田中正造における政治と宗教
著者
佐藤 裕史
号
28
発行年
1995
学 位 の 種 類
学 位 記 番 号
学位授与年月 日
学位授与 の要件
研 究 科 ・専 攻
学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員
さ と う ゆ う し佐
藤
裕
史
博
士(法
学)
法 博 第28号
平成8年3月26日
学位規則第4条 第1項 該 当
東北大学大学院法学研究科
(博士課程後期3年 の課程)政 治学専攻
田中正造 における政治 と宗教
(主査)
教
授
関
口
榮
一
教
授
柳
父
囲
近
論
文
内 容
の 要
旨
田 中 正 造 論 の 中 心 的 論 点 の 一 っ は 木 下 尚 江 以 来 く 政 治 と宗 教 〉 で あ っ た が、 政 治 か ら宗 教 へ の 転 換 を 認 め る に せ よ否 定 す る に せ よ 、 そ の思 想 の変 化 に着 目 し、 後 半 生 に思 想 的 意 義 を 見 出 す の が これ ま で の 通 例 で あ った 。 本 論 文 は従 来 問 題 と さ れ る こ と の少 な か っ た 田 中 に お け る 政 治 と 宗 教 の 内 面 的 関 連 に 着 目 し、 そ の 思 想 の一 貫 性 、 全 体 像 を 明 らか に しよ う とす る試 み で あ る。 問 題 の 焦 点 は 政 治 と宗 教 の 内面 的 結 合 環 と して の 〈憲 法 〉 の観 念 で あ り、 そ れ は理 念 と して の 憲 法 と 実 定 大 日本 帝 国 憲 法 と を相 即 的 に把 え る特 徴 を もつ(序 一 問 題 の 設 定)。 田 中 の 政 治 思 想 の 原 像 は 、 儒 教 的 観 念 に よ る政 治 理 解 、 〈富 国 強 兵 〉 の た め の 国 民 統 合 の 場 と して の 立 憲 制 観 、 そ の 背 後 に あ る ナ シ ョナ リズ ム と 〈一 君 万 民 〉 の く国 体 〉 観 等 に お い て 多 くの 民 権 派 と共 通 す る。 政 党 は、 そ こで 憲 法 の 理 念 た る 〈一 君 万 民 〉 の 担 い手 あ る い は 〈一 君 万 民 〉 そ れ 自体 で あ る 〈一 国 ノ政 党 〉 と して 、表 象 さ れ る。 そ こ に は 〈一 君 万 民 〉 を 阻 害 す る藩 閥 、 党 派 抗 争 を こ と とす る政 党 へ の 批 判 が と も に込 め られ て い るが 、 現 実 の 田 中 の 行 動 は党 派 抗 争 へ の 積 極 的 参 加 に 終 始 す る(第 一 章 政 党 政 治 家 と して の 田 中正 造)。 田 中 が 鉱 毒 問 題 へ の 干 与 を 深 め る こ ろ政 党 は 権 力 の 分 担 者 た る地 位 を 固 め っ っ あ っ た が 、 政 党 は結 局 問 題 を解 決 しえ ず 、 田 中 は急 速 に政 党 不 信 に 傾 く。 田 中 は鉱 毒 を憲 法 の 定 め る権 利 の侵 害 、 〈憲 法 問 題 〉 と把 え た が 、 反 面 問 題 を 日本 近 代 化 の 文 脈 の 中 に据 え る視 点 に欠 け た。 こ の 点 、 鉱 毒 問 題 に対 す る同 時 代 の 思 想 家 た ち の 態 度 と の対 照 は、 近 代 化 と政 治 体 制 の 構 想 を め ぐ る く自 由 一40一主 義 〉 と 〈民 主 主 義 〉 の 交 錯 と い う興 味 あ る論 点 を提 示 す る(第 二 章 憲 法 問 題 と して の 足 尾 鉱 毒 事 件)。 田 中 の思 想 に お い て は運 動 の論 理 が 宗 教 に連 動 す る特 徴 が あ る。 宗 教 思 想 の 展 開 軸 と い え る 〈地 勢 〉 の 観 念 は、 〈人 工 〉 的 鉱 毒 予 防 工 事 の 無 効 を う らづ け る地 理 学 的 観 念 で あ る と 同 時 に 儒 教 的 な 〈道 〉 、 〈理 〉 そ の もの で あ り、 そ れ を媒 介 と して、 〈実 践 倫 理 〉 と して キ リス ト教 は受 容 さ れ る。 そ れ は 明 治 キ リス ト教 一 般 の 性 格 で も あ るが 、 これ に よ って 、 人 は 〈道 〉 、 〈理 〉 を 媒 介 と して神 に連 続 し、 神 の 超 越 性 は失 わ れ る。 谷 中 廃 村 に 向 か う 中、 〈天 〉 、 〈地 勢 〉 の 引 照 に よ り 〈法 律 が 堤 防 を破 る 〉 こ と を 批 判 しっ っ 、 田 中 は反 政 治 的 な 〈自 然 〉 の世 界 に 傾 斜 す る が 、 〈作 為 〉 と して 否 定 さ れ る法 律 に対 して憲 法 は 〈天 〉 、 〈自然 〉 に同 定 さ れ 、 憲 法 を 媒 介 と して 政 治 と宗 教 は 連 関 し、 田 中 は 政 治 の 世 界 に っ ね に還 流 す る。 こ の よ う な 田 中 の 思 想 の特 質 は、 鉱 毒 事 件 を通 じて 田 中 と接 触 しや が て分 岐 した思 想 家 た ち と の 対 比 に よ っ て さ ら に 明 らか に な る (第 三 章 政 治 と宗 教)。 田 中 の生 涯 は終 始 一 貫 して 〈憲 法 〉 、 〈一 国 ノ政 党 〉 の実 現 に 捧 げ られ た 。 晩 年 の 田 中 に は 憲 法 批 判 の言 辞 が あ る が 、 憲 法 と く広 キ 憲 法 〉 と は 〈精 神 〉 にお い て 依 然 通 底 し、 〈精 神 〉 と 運 用 の 重 視 に よ っ て 田 中 は憲 法 に 回 帰 した 。 ま た 天 皇 批 判 を 思 わ せ る言 辞 も実 は天 皇 の 名 に お い て 権 力 を 行 使 す る者 へ の批 判 で あ り、 〈一 君 万 民 〉 の く国 体 〉 は憲 法 実 施 に よ り 復 活 さ れ る べ き 目 標 で あ った(結 論)。