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糖尿病運動療法・療養指導における理学療法士の可能性

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 771 ~ 772 糖尿病運動療法・療養指導における理学療法士の可能性 頁(2015 年). 771. 分科学会シンポジウム 2(日本糖尿病理学療法学会). 糖尿病運動療法・療養指導における理学療法士の可能性* 野 村 卓 生**. 法の適応が重要と考えられる。. はじめに. 高齢化が身体機能に与える影響により,糖尿病治療として一. 平成 12 年に日本糖尿病療養指導士認定機構が設立され,糖. 般的に処方されるウォーキングに代表される運動療法の適応が. 尿病治療にもっとも大切な自己管理(療養)を患者に指導する. 難しい糖尿病患者が増えると考えられる。さらに,糖尿病治療. 医療スタッフである日本糖尿病療養指導士(Certified Diabetes. という目的以外にも高齢患者には積極的な運動療法の適応が必. Educator of Japan:以下,CDEJ)の認定が開始された 1)。平. 要である。. 2). 2.糖尿病合併症が運動器へ及ぼす影響を考慮することの必要性. 患者の療養支援にその専門性を発揮している。理学療法士の. 糖尿病患者では糖尿病神経障害(diabetic neuropathy:以. CDEJ 有資格者数は 918 名と CDEJ が取得できる全職種の中で. 下,DN)の合併とその重症化によって筋力が低下 10)11),高齢. 成 26 年 6 月現在,CDEJ の有資格者数は 18,379 名であり. もっとも少ないのが実情である. ,. 2). 。. 糖尿病患者では同年代の非糖尿病者と比較すると筋肉量および 12). 日本理学療法士協会による理学療法対象疾患の経年的推移を. 筋力が低下しており. 概観すると,1990 ~ 2000 年まで全体の 12 位だった糖尿病が. ることが明らかにされている 13)。これらの先行研究の対象は,. 2005 年の調査では 8 位となった 3)。日本理学療法士協会では,. リハビリテーションを必要とするような障害を有する患者では. 2013 年 6 月に日本理学療法士学会ならびに下部組織である 12 の. ないにもかかわらず,対照群と比較すると数%から数十%の筋. 分科学会を設立し,その 1 分科学会として日本糖尿病理学療法. 力低下を認めることを示したエビデンスである。糖尿病合併症. 学会が設立された。日本糖尿病理学療法学会の平成 27 年 4 月現. の中でも DN はもっとも糖尿病患者に合併する糖尿病特有の合. 在の登録会員数は 3,015 名,第 1 回学術集会を平成 27 年 1 月に. 併症である。日本臨床内科医会の調査研究グループの報告で,. 大阪府で開催するなど学術を重視した活動が進められている 4)。. 12,821 名の糖尿病患者のうち,36.7%が主治医に DN の診断を. 糖尿病運動療法における可能性 1.社会構造の変化に応じた運動療法適応技術を有することの 必要性. ,糖尿病患者では 3 年後により低下す. 受けていることが報告されている 14)。さらに,東北地方の糖 尿病患者 15,000 名のうち,その 52%がアキレス腱反射の低下 を認めることが報告されている 15)。 以上,今後さらに増えると予測される糖尿病患者および糖尿. 日本の 65 歳以上人口は 2042 年にピークを迎えることが予測. 病にもっとも合併しやすい DN の疫学を踏まえ,「糖尿病は運. されている 5)。糖尿病患者についても今後も増加することが予. 動器疾患である」といっても過言ではないと考えている。前述. 測されており. 6). ,これらは今後も糖尿病患者が増加する中で糖. した加齢による影響とともに糖尿病療養において運動器の問題. 尿病患者に占める高齢者の割合が現状よりもさらに増加するこ. を考慮した指導が重要である。. とを示す事実である。. 3.理学療法対象患者において,糖尿病合併を考慮することの. 高齢者全般にかかる問題として,サルコペニアがある 7)。加. 必要性. 齢に伴い 40 歳頃から筋量の減少がはじまり,40 歳からの 35. 理学療法の対象としてもっとも多い疾患のひとつが脳血管障. 年間で男性では約 10%,女性では約 6%の四肢筋量減少が想定. 害である。糖尿病は,脳梗塞の独立した危険因子であり,糖尿. 8). 病患者における脳梗塞の発症リスクは非糖尿病者の 2 ~ 4 倍高. されることが報告されている. 。また,筋力については膝伸展. 16). 筋力を例にとると 20 歳代と 30 歳代を比較すると,すでに男女. 値となる. ともに 30 歳代から筋力が低下しており,20 ~ 80 歳代までに. 回復期リハ患者の 24%に糖尿病を認め,76%に耐糖能異常を. 男性では平均で約 40%の低下,女性では約 50%の低下が想定. 認めたとの報告がある 17)。糖尿病患者が心筋梗塞を起こす危. される 9)。高齢の糖尿病患者においては,糖尿病治療のための. 険度は健常者の 3 倍以上,高齢糖尿病患者の認知症のリスクは. 運動療法の適応という面に加えて,介護予防の面からも運動療. アルツハイマー型および脳血管性認知症ともに非糖尿病者の 2. *. Possibility of Physical Therapists in Exercise Therapy for Patients with Diabetes Mellitus ** 関西福祉科学大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学 専攻 (〒 582–0026 大阪府柏原市旭ヶ丘 3–11–1) Takuo Nomura, PT, PhD, CDEJ: Kansai University of Welfare Sciences, Department of Rehabilitation Sciences キーワード:糖尿病,療養指導,理学療法. 。上月らの報告によれば,東北大学病院の脳卒中. ~ 4 倍 16)であり,糖尿病特有の合併症ではないが糖尿病患者 には末梢動脈疾患を有する患者が多い 18)。 理学療法対象患者において,今後さらに糖尿病を合併した患 者を担当する機会が増すのは確実である。しかしながら,日常 臨床において,糖尿病を合併するすべての理学療法対象患者へ 糖尿病に特化した情報収集や検査・測定を行うのは非現実的で.

(2) 772. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. ある。糖尿病患者の中でも,運動器・運動能力に問題のあるハ. 3.糖尿病療養指導に関する知識と技術の確保. イリスク者の臨床像を明らかにし,より効率的な医療資源の投. チーム医療で求められるのは,まず理学療法士として理学療. 入に結びつけなければならず,我々がエビデンスを示していか. 法の高い専門性を有することが前提である。我々は自らの専門. なければならない課題である。. 性を高めたうえで,その領域に必要な高度で幅広い知識と技術. 療養指導における可能性 1.運動療法の継続性向上の必要性. を研鑽していかなければならない。. おわりに. 運動療法は継続することで,その恩恵(効果)が最大限に得. 理学療法としての学術性を展開していくにあたっては,糖尿. られるが,糖尿病基本治療の中でもっとも実行度が低く,解決. 病を基礎疾患とし,日常臨床で担当する機会の多い脳血管障害. しなければならない最大の問題のひとつである。. や冠動脈疾患などの動脈硬化性疾患に対する理学療法に焦点を. 運動療法の自己管理行動の実行度を高めるためには,患者の. あてることが必要である。. 行動を支援するための行動科学的理論・アプローチ法をもって. 内部障害を専門とする理学療法士のみならず,神経系や運動. 患者教育にあたることが必要不可欠である。しかしながら,患. 器等を専門とする理学療法士が糖尿病に対して関心をもち,糖. 者教育を行うのに必須の行動科学的理論・アプローチ法は,理. 尿病に対する理学療法のエビデンスを構築していくことが必要. 学療法士が体系的なカリキュラムをもって必修科目として卒前. である。. 教育で教授されていない内容である。糖尿病患者に対する運動 療法指導を行う担い手として,理学療法士がその立場を確立す るためには,行動科学的理論・アプローチ法に関する知識と技 術の獲得,研鑽が卒後の生涯教育における重要な課題である。 糖尿病患者における運動療法の実行状況の改善については, 我々理学療法士がエビデンスを示していかなければならない課 題である。また,行動科学的理論・アプローチ法に関する知識 と技術の獲得,研鑽に関しては日本理学療法士協会と日本糖尿 病理学療法学会等との協同による卒後の生涯学習内容の充実化 が必要である。 2.運動器・運動能力に問題のあるハイリスク者への理学療法 介入の必要性 糖尿病特有の合併症として,前述した DN の他に糖尿病網膜 症(diabetic retinopathy:以下,DR),糖尿病腎症(diabetic nephropathy), 糖 尿 病 足 病 変(diabetic foot) な ど が あ る。 DR は成人の中途失明原因の第 2 位,糖尿病腎症は新規透析導 入原因の第 1 位であり 16),糖尿病足病変は下肢切断のもっと も主要な原因である 19)。 糖尿病足病変には,足趾間や爪の白癬症,足や足趾の変形 や胼胝,足趾・足部の関節可動域制限,足潰瘍および足壊疽 まで幅広い病態が含まれ,外観の観察,足背動脈の拍動の確 認,関節可動域,血流障害や神経障害の評価などの診察が必要 である。糖尿病足病変の誘因として足変形等による圧迫や靴擦 れなどが挙げられ,これらに対しては関節可動域運動,足底板 やフットウェアの挿入・適合など理学療法の介入が有効と考え られる 1)。糖尿病足潰瘍を有する患者の 7 ~ 20%が下肢切断 となり,一般に下肢切断の 70%は糖尿病患者で行われ,その 85%は足潰瘍が先行することが明らかにされている 19)。 糖尿病足病変を有する患者においても重要なのが基本病態で ある糖代謝異常の改善であり,最悪の結末である切断を回避す るための対応である。理学療法士は運動療法を治療手段として 糖尿病コントロール状況を改善させることが可能であり,かつ 関節可動域運動,装具療法や物理療法により足病変の悪化予 防・改善をめざすことも可能である。これらの奏功により,下 肢切断予防にも寄与できると考えられるが理学療法士介入の有 効性は十分に示されておらず,エビデンスを示していかなけれ ばならない。. 文 献 1) 清野 裕,門脇 孝,他(監):糖尿病の理学療法.メジカルビュー 社,東京,2015. 2) 日本糖尿病療養指導士認定機構:有資格者・県別職能別集計. http://www.cdej.gr.jp/modules/cdej/index.php?content_id=4 (2015 年 7 月 11 日引用) 3) 野村卓生:糖尿病治療における理学療法 戦略と実践.文光堂, 東京,2015. 4) 日 本 糖 尿 病 理 学 療 法 学 会: 概 要.https://support.japanpt.or.jp/ jspt/jsptdm/(2015 年 7 月 11 日引用) 5) 総 務 省 少 子 高 齢 化・ 人 口 減 少 社 会.http://www.soumu.go.jp/ johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc112120.html(2015 年 7 月 11 日引用) 6) World Health Organization: Country and regional data on diabetes, Prevalence of diabetes in the WHO Western Pacific Region. http://www.who.int/diabetes/facts/world_figures/en/ index6.html(2015 年 7 月 11 日引用) 7) 島田裕之(編):サルコペニアと運動 エビデンスと実践.医歯薬 出版,東京,2014. 8) Yamada M, Nishiguchi S, et al.: Prevalence of sarcopenia in community-dwelling Japanese older adults. J Am Med Dir Assoc. 2013; 14: 911–915. 9) 平 澤 有 里, 長 谷 川 輝 美, 他: 健 常 者 の 等 尺 性 膝 伸 展 筋 力.PT ジャーナル.2004; 38: 330–333. 10) Andersen H, Poulsen PL, et al.: Isokinetic muscle strength in long-term IDDM patients in relation to diabetic complications. Diabetes. 1996; 45: 440–445. 11) Andersen H, Nielsen S, et al.: Muscle strength in type 2 diabetes. Diabetes. 2004; 53: 1543–1548. 12) Park SW, Goodpaster BH, et al.: Decreased muscle strength and quality in older adults with type 2 diabetes: the health, aging, and body composition study. Diabetes. 2006; 55: 1813–1818. 13) Park SW, Goodpaster BH, et al.: Accelerated loss of skeletal muscle strength in older adults with type 2 diabetes: the health, aging, and body composition study. Diabetes Care. 2007; 30: 1507– 1512. 14) 日本臨床内科医会調査研究グループ:糖尿病神経障害に関する 調 査 研 究 糖 尿 病 神 経 障 害. 日 本 臨 床 内 科 医 会 会 誌.2001; 16: 353–381. 15) 佐藤 譲,馬場正之,他:糖尿病神経障害の発症頻度と臨床診断 におけるアキレス腱反射の意義:東北地方 15000 人の実態調査. 糖尿病.2007; 50: 799–806. 16) 日本糖尿病学会(編):糖尿病治療ガイド 2014-2015.文光堂,東京, 2014. 17) 上月正博:脳卒中リハビリテーションと糖尿病.臨床リハ.2009; 18: 970–979. 18) 野村卓生,浅田史成,他:末梢動脈疾患の保存的治療と理学療法. 理学療法.2014; 31: 990–997. 19) 日本糖尿病学会(編):科学的根拠に基づいた糖尿病診療ガイドラ イン 2013.南江堂,東京,2013..

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