• 検索結果がありません。

鍵盤ハーモニカの指導について(2) ―教科書の分析を通して―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "鍵盤ハーモニカの指導について(2) ―教科書の分析を通して―"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

鍵盤ハーモニカの指導について(2)

―教科書の分析を通して―

Lesson of Keyboard Harmonica (2): A Study of Some School Textbooks

新井 恵美

ARAI Emi 

概要(Summary)

 本稿は、小学校音楽科において多く用いられている鍵盤ハーモニカの指導について整理するため に、平成27年度から使用されている第1学年の教科書の分析・検討を中心に行うものである。 キーワード:鍵盤ハーモニカ,小学校,指導法,教科書

1.はじめに

 拙稿(2016)では,鍵盤ハーモニカの指導について,初歩者を対象とした市販の教則本を取り 上げ,検討を行った。それに引き続き,本稿では,平成27年度より小学校で使用されている音楽 科の教科書を中心に,学校で鍵盤ハーモニカがどのように取り扱われているかを検討することによ り,鍵盤ハーモニカの指導に関する今後の研究の一助とすることを目的とする。

2.検討

 現在,小学校で使用されている音楽科教科書は,教育出版『小学音楽 音楽のおくりもの』,教 育芸術社『小学生の音楽』の2種類である。その中で,鍵盤ハーモニカの取り扱いについて取り上 げているのは,いずれも第1学年の教科書であり,前者は「こんにちは けんばんハーモニカ」と いうタイトルで8ページ,後者は「どれみ・ ・ ・で うたったり ふいたり しよう」という題材の中に 8ページ割かれている。本稿では,この部分と,それに対応する教師用指導書を中心に検討を行う こととする。 (1)教育出版『小学音楽 おんがくのおくりもの 1』  まず,学習のねらい「どんな おとが するかな」では,鍵盤のいろいろな所を押さえて吹いて みたり,息の強さを変えて吹いてみたり,音の長さを変えて吹いてみたり,身近な音を真似て吹い てみたりする活動が提示されている。鍵盤ハーモニカに初めて触れることを想定し,楽器に慣れる ことを目的とする活動である。  この部分の教師用指導書には,まず,楽器の扱い方の指導事項として,準備や片付け,そして楽 器を丁寧に扱うことを指導するように書かれている。例えば,片付けについては,「ガーゼ布でよ ごれをふくこと,ホース(パイプ)や歌口(唄口)の水抜き,鍵盤本体の水抜きをしていくこと 」 と述べられている。しかしながら,具体的にそれらをどう行うかについての記載はなされていない。 † 宇都宮大学 教育学部(連絡先: [email protected]) 1『小学音楽 音楽のおくりもの 1 教師用指導書 研究編』,p.60(教育出版,2015)

(2)

 息のコントロールについては,口から2∼3cm放して置いた手に向かっていろいろな強さで吹 いたり,ホースを楽器につながずに吹いてみたりした後に,音を出して吹いてみるという手順とな っている。さまざまな息の強さで吹いてみることにより,それぞれの音の違いを実感したり,自然 な演奏をする際の息の量を理解したりすることができる活動である。  次の「どの おとで あそぼう」では,鍵盤上のドの位置を確認し,それを使って教師の模倣を したり,ドの音のみを使った楽曲を演奏したりしながら,タンギングを指導する内容となっている。 教師用指導書においては,ドの位置の確認を,黒鍵の「ふたつのやま」に,ピースサインをした右 手をのせ,その左側に親指を置くという提案をしている。初歩の段階ではわかりやすい指導である といえるが,常にドの音に親指を配置するとは限らないため,指導に際しては注意が必要であろう。 また,タンギングの指導については,「とぅー」は「TOt」であり,「O」の時に息が出され, 「T」や「t」の時には舌が歯の間に押し付けられていて息が止められているという口の中の状態が 解説され,指導の一助となるようになっている。そして,掲載楽曲《まほうのど》では,曲想の異 なる4種類の伴奏に合わせて吹くことで,様々なタンギングの表現ができるようになっている。実 際に使用するタンギングの発音は1種類だけではないため,このように曲想に合わせたタンギング を身に付けさせることには意義がある。  それから,「どれみの おとで あそぼう」では,1∼3指でド∼ミを弾くことと,同音でのタ ンギングとは異なり,異音でのタンギングについて,指の動きと息を合わせることに触れている。  そして,「どれみふぁその おとで あそぼう」では,指を鍵盤に置く際に「みかんをつかむよ うなかんじ」と述べている。5指すべてを使用する,すなわち,すべての指に意識が向かうこの段 階で,手の構えを示す流れになっている。 (2)教育芸術社『小学生のおんがく 1』  学習目標「けんばんハーモニカをふきましょう。」では,まず,鍵盤ハーモニカの座奏時の構え 方が提示されている。具体的には,肩や腕の力を抜くこと,吹き口は歯で噛まずに唇で軽く挟むよ うにすること,指は軽く曲げることが示されている。初めに基礎を教えることを重要視しているこ とがうかがえる。教師用指導書にも,吹けたという達成感を味わわせることが大切であるが,その 際も構え方に気を付けるようにという,指導のポイントが示されている。その後,音の高さや長さ を変えていろいろな音を出す活動に移っていく。これも前述の教育出版と同様,楽器に慣れさせる 活動である。また,教師用指導書には,「つば抜き2 」や歌口を拭くことを指導することが記載さ れているが,実際にどのように行うかまでは書かれていない。  次の「どとその いちを おぼえましょう。」では,《どんぐりさんの おうち》という楽曲を 用い,黒鍵の配列をヒントに,ドとソの鍵盤の位置を知ることが目的となっている。この楽曲上, 吹く際には,同音を3回演奏することになっているが,教師用指導書では,長さや強さに気を付け て吹くことを助言するようになっており,息のコントロールも指導するようになっている。  それから,「どれみの いちを おぼえて ふきましょう。」では,1∼3指でド∼ミを弾くこ とと,その際の構え方をもう一度確認するものとなっている。  そして,「どれみふぁその いちを おぼえて ふきましょう。」では,階名唱をしたり,指番 2 実際は,呼気によって温められた空気中の水蒸気が楽器内で冷えて水滴になったものがたまり,それを抜く作業ため,つば (唾液)ではない。

(3)

号証をしながら指を動かしたりする段階を踏みながら,鍵盤ハーモニカの演奏に移るという手順が 教師用指導書に示されている。  以上より,息のコントロールや楽器の扱い方を指導することは共通している。息のコントロール については,それによって,今後様々な表現の可能性が生まれてくることから,大変重要なもので ある。これは,鍵盤ハーモニカが管楽器と同様,吹奏楽器であることによるものである。また,楽 器の扱い方は,様々な道具の扱い方を指導するのと同じように,正しく,安全に活動するためにも 大事にしていかなければならない事項である。また,楽器を長持ちさせるためにも重要であろう。  しかしながら,2種類の教科書で若干の方針の違いも見られる。例えば,教育出版の教科書では, はじめからタンギングの指導がなされるが,教育芸術社のものではそれがない。タンギングの指導 について,教育芸術社の教師用指導書では,以下のように述べられている3 。  タンギングには,同じ高さの音が連続する場合も含めて,音と音のつながり方をスタッカート 奏やノンレガート奏などのいろいろな方法で表現したり,音の輪郭をはっきりさせたりすること ができるといった演奏効果が考えられます。  しかし,鍵盤ハーモニカに触れてまもない低学年の子供たちにとっては,タンギングと運指を 同時にかつスムーズに行うという活動は,相当の負担がかかると考えられます。  導入段階としては,楽器に親しむことを主なねらいとし,最初から無理にタンギングを取り上 げず,子供の負担を軽くするといった配慮も必要です。まずは楽器に慣れ,息を吹き込む力など をコントロールできるようになってから,あらためてタンギングを取り上げるといった段階を考 えましょう。  子どもにとっては,鍵盤を押さえるために指を動かし,同時に息を吹き込むためにタンギングを するという動作は困難であろう。それは教育出版の教師用指導書においても「鍵盤ハーモニカの難 しさは,息をおくりこみ,指を動かし,タンギングもして演奏することにあるようです。」と述べ られている。  タンギングをすることは,前述したように,鍵盤ハーモニカが吹奏楽器であるという考えによる ものである。しかしながら,吹奏楽器であっても常にタンギングを用いているわけではない。また, 鍵盤ハーモニカは吹奏楽器でもありながら,鍵盤楽器である面も持ち合わせている。実際,鍵盤ハ ーモニカは,楽器の構造上,タンギングを用いて音を切る場合と,ピアノのように指を使って鍵盤 を押し直して音を切る場合とでは,音の切れ方が異なる。前者の方が余韻の残る音の切れ方になる のである。鍵盤ハーモニカにおいては,タンギングは一つの選択肢としてとらえ,必須としないと いう考え方も必要ではなかろうか。  逆に,教育芸術社の教科書では座奏時の構えを細かく扱っているのに対し,教育出版のそれは写 真を掲載しているものの,あまり詳しく言及していない。鍵盤ハーモニカの演奏家は,実に様々な 構え方をしているが,学校教育における演奏において,楽器を机に置く座奏を中心にすることは, 鍵盤の視認性や体に負担をかけずに演奏することからも適していると考える。その中で,体に無理 のない構え方を指導することは,演奏の可能性をさらに広げるためにも大切であろう。初めに自己 流の癖がついてしまうと,なかなか直らず,演奏時に無理が生じる可能性もあると考える。教科書 3『小学生のおんがく 1 教師用指導書 研究編』,p.69(教育芸術社,2015)

(4)

の扱いに関わらず,この部分は基礎としてきちんと指導すべきであろう。  小学校音楽科の教科書に,鍵盤ハーモニカが登場するようになったのは,昭和45年からである。 この時の取扱い学年は第4学年となっている。これは,現在とは大きく異なるものである。オルガ ンやアコーディオン,リコーダーなどを学習しているため,鍵盤の説明や,運指について詳しく記 載されていたりはしない。  この頃は,立奏時の楽器の構え方が現在と異なる。現在は,楽器裏側の革バンドに白鍵側から手 を差し込む形をとっているが,手を,小指を自分の体に近くなるようにして手のひらを上に向け, その上に鍵盤ハーモニカを置く形になっている。結果として,鍵盤が水平に保持される。この持ち 方は,平成3年の教育芸術社,平成7年の東京書籍の教科書にも掲載されている。この持ち方は, 短い唄口を使用して立奏する場合は,現在の教科書の持ち方だと鍵盤の視認性が低くなり,演奏し にくくなるために採用されていたと考えられる。しかしながら,昭和51年の教育出版の教師用指 導書には,「〈けん盤〉は左右水平にすると運指が困難になるので,右側を下方に十分に下げて斜 めに構えると運指が容易になってくる。4 」と書かれている。  座奏時も,現在はホースの口にくわえている部分を支え,歯で噛まないように指導されているが, 当時は左手をホースではなく楽器の左側に置いている。このことについて,昭和51年の教育出版 の教師用指導書では,導入期にこの形で指導するのもよいと書かれている。  タンギングの指導については,オルガンやアコーディオンにできない効果が発揮されるというこ と,また,鍵盤のついている吹奏楽器であるということで,教科書に鍵盤ハーモニカが導入された 時から指導事項の一つとして定着している。昭和45年の教育出版の教師用指導書には,「同音の 時は,鍵ばんを押したままタンギングでリズムがとれるが,初歩の段階では,オルガンと同じよう にタッチをして指導した方がよい。5 」と書かれているものの,タンギング奏を推奨している。そう することで,同じ鍵盤を有するオルガンやアコーディオンと異なり,同音連打や,アクセントをつ けて奏したりすることが可能となるのである。このことは,鍵盤ハーモニカの特性をとらえた指導 であるといえよう。また,平成11年の教育芸術社の教師用指導書には「もちろん息を吹きっぱな しのまま,オルガンを弾くときのように鍵盤を1つ1つ押さえ直して演奏することもできますが, さきざきよい結果につながる方法ではありません。リコーダーなど他の吹奏楽器と同じように,旋 律に合わせてタンギングをしながら息を使うほうが表現としても豊かなものになります。6 」と書か れている。

3.おわりに

 ここまで,鍵盤ハーモニカの指導について,教科書を中心として検討してきた。鍵盤ハーモニカ は,鍵盤楽器と吹奏楽器の両方の特徴を兼ね備えた楽器として学校教育に導入されたことが分かっ た。その両方の特徴を生かし,様々な指導が考えられ,現在に至っている。  しかしながら,指導学年が第4学年から現在の第1学年へと移るにあたって,指導内容に変化が 生じてきている。当然のことながら,他の楽器の経験のある第4学年と,小学校で初めて取り組む 旋律楽器となる第1学年とでは,指導する内容にも差が生じることは否めない。現在の教科書には, 4『新版 音楽 3年 教師用指導書』,p.219(教育出版,1976)『新版 標準音楽 4年 教師用指導書』,p.103(教育出版,1970)『小学生のおんがく1 教師用指導書 研究編』,p.44(教育芸術社,1999)

(5)

鍵盤ハーモニカに特化した指導内容は低学年のものにしか現れず,かつての教科書等で示されてき ているアクセントや息のコントロールによる表現力,表情などにまで至っていないのではないかと 考える。鍵盤ハーモニカは,他の鍵盤楽器にはない特徴を備えているのであるから,それを生かし て演奏する様々な工夫を指導することも大切なのではなかろうか。第3学年になるとリコーダーの 指導が始まり,そちらを中心とした教科書の構成となる。リコーダーは,鍵盤ハーモニカのように 息のコントロールを使って強弱を自由につけられる楽器ではない。鍵盤ハーモニカだからこそ可能 となる表現の工夫の指導をすることで,楽器を経験しただけで終わらず,できたという達成感をさ らに大きなものにすることができるのではないかと考える。  今回,教科書等を検討してみて,どのような意図で述べられているのか不明な点があった。例え ば,先に挙げた,立奏時に手のひらに楽器をのせるようにして構える奏法がなぜ教科書から姿を消 したのか,また,タンギングを用いて演奏しないことでなぜ「さきざきよい結果につなが」らない のか,などである。これらに関しては,楽器の構造や改良,楽器に対する考え方の変化などが要因 であることが推察できる。これらのことについては,今後の研究課題とすることとし,本稿を閉じ ることとする。 参考文献 『4年生の音楽』(教育芸術社,1970) 『新版 標準音楽 4年』(教育出版,1970) 『新版 標準音楽 4年 教師用指導書』(教育出版,1970) 『改訂新版 小学生の音楽 3』(音楽之友社,1974) 『新版 音楽 3年 教師用指導書』(教育出版,1976) 『新版 音楽 4年 教師用指導書』(教育出版,1976) 『新編 新しい音楽 2』(東京書籍,1976) 『新編 新しい音楽 2 教師用指導書』(東京書籍,1976) 『精選しょうがくせいのおんがく 1教師用指導書』(音楽之友社,1979) 『小学生のおんがく 1 教師用指導書』(教育芸術社,1979) 『小学音楽 4 教師用指導書』(教育出版,1979) 『あたらしいおんがく 1』(東京書籍,1979) 『新編 あたらしいおんがく 1 教師用指導書』(東京書籍,1985) 『改訂 小学音楽 2 教師用指導書』(教育出版,1989) 『新編 しょうがくせいのおんがく 1』(音楽之友社,1991) 『小学生のおんがく 1』(教育芸術社,1991) 『新版 おんがく 1 教師用指導書』(教育出版,1991) 『新編 あたらしいおんがく 1 教師用指導書』(東京書籍,1995) 『おんがく 1 教師用指導書』(教育出版,1997) 『小学生のおんがく 1 教師用指導書』(教育芸術社,1999) 『小学校音楽 おんがくのおくりもの 1 教師用指導書』(教育出版,1999) 『小学生のおんがく 1 教師用指導書』(教育芸術社,1999)

(6)

『小学校音楽 おんがくのおくりもの 1 教師用指導書』(東京書籍,2001) 『小学生のおんがく 1 教師用指導書』(教育芸術社,2001) 『あたらしいおんがく 1 教師用指導書』(東京書籍,2001) 『小学音楽 おんがくのおくりもの 1 教師用指導書』(教育出版,2004) 『小学生のおんがく 1 教師用指導書』(教育芸術社,2004) 『新編 あたらしいおんがく 1 教師用指導書』(東京書籍,2004) 『小学校音楽 おんがくのおくりもの 1 教師用指導書』(教育出版,2010) 『小学生のおんがく 1 教師用指導書』(教育芸術社,2010) 『あたらしいおんがく 1 教師用指導書』(東京書籍,2010) 『小学音楽 音楽のおくりもの 1』(教育出版,2014) 『小学音楽 音楽のおくりもの 1 教師用指導書』(教育出版,2014) 『小学生のおんがく 1』(教育芸術社,2014) 『小学生のおんがく1 教師用指導書』(教育芸術社,2014) 『小学生の音楽 2 教師用指導書』(教育芸術社,2014) 平成28年9月30日受理

参照

関連したドキュメント

られてきている力:,その距離としての性質につ

Nintendo Switchでは引き続きハードウェア・ソフトウェアの魅力をお伝えし、これまでの販売の勢いを高い水準

市民的その他のあらゆる分野において、他の 者との平等を基礎として全ての人権及び基本

この P 1 P 2 を抵抗板の動きにより測定し、その動きをマグネットを通して指針の動きにし、流

基準の電力は,原則として次のいずれかを基準として決定するも

析の視角について付言しておくことが必要であろう︒各国の状況に対する比較法的視点からの分析は︑直ちに国際法

・分速 13km で飛ぶ飛行機について、飛んだ時間を x 分、飛んだ道のりを ykm として、道のりを求め

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から