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高強度・高導電率銅合金の開発
低濃度のAg添加で世界一の強度・導電率バランスを実現 平成17年12月 5日 独立行政法人物質・材料研究機構 概 要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)、超鉄鋼研究センター(センタ ー長:長井 寿)、金相グループの坂井 義和主幹研究員、堀 洋子技術補助員は、世界 一の強度と導電率バランスを持つ銅合金の開発に成功した。 2.銅や銅合金は電気を通す機器の素材として様々な目的に使用されており、機器の軽量、 小型、薄型化が望まれている現状では今までより高強度・高導電率の銅合金の開発が待 ち望まれていたが、銅合金の強度と導電率は反比例しており、強度を上げると導電率が 下がり、導電率を上げると強度が下がるというジレンマを抱えていた。 3.今回開発した手法は従来の十分の一という少量の Ag(銀)を含有し、残部が Cu(銅) からなる合金組成の鋳塊を溶製し、溶体化処理後水焼入れを行い、表面を研削したあと に冷間加工を行い、その途中で熱処理を施し、さらに冷間加工するという手順であり、 通常の強度を意図した手法では常識外である熱処理を加えることが特徴の一つである。 4.作製した合金は3つの大きな特徴を持つ。まず1つめに「銅合金中、最も優れた強度・ 導電率バランスを有する」ことが挙げられる。これは、強度では高強度銅合金の代表で あるCu−Be合金に匹敵し、導電率は3.5倍という驚異的な特性を持つということ であり、機器の小型、軽量、薄型化に寄与し、電気エネルギーの消費や熱の発生を抑制 することにもつながる。2つめの特徴は「単純な合金系であり、添加元素を抑えている こと」である。これは、大量生産、リサイクル等トータルな観点からコストパフォーマ ンスで優れていると言える。3つめの特徴は「優れた加工性」、中間焼鈍処理無しで超強 加工域まで容易に加工できるため、多様なサイズや形状の部品の製造が可能になる。 5.本手法により作製した合金は、電線・ケーブル、ロボット駆動用ケーブル、整流子片、 モーターコイル、マグネットコイル、リードワイヤー、リードフレーム、導電性バネ材 (リレー、コネクター)、超電導線の補強材料など高強度で且つ高導電性を必要とする多 種多様な製品の導体材料として有望であるとともに、それらの電気、電子機器、機械の 軽量、小型、薄型化を可能にするうえ、低コスト化を実現するなど、製品の付加価値を 高められるものと期待される。研究の背景 銅や銅合金は電気を通す機器の素材として電線・ケーブル、ロボット駆動用ケーブル、 整流子片、モーターコイル、マグネットコイル、リードワイヤー、リードフレーム、導電 性バネ材(リレー、コネクター)、超電導線の補強材料など多種多様に利用されており、今 日では、さらにそれらの電気、電子機器、機械の軽量化、小型化、薄型化が要求されてい る。これらの要求を実現するためには高強度・高導電率銅合金の開発が不可欠であった。 図1は一般に使用されている銅合金の強度1)と導電率を示したものである。図から分か るように、強度(引張強さ)と導電率はトレードオフの関係で、高導電率銅合金では強度 が低く、高強度銅合金では導電率が低くなる。(開発が望まれている領域は黄色で示した部 分) 当機構は12年前に従来の銅合金よりはるかに強度―導電率バランスが優れた高強度・ 高導電率 Cu-Ag 合金を開発した。その特性を従来材と比較して図2(Cu-24wt%Ag 合金の例) に示す。この合金は Cu に 7wt%∼45wt%Ag を添加することにより初晶2)Cu と Cu 及び Ag の 共晶3)相とを均一且つ微細に晶出させた後、冷間で伸線加工、或いは圧延加工を行うこと で初晶及び共晶相をフィラメント状に引き伸ばして強度を向上させ、さらに、加工途中に おいて真空雰囲気あるいは不活性ガス雰囲気中で 350℃∼450℃、1∼2h の多段熱処理4)を 施すことにより初晶及び共晶相に固溶している Ag 及び Cu を析出させて、高強度とともに 高導電率を実現している。しかしながら、この場合には 7wt%以下の Ag 添加では強度向上 には効果がないとされており、この点で、より少量の Ag 添加では特性向上が図れないとい う限界がある。また 7wt%以上の多量の Ag 添加を必須としていることは加工性やコストパ フォーマンスの観点から一般汎用分野での利用が制限されるという問題があった。 この問題を解決すべく 1∼10wt%の Ag を含有する銅合金を冷間加工し、この冷間加工の 途中で真空雰囲気又は不活性ガス中で 800℃の温度で、3 時間熱処理し、さらに冷間加工を 行いこの冷間加工の途中で、真空雰囲気又は不活性ガス中で再結晶5)が生じないような低 温度、350℃で、3 時間熱処理を施した後、さらに冷間加工することにより高強度と高導電 率が実現できるとする製造方法が提案されているが、強度及び導電率共に改善の効果はほ とんど得られていない。 以上の背景から、低濃度の Ag 添加材においても簡便な手法により従来実現できなかった 高強度・高導電率特性を有する銅合金の製造を可能にする、新しい Cu-Ag 合金とその製造 方法を開発することを目的として以下に示す研究成果を得た。 研究成果の内容 本研究は上記の問題点を解決するべくなされたもので、1∼6wt%の Ag を含有し、残部が Cu からなる合金組成の鋳塊を溶製し、800℃、2hの溶体化処理6)後水焼入れを行い、表面 を研削した後、冷間加工を行いその途中で、真空雰囲気又は不活性ガス中で 400℃以上 550℃未満の温度で再結晶化熱処理を施し、さらに冷間加工をすることにより 2wt%Ag の低 濃度においても 1200MPa7)、80%IACS8)以上の従来実現できなかった高強度で高導電率特性 を有する銅合金の製造を可能にする。本研究は冷間加工途中で十分再結晶が生じる温度で
比較的長時間保持するという、強度を意図した材料を得んとする場合に常識外である熱処 理を加えることを特徴の一つとするもので、冷間加工工程中ただ1回の熱処理によって強 度はその後の冷間加工度の上昇に伴い急激に向上するとともに、加工度9)η (但し、 η=InAO/A AO:加工前断面積、A:加工後断面積)が 11 以上の超強加工域まで中間焼鈍処理1 0)なしで加工できるという、従来全く予想出来なかった知見とその確認に基づくものであ る。 図3は従来法と本手法で加工した Cu-3wt%Ag 合金の強度と加工度ηの関係を示す。従来 法では、溶製した鋳塊を、まず加工度η=0.63(50%)まで冷間加工を行い、その後 800℃、 3hの溶体化処理を施す。それに伴い強度は 450MPa から 250MPa まで低下する。その後、冷 間加工をη=1.19(70%)まで行い、再結晶が生じない 350℃の低温度で 3hの熱処理を施 す。熱処理後の強度は 441MPa で、熱処理前(428MPa)よりも若干高くなる。さらに加工度 η=3.88(97.9%)まで冷間加工を行うことで、強度は 640MPa 程度まで上昇するが、その 後加工度が増しても上昇しない。一方、本手法は溶製した鋳塊に 800℃、2hの溶体化処理 を施し、表面を研削した後、加工度η=0.37(30%)まで冷間加工を行い、十分再結晶が生 じる温度(450℃)で比較的長時間(15h)保持する。熱処理後の強度は 450MPa から 250MPa まで低下する。強度はその後の冷間加工によって緩やかに上昇するが、加工度η=4.45 (98.8%)までは従来法よりも低い。しかし、加工度η=4.45(98.8%)以上では、加工度 の増加に伴って強度が著しく上昇することがわかる。 図4は Cu-3wt%Ag 合金を種々の温度、時間で熱処理をした場合の強度と加工度の関係の 一例を示す。高温度、長時間熱処理材(450℃,10h材、450℃,20h材)の強度は低温度、短 時間熱処理材(350℃,10h材、430℃,3h材、450℃,5h材)に比較して低加工度域において は低いが、高加工度域では著しく高くなり、従来実現できなかった特性が低濃度 Ag 添加材 で可能になる。 この熱処理で重要なことはCuマトリックス中に固溶している Ag を最大限に析出させ ることにあり、そのためには冷間加工途中において再結晶が生じる温度以上で比較的長時 間保持し、マトリックスを 100%再結晶化させることが肝心である。 図5は熱処理前後の顕微鏡組織写真を示す。(a)は 3wt%Ag 合金を溶体化処理後、冷間で 加工度η=0.53 まで加工した材料の組織を示す(b)は(a)の状態の材料を 350℃、10h 熱処理をし た後の組織を示す。(c)は(a)の状態の材料を 450℃、10h 熱処理をした後の組織を示す (b)で の組織は(a)と比較してほとんど変化がないが、(c)では試料全体が再結晶しているのが分かる。 図6は本手法で加工した Cu-1wt%Ag∼6wt%Ag 合金の強度と加工度の関係を示す。それ ぞれの合金は加工度η=0.6 で再結晶化熱処理を行った。熱処理後、それぞれの合金は加工 度η=8 まで冷間加工を行った。Cu-2wt%Ag、及び 3wt%Ag 合金は引き続き加工度η=11 まで 冷間加工を行った。いずれの合金も加工度の上昇にともなって強度が向上し、Ag濃度の 増加に伴って強度の上昇率が高くなることが分かる。 図7に本手法で加工した Cu-1wt%Ag∼6wt% Ag 合金の強度と導電率の関係を示す。Cu-2wt%Ag 合金の強度及び導電率は 1200MPa、81.7%IACS、Cu-3wt%Ag 合金では 1400MPa、 76.4%IACS という、低濃度材では実現できなかった高強度、高導電率が得られる。
波及効果と今後の展開 第一の特徴は銅合金中で最も優れた強度―導電率バランスを有することである。強度は 高強度銅合金の代表である Cu-Be 合金に匹敵し、導電率はその 3.5 倍という驚異的な特性 を有する。強度は機器の小型化、軽量化、薄型化に寄与し、導電率はエネルギーの消費や ジュール熱の発生を抑制する。例えばロボット産業を考えた場合、近い将来、ロボットの 技術革新は益々盛んになりロボットは工業分野や一般家庭に今以上に導入されると考えら れるが、これらの機器には電子機器の軽薄短小、駆動部分の耐久性(駆動部分の配線は繰 り返し応力がかかる)等を究極まで追求することが要求されるし、電力やバッテリーの消 費を抑制することが必要となる。 第二の特徴は単純な合金系(2 元系)で且つ添加元素を極力抑えていることである。材 料の特性、信頼性、耐久性、製造工程の容易さ{設備、溶解、加工、熱処理}、大量生産、 環境、資源、リサイクル等トータルな観点からコストパフォーマンスに優れている。 第三の特徴は優れた加工性が挙げられる。中間焼鈍処理なしで加工度η が 11 以上の超 強加工域まで容易に加工できる(20μm程度の極細線や箔の製造ができる)。従って、多様 なサイズや形状の部品の製造が可能になる。 従来材では不可能であった特性(高強度、高導電率、極細)を有する材料が本発明によ って低コストで製造できることは、電機、電子産業分野で大きな経済効果が期待できる。 問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1−2−1 独立行政法人物質・材料研究機構 広報室 TEL:029-859-2026 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 超鉄鋼研究センター 金相グループ 主幹研究員 坂井 義和(さかいよしかず) TEL:029-859-2158 E-mail: [email protected]
【用語解説】 1)強度(引張強さ): 引張試験において最大引張荷重を試験片平行部の断面積で除した値のこと。 2)初晶: 溶融金属が凝固するさいに、最初に晶出する結晶。この場合はCu。 3)共晶: 溶融合金から同時に 2 種の固相が析出すること。 4)多段熱処理: 加工と熱処理を繰り返しおこなうこと。(加工―熱処理―加工―熱処理−加工) 5)再結晶: 冷間加工によって歪を生じた金属を加熱すると、その内部に新しい結晶粒の核が生まれ、 これが成長して全体が歪みのない結晶粒によって置き換わる過程のこと。 6)溶体化処理: 合金を化合物などの溶解度線以上の温度に加熱した後、室温に急冷して過飽和固溶体を 作る操作のこと。 7)MPa: 応力の単位(1000MPa は 102kgf/mm2と同等で、断面積 1 mm2あたり 102kg の荷重に耐える) 8)%IACS : 導電率を表わす単位。焼鈍した軟銅の 20℃における抵抗値(1.7241μΩcm)を 100%IACS (International Annealed Copper Standard)として、材料の導電率はこれと比較して百 分率で表わす。
9)加工度:
材料の塑性加工において、加工の程度を表わす。この実験の場合伸線加工を行うので Draw
Ratio η=InAO/A (AO:加工前断面積、A:加工後断面積)で表示してある。
10)焼鈍処理(焼なまし):
冷間加工した金属を加熱すると加工によって変化した性質が加工前に近い状態に戻る加 熱操作のこと。中間焼鈍処理は冷間加工工程中にその操作を行う。
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Conductivity(%IACS)
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Cu-Ni-Si開発が望ま
れる領域
図1 従来銅合金の強度と導電率の関係0
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Conductivity(%IACS)
Cu-Ti
Cu-Zn
Cu-Be
Cu-Sn
Cu
Cu-Zr
Cu-Cr
Cu-Ni-SiCu-Ag
図2 Cu-24wt%Ag 合金の強度と導電率の関係200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 1 2 3 4 5 6 7 8 従来法 本発明法 Ul ti ma te Ten si le St re ngt h ( MP a) Draw Ratio Cu-3wt%Ag (1)(2) (1) (1)800℃、3h (2)350℃、3h (1)800℃、2h (2)450℃、15h 熱処理条件 (2) 図3 従来法と本手法で加工した Cu-3wt%Ag 合金の強度と加工度の関係 200 400 600 800 1000 1200 0 2 4 6 8 10 350℃,10h 430℃,3h) 450℃,5h 450℃,10h) 450℃,20h) Ul ti ma te Ten s ile St re ngth (M Pa ) Draw Ratio Cu-3wt%Ag 図4 Cu-3wt%Ag 合金を種々の温度、時間で熱処理をした場合の強度と加工度の関係
(a) Cu-3wt%Ag 加工度η=0.53 (熱処理前)
(b)Cu-3wt%Ag 加工度η=0.53、350℃,10h(熱処理後)
(c) Cu-3wt%Ag 加工度η=0.53、450℃,10h(熱処理後) 図5 Cu-3wt%Ag 合金の熱処理前後の組織
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 0 2 4 6 8 10 12 1wt%Ag 2wt%Ag 3wt%Ag 4wt%Ag 5wt%Ag 6wt%Ag U lti m ate Ten s ile Str e ngth (MP a ) Draw Ratio 図6 本手法で加工した Cu-1wt%Ag~6wt%Ag 合金の 強度と加工度の関係 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 65 70 75 80 85 90 95 100 105 1wt%Ag 2wt%Ag 3wt%Ag 4wt%Ag 5wt%Ag 6wt%Ag Ulti ma te Ten si le Str ength (MPa ) Conductivity (%IACS) 図7本手法で加工した Cu-1wt%Ag~6wt% Ag 合金の 強度と導電率の関係