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わいせつ表現と芸術活動

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Academic year: 2021

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わいせつ表現と芸術活動

 

 

 

一   問題提起 二   刑法一七五条による刑事規制 (一)保護法益 (二)わいせつ性の判断 三   刑法三五条による正当業務行為としての正当化 (一)丸正事件 (二)外務省機密漏えい事件 四   具体的事例に対する判断 (一)わいせつ性の判断について (二)手段の相当性(刑法三五条)

 

問題提起

女性器をかたどった造 形 や女性器ないし男性器そのものを描く絵画が芸術活動により生み出され、表現され、人の目 の触れるところに置かれまた配布・販売等されるとき、モチーフが女性器ないし男性器であること自体から例外なくわ いせつ表現とみなされて刑法一七五 条 による刑事規制の対象とされざるをえない か 。

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刑法一七五条による刑事規制

︵一︶保護法益 刑法一七五条がわいせつ表現を規制しようとしている趣旨は、最高裁判例によれば﹁普通人の正常な性的羞恥心﹂や ﹁ 善 良 な 性 的 道 義 観 念 ﹂ を 保 護 す る こ と に あ る 。 確 か に こ れ ら が な け れ ば 無 秩 序 な 性 的 表 現 が 巷 に あ ふ れ、 猥 雑 な 生 活 空間が生じるおそれがないとはいえない。無論刑事規制が及ばなくても文化的な良心の働きによって自浄作用が生じ、 健全な風俗が栄華を誇ることも期待できないわけではないが、本能的欲求とも結びつく点で好色的な表現に自制を求め ることが必ずしも容易でないことも想像するに難くない。従って本条の規制が世論一般の支持を失い、憲法上保障され る表現の自由の前にただ後退すべきものと考えるのは困難であろ う 。 ︵二︶わいせつ性の判断 わいせつとは、という問いに対する判例の回答もまさに、羞恥心を害し、性欲の興奮・刺戟を来し、また善良な性的 道義観念に反することだというのであ る 。 当該表現が好色的な感興をそそって性欲の興奮・刺戟を来し、いたずらに性的羞恥心を害して、ひいては善良な性的 道義観念に反しこれを損ないかねないのであれば、当該表現行為にはわいせつ性という性質が備わっているものと判断 される。これは客観的に当該表現そのものに対し て 法的評価としてなされるものであ り 、また芸術的や科学 的 な表現に 対してもそれらの性質や価値と両立的にも認められうるものとされ る 10 。

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た だ し そ う で あ る と し て も、 同 時 に 他 方 で、 ﹁ も と よ り、 文 書 が も つ 芸 術 性・ 思 想 性 が、 文 書 の 内 容 で あ る 性 的 描 写 による性的刺激を減少・緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下に猥褻性を解消させる場合があることは考えら れ る 11 ﹂ と か、 ﹁ な お、 文 書 の わ い せ つ 性 の 判 断 に あ た つ て は、 当 該 文 書 の 性 に 関 す る 露 骨 で 詳 細 な 描 写 叙 述 の 程 度 と そ の手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、 さ ら に は 芸 術 性・ 思 想 性 等 に よ る 性 的 刺 激 の 緩 和 の 程 度、 こ れ ら の 観 点 か ら 該 文 書 を 全 体 と し て み た と き に、 主 と し て、 読 者 の 好 色 的 興 味 に う つ た え る も の と 認 め ら れ る か 否 か な ど の 諸 点 を 検 討 す る こ と が 必 要 12 ﹂ で あ る と も さ れ、 ﹁ 物 語性や芸術性・思想性など性的刺激を緩和させる要素は全く見当らず、全体として、もつぱら見る者の好色的興味にう つたえるものであると認められる か 13 ﹂否かも判断に加えられている。 従ってそれ自体の客観的性質について判断するとはいっても、性的道義観念を害しうるわいせつさの規準・標準は社 会・文化によっても時代によっても変化しうる社会通 念 14 であるから、同じような表現に思えても実はその態様や社会的 文脈、前提となる事実関係や表現手法とあいまって、もはや現代の一般人をして好色的感興を誘発するような性的刺激 がおおむね緩和・低減されてしまっていることもありうる。無論そのような場合においてもなお当該表現に嫌悪や風俗 の乱れを看取する者が何割かはいるということもありうるが、しかし社会通念としてはもはや刑罰をもってして規制す べきほどに善良な性的道義観念が大きく損なわれることはない、性的羞恥心を害する程度は可罰的な程度は下回ってい るということになりうるのである。

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刑法三五条による正当業務行為としての正当化

一見、性的羞恥心を害し、性欲の興奮・刺戟を招き、善良な性的道義観念を損なうように思われても、多くの一般人 にとってはもはや好色的感興をそそられるようなものではなく、少数人の例外を除いては羞恥心を害され性的刺激によ り 嫌 悪 の 情 を も よ お す こ と も な い と い う 場 合 が あ る こ と を す で に 見 た。 つ ま り 当 該 表 現 の 芸 術 性 や 具 体 的 表 現 手 法 に よって、あるいは経緯や背景を含めた活動全体に対する社会的意義や評価を考慮に含めることによって、当該表現その ものももはやわいせつ性を失ってわいせつ表現にあたらないということがありうる。 さらに、なおわいせつ表現とはいわざるをえないが、表現手段・表現方法の社会的相当性により刑法三五条の正当行 為として︵あるいは正当業務行為として︶違法性が阻却されることはないだろうか。 刑 法 三 五 条 は﹁ 法 令 又 は 正 当 な 業 務 に よ る 行 為 は、 罰 し な い。 ﹂ と し て、 明 文 で は 法 令 行 為 と 正 当 業 務 行 為 に あ た る 場合の違法阻却を定めているが、違法阻却原理の実質性に立ちかえれば、むしろ実質的に違法阻却原理に適う場 合 15 の違 法阻却を認める一般規定としての性格も備えているというべきであ る 16 。 芸術活動の一部がわいせつ表現的性格を帯びるということが珍しくない。芸術活動が先端的なものであればあるほど 既存の価値観、既存の表現手法を超越しようとする意図の下に、これまで望まれてこなかったもの、逆にいえばこれま で発見されてこなかった手法や対象の中に芸術性や美的性質を見出そうとすることは不思議なことではない。ゆるやか な変化の中でときに過激な変化が生じることも相まって、芸術・文化の進展・発展が人間社会の中で連綿と続いてきた といえる。

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芸術活動自体が社会の中でむしろ価値を認められ受け入れられているものである以上、真摯な芸術性追求という目的 は無論憲法を頂点とした全法秩序において正当と認められるものである。目的の正当性に疑いはないとしても、その具 体的な表現手段の社会的な相当性はどのように検討されるべきであろうか。手段の相当性も認められれば、当該表現は 仮にわいせつ性を帯びるとして刑法一七五条の構成要件該当性が認められたとしても、目的の正当性と手段の相当性と をもって刑法三五条により正当行為ないし正当業務行為として正当化されるものと考えられる。 目的の正当性は否定されないが手段の相当性が問題にされ た 17 代表的な二つの事例を参照しておきたい。丸正事 件 18 と外 務省機密漏えい事 件 19 である。 ︵一︶丸正事件 丸正事件では、弁護士である被告人らが弁護を担当する依頼人の冤罪を信じて他に真犯人がいるとして記者会見及び その著書の中で名前を挙げた行為が名誉棄損罪に問われ た 20 。問題となったのはこのような行為が正当な弁護活動として 正 当 化 さ れ る か ど う か で あ る。 最 高 裁 は 前 提 と し て 次 の よ う に 述 べ た。 ﹁ 名 誉 毀 損 罪 な ど の 構 成 要 件 に あ た る 行 為 を し た場合であつても、それが自己が弁護人となつた刑事被告人の利益を擁護するためにした正当な弁護活動であると認め られるときは、刑法三五条の適用を受け、罰せられないことは、いうまでもない。しかしながら、刑法三五条の適用を 受けるためには、その行為が弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事 情を考慮して、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものと認められなければならないのであり、かつ、右の判 断をするにあたつては、それが法令上の根拠をもつ職務活動であるかどうか、弁護目的の達成との間にどのような関連

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性をもつか、弁護を受ける刑事被告人自身がこれを行つた場合に刑法上の違法性阻却を認めるべきかどうかという諸点 を考慮に入れるのが相当であ る 21 ﹂と。 そ し て 概 ね 次 の よ う に 本 件 に つ い て あ て は め た。 即 ち ま ず﹁ こ れ を 本 件 に つ い て み る と、 弁 護 人 が 弁 護 活 動 の た め に 名 誉 毀 損 罪 に あ た る 事 実 を 公 表 す る こ と を 許 容 し て い る 法 令 上 の 具 体 的 な 定 め が 存 在 し な い こ と は、 い う ま で も な い ﹂。 そ し て ま た、 原 判 決 及 び そ の 是 認 す る 第 一 審 判 決 の 認 定 に よ れ ば、 被 告 人 ら は 依 頼 人 と は 別 の 三 名 が 真 犯 人 で あ る こ と を 広 く 社 会 に 報 道 し て、 世 論 を 喚 起 し て、 依 頼 人 ら 両 名 を 無 罪 と す る た め の 証 拠 の 収 集 に つ き 協 力 を 求 め、 か つ、最高裁判所の職権発動による原判決破棄ないしは再審請求の途をひらくため本件行為に出たものであって、これら は当該被告事件の訴訟手続内において行われたものではないから、訴訟活動の一環としてその正当性を基礎づける余地 もなく、訴訟外の救援活動に属するものであるから弁護目的との関連性も著しく間接的で、正当な弁護活動の範囲を起 えるものというほかない。さらに、被告人らの摘示した事実は真実とは認められず、またこれを真実と誤信するに足り る確実な資料、根拠があるとも認められないから、たとえ依頼人ら自身がこれを公表した場合であっても名誉毀損にあ たる違法な行為というほかはなく、同一の行為が弁護人によってなされたからといって違法性阻却を認めるいわれはな い。その他、本件行為の具体的状況など諸般の事情を考慮しても、これを法秩序全体の見地から許容されるべきものと いうことはできない、 と 22 。 このように正当な目的でなされる行為︵とりわけ正当業務行為︶については、その手段に関して、行われた具体的状 況その他諸般の事情を考慮して、それが法秩序全体の見地から許容されるようなものであれば、具体的には根拠法令の 有無や目的との関連性の強弱などにより判断されて、刑法三五条の適用により正当化されることはいうまでもないとし

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ている。 ︵二︶外務省機密漏えい事件 では外務省機密漏えい事件ではどのような判示がなされているだろうか。 外務省機密漏えい事件では、新聞社に所属する報道記者が沖縄返還の外交交渉に関する密約の漏示を情交関係を結ん だ外務省の担当職員にそそのかしたとして罪に問われ た 23 。最高裁は取材・報道目的での秘密漏示そそのかし行為につい て、 そ の 目 的 に 関 し て は、 ﹁ 報 道 機 関 の 国 政 に 関 す る 報 道 は、 民 主 主 義 社 会 に お い て、 国 民 が 国 政 に 関 与 す る に つ き、 重要な判断の資料を提供し、いわゆる国民の知る権利に奉仕するものであるから、報道の自由は、憲法二一条が保障す る表現の自由のうちでも特に重要なものであり、また、このような報道が正しい内容をもつためには、報道のための取 材 の 自 由 も ま た、 憲 法 二 一 条 の 精 神 に 照 ら し、 十 分 尊 重 に 値 す る も の と い わ な け れ ば な ら な い ﹂ と し、 ま た そ の 手 段 に 関 し て も、 ﹁ 報 道 機 関 の 国 政 に 関 す る 取 材 行 為 は、 国 家 秘 密 の 探 知 と い う 点 で 公 務 員 の 守 秘 義 務 と 対 立 拮 抗 す る も の であり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するよ うにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではな く、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであ り、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に 違法性を欠き正当な業務行為というべきである﹂と述べて、全法秩序に照らして社会観念上是認される手段であれば正 当業務行為にあたることを明らかにし た 24 。

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ただし同時に次のようにも付言していた。即ち﹁しかしながら、報道機関といえども、取材に関し他人の権利・自由 を不当に侵害することのできる特権を有するものでないことはいうまでもなく、取材の手段・方法が贈賄、脅迫、強要 等の一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであつても、取 材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躪する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない 態様のものである場合にも、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びるものといわなければならな い 25 ﹂として、本 件においては特に﹁取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躪する等﹂の全法秩序に照らした社会観念上是認 されるかどうかの判断により正当化の可否が判断されるとしたのである。 そして概ね次のように事実関係へのあてはめについて判示している。即ち、被告人は﹁従前それほど親交のあつたわ けでもなく、また愛情を寄せていたものでもない﹂前記職員を初めて誘って酒食を共にした上で﹁かなり強引に同女と 肉体関係をもち、さらに、同月二二日原判示﹁ホテル山王﹂に誘つて再び肉体関係をもつた直後に、前記のように秘密 文書の持出しを依頼して懇願し、同女の一応の受諾を得、さらに、電話でその決断を促し、その後も同女との関係を継 続して、同女が被告人との右関係のため、その依頼を拒み難い心理状態になつたのに乗じ、以後十数回にわたり秘密文 書の持出しをさせていたもので、本件そそのかし行為もその一環としてなされたものであるところ、同年六月一七日い わゆる沖繩返還協定が締結され、もはや取材の必要がなくなり、同月二八日被告人が渡米して八月上旬帰国した後は、 同女に対する態度を急変して他人行儀となり、同女との関係も立消えとなり、加えて、被告人は、本件第一〇三四号電 信文案については、その情報源が外務省内部の特定の者にあることが容易に判明するようなその写を国会議員に交付し ていることなどが認められる﹂から、一連の行為を通して見れば被告人は当初から秘密文書を入手するための手段とし

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て利用する意図で職員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥ったことに乗じて 秘密文書を持ち出させたが、同女を利用する必要がなくなるや、同女との右関係を消滅させてその後は同女を顧みなく なつたものであって、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙したものといわざるをえず、このような取材 行為はその手段・方法において法秩序全体の精神に照らし社会観念上到底是認できない不相当なものであり、正当な取 材活動の範囲を逸脱している、 と 26 。 枠組としては前掲の丸正事件と変わりがないが、あてはめの妥当性についてはかなり疑問が残る。まず法秩序全体の 精神に照らして手段方法の相当性を判断するとしながら、実際に社会観念に照らした判断の対象としたのは情交関係を 利用してあとはポイと捨てたとか、同女をかばうこともしなかったというようないわば下世話なことのみであり、法の 最後の番人である最高裁の判断としては感情的でありまたあまりに通俗的といわざるをえない。では重大な犯罪行為ま で行わせたのであるから不倫関係を継続すべきであったのか。反対解釈をすれば、不倫関係を継続していれば甲斐性が あるから社会観念上是認される正当行為とされたということになろう。情交関係をいったん持った以上これを継続し、 同女を売るような真似もせずこれを守る態度に出ていれば、この取材活動も純愛だったのをたまたま利用したにすぎな いから社会観念上も是認される正当業務行為であるというのであるから、判断の中身はメロドラマレベルの話だという ほ か な い だ ろ う 。 不 倫 を 継 続 す べ き で あ っ た な ど と い う の は 法 秩 序 全 体 の 精 神 に 照 ら せ ば 到 底 理 解 で き る も の で は な い 。 全法秩序に照らして社会観念上相当とされるか否かを判断するとはいっても、その全法秩序の中身は行為が法令上認 められまた憲法上価値が認められているかどうかといったものでなければならず、社会観念もこのような内容を反映し た観念でなければならないだろう。

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具体的事例に対する判断

︵一︶わいせつ性の判断について 女性器自体を表象した造形表現はそのこと自体から例外なくわいせつ表現とされるか。客観的に一見、性的羞恥心を 害 し、 性 欲 の 興 奮・ 刺 戟 を 招 来 し、 善 良 な 性 的 道 義 観 念 を 損 な う よ う に 見 え て も、 そ の 時 代、 そ の 社 会 の 一 般 的 な 感 覚、平均的な感性を基準に、どのくらいの人が、何割くらいの人がその表現に真に好色的興味を惹かれるのか、単なる 嫌悪感ではなく性表現としてあくまで性的な羞恥心、性的な道義観念を害するものであるかどうかが判断されなければ ならないのであるから、通り一遍の判断ではなく、具体的な精査が必要である。 例 え ば 形 そ の も の は リ ア ル で あ っ た と し て も 着 色 さ れ た 色 が 現 実 味 を 欠 く た め に、 性 欲 を 刺 激 す る 目 的 が 感 じ ら れ ず、客観的にも性欲の興奮を招く造形とはなっていない場合も考えられる。黄色や青のような原色の単一色を施されて いる場合、客観的に性欲を刺激する性格はかなり払拭され、多くの一般人の目から見ても芸術表現として製作されてい るとの意図を感じ取ることができるだろう。しかもその表現が公開されている場所やウェブサイトなどがリアルで好色 的な性表現に溢れている場所であれば、その背景も相まって当該表現も好色的性格をより強く獲得することも考えられ るが、そのような事情や背景がなく、周辺事情や背景を含めて見ればなおのことその表現が芸術表現の製作を目的とし てなされたことが判明するような場合には、製作の意図の非好色性と共に、当該表現自体の非好色性もおのずと明らか になるといえる。このとき当該表現内容に対する嫌悪感を抱く者は一定割合いるとしても、それは例えば暴力的な表現 であったり、悲惨な表現であったり、その表現に含まれる思想性に共感できない場合などにも生じる事態であって、性

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的興奮を煽るとか、性的行為の非公開といった道義観念に反するものであるかどうかが慎重に判断されるべきである。 つまるところ、表現内容自体の好色性ないし非好色性、それとも結びついている性的意図の明確性、逆に芸術表現活 動として行われたかという客観的背景といったことが、表現に対するわいせつ性判断においては慎重に評価されなけれ ばならない。強制わいせつ罪についてはわいせつ傾向を要する傾向犯と称されることがあるが、わいせつ表現に関する 罪についても、客観的並びに主観的なわいせつ的性格が確かに看取されることが、その罪質からして必要であろう。 ︵二︶手段の相当性︵刑法三五条︶ 仮に、なおわいせつ表現にあたるとの判断がなされた場合でも、更に当該表現行為が正当な芸術活動目的で行われた という場合においては、その目的と不可分の表現手法に対して全法秩序の見地から相当のものとして許容されるかどう かという正当化の判断が刑法三五条の下で可能である。 両者では社会通念を基準とした許容性判断という共通性があるが、前者では当該表現自体の背景・経緯を含めた客観 的性質に重点が置かれるのに対し、後者の正当化の評価においては目的の正当性、目的との関連性、行為者の芸術表現 活動全体の業務性・継続性・真摯性、それに対する客観的評価、一般的許容性といったより多くの広範な要素が加味さ れてしかるべきであろう。 刑法三五条による正当行為性ないし正当業務行為性の判断における手段の相当性の考慮においても、まず表現のわい せつ性の判断において考慮したのと同じように、当該表現において例えば女性器そのものの描写や造形が性欲・性的興 奮を刺激するべく、性交渉の非公然性といった性的道義観念に反する形で行われたものかどうかについて、ここではよ

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りいっそうその正当な目的との具体的な関連性の吟味を通して評価されなければなるまい。芸術表現目的の下でなお過 度に性的興奮を煽る目的で製作されたと認められるような内容の表現であるかどうか。芸術の名の下に現代の社会通念 からしても性的道義観念に反するような好色的な表現内容であるかどうか。一般人が当該表現にその背景を含めて接す る と き に、 芸 術 的・ 文 化 的 意 図 以 上 に 好 色 的 興 奮 を 煽 る 性 的 意 図 を 専 ら 看 取 せ ざ る を え な い よ う な 表 現 で あ る か ど う か。嫌悪感を抱くものがあるとしても当該表現に一定の芸術的意図を容易に見て取ることができるかどうか。芸術表現 の多様性や先進性を犠牲にしてでも制限せざるをえないような、単に嫌悪を抱くというものではなく性的道義観念を大 きく損なうような好色的内容に終始する表現であるかどうか。十分な衡量と吟味が不可欠である。 また例えば宗教活動における性的造形や性的描写については、性的関心を凌駕する宗教的・文化的・信仰的な関心を 生じさせるのと同様に、また例えば医学における陰部の描写や造形が性的関心を圧倒する科学的・学問的・医療技術的 な関心を抱かせるのと同様に、芸術表現活動における性的造形や性的描写もまた性的関心以上に芸術的・文化的・思想 的な関心と感興とを揺り動かすものである。これらのように性的表現を借りてなされる、ときには宗教的な、ときには 科学的な、ときには文化的な表現活動、科学性や思想性の実現の活動については、性的な側面ばかりでなく他の側面に も十分に目を向けてその全法秩序における価値を吟味・評価しなければならないだろ う 27 。 注 ︵ 1︶   造 形 を 3 D プ リ ン タ ー で 再 現 す る た め の 3 D デ ー タ も 刑 法 一 七 五 条 一 項 後 段︵ 平 成 二 三 年 六 月 二 四 日 法 律 第 七 四 号 に よ り 追 加 ︶ の﹁ わ いせつな電磁的記録﹂に該当するかどうかが問題となりうる。

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︵ 2︶   ﹁ わ い せ つ な 文 書、 図 画、 電 磁 的 記 録 に 係 る 記 録 媒 体 そ の 他 の 物 を 頒 布 し、 又 は 公 然 と 陳 列 し た 者 は、 二 年 以 下 の 懲 役 若 し く は 二 百 五 十 万 円 以 下 の 罰 金 若 し く は 科 料 に 処 し、 又 は 懲 役 及 び 罰 金 を 併 科 す る。 電 気 通 信 の 送 信 に よ り わ い せ つ な 電 磁 的 記 録 そ の 他 の 記 録 を頒布した者も、同様とする。     同二項   有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。 ﹂     平成二三年六月二四日法律第七四号による改正前の規定は以下のとおりである。     ﹁ わ い せ つ な 文 書、 図 画 そ の 他 の 物 を 頒 布 し、 販 売 し、 又 は 公 然 と 陳 列 し た 者 は、 二 年 以 下 の 懲 役 又 は 二 五 〇 万 円 以 下 の 罰 金 若 し く は 科 料に処する。販売の目的でこれらを所持した者も、同様とする。 ﹂ ︵ 3︶   ﹁ 情 報 処 理 の 高 度 化 等 に 対 処 す る た め の 刑 法 等 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 案 ﹂ が 国 会 の 議 決 を 経 て 成 立 し た 平 成 二 三 年 六 月 二 四 日 法 律 第 七 四 号 に よ り、 旧 規 定 の﹁ 販 売 ﹂ の 語 は 削 ら れ 有 償 の 頒 布 も 貸 与 も 頒 布 に あ た る こ と と な っ た。 ま た 旧 規 定 の﹁ わ い せ つ な 文 書、 図 画 そ の 他 の 物 ﹂ に 由 来 す る﹁ わ い せ つ 物 ﹂ の 要 件 に あ た る か が 疑 わ し か っ た 電 磁 的 記 録 デ ー タ 自 体︵ 記 録 媒 体 で は な く ︶ の 送 信 行 為 に つ い て も、 一 項 後 段 に﹁ 電 気 通 信 の 送 信 に よ り わ い せ つ な 電 磁 的 記 録 そ の 他 の 記 録 を 頒 布 し た 者 も、 同 様 と す る。 ﹂ と 規 定 し て 明 確 に 処 罰 対 象 に 含 め た。 ︵4︶   最大判昭和三二年三月一三日刑集一一巻三号一〇〇三頁︵チャタレー事件︶ 。 ︵5︶   ただし刑事規制でなければならないか、同種の他の規制によるのでは足りないかということについては検討の余地があろう。 ︵6︶   最大判昭和三二年三月一三日刑集一一巻三号一〇〇三頁。 ︵ 7︶   最 大 判 昭 和 三 二 年 三 月 一 三 日 刑 集 一 一 巻 三 号 一 〇 〇 九 頁。 表 現 そ の も の に 対 し て と い う の は、 表 現 さ れ た 対 象 そ の も の が 本 来 的 に わ い せ つ な も の で あ る と 認 定 す る と い う こ と で は な い。 あ く ま で 当 該 具 体 的 な 表 現 が ひ わ い な、 つ ま り 好 色 的 興 味 を そ そ る、 公 に 表 示 さ れ る こ と が 一 般 に 好 ま れ な い 表 現 な い し 表 現 物 と し て の 性 質 を 帯 び て い る か ど う か で あ っ て、 帯 び て い な い 場 合 に は、 例 え ば 女 性 器 な ど の 身 体 の 特 定 部 位 そ の も の が お の ず か ら ひ わ い な わ い せ つ 物 だ と い う こ と で は な い。 そ の 意 味 で は や は り 表 現 の 仕 方 に よ る の だ と い っ て よ い。 裸 婦 自 体 が た だ ち に わ い せ つ だ と い う の で は な く て、 そ れ を 描 い た も の が 客 観 的 に 好 色 的 性 質 を 帯 び て 初 め て わ い せ つ な 表 現 な い し 表現物となるのである。 ︵8︶   最大判昭和三二年三月一三日刑集一一巻三号一〇〇五頁。 ︵9︶   最大判昭和三二年三月一三日刑集一一巻三号一〇〇八頁。 ︵ 10︶   最大判昭和三二年三月一三日刑集一一巻三号一〇〇八頁。 ︵ 11︶   最大判昭和四四年一〇月一五日刑集二三巻一〇号一二四二頁︵悪徳の栄え事件︶ 。

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︵ 12︶   最二小判昭和五五年一一月二八日刑集三四巻六号四三五頁以下︵四畳半襖の下張事件︶ 。 ︵ 13︶   最三小判昭和五八年三月八日刑集三七巻二号一七頁。 ︵ 14︶   最大判昭和三二年三月一三日刑集一一巻三号一〇〇六頁。 ︵ 15︶   明文にない場合としては、被害者の同意などが代表例である。 ︵ 16︶   前田雅英・松本時夫・池田修・渡邉一弘・大谷直人・河村博﹃条解   刑法︹第2版︺ ﹄九二頁参照。 ︵ 17︶   特 定 秘 密 保 護 法 上 の 取 得 行 為 等 に つ い て も 同 様 の 考 慮 が あ て は ま り、 今 後 問 題 と な ろ う。 拙 稿﹁ 特 定 秘 密 保 護 法 上 の 犯 罪 に つ い て │ │ 特定秘密漏えい罪と同取得罪について││﹂白鷗大学論集二八巻二号一六五頁参照。 ︵ 18︶   最一小決昭和五一年三月二三日刑集三〇巻二号二二九頁︵丸正事件︶ 。 ︵ 19︶   最一小決昭和五三年五月三一日刑集三二巻三号四五七頁︵外務省機密漏えい事件︶ 。 ︵ 20︶   最一小決昭和五一年三月二三日刑集三〇巻二号二三三頁以下参照。 ︵ 21︶   最一小決昭和五一年三月二三日刑集三〇巻二号二四二頁以下。 ︵ 22︶   最一小決昭和五一年三月二三日刑集三〇巻二号二四三頁以下参照。 ︵ 23︶   最一小決昭和五三年五月三一日刑集三二巻三号四六一頁以下参照。 ︵ 24︶   最一小決昭和五三年五月三一日刑集三二巻三号四六三頁。 ︵ 25︶   最一小決昭和五三年五月三一日刑集三二巻三号四六三頁以下。 ︵ 26︶   最一小決昭和五三年五月三一日刑集三二巻三号四六四頁以下。 ︵ 27︶   本 稿 が 検 討 対 象 と し て 取 り 上 げ た ケ ー ス が 現 実 に 問 題 と な っ た の と ほ ぼ 同 時 期 に、 美 術 館 内 で 男 性 器 そ の も の を 写 し た 写 真 の 展 示 に 対 し て 取 り 締 ま り 対 象 と な る と 警 察 か ら 警 告 を 受 け、 抗 議 の 意 味 を 込 め て 男 性 器 部 分 に 布 を か け て 展 示 し た と い う ケ ー ス も 報 道 さ れ た。 こ のケースについても本稿で検討した内容・指摘が妥当するものといえよう。 ︵本学大学院法務研究科教授︶

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