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図3−15.子供が描いた図の例

(2) 視覚化の意義

 図的表現の有効性についてVan Essen&Hamakerは以下の4点をあげている(⑦)。

 ①作業記憶を軽減する

 ②表現することにより、具体的モデルが与えられる  ③関連情報を与えることを容易にする

 ④問題の特質をはっきりさせる

 Larkinらも彼らと同様の指摘をし、図的表現は、子供が問題を解決するために必 要な推論を極めて容易に促進させることを述べている(⑲)。例えば、次の問題に ついて考えてみよう。

例題3−5

 弟が、2km離れた駅に向かって家を出てから10分たって、兄が自転車で 同じ道を追いかけました。弟の歩く速さは毎分80m、兄の自転車の速さは 毎分240mであるとすると、兄は出発後何分で弟に追いつくでしょうか。

一 39

 例題3−5を図に表現すると図3−16のようになろう。

 Van Essen&Hamakerの指摘をこの図で検証してみると以下のことがいえよう。

①文中に書かれた情報が全て図に表されているため、道のりや速さなどの条件を  覚えておく必要がなく、作業記憶が軽減される。

②図が、問題の状況を具体的にモデル化している。

③図を見ることにより、兄が出発するまでに弟は80×10(m)だけ進んで

 いるという関連した情報が獲得される。

④兄が出発後x分で、弟に追いつくとすると、弟は80(10+x)mの道のり

 を進んだことになるというこの問題の本質:が明らかになる。

弟_ 〔毎分80m〕

  『一一一x一一一一一一10分間一一.ut 一t一〆

   〔毎分240m〕

 X一一一一一_X分間一r

\,r分問/

図3−16.例題3−5の図的表現

 視覚化の有効性に関して、彼らの指摘に加えて、筆者は、 「解釈の困難度を下げ る」ということを加えたい。

 算数・数学学習において、問題は一般的には言語表現で提示される。算数学習に おいては、問題の内容は、そのほとんどが子供にとって日常的な場面や状況である ため、これは具体的であると考えられる。そして、それを抽象的な記号的表現(立 式)に翻訳し、そこから解答を導くことが、問題解決である。しかし、提示された 問題の内容や子供の実態によっては、具体的である問題が、必ずしもそのままの表 現では容易に解釈(れない場合がある。そこで、問題の解釈の困難度を下げるため に、言語表現を図的表現に変換することが行われる。

 第1章でも述べたように、言語表現と図的表現の違いの一つとして、表現や解釈 の自由度の違いがあげられよう。言語表現には文法というルールがあり、そのルー ルに従った表現や解釈がなされなければならない。しかし、図的表現には言語表現 ほど厳密なルールがなく、本来、個人の感覚が重視されるものであるため、その表 現方法や解釈にはかなりの自由が認められる。

 例題3−6は、逆思考の問題であるため、子供にとっては3要素の関係を捉えに くい問題である。

一 40 一

例題3−6

 たまごが何こかありました。6こつかったら、

した。

 はじめにたまごは何こありましたか。

18このこりま

 しかし例題3−6を図的に表現することはそれほど難しいことではない。たまご を○で表し、個数を忠実に図に表すことは、低学年の子供にとっても容易なことで ある。また、たまごやその数の表現方法は、子供個人の自由であり、決められたル ールはない。使ったたまごを○、残っているたまごを○で表し、それぞれの個数を

○と○の中に書き込むといった表現も考えられる。

 図3−17は、たまごと個数を線分とその長さで表したものである。このように 問題の内容を図的に表すことにより、事実の数量的な把握が容易になる。さらに、

図3−17から、求めるべき数量である「初めのこ数」は、「使ったこ数」と「残 りのこ数」の和で表されることが分かり、6+18==24と計算できる。つまり、

具体的な場面であっても、それが規約性をもつ言語表現で表されているために解釈 に困難のある文章題の場合、図的表現は問題の解釈の困難度を下げる働きをすると いえるのである。

 また、図3−17は、このような事実の数量が分かるだけではなく、「初めのこ 数」と「使ったこ数」「残りのこ数」が、全体量と部分量になっているという「部 分一全体」関係の構造的な理解へと導くことができる。つまり、「初めのこ数」を

a、「使ったこ数」をb、「残りのこ数」を。とすると、これらの数量には、 a

=b+c の関係が成り立ち、そのうちの2量が分かれば残りの1量が求められる ことが分かる。

 さらには、場面や握示された数量が違っていても、図3−18のような図的表現 が可能であり、図の同一性より、これらの問題が全て「部分一全体」関係の問題で あるとして統合できる。さらには、ひき算の場合にも同じ図が描けることから、図 3−18を媒介にして、たし算とひき算を「部分一全体」関係として統合すること もできる。線分図のもっこうした有効性が、その抽象性に起因することは説明を要 しないであろう。

ヘじめ□こ・・一一一.一

NNN

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、、         、、       

恥つかった6こ       ノ㍉一・ 一のこり18こノ t

    ,卿r−a 一一、

   ,        

 ノ       ノ       

へ       ら       ノ  、           亀         ,          げ         

  鴨b〆    、、覧。

図3−17.例題3−7を表現した図 図3一18.部分一全体関係を

     表す線分図

一 41

第 4

図画表現の限界と指導上の留意点

第1節 図的表現の特徴にみられる限界

(1) 固定されるという限界

 教師が、数学的概念の理解を補助・促進するために質的表現を用いる場合、その 図は、ある概念の内容を一般的に表していることはまれであり、その特殊な事例を 視覚化している場合が多い。しかし、子供の認識においては、示された図は唯一絶 対的なものであり、そこから一般的な概念を形成しようとし、時には不適切な概念 形成に至ることがある。こうした現象は、一度かかれた図は動かないという図の特 徴によるものである。

 Presmeg,N. C.は、こうした図の特徴から生じる限界を以下のように述べている。

『・一つの場面での具体化は、思考を無関係な詳細に結び付けるかも知れな  い。または、間違った資料を取り込むことになるかも知れない

 ・標準的な図についてのイメージは、概念の認識を妨げる柔軟でない思考  を導くかも知れない。』 (⑳p,307)

 これらのことについて、第3章で述べた奇数と偶数の概念の内包を視覚化した図

を例に説明しよう。図3−11と図3−1 2のような2種類の図が、同時に与えら

れたとしよう。この図を見た子供の中には、 「四角形が並んでいる」 「長方形を区 切っている」など、学習内容の本質とは無関係な事柄に注目したり、「奇数は偶数

よりもいつも1小さい数である」というような間違った理解をするかもしれない。

 また、よく知られた例ではあるが、「三角形 の高さ」について学習するとき、「頂点から対 辺へ引いた垂線の長さ」を表す図の例として、

図4−1が示されたとしよう。

 この図を見た子供の中には、三角形の高さに ついて、「1本しかない」「いつも三角形のな

かにある」「まっすぐに降りている」などの間 図4−1.三角形の高さを表す図

一 42

違った認識を持つかもしれない。従って、三角形の高さについての理解を促進する ために、図4−1を用いたとしても、必ずしもそれが指導者の意図するような形で 理解されない場合がある。

(2) 規約性を持たないことによる限界

 問題解決においては、規約性を持たないという図的表現の特徴が子供の視覚化を 容易にし、有効な方略として機能することを第3章で述べた。ところが、視覚化し た後その図から視覚的思考が誘発されなければ、それは有効な方略とはなり得ない

ということもまた、認めなければならない。

 視覚的思考は、ただ図をながめているだけで誘発されるものではなく、図から関 係を読みとろうとしたり、図に表されている情報を操作しようとしたりする意識が 働かなければできないのである,,これは、算数・数学学習において用いられる図的 表現には、ある程度の規約性が期待されることにほかならない。算数・数学学習で 用いられる図的表現にっし>て崎谷眞也は、次のように述べている。

r「図をかく」とは、数学的命題及び命題間の関係を図に表現することであ り、 「図を見て考える」とは、図に表現された命題を操作し、解決に必要 な関係を図から読みとることである。』 (⑳p.53)

 算数・数学学習で用いられる図的表現が、暗黙のうちに規約性をもっことは、問 題解決以外の図においても同様である。このことを次の例で説明しよう。

a   b

@      \

c\  d

(T,

 図4−2.(a+b)×

(c+d)の展開を理解する図

図4−3.集合の包摂関係を示す図

一43一

(a+b)×(c+d)という式を展開すると、ac+bc+ad+bdとなるこ

とを理解す;るための図として、図4−2がある。この図が式の展開を表す図として 解釈されるためには、四角形が長方形であるということが前提条件として理解され ていなくてはならない。また、図4−3は、A、 B、 Cのそれぞれが異なる3種類 の集合ではなく、CはAとBの共通部分として存在する集合であることを理解する 必要がある。

第2節 Presmegの研究における図的表現の限界

(1) 内的要因

 Presmegは、数学的な到達度の高い高校生はあまり視覚化しないという見解につい て、その是非を問う調査研究を行った。彼女は、視覚型の人と非視覚型の人を次の ように定義し、数学の到達度との関係を調べた(⑳)。

  Presmegによる視覚型の人と非視覚型の人の定義

・視覚型の人とは、視覚的な方法や、非視覚的な方法の使用の両方によって解 けるかも知れない数学的な問題を解こうとしている時、視覚的な方法を好む 人である。

・非視覚的な人とは、こうした問題を解こうとしている時、視覚的な方法をあ  まり好まない人である。

 調査は、1985年に12年生277名を対象として、観察とインタビューを行うことによ り実施された。選ばれた277名は、13名の教師が数学的な到達度が高いと判断した生 徒であった。教師は生徒全員をPresmegの定義に従って、視覚型であるか非視覚型で

あるか報告した。全生徒の中で、視覚型の生徒は全体の5分の1以下であった。ま た、到達度が際だって高いと評価された7名は、全て非視覚型であった。これらの

7名に次いで達成度の高い生徒として27名があげられたが、視覚型の生徒はその中 の5名で、18名は非視覚型の生徒であった。

 Presmθgはこの調査において、教師に視覚型の生徒として分けられている生徒であ っても、問題を解くときに視覚化しないという実態に直面した。そのときのインタ ビューで、生徒は視覚化しない理由について次のように述べている。

一 44 一一

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