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より深い物理的理解を可能とする回路シミュレーションと電磁界シミュレーションの連携技術

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Academic year: 2021

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あらまし 回路シミュレーションと電磁界シミュレーションは電気・電子系の設計や解析において主要なシミュ レーションである.それぞれのシミュレーションで計算していることの内容を理解して,相互に連携することに より,単なるシミュレーションの組み合わせだけでは得ることのできない情報を知ることができる.本論文では その代表的な情報として,実動作時の電磁界分布を得る方法について報告する. キーワード 回路シミュレーション,電磁界シミュレーション,協調解析,ダイナミック・リンク,プッシュ・ エキサイテイション,実動作時の電磁界分布

1.

ま え が き

最近のエレクトロニクス機器においては,高機能化・ 小型化が進んでいる.そのため電子回路の動作周波数 は高くなり,部品は高密度に実装されている.そのた め製品内の電磁気的な結合による雑音や妨害なども対 策が必要な項目になる.更には機器から外部に放射さ れる不要輻射の低減も考慮する必要がある. これらの問題を効率良く解決する,あるいは設計の 初期段階で解決することが望ましい. この現象を把握するためには,原因となる雑音や妨 害波の発生そのものは,回路の動作に起因するので回 路シミュレーションで解析する必要がある.一方発生 した雑音や妨害波の空間の伝播の解析は電磁界シミュ レータで行われる. したがって,どちらか一つでは,問題解決の手段と はならず,両者が連携する必要がある[1]∼[3]. 連携時はSパラメータなどの電気特性の情報だけ でなく,モデルの形状情報コントロールを回路シミュ アンシス・ジャパン株式会社,東京都

Technical Division, ANSYS Japan K.K., Nittochi Nishi-shinjyuku Bldg. 18F, 6–10–1 Nishishinjuku, Shinjuku-ku, Tokyo, 160–0023 Japan a) E-mail: [email protected] レータ側から行うことで(この連携を以降はDynamic Linkと称する)データ補間や協調最適化も高速に実 行できる. 手順としては,電磁界解析の結果を取り込んで回路 解析を行い,その電流と電圧の情報から電磁界シミュ レータの励振源としての情報を設定する(本論文で以 降Push Excitationと称する)必要がある. Push Excitationにより機器の実動作時の電磁場情 報を得ることが可能となる. 本論文では,2.で回路シミュレーションと電磁界 シミュレーション連携の必要性についてより具体的に 述べ,3.で回路シミュレーションと電磁界シミュレー ション連携方法を述べる. 4.で連携の高度機能であるDynamic Linkの動作 とそれを使ったデータ補間について述べ,5.でPush Excitationの例について述べる.

2.

回路シミュレーションと電磁界シミュ

レーション連携の必要性

例として図1のメアンダーラインを介したトラン ジスタの給電回路を考えてみる.この回路の正確な特 性を求めるには,メアンダーラインの正確な特性とト ランジスタの正確な特性のシミュレーションが必要で ある.

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図 1 トランジスタとメアンダー給電線 一般的に回路シミュレータでメアンダーラインを計 算する場合は,並行する線路を結合線路としてモデル 化し,ベンド部も専用の計算モデルを用意してそれら を回路図上で接続して特性計算をする. ところが,対向するベンド部どうし,入出力の引き 出し線路と並行する線路との結合など,回路モデルで 表現するのが難しい部分も多々存在し,正確なシミュ レーションには難がある.それに対して電磁界シミュ レータでは,入力した形状に応じた電磁界現象を計算 するので形状の制限はない. したがって,電磁界シミュレータで計算した結果を 回路シミュレータに取り込んで解析することが必要と なる.この一事からも回路シミュレーションと電磁界 シミュレーションの連携が必要なことがわかる.

3.

回路シミュレーションと電磁界シミュ

レーションの連携方法

回路シミュレータの代表的な解析には,(a) AC解 析,(b)ハーモニック・バランス解析,(c)トランジェ ント解析がある[4].(a)と(b)は周波数領域のシミュ レーションで,(c)が時間領域のシミュレーションで ある. 一方,電磁界シミュレータの解析対象である電子機 器の基板や高周波部品などは,一般的には受動的かつ 線形な挙動を示す.また解析精度に直結する物性値の 精密なデータは周波数特性として得られる.そこで 電磁界シミュレーションにおいてはSパラメータの ような線形時不変なパラメータを求めることが多い. 図 2 増幅回路と実装基板 図 3 Sパラメータを含んだシミュレーション回路 電磁界シミュレーションの解析手法としては有限要素 法[5], [6]やモーメント法[7]が使われることが多い. 回路シミュレーションとの関係を見ると(a)と(b)は 周波数領域の解析であるので,電磁界シミュレーショ ンのSパラメータはそのまま利用できる. 一方(c)は時間領域のシミュレーションであるので, 周波数領域のSパラメータはそのままでは利用でき ず,インパルス応答の重畳積分を使う方法[8]や状態 空間モデル[9]などのマクロモデルに変換して計算す る方法がある.このときSパラメータに関連して注意 すべき点として1受動性,2因果律がある.1の受動 性とは対象物でエネルギーの発生がないことである, 受動性に問題があるとシミュレーションが不安定にな る.2の因果律は原因となる事象が起きてから結果の 現象が起きること云う.これの違反があると波形が正 しく解析されなくなる[10]. 1 については電磁界シミュレータの計算精度を上げ ることで問題を回避できる場合が多い,2については 誘電体の誘電率や損失の周波数特性を実測に近いもの とすることで回避できる[11].この 21ともに電磁界 シミュレータで対応すべきものであるが,軽微な違反

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を利用することで更なる解析[12]が可能となる.以下 その例を紹介する. 4. 1 データ補間 図4にショートスタブとシリーズにコンデンサを接 続した回路の例を示す.ショートスタブとコンデンサ を搭載する導体パターンは電磁界シミュレーションを 行い,コンデンサは回路シミュレーションで考慮する. ショートスタブはメアンダーラインとなっており,図 示されている横幅を5mm,6mm,7mmでパラメト リック解析を行って,電磁界シミュレーションで特性 計算を行う.得られた特性(Sパラメータ)は線形時 不変であるので,パラメータの刻み幅が荒くない場合 は,計算していないパラメータ値についても内挿補間 で十分実用的な精度が期待できる. 図 4 ショートスタブを含んだ基板 図 5 コンデンサを接続した回路 一方電磁界シミュレーションは長時間を要する.この 両者のパラメータを振って,計算時間を実用的な範囲 に収めた最適化を行うには,電磁界シミュレーション の計算時間を短くする必要がある.4.1で行ったデー タ補間では電磁界シミュレーションそのものは行って いないが,実質的には短時間のシミュレーションを行っ たのと同等と考えることができる. これらの最適化の例を示したものが図8 (a)と図8 (b) である.図8 (a)は最適化前の特性であり,周波数が 図 6 Dynamic Link処理フロー 図 7 電磁界解析の結果を使って補間計算した S21

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図 8 (a)最適化の前の S11,(b) 最適化後の S11 0.65GHz∼0.75GHzの範囲でS11を−8dB以下にす ることを目標としている.ショートスタブの横幅とコ ンデンサの容量値の双方を変化させて最適化を行って いる.横幅が主に落ち込みの周波数を決定し,コンデ ンサの容量値が落ち込み幅を決めている.図8 (b)は 最適後の特性で目標に適合していることがわかる. この例では回路素子と物理形状というカテゴリーの 異なるパラメータを同一の扱いで最適化している.

5. Push Excitation

回路シミュレーションと電磁界シミュレーションの 連携が進むと機器の動作時の電磁界分布を求めたいと いう要求が出てくる. ここで機器の動作状態から考えてみると,無線機の RF部では変調はあるにしても回路解析はAC解析や ハーモニック・バランス法の解析で所期の目的を達す ることも多い. 一方ディジタル機器からの不要輻射は実際にデータ が流れている状態で発生するものである.これを解析 するには,ある程度の長さのディジタル信号を流した 上で不要輻射の成分を計算する必要がある.これの計 算では信号源として擬似ランダム信号を使い過渡解析 を行う. 図9にPush Excitationの処理フローを示す.トラ 図 9 Push Excitationの処理フロー ンジェント解析により求められた各端子の電圧波形や 電流波形は,フーリエ変換によりスペクトラム成分に 変換される.そのスペクトラムの大きさに従って電磁 界シミュレータの励振源が設定される.このことによ り回路の動作時の電磁界分布を各周波数ごとに表示す ることが可能となる[13]. この技術では,実際の動作に即してプリント基板な どの電流分布を表示している.そのため機器の動作に 問題があるときにどの部分の回路が問題になったのか, あるいはプリント基板のどの部分のパターンが問題に なるのか視覚的に確認することも可能である.特にビ アの周囲などの電流分布を確認できることは,今まで 感覚的に把握されたアースの強さを示す一つの指標と 見ることもできる. 図10にRF増幅器の例を示す.この例では回路シ ミュレーションはハーモニック・バランス法を使って 計算している.図11はPush Excitationを行った後 の基板導体の電流密度を示したものである.入力部よ りも出力部の電流密度が高い,ビア周辺の電流密度が 視認できるなどの回路の基本的な動作を電流分布から 確認できる. 図12は3m場と遠方界を表示している例である. 図13はディジタルIC基板の例である.ディジタル

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図 10 RF増幅器と実装基板 図 11 基板導体の電流密度 図 12 3m場の電界と遠方界 ICのドライバーとレシーバーについてはIBISモデル を使って基板上に実装した状態を想定し,擬似ランダ ム信号を入力してアイパターンを観察した例である. 図 14 信号波形とアイパターン 図 15 基板の電流密度(@200MHz) 図14はこのモデルの信号波形とアイパターンの計 算結果である. 図15はPush Excitationを行ってプリント基板の 電流密度を確認したものである.信号線に電流が多く 流れていることが確認できる.この現象は当たり前の ものである. しかし,信号線以外のところに電流が流れている導

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体パターンが存在する. これがなぜ起きるのか追及することで基板のパター ン間の意図しない結合を解明する手がかりにもなり える.

6.

む す び

電磁界シミュレーションと回路シミュレーションの 連携は従来は,電磁界シミュレーションの結果を回路 シミュレーションで使うだけの方法であった.しかし, シミュレーションが普及するに従って機器の動作時の 電磁界分布もシミュレーションしたい要望が高くなっ た.これらは回路シミュレーションの結果を電磁界シ ミュレータに引き渡すことにより実現できることを述 べた. 文 献

[1] M.P. Magalh˜aes, M.V.T. Heckler, A. Winterstein, and L.A. Greda, “A simulation technique for RF amplifier circuits using ANSYS electronics desktop,” 2016 IEEE International Symposium on Antennas and Propagation (APSURSI), pp.739–740, 2016. [2] M. Smulski, “Refresh your memory,” ANSYS

AD-VATEG, vol.VIII, no.3, pp.15–17, 2014.

[3] X. Lecoq and D. Rousseau, “Ensuring Electro-magnetic Compatibility,” ANSYS ADVATEG, no.3, pp.10–13, 2017.

[4] 浅井秀樹,“SPICE 誕生から 40 年,アナログ回路シミュ

レータに用いられる解析アルゴリズムとその最新傾向,”

信学誌,vol.101, no.1, pp.73–78, Jan. 2018.

[5] P.P. Ferrari and R.L. Silvester, Finite Elements for Electrical Engineers, Cambridge University Press, 1983.

[6] J.F. Lee and Z.J. Cendes, “An adaptive spec-tral response modeling procedure for multiport mi-crowave circuits,” IEEE Trans. Microw. Theory Tech., vol.MTT-35, no.12, pp.1240–1247, Dec. 1987. [7] R.F. Harrington, Field Computation by Moment

Methods, Wiley-IEEE Press, 1993.

[8] 宮川 洋,城戸健一, 井茂男,鎌田一雄,金子尚志,小島 敬基,石井光雄,須貝恒久,原島 博,ディジタル信号処 理,電子情報通信学会,東京,1975. [9] 示村悦二郎,線形システム解析入門,コロナ社,東京, 1987. [10] 水本哲弥,フーリエ級数・変換/ラブラス変換,オーム社, 東京,2011.

[11] A.R. Djordjevic, R.M. Biljic, V.D. Likar-Smiljanic, and T.K. Sarkar, “Wideband frequency-domain char-acterization of FR-4 and time-domain causality,” IEEE Trans. Electromagn. Compat., vol.43, no.4, pp.662–667, Nov. 2001.

[12] “ANSYS Electromagnetic Suit R19.0, Circuit Online Help,” pp.2873–2904, ANSYS, 2018.

[13] “ANSYS Electromagnetic Suit R19.0, Circuit Online Help,” pp.2777–2793, ANSYS, 2018. (平成 30 年 3 月 5 日受付,6 月 14 日再受付, 10月 10 日公開) 上野 守章 (正員) 1980信州大学工学部電気工学科卒.同 年アルプス電気株式会社入社,高周波部品 の開発に従事.2002 アンソフト・ジャパ ン株式会社に入社.2010 米アンシス社の アンソフト社買収に伴いアンシス・ジャパ ン株式会社に移籍.現在,主に回路シミュ レータと電磁界シミュレータのユーザサポートに従事.

図 1 トランジスタとメアンダー給電線 一般的に回路シミュレータでメアンダーラインを計 算する場合は,並行する線路を結合線路としてモデル 化し,ベンド部も専用の計算モデルを用意してそれら を回路図上で接続して特性計算をする. ところが,対向するベンド部どうし,入出力の引き 出し線路と並行する線路との結合など,回路モデルで 表現するのが難しい部分も多々存在し,正確なシミュ レーションには難がある.それに対して電磁界シミュ レータでは,入力した形状に応じた電磁界現象を計算 するので形状の制限はない. したがって
図 8 (a) 最適化の前の S11,(b) 最適化後の S11 0.65GHz 〜 0.75GHz の範囲で S11 を −8dB 以下にす ることを目標としている.ショートスタブの横幅とコ ンデンサの容量値の双方を変化させて最適化を行って いる.横幅が主に落ち込みの周波数を決定し,コンデ ンサの容量値が落ち込み幅を決めている.図 8 (b) は 最適後の特性で目標に適合していることがわかる. この例では回路素子と物理形状というカテゴリーの 異なるパラメータを同一の扱いで最適化している. 5
図 10 RF 増幅器と実装基板 図 11 基板導体の電流密度 図 12 3m 場の電界と遠方界 IC のドライバーとレシーバーについては IBIS モデル を使って基板上に実装した状態を想定し,擬似ランダ ム信号を入力してアイパターンを観察した例である. 図 14 信号波形とアイパターン図15 基板の電流密度(@200MHz)図14 はこのモデルの信号波形とアイパターンの計算結果である.図15はPush Excitationを行ってプリント基板の電流密度を確認したものである.信号線に電流が多く流れているこ

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