたり」とは手を下ろした状態から動作す る場合は手が動き出した瞬間からを「わたり」とし, 直前に別の手話単語を表現してから当該単語が表現 される場合は先行手話単語の終了後,次の単語本体 の開始位置へ向けて手の移動が開始される瞬間から を「わたり」とする.また,手話表現後に手の動作 が一時的に停止する場合(後述の「保持」「ゆるみ」 に該当)は,停止後,次の単語本体の開始位置へ向 けて手の移動が開始される瞬間からを「わたり」と する.発話者は「わたり」の時点ですでに次に表出 する単語を確定して発話していると考えられるため, 本研究では「わたり」も手話単語区間に含めて分析 を行う. また,本研究では手話単語を「動作単語」と「静 止単語」に分類する。「動作単語」とは上記の手話単 語「本体」において,手や指を動かす必要がある単 語であり,「行く」「山」「きれい」「新しい」「好き」 などが該当する.一方,「静止単語」とはある瞬間に 適切な手型,掌方向,位置が呈示されることにより 表現される単語で,単語「本体」はその呈示された 瞬間だけであり,その状態へ至る動作を「わたり」 と定義する.「私」「あなた」「頭」などの指差しで表 現される単語や「いちご」「鬼」「電話」など体の部 位上で表現される単語などが該当する.「静止単語」 の特徴は手を下ろした状態や先行単語の終了状態か らなめらかな動きの「わたり」によって「単語本体」 の状態に到達するものであり,本研究ではこれらは 「単語本体」に動きが伴わないことから「静止単語」 と定義する.一方,「動作単語」の場合は「わたり」 と「単語本体」の境界で手や指の運動の方向が変化 することにより,「単語本体」の開始状態へ向かう「わ たり」の運動と「単語本体」の運動を区別できる単 語であり,「単語本体」に動きが伴うことから「動作 単語」と定義する.

手話の発話単位とポーズ

本研究では発話単位として間休止単位 (IPU) を 用いる.音声におけるIPU はある閾値(例えば 200 ミリ秒)以上の時間長を有する無音区間によって区 切られた一連の音声区間と定義される.しかしなが ら,手話は音声と異なり,物理現象としての無音区 間は存在しない.そこでIPU を決定するためには手 話におけるポーズを定義する必要がある.音声では 上述のように無音区間をポーズ(休止)として扱っ ているが,実際には文字として書き起こされない区 間をポーズとすることが多い.たとえば,息を吸う 音や笑い声なども有音区間ではあるが,それらは一 般的にはIPU に含めない.すなわち,音声における ポーズとは言語情報を有する音声区間以外であると とらえることができる.そこで本研究でも日本手話 において言語情報を有する手話区間以外を手話のポ ーズと定義する.例えば図1 の場合,先行して連続 する2 つの手話単語と後続する手話単語の間には言 語情報を有する手指動作が存在しないため,この部 分をポーズとする.

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図1 手話のポーズの例 手話のIPU を分割するためのポーズ継続時間長の 閾値は我々の先行研究[8]において対話参加者が発 話を分割した結果を基に決定された7 フレーム(約 230 ミリ秒)を用い,7 フレーム以上のポーズで分割 された発話単位をIPU とする.

手話のポーズ

本研究では手話のポーズをその動きに基づいて定 義し,以下のように分類する. 基準位置 発話者が両手をひざや大腿部に置いている状態と 手話表現の後,手をその位置まで移動する(下ろす) 動作を基準位置のポーズと定義する.手話単語のわ たりと同様,基準位置へ向かって手が移動を開始し た時点で基準位置に手を下ろすという話者の意図は 確定していると考えられるため,その移動区間もポ ーズに含めることとした.また,両手を組むなど明 らかに発話をやめたと解釈される場合も同様に基準 位置のポーズと定義する.基準位置のポーズの後, 次の手話表現の単語本体の開始位置へ向けて,手が 基準位置から移動を開始する瞬間までを基準位置の ポーズ区間とする. 保持 手話単語の表現を終了した後,手指の形および手 の位置が数フレームにわたり静止したままの状態を 保持によるポーズと定義する.直前の単語が静止単 語の場合は手形が完成して静止した時点から,静止 が解除され,次の単語あるいは基準位置等へ手の移 動が開始される瞬間までを保持のポーズ区間とする. 直前の単語が動作単語の場合は単語本体の動きが終 了して静止した時点から,静止が解除され,次の単 語あるいは基準位置等へ手の移動が開始される瞬間 までを保持のポーズ区間とする. ゆるみ 単語の本体やわたり以外の余分な動作,もしくは 手が基準位置まで下がっていないが特に単語や手話 表現をせずに静止,もしくは,微動している状態を ゆるみによるポーズと定義する.具体的には手話単 語の本体とその直前のわたり,基準位置のポーズ, 保持のポーズ以外の状態がゆるみのポーズに該当す る.「ゆるみ」とは,手話を表出した後に手の力がゆ るみ,手の位置もわずかに下がるが,基準位置まで は手を下ろさない状態を表現するため,「ゆるみ」と いう名称とした.「ゆるみ」のポーズでは手話表現は していないが,基準位置と比較するとすぐに手を動 かせる状態にあるため,基準位置とは異なる性質の ポーズに分類する. 上述の「基準位置」「保持」「ゆるみ」という用語 は本稿での説明用に新たに定義した用語である.文 献[12]の分類では基準位置は「撤回(基準位置)とそ の後の撤回中止あるいは基準位置」,保持は「ストロ ーク後保持」,ゆるみは「撤回(休止位置)とその後 の撤回中止」に相当するが,本稿では簡単のため, 「基準位置」「保持」「ゆるみ」と呼ぶこととする.

分析手順

本研究では手話対話データを上述の定義に従うポ ーズのうち7 フレーム以上のポーズで IPU に分割し, 各IPU の開始状況を分析する.ある話者の IPU 終了 後にポーズが生じた後(両者が同時にポーズとなっ た後),どちらの話者が IPU を開始したのかについ て分析を行う.先行IPU と同一の話者が後続 IPU を 開始した場合を「話者継続」,相手話者が後続IPU を 開始した場合を「話者交替」と定義する.また,ポ ーズ後,ほぼ同時(3 フレーム以内)に二人が IPU を 開始した場合を「同時発話」と定義する.先行話者 のIPU 後のポーズの種類と上記の「話者交替」「話者 継続」「同時発話」の頻度の関係を分析する.その際, 先行話者のIPU が平叙文か疑問文かを区別して分析 を行う.これは疑問文の場合は統語的に次話者を指 定することになるため,[1]の話者交替規則の観点か ら話者交替が生じる可能性が潜在的に高くなるため, 平叙文と分けて分析することとした. 一方,先行話者のIPU の途中で相手話者が IPU を 開始した場合を「オーバーラップ」と定義する.本 分析データでは25 箇所の「オーバーラップ」が観察 されたが,それぞれが多様な状況で発生しており, 一般性のある議論や結論を導くことはできないため, オーバーラップの分析については今後の検討課題と した. なお,音声言語同様,手話にも手指単語として表 現されるあいづち(「同じ」「へえ」「本当」等)が存 在するが従来の音声会話や手話会話の研究と同様, 「あいづち」は聞き手の発話であると考え,本研究 の分析対象外とする.

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分析結果

分析データの統計量

各話者のIPU の総数,話者交替,話者継続,同時 発話の出現頻度を表1 ならびに図 1 に示す。このう ち話者1 と 2,話者 3 と 4,話者 5 と 6 が各会話にお けるペアとなっている. 表1 話者ごとの IPU の出現頻度. 話者交替 話者継続 同時発話 話者1 3 15 3 話者2 8 18 2 話者3 17 12 3 話者4 16 7 0 話者5 5 18 0 話者6 3 27 0 総計 52 97 8 図1 話者ごとの IPU の出現頻度. 上記のデータに対し,話者ごとのデータの偏りが ないかどうかを調べるため,フィッシャーの正確確 率検定を実施した.各要因の水準数が多いため,2000 回のモンテカルロシミュレーションによって検定を 行なっている.その結果,話者間の話者交替・話者 継続・同時発話の比率に有意な差があることを確認 した(p<0.001).そこで,対話間の分布のどこに差が あるのかを検証するため,Hochberg 補正による多重 比較を行った.その結果,話者3 と話者 6 および話 者4 と話者 6 の二つの組み合わせの話者交替および 話者継続の比率のみに有意な差があることがみられ た(それぞれ,p<0.01,p<0.001).すなわち,話者 1 名(話者6)のみが他の 2 話者(話者 3 と話者 4)と異 なる傾向を示したことになるが,差が生じたのは話 者の総組み合わせの 15 組中の 2 組のみであったこ とから,その影響は軽微であると考え,本論文では このまま話者6 を含めたデータで分析を行った.

ポーズの種類と話者交替の分析結果

先行話者のIPU 後のポーズの種類と後続する IPU の開始状況(「話者交替」「話者継続」「同時発話」) の出現頻度を表2 に示す.表中の括弧内は先行する IPU が平叙文であるか,疑問文であるかの内訳であ る. 表2 ポーズ後の話者交替の出現頻度. (括弧内は平叙文と疑問文の頻度) 基準位置 保持 ゆるみ 話者交替 44 (35, 9) 7 (3, 4) 1 (1, 0) 話者継続 11 (10, 1) 64 (61, 3) 22 (22, 0) 同時発話 4 (4, 0) 3 (0, 3) 1 (1, 0) ポーズの種類と話者交替の関連について分析する ため,有意差検定を行った.ただし,本研究で対象 としているデータは頻度データであるため,比率の 差を検定することによって各要因間の差を検証する こととした.その際,データには値が0 となる要因 が含まれているため,Fisher の正確確率検定を用い て検証を行った.また,分析データでは疑問文のIPU の数が少ないことから,検定は三要因ではなく,ポ ーズの種類および話者交替の二要因で分析を行った. 図2 に平叙文のみ,疑問文のみ,平叙文+疑問文 におけるポーズの種類(基準位置,保持,ゆるみ) ごとの話者交替(話者交替,話者継続,同時発話) の出現比率を示す。 検定の結果,平叙文のみによる分析では有意な比 率 の 差 を 示 し た(p<0.001) 。 詳 細 な 分 析 の た め , Hochberg 補正による多重比較を行ったところ,基準 位置と保持および基準位置とゆるみの組み合わせに おける話者交替と話者継続の比率に有意な差がある ことが示された(p<0.001)。さらに基準位置と保持に おいては話者継続と同時発話の比率にも有意差があ ることが分かった(p<0.01)。 一方,疑問文のみによる分析では有意差を認めな かった。これは疑問文では十分なIPU 数が存在しな いことが原因と考えられる. それに対して,平叙文+疑問文の分析でも有意な 比率の差を示した(p<0.001)。平叙文のみの分析と同 様にHochberg 補正による多重比較を行ったところ, 基準位置と保持および基準位置とゆるみの組み合わ せにおける話者交替と話者継続の比率に有意な差が 0 10 20 30 40 話者1 話者2 話者3 話者4 話者5 話者6 話者交替 話者継続 同時発話

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図2 ポーズの種類と話者交替の出現比率. あることが示された(p<0.001)。平叙文のみの分析で 有意差を示した基準位置と保持における話者継続と 同時発話の比率の有意差は本分析では見られなかっ た。疑問文のデータの少なさが影響したと考えられ る。

考察

前節の分析結果では基準位置と保持および基準位 置とゆるみの組み合わせにおける話者交替と話者継 続の比率に有意な差があることが示された.この結 果を図2 に基づいて考察すると,基準位置のポーズ と比較して,保持のポーズとゆるみのポーズにおい ては話者継続の比率が話者交替に比べて高くなって いることを表している.すなわち,基準位置のポー ズ後は話者交替になりやすく,保持またはゆるみの ポーズ後は話者継続になりやすいという傾向の違い が有意に示されたといえる.ポーズの種類(基準位 置,保持,ゆるみ)の選択を行っているのは先行話 者であることを考慮すると,先行話者自身が発話を 継続したい場合には保持またはゆるみのポーズを選 択し,相手話者に発話を交替してもよい場合には基 準位置のポーズを選択しているのではないかという 方略が考えられる.一方,ポーズ後に発話を開始す るかどうかを決定するのは先行話者または相手話者 であり,先行話者のみが発話を開始した場合は話者 継続,相手話者のみが発話を開始した場合は話者交 替,両者が発話を開始した場合は同時発話となるが, 上記の分析結果は基準位置のポーズに対しては相手 話者が発話を開始することが多いのに対して,保持 やゆるみのポーズ後は相手話者が発話を開始するこ とが少ないことを表している.このことは基準位置 のポーズに対して相手話者は発話を開始してもよい が,保持やゆるみのポーズに対して相手話者は発話 を開始すべきではないという暗黙のルールが日本手 話に存在する可能性を示唆している. また,前節の分析結果では平叙文において,基準 位置と保持について話者継続と同時発話の比率に有 意差が見られた.この結果を図2 に基づいて考察す ると,基準位置のポーズと比較して,保持のポーズ においては同時発話の比率が話者継続に比べて低く なっていることを表している.話者継続とは先行話 者が後続発話を発話するのに対して,同時発話とは 先行話者が後続発話を開始するのと同時に相手話者 が発話を開始する現象である.上記の結果について も,基準位置のポーズと比較して保持のポーズ後に 相手話者が発話を開始することが少なく,同時発話 が起こりにくいということを表しており,上述の基 準位置のポーズと保持のポーズに関する話者交替と 話者継続の関係と同様に考察することが可能である と考えられる. なお,疑問文については有意差が見られなかった. 話者交替規則[1]では疑問文の場合,先行話者が次話 者を指定しているため,話者交替となることが予想 されるが,話者継続,同時発話の頻度が話者交替と 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 基準位置 保持 ゆるみ 平叙文のみ 話者交替 話者継続 同時発話 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 基準位置 保持 ゆるみ 疑問文のみ 話者交替 話者継続 同時発話 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 基準位置 保持 ゆるみ 平叙文+疑問文 話者交替 話者継続 同時発話

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比較して高いことが伺える.データ数が少ないので 詳細な分析は難しいが,これらは先行話者が疑問文 の内容を繰り返した結果の話者継続や自問自答によ る同時発話であった[13].

むすび

本研究では日本手話対話におけるポーズを3 種類 に分類して定義し,ポーズで分割された発話単位に 関する話者交替現象をポーズの種類との関係から分 析を行った.その結果,「保持」と「ゆるみ」のポー ズは先行話者の発話継続の意思を表出していると考 えられ,相手話者の発話開始を抑制する働きがある ことが示唆された.また,「基準位置」のポーズ後は 相手話者が発話を開始することが可能であることが 示唆された.日本手話対話では音声対話とは異なり, これら3 種類のポーズを使い分けることで先行話者 が発話継続の意図等を示している可能性が示唆され た. 今後は分析に用いるデータ数及び話者数を増やし, 疑問文に関する話者交替とポーズの種類の分析やオ ーバーラップ現象の分析を行うことが考えられる. さらに,分析で得られた知見を手話対話システム等 に実装し,評価実験を行うことも有効であると考え られる.

謝辞

本研究における対話収録ならびに解析にご協力い ただいた,ろう者,手話通訳者の方々に深く感謝い たします.また,分析時に学生であった長谷川愛さ ん,荒木梨花さんには本研究の分析に協力していた だきました.ここに深く感謝いたします. 本研究は科研費 15K00223, 17H06114 の支援を受 けています.

参考文献

[1] Harvey Sacks,Emanuel A.Schegloff,and Gail Jefferson: A simplest systematics for the organization of turn-taking for conversation, Language, Vol.50, No.4, pp.696-735 (1974) [2] 鳥越隆士: 手話でいかに会話が進行するか, 手話学 研究, Vol.14, No.1, pp.13-20 (1997) [3] 寺内美奈,高田健,西澤弘行,長嶋祐二: 手話会話に おけるターンテイキングに関する基礎検討, 電子情 報 通 信 学 会 技 術 研 究 報 告, Vol.101, No.703, pp.1-6 (2002) [4] 菊地浩平: 会話研究のための話順交替モデルの提案, 日本手話学会第31 回大会予稿集, pp.27-30 (2005) [5] 菊地浩平: 日本手話会話におけるターン・テイキン グ・メカニズム, 社会言語科学会第 21 回大会予稿集 (2008) [6] 菊地浩平: 日本手話会話におけるターン・テイキン グ・メカニズム, 手話学研究 17, pp. 29-45 (2008) [7] 時田佳子,堀内靖雄,西田昌史,市川熹: 自然手話対 話における話者交替に関する予備的検討, 人工知能 学会研究会資料, SIG-SLUD-A402, pp.39-44 (2004) [8] 堀内靖雄,時田佳子,西田昌史,市川熹: 自然手話対 話における話者交替現象の分析, 電子情報通信学会 福祉情報工学研究会資料, WIT2005-9,pp.45-50,2005. [9] 堀内靖雄,山崎志織,西田昌史,市川熹: 日本手話の 話者交替に関する手話言語の特徴, ヒューマンイン タフェース学会論文誌, Vol.8, No.1, pp.1-8 (2006) [10] 村瀬優美,堀内靖雄,篠崎隆宏,黒岩眞吾: 日本 手話対話と日本語音声対話における話者交替現象の 比較分析, 電子情報通信学会技術研究報告, Vol.111, No.424, pp.7-12 (2012)

[11] Hanae Koiso, Yasuo Horiuchi, Syun Tutiya, Akira Ichikawa, Yasahuru Den: An Analysis of Turn-Taking and Backchannels Based on Prosodic and Syntactic Features in Japanese Map Task Dialogue, Language and Speech, Vol.41, No.3-4, pp.291-317 (1998) [12] 菊地浩平,坊農真弓: 相互行為における手話発 話を記述するためのアノテーション・文字化手法の 提案, 手話学研究 22, pp.37-63 (2013) [13] 長谷川愛,堀内靖雄,黒岩眞吾: 日本手話対話 におけるポーズと話者交替に関する分析, 人工知能 学会研究会資料, SIG-SLUD-B803-03, pp.13-18 (2019)

図 2  ポーズの種類と話者交替の出現比率.  あることが示された(p&lt;0.001)。平叙文のみの分析で 有意差を示した基準位置と保持における話者継続と 同時発話の比率の有意差は本分析では見られなかっ た。疑問文のデータの少なさが影響したと考えられ る。  考察  前節の分析結果では基準位置と保持および基準位置とゆるみの組み合わせにおける話者交替と話者継続の比率に有意な差があることが示された.この結果を図2に基づいて考察すると,基準位置のポーズと比較して,保持のポーズとゆるみのポーズにおいては話者継続

参照

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