理学療法学 第 41 巻第 8 号 598 今,客観的な評価を考えると スポーツ理学療法ではまず対象の評価(assessment, eval-uation)が必要になる。スポーツ理学療法のさらなる充実へ向 けて,客観的な評価の必要性を再考したい。 我が国でスポーツ理学療法が盛んに行われるようになったの は,1980 年代からであろう。スポーツ理学療法の黎明期には, 様々なスポーツ疾患の病態が理解されるようになり,それをど のように理学療法の構築に役立てるかが試行錯誤された。その 基本になったのが,諸外国で出版された書籍や英語での研究論 文であった。 多くの研究は後ろ向きに行われたが(retrospective study), 特にスポーツ外傷・障害の発生機序が分析され,それによって スポーツ理学療法のかたちが徐々に形成されていった。スポー ツ復帰に至るためにはどのような条件をみたせばよいか,多く の経験の要素も含めて積み重ねが行われた。そのために,適切 な評価が行われ,治療内容の充実へと展開されていった。この ような基本的なベースのうえに理学療法の技術が積み上げられ てきた。 客観的な評価を続けていくと,数値化によるエビデンスを 構築することが可能になる。膝関節筋力であれば,「左右差が 15%以下になれば,スポーツ復帰が可能である」というように, 一見して乱暴に感じるようなところもあるが,理学療法士の臨 床経験の蓄積から生まれてきた。ところが「失われた理学療法 評価の 20 年」とでもいえようか,現在のスポーツ理学療法で は基礎的なデータを無視し,身体機能の改善=スポーツ動作の 再獲得に目が向きすぎであることを危惧しているのである。 筋力評価= MMT の限界 重要な体力要素のひとつである,筋力を例にとる。20 年前 は単関節筋力を含めた基本的な体力要素の評価が重要視された が,現在は運動連鎖(kinetic linkage)を含めたスポーツ動作 の評価へと理学療法士の興味がシフトしている。この筋力評価 の問題点を,図 1 に家(ハウス)を建てることを考えた例で示 すとわかりやすいと思う。まず基礎の構造があり,そこに 1 階, 2 階と積み上げられて家が完成するという考えである。この基 礎構造がきちんとできあがらないと,家をつくってもしっかり と建たないのではないか,スポーツでいえばやはり十分な復帰 ができないのではないかと感じる。 この基礎構造になる筋力は,多くの理学療法士は徒手筋力検 査(以下,MMT)で情報を得てきた。MMT4 とグレードづけ されたものに対して,「1 ヵ月のトレーニングで MMT5 にする」 といってもやはり大きな限界がある。「MMT4 を 5 に」という ような理学療法の目標設定は,やはり客観性がないといわざる を得ないだろう。 運動療法の効果を決定する因子は様々である。筋収縮のタイ プ,与える抵抗力の強さ,抵抗を与える位置,抵抗を与える方 向,運動速度,運動範囲,運動回数,休止時間,セット数,1 日の頻度,1 週間の頻度,1 クールの期間,運動連鎖,さらに 疲労の程度,栄養状態,モチベーションの高さ,そして疼痛や 合併症の影響など,理学療法士はたいへん多くの要素を鑑みな がら運動療法を実践している。やはり客観的な連続変数で示さ れるような評価ができていないと,きちんとした成果を得るこ 理学療法学 第 41 巻第 8 号 598 ∼ 599 頁(2014 年)
スポーツ復帰に向けての客観的な理学療法評価
*
浦 辺 幸 夫
1)坂 本 雅 昭
2)運動器理学療法研究部会
*The Importance of Physical Therapy Assessment for Return to Sports Activities
1) 広島大学大学院医歯薬保健学研究院 統合健康科学部門スポーツリハ ビリテーション学研究室
(〒 734‒8553 広島市南区霞 1‒2‒3)
Yukio Urabe, Professor, PT, PhD, MA, JASA-AT: Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University 2) 群馬大学大学院保健学研究科
Masaaki Sakamoto, PT, PhD, JASA-AT: Graduate School of Health Sciences, Gunma University
キーワード: evidence based sports physical therapy,measure-ment of muscle strength,objective test
図 1 筋力評価の(ハウス)構造
Japanese Physical Therapy Association
スポーツ復帰に向けての客観的な理学療法評価 599 とは困難であろう。 それを簡単に補えるのは「徒手筋力計」の使用であろう(図 2)。等尺性の最大下の筋収縮力を数値化できる。これまで MMT の制動法(break test)の肢位で,そのまま等尺性筋力 として表示できるので,在来の理学療法にプラスになることが あっても,マイナスになることはないと考えている。図 2 のよ うにベルト等を使用すれば,相応に強い筋力に対しても抵抗で き,ある程度正確な値が求められる。MMT ではわからない左 右差や,男女での筋力の違いなどもあきらかにできる。徒手筋 力計による測定が,すぐに MMT に代わるものまではいわない が,客観的な筋力評価から運動処方を行うためには不可欠とい えよう。 動的な筋力測定 ス ポ ー ツ 理 学 療 法 の 発 達 は「 等 速 度 性 筋 力(isokinetic muscle strength)」の測定が寄与した点も大きい。我が国には 稼働できる等速度性筋力測定装置が約 1,500 台あると考えられ る(図 3)。想像にたがわず,国民ひとりに対する台数はやは り世界屈指であろう。たいへんに恵まれた環境である。実際ど の程度使用されているかというと,20 年前よりもあきらかに 使用頻度が下がっているように思う。 スポーツ理学療法を行う理学療法士はあきらかに増えている だろう。そのなかで,筋力測定を再度重要視し,最終的なス ポーツ動作の獲得のための単関節運動の重要性ということに, 改めて気づく必要があると思う。スポーツ医療にレントゲンの 画像や MRI は不可欠で多くの情報を与えてくれる。私たちが スポーツ理学療法を行う際に等速度性筋力測定は,それに代わ るものだと考えている。このような装置を保有していない理 学療法士も多いと思うが,「等速度性筋力測定の検査」の依頼 を普通にだして,その結果をスポーツ理学療法に使う。恵まれ た環境にあることを意識して,多くの対象に恩恵を還元するこ とをめざしたい。このようなことが,失われた 20 年の反省と, 次の 10 年に客観的なエビデンスのあるスポーツ理学療法の内 容を構築するためには不可欠であると考える。 図 2 徒手筋力計による筋力測定 図 3 筋力評価のありかたは?
Japanese Physical Therapy Association