資 料
*1国立成育医療研究センター看護部(Department of Nursing, National Center for Child Health and Development, Tokyo, Japan)
*2国立成育医療研究センター研究所政策科学研究部(Department of Health Policy, National Center for Child Health and Development, Tokyo, Japan) 2015年3月11日受付 2015年12月18日採用
切迫流早産妊婦における「衣服による体幹への締め付けを
回避する保健指導」が早産予防にもたらす効果の検討
—電子カルテのデータを用いた研究—
Advice from healthcare providers to pregnant women admitted
for thereatened miscarriage or premature birth to avoid wearing
constrictive clothing during pregnancy: a retrospective study
加 藤 佐知子(Sachiko KATO)
*1竹 原 健 二(Kenji TAKEHARA)
*2新 田 知恵子(Chieko NITTA)
*1大 田 えりか(Erika OTA)
*2 抄 録 目 的 本研究では電子カルテを用いて,切迫流早産で入院した妊婦を対象に実施されてきた,「衣服による 体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産のリスク低減にもたらす効果を検討することを目的とし た。 対象と方法 本研究のデザインは電子カルテのデータを用いた後ろ向き研究である。本研究の対象は2011年4月1 日から2013年3月31日の時点で,調査協力施設に切迫流早産の診断を受けて入院をしていた妊婦230人 のうち,対象基準を満たした208人とした。入院期間中に看護師や助産師が「衣服による体幹への締め 付けを回避する保健指導」を実施した者を保健指導実施群,実施されなかった者を対照群とした。すべ てのデータは電子カルテから収集された。 結 果 対象者の基本属性では,平均年齢が34.7歳(標準偏差(SD):5.0),経産婦が103人(49.8%)であっ た。保健指導が実施された保健指導実施群は150人(72.1%)であった。二変量解析の結果,保健指導の 実施の有無は,妊娠34週未満の早産(p=0.077),妊娠37週未満の早産(p=0.875)のいずれとも統計学的 に有意な関連は認められなかった。しかし,先行研究の知見をもとに,社会経済的な要因や過去の受診 歴などの交絡因子の影響を調整した多変量解析では,保健指導実施群の妊娠34週未満の早産に対するAdjusted Odds Ratio(AOR)は0.15(95% Confidence Interval(CI):0.04-0.57)と妊娠34週未満の早産のリ
スクを低下させることが示された。妊娠37週未満の早産との関連は示されなかった(AOR:0.67(95%CI: 0.28-1.60))。
切迫流早産妊婦における「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産予防にもたらす効果の検討 結 論 衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導が妊娠34週未満の早産のリスクを低下させる可能 性が示唆された。本研究は探索的な研究であり,サンプルサイズが小さいことや,対象者の無作為割付 をおこなっていないなどの限界がある。今後,無作為化比較試験のような,この保健指導の有効性をよ り強く証明するような研究の実施が求められる。 キーワード:保健指導,ケア提供者,早産,妊婦,衣服 Abstract Purpose
This study aims to investigate the effect of health advice given healthcare professionals to pregnant women in hospital about avoiding the wearing of tight clothing around the trunk in order to reduce the risk of premature birth. Methods
This was a retrospective study of medical records from an inpatient ward at a national medical center in Tokyo, Japan. Participants were women who had been admitted for threatened miscarriage or premature birth from the 1 April 2011 to 31 March 2013. Of the 230 women admitted during this period, only 208 women met the criteria of this study were included in the study. The intervention group was defined as those women who received advice from healthcare providers to avoid wearing constrictive clothing around the trunk, and the control group was defined as those women who received no such advice. All data for analysis was transcribed from medical records.
Results
The mean age of all participants was 34.7 years (SD: 5.0). Of the 208 participants, 103 (49.8%) were multiparas and 150 (72.1%) were allocated to the intervention group. The results of bivariate analysis showed that both prema-ture birth at <34 weeks (p=0.077) and premaprema-ture birth at <37 weeks (p=0.875) had no significant difference between the two groups. After adjusting for basic characteristics and potential confounders such as socioeconomic status and past medical history, the adjusted odds ratio for premature birth at 34 weeks gestation was significantly lower in the intervention group (adjusted odds ratio (AOR): 0.15, 95% CI: 0.04-0.57) compared with the control group, however there was no association with premature birth at 37 weeks (AOR: 0.67, 95% CI: 0.28-1.60).
Conclusion
The findings of this study showed that advice from healthcare providers to avoid wearing constrictive clothing around the trunk might have the potential to reduce the risk of premature birth at <34 weeks. This study has sev-eral limitations, including no randomization, and a small sample size due to the preliminary nature of the survey. A well-designed randomized controlled trial is needed to verify the effectiveness of this intervention.
Key words: health advice, healthcare provider, preterm birth, pregnant women, clothing
Ⅰ.緒 言
早産の予防および産前産後の女性の健康状態を向上 させることは,いずれも周産期医療において重要な課 題である。早産の発生率は先進国において7.5%,世 界全体において9.6%と報告されており(Beck, Woj-dyla, Say et al., 2010, pp.31-38),これまでにも早産の 予防を目的とした様々な介入研究が実施されてきた。 そうした多くの介入研究をもとに,サプリメントや (Han, Crowther & Moore, 2013),医薬品を用いた介 入(Nanda, Cook, Gallo et al., 2002),子宮頸管縫縮術 (Rafael, Berghella & Alfirevic, 2014)や安静指示(Sosa,
Althabe, Belizan et al., 2004)など,様々な予防介入の 効果が検証されてきた。しかし,早産を大幅に減少さ せるには至っておらず,早産の予防に寄与する介入方 法の開発は,いまだ喫緊の課題であると言える。 妊婦は体型の変化にともない,腹部に高い衣服圧 がかかりやすいことが明らかにされている(岡部,杉 本,2007,pp.763-770)。一般の成人を対象とした研究 において,衣服による体幹部の締め付けが糞便の腸内 通過時間の増加や排泄される糞便量の減少(Takasu, Furuoka, Inatsugi et al., 2000, pp.151-156), 膣 炎 の 増 加(D'Antuono, Baldi, Bellavista et al., 2012, pp.e85-89), 自律神経機能の悪化(Miyatsuji, Matsumoto, Mitarai et al., 2002, pp.67-74),食べ物の消化機能の低下(Sone, Kato, Kojima et al., 2000, pp.157-163),体幹の筋肉の 活動量が低下することや腰の不快感の増大といった リ ス ク(Eungpinichpong, Buttagat, Areeudomwong et al., 2013, pp.1024-1032)につながることが示されてい る。しかし,高い衣服圧にともなう体幹部の締め付け
度について調べた先行研究では,腹部の締め付け感 を訴える者は,妊娠全期を通じ88.0%から91.1%と高 い頻度で発生していることが明らかになっている(新 川,島田,早瀬他,2009,pp.48-58)。便秘など排便に 関連した不調は妊婦における主たるマイナートラブル の一つであることも知られている(新川,島田,早瀬 他,2009,pp.48-58)。また,細菌性腟症の治療が早産 予防につながる可能性が注目されてきており(Leitich, Bodner-Adler, Brunbauer et al., 2003, pp.139-147;上田, 岩成,2014,pp.27-31),衣服による締め付けを取り除 くことで膣炎の増加を抑制し,早産の予防につながる と考えられる。これらの知見から,体幹への衣服によ る締め付けが妊娠期間の長さや,妊娠期間中の健康状 態に影響を及ぼす可能性は生理学的に推測できる。 妊婦の衣服は,これまでも 冷え症 の予防策とし て着目されてきた。 冷え症 は早産のリスクファク ターであることが示唆されており(中村,堀内,柳井, 2012,pp.381-389), 冷え症 の予防策の一つとして, 衣服の保健指導が有効だと指摘されている(中村,堀 内,2013,pp.94-99)。しかし,衣服の保健指導の効果 を検証した報告は見当たらず,早産予防および妊婦の 健康状態の向上に向けて,衣服に関する保健指導プロ グラムの開発や,その効果の検証がおこなわれること は重要だと考えられる。 こうしたことを背景に,これまで著者らが勤務する 施設において,一部の看護師や助産師がケアの一環と して,切迫流早産のために入院した妊婦に対し,体幹 への衣服による締め付けを除去する保健指導を実施し てきた。この保健指導を実施すると,子宮底の著明な 上昇,子宮・腹部が柔軟になり,腹壁緊張が減少する といったことが触診によって認められた。今後,この 保健指導を継続して実施していくかどうかを判断する 上で,その有効性を科学的に検証することが必要だと 考えられる。 そこで,本研究では診療記録を用いて,切迫流早産 で入院した妊婦を対象に実施されてきた,「衣服によ る体幹への締め付けを回避する保健指導(妊婦の体幹, 特に腹部に下着や衣類のゴム部分の締め付け痕があっ た場合,そのゴム類を骨盤輪の位置に下げる指導をす る)」の34週未満および37週未満の早産に対する予防 効果を検討することを目的とした。 1.研究デザイン 本研究のデザインは電子カルテ上の診療記録を用い た後ろ向き研究である。 2.研究対象 本研究の対象者は,2011年4月1日から2013年3月31 日の時点で,調査対象施設のある1つの病棟に入院し ていた妊婦のうち,以下の選定基準を満たし,なおか つ除外基準に該当しないすべての者とした。対象者の 選定基準は,切迫流産,切迫早産と診断され,安静療 法もしくは子宮収縮抑制剤が投与された者とした。除 外基準としては,子宮筋腫痛のコントロールのために 入院していることと,胎児形態異常症例とした。 3.衣服による体幹部への締め付けを回避する保健指 導の内容 研究の実施に先立ち,研究実施施設の看護師や助産 師を対象に,保健指導プログラムの勉強会を開催し, 理論や指導方法についてトレーニングをおこなった。 その後,トレーニングを受けたスタッフが担当した患 者(対象者)に対して,対象者が入院をしている期間 中に,看護師や助産師が妊婦と1対1の状況で,1回あ たり約5分程度の保健指導を実施した。まず,妊娠に ともなって骨盤や胸郭部の形状が変化することや,体 幹部を締め付けることでそうした身体の形状の自然な 変化を妨げることを説明した。同様に胸郭部について も,締め付けてしまうことで,胸郭部の形状の変化を 阻害するだけでなく,呼吸がしづらくなったりするこ とを伝えた。その上で,体幹部を締め付けない衣服を 選ぶ際のポイントや,締め付けが起こりやすいデザイ ンの衣服について説明をした。同じ衣服を着用する際 も,ブラジャーのホックを普段より緩めることや,ズ ボンやショーツのゴム部分が腹部にかからないように し,ヒップラインのところまで下げて着用するといっ た具体的な方法,主観的な圧迫感のみならず,肌にゴ ムなどの圧迫痕が残るかどうかも,締め付けの有無の 重要な判断基準となることを紹介した。また,腹部の 保温のために,締め付けの少ない腹巻を使用すること を勧めた。保健指導実施後も,質問をされた際やケア を実施する際などに衣服の状況は確認をし,適宜,声 掛けをおこなったが,これらのタイミングや回数など は具体的なプログラムとして全員に共通して実施した
切迫流早産妊婦における「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産予防にもたらす効果の検討 ものではなく,データとしても十分な記録が残されて いなかった。 4.調査方法 本研究で使用したすべてのデータは,調査対象施設 の電子カルテから収集された。収集された主な項目は, 対象者の年齢や職業,身長,非妊娠時体重,分娩歴と いった基本属性と,既往早産や子宮頸部手術などの既 往歴,入院時の妊娠週数や内子宮口の楔状開大(Fun-neling)の有無などの妊娠に関する項目,分娩週数を はじめとする分娩時の状況である。「衣服に関する保 健指導」の実施状況についても,電子カルテに記載さ れており,この保健指導が1度でも実施された対象者 を「保健指導実施群」,1度も実施されなかった群を「対 照群」とした。これらすべてのデータは,調査対象施 設の助産師がMicrosoft Excelに転記をし,本研究用の データセットを作成した。 5.分析方法 対象者を「衣服に関する保健指導」の有無により2群 に分け,基本属性や分娩時の状況について分布を把握 した。次に,通常の37週未満の早産に対する保健指 導の効果を検討することに加え,34週未満の早産の発 生に対する効果を検討することを目的に,対象者の 分娩時週数から37週未満の早産であったかどうか,34 週未満の早産であったかどうか,という2つの二値変 数を作成し,本研究の主たる結果指標とした。「衣服 に関する保健指導」の実施の有無や早産のリスク因子 であると考えられる項目と,34週未満の早産,およ び37週未満の早産の頻度について,カイ二乗検定や Fisher s exact testなどの二変量解析によって関連を検 討した。最後に,対象者の年齢や初診時のBody Mass Index(BMI),分娩歴,入院年度,胎児数など,「衣服 に関する保健指導」と早産の関連を検討する上で交絡 因子になりえると考えられた対象者の属性に関する項 目の影響を調整するために,多変量ロジスティック回 帰分析をおこなった。 多変量解析では,上記の項目に加え,二変量解析 で妊娠34週,37週の早産のいずれかと関連が認めら れた項目として,入院時の妊娠週数,Funnelingの有 無,不妊治療の有無を加えた。さらに,早産との二変 量解析での関連は認められなかったものの,先行研 究(Mercer, Goldenberg, Moawad et al., 1999,
pp.1216-1221;日本産科婦人科学会,2011,pp.227-228)で早産 のリスク因子であることが広く知られている切迫流早 産と子宮頸部手術の既往も独立変数として投入した。 調査対象施設では,切迫流早産の患者に対する治療プ ロトコールが,2012年度に一部,修正されたため,そ うした影響を考慮して,入院年度の変数をモデルに投 入した。すべての独立変数には強制投入法を用いた。 なお,本研究でおこなった統計解析はIBM SPSS Statistics 19.0を用い,有意水準は0.05に設定して実施 した。 6.倫理的配慮 本研究では,データの収集を実施した時点で,すべ ての対象者がすでに調査対象施設を退院してしまって おり,個々の対象者に対して,本研究の主旨の説明 および同意の取得はおこなっていない。その代わり に,疫学研究の倫理指針に基づき,調査対象施設の公 式ホームページに,本研究の目的や使用するデータの 項目など,概要を記した文書を掲載した。本研究への 参加を拒否したい対象者は,研究事務局にその旨を連 絡することで,データの使用を中止できるように配慮 した。電子カルテからデータを収集した後で,対象者 の氏名およびカルテIDと,研究IDの照合表を作成し, 解析に使用したデータセットは連結可能匿名化された ものを用いた。なお,本研究は実施に先立ち,国立成 育医療研究センター倫理委員会による承認(2013年12 月26日:簡易17)を得た。
Ⅲ.結 果
1.対象者の属性 本研究の対象基準を満たした230人中,保健指導を 実施したかどうかの判別がつかなかった者や,搬送元 の分娩施設への逆搬送など,調査対象施設では分娩を しなかった者22人を除く208人を分析対象とした。保 健指導が実施された保健指導実施群は150人(72.1%), 実施されなかった対照群は58人(28.0%)であった。 妊娠34週未満の早産は23人(11.1%),37週未満の早産 は70人(33.7%)であった。 対象者の基本属性では,平均年齢が34.7歳(標準偏 差(SD):5.0), 経 産 婦 が103人(49.8%), 就 労 を し ている者が136人(65.7%)であった。2011年に入院し た者は115人(55.3%)であった。産科関連の項目では, 入院時のBody Mass Index(BMI)の平均値は21.9(SD:人(76.8%),入院時の平均妊娠週数は24.0週(SD: 6.2) であった。それぞれの項目の保健指導実施群と対照群 の頻度や平均値は表1の通りである。 これら対象者の属性や産科関連の項目について,保 健指導実施群と対照群における統計的に有意な群間 差を検討したところ,職業を持っている者(χ2=5.063, p=0.024)と2012年度に入院した者(χ2=6.086, p=0.014) とが明らかになった(t=-4.35, p<0.001)。アダラートの 投与については有意な群間差は見られなかったものの, 割合に大きな違いが認められた。 2.早産と関連指標の二変量解析 対象者の属性や産科関連の項目と,妊娠34週未満 の早産の有無,および妊娠37週未満の早産の有無と 表1 対象者の属性 保健指導実施群(n=150) 対照群(n=58) p n % n % 年齢 <=29 30-34 35-39 40<= 23 42 60 25 15.3 28.0 40.0 16.7 9 19 19 11 15.5 32.8 32.8 19.0 0.794 分娩歴 初産婦 経産婦 80 70 53.346.7 2533 43.156.9 0.186 職業 あり なし 105 45 70.030.0 3127 53.446.6 0.024* 入院年度 2011年 2012年 75 75 50.050.0 4018 69.031.0 0.014* 非妊娠時BMI <18.5 18.5-24.9 25.0<= 9 117 12 6.5 84.8 8.7 4 35 9 8.3 72.9 18.8 0.137 入院時妊娠週数 (平均 標準偏差) 23.8 5.8 24.4 6.6 0.447 入院日数 (平均 標準偏差) 62.7 35.1 40.0 28.1 <0.001*** 胎児数 1人 2人以上 115 35 76.723.3 4513 77.622.4 0.888 不妊治療 あり なし 45105 30.070.0 1444 24.175.9 0.400 切迫流早産既往 あり なし 45105 30.070.0 1444 24.175.9 0.400 子宮頸部手術 あり なし 9141 6.094.0 355 5.294.8 1.000 a 入院時のFunneling あり なし 53 88 37.662.4 2033 37.762.3 0.985 アダラートの投与 あり なし 22128 14.785.3 355 5.294.8 0.062 a
※aはFisher's exact test,連続変数にはstudent's t-test,その他のカテゴリカル変数に対してはchi-square testを実施
切迫流早産妊婦における「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産予防にもたらす効果の検討 の関連について,二変量解析をおこなった(表2)。妊 娠34週未満の早産と統計学的に有意な関連が認め られた項目は,入院時の妊娠週数が早い人(t=2.045, p=0.042),多胎妊娠(χ2=8.923, p=0.003),入院時の経 膣超音波検査上のFunneling所見(χ2=5.849, p=0.016) の3項目であった。同様に妊娠37週未満の早産との 関連が認められた項目は,年齢(χ2=11.213, p=0.011), 経 産 回 数(χ2=6.465, p=0.011), 多 胎 妊 娠(χ2=26.735, p<0.001),不妊治療の経験あり(χ2=4.000, p=0.045), 切迫早産治療薬であるアダラートの内服(Fisher's exact test, p=0.004)の5項目であった。保健指導の実 施の有無との関連については,妊娠34週未満の早産 表2 対象者の属性や産科情報と34週,37週未満の早産との関連 34週未満の早産 37週未満の早産 34週未満 (n=23) (n=185)34週以降 p (n=70)37週未満 (n=138)37週以降 p n % n % n % n % 保健指導の有無 実施群 対照群 1310 56.543.5 137 48 74.125.9 0.077 5020 71.428.6 100 38 72.527.5 0.875 年齢 <=29 30-34 35-39 40<= 3 9 8 3 13.0 39.1 34.8 13.0 29 52 71 33 15.7 28.1 38.4 17.8 0.734 14 27 24 5 20.0 38.6 34.3 7.1 18 34 55 33 13.0 24.6 39.9 22.5 0.011* 分娩歴 初産婦 経産婦 14 9 60.939.1 91 94 49.250.8 0.291 2644 37.162.9 77 61 55.844.2 0.011* 職業 あり なし 1310 56.543.5 123 62 66.533.5 0.343 4624 65.734.3 90 48 65.234.8 0.943 入院年度 2011年 2012年 15 8 65.234.8 100 85 54.145.9 0.310 4030 57.142.9 75 63 54.345.7 0.702 非妊娠時BMI <18.5 18.5-24.9 25.0<= 3 16 1 15.0 80.0 5.0 10 136 20 6.0 81.9 12.0 0.240 6 50 9 9.2 76.9 13.8 7 102 12 5.8 84.3 9.9 0.454 入院時妊娠週数 (平均 標準偏差) 21.3 5.5 24.1 6.0 0.042* 23.5 6.0 24.0 6.1 0.781 胎児数 1人 2人以上 1211 52.247.8 148 37 80.020.0 0.003** 3931 55.744.3 121 17 87.712.3 <0.001*** 不妊治療 あり なし 914 39.160.9 50135 27.073.0 0.225 2644 37.162.9 33105 23.976.1 0.045* 切迫流早産既往 あり なし 518 21.778.3 54131 29.270.8 0.455 1555 21.478.6 44 94 31.968.1 0.114 子宮頸部手術 あり なし 221 8.791.3 10175 5.494.6 0.627 a 6 64 8.691.4 6132 4.395.7 0.217 入院時のFunneling あり なし 12 7 63.236.8 61114 34.965.1 0.016* 2240 35.564.5 51 81 38.661.4 0.673 アダラートの投与 あり なし 122 4.395.7 24161 13.087.0 0.322 a 2 68 2.997.1 23115 16.783.3 0.003 a ** ※aはFisher's exact test,連続変数にはstudent's t-test,その他のカテゴリカル変数に対してはchi-square testを実施
なかった。 3.多変量解析による保健指導の効果の検討 他の関連要因の影響を調整した上で,保健指導の実 施による効果の有無を検討するために,妊娠34週未 満の早産と妊娠37週未満の早産の有無をそれぞれ従 属変数として,多変量ロジスティック回帰分析を実 施した(表3)。妊娠34週未満の早産に関する解析結果 からは,保健指導実施群の調整後オッズ比(Adjusted Odds Ratio: AOR)が0.15で,95%信頼区間(Confidence
Interval: CI)は0.04-0.57であり,妊娠34週未満の早産 にFunnelingがあった場合はAORが8.77(95%CI: 1.92-40.04)となっていた。 37週未満の早産については,保健指導実施群は対 照群に対して0.67(95%CI: 0.28-1.60)であり,関連は認 められなかった。他の共変量については,40歳以上の 妊婦は30∼34歳の妊婦に比べて,AORが0.07(95%CI: 0.02-0.31), 胎 児 数 が2人 以 上 で は6.31(95%CI: 2.45-16.22),不妊治療を実施した者は2.80(95%CI: 1.02-7.72), 子宮頸部手術の既往歴がある者は5.21(95%CI: 1.23-22.03)であった。 表3 妊娠34週未満および37週未満の早産に対する粗オッズ比と調整オッズ比 34週未満の早産 37週未満の早産
Crude OR Adjusted OR (95% CI) Crude OR Adjusted OR (95% CI)
保健指導の有無 実施群 対照群 0.461.00 0.151.00 0.04- 0.57 ** 0.951.00 0.67 0.28-1.60 入院年度 2011年 2012年 1.000.63 0.62 0.17- 2.21 1.000.89 0.58 0.26-1.28 年齢 <=29 30-34 35-39 40<= 0.60 1.00 0.65 0.53 0.92 1.03 1.63 0.15- 5.66 0.21- 5.04 0.23-11.76 0.98 1.00 0.55 0.19 1.53 0.44 0.07 0.51-4.63 0.17-1.17 0.02-0.31 ** 分娩歴 初産婦 経産婦 1.000.62 0.56 0.11- 2.94 1.002.56 0.94 0.34-2.58 非妊娠時BMI <18.5 18.5-24.9 25.0<= 2.55 1.00 0.43 5.92 0.22 0.95-37.06 0.02- 2.48 1.75 1.00 1.53 1.81 2.44 0.43-7.61 0.78-7.63 胎児数 1人 2人以上 1.003.67 11.53 2.67-49.91 ** 1.005.66 6.31 2.45-16.22 *** 不妊治療 あり なし 1.741.00 1.19 0.25- 5.60 1.881.00 2.80 1.02-7.72 * 切迫流早産既往 あり なし 0.671.00 1.59 0.28- 8.96 0.581.00 0.92 0.31-2.71 入院時のFunnelingの有無 あり なし 3.201.00 8.77 1.92-40.04 ** 0.871.00 0.80 0.36-1.79 入院時週数 25週未満 25週以降 0.311.00 0.28 0.07- 1.12 0.711.00 0.60 0.26-1.36 子宮頸部手術 あり なし 1.671.00 3.82 0.39-37.97 2.061.00 5.21 1.23-22.03 * Adjusted OR はロジスティック回帰分析によって求めた。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001
切迫流早産妊婦における「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産予防にもたらす効果の検討
Ⅳ.考 察
1.衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導 と早産予防の関連の検討 本研究の結果から,衣服による体幹への締め付けを 回避する保健指導の実施は,二変量解析では関連が認 められなかったものの,様々な要因による影響を調整 した多変量解析では,妊娠34週未満の早産のリスク を低下させる可能性が示唆された。一方,妊娠37週 未満の早産の発生には効果が及ばないことも示された。 一般的に,早産は児の発達やその後の健康状態にも悪 影響を及ぼすことが知られており,在胎週数が短いほ ど,その影響は増大すると考えられている。こうした 現状において,衣服による体幹への締め付けを回避す る保健指導が,妊娠34週未満の早産のリスクを低下 させる可能性が示唆された意義は極めて大きい。 衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導 と妊娠34週未満の早産との因果関係を推論する上で, 同様の先行研究が見当たらないために,他の研究結果 との一貫性や整合性を検証することはできない。また, 早産に関連するリスク要因は複数に及び(左合治彦監 修,2014,pp.40-50),多変量解析で年齢や切迫流早産 の既往歴など,電子カルテに記載されている範囲で複 数の交絡因子の調整は試みたものの,両者の関連の特 異性を明確に示すまでには至っていない。さらに,本 研究では対象者に保健指導を実施した回数や,その時 期について,電子カルテ上に記録されていなかったた め,量・反応関係や適切な保健指導実施のタイミング についても言及できない。 衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導の 有効性に関する因果関係を推論するにあたり,上記の ような課題が残されている。しかし,時間的な前後関 係や生物学的な妥当性,蓋然性などについては十分 とは言えないまでも,本研究によって示すことができ たと考えられる。まず,すべての対象者に対する保健 指導は分娩よりも前に実施されており,本研究は後ろ 向きの研究であるものの,因果関係を検討する上で, 早産の有無が結果事象であると捉えることが可能で ある。また,他の研究の知見から(D'Antuono, Baldi, Bellavista et al., 2012, pp.e85-89),細菌性腟症の発生の 抑制への効果を推測できることなど,衣服による体幹 への締め付けと早産の関連の一部は生理学的にも説明 が可能である。多変量解析で統計学的に有意なオッズ 比が示されたことは,こうした理論的な裏付けと併せ て,両者の因果関係を示すための一つの根拠になりえ ると考えられる。 衣服による体幹への締め付けを回避することは,早 産との関連のみならず,妊婦のマイナートラブルの軽 減にも有用であると考えられる。妊婦のマイナート ラブルに関する先行研究(新川,島田,早瀬他,2009, pp.48-58)では,腹部の締め付け感は約90%の妊婦が 訴えている。さらに,締め付け感を訴える妊婦におい て,締め付けを感じる間隔・頻度は他のマイナートラ ブルと比較しても頻繁であることが示されている。こ うした腹部の締め付け感のすべてが衣服圧に起因する ものとは限らないが,衣服による締め付けを回避する だけでも,こうしたマイナートラブルの軽減に寄与す るものと考えられる。 衣服による締め付けを回避する方法としては,助産 師などによる衣服に関する保健指導に加え,衣服の設 計を見直すことの重要性も言及されている(岡部,杉 本,2007,pp.763-770)。マタニティウエアとして販売 されている衣服の中には,体幹部への締め付けが生じ やすいものもある。妊婦自身が着用方法に配慮するだ けでなく,妊婦用の衣服自体も体幹部の締め付けを回 避しつつ,多くの女性に受け入れられるようなデザイ ンや,その流通が望まれる。わが国では安産祈願を目 的として,戌の日に腹帯を巻く風習がある。また,腹 巻が広く認知されているなど,妊婦の衣服に関する文 化的な独自性がある。こうした腹巻や腹帯などを有効 に活用して,保温や体幹を支えつつ,衣服による体幹 部への締め付けを回避することが望ましい。 2.本研究の限界と今後の課題 本研究の主な限界として,5つのことが挙げられる。 まず,研究デザインが電子カルテのデータを用いた後 ろ向きの研究を用いていることである。対象者は無 作為割付によって2群に分けられたわけではないため, 両群の対象者では人数や集団の均質さが担保されてい ない。実際に,対照群の対象者は全体の28%に留ま るとともに,保健指導実施群で職業を持っている者と 2012年に入院した者の割合が有意に高い結果となっ ていた。また,保健指導を実施するかどうかを決めた 助産師の作為による影響が混在している可能性も考慮 する必要がある。さらに,本研究で使用した変数以外 にも,交絡因子となりえるような項目があると考えら れ,こうした未知の交絡因子,および既知であるが調 整ができなかった交絡因子によって,本研究で示され析結果が適切に算出されていない可能性がある。ある 病棟において,切迫流早産により入院した患者に対し て助産師による保健指導を試験的に導入し,その結果 を評価しているため,十分なサンプルサイズが確保で きていないことによるものである。実際に,STATA12 を用いて,保健指導実施群と対照群の人数や妊娠34 週未満の早産の発生頻度,有意水準を0.05とした場合, 検出力(パワー)は0.40と算出される。しかし,検出 力不足は正しくない帰無仮説を誤って採択する確率を 高めることにつながるが,妊娠34週未満の早産に関 する関連が統計学的に示された本研究の結果には大き な影響は与えないものと考えられる。 3点目に,両群の対象者におけるコンプライアンス とコンタミネーションについて検討する必要がある。 本研究では保健指導実施群の対象者にのみ「衣服によ る体幹への締め付けを回避する保健指導」が実施され, その後は必要に応じてスタッフによってフォローが実 施されているが,保健指導実施群のすべての対象者が 継続的に保健指導の内容を遵守して衣服を身につけて いたかどうかまでは確認できていない。また,ベッド サイドで保健指導を実施する際に,その指導内容を対 照群の対象者が耳にした可能性や,保健指導を受けた 対象者から,受けていない対象者への口コミなどを通 じて,対照群の対象者が通常よりもより衣服による体 幹部への締め付けに配慮した可能性は否定できない。 4点目として,入院中の治療方法や入院期間など, 保健指導の効果となる項目について,更なる検討が必 要である。本研究の多変量解析では,交絡因子として, 入院時点までの状態については,モデルに投入をして 調整を試みた。しかし,入院後の状態については,保 健指導の効果となり,交絡因子としての要件を満たさ なくなるため,モデルへの投入は適切な結果が得られ にくくなってしまうため,調整をしていない。両群に おいて,入院日数に統計学的な有意な差が生じており, アダラート投与も統計学的に有意ではないものの,頻 度に大きな差が生じている。しかし,保健指導の効果 によって,入院日数が延びるなど群間差が生じて,そ の結果,34週未満の早産が減少したのか,入院日数が 長いなどの群間差により,早産が減少したのかを明確 に言及することは難しい。 最後に,対象者が切迫流早産によって周産期セン ターに入院した妊婦のみであるため,本研究で得られ ない。 以上のような研究上の限界があるため,衣服による 体幹への締め付けを回避する保健指導の有効性につい て結論を下すためにも,今後,別の対象集団や,前向 きな研究デザインにより,さらなる追加検証が実施さ れることが不可欠である。著者らはこの保健指導の有 効性を評価するための無作為化比較試験を計画してお り,先行研究が極めて少ない中で,本研究で得られた 知見は基礎資料として有用だと考えられる。
Ⅴ.結 論
探索的な研究結果ではあるものの,衣服による体幹 への締め付けを回避する保健指導が妊娠34週未満の 早産のリスクを低下させることが示唆された。今後, この保健指導の有効性をより強く証明するような研究 の実施が求められる。 謝 辞 本研究で電子カルテのデータを利用させてください ました対象者の皆様に深くお礼を申し上げます。また, データの収集や解析に際しまして,貴重なご助言をく ださいました国立成育医療研究センターの佐々木愛子 先生,左勝則先生,掛江直子先生に深くお礼を申し上 げます。なお,本研究の一部は,成育医療研究開発費 (26-8)による成果です。 文 献Beck, S., Wojdyla, D., Say, L., Betran, A.P., Merialdi, M., Requejo, J.H., et al. (2010). The worldwide incidence of preterm birth: a systematic review of maternal mortal-ity and morbidmortal-ity. Bulletin of the World Health
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