子 どもに よる知識 の構 造 の精緻 化 を 目指 した社会 科授 業 開発 ― 「事象の分割」 と「因果関係」に着 目して一 兵庫教育大学大学院 教育内容・方法開発専攻
M12138B
主任 指導 教 官 指 導 教 官 学校教育研 究科 認識形成 系教育 コース 社 会系教育分野 吉 崎 雄 貴2013年
12月 20日
原 田 智 仁 米 田豊
く目 次〉 序 論 ・・・・ … … 。… ・・ … ・ ・ … ・ … ・・ … ・・ … ・・ … ・・・1
1
問題 の所在 と研 究 の 目的1
2
研 究仮説2
3
研 究の方法2
第I章
「 わか る」 こと と知識 の構 造 化・ … ・・ … … … ・ … 。3 第1節
「わかる」と「分ける」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第
2節
「わか る」 と知識 の構造化 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第3節
本研究における 「わかる」の定義づけ 。・・・・・・・・・・・・・・・ 。19 第 Ⅱ章 因 果 関 係 と説 明 的 知 識 の構 造 … 。… ・ … ・・ … ・・ … ・・・20 第1節
事象間の関係性 と因果関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 第2節
説明的知識の構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 第3節
因果関係の理解 と因果関係図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 第 Ⅲ章 「説 明的知識 の構造 」 を視 点 と した 社 会 科授 業実践 の 分析 と考察 。… ・:…
..…
..・
46 第1節
分析の視′点と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 第2節
授業分析 の結果 第3節
授業分析 の結果 か らの考察・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・ ・・・・・61第 Ⅳ 章 精 緻 化 され た 説 明 的 知 識 の 獲 得 を 目指 す 社 会 科 授 業 開 発 ・・ ・
63
第1節
小単元 「野菜作 りのさかんな宮崎県」の 小学校学習指導要領 にお ける位置づ けと学習で取 り扱 う知識 ・・ ・63 第2節
精緻化 された説明的知識の獲得 を 目指す社会科授業構成 の方法・ ・・・・71 第3節
小単元 「野菜作 りの さかんな宮崎県」の授業モデルの開発・・・・・・・・80 結 論 。… … … ・ … ・ … … … ・・ … ・・・■091
研 究 の成果2
今後 の課題【
附記】
【
資料編】
【
要旨】
109 110序 論
1
問題の所在 と研究の目的 中央教育審議会の答申によつて示 された平成20年
版小学校学習指導要領の改善の基本方 針 には、次のように記 されている。 社会的事象に関する基礎的 。基本的な知識,概念や技能を確実に習得 させ,それ らを活用す る力や 課題 を探究する力 を育成す る観点か ら,各学校段階の特質に応 じて,習得すべき知識,概念の明確化 を図るとともに(中略 :吉 崎)社会的事象の意味,意義 を解釈す ること,事
象の特色や事象間の関連を 説明す ること, 自分の考えを論述す ることを一層重視する方向で改善を図る。(① ,p.3)(下線 :吉 崎) つ ま り、社会科 を教 えるにあた って、基礎 的・ 基本的な知識 の習得 だけではな く、社会 事 象 の意 味や意義 の解釈 、事象 間の関連 を説 明す ることが求 め られ てい る。社会事象 の関 係 は因果 関係 で捉 えるこ とがで き る。 この社会事象 間の関係 を因果 関係 で示 した説 明的知 識 の獲得す ることは、「社会 の しくみがわか る」こと、つま り、社会認識形成へ とつなが る。 しか し、子 どもが説 明的知識 を獲得す るにあた つて社会事象 間の原 因 と結果 を暗記 して い るだけで、意味内容 まで理解 していない ことがある。説 明的知識 の獲得 が 「社会 が わか る」 ことにつなが るのは、人 間が因果 関係 を認識す ることで物事 を理解 しよ うとして きた か らで あ る。 しか し、原 因 と結果 の暗記 で は、社会 事象 の 関係 を覚 えただ けで、因果 関係 を認識 した とはい えない。つ ま り、社会 の しくみが 「わか つた」 とはい えないので あ る。 社 会 の しくみが 「わか る」 た めには、説 明的知識 を構成す る社会事象 間の因果 関係 を厳密 に理解す る必要が ある。説 明的知識 を構成す る因果 関係 を厳密 に認識す るこ とは、説 明的 知識 を精緻化す る とい うこ とである。 また、子 どもが獲得す る説 明的知識 が精緻な ものに なれ ば、子 どもの知識 の構造 を精緻化す ることに もつなが る。 そ こで、本研究では、子 どもの知識 の構造 の精緻化 を図 るために、「わか る」 とい うこと の しくみ と説 明的知識 を構成す る社会事象 間の因果 関係 に着 日し、精緻化 された説 明的知 識 を獲得す ることができる社会科授業 の開発 を 目的 とす る。2
研究仮説 前項 の 目的 を達成す るために、研 究仮説 を次の よ うに設定す る。 社会事象 間の因果 関係 を分析 、検討 した正確 な因果 関係 を、「なぜ 疑 問」 の キー ワー ドに よる分割 、連鎖 をさせれ ば、精緻化 された説明的知識 を獲得 できるだ ろ う。3
研究 の方法 研 究 の 目的 を達成す るために、次の四つ の方法 に よつて研 究 を行 う。 (1)認知 心理学や社会諸科学の研 究成果 を もとに して、「わか る」 とは どうい うことか明 ら か に し、本研究にお ける 「わか る」 こ との定義づ けを行 う。 (2)先行研 究、文献等か ら因果 関係 について考察 し、因果 関係 を正確 に把握す るために必要 な因果 関係 の分析方法 を明 らかにす る。 (3)(1)(2)の研 究成果 を踏 まえ、「なぜ疑間」 の分割 と連鎖 とい う観点 か ら精緻化 され た説明 的知識 を獲得す るための方法 を考察す る。 (0(1)(2)(3)の 研 究成果 を も とに、分析 フ レームワー クを作成 し、先 行授業実践の分析 、検 討 をす る。 (5)(1)(2)(3)④の研究成果をもとに、子 どもによる知識の構造の精緻化を目指 した社会科授 業の開発を行 う。【
引用・参考文献】
①文部科学省『小学校学習指導要領解説
社会編』東洋館出版社 2008.8
‐2‐第 I章
「わかる」ことと知識の構造化
本章では、「わかる」 とはどうい うことか考察 し、「わかる」 ことと知識の構造化の関連 を明 らかにする。第1節では、「わかる」 とはどうい うことなのかについて、「分ける」 と い う視点か ら論 じる。第2節
では、「わかる」ことと知識の構造化の関連性 を論 じる。第3 節 では、第 1節、第2節
をもとに して、本研究において 「わかる」 を定義づける。 第1節 「わかる」と「分ける」 本節では、「分ける」 とい う視点か ら5人
の研究者の論 を基に 「わかる」 とはどうい う ことなのか明 らかにしてい く。 山鳥重は 「わかる」 とい うことについて、次のよ うに述べている。 われ われ の周 囲には多種多様 な現象 が、かつ現れ、かつ消えて ゆきます。 その変幻す る事象 をす べ てあ りのままに見、あ りのままに聞 き、あ りのままに触っていたのでは大変です。 なん とか少 し ず つ ま とめる必 要があ ります。 水 とい う概念があれ ば、 さま ざまな液状 の ものをこの概念でま とめるこ とが出来 ます。液 体 とい う概 念 は水 ではま とめきれ ない もの も、ひ とつ にま とめます。 どの よ うな容器 にで も入 り込 む能力 を有す るものが液体で、水 であろ うが、血 で あろ うが、油であろ うが、そ の内容 は なんで もいいの です。一定の形 を とらない、囲い込 んでおかない と流れ 出す 、 とい う性質 だ けが液 体 とい う概 念の ポイ ン トです。(中略 :吉 崎)この よ うに、す つき り分類 出来る とわれ われ はわかった と感 じます 、今 まで整理 のつかなかった ものがあ るみかたで整理 されたわけです。(① ,pp.106‐107) 我々の住む世界には、多 くの事象が存在す る。水や血や油 といった ものは、「一定の形を とらない、囲い込んでおかない と流れ出す」 とい う性質を基準 とす ることで、液体に分類 す ることができる。また、液体 とい う概念の中でも様々な基準によつてさらに分類す るこ とができる。 この分類 された状態は、整理 された状態である。整理 された状態になると人 間は 「わかつた」 と感 じるようになる。つま り、何 らかの基準で 日の前の事象 を分類する こと、整理することで人間は 「わかる」のである。また、坂本賢三は 「わか る」 ことについて、次の よ うに述べてい る。 わ か る とは、混乱 していてわか らない もの を解 きは ぐして、既 にわか っているものに移 しか える こ とであるが、 ここでい う「既 にわか ってい るもの」 が問題で ある。既知 の ものに還 元できれ ば、 た しか にわか った と納得 がい くで あろ うが、いつで も還元で きる とは限 らない。 む しろ未知 の もの は、つね に既知 の ものに還元で きない ところをもつてい る。 いわば、つね にバイ ア スがかか つてい て、わか るのは近似 的で しか ない。 それ で は、わか る とい うこ とにな らな いであろ う。 しか し、正体 はわか らな くて も、 これ以上分 け られ ない もの まで還元すれ ば、それ はも う 「わか る」 とい うこ とを超 えてい るのだか ら、つ ま り分 け られ ない し、 ときは ぐす こともで きないのだか ら、それ でわか った とい うことにな る。そ の よ うな不可分な ものは 「要素」 と呼ばれ 、わか るため の前提 なのであって、い ろいろな ものがそ こへ還元 され ていけば、正体 はわか らな くて も、い ろん なものの関係はわかることになる。(②,pp.50 未知 の ものは、既知 の ものに置 き換 えて とらえ直す ことが可能で ある。 しか し、未知の ものを既知 の もので とらえ直そ うとして も、似てい るだけで完全 に とらえる こ とがで きな い部分 も存在す る。つま り、未知 の ものを既知の もので とらえよ うとす るだ けでは、「わか る」 には至れ ない場合 もあるのである。そ こで、重要 にな るのが 「分 ける」 である。未知 の ものを不可分 な要素まで分 けてい くと、未知の ものの構成や要素 ど うしの関係が明確 に な る。 この よ うな状態 に至れ ば、未知の ものは解 きほ ぐされ てお り、そ こか ら説明す るこ とができ る。つま り、未知 の ものを これ 以上分 けるこ とがで きない要 素 まで分 け るこ とで、 構 成や 関係 が明確 にな り、未知 の ものが ど うい つた ものか説 明でき る、わか つた状態 にな るのであ る。 また、堀尾輝久 は 「わかる」 について、次のよ うに述べ ている。 日本語の (わかる
)は
〈分る〉または 〈解る)と いう漢字で示され、また 〈聞き分ける〉(見分け る〉という用語法からもわかるように、複雑な事象を分解していくわかり方であり、分別知に当た る。英語のunderstandや ドイツ語verstehenも これに近い。(③,pp.16) 「わかる」 とは 「分かる」 と漢字で表記 され る。「分」 とい う漢字 は、「分 ける」 ことを 意 味 してい る。つ ま り、「わか る」 こ とは 「分 けて理解す る」こと、言 い換 えれ ば、複雑 な事 象 を分 解 し、そ の構成 や構 造 を理解 す る とい うもので あ る。 これ を、堀尾 は 「分別 知 」 と呼 ん で い る。 ま た 、波 頭 亮 は思 考 につ い て、 次 の よ うに述べ てい る。 思考 とは、端的に定義するならば、「思考者が思考対象に関して何 らかの意味合いを得るために 頭の中で情報 と知識を加工すること」である。(④ ,p.16) この波頭 の考 える思考 を図に示す と次の図I‐1‐1のよ うになる。 図
I-1-1
思考(④,p.17よ り吉崎作成) この思考の定義について、波頭は一つの具体例をあげて次のように説明している。 例 えば、いつ もどお り家路 を辿 っていた と しよ う。 と、突然 目の前 に不気 味な物体 が現れ た。そ れ は 「低 い唸 り声 を上 げてい る、黒 い毛に覆 われた、軽 自動車 ほ どもある大 きな生 き物」だ つた。 さて 、この予期せ ぬ 自体 に遭遇 した らどうす るだろ う。おそ らく条件反射 的 に、「これ は何だろ う?」 とか 、「なぜ こんなものが ここにい るのだ ろ う?」 とか、「自分は ど うい う行動 を とるべ きか?」等 々、 情報 (外か ら得 られた情幸D
¬
F
知識 (頭の 中にす でに保有 してい る情報) 加 工様 々な思 いが頭 に浮 かぶ はず で あ る。 そ して これ らの 「?」 へ の答 えを求 め るた めに、頭 の 中で行 われ る頭脳 の作業 が 「思考」である。 この例 でい うな らば、突然 出 くわ した 日の前の生 き物 の特徴 を整理す る ところか らスター トす る はず である。 具 体的 には、①低 い唸 り声 を上 げてい る② 黒い毛 に覆 われ てい る③軽 自動車 ほ どもある大 き さで ある。 次 に、 自分 の頭 の中にあ る知識 と照 ら し合 わせ て、① ∼③ の特徴 を満 たす ものを想 起 しよ うとす る。 そ して も し① ∼③ の特徴 を満 たす ものが見つかれ ば、それ が 「これ は何 だろ う?」 とい う問い へ の答 え となる。 この頭 の中で行われ る特徴 の整理 、特徴 が合致す るものの想起 と特定 とい う一連 のプ ロセスが「思 考」 なのであ る。(④,pp.16‐
10
この具体例 に登場す る生 き物 の名前 は 「ヒグマ」である。 突然 日の前 に 「低 い唸 り声 を上 げ、黒 い毛 で覆 われ た、軽 自動車 ほ どもあ る大 きな生 き 物(ヒ グマ)」 が現れ る。そ うす る と人 間は、「これ は、何 の生 き物だ ろ う」「自分は ど う行 動 した らいいのだ ろ う」 とい った疑 間 を頭 に浮 かべ る。そ して、 日の前 の生 き物の特徴 で あ る 「①低い唸 り声 をあげてい る、②黒い毛に覆 われてい る、③軽 自動車ほ どもある大き さ」 とい う情報 を頭 の中で整理 し、 自分の頭 の中にある知識 と照 らし合 わせ 、疑問へ の答 えを導 き出 し、「この生 き物 は、 ヒグマであ る」 とい う答 え(意味合 い)を得 る。つま り、こ の よ うに外 か ら得た情報 と頭 の中にある知識 を活用0日工)して、疑 間の答 え(意味合い)を得 るこ とが思考 なのである。 この事例 を図 I‐1‐1に当てはめ る と、図 I‐1‐2の
よ うにな る。 ‐6‐図
I-1-2
ヒグマの事例の思考(④,p.18よ り吉崎作成) また、波頭は情報 と知識の加工について、次のように述べている。 これ までの説 明の中で思考にお ける情報 の加工 と表現 してきた ことは、思考対象 に関 して与 え ら れ て い る情報 が意味す る内容 と思考者 がす で に保有 している思考対象 に関す る知識 の内容 とを突 き 合 わせ る こ とに よつて、何 らかの判 断や理解 をもた らして くれ るよ うな意 味合 いを得 ることで あつ た。す なわち頭 の中で行 つてい る情報(知識 を含む)のカロエ とは、端 的にい うな らば “情報 と情報 を突 き合 わせ る"作
業 か ら成 り立 ってい る ことに な る。(④,p.22) 【情幸艮】 ①低い唸 り声をあげている ②黒い毛に覆われている ③軽 自動車ほどもある大きさ 【知識】 ①に関する知識 イヌ、 ヒョウ、 ライオ ン、トラオ オカ ミ、シロクマ、ヒグマ 。●・ ②に関す る知識 黒猫、黒牛、黒 ヒョウ、黒イヌ、 ヒグマ・・・ ③に関す る知識 ゾウ、サイ、カバ、クジラ、セイ ウチ、シロクマ、ヒグマ・・・ 加 工 ①、②、③に当てはまるのはヒグマ0
【意味合い】 この生き物はヒグマであるつま り、波頭の考える情報 と知識の加工 とは、知識や情報 に手を加 え、変化 させ る とい うことではなく、「突き合わせ る」とい うことである。それでは、情報 と知識 を「突き合わ せ る」 とは どうい うことか。波頭 は、情報 と知識 を 「突き合わせ る」 ことについて、次の よ うに述べている。 「突 き合わせ る」 とい うことは 「比べ る」 ことである。そ して思考者 は比べ ることによつて何 を してい るのか とい うと、「同 じ部分」 と「違 う部分」 を見極めてい るので あ る。つま り思考す ること とは、ある情報 と別 の情報 とを “突 き合 わせ て比べ る"プロセ ス を通 して 、同 じ部 分 と違 う部 分の 認識 を行 うこ となのであ る。 そ して 「“同 じ"と “違 う"の確 認 作業 で あ る」 とい うこのメカニズム こそ が、頭 の 中で行 われ て い る思考行為 の核心なので ある。 す なわ ち思考 とは、「思考対象 に関す る情報や知識 を突 き合 わせ て比べ 、“同 じ
"か
“違 う"の認 識 を行 い、その認識 の集積 に よって思考対象 に関す る理解や判 断 を もた ら して くれ る意味合 い を得 る」 こ となのである。(④,p.22) 情報 と知識の加工 とは情報 どうしを 「突 き合わせ る」ことであった。そ して、この 「突 き合 わせ る」ことは 「比べる」ことであ り、比べることで 「同 じ」 と 「違 う」を見極 めて い る。このことか ら、波頭は「思考 とは究極的には同 じと違 うの確認作業である」(④ ,p.23) としている。 これ を図に表す と、図I‐1‐3の
ようになる。 8‐図
I-1-3
情 報 と知 識 の加 工(④,p.21よ り吉 崎 作 成) 加 え て 、 波 頭 は 、 次 の よ うに述 べ て い る。 繰 り返 しになるが、思考 とは思考対象についての情報 と知識 、場合によつてはある情報 と別 の情 報 を突 き合わせて比べ、同 じ部分 と違 う部分に分けて認識す ることだ と説 明 してきた。つま り、思 考対象の様々な要素についての情報内容を、思考者の持つてい る関連知識や関連情報 と比べてみて 要素 ごとに同 じと違 うに分けているのが思考作業なのである。そ して、この思考作業を経て思考対 象 を構成する要素が、同 じと違 うに正 しく分 け尽 くされた状態に辿 り着 くことが 「分かる=判る=
解 る」 とい うことなのである。 情幸長 A、 B、 C、D
知 識 a、 b、 c、 dA
⇔a (同
じ)か
〈違 う〉B
⇔b
〈同 じ〉か 〈違 う)C
⇔c (同
じ)か
〈違 う)D
⇔d
〈同 じ)か
〈違 う) 情 報 要 素 と知 識 要 素 を付 き合 わ せ て比べ 、(同 じ) か 〈違 う)か
の認 識 を行 う 〈同 じ)と
〈違 う)の 整 理・集積何かを理解するとい うこと、すなわち「何かを分かる=判る=解る」 とは、その何かを構成する 要素の一つひとつについて、思考者が自分 自身で保有 している知識や情報 と突き合わせて比べ、「同 じ部分 と違 う部分に分け尽 くすことができた状態」になることなのである。(④,pp.23‐241 人 間 は、 あ る事 象 を認識 す る際 にそ の事 象 に関連 す るあ らゆ る要 素 を同 じ と違 うに分 け 尽 くす こ とが で きれ ば、そ の事象 を認 識 した、 わか つた とい え る。 再 び 、 ヒグマの例 を用 いて具体的に説明する。 ヒグマの特徴は、①低い唸 り声を上げてい る、②黒い毛に覆われ てい る、③軽 自動車ほどもある大 きさであった。 この特徴一つひ とつは ヒグマの要素でも ある。 この二つの要素は、 ヒグマのもつ要素 と「同 じ」であ り、ヒグマ以外 の他の動物の 持つ要素 とは 「違 う」のである。 このように、一つひ とつの要素について 「同 じ」 と 「違 う」で分け尽 くす ことができた時、人はその生き物 をヒグマだ と認識す る、つま り、 ヒグ マだ と「わかる」のである。 また、長尾真は事象の分割 による理解 について、次のように述べている。 (前略 :吉 崎)ある課題 が与 え られ る と、それ を構成要素に分割 し、それぞれ の部分世界で もの ごと の説 明 をす ることによつて、全体の説 明がで きた ことにす るので ある。部分世界 はまた細分 され て、 それ ぞれ の部分 を説明す る とい うことを く りかえす。 このよ うに分割 を く りかえ してい くと、一つ の部分 はだんだん と範 囲がせ ま くな り、内容 も単純 となって、それ に対す る説 明や答 えもかんたん になってい くことが期待 され る。(⑤,p.44) 長 尾 もこれ までの研究者 と同 じよ うに、事象 の分割 を進 めて構成 要素 を把 握 してい くこ とが全体像 の正確 な把握 につなが る としてい る。 ここまで、「わか る」につ いて、
5人
の研 究者 の論 を中心に整理 した。この5人
に共通す るの は、「わかる」ためには 「分 ける」とい う作業が必要であるとしているこ とである。あ る未知 の事象 を理解 しよ うとす る とき、その事象 をよ り細 かい事象 に分 けてい くと、その 事象 を構成す る要素や構成す る要素 の関係 が明確 になる。 それ は、その事象 が どのよ うに 構成 され てい るか明確 にな るこ とであ り、その事象 が 「わか る」 こ とにつ なが る。 したが つて、「わか る」ためには 「分 ける」 ことが必要である。 10【
引用 。参考文献】
①山鳥重『「わかる」とはどういうことか』ちくま新書 2002.4
②坂本賢三『「分ける」こと「わかる」こと』講談社 2006.6
③堀尾輝久「
I
学ぶことと子どもの発達」
『岩波講座
教育の方法
2
学ぶことと子ども
の発達』岩波書店
1987.11 _
④波頭亮『思考・論理・分析―「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践 』産業能
率大学出版部
2004.7
⑤長尾真『「わかる」とは何か』岩波新書
2001.2
第
2節
「わかる」と知識の構造化 第1節
で も述べ た よ うに、「わかる」ためには 「分 ける」 ことが必要 である。 坂本 は、「分 ける」働 きについて次の よ うに述べている。 この最後の、対象 を分 ける働 きには二つ の面がある。一つは実 際に解剖 し、バ ラバ ラに分割 す る こ とで ある。対象 が どこまで も対象 のままに とどまっていたのでは、わか る とい うこ とにな らない。 わか るためには、分解・分析 しな くてはな らない。子 どもがお もちゃや時計 な どの機 械類 をバ ラバ ラに壊 して しま うのは、機構 が分 か りたいか らである。(中略:吉崎)こ うして、解剖 し分解 して しま えばそれ でわか った こ とになるか とい えば、必ず しもそ うではない。部 品がわかって しまえば、わ か つた として投 げ捨て る子供 もい るが、 もつ と熱心 な子供であれ ば、バ ラバ ラに した部 品か ら、も う一度 もとの形 に組 み立 て よ うとす るであろ う。(中略:吉崎)つ ま り、分 解 ・分析 だ けでな く、組 み 立て 。総合 も、わか るためには必要 なので ある。バ ラバ ラに してそれ で終わ りにす る人 も、頭の なかでは、「それ らが組み合 わ さつてできていたのだな」 と納得 しているはずである。 この よ うに、頭の中で分 けた り結合 した りす る働 きが、対象 を分 ける働 きの第二の面である。 (嘔),pp.57‐59) 「わかる」ためには「分 ける」ことが必要である。 しか し、「分ける」働 きは、分割す る とい うだけでな く、二つの働 きがある。 それ は次の とお りである。1.対
象 をバ ラバ ラに分割す る こと 「分 ける」 とい う言葉通 り、対象 をバ ラバ ラに分割す ることである。 こ うして分割す ることで対象を構成す るものが どんなものかを知 り、「わかる」に近づ くのである。2.分
割 したものを結合 し、「再構成」すること 「分けた」だけの状態は、バラバ ラの要素が無造作に散 らばつた状態であ り、分ける 前の対象の構成や要素 どうしの関係 の把握 には至っていない。バ ラバ ラに分解 された要 素を結合 し、組み立て直す。つま り、分ける前の状態に 「再構成」す ることで、分 ける 前の対象の構成や要素 どうしの関係 を把握する。 12この こ とにつ い て、坂本 は次 の よ うに述 べ てい る。 考察すること一般を、俗に「分析する」といつた り(政治分析、経済分析、現状分析など)、 理解す ること一般を「分かる」といつた りするのであるが、ただやみ くもに分析 した り分解 したりするこ とで、つまリバラバラにすることで 「わかった」とい うことにはならない。分析 といつても、分析 することで原理に到達 し、そこから再構成 してみてはじめて、「わかった」 ということになるのであ る。(①,p.73) つ ま り、「わか る」た めには、ただ単 に分析 、分解 し「分 け る」の で はな く、分 けた もの を 「再構 成 」 し、分 け る前 の対 象 の構 成 や 分 けた要 素 ど うしの関係 性 を明確 に し、把 握 し な けれ ば な らない。 また、波頭は構造化について、次のよ うに述べている。
ヽ 分析の核心、すなわち「要素に分けること」とは、分析対象を「構造化」して理解す ることである。 そ して、「構造化」 とは、「ある事象の構成要素 と、それ ら構成要素間の位相(繋が り方/関係性)を 明 らかにす る」 ことである。つま り、ある事象を分解 してみると、 どのよ うな個男1要素に分 け られ るのか、そ して個別要素はそれぞれ どのような関係で組み合わ さっているのか とい うことを明 らか にす ることが 「構造化」であ り「構造的理解」なのである。(② ,p.156) 要 素 ご とに分 け る とは 、 対 象 を構 造 化 して理 解 す る こ とで あ る。 つ ま り、 構 造 化 す る こ とが で きれ ば そ の 対 象 を理 角弔した とい え る。 そ して 、構 造 化 とは「あ る事 象 の 構 成 要 素 と、 そ れ ら構 成 要 素 間 の位 相(繋が り方/関係 性)を明 らか にす る こ とで あ る。」④,p.156)と波 頭 は 述べてい る。そこで、構造化を、①構成要素を明 らかにす る、②構成要素間の位相を明ら かにす る、の二つの観点に分け、それぞれについて整理す る。 ①構成要素 を明らかにする 構成要素を明 らかにすることについて、波頭は次のように述べている。 「構成要素」を明 らかにす るこ とは、「事象 の識別」によつて成 され る。分析対象 の事象 を部分 に 分 け、それ が何 で あるか 、それ は ど うい うものであるかに よつて各部分 を識 別 し、“違 うで分 け、同
じで くくつて
"分
類 しなが ら構成要素 として整理 してい く。複雑な事象であれば、一次的に分類 し た構成要素をまた分解、分類 して二次的分類 を行つた り、さらに二次、四次 と分解、分類 していく ことで完成度の高い体系 として整理す るのが望ましい。(②,p.156) つ ま り、構 成 要 素 を 明 らか にす る とは 、 分 析 対象 を同 じ と違 うで 分 類 し、整 理 し、 分 類 した もの を体 系 づ け る こ とで あ る。 ②構成要素間の位相を明らかにする 構成要素間の位相を明らかにすることについて、波頭は次のように述べている。 また、「構成要素間の位相」を明 らかにす ることとは要素間の「関係性の把握」であ り、具体的には 二つの側面がある。一つは、スタテ ィックな意味での個別要素 ごとの繋が り方の「構 図」の理解 であ る。つま り、どの要素 とどの要素が どうい う位置関係で繋がつているかを明 らかにす ることである。 もう一つは、ダイナ ミックな意味での個別要素間の関係性の把握である。例えば、 どの要素がど の要素の原因になっているか とか、 どの要素が変化 した とき、それにつれて どの要素がどの よ うに 変化す るのか といった関係性の内容の把握である。構成要素間の「連動メカニズム」の理解 といつて もよいであろ う。(② ,pp.156‐157) つ ま り、 要 素 間 の位 相 を 明 らか にす る とは 、端 的 に言 え ば 要 素 ど う しの 関係 性 を 明確 に す る とい うこ とで あ る。そ して 、そ の 関係 性 に は 、位 置 関係 と連 動 性 の 二 つ の観 点 が あ る。 位置関係 とは、並列なのか、包括なのか、 といつた要素間の繋が りを示す ものである。連 動性 とは、片方の要素が変化 した時に、も う片方の要素が どのように変化す るのか とい う ものである。 また、畑村洋太郎は 「わかる」 とい うことについて、次のように述べている。 日の前 の ものや事象 を見た ときや人 の話 を聞いた とき、 じつ は私たちは、それが 「わかる」 か ど うか を 「自分の頭の中に持 ってい る要素や構造 と合致す るか ど うか」 で瞬 時に判 断 している。 もし も事 象や人 の話 が頭 の中の要素や構造 と一致 した ときは 「わか る」 とい うことにな り、一致 しない ときは 「わか らない」 とい うこ とにな る。 この よ うな頭 の中にあ る要素や構造 を、私 は 「テ ンプ レ ー ト」鯉 紙)と呼んでい る:私た ちは頭 の中に さま ざまなテ ンプ レー トをた くさん持 っていて、その 14テ ンプ レー トと外の さま ざまな事象 とが一致す るか ど うかで 「わか る」「わか らない」を判断 してい るので あ る。 もちろん 自分 の頭 のテ ンプ レー トとの合致 を確認 す る といって も、理解 の度合 い によ つて差がある。 これ はお よそ三つのパ ター ンに分類す ることがで きる。それ は 「要素 の一致」「構造 の一致」「新たなテ ンプ レー トの構築」であ る。(③ ,p.45) 畑村は、「わかる」とい うことは、頭の中にある「テンプ レー ト」との合致であるとして いる。そ して、理解の度合いを「要素の一致」「構造の一致」「新たなテ ンプ レー トの構築」 の三つに分類 している。それでは、①要素の一致、②構造の一致、③新たなテ ンプ レー ト の構築について、それぞれ整理 してい く。 ①要素の一致 畑村は要素の一致による理解について、次のように述べている。 1番目の 「要素 の一致」 は、頭 の 中にあ る要素のテ ンプ レー トと、 目の前 の ものや事象 の要 素 と の合致 をみて理解す ることをい う。 ソバ を例 に考 えてみ ると、私 が ソバ を見 て 「これ は うまそ うな ソバ だ」 と感 じるのは、私が過去 に うまい ソバ をみた り食べた りした経験 を持 ち、「うまいソバ とは こ うい うものだ」 とい う自分 な りのテ ンプ レー トを頭 の 中に持 ってい るか らだ。 このテ ンプ レー トは、形状や 味、あるいは匂 いや触 つた時の感 触 な ど多岐 にわた る ものか らつ く られ ているが、「要素の一致」で判 断す る ときには単体 としての見方が され る。そ して、 自分 の持つ 要素 についてのテ ンプ レー トと目の前 の ソバ の要素が一 致 した ときに、「これ は うまい ソバだ」 とい う判 断 を してい るのであ る。(③,pp.45‐47) 頭 の 中にある 「うまい ソバ」 のテ ンプ レー トには、匂 い、見 た 日、味 とい った要素 があ る。 そ して、実際 に 日の前 にあるソバ とそれ らの要素が一致 した とき、人はそれが 「うま い ソバ」 と理解す る。つま り、「要素 の一致」による理解 とは、頭の 中にあるテ ンプ ビー ト を構成す る要素 と日の前 にある事象 の要素が一致 し、その事象 が どの よ うな ものなのか理 角翠す る とい うことである。
②構造の一致 畑村は構造の一致による理解について、次のように述べている。 2番目の 「構造 の一致」に よる理解 は、「要素の一致」 とよく似 ている。 ただ し、 この とき比較 し てい るテ ンプ レー トは、要素単体 の ものではな く、要素 がつなが って構造 をつ くって い る。そ して、 自分 の頭 の中にある構造 のテ ンプ レー トと目の前 にあるものが合致 した ときに、「わか つた」 とい う 判 断 を行 うので あ る。(中略 :吉 崎)別の例 をあげてみ よ う。よく野球やサ ッカーの監督 の話 を取 り上 げた本 が ビジネ ス書 として売 られ てい る。野球やサ ッカーは 「ビジネ ス とは全然違 う」 とい う人 も い る。 しか し、野球チー ムに して もサ ッカーチームに しても、「ある目標 を持 ち、そ の達成のた めに 邁進 す る組織」と考 える と、会社組織 と同 じよ うな構造 にみえる。会社 の 「部長」がチームでは 「監 督 」、それ を補佐 す る 「副部長 」 がチー ムで は 「コー チ陣」、それ ぞれ の 「部 下」 がチ ー ムにお ける 「プ レイヤー」 に置 き換 え られ る。 この よ うに構造 が似 ているか ら、監督 が語 る 「部 下の掌握術」 とい つた話 が一般 の ビジネ スマ ンに も非常に「わか りやす く」説 得力 をもって感 じるのだ。(③,p.47) 「構造 の一致」による理解 とは、「要素の一致」による理解 とよく似 てい る。「要素の一 致」 と異 な る点 は、理解す るための判 断基 準 がテ ンプ レー トを構成す る要素一 つ一つ では な く、要素 どうしがつながってできた構造 で比較 していることであ る。 スポー ツチー ム と 会社 で考 えた際、「部長」 と 「監督」、「副部長」 と 「コーチ陣」、「部 下」 と 「プ レイヤー」 とい う要素一つ一つは異なってい る と考 え られ る。 しか し、それぞれ組織 とい う「構造」 で捉 える と、両者 はよく似 てい るもの と理解す るこ とができる。これ が、「構 造 の一致」に よる理角翠である。 ③新たなテンプレー トの構築 畑村は新たなテンプレー トの構築による理解について、次のように述べている。 いままで見た ことや 聞いた こ とのない事象 は当然、頭 の中にテ ンプ レー トがない。 だか ら 「わか らない」 し、そ こで人は戸惑 うのだ。 ところが、「わか らない」けれ ど、「なんだ これ は」と興味を持 つた り理解 しよ うと考 えた場合 は、 そ の事象 を理解す るための検討 をす ぐにその場で始 めることにな る。 これ が 3番目の 「新たなテン プ レー トの構築」による理解 の仕 方 なのである。(③,pp.47‐48) 16
た とえば、今で こそ多 くの人が当た り前 の よ うに利 用 してい るイ ンターネ ッ トにつ いては ど うで しょ うか?情報伝達手段 と して九 〇年代半 ばか ら徐 々に一般 の人 に広が った この新 しい道具 につい ては、おそ らく多 くの人が 「テ レビ」「本」「郵便」「電話」 といつた 自分た ちがそれ までにわか つて いた要素や構造 を通 じて、イ ンターネ ッ トヘ の理解 を深 めてい ったはずです。 その理解 を深 め る過 程 が新 たなテ ンプ レー トづ く りの過程 であ り、「わか る」過程 その ものなのです。(④,p.22) 今 まで見た ことや 聞いた こ とのない事象 は、頭 の 中にテ ンプ レー トが存在 せず、わか ら ない と感 じる。その事象 を理解す るためには、その場 で検討 を '台 め、今 まで に理解 してい た要素や構造 を使 って新 たなテ ンプ レー トを構築 し、理解 を深 めてい く必要 が ある。 これ が、「新 たなテンプ レー トの構築」 による理解である。 畑村 の考 えるテ ンプ レー トに よる理解 は、「分 ける」ことに よつて 「わか る」とい う考 え 方 で次 の よ うに捉 え直す こ とがで きる。 ① 「要素の一致」 事象 を分 け、要素一つ一つを比べ ることによる理解。 ② 「構造の一致」 分けた知識 を構造化 し、構造 を比べることによつて得 られ る理角卒。 ③ 「新たなテンプレー トの構築」による理解。 未知の事象について、未知の事象がもつ要素や構造を既習の要素や構造 と比べ、新た に構造化 された知識 を作 り出す ことによつて得 られ る理解。 ま た 、 堀 尾 は 、「わ か る」 こ とに つ い て 次 の よ うに述 べ て い る。 このようにみて くれば、わかることは分別知にとどま らないことが了解 され よう。む しろ分析的 な分別知を越 えて、事象の相互関連が とらえ られ、 自分のた くわえてきた知全体のなかに包摂 して 構造づけ、意味づけを与え直すわか り方 こそが重要である。英語 のcomprehend、 仏語comprend■・e はこれに当る。両者の語源 となるラテン語のcomprehendereは 「一緒につかむ」の意であり、分析 して一つ一つをつかむ理解 の仕方 とは異なる精神作用なのである。仏語 の comprend■・eは英語の understandと 同 じ意味で も日常的に使われ ることばだが、同時にそのわか り方は分別知をこえて、 含み こむ、了解するとい う意味をもっている。
真 な る知識 を獲得す る過程 と、主体 の活動 が重視 され て、ことが らの本質 をつかみ 、心に落 ちた、 納得 で きた とい うわか り方 は、 これまでの既存 の知識 の関係 を変 えてい く力 を持 ち、新 しい問 いを 含 み 、新 しい認識 の発 展 の芽 をは らませ てい る。発見 の よろこび とつ ぎの探求 を うながすわか り方 こそが重要なのである。 この よ うなわか り方 に よる知 を、了角旱知 と呼んでお こ う。 ⑥,pp.17‐18) 分 けるこ ととい うのは 「わか る」 こ との一部分 で しかない。分 けた ことに よつてわかつ た事象 の構成や構造、分 けることによつて出てきた要素を今 まで 自分 が学んで きた こ とと 関連 づ け、包摂 し、構造化 し、新 たに意 味づ けるこ とが重要 であ り、 よ り深 い 「わか る」 とな る。 そ して、 この 「わかる」で得 られ る知識 を堀尾 は 「了角翠知」 としてい る。 これ まで、
4人
の研究者 を中心に 「わか る」 と 「知識 の構 造化」 について論 じてきた。 「わかる」ためには、事象 をただ単にバ ラバ ラに分解 して、その一つ一つを把握す るだけ では足 りず、その一つ一つの事象 の関係性 を把握 し、その事象 を構造的に再構成 し、 自分 の知識 の構造 に包摂す る必要 があるのである。 【引用 。参考文献】 ①坂本賢三『「分ける」こと「わかる」こと』講談社2006.6
②波頭亮『思考・論理・分析―「正 しく考え、正 しく分かること」の理論 と実践 』産業能 率大学出版部2004.7
③畑村洋太郎『みる わかる 伝える』講談社2008.3
④畑村洋太郎『畑村式 「わかる」技術』講談社現代新書2005.10
⑤堀尾輝久「I
学ぶことと子 どもの発達」『岩波講座 教育の方法2
学ぶことと子 ども の発達』岩波書店 1987.1l pp.17‐ 18 18第
3節
本研究 における「わか る」の定義 づけ 「わか る」ためには 「分 ける」 ことが必要である。 しか し、前述 したよ うに、「分 ける」 だ けでは堀尾 のい う「分別知」 に とどまつてい る。 よ り深 い 「わか る」であ る 「了解知」 に到達す るためには、「分 けた」後 に、要素 を関連づ けて、再構成す ること、既習の知識 と 包摂 し構造化す ることが必要である。 以上 、論 じた こ とか ら本研 究 にお ける 「わか る」 とい うこ とを次 の よ うに定義す る。 図I-3-1
本研究における「わかる」の構造 ある事象を分割 し、事象を構成する要素や要素間の関係 を把握 し、既習知識 と結び つけなが ら、知識の構造化がなされ ること。、 また、本研究における 「わか る」 を図にあ らわす と次の とお りであ る。 既習 の知識 の構造 の再構造化
第
I章
因果 関 係 と説 明 的 知 識 の 構 造 本章では、因果関係 と説明的知識の構造について論 じる。 第1節
では、社会事象間の関係 と因果関係 について考察 し、正確 な因果関係 を把握する ために必要な因果関係の分析方法 を検討す る。第2節
では、説明的知識の構造 について論 じる。第3節
では、因果関係 を理解 しやす くす るための因果関係図について論 じる。 第1節 事象間の関係性 と因果関係 本研究における 「わかる」 とは 「ある事象 を分割 し、事象 を構成す る要素や要素間の関 係 を把握 し、既習知識 と結びつけなが ら、知識の構造化がなされること」であつた。事象 を構成す る要素は、事象 を分割 し、細か く見てい くことで明確 になる。それ では、要素間 の関係は どうか。波頭は次のように述べている。 複数の事象が存在するとき、それ らの事象間の関係は 「相関」か 「独立」かのいずれかである。 「相関」 とは、二つの事象が何 らかの影響を及ぼした り及ぼされた りする関係である。逆に二つの事 象が全 く影響を及ぼ し合 うことのない関係、すなわち一方の事象が変化 しても う一方の事象は何 ら変化 す る必然性のない関係が 「独立」である。(Э,p.52) 波 頭 は 、事象 間 の関係 とは 「相 関」 と 「独 立」 の二種類 で あ る と してい る。 確 か に、 あ る二 つ の事 象 の関係 、特 に互 い に与 え る影 響 とい う点 に関 して は、 お 互 い が お互 い に影 響 しない 「独 立」 か 、お互 い がお互 い に影響 し合 う 「相 関」 の二種類 しか ない といえ る。 し か し、「相 関」は 、「独 立」 とは違 い さ らに分類す る こ とがで き る。 財目関」につ いて、波頭 は次 の よ うに述 べ てい る。 そ して 「相関」は、またさらに二種類の相関関係に分類できる。一つは片方の事象が他方の事象 を引き起こす “原因と結果"の関係になっている「因果関係」、もう一つは “原因と結果"の関係に はない 「単純相関」である。例えば 「自動車のスピー ドと事故率」は 「因果関係」、「身長 と体重」 は 「単純相関」である。(①,p.53) 20‐「相 関 」 は 「因果 関係 」 と 「単 純 相 関」 の 二種 類 に分 け る こ とが で き る。「因果 関係 」 と 「単 純 相 関」 は両 方 とも事 象 間 の 関係 を表 す もの で あ る。 しか し、「因果 関係 」 は、「単純 相 関 」 よ りも特 別 な相 関 関係 で あ る。 この こ とにつ い て 、 波 頭 は次 の よ うに 述 べ て い る。 相関関係 にあることを知 っている事象の一方が変化 したことを認知できれば、他方が影響を受け て変化 したことを推測す ることができる。特別な相関関係である 「因果」関係 を知 っていれば、さ らに有益な推論を行 うことができる。つま り、知っている「因果」関係に依拠 して人為的に「原 因」 を発生 させて意図的に「結果」を生 じさせ ることができるし、逆に「原因」を消滅 させ ることで 「結 果」を生起せ しめないことも意図的に可能になるのである。(中略:吉崎)因果関係 を見い出し我 がも のにす ることは、その因果関係 を様々な事象に適用 して能動的に未知 。未経験 。未発生の事象 に対 する理解 と有用な対応策を与えて くれ るのだ。(① ,p.55) 端 的 に い えば 、「因果 関係 」は未 知 の事 象 に対 して応 用 で き る とい う点 で特 別 な の で あ る。 この こ とにつ い て 、村 田光 二 は次 の よ うに述 べ て い る。 生物が将来の出来事 を予測 し、それに応 じた行動 を選択す るためには、外界の出来事の因果関 係 を知 る必要があるだろ う。(中略:吉崎)生きていくためには、出来事の原因を推論 した り、逆に 結果 を推論する “因果の推論"(causal inference)と、それにもとづ く外界の理解 とが必要不可欠 なのである。実際、私たちは、物理的世界の構造を了解 し説明す るための認識上の枠組み として、 因果決定論を発達 させてきた。現在のよ うな科学文明は、それ によつて発展 してきたと言 えるか も しれない。 それ と同時に私たちは、社会的な出来事、つま り、人間の行動 とその帰結に関 しても、因果的 な枠組みで理解する習慣 を身につけてきた。(② ,p.71) 人 間 は物 事 を理 解 す る た め に 、「因果 関係 」 とい う法 貝Jを 活 用 し、初 め て 出 会 うで あ ろ う 様 々な事象 を 「因果 関係 」 とい う枠組 み に 当てはめ、推論 し、理解 してきた のである。 この こ とを図に表す と次 の図 Ⅱ‐1‐1のよ うになる。
図 Ⅱ
-1-1
因果関係の活用 による推論 と理解 未知 の事象C
未知 の事象A
未知 の事象D
既知 の因果 関係 の法則 に当てはめ る。 【既知の因果関係】 パ鯨 因)→B'(結果) C'(原因)→D'結
果) ‐22‐ま た 、 波 頭 は 、 因果 関係 に つ い て 次 の よ うに述 べ て い る。 因果関係 に依拠 して思考す ることによつて、未知、未経験、未発生の事象 に対 して も合理的な判 断や対応が可能になる。そのため、人間は因果律によつて世の中の森羅万象を理解 してきた し、逆 にい うと世の中の森羅万象 を理解す るとい うことは、世の中の さまざまな事象間の因果関係 を捕捉 す ることに他な らないのである。 つま り、因果関係の捕捉は思考の成果の中でも最 も重要かつ有用なものであるとい うことができ よ う。 しか し、現実の因果関係 はタテ 。ヨコに複雑 に絡み合つて存在 しているため、的確にそれを 捕捉す るのは難度の高いチャ レンジであるのも事実である。(①,p.56) 人 間は因果 関係 を提 えるこ とで、様 々な事象 を理解 してきた。 したがつて、 ある事象 間 の因果 関係 がわかつた時、その事象 について理解 した と解釈す るこ とができる。 これ は社 会事象 に もい える ことで、社会事象 間の因果 関係 の把握 は社会事象 の理解 、つ ま り、「社会 の しくみがわかる」 ことにつなが る。 しか し、因果 関係 を適切 に捉 えることは難 しい。 それ では、 どの よ うにすれ ば、因果関係 を適切 に捉 えるこ とがで きるのか。 波頭 は、因果 関係 の捕捉 について、次 の よ うに述 べてい る。
,
「因果」は相 関関係 の一種 であ るか ら、因果 関係 を発見す るた めには、まず第一 に二つの事 象が 相 関 してい ることを確認 しなけれ ばな らない。言 い換 えると、二つの事象 が影響 を及 ぼ した り及 ぼ され た りす る相 関関係 であることの認識 が第一歩 である。その上 で、 どち らか一方 の事象が必 ず他 方 を生起せ しめてい る とい う特定の方 向性 で影響が発 生 してい る場合が因果 関係 とい うことになる。 独 立 的 に生起 し他方 に影響 を及 ぼ してい る事象が原 因、影響 を及 ぼ され生起せ しめ られてい る事象 が結果 とい う関係 である。 そ して、ある相 関関係 が因果 関係 であるこ とを見極 めるための条件が二つ ある。「時間的序列」 と 「意 味的連動性」である。(①,pp.58‐59) 波頭は、因果関係 を発見する際、まず必要 となるのは、二つの事象が相関 しているとい う事実を認識す ることであるとしている。因果関係 とは、一方が他方を必ず生起 させてい るとい うように、特定の方向性に影響を及ぼ している関係である。そ して、その因果関係を見極めるための条件 として、①時間的序列、②意味的連動性の二つをあげている。波頭 のい う①時間的序列、②意味的連動性について、それぞれ一つずつ整理 してい く。 ①時間的序列 波頭は、時間的序列にっいて、次のよ うに述べている。 二つの条件のうち「時間的序列」の方は、シンプルで理解 しやすいであろう。相関関係にある二 つの事象のうち、ある一方の事象が必ず “先に"起こり、それを原因としてもう一方が “後か ら" 結果 として起きるとい うことである。(① ,p.59) 時 間的序 列 とは、二つ の事象 の うち、原 因 は先 に起 こる こ とで あ り、結果 は後 か ら起 こ る こ とで あ る とい う時 間 の順 序 の こ とで あ る。例 え ば 「雨 降 って、 地 固 ま る」 は、雨 が降 つ た こ とが原 因で あ り、地 面 が固 ま るのが結 果 で あ る。 また、雨が 降 った こ とは先 に起 き た事 象 で あ り、地 面 が 固 ま るの は後 か ら起 きた事 象 で ある。 ②意味的連動性 波頭は、意味的連動性について、次のように述べている。 結果が発生す る前に必ず毎回起きた事象 を探す とい う原因捕捉の検討作業を、機械的に事象 を突 き合わせて比べ “同 じ"と “違 う"に分けてい くだけのや り方で取 り組 も うとす ると、理屈の上で はこのように無限の事象群の中に蒻れて しま うことになる。 この無限性か ら救つて くれるのが 「意味的連動性」である。現実にわれわれがある事象の原 因を 探す場合には、毎回必ず起 きる事象 として特定化 しようとする段階で、意味的連動性 の観点か らス ク リーニングが行われているのである。(①,pp.62‐63) 意 味的連動性 とは、端的 にいえば、 ある事象 の因果関係 を把握す る際、そ の原因 となる 事象 を意 味の連動性 とい う観 点か らふ るい にかけることである。二 日酔いを例 に考 えてみ る。二 日酔 いの原 因を探 るには、二 日酔い になる前 に起 こった事象 を洗い出 し、二 日酔い になった場合 に毎回必ず起 きていた事象 を原因 として特定すれ ばよい。 しか し、この方法 で機械 的 に行 って しま うと、生まれてか ら二 日酔い になるまでの間の全 ての時間が対象 と ‐24‐
な り、かつ、テ レビを見ていた、トイ レに行 つた、な ど無数 の事象 が原 因 として リス トア ップ され るこ とになる。「意 味的連動性」は、この よ うな無数 の原 因 となる事象 の リス トア ップ とい う事態 を 「意 味」 の関連性 のあるな しとい う観点で、原 因 とな りうる事象である か ど うかふ るいにかけるこ とによつて防 ぐものである。 これ まで、因果 関係 を特定す るための二つの条件 について整理 して きた。 しか し、波頭 は、 この二つの条件 に加 えて、
I「
直接 的連動 関係 」、 Ⅱ 「第ニ ファクター」、Ⅲ 「因果 の 強 さ」 の二つの留意点 をあげてい る。 そ こで、それ ぞれの留意点につ いて整理す る。 I「直接的連動関係」 直接 的連動 関係 について、波頭 は 「ス ピー ドの出 し過 ぎが事故 の原 因であ る。」とい う例 をあげて説 明 してい る。結論 か らい えば、ス ピー ドの出 し過 ぎは事故 の直接 的 な原因 とし て は考 えに くい。事故の直接的な原 因 として考 え られ るのは、不意 の飛び出 しに気づ くこ とが遅れ た、ブ レーキを踏む ことが遅れた といつた ものである。 この場合、ス ピー ドの出 し過 ぎは、不意 の飛び出 しに気づ くことが遅れた、ブ レー キを踏む こ とが遅れ たことにつ い ての直接 的な原 因にはなる。しか し、事故 を起 こ した ことの直接的 な原 因にはな らない。 事故 を起 こ した原 因はあ くまで も不意 の飛 び出 しに気づ くことが遅れ た こと、ブ レー キを 踏 む こ とが遅れ た ことである。 つ ま り、ス ピー ドの出 し過 ぎは、事故 の原 因 としては遠 因 とい える。 この よ うな具体例 を踏 まえた上で、波頭 は次の よ うに述べてい る。 このよ うに、直接的連動関係 にある事象間の関係 こそが、厳密 な意味での因果関係 だと理解 して 頂 きたい。なぜな ら、直接的連動関係 にない事象間の関係を因果関係 とみ な して しま うと、例 えば 問題解決の結論が的外れなものになって しま う場合があるからである。(①,p.68) 波頭は、直接的連動関係 を踏まえた厳密な意味での因果関係の把握 は、適切 な問題解決 を行 う上で重要であるとしている。 このことについて、先ほ どの例 を用いて具体的に見て い く。 車の最大のメ リッ トは、移動速度が速い とい うことである。しか し、「スピー ドの出 し過 ぎ」が事故の原因であると捉 え、事故を減 らすために 「スピー ドが出る」 とい う原因を解 消 して しま うと、車の最大のメ リッ トが失われて しま う。一方、「ブ レーキを踏むのが遅れた」 こ とを事故の原因 として捉 えた時は、車のメ リッ トを失 うことな く「ブ レーキの踏み 遅れ」 とい う原因を解消す るための装置 を取 り付 ける、 といつたよ りよい問題解決 ができ る。この よ うに、「直接的連動関係」に着 目す ることは、因果関係 の厳密 な把握 につなが る。 しか し、「直接的連動関係」に固執 して しま うと適切 な問題解決 の妨 げになって しま う可 能性 もある。例 えば、水俣病 の問題 を取 り上 げ、「メチル水銀 のたまつた魚や 貝 を食べ たか ら水俣病 になった。」 とい う文章がある。 これ は、因果関係 が成 り立 ってい る文章で あ り、 「メチル水銀 のたまった魚や貝 を食べ る」 と 「水俣病になる」は 「直接的連動 関係」 にあ る とい え る。 しか し、水俣病 の問題 の本質 は、「メチル水銀 のたまった魚 を食 べ た」とい う 事実 にはない。 問題 の本質 は 「工場 が利益 至上主義 であったか ら、 メチル水銀 の垂れ 流 し を止 め られ なかった」 とい う事実 にある。 この こ とについて、岩 田一彦 は次の よ うに述べている。 (前略:吉崎)「工場か ら出たメチル水銀が、原因で、メチル水銀のたまつた魚や貝 を食べると、水 俣病になる」を抽出して、それで答 えを得たことにしている。 これでは現象的因果関係 を知 ったにすぎない。メチル水銀の垂れ流 しの本質的原 因を理解す るこ とが必要なのである。(Э,p.27)
図Ⅱ-1-2 水俣病の因果関係
(③,p.28より吉崎作成
)<現
象的因果 関係 の理解>
︵原 因 ︶Aメ
チル 水銀 のた ま つた 魚や 貝 を食べた。 ︵ 結 果 ︶B水
俣 病 に な っ た。<本
質的 因果 関係 の理解>
︵ 結 果 ︶C工
場 が利益 至上 主義 で あった。Dメ
チル水銀 の垂 れ流 しを止 め られ なかった: 26‐「メチル水銀のたまつた魚や員を食べたか ら水俣病になった。」は、現象的因果関係 によ る理解である。そ して、「工場が利益至上主義であつたから、メチル水銀の垂れ流 しを止め られなかった」は本質的因果関係 による理解である。岩田は、水俣病の問題 を正確に認識 す るためには、現象的因果関係 による理解ではなく、本質的因果関係 による理解をしなけ ればな らない としている。ここでの、現象的因果関係 とは、波頭のい う「直接的連動関係」 で もある。 しか し、ここで 「直接的連動関係」は、適切な問題解決の妨げになるか ら無視をす る、 とい うのは間違いである。図Ⅱ‐1‐
2を
見 るとわかるように、本質的因果関係 による理解 と は、現象的因果関係(直接的連動関係)の くり返 しである。 このことを図Ⅱ‐1‐3に
示す。 図 Ⅱ-1-3
本 質的因果関係の理解<本
質的因果関係の理解>
<本
質的因果関係>
CI工 場/J淋J 益至上主義 であった。 <現(直象 的因果 関係接 的連 動 関係)>
ヽ で現象的因果 関係>
(直接 的運 動 関係)F魚
や 貝 が メ チ ル 水 銀 で 汚 染 され た。 <現象 的因果 関係>
(直接 的連 動 関係)Aメ
チル 水 銀 の た ま っ た魚 や 貝 を食 べ た。 <現象 的因果 関係>
(直接 的連 動 関係)B水
俣 病 になった。水 俣 病 の 問題 の本 質 は、「工場 が利 益 至 上 主義 で 、メチル 水 銀 の垂 れ 流 しを止 め られ なか った 」 こ とにある。 これ は、 メチル 水銀 の た まった魚 や貝 を食 べ たか ら水俣 病 になった」 とい う現 象 的 因果 関係(直接 的連 動 関係)によ る理 解 で は見 えて こな か つた こ とで あ る。 し か し、図 Ⅱ‐1‐
3か
らもわか る よ うに、因果 関係 の飛 躍 がない よ うEと Fの
事 実 を付 けカロえれ ば 、「C→E」、「
E→
D」、「D→
F」、「F→A」、「A→
B」 の一 つ一 つ の 因果 関係 は現象 的因果 関係(直接 的連 動 関係)であ る。 つ ま り、本 質 的 因果 関係 の理 解 をす るた め に は、現 象 的 因果 関係(直接 的連 動 関係)を無 視 す るの で は な く、一つ の現 象 的 因果 関係(直接 的連動 関係) のみ に と らわれず に、関係 を連鎖 させ 、突 き詰 めて本質 を見極 めて い くこ とが重要 な ので あ る。 した が って、直接 的連動 関係 に着 目す る際 には、一 つ の関係 だ け を見 るの で はな く、関 係 を連 鎖 してい き、複 数 の直接 的連 動 関係 で見 てい くこ とが必要 な の で あ る。 そ うす る こ とで初 めて 因果 関係 を厳密 に把握 す る こ とが で き る。 Ⅱ「第ニ ファクター」 波 頭 は 、第 三 フ ァクター につ い て、次 の よ うに述 べ てい る。 「第ニファクター」とは、一つの因子Xが異なる二つの事象A、 Bの原因になっている場合には 事象Aと Bの間にも相関関係が生 じるが、このAと Bの間の相関関係を生 じさせる共通因子Xの ことを指す。すなわち、“事象Xと事象A"、 “事象Xと事象
B"が
それぞれ因果関係にある場合、A
とBの間に生 じる相関関係の背後で、その相関関係を生 じさせているA、B共
通の原因Xが第ニフ ァクターである。この場合、Xとい う原因があつて生起する二つの結果Aと Bの間の関係は単純な 相関関係に過ぎないが、第ニファクターXの存在が見えていないとAと Bとの関係を因果関係だと 誤つて認識 してしまうことがある。(① ,p.69) つ ま り、第ニ フ ァクター とは二つ の事象 の相 関関係 を生 じさせ て い る、二 つ の事象 とは こ とな る事 象 の こ とで あ り、見落 とす と単純相 関 を因果 関係 にある と誤認 す る ことにつ な が る もの で あ る。 具 体例 を一 つ あ げ る。 家族 の数 と米 の消費 量 、家 族 の数 と茶 碗 の数 は共 に 因果 関係 に あ る。 そ して 、家族 の数 を第 ニ ファクター とす るこ とで 、茶碗 の数 と米 の消 費 量 に相 関 関係(単純相 関)が成 立 す る。 しか し、家 族 の数 とい う第 ニ フ ァク ター を見 落 と す と、 単純相 関で あ るはず の茶碗 の数 と米 の消費 量 が因果 関係 と して認識 され るお それ が ‐28‐ある。 このような誤認 を防 ぐためにも、第ニファクターの存在に注意 しなければな らない のである。 このことを、図に示す と次の図 Ⅱ‐1‐4よ うになる。 図 Ⅱ
-1-4
第三 ファクター Ⅲ 「因果の強 さ」 因果 関係 の強弱 について、波頭 は次 の よ うに述べ ている。 例 えば、「雨が降つてい る。」 とい う事象 は 「人が傘 を さす。」 とい う結果 の強い原 因 といえ よ う。 ザーザー と雨が降っていれ ば一〇人 中九人 は傘 をさすか らであ る。一方 「陽射 しが強 い。」 とい う事 象 も 「人 が傘 を さす。」原 因ではあるが、こち らは雨が降 ってい ることと比べ る と弱 い原因 と見 な さ れ るべ きで あろ う。(中略:吉崎)この よ うに因果関係 に も、その原 因 と結果 の連動性 に強弱が存在す る。 この 「因果 の強 さ」 に対す る正確 な認識 が欠如 して しま うと、因果律 に よつて様 々な推論 を行 う場 合 に非現実 的 な結論 に辿 り着 いて しま った り、 同 じ原 因か ら展 開 され る推論 に よつて結果 的 に は全 く異 なる結論 が もた らされて しま うことになるので ある。(①,pp.73‐74) 茶碗 の数が増 える I : l l l l l l∃
茶
碗
の
数
が
増
え
る
、
家族のう 増え ' ― 因果 関係 の誤認 第 ニ フ ァク ター で あ る 「家族 の数 」 を見落 としてい ない正 確 な因果関係因果 関係 の把握 は、 よ り効果的 な推論 を行 うために必要 な ことで あ る。 しか し、傘 をさ す 二つの理 由か らもわか るよ うに因果 関係 にも強弱がある。 したが つて、その強弱 を見極 めな けれ ば、推論 の根拠 が弱 くなって しま うことも考 えられ 、判断や結論が有効でない も のになる場合があるのである。それ では、因果 関係 の強弱 の見極 めは どうす るのか。 因果 関係 の強弱 を見極 めの方法 として考 え られ るのは、 自分の経験 と知識 と比較す るこ とであ る。 因果 関係 は物事 を理解す るための枠組 みであ り、一種 の法則で ある。 したがつて、新 たに出会 った事象 の因果 関係 を考 える際は、今 まで 自分が経験 して きた こと、学んで得た 知識 と新 たな事象 の因果 関係 との比較 が行 われ る。 そ して、比較 を してみて一致す る項 目 が多 けれ ば多いほ ど、因果 が強い と判断す るのである。つま り、因果 関係 を考 えるときに、 曖味 なまま安易 に因果 関係 を結ぶ のではな く、一般化 され てい る因果 関係 の法則 とよ り多 くの項 目で比較す ることがで きるまで細 か く因果 関係 をみてい くこ とで見極 め るこ とがで きる。
.
具体 的 には、I「直接的連動 関係 」の項 目で取 り上 げた 「現象的因果 関係 と本 質的因果 関 係 」 の理論 を用い る。「水俣病 になった理 由はなにか」 とい う問い を例 に説 明す る。 ① 「メチル水銀 のたまった魚や貝 を食 べたか ら水俣 病 になった」 ② 「工場 が利 益至上主義で、 メチル水銀 の垂れ流 しをや めず 、 メチル 水銀 に よつて汚染 さ れ た魚や 貝 を食べたか ら水俣病 になつた」 因果 の強弱 を見極 めなけれ ばな らない理 由は、推論 の根拠 が弱 くな り、判 断や結論 が有 効 で ない ものにな る場合 が あるか らで ある。 つま り、推論 の根拠 を強 め、判 断や結論 をよ り有効 な ものにす るためには、強い因果 関係 で事象 間の関係 を捉 える必要が ある。 この二 つ の答 えでは② の方がよ り強い因果 関係 で捉 え られ ている といえる。 その理 由を示す と、 図 Ⅱ‐1‐5の
よ うになる。 ‐30‐①「メチル水銀のたまった魚や貝を食べたから水俣病になった」
メチル水銀 で汚染 された魚や貝 を食 べ る 水俣病 になる。 ②「工場が利益至上主義で、メチル水銀の垂れ流 しをやめず、メチル水銀によって汚 染された魚や貝を食べたか ら水俣病になつた」 利益至上主義 因果関係⑥ 環境 へ の配慮 を考 えない。 因果関係⑤ メチル 水銀 の垂 れ 流 し 因果関係④ メチル水銀 による海 の汚染 因果関係③ メチル水銀 に よる海産物の汚染 因果 関係② ﹁ = ︱ ︱ ︱ ︱ ︱ I J メチル水銀で汚染 さ れ た魚や貝 を食べ る │ 因果関係① 水俣 病 にな る ョ弓強 因 果 関 係 ① + ② + ③ 十 ④ 十 ⑤ + ⑥ 図 Ⅱ
-1-5
因果 関係 の強 弱 の見極 め図 Ⅱ‐1‐
4を
見てわかるよ うに、①では、比較できる因果関係 は一つ しかない。それ に対 して、②では六つ も存在す る。比較できる因果関係 が多いほ ど、経験や学んできた知識 と 合致する項 目も多 くなる。 したがって、よ り多 くの因果関係で事象間を結ぶ、つま り、現 象的因果関係 を連鎖 させ本質的因果関係 をとらえることで因果関係 の強弱を見極めること ができ、強い因果関係事象間の関係 を表す ことができる。 ここまで、波頭の考える因果関係 を正確 に見極める条件 と留意点について整理 してきた。 この条件 と留意点を図に示す と図 Ⅱ‐1‐6の
よ うになる。 図 Ⅱ-1-6
因果 関係 の分析 ‐32‐ 【因果関係の成立条件】 相 関関係 時 間 的序 列 意 味 的連 動性 、(1,)ァ
成立条件 を満 た してい る 【二つの留意点(フ ィルター)】 直接 的連 動 関係 (現象 的 因果 関係)
+
本 質 的 因果 関係 因果 関係 の強弱 の見極 め 第ニ フ ァクター が存在 しないか図 Ⅱ‐1‐