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算数・数学学習における視覚についての研究

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(1)平成5年度 学位論文. 算数・数学学習における 視覚についての研究. 兵庫教育大学大学院. 学校教育研究科. 教科・領域教育専攻. 自然系コース. M9 2 5 6 4 A. 山 本 紀 代.

(2) は. め. じ. に. 視覚が我々に与える影響の大きさと有効性は、コンピューターグラフィックスや ハイビジョン映像の隆盛からも社会的に認められている。. 視覚の有効性は、当然教育の場においても認められ、その効果的な活用が期待さ れている。これは算数・数学の学習においても同様であり、視覚の有効性は多くの 研究者たちによって論じられ、それを活用した授業が実践されている。また、特に 意識されないまでも、日常的に図的表現を伴う教師の説明がなされ、有効な問題解 決方略の一つとして絵図の使用が奨励されている、などの実態からも視覚が算数・ 数学学習に欠かせない存在であることが認められよう。 しかし、指導される側の子供の実態はどうであろうか。筆者の経験からいえば、. 指導者がその有効性を強調し、絵図を利用した指導が頻繁に行われているにもかか わらず、積極的に図を描こうとする子供は少ない。また、ほとんどの子供は、「算 数や数学は、頭の中で考え数字や記号だけを使う教科であり、絵や図を用いる教科 ではない」と思い込んでいるように感じられる。. 算数・数学学習に関して、指導者と学習者の間にこのような差異が生じるのは、 両者共に、図的表現の特徴や有効性の把握が不十分であるからではないだろうか。. 指導者においては、図を用いた指導を当然のことと考えるあまりに、指導におけ る図的表現の位置づけが不明確となり、図的表現の特徴を生かした指導の意図が実 践に十分反映していないのかもしれない。従って、指導を受ける子供が潜在的にも っている、「式こそが算数・数学の二表現である」というイメージを、崩しにくくし ているのかも知れない。. 教材研究において、図の検討はなされているであろう。しかし、前述したような 子供の実態を考えたとき、「図はなぜ有効なのか」という視点からの教師の検討が、 あまりなされていないことに筆者は気づいた。そこで、 「図は算数・数学学習にお. いてどのような役割をもつのか」について再検討したいと考えた。そして、歯的表 現そのものの特徴を考察することは当然であるが、それ以前の問題として図的表現 と視覚の関係が図の役割を明確にするのではないかと考え、視覚という視点から図 的表現を考察することにした。. 本研究は、図的表現の分析を通して、算数・数学学習における視覚の影響を考察 し、図的表現の役割を算数・数学学習に明確に位置づけ、より効果的な指導のあり 方を考察するものである。. 1993年12月 山 本 紀 代. 1.

(3) 修士論文目次 はじめに. 第1章. ・一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一・・一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一 一 一 一一一一一一. 算数・数学学習における表現. @1 4. 第1節 算数・数学学習における表現の分類 (1)算数・数学学習の特徴. (2)表現の分類 第2節 表現の特徴 (1)具体性と抽象性 (2)学習過程における使用場面の違い 第3節 表現の相互関係. 第2章 算数・数学学習における視覚の有効性. 18. 第1節 視覚と思考 (1)知覚と思考 (2)視覚と視覚的思考 第2節 図引表現と視覚 (1)視覚的思考に果たす図的表現の役割 (2)算:数・数学学習における視覚化の意義. (3)視覚化と記憶. 第3章 算数・数学学習における図的表現の役割 第1節 図的表現の意義 (1)図的表現の分類 (2)図的表現の役割 第2節 具体と抽象の媒介としての図的表現の役割. 2. 27.

(4) (1)概念形成における図的表現の役割 (2)法則・関係を理解させるための図的表現の役割 第3節 視覚的思考を誘発させる図的表現の役割 (1)関係的な把握の困難性 (2)視覚化の意義. 第4章. 図的表現の限界と指導上の留意点. 42. 第1節 図的表現の特徴にみられる限界 (1)固定されるという限界 (2)規約性を持たないことによる限界 第2節 Presmegの研究にみられる図的表現の限界. (1)内的要因 (2)外的要因 第3節 図的表現の限界を克服するための指導上の留意点 (1)効果的な図のあり方と与え方 (2)視覚リテラシーからみた指導. おわりに. 55. 引用・参考文献. 57. 3.

(5) んノヒ. 弟. 1. ホ 早. 算数・数学学習における表現 第1節 算数・数学学習における表現の分類 (1) 算数・数学学習の特徴. 近年の小学校における授業は、ほとんどの教科において問題解決学習が行われて いるといえよう。どの子供も、ある問題について自分の考えを持ち、お互いの意見 を検討しあいながら問題の解決に向かうという学習展開は、多くの教科に共通して いる。しかし、問題解決という形式的には同じようにみえる学習過程ではあるが、. 子供が学習内容を理解し、知識として獲得していく過程には、それぞれの教科の特 徴を反映した違いがみられる。ここでは表現に焦点を当て、算数・数学学習の特徴 について述べることにする。. 表現に関する算数・数学学習の特徴は、一つの学習内容を多様に表現することを 通して、その理解を深めさせるという点にあるといえよう。 例えば、 「たし算」の概念を学習する場合について考えてみよう。. (a)具体的な操作を示す図. L. あわせると なんびきでしょうか。. eee ee. (b)やや抽象的な図. oo o. ((ielll12i. 図1−1.生活経験に結合した図 図1−2.たし算の理解を補助する図 一4.

(6) まず、学習の導入として、子供の身近かな状況から「たし算」という単元全体に 関わる問題が提示される。その場合の提示方法の一例として、子供の生活場面と結. びついた図(図1−1)が与えられることが多い。図1−1は、日常生活の中で経 験したことがありそうな状況を示しており、子供にとっては親しみのある図である。 しかもζの図には、 「あわせるとなんびきでしょうか」という言語による表現が加. わっているため、子供は図から「3匹と2匹を合わせる話」であることを読みとる ことができる。つまり、図と言語による表現から子供は、加法の「合併」場面を知. る。次に、3匹と2匹を合わせるという状況から金魚を捨象して、例えば、金魚を おはじきに置き換えてそれを操作したり、さらに不必要な情報を捨象した図(図1. −2,(b))に表したりして、「3と2をあわせる」という意味を知り、さらには 「いくつといくっをあわせる」という一般化された「合併」の意味の理解へと進ん. でいく。また、 「3と2をあわせる」などの言語による表現や、それを「3+2」 と記号で表すことの学習も並行して行われる。. 上述の学習過程において、「合併」の意味とその算数的な表現方法の理解を促進 するために用いられた表現は、次の4種類である。. (ア)図による表現:図1−1と図1−2など (イ)言語による表現:「3匹と2匹をあわせる」「3と2をあわせる」 (ウ)具体的操作による表現:おはじきなどによる操作活動. (エ)記号による表現:3+2. 上の例は、これらの表現を、教師が指導上の必要性を感じて意図的に用いる学習 場面であるが、一方では、子供が多様な表現を用いることを意図した学習もある。. 「わり算」の概念を学習する場合を例にすると、例題1−1ぶ与えられて、その解 き方を子供自身で考えるというような学習場面である。. 例題1−1 色紙が15枚あります。一人に3枚ずつ配ろうと思います。 何人の人に配れるでしょう。. 子供は、この問題を解決するために、図1−3のような方法を用いるのではない だろうか。図1−3は上に述べた4種類の表現のうちの(イ)を除く3種類の表現であ り、それらがすべて例題1−1を解くための方法として正しいと認められたとき、 子供は一つの問題に関して多様な表現ができることを知る。そして、これらの表現. がすべて「12わる3が4になる」と言語で表現できることや、それを「12÷3 =4」と記号で表現することを知るのである。. 一5一.

(7) (ア)図にJよる表現. (ウ)具体的操作による表現. 田丑需)⑪. おはじき15個を、 3個ずつに分けて置く. (エ)記号による表現. ②15−3=12… 1人. O 3+3+3+3+3. W. 12−3=9 …. v6...一一一一..”,. i. v一..EL.一.一一.,. l. 15. コ. 3−3=0. l. 2.人. = ロ. …. 5入. @ 3×5 == 15. 図1−3.例題1−1を解決するために子供が用いる方法 このように、ある学習内容について、多様な表現を通して理解を促進したり、解 決に導いたりするということは、他の教科においてはあまりみられない。実物の観 察や実験などが重視される理科の学習と比較してみよう。例えば、「へちまの花」. についての学習をするとき、実物もしくは、写真や映像を通して花のつくりを観察 し、観察したことをその子供が最も表し易いと思う方法でまとめるだけである。花 びらの枚数や、めしべ・おしべの本数などは、言語表現で、雄花と雌花の違いは、 図的表現でと、子供の能力や好みに応じていろいろな表現が混在することはあろう。. しかし、雄花と雌花の違いをいろいろな方法で表現させることは、指導上意味のな いことである。だが、算数・数学学習においては、同じ内容を一つの表現、例えば、 数式(記号による表現)だけで済ませることは、ほとんどないといえよう。. これは、算数・数学が抽象的な内容を扱う教科であるということから生じる特徴 の一つであろう。したがって、表現は算数・数学学習における重要な研究対象とな るのである。. 表現に関する体系的、組織的な研究では、Bruner, J.S.のEIS原理がよく知られて. いる。近年においては、BrunerとLesh,R.らの研究を基に、申原(石田)忠男が独自 の表現体系を発表している。. 本章の目的は、表現を体系的に捉えるという立場での研究ではなく、各々の表現 について再検討しその特徴を考察することを通して、算数・数学学習における表現 の役割を明確にすることにある。そこで、Leshらと中原の分類を基に、算数・数学 学習において用いられる表現の学習指導上の役割について、筆者の考えを述べてみ たい。. 一6一.

(8) (2) 表現の分類 表現を分類するにあたって、筆者は、Leshらと中原の分類を参考にした。両者は ともに、表現を5種類に分けている。 まず、Leshらの分類は、以下の通りである(①)。. ①現実的表現(real script):経験に基づいた「実世界」での表現 ②操作モデル(manipulative models):キズネールの棒、算数ブロック、. 分数棒、など ③静的な絵(static pictures):静的な図的モデル ④音声言語(spoken language):数学的な用語を含む ⑤書かれた記号(written symbols):一般的な文字や数学的な記号 前述した「たし算」の例を用いてLeshらの分類について説明しよう。. ①現実的表現とは、図1−1を与える代わりに、水槽を持ってきて実際に金魚を 入れる表現ををさす。. ②操作モデルは、金魚の代わりにおはじきを使い、水槽に入れる代わりにおはじ きを寄せるというような動作をすることである。. ③静的な絵とは、図1−2による表現をいう。. ④音声言語と⑤書かれた記号については、「3匹と2匹を合わせる」「3たす 2」 (書かれた記号のみ「3+2」)などの表現を話す場合と、書く場合とを異な る表現であるとみなして区別したものである。 中原は、Bruner、 Haylock、 Leshらの分類を基に、表現を次の5種類に分類し、そ れぞれの特性を次のように述べている。. 『①現実的表現:自然的、具体的で動的な表現. ②操作的表現:3次元的、半具体的で動的な表現. ③沖詞表現:2次元的で静的な表現 ④言語的表現:日常語文法に従う表現 ⑤記号的表現:数学語文法に従う、完成された表現』(②p.20). 中原の①現実的表現はLeshらの現実的表現に加えて、図1−1のような生活場面 に密着した射的表現も含んでいる。中原が現実的表現と認める「図」は、子供の実. 生活に見られる状況や状態を写実的に表した図のことをいい、③図的表現と重複す る部分を持つ。. 中原の④言語的表現と⑤記号的表現は、Leshらが④音声言語と⑤書かれた記. 7.

(9) 号という「書く」「話す」などの活動に着目して分類したのに対して、「書く」 「話す」内容が日常言語で表現されているか、数字と記号の組み合わせで表現され. ているかの違いによって分類したものである。④と⑤に関する両者の分類を考えた. とき、筆者は中原の分類が妥当であると思う。それは、「3は2より大きい」や 「3、大なり2」という表現について、「書く」ことと「話す」ことによって認め られる差はほとんどないと考えられるからである。しかし、「3は2より大きい」. と「3>2」という表現では、「〉」が数学特有の表現であり、非日常的な表現で あるだけに両者には大きな差が認められる。. 一方、中原は、現実的表現として図1−1など一部の図を含めているが、筆者は それらの図を含め、すべての図を図引表現に含めようと思う。その理由については 第3章で述べることにする。要するに筆者は、表現の分類は中原の方法が妥当であ ると考えるが、現実的表現に関しては、実物による表現、もしくは現実的な状況の 表現のみを指すものとする。. 次節では、以上のように分類した表現について、それぞれの特徴をいくつかの視 点から捉えて考察する。. 第2節 表現の特微 ノ. (1) 具体性と抽象性 中原は、前節で分類した5っの表現を、 「類似的表現」と「規約的表現」という. 視点からさらに表1−1のようにも分類している。この2っの分類は、表現を記号 論的にみた分類である。それは、様々な表現をすべて記号とみたとき、記号として の特徴は、それらが表す対象の理解の仕方により2種類に大別できるという見方で ある。. 表1−1.記号論からみた中原の分類. 規約的表現. o灘難. 図1−4.類似的表現 8.

(10) 例えば、外出先で図1−4を見かけたとき、たいていの人は、それは「くるまい す」が利用できることを表していることが分かるだろう。図1−4のように、見た だけでそれが何を表しているのかがイメージでき、容易に理解できるような表現を 中原は「類似的表現」とよんでいる。そして、その特徴を次のように述べている。. r 一般的に類似的表現は、指示対象の何らかの意味内容を視覚的な様式に おいて含んでいることから用いられ始めることが多い。したがって、それ らは直観性、具体性、イメージ性などに富み、親しみやすい性格をもっこ とになる反面、その表現は規定によることが少ないので厳密性、客観性な どの性格は薄く、本質以外の側面すなわちSkempのいうノイズを含むもの である。』 (②PP.18−19). それに対して、数字のようにある規約に従って表現されたものを「規約的表現」 とよび、 「類似的表現」とはr長所と短所が逆になっている』 (②p.19)と述べて いる。. 筆者は、操作的表現や図的表現に関しても、ある種の規約性を伴う表現であると. 考えるため、中原とは異なり具体性と抽象性という視点から捉えようと思う。5種 類の表現を具体性と抽象性という特徴から分類すると、次のようになろう。. ①具体的な表現:現実的表現 ②抽象的な表現:言語的表現、記号的表現 ③具体性と抽象性の両方を合わせ持つ表現:操作的表現、図的表現 これらのことについて説明しよう。. 現実的表現が具体的であることは、言うまでもないことである。実物が与えられ たり実演をみることによって子供は、学習対象となるものを直観的に理解し、それ に対する鮮明なイメージをもっことができる。しかし、あまりにも具体的すぎるイ メージは、中原も述べているように客観性に乏しく、一般的な理解に障害をもたら す。. それに対して、言語や記号で表現されたものは、直観に訴えるという点では他の 表現に劣ることが多い。なぜなら、言語には文法に基づく一定のルールがあるため、. 言語表現はルールに従って構成されなければならず、文をつくったりっくられた文 を解釈したりする際には、そのルールの影響を強く受けるからである。このような 言語の特徴についてDondis, D. A.は、次のように述べている。. r 言語は、情報の符号化、記憶、解読を目的として人工的に作られた体系 で、その構造は論理的である。』 (③p.16). 9.

(11) また、記号的表現は言語的表現よりもさらに規約性の高い表現である。特に数学 で用いられる記号やその表現は、現実の対象を直接表現していないという点で抽象 的、形式的であり、厳密なルールに基づいた表現であるといえよう。このような数 学の記号の特徴について、西谷さやかは、以下のように述べている。. 『 記号のになう概念ないし関係は、少なくとも特定の分脈では一義的であ るからその意味は明瞭である。さらには、記号それ自体も簡潔、透明で、 爽雑物が入り込む隙間がない。』 (④p.129). 規約性があるということは、その規約に基づきさえずれば常に同じ解釈がなされ るということであり、言語や記号が客観性や一般性を持つ表現であることの理由で ある。このような言語や記号の特徴をArnheim,R。は、以下のように述べている。. 『 数字や文字はたやすく作られ、認められ、記憶され、しかもできるだけ. 相互に区別されやすいように、形を探求した結果として歴史的に発達した のである。』 (⑤P.56). 次に、操作的表現と図的表現が、具体性と抽象性という相反する特徴を合わせも つということについて述べてみたい。. 操作的表現に関していえば、操作活動そのものは具体的であると考えられるが、. 金魚やりんごをおはじきやブロック等の半具体物に置き換える時点で先ず、対象と なるものが抽象化されるといえよう。また、キズネールの色棒を操作することは、 かなり抽象度の高い操作活動による表現であると思われる。. 図的表現が具体性を持つことは図1−1を見れば明らかであり、前述したように、 中原も「現実的表現」に図的表現の一部を加えていることからも認められよう。さ らに平林一栄は、図郭表現の特徴を次のように述べている。. 『 論理性を物的教具によって物理的に表現することが難しい場合でも、よ り言語に近い表現、すなわち図的表現によってかなりうまく表現されるこ. とがある。それは図というものが、具体的事物よりももっと豊かな架空性 を持っているからである。』(⑥p.308). 平林のこの指摘は、図的表現が現実的表現以上に具体性を持ち、イメージを豊富 にする場合のあることを述べたものである。. 一方、図的表現の抽象性について、「アレイ図」と「線分図」を例に説明しよう。 10.

(12) oooooooooo oooooooooo oooooooooo. t. .. ...一r rc 一N... .一 戸’ s. 一. N. −. N. 一. N N. ノ. 、一a〆. 図1−5.アレイ図. s. \. ノ 一一. 1. 鼈鼈鼈黷. 図1−6.線分図. 図1−5は、「おはじきが30個並んでいる」というように解釈することができ るし、リンゴが30個並んでいるというようにも解釈することができる。こうした 解釈の多様性ぽ、図の抽象性から得られる。また、図1−6に関しても、線分図の 抽象性によって場面や数量の違いに関係なく、様々な事象についての「合併」「追 加」「求差」「求残」を表現することができる。. さらに、これらの図は、その図を見る視点を変えることにより、図1−5は3×. 10=30と解釈することもできるし、10×3=30と解釈することもできる。 こうした解釈が交換法則を導き、この図を列か行で分割してみれば、分配法則を説. 明することもできる。また、図1−6は、未知数をa,b, cとすれば、それぞれ. a=c−b、b=c−a、 c=a+bなどの解釈ができる。 以上、各表現について、具体性と抽象性という視点からそのの特徴を述べてき た。これらの表現はまた、学習過程で用いられる場面にも違いがみられ、これも表 現がもつ特徴の一つといえよう。. (2) 学習過程における使用場面の違い. 5っの表現がもつ具体性と抽象性の特徴は、それぞれの表現が使われる学習場面 と深く関係する。それは、算数・数学学習においては、抽象的な内容が学習の対象 であるため、それを子供に理解させるためには、具体から導入して抽象度をあげて いくという指導が必要となるからである。大ざっぱな表現ではあるが、ここでは学 習過程を「導入」「展開」「まとめ」と3段階に分けたとき、「導入」と「展開」 においてそれぞれの表現がどのように用いられるかについて説明する。. 単元や授業の「導入」では、子供が身近に感じる生活場面や状況の中にみられる. 題材について、現実的表現である具体物を用いたり、図1−1のような具体的な図 を示したりすることにより、問題が提示されることが多い。これが学習のきっかけ となり、子供は問題意識を持つ。ここで問題として取り上げられる内容が、「展開」. 一 11.

(13) の最後に数学的な記号で表現され(記号的表現)、それを子供は理解しなければな らないのである。ところが、学習内容の抽象度が高いため、その理解に至るまでに は子供の理解を補助・促進する系統的な指導上の手段が必要となる。その手段とし て用いられるのが、具体性と抽象性の両方を合わせ持つ操作的表現や図的表現であ. る。以上のことを「わりざん」と「水のかさ」の学習で例示したのが、表1−2で ある。. 表1−2.学習過程と用いられる表現. わ. 導. り. ざ. 水. ん. の. か. さ. 【図的表現】. 【現実的表現】. 図1−7をきっかけに学習. グループ対抗のゲームをす. る。ゲーム内容「1辺15cm位. が始まる。. のビニルシートを使って、水 をくみ、一番:たくさん水をく. 入. んだグループが1位。」. 展. 【操作的表現】. 【操作的表現】. あめをおはじきに置き換え. どのグループが一番たくさ. て、同じ数づっ4に分けるこ. んの水をくんだのか、任意単. とをする。. 位で調べる。. 【図的表現】. 図1−8のような図をかく. 共通単位の必要性に気づく 【操作的表現】. ldlますで量る。 開. 【言語的表現】. 【言語的表現】. 用語「1デシリットル」. 12わる4. 【記号的表現】. 【記号的表現】. r1 dl]. 12÷4. つまり、導入部分では具体性の強い表現が用いられ、展開部分では具体性と抽象 性の両面をもつ表現が使われ、最終的には抽象度の高い表現へと移行するのである。. こうした具体的表現から抽象的表現への移行は、学習内容の理解と促進を補助する 一12一.

(14) ために、系統的・発展的に計画されなければならない。次節では、. これら表現の相. 互関係について考察する。. O.O.9i.C:・,,, 。,・. Q・. 同じ数ずつ分けよう。. o. o:’・・,,. 幽幽幽凸 図1−7.導入場面に用いられる図. 図1−8.展開場面に用いられる図. 第3節 表現の相互関係 前節の表1−2に見られるような、現実的表現を操作的表現に翻訳したり、図的 表現を図的表現に変換したりすることは、算数・数学学習の重要な要素である。こ うした変換と翻訳の重要性をLeshらは、表現を5つに分けた後、それらの表現の相 互関係について以下のように述べている。. 『 5種類の表現はそれぞれに特徴をもっているが、その表現独自の特徴だ けが重要なのではない。ある表現内での変換や表現相互間の翻訳も同様に 重要である。』 (①P.34). 異なる表現間における翻訳が問題解決の重要な手段となることは、Van Essen, G. &Hamaker, C.が次のように述べている。. 『 言語形式を図的形式に翻訳することにより、生徒は問題の条件や意味に. 注意を払うよう強いられるため、翻訳することは、分析するための方略と なる。』 (⑦PP.302−303). 問題解決に限らず、異なる表現間の翻訳が算数・数学の内容を理解することと深 く結びついていることは、今まで述べてきたことからも明らかである。つまり、第 13.

(15) 1節で述べたように、算数・数学学習の特徴として多様な表現が用いられ、第2節 で位置づけた学習過程におけるそれぞれの表現は、翻訳されることにより次の学習 過程へと発展していくのである。. Leshらはいくっかのテストを通して、翻訳と理解の関係について考察した。 Item 31. What picture shows i/3 shaded?. a.. c.. 灘,. d. not given e. I don’t know. 図1−9.言語表現と図的表現との翻訳に関する問題 1 図1−9は彼らが行ったテストの一つである。これは、百という記号的表現が図. 的表現に翻訳できるかどうかを調べるテストであるが、その正答率は4年生が4%、. 5年生が8%、6年生が19%、7年生が21%、そして8年生は24%であった (①)。また、全てのテストを行った結果、次のことを結論として述べている。. 『 多くの子供は、学習内容を正しく理解していないだけでなく、その内容. を適切なモデルを使って表現したり、言語表現を異なる言い方で正しく表 現したりすることができない。そこで、このような翻訳能力は、数学学習 における理解と問題解決の両方に影響を及ぼす重要な要素であり、これら の能力を育成し強化することは、数学的なアイデアを獲得したり、それを 活用することを促進するものであることが分かった。』 (①p.36). 同一表現内における変換の必要性は、数学的概念の形成において、特に強く認夢 られよう。子供の活動、つまり、操作的表現を中心にした組織的・系統的な学習を 通して概念形成をめざすAgamプログラムによる研究(⑧)から、その成果を見てみ よう。. Agamプログラムは、 Weizmann研究所の科学教育部の研究員と、教師のチームによ る研究を通して教育の実践家となった芸術家Yaccov Agamのビジョンによって企画さ. 一14一.

(16) れたものである。このプログラムは、3、4才の保育園児を対象に始められ、36 のカリキュラムユニットに従って系統的に行われる。. 例えば3、4才児が最初に行う学習は「円」について知ることである。それは、. 図1−10のように、最初は固定された1点(円の中心)から同じ長さのひもを引 っ張りながら歩き(a)、次に同じことを長さの異なるひもで行う(b)。このように、. 言語的表現を全く用いずに、円に関する様々な活動を通して円の性質を視覚的、体 験的に獲得するのである。. e%]:.一.. x.. x. x …(2. {a}. (b]. 図1−10.円の概念を獲得する活動 各ユニットにおいて子供達は、行動(現実的表現)や操作活動(操作的表現)が 中心となる学習を行い、経験が積み重ねられる。こうしたユニット・をほとんど終え. た3年生の子供は、以下に示す8段階の経験を経て、「比と割合」という子供にと って理解が困難な概念に近づくことができたことを報告している(⑧)。この「比 と割合」のプログラムは、次の仮説に基づいて作成されている。. 仮 説. 「比と割合」の概念は、青年ですら把握することは困難である。. Agamプログラムに基づいて学習をすすめ、この概念が視覚的に 経験されるなら、その困難性は克服される。. 「比と割合」のプログラム. ①一つの単位を表す単位棒と、いろいろな長さの棒が与えられ る。子供は単位棒とある長さの棒を並べることにより、それが 単位棒のいくつ分であるかを比を用いて表すことを求められる. ②いろいろな長さを単位棒とし、他の棒と並べて比で表す経験 を繰り返すことにより、任意の棒を単位棒として用いても、比 で表すことができるように導く。. 一15一.

(17) ③例えば、1対3を表す組み合わせを、いろいろな単位棒を使 って作ることが求められる。ここで、子供は割合の概念を見っ ける。. ④ブロックを積み重ねたり、水の入ったコップを用いて同様の 活動をする。高さの異なるブロックの2組は、積み上げたブロ ックの数が違っていてもその比は同じであることを見つける. (図1−11左参照)。この比較は、等しい分数のための視覚的 な基礎として働く。. ⑤角度に関する同様な活動を行い、比や割合がいろいろな量に 適用する考えであるという子供の直観力を強化する。. ⑥相似である棒や紙の辺の長さを測定することを通して、対応 する関係にある長さの比が一定であることを知る。. ⑦垂直に置かれた棒の長さに見られる比の関係は、それらの棒 の影においても同様であることを見つける。このようにして、. 割合に関する彼らの概念を拡張する。 (図1−11右参照). ⑧a対bの関係にある一組のブロックが示され、他の組の片方 例えば3aが与えられ、残りの一方が何段になるかを考えさせ る。子供は先ず念頭で結果を考え、次にブロックを操作するこ とでその結果が正しいかどうかを確認する。. 1。’. ィ1薄・. 翻. 凋. フ つ//1. (a}. il. 動。. ξ開. 蕪. pm 蕩ど. ?. 田解. 磨. ib). 図1−11.比と割合の概念を獲得する活動. 一 16. り‘. 雛 ロ. コ ロ. の. ロ.

(18) このプログラムを実行した結果、はじめは単位棒、あるいは単位棒となる棒を常 に必要としていたが、時間が経過するにしたがってそれを必要としなくなった。ま た、a対bとなる組み合わせをいくつも見つけられるようになった。さらに、 a対 bとなる組み合わせを見つけるために、最初は試行錯誤的に行動していた子供が操 作をする前に考え始め、しばらくするといろいろな種類の棒を単位棒と決め、それ. と同じ長さの棒を(a+b)本取り出し、それらをa本とb本に分けて並べた。そ して、それぞれに等しい長さの棒を探し、a対bとなるいろいろな組み合わせをつ くるという行動をするようになった。ユニットを終了する頃には、2、3人の子供 を除いてほとんどの子供が、示された組の比と等しい比になる組み合わせを見つけ ることができた。. Agamプログラムは、全て操作活動を中心に計画されている。子供は操作的表現を 別の操作的表現に変換する経験を通して、概念を獲得していくのである。しかし、. Agamプログラムにとって操作的表現は方法でしかない。前述の仮説にも現れている ように「視覚」が最も重視されているのである。このことについて、Hershkowiz, R.. &Markovits,Z.は、操作的表現を視覚的書辞と捉え、次のように述べている。. 『 Agamプログラムは、視覚的言語の発達を視覚的思考の発達過程に組み込 むためのすばらしい方法の一例である。』 (⑧p.38). これは、操作的表現が単なる操作による活動を表すのではなく、視覚への働きか けがそこに含まれていることを示すものである。表現の変換や翻訳が行われるとい うことは、そこに思考が働くということである。Leshらが、変換と翻訳の重要性を 主張するのは、こうした思考への働きかけを積極的に求めようとすることにほかな らない。そして、Hershkowiz&Markovitsが、こうした視覚の思考への働きかけを 「視覚的思考(Visual Thinking)」と呼んでいるように、視覚が思考に与える影響 は大きい。次章では視覚と算数・数学学習の関係について考察する。. 一 17.

(19) んソヤロ. 弟. 2. 土 早. 算数・数学学習における 視覚の有効性. 第1節 視覚と思考 (1) 知覚と思考 視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚は知覚といわれるものであり、これらと思考とは 深く結びついている。それは、Agamプログラムが実行された過程にも見られたよう に、子供が活動の途中で操作を中断し、しばらくして合理的な操作をするようにな ったのは、そこに思考が働いたからである。操作活動は、触覚を通した刺激もさる ことながら、むしろその活動を見ることによって起こる視覚への刺激の影響が大き いといえる。こうした触覚や視覚からの刺激が子供の思考を働かせる素材となり、 新しい考えや方法をつくりだしたといえよう。. こうした触覚や視覚に限らず、知覚が思考と密接な関係にあることをArnheimは、 以下のように述べている。. 『 思考は、知覚そのものの本質的要素である。』 (⑤p.32). また、Lindsay, P.H_&Norman,D. H,は、知覚の特徴を次のように述べている。. 『 知覚は、感覚システムが提供するデータに対して選択的に注意し、それ らを体制化しようとする。』 (⑨p.13). これは、知覚が5種類の.感覚機関から様々な情報を収集すると同時に、その情報. を必要に応じて取捨選択していることを述べたものである。我々の身の回りには無 限の情報があり、感覚機関は常1『それらと接している。しかし、我々は全ての情報 を平等に受け入れているわけではない。このことは聴覚について、我々が「聞く」. こととテープレコーダーの再生とを比較すればよく分かる。例えば、授業記録を録 音し、それを再生したときのことを考えてみよう。再生されたテープからは教師と. 一18一.

(20) 子供の声の他、黒板に文字をかくときのチョークの音や机や椅子のきしむ音、また、. 教室外の雑音までもが聞こえてくる。しかし、授業を見ていたときの参観者には教 師の声と子供の声以外は、ほとんど聞こえていなかったであろう。つまり、我々の 知覚は無意識のうちに瞬時にして情報を取捨選択し、必要なものだけを伝えている のである。従って、我々が知覚から獲得された情報を認める以前に、それを取捨選 択するという思考が既に働いているのである。このことが、知覚と思考は表裏一体 のものであると言われるゆえんであろう。. Dondisによると、知覚からの情報獲i得は先ず触覚から始まり、徐々に臭覚、聴覚、. 味覚を含むようになるそうである(③)。そして、視覚を含めたこれらの知覚が急 速に発達するが、やがて視覚からの形象が他の知覚を支配するようになるらしい。. 視覚が他の知覚に比べて有効なのは、その情報処理が能率的に行われるからであろ う。 「一目瞭然」や「百聞は一見にしかず」という諺にもあるように、 「みる」こ. とはその対象の全体像を一瞬にして捉えることができるのである。知覚の中でも視 覚から得る情報量が多いことは、Dondisが次のように述べていることからも分かろ う。. 『 視覚はほとんどエネルギーを要しない。人間の神経系においてその生理. 学的メカニズムは、オートマチックである。この小さな出力から、多様に してかっあらゆる水準の莫大な情報を得ている。』(③p,2). さらに彼が、『人間行動には視覚情報への偏向がある。』 (③p.2)と述べている. ことから視覚のもつ影響力が想像される。末田啓二は、視覚が教育に与える影響を 次のように述べている。. 『 正常な視覚能力を有する児童は、外界認知を通して様々な経験や学習が なされるが、視覚障害児では、視覚による情報入手や自己フィードバック が難しく、視覚を媒介にして形成される多く.の能力、例えば、動作模倣・ 空間認知・概念形成に大きな制約を受ける。』 (⑩p..137). これらのことから、知識を獲得したり物事を理解したりする場合に、視覚からの 情報が重要な役割を果たすことが分かる。算数・数学学習における表現で、視覚と 深く関係するのは、操作的表現と図的表現である。これらの表現は、それを見るこ とによってHershkowiz&Markovitsがいう「視覚的思考」を誘発し、このζとが算 数・数学学習の理解を促進したり、問題を解決したりすることに有効に機能すると 筆者は考える。そこで、「視覚的思考」に関する何人かの見解を基に、筆者として 19.

(21) の捉え方を明確にし、視覚と思考との関係を考えてみたい。. (2)視覚と視覚的思考 視覚から得る情報は、写真のように写るもの(見えるもの)全てが等しく入力さ れるわけではない。また、入力時の情報が点と点の結びつきのように全て関連つい ているわけでもない。それは、与えられた情報から必要とされるものの全体像をま ず把握し、次に、それを構成している要素を適宜取り入れた結果として獲得される のである。Lindsay&Normanの言葉を借りれば、 『あらゆる情報は、首尾一貫した 視覚場面全体の解釈としてまとめられなければならない。』 (⑨p.33)のである。. 視覚の特徴の一つとしてArnheimは、 r視覚は刺激材料の受動的な記録ではなく、精 神の能動的な営みである。』 (⑤p.60)と述べ、視覚からの情報を選択し処理する 過程を『視覚的思考』と呼んでいる(⑤)。Bishop,A. J.は、こうした視覚の情報処. 理過程に、視覚化することを加えたものを「視覚処理能力」とよび、それを次のよ うに定義している。. r 視覚処理能力とは、視覚化することであり、抽象的な関係や秘図的な情 報を視覚的な用語に翻訳することを意味する。それはまた、視覚的な表現. や視覚的なイメージの巧みな操作や変形を含んでいる。』 (⑪p.11). また、Moses,B。は、視覚的思考を「見ること」「イメージすること」「描くこと」. という3っの方略のそれぞれが互いにかかわり合いを持ちながら行う思考の方法で あると捉えている(⑫)。つまり、視覚的思考は、視覚からの情報をより積極的に 念頭で操作する活動であると考えられる。そこで、筆者は本稿において視覚的思考 を以下のように捉える。. 視覚的思考とは、視覚を通して入力される情報に対して積極的に働きかける 思考の方法である。それは、与えられた情報を詳しく見たり、そのイメージを さらに膨らませたりすることにより、はじめの情報からより多くの情報を獲得 したり分析したりすることである。. 例えば、例題2−1を視覚化した図2−1を見たとき1図2−1が情報であり、 つなぎめに注目して「つなぎめの部分が重なっている」という情報を見つけたり、. 図2−1を分析して、「2本の長さをたした長さから12を引いたらよい」「長い 一 20.

(22) ほうの棒の長さllOから、つなぎめの長さ12を引いて、短いぼうの長さ80を たせばよい」などをみつけることが視覚的思考である。. 例題2−1 バドミントンのはねをとるために、長さが110cmのぼうに、80 cmのぼうをつなぎました。つなぎめは1 2 {;rnです。. ぼうの長さは、ぜんたいで何cmになりましたか。. 一. !. ヘ. ?m. 一. C’一一の. 軸. f’. 、、. ノヘ. A. ノノ 、. ノ. 一■. 一. 一. 噛. P2cm 、、\. 、. 、. 、. ,ノ. ノ 鴨110cm_, ’、、一80cm堺’. 図2−L例題1を視覚化した図 また、求積問題として図2−2(a)が情報として与えられたとき、これを見て イメージを膨らませ、図2−2(b)のように変形して考えようとすることも、視 覚的思考である。. (a). (b). N !. ヲ. 一. 一一一一一. j. 図2−2.視覚的思考の十. 一21一.

(23) 前述したように、算数・数学学習で視覚と深く関係する表現は、操作的表現と図 的表現である。しかし、本稿では、BishopやMosesが視覚的思考の重要な要素として 図的に表現すること(視覚化)をあげていることから、視覚的思考の対象を図的表 現に限定して考察を進めることにする。. 第2節 図的表現と視覚 (1) 視覚的思考に果たす図的表現の役割. 視覚的思考の特徴は、視覚を通して得られた豊富な情報を基に、多様な思考が展 開できるということである。図的表現が視覚的思考の有効な道具であるのは、図的 表現が果たす機能によるものであろう。出原らによれば、図的表現には「伝達を目 的とするもの」と、「思考の過程を表すもの」とがある(⑬p.54)。前者の例とし. ては、算数・数学学習の理解を促進するために用いられる完成された図があげられ る。一方、後者は問題解決ゐ過程で用いられる図のことを指すと考えられよう。後 者の図は、問題を解決するという目的のために、考えを整理したり発想を促進した りするなど思考に操作を加える手段として用いられる。出原らは、図的表現を表示 の一つと捉え、思考との関係を次のように捉えている。. 『 表示は、表現以前に頭に浮かぶ何かを代理物として外在化したものであ. る。考えることは、ある事柄に対する代理物を用意すること、いいかえれ ば「考えた」ということは、何らかの代理物が使えたということになろう。』 (@P. 58). 図的表現が視覚的思考に有効な道具となりうるのは、出原らのいう表示としての 機能が働くからであろう。. 図的表現が視覚的思考の有効な手段となりうる他の要因の一つとして、表現内容 を理解する順序の違いがあげられよう。それは、図的表現以外の表現は、部分から 全体へと理解するのに対して、図的表現は全体から部分へと理解される。例えば、. 図2−3にあげた言語的表現と図的表現を比較してみよう。 言語的表現のほうは、書かれた順に文字を追い、先ずB君を基準にしたA君との. 差を読みとる。次に、A君を基準にしてC君との関係を考え、再びA君とB君のと 関係を思い出して3人の関係を把握するというような順で内容が理解されよう。そ れに対して、図的表現は全体像から3人の身長は高い方から順にA,B,Cになって 22.

(24) いるという関係が直観的に把握され、次にそれぞれの差に着目することになる。こ のように、全体像が直観的に捉えられるという図的表現の特徴が、算数・数学学習 においては、その内容を構造的・関係的に捉える補助になり、それが図的表現の有 効性の一因となるのである。. 言語的表現. 図的表現. @B. A君はB君よりも3cm背が高く C君はA君よりも5crn背が低いそ. ン::]::::. E・. うです。C君の身長は153cmで す。B君とC君では、どちらが何. A H ” 一 一. @ ? 一 一 騨. C 一 駒 一 .. 5cm ■ 一 一. crn高いでしょう。また、 A君とB. 君の身長はどれだけでしょう。. 図2−3.言語的表現と図的表現の比較 以上、視覚的思考における図的表現の有効性を述べてきた。しかし、算数・数学 学習においては全てが図的に表現されているわけではなく、一般的には言語的に表 現されているものが多い。そこで、言語的に表現された内容を図的に翻訳する必要 が生じる。本稿では、図的に表現されていないものを、図的に翻訳することを視覚 化と呼ぶことにする。. (2) 算数・数学学習における視覚化の意義. Bishopは視覚化について、 『抽象的な関係や非図的な情報を視覚的な用語に翻訳 すること』(⑪p.11)と述べている。. この考えを、「5は3よりも2大きい」という内容を視覚化した図2−4で考え てみよう。. 図2−4の(A)は、5や3を数として捉え、それらを数直線上の点の位置で表 し、「5は3より2大きい」という抽象的な関係を数直線上で視覚化した図である。 また、 (B)は、5や3を量として捉え、それらの大小関係を線分図で視覚化した 図である。その他、時間を数直線に表すことも同様の例であるといえる。. 一 23.

(25) 「5は3よりも2大きい」. ..一一一. T ..一 . .一. ’. ! (A)一+→.(B)←一一一一一 3. 。. x. 5. ノ. ’プ. 、ヘ. \一3!. ノ. ゴ. 2’. 図2−4.視覚的な用語の例 視覚化の有効性は、数学的概念の理解や問題解決を促進するということだけでは なく、数学的思考力の開発や数学的な美しさを感じさせるというような情意面でも 認められる。数学的概念と問題解決に関しては、後の章で詳しく述べるため、ここ では数学的思考力の開発と情意的な面での視覚化の有効性を具体例を使って説明し よう。. 視覚化が数学的思考力の開発に有効な例として、Ben−Chaimらは、 r視覚化は帰納 法を理解し、追求するための触媒のような働きをする。』 (⑭p.53)と述べている。. 例えば、1から順にn個の奇数の和を求める場合、それを図2−5のように視覚 化することにより、帰納的に答を求めることができる。そして、その結果を「1÷. 3+5+…. +(2n−1)=n2」と一般化して表すことができることが分かる。. また、偶数の場合には、図2−6のように長方形に置き換えることにより、「2+. 4+6+…. +2n==n(n+1)」となることが理解できる。. e e e e e e e e. e e e e e. :i鏑: e e e e e e e e e e e e e. 図2−5.奇数の和を表す図. e e e e. e e e e e. 図2−6.偶数の和を表す図. 一24一.

(26) また、視覚化が演繹的な考え方を促進することは、例題2−2で説明できる。. 例題2−2 4人がリレーのチームをつくります。4人が走る順番は全部で何 とおりできますか。. この問題を樹形図(図2−7)に表すことにより、その答えが4×3×2×1− 24となることがわかり、一般にn個の中からn個を取り出す順列(nPn)が、 n(n一一1) (n−2)… 1=n!となることを演繹的に理解する素地となる。 また、樹形図はおちゃ重なりがなく、明解さと合理性を備えた整然とした美しさ を持つ表現である。このような図的表現の情意的意義についてBen−Chaimらは、. 『 美しさの認識は、しばしば数学の概念を視覚化することによってもたらされる。 絵図は、優雅さや能率や驚きを示す可能性を持つ。』 (⑭p.52)と述べている。. C−D B〈 A. D−C B−D , c〈B:g B−C D〈 C−B. C−A B〈. A−D B〈. C−D A〈. D−C A−D C〈 D−A A−c. C. D−A B−D A〈Blg B−A D〈. D〈. A−B. C−A. D. A−C B−A c〈Ila B−C A〈 C−B. 図2−7.樹形図 以上のことから、視覚化は算数・数学学習において、認知的にも情意的にも有効 であることが分かる。さらに、視覚化の有効性は記憶にも見られる。次節では、視 覚化と記憶の関係について述べてみたい。. ’25.

(27) 第3節 視覚化と記憶 視覚化は、抽象的な算数・数学の内容や、言語表現された問題を2次元の空間へ、 点・線・面によるパターンで構造的・関係的 に表したものである。Brunerは、細かな部分 を構造化された全体のパターンの中に位置づ 田0. けることが効果的な教育の要素であると述べ ているが、このことは、まさに視覚が直観的. 8C. に全体を捉え、それから部分を捉えるという 視覚的思考の特徴を述べたものである。こう. 向言藁と図の{禰. 記60. 讐. したパターンによる表現は記憶と直接結びつ き、直観による想像を喚起しやすいことが知. 讐 崖、。. 貧. られている(⑬,⑮)。我々の記憶過程に パターンによる構造的な結合(パターンの. 当. 図だけの説明. 20. 」. 1言葉だけの説明. テヤンク化)が行われていることを実証した. のは、De Grootである。彼は、チェス局面 の記憶をチェスの名人と初心者とで比較した。. o. o 20 40 60 go leo t2e 説明をきいてからの経過時間(時間). その結果、競技中の局面であれば両者に差 異は認められるが、でたらめにおかれた駒で. 図2−8.言葉、図、両者の併. は差がみられなかった。これは、名人はチェ. 用に関する記憶情報量の比較. スの知識を利用してパターンの記憶率をあげ たことを示している。. 図2−8は、同じ内容の事柄を「言葉のみ」「図のみ」「言葉と図の併用」 で説明し、その理解と知識の保持を表したものである(⑬p.165)。曲線がな. だらかになる3日目あたりを見ると、「言葉と図の併用」は、「言葉だけ」 に比べて約6.5倍、’・、「図だけ」と「言葉だけ」を比べると約2倍の差があるこ. とが分かる。この結果からも明らかなように、図的表現と言語的表現を合わ せることにより、理解した内容の保持が向上する。 以上のことから、記憶における図的表現の有効性が明らかになった。次章 では、図的表現の特徴について検討する。. 一26一.

(28) 第. 3. 土 早. 算数・数学学習における 図的表現の役割. 第1節 図的表現の意義 (1) 図的表現の分類. 第1章で述べたように、算数・数学学習において図的表現は、学習の様々な場面 で用いられ、その種類も多種多様である。ここでは、算数・数学学習で用いられて いる図的表現をいくつかの視点から分類し、その役割を考察する。 ’算数・数学学習で用いられる図には、図そのものが直接学習の対象になっている. ものと、学習内容の理解を補助したり促進したりするために用いられるものとに大 別できる。前者の例は、立体の学習で用いられる円柱や角錐の見取り図、求積(図. 3−1)や証明(図3−2)等の問蓮の中に見られる図である。. 一ドの図で、△ABCと. 下の図の平行四辺形で、. 色をぬったところの面積を. △BDEは正三角形である。. 求めなさい。白いところは、. このとき、AとD、 Cと. まわりの辺に平行になって. Eを結ぶと、AD=CEで. います。. あることを証明せよ。. .一一’ 15m’一一一. C i2’im. 2. 2m. ノ.∬. 図3−1.求積問題の図. e−. 噤i. B X.E. D. 図3−2.証明問題の図. 一27一.

(29) これらの図は、図そのものが学習対象であるため、学習に欠くことのできない図 であり、しかも、図の表現を自由に変更することのできない限定された図である。 一方、後者の図は、学習に必ずしも必要とされる図というわけではない。しかし、. 算数・数学学習において、後者の図は、それを与える方法や場面、また、より効果 的な表現方法が検討されるなど、教師や子供の創意工夫が生かされる図である。そ して、これらの図の検討は、数学教育学固有の課題であるという指摘もされている (②)。本章における図題表現とは、後者の図をさすことにする。. 中原は、算数・数学学習で用いられる図的表現を、その図が表す対象に着目して、 表3−1のよ・うに分類している(②p,44)。中原によるこの分類は、学習指導過程. における図引表現の目的を明確に位置づけるものであると思われる。ここでは中原 の分類に従い、各々の図が果たす役割について述べてみたい。. 表3−1.中原による図的表現の分類 情景図・・…. 現実的情景、状況を表す図. 場面図・・…. 算数・数学的場面を表す図. 手続き図・…. 操作や計算などの手続きを表す図. 構造図・・…. 場面や問題などの構造を表す図. 概念図・・…. 算数・数学の概念を表す図. 法則・関係図・・算数・数学の法則、関係を表す図. 情景図と場面図は、いずれも現実的な状況や場面を表した図であり、子供にとっ. ては容易に解釈できる親しみのある図である。図3−3は、高山市から北アルプス 方面へ旅行に行き、高度と気温について話をしているという情景を表した図である。. また、図3−4はスライドを使って、2っの地図が相似の位置にあるという数学的 場面を表した図である。. 轟. 図. 心筥の頂上に行けば, ,rr. かなりすずしくなるよ。 、. ’. 1 /. 二野韓灘. 1. r ’. f. // 高松. 1. 1. ?i. 党前軍,. _⊥」≦ 1. 光源e“J. mny− s[ 図3−3.情景図. 図3−4.場面図 28. iI }. F. 〆.

(30) 情景図と場面図が、共に具体的な表現であるのに対して、手続き図には、具体的. な表現から抽象的な表現まで、その抽象度には差が認められる。図3−5は、35 −12の計算を筆算で行う手順を表した図である。この図は、操作をかなり具体的 に表現しているため、抽象度はそれほど高くない。この図は、第1章で述べた記号 的表現と操作的表現とを結び付ける図であるともいえよう。. 一方・図・一6は・昔・号という分数のかけ算の計算方法について・その蘇を 説明した図である。これは、被乗数と乗数を面積と数直線で表した図であり、抽象. 度はかなり高いと思われる。 一のくらい. ’. 1 I. 腫l. o. t■. :. ・… 一十一一・一・. 畷ll蕾1華. :. ::::::i::::::. :一一一一一一, 一. , _鼠.,コ. “ T3. ’。H ,,. 3. T. 図3−6.計算:方法を. 図3−5.整数のひき算の手続きを表した図. 説明する図. 構造図も手続き図と同様に、抽象度の異なる表現が考えられる。図3−7と図3 −8は、例題3−1にみられる分離量の部分と全体の関係を構造的に表した図的表 現である。. 例題3−1 赤と青のふうせんが、15こあります。その うち赤いふう.せんは、6こです。. 青いふうせんは、なんこでしょうか。. /〈壬「∼. ,15こ一__. t. /. x. 鯉轡鴇) u.x.L “/. 3−7.具体性の強い構造図. 一29一. \\. tt ’N. t ’ ノ. 〆. ’赤6ご. x. \. 1 /. \青[」こ’. 図3−8.抽象度の高い構造図.

(31) 図3−7は、問題場面の風船をそのまま図示し、しかも、風船の数を実際に図で 表現しているなど、かなり具体的な図である。一方、図3−8は、風船を直線で表 し、その数を線分の長さで表した抽象的な図である。. 図3−9は、倍概念(小数倍を含む)を表した概念図であり、図3−10は、数 の拡張関係を表した法則・関係図である。これらの図は、抽象的な数学的概念を視 覚化し、子供の理解を促進することを意図したものである。したがって、表現され る概念の難しさや、学習者である子供の理解度を配慮することが、他の図的表現以 上に求められる図である。 有理数. O−1 @2 3(re) レ6m\1. 1 1 3. : ll. 2・ 3・ 1・ ”’. ㊨[==動 i ii. 整数. I ’”“’12mL一一.+ 1 : :. ・・. ◎裁簾. 欝離鰻. 一 Vl}一,. =ir’. C 一3, 一2,. 一1, O. i ....一一一’{’15・6 m 一一.÷... .=. 無理数. rrt. 自然数. ◎塵下野睡麹翻l. 1; 2, 3, ・一. l,..一一一セー「8m・一十一一一一....i. ⑳薩璽盤二二二 図3−10.法則・関係図. 戸3−9.概念図. 中原はまた、情景図と場面図は実物を用いて表現するのと同じ効果があると考え、. 両者は現実的表現の代理として用いられる図であるとし、これらを「代理的図的表. 現」と呼んでいる。一方、残りの4っの図は、算数・数学学習において中核的な役 割を演じるという意味で、これらの図を「中核的弓的表現」と呼んでいる。後者の 図のほとんどは数学教育固有のものであり、表現方法を工夫することにより、その 機能がより向上することが期待できる。中原は、さらに後者の図的表現を、学習指 導における役割の違いから方法図(手続き図,構造図)と内容図(概念図,法則・関 係図)に分類している(②p.47)。. 表3−2.中原による図的表現の類型. o膿. 代理的図的表現. 一{綴1叢論 30.

(32) 「代理的図的表現」 (情景図,場面図)は、学習の導入段階で現実的な状況と. 学習内容とを結びつける目的で提示される。しかし、この図の目的は、単に 学習の動機づけとして、子供に興味・関心をもたせるということだけではない。. 学習しようとする内容を象徴的に表す目的も備えた図であることが要求されよ. う。例えば、図3−4は、方眼の大きさや光源から伸びた直線からこれから学 習する内容のイメージを捉えさせようとする図であるといえよう。. 方法図のなかの手続き図の目的は、計算の手続きや、計算方法の理由を説明 することである。図3−5は、整数の引き算についての手続きを図的に表現し、. 図3−6は、分数のかけ算は、分母どうし分子どうしをそれぞれかければよい という計算方法の理由を図によって説明している。算数・数学学習においては、. 1章で述べたように、学習内容を多様な方法で表現し、それぞれの表現間での 翻訳がうまくなされることにより、学習内容の理解が促進される。図3−5は、. 記号的表現と操作的表現とを結びつける翻訳としての役割も同時に果たしてい. る。図3−6は、機械的な計算の手順だけを知るのではなく、その理由も同様 に知ることが、計算方法を理解することであるという考えに立脚した図である。. このように、手続き図は、抽象的な表現である数字と記号だけの操作を、野卑 に表現することにより、手続きやその意味を具体的に説明し、理解を深めよう とする図的表現であるといえよう。. 方法図の中の構造図を用いる目的は、風脚に表現することにより、視覚的思 考が誘発され、悶題を解決するための糸口や方法の発見を容易にすることにあ る。構造図は、具体的な現実的場面や状況を、記号的表現に翻訳する過程で用 いられる。具体的な現実的場面や状況を図的に表現することは、即題解決に不 必要な要素を捨象し、問題の算数・数学的な構造を明確にする。そして、表現 された図をみることによって誘発される視覚的思考により、立式から解答へと. 子供を導くことを期待した図的表現である。 内容図は、抽象的な算数・数学の内容の理解を促進するために活用される。. 図3−9は、整数や小数のかけ算の概念を理解させることを目的とした図であ. り、図3−10は、数の拡張関係を表現した図である。各々の図はともに、抽 象的な算数・数学の内容を、図によって視覚的に表現することで具体化させ、 その内容を理解させるための補助として用いられる。. 一 31.

(33) (2) 図的表現の役割 中原の分類をもとに、図的表現の目的について述べてきた。情景図、場面図、手 続き図の一部は、共に抽象的な算数・数学の内容と、現実的な場面や具体的操作活 動とを結ぶ働きをしているといえよう。また、手続き図、構造図、概念図、法則・ 関係図は、算数・数学の内容を視覚化する働きをもっといえる。前者の図にみられ るような、異なる表現間の翻訳に関する役割は第1章で述べたので、本章では、後 者の図にみられる視覚化の役割について述べることにする。 視覚化についてBen−Chairnらは、以下のように述べている。. 『 視覚化は、思考の様式を具体的なものから抽象的なものへと移行させる ための多くの過程で主要な役割を果たす(⑭p.50)。』. この指摘は、抽象的な算数・数学の内容を、そのままの状態で理解することは困 難であるので、その内容を具体的な日常場面にみられる事象と関連づけ、思考を具 体から抽象へと移行させる過程において、図的表現が重要な役割を果たすことを述. べたものである。既に述べたように、このような役割は6種類のどの図にも見られ る。. しかし、算数・数学学習において用いられる図は、それをただながめているだけ では意味をなさない。視覚化された図を見ることにより、新たな情報を得、それら を念頭で操作する視覚的思考が働いてこそ、図的表現としての役割が果たせるので ある。第2章でも述べたように、図的表現と視覚的思考は密接なつながりをもって いる。Bishopは、視覚化と視覚的思考は切り離せないものであるとし、第2章で引 用したように両者を統合して、それを「視覚処理能力」と呼んでいる。. 6種類のどの図的表現においても、図から得られるイメージや情報の利用が学習 展開や学習内容の理解を促進するための重要な要素となっており、このような視覚 的思考の働きが図的表現に求められていることがうかがえる。. これらのことから、算数・数学学習における図的表現の役割は、次の2点にある と考える。. ・具体と抽象の媒介になる ・視覚的思考を誘発する. 次節では、これらのことについて、具体例をあげて考察する。. 一32一.

(34) 第2節 具体と抽象の媒介としての図の役割 (1) 概念形成における図的表現の役割 算数・数学の内容が抽象的であることが、その学習を困難にしていることはよく 知られている。ここでは、Skemp, R, R,の概念形成に関する見解を基に、算数・数学. 的概念について述べる。. 「A」というある概念を獲得するということは、Aに関する様々な経験を通した結 果、それらの経験全てを含むものを「へ」として認めることである。. Skempは、概念形成にいたる過程は事物を抽象化する思考であると述べ、概念を 「1次的概念」と「2次的概念」とに分け、それぞれの違いを指摘している(⑯)。. 知覚から直接獲得される「1次的概念」は、いくつかの具体物を抽象化したもので あるため、獲得は比較的容易である。しかし、「2次的概念」は、抽象化された概 念をさらに抽象化したものであるため、その獲得には困難を伴う。. 例えば、「1匹の犬」「1本の花」などの、物理的な対象から「いち(1)」と いう概念が得られる。これは、「1次的概念」である。同様にして「に(2)、さ ん(3)、… 」等の概念が獲得される。これらはいずれも、知覚によって認め られる概念である。次に、これらの数を集合として捉え、その集合を「2で割り切. れるか否か」という観点で分類することにより、「いち(1)」「に(2)」が 「奇数」「偶数」という新たな集合に属することを知る。 「奇数」「偶数」等の概. 念は、「1次的概念」の理解を基にして、それらを抽象化した概念であり、このよ うな概念を「2次的概念」という。 「奇数」 「偶数」に限らず、数学的概念の多く. は、 「2次的概念」であり、算数・数学学習は、こうした高度な抽象的概念の学習 から成り立っている。従って、その理解は、かなりの困難を伴うといえる。 数学的概念の獲得について、 「奇数」の概念を例に説明しよう。 「奇数」の概念. が獲得されたと判断する一つの根拠は、性質を表す「内包」を理解し、 「外延」で. ある範例があげられることであろう。つまり、外延として「1,3,5,…. 」等の. 数があげられ、内包として「2で割ると1あまる整数」 「2n+1」が共に知識と して獲得されることである。. 概念に関する知識の中にも、具体的なものと抽象的なものとがある。外延は具体 例をあげることであり、奇数の場合は数自体になじみがあるため、理解は容易であ る。しかし、内包は、数学的な表現であり、しかも抽象的な内容であるため、その ままの状態で理解し活用することは困難である。そこで、内包を具体化することに より、その理解を補助する指導上の工夫が必要となる。その役割を果たすのが図で あろう。. 33.

(35) 視覚化することにより、奇数の概念の内包を具体的なイメージとして捉えさせる. 図の例としては、図3−11があげられよう。この図は、具体としての外延、抽象 としての内包との媒介となる。また、この図を用いることにより「奇数」+「奇数」. 一「偶数」となることがわかり、さらに、図3−12と合わせることにより、「奇 数」+「偶数」=「奇数」であることへと発展でき、 「奇数」に関する性質にまで 発展できる図的表現である。. 図3−11.奇数の概念の. 図3−12。偶数の概念の. 内包を表す図. 内包を表す図. 次に、具体的な場面から、抽象的な「かけ算」の概念を理解させる例について説 明しよう。. 例題3−2は、子供の生活経験に密着した問題設定であるため、具体的であると いえよう。. 例題3−2 みかんが、1ふくろに5こづつはいっている。 7ふくろでは、ぜんぶでなんこになりますか。 この例題を、整数のかけ算の概念「(同じ数)×(いくつ分)」に抽象化するた. めの媒介となる図的表現の1例として、図3−13があげられよう。 5×7(個) 個数. o o o o o. o o o o o. o o o o o. o o o o o. o o o O o. o o o o o. o o o o o. 袋の数. 7(袋) 図3−13.かけ算:の概念を理解させるために用いられる図的表現. 34 一.

(36) (2) 法則・関係を理解させるための図的表現の役割 数学的概念が、抽象的であるために理解に困難が伴うことは前述の通りである。. その抽象的な数学的概念から導かれる法則・関係が、それ以上に抽象的であること はいうまでもないことである。したがって、法則・関係の理解においても、その内 容をより具体に近づけるために、図的表現が果たす役割は大きいといえよう。この ことについても、かけ算を例に説明しよう。. かけ算の概念を理解させるために用いられた図的表現(図3−13)は、その後、 より抽象的な寸寸表現へと移行していく。そこで用いられる代表的な図的表現とし て「・アレイ図」があげられよう。かけ算九九が「アレイ図」によって構成されてい く過程は、かなり一般的な指導過程である。かけ算九九の構成で用いられるアレイ 図は、前節の分類では「手続き図」となろう。. 乗法の学習において用いられる「アレイ図」は、乗法に関して成り立つ性質の理. 解を促進するためにも有効である。図3−14の(a)図は、「8×12」と解釈す ることができるし、 「12×8」と解釈することもできる。また、同じ図を、(b). 図のように表すことにより、「8×5+8×7」と解釈できる。こうした図の解釈 は、 「交換法則」と「分配法則」の理解を促進させるであろう。. (a). (b). oooooooooooo oooooooooooo oooooooooooo oooooooooooo oooooooooooo oooooooooooo oooooooooooo oooooooooooo. ooooo ooooo ooooo ooooo ooooo ooooo ooooo ooooo. ooooooo ooooooo ooooooo ooooooo ooooooo ooooooo ooooooo ooooooo. 図3−14.乗法の性質を理解させる図的表現. 一 35.

参照

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