ける表示方法に関する考察
著者
元木 章博, 星野 ゆう子
雑誌名
鶴見大学紀要. 第4部, 人文・社会・自然科学編
号
57
ページ
37-41
発行年
2020-02
URL
http://doi.org/10.24791/00000875
1. はじめに 点字とは、縦2 列 × 横 3 行の 6 点で「1 マス」を構 成する文字である(図1)。 著者抄録:本論では、点字学習支援システムにおける点字3DCG の仕様改善を目的として、点字 3DCG の評価実験を行なった。実験では、被験者を 2 つのグループに分け、グループ毎に異なる順 序で、評価を行なう画像を提示した。実験の結果を元に、点字マス数に対する推奨追加空マス数を 算出する式を求めた。得られた式より、順序効果の影響を受けない推奨追加空マス数を明らかにし た。今後、点字学習支援システムに、空マスを追加した点字3DCG を表示する仕組みを組み込む ことで、空マスを追加した点字3DCG の学習効果を評価する。 キーワード:点字、鏡像関係、表示方法、順序効果
Author Abstract: The present work attempts to modify the number of the blank cells added to the 3DCG
display of braille characters, as proposed in a prior report, to eliminate the order effect. The participants in the test were divided into two groups, to which tasks were presented in different orders. The test results permitted to develop a formula to calculate preferred numbers of the blank cells to be added to the braille string images to eliminate the order effect. Further evaluation is planned on the performance of the braille learning system with an integrated 3DCG display of braille characters with blank cells.
Key Words: Braille, Mirror-image Relation, Displaying Method, Order Effect
順序効果を踏まえた点字鏡像関係の直感的理解を助ける
表示方法に関する考察
A Study on the Displaying Method to Assist the Intuitive Understanding
of Braille Mirror Image: Elimination of the Order Effect
元木 章博・星野ゆう子
Akihiro Motoki and Yuko Hoshino
學校の教員であった石川倉次によって、日本語に合わ せた改良が行なわれた。現在でも、視覚障害者が情報 を自発的に受発信するための手段の1 つとして利用さ れている。 点字は、凸点を左から右に指で触れて読むという特 性から、書く(打つ)時には右から左へと点を凹ませ ていく必要がある。この時、凸点と凹点は鏡文字の関 係となる。この関係の事を、鏡像関係と呼ぶ。鏡像関 係によって,点字は凸面の際には、文字列全体に対し て左詰めである必要があり、凹面の際には右詰めとな る必要がある。中村[1]は、点字を教授する際に最も 注意するべき点として、『「読み」と「書き」を混同さ せないこと』を指摘している。 点字の学習を支援するシステムについては、様々な 報告が行なわれている。 大田ら[2]は、中途視覚障害者が識別しやすい記号 を明らかにし、その記号を凸点として表示する点字学 図 1 点字における点の配列(凸面) 点字は、1825 年にルイ・ブライユ(Louis Braille) によって開発された。日本においては、官立東京盲啞
習支援システムの開発と評価を行なった。同システム はWeb ベースのシステムであり、視覚障害者のみで も点字を学習することができるように、音声リーダー (画面上の文字等を読み上げるソフトウェア)に対応 している。28 名の視覚障害者が同システムを使用し た結果、システム使用前に実施した点字のテストより もシステム使用後に実施したテストの方が点数が向上 したことが明らかになった。
また、Putnam & Tiger [3]は、晴眼の点字学習者に向
けて、コンピュータを使用して英語の点字を学ぶプロ グラムの開発を行なった。そのプログラムは、文字(ア ルファベット)のみではなく、数字や句読点に加え、 英語の点字で使用される省略記号を学ぶことができる プログラムであった。4 名の学生によりプログラムの 評価が行なわれ、4 名全員が点字と墨字(点字の対義 語で、普通使用される文字の事を指す)の関係を理解 した事が明らかになった。 元木[4] [5]は、司書養成課程で学ぶ晴眼の学生を対 象としたWeb ベースの点字学習支援システム「点字 といっしょ!」の開発と評価を行なった。同システム では、システム利用者が、点字の基本的なルールの理 解に加え、鏡像関係についても学習することができる ことを目的とした。そのため、これまでのシステム に搭載されていた2D 画像による点字の表示に加え、 VRML(Virtual Reality Modeling Language) を 用 い た 3DCG による点字の表現を行なった。システム利用者 に対する、点字3DCG の印象を問うアンケートでは、 68% の利用者が「3D のほうが分かりやすかった」あ るいは「どちらかというと3D の方が分かりやすかっ た」と回答した。一方、システムを利用した学習者に 対して実施した点字の知識を問うテストの結果、凹点 を黒く塗りつぶす問題において、学習者に鏡像関係の 不適切な理解が発生したことが推測される2 種類の誤 答が出現した。(i)点字を 1 マスずつ回転させる誤答 と、(ii)点字文字列全体を回転させているが左詰め とした誤答である(図2)。 元木[5]では、このような2 種類の誤答が発生した 理由の1 つとして、システムにおいて表示する点字 3DCG が、点字の左詰め右詰めの概念を反映していな いという点を挙げている。例えば、図2 において示し た「なかま」という点字を記述するために、点字では 3 マスを必要とする。学習者に対するテストでは、解 答欄として7 マスの枠を用意している。また、凹面の 点字は右から左に記述する必要があるため、図2 の正 答のように、右端から3 マスを塗りつぶし、左端から 4 マスは空白にしておく必要がある。一方、システム 上の点字3DCG では、「なかま」と表示する際に、最 小限のマス数である3 マスの 3DCG を表示していた。 このように、学習者がシステムを用いて学習している 時と、学習して得た知識を利用する時で点字の表示が 異なることが、2 種類の誤答が出現した理由の 1 つで あると考えられる。そこから、元木[5]は点字3DCG について、仕様を変更し表示を改善する必要性を指摘 した。 星野・元木[6]は、点字学習支援システムにおける 点字3DCG の表示を変更する方法の 1 つとして、点 字3DCG に空マス(点字 1 マスを構成する 6 点がい ずれも平らなマス)を追加することを提案した。加え て、被験者25 名を対象とした点字 3DCG の評価実験 を行ない、点字3DCG を見た者が直感的に鏡像関係 を理解できると推定される推奨追加空マス数を、1 か ら10 マスの点字に対して算出した。しかし、星野・ 元木[6]で行われた実験は、被験者に対し「点字マス が1 で、空マスが 1」の点字 3DCG から順番に、空マ スの数を1 ずつ増やしながら提示を行なっていくもの であった。そのため、得られた結果が順序効果の影響 を受けていることを否定することはできない。 「順序効果」とは人の感覚を対象とした実験を行な う際、「同一の被験者が複数の実験的操作を受けると き,実験の順序によって練習,順応,疲労が生じたり, あるいは実験事態への心的飽和が起きる」[7]ことであ る。この順序効果は「知覚や記憶,思考などすべての 心理過程に認められる効果である」[8]ことが知られて いる。例えば、庄子ら[9]は、大学生171 名を対象に、 6 種類のチョコレートを用いたおいしさ評定の実験を 行ない、チョコレートの摂取が進むにつれて、おいし さ評定が下がるという順序効果が見られたことを指摘 している。 そこで本論では、点字学習支援システムにおける点 字3DCG の仕様改善を目的として、点字 3DCG の提 示順序を変更した実験を行なった。加えて、得られた データを元に、順序効果の影響を受けない推奨追加空 マス数の算出を試みた。 図 2 正答・誤答の例(元木[4] [5])
正答
誤答
(i)
誤答
(ii)
2. 実験 (1)点字 3DCG について 本論では、被験者に提示する点字3DCG として、 基準となる1-10 マスの点字に、1-10 マスの空マスを 追加した点字3DCG を作成した(図 3)。点字 3DCG の 作 成 に つ い て は、WebGL による 3DCG の表示を JavaScript によって行なうためのライブラリの 1 つで あるthree.js [10]を用いた。これらの点字3DCG を紙に 印刷し、被験者に提示するものとした。 止めたときのa の値を b=10 の時の a の値として確定 し、b=10 の実験が終わる。b の値を 1 ずつ減らしな がら、この実験のサイクルをb が 1 になるまで繰り返 した。 図4 は実験の流れ図である。図中の「a1、b1」、「a2、 b2」は、それぞれ I 期と II 期の実験における変数の動 きを表す。 図 3 実験で使用した点字3DCG の一例 図 4 本論で実施した実験の流れ図 (2)実験について 本論の実験の被験者は、鶴見大学文学部・歯学部の 教員1 名および学生 52 名の計 53 名である。なお、有 効回答は50 件であった。 実験は2016 年 12 月 21 日から同年 12 月 26 日まで のI 期と、2017 年 5 月 11 日から同年 5 月 31 日までの II 期という 2 つの期間に分けて断続的に実施した。な お、I 期の実験は星野・元木[6]によるものである。い ずれの実験も、有効回答数は25 件である。 I 期、II 期のどちらも、実験の際には、実験者と被 験者が横並びになるように着席した。 I 期の実験では、まず、実験者が被験者に点字の鏡 像関係について説明を行なった。次に、被験者に、「点 字マス数(b)が 1 で、追加空マス数(a)が 1」の点 字3DCG を、凸面と凹面を 1 つのペアとして提示した。 a を 1 ずつ増やし、a=10 となるまで点字 3DCG を順番 に提示し、被験者が、「反転しているということ」がはっ きりと分かるようになったタイミングで止めてもらっ た。被験者が止めたときのa の値を b=1 の時の a の値 として確定し、b=1 の実験が終わる。b を 1 ずつ増加 させながら、このサイクルを、b が 10 になるまで繰 り返した。 II 期の実験では、I 期と同様に実験者が被験者に点 字鏡像関係の説明を行なった後、「点字マス数(b)が 10 で、追加空マス数(a)が 10」の点字 3DCG を凸面 と凹面を1 つのペアとして被験者に提示した。a を 1 ずつ減らし、a=1 となるまで点字 3DCG を提示し、被 験者が、「反転しているということ」が直感的に分か らなくなったタイミングで止めてもらった。被験者が
a
1を1増やす
a
2を1減らす
点字3DCGを提示
a
1, a
2を記録
b
1を1増やす
b
2を1減らす
鏡像関係について説明No
Yes
No
実験終了
Yes
a
1=1, b
1=1 / a
2=10, b
2=10
反転して見える? / 見えない?b
1= 11
b
2= 0
3. 結果と考察 2 つの実験で得られたデータを元に、1 から 10 まで のb に対する a の算術平均による平均追加空マス数(ā) と標準偏差を求めた。 b と ā の関係性について説明する最適な統計モデル を得るため、これらの変数に基づいて散布図を作成し、 最小二乗法による線形近似モデルなど、複数のモデル に基づく回帰分析を行なった。その際、複数のモデル から最適な統計モデルを選択するための指標の1 つである、AIC(赤池情報量基準)を求めた(表 1)。AIC の値が最小であった、ゴンペルツ成長モデルを採用し、 式(1)を得た(図 5)。 本論で得られた推奨追加空マス数の値を用いて点字 3DCG を作成し、点字学習支援システムに搭載するこ とで、学習者が点字における鏡像関係も理解できる点 字3DCG を表示することができるようになることが 期待される。 4. まとめと今後の課題 本論では、点字学習支援システムにおいて表示する 点字3DCG の仕様変更を目的として、1 から 10 マス の点字3DCG に対応する推奨追加空マス数の算出を 試みた。追加空マス数を変更した点字3DCG を提示 する実験を行ない、分析を実施した。分析の結果から、 1 から 10 マスの点字に対する、順序効果を踏まえた 推奨追加空マス数を算出した。 しかし、本論では、点字3DCG に空マスを追加す ることの学習効果について、本論では評価を行なって いない。今後、その評価のために、空マスを追加した 点字3DCG を表示する点字学習支援システムを運用 する。合わせて、実際にそのシステムを学生に使用し てもらう。また、11 マス以上の点字 3DCG に対する 推奨追加空マス数の算出や、学習者が学ぶべき最大の 点字マス数に関する考察を行なう。 5. 注 本論は、本学大学院生であり、第二著者の星野が、 2016 年度教育システム情報学会学生研究発表会にお いて発表した研究成果と、電子通信情報学会第91 回 福祉情報工学研究会において発表した研究成果を元と して、考察を深めたものである。本来であれば、星野 を筆頭著者とするべきであるが、鶴見大学紀要におい ては、大学院生が筆頭著者となることができないため、 共同研究者である元木を筆頭著者としている。 6. 謝辞 本論の遂行にあたり、鶴見大学文学部ドキュメン テーション学科の阪東菜月さんには、点字3DCG の 作成および実験の実施に関して協力をいただいた。ま た、本論の実験には、鶴見大学文学部・歯学部の皆 様に協力をいただいた。本論は日本学術振興会科学 研究費補助金平成29 年度基盤研究(C)(課題番号 JP17K00444、研究代表者:元木章博)による研究成 果の一部である。ここに記して感謝の意とする 参考文献 [1] 中村哲夫(2002),『正眼者を対象とした集団点字授業の方 法:150 人を越える場合』,九州看護福祉大学紀要,Vol.4, No.1,p.195-200 表 1 使用したモデルとAIC 値 表 2 平均追加空マス数と推奨追加空マス数の 一覧 図 5 点字マス数に対する平均追加空マス数の 散布図(上下のバーは標準偏差を表す) モデル名 AIC値 ゴンペルツ成長モデル -8.59612 漸近指数モデル -8.38888 累乗モデル -5.23098 線形近似モデル -4.08563 指数モデル 4.612549 式(1)より平均追加空マス数を算出し、推奨追加 空マス数(a')を導いた(表 2)。なお、式(1)より 得られる数は小数点以下を含む値であるが、点字は1 マスずつしか追加することができない。そこで、小数 点以下を切り上げとして推奨追加空マス数を算出し た。
ā = 6.48 × 0.29
exp (-0.18b)・・・(1)
点字マス数(b) 1 2.30 3 2 2.73 3 3 3.15 4 4 3.55 4 5 3.92 4 6 4.26 5 7 4.56 5 8 4.83 5 9 5.07 6 10 5.28 6 推奨追加 空マス数(a') 平均追加 空マス数(ā)[2] 大田美香・小田剛・喜多伸一・前田英一・菅野亜紀・高岡 裕(2016),『中途視覚障害者向け点字 e- ラーニングの研究 開発とその学習効果』,神戸常盤大学紀要,No.9,p.35-42 [3] Brittany C. Putnam & Jeffrey H. Tiger (2015),『Teaching braille
letters, numerals, punctuation, and contractions to sighted indi-viduals』, Journal of Applied Behavior Analysis, Vol.48, No.2, p.466-471 [4] 元木章博(2014),『3DCG と GIF アニメを活用した点字 学習支援システムの開発と評価』,教育情報研究,Vol.30, No.1,p.27-35 [5] 元木章博(2015),『鏡像関係の理解に向けた点字学習支 援システムの開発と評価』,教育情報研究,Vol.31,No.3, p.31-39 [6] 星野ゆう子・元木章博(2017),『点字鏡像関係の直感的 理解を助ける表示方法に関する一考察』,教育情報研究, Vol.33,No.2,p.31-36 [7] 中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立 花政夫・箱田裕司,『心理学辞典』,有斐閣,p.403,1999 [8] 外林大作・辻正三・島津一夫,『誠信心理学辞典』,誠信書房, p.217,1981 [9] 庄子道生・ペンワンナクン ユワディー・小野間統子・坂井 信之(2015),『チョコレートのおいしさ評定における提示 順序効果』,日本味と匂学会誌,Vol.22,No.3,p.337-340 [10] three.js – Javascript 3D library URL: https://threejs.org/(最終ア