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権利制限のあり方についての比較法的考察

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Academic year: 2021

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(1)権利制限のあり方についての比較法的考察 胡 雲 紅. はじめに. ては,権利制限の場合が逐条で定められており, アメリカ著作権法においては,フェア・ユース. 権利制限とは,法律上の特別規定により,他. の場合が例挙された上で,フェア・ユースの判. 人は著作権者や著作隣接権者の同意を得ずに,. 断基準が設けられているが,例挙された場合以. 著作物又は実演,レコード及び放送の利用に関. 外の利用行為に関しても,フェア・ユースに該. する制度である.権利制限には,著作者及び実. 当する可能性があると考えられる.. 演家の人格権の制限が含まれるほか,複製権な どの財産権の制限もある1).また,著作権の制 限を公共的限界と時間的限界とに分ける見解も. 1.国際条約におけるフェア・ユースに関する 判断基準の要素. ある2).一般的に,権利期間に関しては,著作. ⑴ ベルヌ条約における規定. 権のみならず,他の無形的な財産権及び一部の. ⅰ 複製権の権利制限に関するスリー・ステッ. 有体物に関する物権においても限定が設けられ. プ・テスト. ているため,それを著作権の制限として特別に. ベルヌ条約第 9 条第 2 項においては,著作物. 概念化することは妥当ではないと思われる.し. の複製権の制限に関するいわゆる「スリー・ス. たがって,著作者等の権利制限としては特別の. テップ・テスト」が規定されている.すなわち,. 場合の人格権の制限及び財産権の制限のみを考. 著作権者の許諾を得ずに,その著作物を自由に. えればよいと思われる.本稿においては,権利. 複製するためには,「特別な場合」,「著作物の. 制限の性質に関する諸説をはじめ,国際条約や. 通常の利用を妨げず」及び「著作者の正当な利. 日本など各国の著作権法における権利制限の判. 益を不当に害しない」ことという三つの要件が. 断基準について紹介した上で,中国国内外で生. 同時に満たされなければならないのである.. じた事案を分析し,権利制限に関する判断基準. まず,「特別な場合」に関しては,条約では. 及び今後の中国著作権法における権利制限に関. 明らかでないが,第 10 条及び第 10 条の 2 にお. する整備について提言することとしたい.. ける引用又は時事問題の記事の複製に関する規. Ⅰ.権利制限の判断基準に関する問題. 定をみれば,「その目的上正当な範囲内」の場 合に可能である.例えば,第 10 条第 1 項の引. 権利制限に関する立法上の手法は二つに分け. 用,第 10 条第 2 項における授業のための利用. られている.すなわち,権利を制限する具体的. 及び第 10 条の 2 における時事問題の記事の複. 個別的な規定を明確に条文において規定するも. 製や写真,映画は「報道目的によって正当化さ. のと,一般的な原則規定を設けるものである.. れる範囲において」利用するなどが権利制限に. 例えば,日本著作権法及び中国著作権法におい. なる.言い換えれば,公共目的のために著作物.

(2) 34. (402). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). が利用されれば,正当な範囲となる可能性が高. 三つの要素が満たされなければならない.ま. く,権利制限として認められる可能性も高くな. ず,引用される著作物は,既に公衆に提供され,. 3). る .. かつ,その提供は,「適法」なものでなければ. 次に, 「著作物の通常の利用を妨げない」場. いけない.次に,その引用が「公正な慣行に合. 合に関しては,ストックホルム会議記録によれ. 致」することである.すなわち,その引用は「公. ば, 「相当の経済的または実用的重要性を有し,. 正かつ慣行に合致したもの」でなければならな. または取得するであろう著作物のあらゆる利用. い.慣行に合致しても,公正な引用でない場合. 形式は,原則として著作者に留保されなければ. 若しくは公正な引用であっても,慣行に合致し. ならないことが明らかである」ため4),通常,. なければ,権利制限にはならない.最後に,そ. 「著作物との経済競争には立ち入らない」目的. の引用は,「目的上正当な範囲で」行われるこ. のために利用することを指すと理解できる.例. とである.すなわち,その引用は,引用の目的. えば,その著作物の利用が市場における著作者. に適合した上,正当な範囲で行われなければな. 又はその承継人による著作物の利用を低下させ. らない.. る利用形式は, 「著作物の通常の利用に抵触す. また,第 10 条第 2 項によれば,「文学的又は. る」ため,権利制限と認められる可能性は低い. 美術的著作物を授業用に,出版,放送,録音又. と考えられる.. は録画の方法でその目的上正当な範囲内におい. 最後に「著作者の正当な利益を不当に害しな. て適法に利用することについては,同盟国の法. い」ことである. 「著作者の正当な利益」とは,. 令または同盟国間の現行の若しくは将来締結さ. 「法的利益」だけではなく,他の経済的又は実. れる特別の取極の定めるところによる.ただし,. 用的利益も含まれると思われる5). 「不当に害. そのような利用は,公正な慣行に合致するもの. しない」とは,その利用が不合理であってはい. でなければならない.」と定められている.こ. けないという意味であり,適切な公共政策の考. こで注意を要するのは,利用の対象となる著作. 慮によって,それが十分に正当化されなければ. 物は「公衆に提供された」か否かを問わず,公. ならないことを意味する.. 表されていない著作物も含まれると考えられる. このように,スリー・ステップ・テストとい. ことである.また,授業のために著作物が利用. う三つの要件が同時に満たされる場合には,権. される場合には,三つの要件も満たさなければ. 利制限として認められる可能性が高い.だが,. ならないと思われる.まず,「目的上正当な範. 引用や,時事問題に関する複製等の権利制限と. 囲内」であること.すなわち,授業のためであ. なるためには,スリー・ステップ・テストを満. り,かつ,授業のための正当な範囲内で行われ. たした上で,条約で定めている具体的な要件も. なければならない.言い換えれば,授業の目的. 満たさなければならない.. 以外の利用や授業の範囲を超える利用の場合に. ⅱ 引用と時事問題に関する権利制限の判断基. は権利制限にはならない.例えば,授業のため. 準. に,ある映画の一部分を学生達に観賞させれば. 第 10 条第 1 項によれば, 「既に適法に公衆に. 十分である場合,その映画の全部を学生に見せ. 提供された著作物からの引用(新聞雑誌の要約. た場合には,正当な範囲を超えたため,権利制. の形で行う新聞紙及び定期刊行物の記事からの. 限にならない.あるいは,授業のために,ある. 引用を含む)は,その引用が公正な慣行に合致. 作曲家の音楽を学生に聞かせることは権利制限. し,かつ,その目的上正当な範囲で行われるこ. の対象となるが,その音楽が含まれた授業が録. とを条件として,適法とされる」と定められて. 画されて市販される場合には,授業の目的では. 6). いる .すなわち,著作物の引用に関しては,. ないため,権利制限にならない.次に,「適法.

(3) 権利制限のあり方についての比較法的考察(胡). (403). 35. に利用する」ことである.最後に, 「公正な慣. ヌ条約を適用するに当たり,締約国は,同条約. 行に合致する」ことである.すなわち,引用と. に定める権利の制限又は例外を著作物の通常の. 同様に,授業用であっても公正な慣行に違反し. 利用を妨げず,かつ,著作者の正当な利益を不. てはいけない.. 当に害しない特別な場合に限定する」とされて. そのほか,同条第 3 項においては, 「引用及. いる.. び(授業の)利用を行うに際しては,出所(著. 要するに,WCT において,権利制限に関し. 作者名が表示されているときは,これを含む. ). ては「著作物の通常の利用を妨げないこと」及. を明示する」と定めており,権利制限に該当す. び「著作者の正当な利益を不当に害しないこ. る場合であっても,著作者の氏名表示権等の人. と」の二つの要件を規定している.だが,いか. 格権を尊重しなければならない.. に著作物の通常の利用を妨げる場合及び著作者. 新聞記事の転載及び報道のための著作物の利. の正当な利益を不当に害する場合を判断するの. 用については,ベルヌ条約第 10 条の 2 に規定. かについては,各締約国に委ねることとなって. されている.同条第 1 項によれば, 「新聞紙若. いる.. しくは定期刊行物において公表された経済上,. ⑶ ローマ条約における規定. 政治上若しくは宗教上の時事問題を論議する記. ローマ条約においては,実演やレコード等に. 事又はこれと同性質の放送された著作物を新聞. 関 す る 権利制限 は「保護 の 例外」と し て,そ. 雑誌に掲載し,放送し又は有線放送により公に. れぞれの場合を例挙して規定されている8).第. 伝達することを,そのような掲載,放送又は伝. 15 条第 1 項によれば,「私的使用」,「時事の事. 達が明示的に禁止されていない場合に認める権. 件の報道に伴う部分的使用」,「放送機関が自己. 能は,同盟国の立法に留保される.ただし,そ. の手段により自己の放送のために行う一時的固. の出所は,常に明示しなければならない. 」と. 定」及び「教育目的又は学術の研究目的のため. 定められている.また,放送の時事の事件を報. のみの使用」という四つの場合において,締約. 道するために著作物が利用される際に,その利. 国は国内法令により,定めることができるとさ. 用は「目的上正当な範囲」でなければならない. れている.また,同条第 2 項によれば,「締約. とされている.. 国は,国内法令により,実演家,レコード製作. しかし,第 10 条及び第 10 条の 2 における著. 者および放送機関の保護に関しては,文学的及. 作物の引用や授業の利用に関する規定は原則的. び美術的著作物の著作権の保護に関して国内法. なものであり, 「正当な範囲」の限度や「公正. 令に定める制限と同一の種類の制限を定めるこ. な慣行」について,明確に規定されておらず,. とができる.ただし,強制許諾は,この条約に. 具体的には各加盟国の国内法によって規定しな. 抵触しない限りにおいてのみ定めることができ. ければならない.. る」とされている.すなわち,締約国は著作隣. ⑵ WCT における規定. 接権に関して,同条第 1 項における四つの場合. WCT の第 10 条においては,著作物に関す 7). において,権利制限の例外を規定できるほか,. る制限及び例外が規定されている .同条第 1. それ以外の場合でも,著作権の制限と同一の種. 項によれば, 「締約国は,著作物の通常の利用. 類の制限を設定してもよいのである.ただし,. を妨げず,かつ,著作者の正当な利益を不当に. 強制許諾について,同条約に抵触しない限りの. 害しない特別な場合には,この条約に基づいて. み,規定することができる.すなわち,ローマ. 文学的及び美術的著作物の著作者に与えられる. 条約においては,実演やレコード等の権利制限. 権利の制限又は例外を国内法令において定める. に関する原則的な判断基準が設けられておら. ことができる」 .また,同条第 2 項では「ベル. ず,権利制限の具体的な場合のみが規定されて.

(4) 36. (404). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). いる.そのほかの場合や判断基準など具体的な. に見られる「文化的所産の公正な利用に留意」. 規定は各締約国に委ねられることとなる.. の文言に基づいて,フェア・ユースの抗弁を認. ⑷ WPPT における規定. める説も存在するが,現在のところそれを認め. WPPT の第 16 条においては,著作隣接権の. た 裁判例 は 存在 し な い10).もっと も,権利濫. 制限及び例外に関する原則的な規定が設けられ. 用 11),公序良俗違反12),黙示許諾といった民法. ている.第 16 条第 1 項によれば, 「締約国は,. 上の法理に基づく抗弁によって,(著作権の行. 実演家及びレコード製作者の保護に関して,文. 使を免れるという点で)フェア・ユースに類似. 学的及び美術的著作物の著作権の保護について. する法的効果が認められる余地はある.. 国内法令に定めるものと同一の種類の制限また. ⑴ 著作者又は実演家の人格権に関する制限. は例外を国内法令において定めることができ. 日本著作権法においては,国際条約や他の国. る」と規定されている.すなわち,著作隣接権. と異なり,権利制限に関しては,経済的権利だ. の制限について,著作権と同じ種類の制限を設. けでなく,人格権にもさまざまな制限が設定さ. けることが許容される.. れている.著作者人格権の制限は公表権,氏名. しかし, 「著作物の通常の利用」が妨げられ. 表示権,同一性保持権につき,それぞれ規定さ. る場合には,著作権者の利益も害されることは. れている.このような規定ぶりに対し,財産権. 想像できるため, 「著作物の通常の利用を妨げ. に関する制限規定は,独立の款において定めら. ないこと」と「著作者の正当な利益を害するこ. れている.. と」は結果的に同じではないかと思われる.言. 著作者人格権 の 制限 に 関 し て は,第 18 条,. い換えれば, 「著作物の通常の利用を妨げない」. 第 19 条及び第 20 条において規定されている.. という規定ぶりは第三者の利用者の権利に着目. 公表権の制限については,第 18 条第 2 項によ. し, 「著作者の正当な利益を害しない」という. れば,著作物の公表につき著作者の同意があっ. 規定ぶりは著作権者の権利に着目したものであ. たものと推定される三つの場合が設定されてい. り,両規定は権利制限の判断基準という一つの. る13).すなわち,未公表の著作物に関する著作. 事柄を二つの面から解釈したものといえるだろ. 権が譲渡された場合,未公表の美術や写真の著. う.. 作物の原作品が譲渡された場合及び映画の著作 物の著作権が映画製作者に帰属した場合という. 2.日本著作権法における権利制限の判断基準. 三つの場合である.氏名表示権の制限について. 日本国著作権法においても,著作権の効力が. は,第 19 条第 3 項によれば,「著作物の利用の. 9). 及ばない著作物の利用行為が規定されている .. 目的及び態様に照らし著作者が創作者であるこ. しかし,日本国著作権法における著作権の制限. とを主張する利益を害するおそれがないと認め. 規定は,著作権の効力が及ばない著作物の利用. られるとき」かつ「公正な慣行に反しない」場. 態様を個別具体的に列挙したものである点で,. 合のみにおいて,著作者名の表示は省略するこ. それを一般的抽象的に規定したアメリカ合衆国. とができると定められている.また,同条第 4. 著作権法におけるフェア・ユース規定とは大き. 項においては,情報公開法等との関連で,氏名. く異なる.. 表示権の規定を適用しない旨の規定が加えら. 日本において,日本国著作権法 30 条~ 47 条. れ,氏名表示権の制限の一つとみなされる.同. の 4 によって定められた範囲を超えて著作物を. 一性保持権に関しては,第 20 条によれば,学. 利用した場合に,フェア・ユースの抗弁によっ. 校教育の目的上やむを得ないと認められるも. て著作権侵害を否定できるのかということが,. の,建築物の増築,改築,修繕又は模様替えに. しばしば論点となる.著作権法 1 条(法目的). よる改変,特定の電子計算機において利用し得.

(5) 権利制限のあり方についての比較法的考察(胡). (405). 37. るようにするため又はプログラムの著作物を電. 利用の目的及び性質によって,それぞれの例外. 子計算機においてより効果的に利用し得るよう. が例挙して規定されている14).著作隣接権の制. にするために必要な改変等三つの場合には,同. 限については,著作権の制限規定を準用するこ. 一性保持権が制限されることとなる.更には,. ととされているため,ここでは著作権と著作隣. それらの場合以外の「著作物の性質並びにその. 接権の制限を一緒に論じることとする.. 利用の目的及び態様に照らしやむをえないと認. 権利制限は利用の目的によって分けられてお. められる改変」の場合も同一性保持権が制限さ. り,論者により,その目的の理解においても相. れる.. 違がある.例えば,ある学者は権利制限の目的. 実演家人格権の制限に関する規定ぶりは,著. を,私的使用のための複製,教育・学習目的等. 作者人格権の制限と同じく,氏名表示権及び同. のための利用,表現活動のための利用,公益性. 一性保持権に関する規定が設けられるととも. の高い業務の円滑な遂行のための利用,及び他. に,権利制限が設けられた.. の権利者等との調整を図るための利用など五分. 氏名表示権に関しては,第 90 条の 2 によれ. 類に分けており15),ある者は権利制限の目的を. ば,実演家名の表示は, 「実演の利用の目的及. 私的使用のため,教育のため,弱者保護のため,. び態様に照らし実演家がその実演の実演家であ. 非営利目的等及び特定の目的のための利用と分. ることを主張する利益を害するおそれがないと. けている16).いずれにしても,権利制限に関す. 認められるとき又は公正な慣行に反しないと認. るいろいろな規定は,公益上の理由や他の権利. められるときは,省略することができる」と定. との調整及び社会慣行など文化的所産の公正な. められている.それに,情報公開法等との関連. 利用という点に配慮したものである.. で,氏名表示権の規定を適用しない旨の規定も. また,日本著作権法の第 5 款からみれば,権. 設けられた.. 利制限とは,必ずしも無料かつ自由に著作物を. 同一性保持権に関しては,第 90 条の 3 によ. 利用するものではなく,著作者の許諾を得る必. れば, 「実演の性質並びにその利用の目的及び. 要がなくても一定の補償金を支払うことを義務. 態様に照らしやむを得ないと認められる改変又. づけているものもある.例えば,著作物の私的. は公正な慣行に反しないと認められる改変」の. 使用のための複製に関しては,通常,著作者又. 場合には,同一性保持権が働かなくなると規定. は実演家等の許諾を得ずに自由に利用すること. されている. 著作者の同一性保持権については,. ができるが,複製技術の発達により,著作者の. その保護の例外について具体的に規定されてい. 経済的利益に影響を及ぼすことが不可避である. るが,実演家の場合は包括的な規定を設けるに. ため,権利制限の適用を前提としつつ,私的録. とどめられている.また,実演家の同一性保持. 音・録画補償金制度も導入されている.また,. 権の判断基準についても, 著作者と異なり, 「実. 教科用図書等への掲載,教科用拡大図書等での. 演の性質並びにその利用の目的及び態様に照ら. 複製,学校教育番組の放送等,教育機関におけ. しやむを得ないと認められる」場合のみなら. る複製等,教育機関における公衆送信等の教育. ず, 「公正な慣行に反しないと認められる」場. 目的の利用に関する権利制限は,無許諾ながら. 合も権利制限となる可能性が高く,実演家の同. 著作者又は実演家等の権利者への通知や補償金. 一性保持権が制限される場合は,著作者の場合. の支払いを要するものもあれば,無償のものも. よりも広く設定されているといえる.. ある.また,営利を目的としない利用につき,. ⑵ 財産的権利に関する制限. 権利を制限し,無許諾かつ無償に利用するもの. 日本著作権法においては,著作権の制限に関. もあれば,著作物の利用形態によって補償金の. する包括的判断基準が設けられておらず,その. 支払いを要するものもある..

(6) 38. (406). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). 更に,引用に関しては,第 32 条第 1 項によ. 権者が本法により享有するその他の権利を侵害. れば, 「公表された著作物」 , 「公正な慣行に合. してはならない」とされている.. 致する」かつ「報道,批評,研究その他の引用. こ こ で い う「著作権者 の 他 の 権利」と は,. の目的上」 , 「正当な範囲で行われるもの」とい. 「本法(著作権法)により享有する」権利であ. う四つの要件が同時に満たされた上で,出所明. り,すなわち,氏名表示権及び同一性保持権を. 17). 示が義務付けられている .さらに, 「他人の. 含む著作者の人格権と著作財産権が含まれると. 著作物を引用する場合に,その著作者の人格権. 考えられるが,権利者の名誉又は声望が侵害さ. 18). を侵害しないよう配慮する必要がある. 」 と. れる場合に,権利制限が適用されるか否かにつ. 考えられる.すなわち,著作物を引用する際に. いて検討する必要がある.例えば,同一性保持. は,著作者人格権だけでなく,一般不法行為と. 権第 10 条第 4 項によれば,「著作物が歪曲,改. しての名誉毀損に関係する保護法益にも配慮し. 竄されたりしないように保護する権利」である. なければならない.. が,その「歪曲又は改竄」を防止する目的は明. このように,日本著作権法における権利制限. 確化されていない.換言すれば,同一性保持権. の規定は,利用の性質又は目的により,それぞ. が設けられていても,著作者の人格的利益を保. れの場合において要件が細かく規定されてお. 護する目的が明らかでない.. り,アメリカのフェア・ユースのような原則的. 一方,国務院により頒布された「中華人民共. な判断基準が設けられていないのである.. 和国著作権法実施条例」(以下「実施条例」と いう.)の第 21 条においては,著作権者の許諾. 3.中国著作権法における権利制限に関する判 断基準. が不要な公表済み著作物の使用について,権利 制限の判断基準がより充実したものとなってい. 中国著作権法においては,著作権又は著作隣. る21).実施条例の第 21 条によれば,「著作権法. 接権の権利制限に関する画一的な判断基準が設. の関係規定に基づき,著作権者の許諾を必要と. けられていない.条文をみると,権利制限の種. せずにすでに公表された著作物を使用する場合. 類としては,権利制限は無許諾かつ報酬を払わ. は,当該著作物 の 正常 な 使用 に 影響 を 与 え て. ない権利制限,無許諾であるが報酬を払う必要. はならず,著作権者の合法的権益に不合理な損. のある権利制限及びラジオ局・テレビ局の利用. 害を与えてはならない」とされている.ここで. による権利制限という三つに分けられている.. いう「著作者の合法的権益」には,著作権法上. ⑴ 無許諾かつ報酬を払わない権利制限の場合. の権益のみならず,民法や刑法などの権益も含. 中国著作権法第 22 条第 1 項においては,無. まれると考えられる.したがって,中国著作権. 許諾かつ報酬を支払わない権利制限の 12 の場. 法においては,同一性保持権の対象として著作. 合が列挙して規定されている19),この 12 の場. 者や実演家等の名誉又は声望が明確に保護され. 合において著作物や実演等を利用することは. てはいないが,権利制限の場合に,その名誉又. 「合理使用」とも呼ばれる20).中には,個人使. は声望は「著作者の合法的権益」として,尊重. 用,時事報道のための引用,教育のための利用,. かつ考慮されなければならないこととなる.一. 図書館等公共機関の複製及び無料実演等の場合. 方,実演やレコード等の正常使用に影響を及ぼ. がそれぞれに設けられている.同条によれば,. す場合,実演家やレコード製作者等の合理的権. これらの場合において著作物を利用する際に,. 益 に 不合理 な 損害 を 与 え る 場合 に,実施条例. 「著作権者の許諾を必要とせず,著作権者に報. の第 21 条の規定を準用できるか否かについて,. 酬を支払わなくてもよいが,著作者の氏名,著. 条文 で は 明記 さ れ て い な い.だ が,著作権法. 作物の名称を明示しなければならず,かつ著作. 第 22 条第 2 項において,著作者の権利制限に.

(7) 権利制限のあり方についての比較法的考察(胡). (407). 39. 関する規定は「出版者,実演者,録音録画制作. 作者が事前に使用を許諾しない旨を表明してい. 者,ラジオ局,テレビ局の権利の制限に適用す. ない」ものであり,かつ「公表されている著作. る」とされていることから考えれば,実施条例. 物」に限られている24).最後に,それらの著作. 第 21 条の規定は実演家やレコード製作者及び. 物 が 無許諾 で 使用 さ れ る 際,「著作者 の 氏名,. ラジオ局・テレビ局に権利制限にも準用される. 著作物の名称を表示し,かつ著作権者の著作権. と推定し得る.. 法上の権利を侵害してはならない」ことである.. 要するに,発表された著作物の権利制限に関. また,教科書への掲載は「著作権者の許諾を. する判断基準については, 「著作物の正常な使. 必要とせずにすでに公表された著作物」を使用. 用に影響を与えず」かつ「著作権者の合法的権. する場合であるため,その適用にあたっては,. 益に不合理な損害を与えない」こと, また, 「著. 以上述べた三つの条件を満たしたうえで,「実. 作者の氏名又は著作物の名称の明示」をするこ. 施条例」の第 21 条において規定される「当該. と及び「著作権者の著作権法上の権利を害しな. 著作物の正常な使用に影響を与えてはならず,. い」こととされており,四つの要件が同時に満. 著作権者の合法的権益に不合理な損害を与えて. たされれば,権利制限に当たる可能性が高い.. はならない」という権利制限の判断基準が適用. ⑵ 教科書への掲載. されると思われる.. 中国著作権法第 22 条における無許諾かつ報. しかし,現在普及しているネットワークにお. 酬を支払わない場合以外の権利制限は,教科書. ける教育のための著作物の利用に関しては,全. への掲載である.同法第 23 条によれば, 「9 年. く言及されていないのである.例えば,いわゆ. 制義務教育及び国の教育計画実施のために編纂. る「遠隔教育」のため,デジタル化された教科. 出版される教科書は,著作者が事前に使用を許. 書を使う場合に,権利制限に当たるか否かにつ. 諾しない旨を表明しているものを除き,著作権. いて,詳細な説明がないが,このままでは今日. 者の許諾を得ずに,教科書中に,すでに公表さ. の教育手段の多様化という社会状況の変化に対. れて い る 著作物 の一部分又は短編の文学著作. 応することができないおそれがあると思われ. 物,音楽著作物又は一枚物の美術著作物,写真. る.. 著作物を編集することができる.但し,規定に. ⑶ ラジオ局・テレビ局による利用. 従って報酬を支払い,著作者の氏名,著作物の. 中国著作権法第 42 条によればラジオ局・テ. 名称を表示し,かつ著作権者が本法に基づいて. レビ局の著作物の放送に関しては,「ラジオ局,. 享有するその他の権利を侵害してはならない」. テレビ局が他人の未公表の著作物を放送する場. とされている.すなわち,権利制限としての教. 合,著作権者の許諾を得て,かつ報酬を支払わ. 科書への掲載は,いくつかの条件を満たさなけ. なければならない」とされており,また,「ラ. ればならない.まず,目的についていえば, 「9. ジオ局,テレビ局が他人がすでに公表した著作. 年制義務教育及び国の教育計画実施のため」に. 物を放送する場合,著作権者の許諾を得る必要. 限定されている.換言すれば,小学校及び中学. はないが,報酬を支払わなければならない」と. 校の教科書に限られ,高校以上の学校や大学の. 規定されている.. 教科書は対象外とされている.また, 「中国著. 同様にラジオ局・テレビ局の放送に用いられ. 作権法及び関係法規に関する新釈新解」によれ. る著作物が権利制限の対象となる場合には「実. ば,ここでいう「教科書」とは,授業において. 施条例」第 21 条において規定されている「当. 22). 教育に用いられる正式な教科書であり ,かか. 該著作物の正常な使用に影響を与えてはなら. る参考書等はこの「教科書」には含まれないと. ず,著作権者の合法的権益に不合理な損害を与. 23). されている .次に,制限される著作物は, 「著. えてはならない」ことも条件とされていると考.

(8) 40. (408). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). えられる.. は,2005 年 5 月,新聞社 の 許諾 を 得 な い 新聞. また,レコードに関しては,実演家やレコー. 記事のインターネット上の利用は著作権侵害で. ド製作者の権利だけでなく,著作者の権利が制. あるとグーグルを訴えた.裁判所は著作権侵害. 限されている.同法第 43 条によれば, 「ラジオ. であると判断したが,グーグルの広報担当は,. 局,テレビ局がすでに出版された録音製品を放. 「著作権法は著作物の利用を奨励している.風. 送する場合,著作権者の許諾を得る必要はない. 変わりなベルギーの新聞社を除き,自分の情. が,報酬を支払わなければならない」と定めら. 報が無視され埋もれてしまうことを望む者はい. 25). れている .すなわち,録音製品の著作権者に. ないであろう.ニュースを周知することの自由. 対し,その権利制限は無許諾であるが,報酬が. は著作権法で妨げられるべきではない,著作権. 支払われなければならないこととなっている.. の過剰な保護はインターネットの発展を阻害す. これに対し,実演家やレコード製作者に対して. る」と主張している.これに対し,コピープレ. は, その権利制限の場合には「無許諾」かつ「報. ス側は,「グーグルは独自の著作権ルールを押. 酬を支払わない」こととされている.. し付けてきている.グーグル・ニュースは検索. Ⅱ.時代の発展に伴う判断基準の変遷 1.イ ンターネットの普及に伴う権利制限の判 断基準の変遷. ツールではなく新聞記事のカクテルである.新 聞社のサイトでの記事の無料閲覧期間が経過し た後でもグーグル・ニュースでは全文の閲覧が 可能である」と述べている26).. デジタル技術の発達及びネットワークの普. 同様の事件として,フランスの Agence France. 及は,著作者の権利に影響を及ぼすのみなら. Presse(以下「AFP」という. )は,2005 年にグー. ず,権利の制限若しくはフェア・ユースの判断. グルを相手にアメリカで訴訟を起こしている.. 基準にも新たな挑戦をもたらした.インター. AFP によれば, 「一般の購読者や報道機関は正当. ネットを経由して,さまざまな著作物や実演が. な対価を AFP に払って写真,記事を利用してい. 公衆に伝達されるとともに,著作権者側とイン. るのに,グーグルがまったく同じことを無断で. ターネットコンテンツを提供しているプロバイ. 行うことは許されない.グーグルを通じて入手. ダーの間に次々に訴訟や争いが起こった.それ. できるのであれば,当社と直接契約をする者は. らの中で,もっとも注目されたのは検索エン. いなくなるであろう.AFP の業務を妨害する. ジンを経営している著名なサイト「グーグル. ものだ」というものである.また,写真に付さ. (Google) 」である.. れている AFP の著作権表示をグーグルは削除. グーグルは検索エンジンを運営しているウェ. しているとして,「グーグルの行為は DMCA27). ブプロバイダーとして,大衆に新聞記事や書籍. 違反である」と主張していた28).この争いは. 及び絵画の要約やリンクを提供している.2007. 結局 AFP 側とグーグル側の和解で解決された. 年からグーグル・ユース,グーグル・ブック及. が,検索エンジンがどの程度新聞記事の写真,. びイメージ検索のサムネイルに関する訴訟が. 見出し及び記事の冒頭部分を利用できるかにつ. 次々に起こっている.. いては,今後検討すべき問題であると考える.. ⑴ グーグルの検索エンジンをめぐる紛争. ⅱ グーグル・ブックに関する問題. ⅰ グーグル・ユースに関する訴訟. 「コ ピ ラ イ ト」の 海外 ニュース に よ れ ば,. 日本著作権情報センターが発行した著作権情. 「今 年(注:2008 年)3 月 6 日 に ニ ュ ー ヨ ー. 報誌「コピライト」の「海外ニュース」による. ク で 開催 さ れ た ア メ リ カ 出版社協会(The. と,ベルギーのフランス語,ドイツ語の新聞社. Association of American Publishiers)の 年 次. の 18 社を代表するコピープレス(Copiepresse). 総会で,マイクロソフトのルービン氏(Thomas.

(9) 権利制限のあり方についての比較法的考察(胡). (409). 41. C. Rubin, Associate general council for. を期待している.グーグルのサムネイルは,こ. copyright,trademark and trade secrets)が,. の意味からも,写真の権利者にとっての利益で. 「オンライン・サービスと知的財産権」と題し. もある.自分のサイトの情報へのアクセスを制. て講演を行い,その中で,グーグルが提供し. 限したいと望むのであるならば,検索エンジン. ている出版物へのオンラインアクセス・サービ. からのアクセスを防ぐプログラムを用いればよ. スは違法であるとグーグルを批判した」 .ルー. い.そのような措置を講じていない場合は,知. ビン氏は, 「グーグルの書籍検索計画(Google’s. 的財産権を防護する意味がないことを示してい. Book Search project)は,存在する全ての出版. る」と述べた.. 物のデータベース化であるが,グーグルはそれ. この判決は,2003 年のハンブルク裁判所の,. を権利者の許諾を得ることなく,組織的に著作. 「写真の品質にかかわりなく,画像の表示につ. 権を侵害することで行っている. 」と主張した.. いて許諾を得ていない以上,著作権侵害である」. グーグル側は, 「グーグルを信用してほしい,. との判断と正反対のものであり,コンテンツを. 断片を提示するだけでデジタル複製物の管理は. ウェブサイトに載せるからには知的財産権を犠. 万全である,あなたの権利は守られている」と. 牲にすることを覚悟すべきだというこのような. 抗弁した29).. 考えは危険であると指摘されている32).. し か し,2005 年米国 で 起 こった 全米作家組. 以上に述べたようにグーグルに関する紛争は. 合と全米出版社協会のグーグル・ブックに対す. アメリカとベルギーで権利侵害と判断された. る集団訴訟の和解合意を見れば,無断で著作物. が,ドイツで権利侵害に当たらないとする判. をデジタル化することが著作権の保護とはなら. 断も出されたところである.インターネットに. ないと思われる30).. おける著作物や実演の利用について,国や裁判. グーグルのような検索エンジンは確かに公衆. 官によって,判断が異なるおそれがあるため,. 便利なサービスを提供しているが,情報へのア. 今後,検索エンジンに関して,いかにフェア・. クセスの容易さと著作者の創作への意欲との間. ユースの限度を設定するのかが重要な課題とな. のバランスをいかに取るのかについて,全ての. ると考えられる.. 関係者が協力するだけではなく,法律上の検討. ⑵ パロディとフェア・ユース. も必要となるであろう31).. パロディに関しては,人格権の保護からみれ. ⅲ イメージ検索に関する訴訟. ば,英米法体系と大陸法体系において全く異な. ドイツでは,グーグルのイメージ検索におけ. る方法で取り扱っているため,パロディに対す. る画像の表示に対する著作権侵害の訴訟が起. る対策も相違がある.例えば,アメリカの裁判. こった.2007 年 3 月 15 日,チューリンゲンの. 例をみれば,いったん著作物又は実演等の利用. エアフルトの地方裁判所でその画像表示は著作. がパロディと判断されると,かなり広い範囲で. 権侵害とならないとの判断が示された.. フェア・ユースと認められるケースが少なくな. 裁判所によると, 「情報をウェブサイトに載. い33).また,フェア・ユースの判断基準は著作. せる者は,その情報にリンクが張られることを. 者の物質的な利益に着目されており,人格的利. 喜ぶべきである.他人の写真を利用することに. 益には着目されていない.これは,英米法体系. は問題があるが,グーグルの場合は,写真の画. の伝統において,人格的利益は名誉毀損法や不. 質を向上することが出来ないサムネイルとして. 正行為防止法等で保護されていることから著作. の利用であり,このことは著作権侵害にはあた. 権法上では重視されていないためである.これ. らない.ウェブページを創作する者は,他人が. に対し,大陸法体系においては,従来より人格. そのページを訪問し,何かを学んでくれること. 権に非常に重要な位置づけが与えられており,.

(10) 42. (410). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). 民法や刑法等の基本法のみならず,著作権法に. が従の関係があるということを指す.換言すれ. おいても著作者や実演家等の人格権が保護され. ば,引用としてのパロディは,原作品と明確に. ている.したがって,大陸法体系に属する国に. 区別できる上,量的には原作品より多くなくて. おいては,パロディに対する取り扱い方に関し. はならない.. て,自国の法的伝統を踏まえながら,事案の実. アメリカを始め英米法体系と日本等の国にお. 情と結びつけ判断すべきであると思われる.例. けるパロディに対する取扱い上の相違をみれ. えば,大陸法体系においては著作者等の人格権. ば,パロディという芸術作品をどのように取り. が重視されているため,権利制限の判断基準を. 扱うべきかについて検討する必要がある.. 設定する際に,英米法体系とは異なり,人格権. まず,パロディとは,既成の著名な作品又は. も考慮すべきであろう.. 他人の文体・韻律などの特色を一見してわかる. また,パロディの性格に関しては,国によっ. ように残したまま,全く違った内容を表現し. て異なることとなっている.例えば,アメリカ. て,風刺・滑稽を感じさせるように作り変えた. においては,通常パロディを二次的著作物とし. 文学作品であるため,原著作物に対し何らかの. て認めているが,営利目的であるか否かを問わ. 影響が及ぶことは避けられない.人格権保護の. ず,変形的利用であればフェア・ユースと認め. 観点から見れば,氏名表示権はさておき,同一. 34). られる可能性が高いこととなっている . . 性保持権の保護を強調すれば,パロディの創作. フランス著作権法においては,パロディは権. に消極的な影響を与えるおそれがある.一方,. 利制限の範囲に属させており,著作権侵害でな. パロディは原著作物を基にして創作された作品. 35). いと明文で規定されている .すなわち,パロ. であり,原著作者等の名誉又は声望などがきち. ディであると判断されれば,それが公表されて. んと保護されなければ,原著作物の創作にも消. も,原著作者は禁止することができない.. 極的な影響を与えるおそれがある.特に,現在. これに対し,日本の裁判例をみれば,伝統的. においてはインターネット技術の発展により,. な引用法理によりパロディを判断する場合が多. 情報も瞬間的に広い範囲に伝達することがで. い.前述の写真家の白川義員が提訴した「パロ. き,いったん原著作者の名誉又は声望を害すれ. ディ事件」について最高裁は, 「引用とは,紹. ば,その影響を取り消したり回復することは困. 介,参照,論評その他の目的で自己の著作物中. 難である.したがって,仮にパロディを権利制. に他人の著作物を原則として一部採録すること. 限として,原著作者の許諾を得ずに当該著作物. をいうと解するのが相当であるから,右引用に. を自由に利用することができることとしたとし. 当たるというためには,引用を含む著作物の表. ても,その利用は,原著者等の名誉又は声望を. 現形式上,引用して利用する側の著作物と,引. 害しないという限度があると思われる.いった. 用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別. んパロディが原著作物に悪影響を与えれば,特. して認識することができ,かつ,右両著作物の. に原著作者の名誉又は声望を害すれば,権利制. 間に前者が主,後者が従の関係があると認めら. 限とはならない可能性もあると思われる.. れる場合でなければならないというべき」とし. 次に財産権からみれば,仮にパロディを権利. た36).すなわち,パロディであっても明瞭区別. 制限の対象として自由に原著作物を利用するこ. 性と附従性という二つの要件が満たされなけれ. とができたとしても,少なくとも原著作者に一. ば権利制限にはならないのである.ここでいう. 定の補償を支払わなければならないと考えられ. 明瞭区別性の要件とは,引用された原作品とパ. る.なぜならば,パロディは原著作物の文体や. ロディを明確に区別できることを指す.附従性. 特色(影像を含む)を用いるだけでなく,当該. とは,パロディと原作品の間に前者が主,後者. 著作物の知名度も利用し創作された作品である.

(11) 権利制限のあり方についての比較法的考察(胡). (411). 43. からである.例えば,中国で生じた有名な「饅. 調査結果によると,日本において,2006 年第. 頭血案」においては,陳凱歌監督により創作さ. 4 四半期はブログの投稿数が世界の総投稿数の. れた原著作物である「無極」という映画に 3 億. 37% に の ぼ り,事実上 の 世界標準語 で あ る 英. の人民元も投資されたが,胡戈という人が当該. 語や,母語人口で世界最多の中国語を抑えての. 映画の画面又は影像を再編集し,自分で創作し. 1 位であったという報道もある.なぜならば,. たせりふと組み合わせて,わずか五日間のうち. 日本は 3G 携帯電話が世界中でもっとも発達し. に「饅頭血案」を創作した.当時,胡氏は「饅. ている国であり,携帯電話からのインターネッ. 頭血案」が自分の練習作品であり,権利制限に. ト利用が非常に簡単であるため,電車の中から. 当たると主張したが,彼が「饅頭血案」でイン. でもべットに寝転がりながらでも,簡単にブロ. ターネット世界にデビューし,全国的に有名に. グを更新することができるからである38).. なり,その作品が注目されるようになったのは. また,中国においても政治家や俳優などの有. 否定できない事実である. 「饅頭血案」は営利. 名人をはじめ,多くの一般市民も自分のブログ. を目的としない作品であったが,彼に精神的な. サイトを開き,さまざまな体験や写真をサイト. 積極的価値をもたらし,その後,胡氏の同様の. にアップロードしている.中国ネットワーク情. 作品は一つ 60 万元に値するようになった.イ. 報 セ ン ター(CNNIC)2009 年 7 月による第 24. ンターネット環境において風刺・滑稽を感じさ. 次統計報告 に よ れ ば,2009 年 6 月 30 日 ま で の. せるように作り変えた文学作品や実演はますま. 時点で,中国においてインターネットを利用す. す多くなっているが,営利を目的としなくても. る人口は 3 億 3 千 8 万人であり,そのうち,ブ. 私的使用ではないため,著作者等の権利者に一. ログの利用者は 1 億 8 千 2 万人に上っている39).. 定の補償を支払うべきではないかと考えられ. ブログはインターネット環境における一種の. る.. コミュニケーション手段として普及している. したがって,パロディに対する取扱いに関し. が,それに伴い著作権法上の問題ももたらした.. ては,二つの方法が考えられる.まず, パロディ. 例えばブログは基本的に個人が利用しているサ. を二次著作物として取扱うとすれば,創作者が. イトであるが,ブログへの転載や引用,又は他. きちんと原著作者から許諾を得て,かつ,報酬. 人の著作物の掲載について権利制限に当たるか. を支払わなければならないこととなる.次に,. 否かということを検討する必要が生じている.. パロディを権利制限として取扱うとすれば,原. ⅰ ブログへの転載. 著作者の人格権を尊重することを前提として,. 商業目的であるか否かにかかわらず,たとえ. 報酬を支払うことを条件に,原著作者の許諾を. 個人的なサイトであったとしても,他人の著作. 得ずに当該著作物を利用することができる旨の. 物や実演を自分のホームページ(ブログ)に転. 権利制限規定を設けることが考えられる.. 載する場合には,原著作者や実演家の許諾を得. ⑶ ブログ(blog)に関する問題. ることを必要とする.なぜならば,ベルヌ条約. ブログとは,Web サイト上に時間を追って 37). や WPPT における転載に関する権利制限の規. 記述された日記や記事のことである .ブログ. 定は,時事問題を報道するために他の新聞紙若. の始まりは,英語圏のウェブにおいて,自分が. しくは定期刊行物において公表された経済,政. 気になったニュースやサイトなどの記事を寸評. 治,宗教などの時事問題を転載する場合に限っ. つきで紹介したこととされる.. ており,全ての文学的又は美術的著作物が権利. 現在,英語圏だけでなく,多くの国でブログ. 制限の対象ではないからである.. に関するサービスが提供されている.ブログ検. しかしながら,時事問題に関する報道や実演. 索サービスを提供するアメリカエクノラティの. が個人のブログに直接に貼り付けられる場合.

(12) 44. (412). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). に,著作者や実演家の許諾を得る必要があるか. 著作権法では,家族や少数のごく親しい友人. 否かについて,検討を必要とする.前述のとお. の間では,著作物の複製を認めている.これが. り,ベルヌ条約第 10 条の 2 によれば,時事問. 著作物の私的複製と呼ばれるものである42).こ. 題の記事に関する転載や複製などが権利制限に. の考え方に基づけば,家族しか見ないようなブ. あたるのは,新聞紙若しくは定期刊行物におい. ログでは,著作物の転載が可能となるように思. て公表された記事,若しくは放送された時事問. われるが,ブログの場合,厳格なアクセス制限. 題を新聞雑誌に掲載し,放送し又は有線放送に. をかけている場合を除いて,そこに書かれたコ. より公に伝達する場合に限られている.個人の. ンテンツは全世界に向けて発信されてしまう.. ブログに時事問題の記事を貼り付ける行為が公. URL さえわかれば誰でも閲覧可能であり,実. 衆への伝達行為に含まれるか否か明確な規定は. 態は身内しか見ていない場合でも誰でも閲覧可. ないが, ブログにおける著作物や実演の利用は,. 能な状態にあれば,そのブログは著作権法違反. 例え個人使用目的であったとしても,当該著作. となるおそれがあるといえる.. 物や実演がいったんインターネット環境に置か. ⅲ ブログへの引用. れれば当該個人に限らずすべての人がアクセス. 通常国際条約や各国の著作権法においては,. できるようになるため, 「有線により公衆への. 引用であれば著作権者の承諾無く著作物を利用. 伝達行為」となるのである.また,ベルヌ条約. できると定められているが,引用であるため. 第 10 条の 2 における時事問題の転載について. には,以下の 2 つの条件を満たすことが必要で. 権利制限を創設する趣旨は, 「時事の事件に関. ある.すなわち, 「公正な慣行に合致すること」. する情報の自由な流通を促進することを含む方. 及び「引用の目的上正統な範囲内であること」. 40) 向へと向かうものであった」 ため,インター. である.引用元の文章の内容について意見を述. ネット環境における時事の事件に関する転載も. べる,批評する,又はそこからさらに議論を発. 権利制限として認められるべきであると思われ. 展させるなどの行為を伴って初めて引用となる. る.. のであり,よく見られるネット配信された新聞. 日本などの国においては,時事問題の転載は. 記事をそのままメモのように貼り付けたブログ. 新聞紙,雑誌及び放送,有線放送に限られてお. は,明らかに著作権法違反と言うことになる.. り,インターネットなど他の方法を通じ時事問. その他,雑誌や他人のブログなどを全文掲載す. 題を転載する場合には権利制限に該当しない. ることも,当然著作権法違反となる.. 可能性が高いと思われる41).だが今日インター. このように,ブログの場合には個人が自分の. ネットの普及とともに,ネットワークによる情. 感想や体験を書くことが多く,また身内など特. 報伝達は,新聞紙,雑誌などの従来の媒体に勝. 定の範囲内でしかそのブログがみられない場合. るとも劣らない利便性の高い重要な伝達手段と. が少なくないとしても,インターネット環境で. なっているため,それらの利用による時事問題. あれば,情報が拡散される可能性があるため,. の転載を制限規定から排除することは,時事の. 権利制限に関しては,慎重かつ厳格に取り扱う. 事件の円滑な流通を阻害するおそれがあるので. べきであると思われる.. はないかと思われる.したがって,時事の事件 の自由な流通の観点から,ブログにおける他人 の時事問題に関する新聞記事又は実演の掲載が. Ⅲ.中国著作権法における権利制限の基準及び 内容の充実. 公衆への伝達行為として認められれば,権利制. 中国著作権法第 22 条第 2 項によれば,「前項. 限に含まれると解するのが妥当である.. の 規定(著作者 の 権利制限規定)は,出版社,. ⅱ ブログと私的使用. 実演者,録音録画製作者,ラジオ局,テレビ局.

(13) 権利制限のあり方についての比較法的考察(胡). (413). 45. の権利の制限に適用する」とされているため,. 不合理な損害を与えてはならない.」と規定す. 実演家の権利に関する制限については,著作者. べきであると思われる.. と一緒に論じる必要がある.しかし,私的のた めの複製や学校教育のための使用などに関する. 2.私的使用. 権利制限は著作者の権利制限と同様に適用すれ. ⑴ 私的使用に関する権利 . ばよいが,著作者の権利制限が実演家等に適用. 通常,私的使用とは,著作物の種類,性質を. されない場合もある.. 限定することなく,個人的又は家庭内等の閉鎖 的範囲で使用する目的であれば,使用する本人. 1.権利制限の判断基準. が複製することを認めている.私的使用に関す. 前述のとおり,中国著作権の保護の根拠には. る権利制限の規定はベルヌ条約や WPPT にお. 著作権法だけでなく,著作権法実施条例も含ま. いて明確に規定されていないが,このような使. れている.著作権法は全国人民代表大会常務委. 用は著作物の通常の利用と衝突せず,著作権者. 員会にて採択された法律であり,実施条例は中. の経済的な利益を害するおそれがないと思われ. 国国務院にて制定された行政法規である. 無論,. るため,日本,中国,アメリカ及びイギリスな. 実施条例は著作権法が円滑に実施されるために. ど各国の著作権法において,私的複製を権利制. 制定されたものであるが,現実には実施条例は. 限の一種として規定している.. 著作権法において明確に規定されていない定義. 中国著作権法第 22 条第 1 項第 1 号によれば,. や規定を補完する役割を果たしている.その結. 「個人的な学習,研究又は観賞のため,他人が. 果,中国においては著作権の保護について著作. すでに公表している著作物を使用する場合」,. 権法と実施条例という二重の法規が並存してい. 著作権者の許諾を得ずにかつ報酬を支払わない. る.したがって権利制限の基準に関しても,著. こととされている.すなわち,非営利の目的で. 作権法と実施条例において相違のある基準が定. 個人が公表された著作物を使用する場合に,権. められることとなっている.. 利制限となる.しかし,著作物の個人的使用に. 条文を一見すると,現行の実施条例における. 関する方法又はどのような限度において著作物. 権利制限に関する判断基準や保護のレベル等は. を使用できるかについて,詳細な規定はない.. 著作権法よりも高いように見える.しかし,実. 例えば,個人的な学習,研究又は観賞のために,. 際に権利制限になるか否かを判断する際には著. 他人の著作物を随意に改変したり,再編集した. 作権法と実施条例の規定を総合的に考慮しなけ. りすることが許されるか否かということについ. ればならないのである.このような状況は,理. て議論する必要があると思われる.前述の「饅. 解の混乱をもたらすおそれがあるばかりでな. 頭事件」について,胡戈は自分が映画である「無. く,条文を参照する際に不便を強いることでも. 極」のいくつかの影像画面を使うことは「個人. ある.. 的な研究」のためであり,その後,「饅頭事件」. 結論として,権利制限の判断基準に関しては. がインターネットにアップロードされ公衆に伝. 実施条例における規定の内容と合わせた統一規. 達されたのは,自分の行為によるものではなく,. 定を著作権法に置いたほうがよいと考えられ. 「饅頭事件」の複製物を電子メールで受信した. る.すなわち,権利制限の前提となる要件とし. 友達の行為によるものだったと主張したが,個. て, 「著作権者の許諾を必要とせずに公表され. 人的な研究であることを理由にして原著作物の. た著作物を使用する場合は,当該著作物の名称. 同一性保持権を害することは許されないだろ. を明示した上に,当該著作物の正常な使用に影. う.「個人的使用」という規定により広く著作. 響を与えてはならず,著作権者の合法的権益に. 者の権利が制限されることは,著作者の正当な.

(14) 46. (414). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). 利益に損害をもたらす可能性が高い.前例のと. いて個人使用のための複製サービスを提供する. おり,仮にその個人的使用が複製のみならず原. 場合に権利制限の対象となるのかについて検討. 著作物又は実演の改変にまで及べば,著作者又. する余地がある.例えば,中国の大学の周りに. は実演家の人格権を害するおそれがあるのでは. はコピーを業とする店が少なくない.それらの. ないかと思われる.したがって,個人的使用で. 店は学生にコピーサービスを提供している.学. あっても原著作者や実演家の人格権を尊重しな. 生達にとっては他人の著作物を複製し利用する. ければならないという点を法律において強調し. 行為には,個人使用に当たるが,コピー機を提. た方がよいのではないかと思われる.. 供する店から見ると個人使用とはいえない.こ. また,個人的使用は, 「閉鎖的な範囲内の零. のような利用行為をいかに規制するのかという. 細な利用」にとどまることが前提となるため,. 点が現行著作権法において規定されていない.. 例 え 個人的使用 の 目的 で あって も,家庭用 の. 日本著作権法においては,私的使用の範囲を. ハードディスクレコーダーに大量のテレビ番組. 「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限ら. や音楽を録音録画して保存する行為は, 「著作. れた範囲内に」限っている.しかし,「公衆の. 者の正当な利益を不当に害する」 おそれがあり,. 使用に供することを目的として設置されている. 複製権侵害となる可能性がある43).同様に,イ. 自動複製機器(複製の機能を有し,これに関す. ンターネット環境における番組や音楽の複製も. る装置の全部又は主要な部分が自動化されてい. 複製権侵害となる可能性があると思われる.特. る機械をいう.)を用いて複製する場合」が権. に現在,ネットワークの発達に伴い,テレビや. 利制限から除外されている.したがって,個人. ラジオカセットなどの機械を使わなくてもパソ. 使用であっても業者に依頼する大量複製のよう. コン一台のみ持っていれば,様々な映画や音楽. な場合は著作者の利益を害するおそれがあるた. をダウンロードして鑑賞することが可能となっ. め,このような利用行為が含まれないよう私的. ているが,このような個人使用も零細な利用と. 使用の範囲をさらに限定した方がよいと思われ. はいえず,著作者の正当な利益を不当に害する. る.. おそれがあると思われる.したがって,今後イ. また,インターネット環境における個人使用. ンターネット環境における個人によるダウン. についていかに規制するのかについて著作権法. ロード行為をいかにコントロールするのかにつ. では規定されていない.前述のとおり,個人的. いても検討課題となっている.この点に関して. 使用の範囲については,通常,家庭内や少数の. は,日本などの国における私的録音録画補償金. 友人間など限られた「閉鎖的な範囲内の零細な. 制度をインターネット環境に導入し,個人のダ. 利用」で使うことが認められるが,仮にその著. ウンロード行為に対しても著作者に一定の補償. 作物に対する複製又は利用が個人的な目的で. 金を支払う義務を課する制度を創設することが. あっても,公衆がアクセスできる場合において. 適切ではないかと考えられる.. は権利制限には該当しないと考えられる.. ⑵ 私的使用の範囲. 特に,現在では複製機器の発達とともに,個. 中国著作権法第 21 条では私的使用の範囲に. 人がより容易に他人の著作物を複製することが. 関し, 「個人的」に限られているが,この個人. できるようになっている.日本やドイツ等の国. の範囲が明確に規定されていない.例えば,個. の著作権法においては私的録音録画補償金制度. 人使用のため他人の映画をコピーして,家族と. が設けられているため,著作者に一定の補償が. 一緒に鑑賞することが権利制限になるのか疑問. 与えられているが,中国においては私的録音録. が生じるだろう.また,公衆の使用に供するこ. 画補償金という制度がないため,個人の利用に. とを目的として設置されている自動複製機を用. 関しては著作者の許諾を得ず,報酬も支払わず.

(15) 権利制限のあり方についての比較法的考察(胡). (415). 47. に自由に利用することができる.このような現. であっても権利者の利益を損なうおそれがある. 状は著作者の経済的利益を大きく損なうことが. と思われる.. 想像できる.. この点について,平成 21 年日本著作権法を. したがって,個人的使用に関する権利制限を. 改正する際に,既に解決した.日本著作権法第. いかに厳密に規定するのかということが今後の. 30 条第 1 項 3 号によれば,著作権を侵害する. 法改正で考えなければならない問題となる.. 自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信で. この点について,個人的使用に関しては複製. あって,国内で行われたとしたならば著作権の. に限り,また,学習や研究の目的であれば権利. 侵害となるべきものを含む.)を受信して行う. 制限の対象としてもよいが,観賞又は娯楽のた. デジタル方式の録音又は録画を,その事実を知. めに他人の著作物を利用する場合には,著作者. りながら行う場合は,私的使用のための複製に. から許諾を得なくてもよいにせよ,少なくとも. はならないと定めている.. 著作者に報酬を支払うべきではないかと思われ. 中国においても,違法サイトや違法複製物か. る.また,インターネット環境における個人的. らの複製が少なくない現状を踏まえ,今後いか. 使用は一切権利制限の対象とならない規定も必. にインターネット環境における個人的複製を規. 要である.なぜならば,個人使用のためであっ. 制するのか,真剣に解決すべき課題となってい. ても,他人の著作物をインターネット環境にお. る.. けば著作者の送信可能化権を害するおそれがあ. 筆者はインターネットにおける音楽や実演な. るからである.. どを提供するサイトの事業者を登録制により管. ⑶ インターネットからのダウンロード複製に. 理した方がよいのではないかと考える.例えば,. ついて. 著作者や実演家などの権利の集団管理組織から. インターネットの普及に伴い,多くの人が. 許諾を得たサイトのホームページにおいて,適. CD やレコードを使わずに,直接インターネッ. 法に登録した特別なサインをつけて,利用者が. トにおける音楽などのサイトから音楽や実演を. そのサインの有無により違法サイトか否かにつ. 自分のコンピューターに複製しているが,この. いてすぐ判断できるようにすることが考えられ. ような場合に私的使用に当たるか否かも明確化. る.このように,違法サイトや違法複製物から. すべき問題である.. の複製については私的使用から除外し,その利. 仮に音楽のダウンロードサービスを提供する. 用者が私的使用の目的であったとしても,複製. サイトがきちんと著作者や実演家等から許諾を. をする場合には権利者に補償金を支払う義務を. 得て,適法に事業を行う場合には,公衆が当該. 課した方がよいのではないかと考える.. サイトにアクセスし音楽を複製する行為は私的 使用に当たると思われる.しかし,個人が仮に. 3.引用について. 違法サイトから音楽や実演をダウンロードする. 第 22 条第 1 項第 2 号と第 3 号において,「あ. 場合には,私的使用に当たるか否かという点が. る著作物を紹介したり,評論するため,又はあ. 法律の規定において不明確である.. る問題を説明するために,著作物中で他人が. 現行中国著作権法第 22 条における規定によ. すでに公表している著作物を適切に引用する場. れば,使用される著作物の来歴を問わず,個人. 合」及 び 「時事 ニュース を 報道 す る た め,新. 的な学習,研究又は観賞の目的さえあれば権利. 聞,定期刊行物,ラジオ局,テレビ局などのメ. 制限に当たるとされている.しかし利用者が違. ディアのなかで,すでに公表されている著作物. 法サイトから音楽や実演をダウンロードしたり. をやむを得ず再現又は引用する場合」には,原. 海賊版をコピーしたりする場合には,個人使用. 著作者の許諾を得ずにかつ報酬を支払わなくて.

(16) 48. (416). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 4 号(2009 年 12 月). もよいこととされている.すなわち,権利制限. 件としては,公正な慣行かつ正当な範囲内で行. としての引用に当たる要件となるのは,利用の. われるもののみならず,利用する著作物と被引. 目的及び利用の限度である.換言すれば,目的. 用著作物の間の「明瞭区分性及び主従関係」も. 上からいえば, 「著作物を紹介又は評論するた. 強調されており,また,被引用著作物に関する. め, あるいはある問題を説明するため」及び 「時. 人格的利益にも配慮しなければならないことと. 事ニュースを報道するため」に限定され, また,. なっている.. 引用の限度については, 「適切に引用する場合」. このように,中国著作権法における引用の要. とされている.しかし, 「適切な引用」とはいっ. 件となる「適切な引用」がより明確に限定され. たいどのようなものを限度とする引用であるの. なければ,実務上の混乱をもたらす可能性があ. か,曖昧である.1985 年に公表された「図書,. る.例えば,前述の「饅頭事件」に関し,ある. 刊行誌に関する版権保護試行条例実施細則」 (現. 弁護士が「饅頭事件」は映画「無極」を批評す. 在では失効になっている. )第 15 条第 1 項によ. るために創作した作品であり,権利制限の引用. れば, 「適切な引用」とは,作者が一つの作品. に当たると主張した45)が,批評の目的であっ. において他人の作品の一部分を引用することを. たとしても,「饅頭事件」が「無極」から「引. 指すとされている.また,詩詞以外の作品を引. 用」した影像は当該作品の 80% 以上を超えて. 用する場合,2500 字あるいは被引用作品の十. おり,このような利用は,「引用」の限度を超. 分の一を超えてはならない;繰り返して同じ非. えるものではないかと思われる.. 詩詞類の長篇作品を引用する場合,総字数が 1. 以上,権利制限 と し て の 引用 に 関 し て は,. 万字を超えてはならない;詩詞類の作品を引用. 「目的上 の 正当性」及 び「引用 の 範囲 の 限度」. する場合に,40 行あるいは全詩の四分の一を. 及び「引用内容の実質性」などを考える上で,. 超えてはならない(古体詩詞を除く. ) ;一人あ. 引用著作物 と 被引用著作物 の 間 の 主従関係 や. るいは多数の人の作品を引用する場合に,引用. 引用の量的な限度も考慮しなければならない. された部分の量は本人が創作した作品の総量の. ものと思われる.. 十分の一を超えてはならない44)と規定されて いた. この実施細則は既に失効となっているが,. 4.学校教育に関する権利制限. 引用を量的に判断する際の参考になり得ると思. 中国著作権法第 22 条第 1 項第 6 号において,. われる.. 学校教育に関しては「学校の教室における授業. しかし,ある引用が権利制限に当たるか否か. 又は科学研究のため,すでに公表されている著. については量的判断だけでなく,引用の実質的. 作物を翻訳又は少量複製し,授業又は科学研究. な内容及び重要性も関係する.改正前の著作権. を行う職員の使用に供する場合.但し,出版発. 法実施条例第 27 条第 2 項においては, 「引用さ. 行してはならない」とされている.すなわち,. れた部分が引用する者により創作した作品の主. 学校教育のための著作物の利用が権利制限の適. 要な部分あるいは実質的な部分になってはなら. 用を受けるためには,利用の方法としては翻訳. ない」と規定していたが,現行著作権法実施条. 及び複製に限り,目的としては学校の教室にお. 例ではこの規定が削除されてしまった.. ける授業又は科学研究のためでなければならな. ベルヌ条約第 10 条をみれば,引用となる要. い.しかし,授業のための複製や翻訳以外の方. 件とは,公正な慣行に合致し,報道や批評又は. 法で他人の著作物を利用した場合に,権利制限. 研究その他の引用の目的上正当な範囲内で公表. になるか否かについては検討する余地がある.. された著作物を利用することである.また,日. 例えば,授業のための放送,上映又は演奏,実. 本において,裁判例により確立された引用の要. 演等が権利制限に当たるか否かは明確に規定さ.

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