• 検索結果がありません。

短期栽培イネにおける窒素吸収および収量について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "短期栽培イネにおける窒素吸収および収量について"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

2015 年 8 月 30 日受理 連絡責任者:連絡責任者:井上博茂(inohiro@kais.kyoto-u.ac.jp)

短期栽培イネにおける窒素吸収および収量について

田中 良

1)

・井上博茂

2)

・稲村達也

2) 1)農研機構・九州沖縄農業研究センター(〒 833-0041 福岡県筑後市大字和泉 496) 2)京都大学大学院農学研究科(〒 606-8502 京都市左京区北白川追分町) 要旨:短期栽培イネ「フジヒカリ」および「華兵庫」を供試して,栽植密度を 2 水準として直播栽培および移植 栽培の 2 栽培を行い,イネ地上部乾物重および地上部窒素保有量をイネ生育時期別に調査するとともに,成熟期 にイネの精籾収量およびその構成要素について調査した.収量については,フジヒカリが直播栽培・密植区で, 華兵庫が移植栽培・密植区でそれぞれ最も大きかった.地上部乾物重については,いずれの品種においても直播 栽培,移植栽培ともにイネ生育期間を通して密植区で大きい値で推移し,成熟期ではフジヒカリが直播栽培・密 植区で最も大きい値を示したのに対し,華兵庫が移植栽培・密植区および直播栽培・密植区で最も大きい値を示 した.地上部窒素保有量では,いずれの品種においても直播栽培,移植栽培ともにイネ生育期間を通して密植区 で大きい値で推移し,成熟期ではフジヒカリが直播栽培・密植区,直播栽培・疎植区および移植栽培・密植区で 同程度の大きい値を示したのに対し,華兵庫では直播栽培・密植および移植栽培・密植区で同程度の大きい値を 示した.これらのことから,短期栽培イネにおいて高い収量を獲得するためには,栽植密度を大きくすることで 生育初期の乾物重を確保することが重要であることが明らかになった.また,直播栽培,移植栽培といった栽植 様式に適したイネ品種の選定が必要であることが示唆された. キーワード:短期栽培イネ,乾物重,窒素保有量,収量

緒言

わが国において,農業の生産性を向上させるためには, 限られた農耕地を有効に利用していくことが必要不可欠で あると考えられる.農耕地において,畑作を中心とした輪 作体系による土地利用の形態では,地力の消耗,病虫害の 発生,連作障害の発生といった問題が生じることが多い. これらの対策として,休閑期間を設けて,その間に圃場を 湛水状態で維持する,休閑期間を設けて太陽熱消毒による 土壌消毒を行うといったことが挙げられる.しかしながら, これらの輪作体系の中に,水稲作を組み合わせることがで きれば,野菜栽培後のイネ栽培では残留した肥料分を有効 に利用でき,かつ休閑期間を設けることなく,イネ栽培に 伴う湛水処理によって病虫害や連作障害の発生を抑制すこ とができると考えられる.短期栽培イネは,このような栽 培体系に適したイネとして育成されており,生育期間が極 端に短い,耐肥性に優れるといった特徴を有している (Sakamoto and Toriyama 1967,藤井ら 1981).イネ品種「フ ジヒカリ」は,1997 年に中国農業試験場(現農研機構近 畿中国四国農業研究センター)において育成された極早生 品種であって,コシヒカリを遺伝的背景としつつ,関東 79 号の姉妹系統である R151 の早生形質(早生遺伝子)が 付与されている(藤井ら 1981).関東 79 号は,コシヒカ リより人為突然変異によって得られた極早生突然変異系統 であって,その出穂性はわが国北海道地域で栽培されてい るイネ品種と同程度である(奥本ら 1989).イネ品種「華 兵庫」は,兵庫県立農業総合技術センター(現兵庫県立農 林水産技術総合センター)において,兵系 54 号(はつご ぜん)×キヌヒカリの後代より系統育種法によって選抜・ 育成された極早生品種であり(田中ら 2004),2005 年に品 種登録がなされている.その極早生形質は,兵系 54 号に 由来すると考えられるが,その出穂性に関しては詳細に調 べられていないため不明である.フジヒカリおよび華兵庫 は,育成年が大きく異なることから,育成された時代的背 景が大きく異なっている.フジヒカリでは,移植栽培ばか りでなく直播栽培についても検討されている(Sakamoto and Toriyama 1967, 小 林・ 鷲 尾 1975, 小 林・ 和 田 1978, 池本 1979,入江ら 1987,山本ら 1988)が,華兵庫では移 植栽培が前提とされている(澤田ら 1996,2008,田中ら 2004).これまで,短期栽培イネに関する研究は,品種フ ジ ヒ カ リ を 中 心 と し て 行 わ れ て お り(Sakamoto and Toriyama 1967,小林・鷲尾 1975,小林・和田 1978,池本 1979,入江ら 1987,山本ら 1988),華兵庫についての研究 事例はほとんどないのが現状である.また,これらの研究 では,主としてイネの生育期間を通して,地上部乾物重の 推移と収量性との関係について調査されており,地上部窒 素保有量の推移を併せて収量性との関係について調査され た報告はほとんどない.本研究は,短期栽培イネ品種フジ ヒカリおよび華兵庫について,栽培法の違いならびに栽植 密度の違いが地上部乾物重,地上部窒素保有量ならびに収 量に及ぼす影響について調査を行ったものである.

論 文

(2)

材料および方法

イネ品種フジヒカリおよび華兵庫を供試した.2012 年 に,京都大学大学院農学研究科附属農場(大阪府高槻市) において栽培を行った.直播栽培および移植栽培の 2 栽培 法について検討した.移植栽培における播種日および移植 日はそれぞれ 6 月 4 日および 6 月 25 日であって,ビニル ハウス内で育苗を行った.一方,直播栽培における播種日 は 6 月 5 日であった.栽植密度として,30cm × 10cm の 密植区および 30cm × 20cm の疎植区の 2 水準を設け,移 植栽培では 1 株当たり 2 個体として定植を行い,また直播 栽培では 1 穴あたり 4 粒として圃場に直播を行った.施肥 として,N,P2O5および K2O をそれぞれ,15[g/m2 ],10[g/ m2 ] および 10[g/m2 ] を元肥のみとして施用した.移植栽培 では 6 月 23 日に全層施用を,また,直播栽培では,6 月 3 日に全層施用をそれぞれ行った.直播栽培では,播種後 22 日間を畑状態とし,6 月 28 日に入水して,入水以降を 湛水条件とした.2 反復の乱塊法にしたがって試験区配置 を行い,栽培した.移植栽培では,移植期(6 月下旬), 生育中期(7 月中旬),幼穂形成期(7 月下旬),出穂期(8 月上旬)および成熟期(9 月中旬)にサンプリングを行い, 地上部乾物重,地上部窒素濃度を測定するとともに,成熟 期については,併せて収量調査を行った.一方,直播栽培 では,生育中期(7 月中旬),幼穂形成期(7 月下旬),出 穂期(8 月上旬)および成熟期(9 月中旬)にサンプリン グを行い,地上部乾物重,地上部窒素濃度を測定するとと もに,成熟期については,併せて収量調査を行った.窒素 濃度の測定をケルダール法に従って行い,得られた濃度と 乾物重との積から窒素保有量を算出した.収量,収量構成 要素,成熟期における地上部乾物重および成熟期における 地上部窒素保有量について,品種ごとに,それぞれ t 検定 による比較を行い,有意性について検討した.なお,フジ ヒカリ,華兵庫ともに幼穂形成期ごろに,いもち病の発生 が認められたため,フジワン粒剤(殺菌剤)散布による防 除を行った.また,フジヒカリにおいては,直播栽培区, 移植栽培区いずれも密植区において出穂期∼登熟期にかけ て,紋枯病の発生が認められたが,収穫時期が近かったこ とから薬剤散布を行わなかった.

結果

フジヒカリ:フジヒカリの各処理区における精籾収量お よびその構成要素を表 1 に示した.直播栽培・密植区にお いて最も大きい精籾収量を示していた.m2 あたり穂数お よび穎花数は,直播栽培区,移植栽培区ともに密植区で大 きい値を示したが,移植区において登熟歩合が小さかった ことから直播栽培・密植区において最も大きい収量が得ら れたと考えられた.各処理区における地上部乾物重のイネ 生育時期別推移を表 2 に示した.直播栽培区,移植栽培区 ともに全生育期間を通して密植区で疎植区に比べて大きく 推移していたが,移植栽培・密植区において高い収量を示 すことはなく,乾物重の増加によると考えられる収量増は 観察されなかった.収穫期における地上部全乾物重では, 直播栽培・密植区>移植栽培・密植区≒直播栽培・疎植区 >移植栽培・疎植区となった.各処理区における地上部窒 素保有量のイネ生育時期別推移を表 3 に示した.直播栽培 区,移植栽培区ともに全生育期間を通して,疎植区に比べ て密植区において大きく推移していたが,成熟期では直播 ⾲ͳ 䝣䝆䝠䜹䝸䛻䛚䛡䜛⢭⢄཰㔞䛚䜘䜃䛭䛾ᵓᡂせ⣲ ✑ᩘ 㢒ⰼᩘ ୍✑⢏ᩘ ༓⢏㔜 ཰㔞 ȋᮏȀʹȌ ȋšͳͲͶ⢏ȀʹȌ ȋ⢏Ȁ✑Ȍ ȋ‰Ȍ ȋ‰ȀʹȌ ┤᧛᱂ᇵ ␯᳜ ͵ͺ͹ „ ʹǤʹͺ „ ͷͻǤͲ ƒ„ ͲǤ͹ͳ ƒ ʹ͹ǤͲ Ͷ͵ͻ „ ᐦ᳜ ͶͶͻ ƒ ʹǤͷͲ ƒ ͷͷǤ͹ „ ͲǤ͹ͳ ƒ ʹ͸Ǥ͹ Ͷ͹ͷ ƒ ⛣᳜᱂ᇵ ␯᳜ ͵͵ͷ … ʹǤ͵Ͷ „ ͸ͻǤ͹ ƒ ͲǤ͸͵ „ ʹͷǤ͹ ͵͹͸ … ᐦ᳜ Ͷͺʹ ƒ ʹǤ͸ʹ ƒ ͷͶǤʹ „ ͲǤͷͺ „ ʹͷǤͷ ͵ͺͶ … 䚷䚷⾲୰䛾䜰䝹䝣䜯䝧䝑䝖䛿䚸␗䛺䜛ᩥᏐ㛫䛷᭷ពᕪ䠄ͷΨỈ‽䠅䛜䛒䜛䛣䛸䜢♧䛩䚹 Ⓩ⇍Ṍྜ ᱂᳜ᵝᘧ

(3)

栽培・密植区≒移植栽培・密植区≒直播栽培・疎植区>移 植栽培・疎植区となり,直播栽培・密植区で最も大きい値 を示した. 華兵庫:華兵庫の各処理区における精籾収量およびその 構成要素を表 4 に示した.移植栽培・密植区において最も 大きい精籾収量を示した.密植による収量増の影響は移植 栽培区において大きかったが,直播栽培区では密植区,疎 植区間で収量に有意差が認められなかった.直播栽培区で は,密植区で穂数が最も多くなり穎花数の獲得に寄与して いたが,登熟歩合の低下により収量増に結びつかなかった ことが考えられた.一方移植栽培区では,密植区,疎植区 ともに登熟歩合が低かったが密植区において穎花数が大き かったことから,最も高い収量を示したと考えられた.各 処理区における地上部乾物重のイネ生育時期別推移を表 5 に示した.直播栽培区,移植栽培区ともに全生育期間を通 して疎植区と比べて密植区で高い値で推移し,成熟期にお ける地上部乾物重が移植・密植区≒直播・密植区>移植・ 疎植区≒直播・疎植区となった.各処理区における地上部 窒素保有量のイネ生育時期別推移を表 6 に示した.フジヒ カリと同様に,直播栽培区,移植栽培区ともに,全生育期 ⾲Ͷ ⳹රᗜ䛻䛚䛡䜛⢭⢄཰㔞䛚䜘䜃䛭䛾ᵓᡂせ⣲ ✑ᩘ 㢒ⰼᩘ ୍✑⢏ᩘ ༓⢏㔜 ཰㔞 ȋᮏȀʹȌ ȋšͳͲͶ⢏ȀʹȌ ȋ⢏Ȁ✑Ȍ ȋ‰Ȍ ȋ‰ȀʹȌ ┤᧛᱂ᇵ ␯᳜ ͵͵ͻ „ ʹǤͲͺ … ͸ͳǤ͵ „ ͲǤ͹ͳ ƒ ʹ͹Ǥ͵ ͶͲͳ ƒ„ ᐦ᳜ Ͷͷͺ ƒ ʹǤ͸ͻ „ ͷͺǤ͸ „ ͲǤͷ͹ „ ʹ͸Ǥ͵ ͶͲͲ ƒ„ ⛣᳜᱂ᇵ ␯᳜ ͵ͷͳ „ ʹǤ͸ͻ „ ͹͸ǤͶ ƒ ͲǤͷ͵ „ ʹ͸Ǥͷ ͵͹Ͷ „ ᐦ᳜ ͵͹Ͳ „ ͵ǤͲ͹ ƒ ͺ͵ǤͲ ƒ ͲǤͷͺ „ ʹͷǤ͸ ͶͷͶ ƒ 䚷䚷⾲୰䛾䜰䝹䝣䜯䝧䝑䝖䛿䚸␗䛺䜛ᩥᏐ㛫䛷᭷ពᕪ䠄ͷΨỈ‽䠅䛜䛒䜛䛣䛸䜢♧䛩䚹 ᱂᳜ᵝᘧ Ⓩ⇍Ṍྜ

(4)

間を通して疎植区と比べて密植区で大きい値で推移した が,成熟期では,直播栽培・密植区≒移植栽培・密植区> 移植栽培・疎植区≒直播栽培・疎植区となり,直播栽培区, 移植栽培区ともに密植区で大きい値を示した.

考察

イネ品種フジヒカリについて,成熟期における地上部窒 素保有量および地上部乾物重の大小関係が精籾収量の大小 関係とほぼ一致していた.すなわち,直播栽培・密植区に おいて最も大きい収量が得られた要因として,大きい地上 部乾物重の獲得ならびに地上部窒素保有量が考えられた. 収量構成要素についてみると,直播栽培区,移植栽培区と もに密植することで m2あたり穂数が大きくなり,このこ とが大きい m2 あたり穎花数の獲得につながったことが考 えられたが,移植栽培区では直播栽培区と比べて登熟歩合 が小さかったことから,疎植区,密植区ともに収量が小さ くなったと考えられた.地上部乾物重では,直播栽培区, 移植栽培区ともにイネ生育期間を通して疎植区に比べて密 植区で大きい値で推移し,このことが密植区において大き い収量の獲得につながったと考えられた.しかしながら, 移植栽培区においては,疎植区に比べて密植区で大きい収 量を示していたものの有意性が認められなかったことか ら,地上部乾物重の増加による収量増加への寄与は移植栽 培区で小さかったことが推察された.地上部窒素保有量で は,地上部乾物重と同様に,直播栽培区,移植栽培区とも にイネ生育期間を通して疎植区に比べて密植区で大きい値 で推移したが,成熟期では移植栽培・密植区で直播栽培・ 密植区および直播栽培・疎植区と同程度の値を示していた. すなわち,移植栽培区においては,密植によって大きい地 上部窒素保有量を獲得し,大きい地上部乾物重を獲得して いたにもかかわらず,収量が増加しなかったことになる. 一方,直播栽培区では,有意性が認められなかったものの, 密植することによって,地上部窒素保有量が増加する傾向 が認められ,地上部乾物重の増加とともに収量が増加した と考えられる.移植栽培区と直播栽培区で,密植による収 量増への効果に違いが認めらたこと,すなわち直播栽培区 では収量増が認められたものの移植栽培区では収量増が認 められなかったことから,フジヒカリを用いた栽培体系で は,移植栽培ではなく直播栽培を行うことが有効であると 考えられる.しかしながら,直播栽培では移植栽培と比較 して圃場の占有期間が長くなることを考慮する必要があ る.これらのように,フジヒカリでは,移植栽培区と比べ て直播栽培区において大きい地上部乾物重ならびに大きい 地上部窒素保有量が得られ,その結果として大きい収量が 得られたことが明らかになった.なお,移植栽培区におい て見られた登熟歩合の低下については,幼穂発育期から出 穂期にかけての小さい地上部窒素保有量にも関わらず,多 くの穎花数を獲得していたためと考えられるが,このよう に多くの穎花数が獲得された要因については本研究の結果 からは不明である. イネ品種華兵庫について,直播栽培区,移植栽培区とも にイネ生育期間を通して密植区で地上部乾物重および地上 部窒素保有量が疎植区と比べて大きい値で推移したもの の,これらの収量増加への寄与は移植栽培で大きく直播栽 培では小さいことが考えられた.収量およびその構成要素 では,直播栽培区,移植栽培区ともに密植区において m2 あたり穎花数が大きい値を示し,このことが移植栽培区に おいては密植区で大きい収量が得られた要因であると考え られたが,直播栽培区においては密植区で登熟歩合が有意 に小さい値を示したことから密植区および疎植区間で収量 に有意差が認められなかったと推察された.疎植区におい て大きい登熟歩合を示した要因は m2あたり穎花数が少な かったことが主な原因であると考えられるが,密植区にお いて小さい登熟歩合を示した要因については明らかでな い.地上部乾物重では,直播栽培区,移植栽培区ともにイ ネ生育期間を通して疎植区に比べて密植区で大きい値で推 移し,成熟期では直播栽培・密植区と移植栽培・密植区で 同程度の値を示していたが,有意差が認められなかったも のの,収量では移植栽培・密植区>直播栽培・密植区とな り,直播栽培区で,大きい地上部乾物重が収量増をもたら さなかった.また,移植栽培・密植区で出穂期から成熟期 にかけての地上部乾物重の増加が他の処理区と比べて顕著 であり,このことが高収量の獲得の一因となったことが考 えられたが,その理由については,明らかでない.地上部 窒素保有量では,地上部乾物重と同様に,直播栽培区,移 植栽培区ともにイネ生育期間を通して密植区で大きい値で 推移し,成熟期においても密植区で有意に大きい値を示し ていたが,直播栽培・密植区で大きい収量を得ることがで きなかった.直播栽培・密植区において,幼穂発育期から 成熟期にかけて大きい地上部窒素保有量を示したにも関わ らず,登熟歩合の低下を招き,大きい収量を得ることがで きなかった.同様のことが,移植栽培・疎植区および移植 栽培・密植区の登熟歩合についてもあてはまり,登熟歩合 を上げることができれば,さらなる高収量を上げることが できる可能性があるが,これらの処理区において登熟歩合 が小さくなった原因については本研究の結果からは明らか にできなかった.これらのように,華兵庫では,直播栽培, 移植栽培ともに栽植密度を大きくすることでイネ生育初期 の地上部乾物重ならびに地上部窒素保有量を獲得すること が高い収量を得るうえで重要であることが明らかになった が,登熟歩合を向上させることにより,直播栽培,移植栽 培ともにさらなる高収量を得られる可能性があることがわ かった. 本研究では,調査対象としなかったが,フジヒカリの移 植栽培区において不時出穂とみられる異常出穂が観察され た.一般に,極早生品種では,育苗期間が長くなると,移 植前に幼穂分化が起こり,出穂異常が生じるとされている (坂田 2005).本研究では,6 月初旬播種であったため,育 苗期間中に幼穂分化が生じないように,育苗期間を 21 日

(5)

とし,稚苗移植を行った.華兵庫においては,異常出穂の 発現が認められなかったものの,フジヒカリにおいて異常 出穂が発現したことは,フジヒカリを移植栽培する場合に は,播種時期によって育苗期間の長さを適切に設定する必 要があることを示している.本研究において,フジヒカリ の移植栽培区で登熟歩合が直播栽培区と比べて有意に小さ くなり,収量が低くなったことの原因として,移植栽培区 において観察された異常出穂の発生が考えらえられる.こ の点については,今後詳細に検討する必要がある. フジヒカリが耐病性に優れず,いもち病ならびに紋枯病 に罹病していたことは,多肥・密植栽培による多収を前提 とした栽培方法に警鐘を鳴らすものである.本研究では, 元肥のみの施用とし,イネ生育後半に追肥を行わなかった が,生育初期における窒素吸収量が多かったために,成熟 期における地上部窒素保有量が密植区において大きくなる 傾向があり,いもち病や紋枯病の発生に対して脆弱であっ たことが考えられる.短期栽培イネを土地利用の中で有効 に利用していくためには,これら病害に対して適切な防除 を行う必要があるであろう.短期栽培イネの収量性は,そ の生育期間が極めて短いことから,生育初期における地上 部乾物重の確保が極めて重要であることが確認された.し かしながら,フジヒカリでは直播栽培において,華兵庫は 移植栽培においてそれぞれ高い収量を示したこと,ならび にフジヒカリの密植区において紋枯病の発生が認められた ことから,短期栽培イネを土地利用の中で利用していくた めには,適切な栽培法ならびに肥培管理を行う必要がある ことが示唆された.現在,フジヒカリおよび華兵庫を供試 して,作期移動による収量性への影響,とくに晩期栽培に よる影響ならびに病害の発生程度について検討している.

謝辞

イネ品種フジヒカリの種子は,島根大学大学院資源生物 科学研究科准教授小林和広博士より分譲を受けた.また, 華兵庫の種子は,兵庫県農林水産技術総合センターより分 譲を受けた.ここに記して,感謝の意を表する.

引用文献

藤井啓史・鳥山国士・篠田治躬・山本隆一・関沢邦雄・坂 本 敏・小川紹史・鷲尾 養(1981)水稲新品種「フジ ヒカリ」の育成とその利用について.中国農試報 A29: 1-18. 池本節雄(1979) 野菜栽培跡水田における水稲短期品種 フジヒカリの直播栽培について.中国農業試験場報告 A26:81-92. 入江道男・窪田昌綱・後藤美明・吉村靖生・和田 学・長 峰 司・廣川文彦・江口久夫・金尾忠志(1987) 温暖 地における直播水稲−麦の作付方式と技術の体系化.中 国農研報 1:15-49. 小林広美・鷲尾 養(1975) 短期直播水稲の早播におけ る生育・収量.日作紀(別):12-13. 小林広美・和田 学(1978) 短期水稲の栽培様式別生育・ 収量の差異について.日作紀(別):5-6. 奥本 裕・木下雅智・谷坂隆俊・山縣弘忠(1989) わが 国イネ品種の出穂性に関する遺伝的解析 15.関東 79 号 の持つ早生短稈化突然変異遺伝子の同定.育雑 39(別 1): 230-231.

Sakamoto, S. and K. Toriyama (1967) Studies on the breeding of non-seasonal short duration rice varieties, with special reference to the heading characteristics of Japanese varieties. Bull. Chugoku Agr. Exp. Sta. A14:147-166.

坂田雅正(2005) 西南暖地における早期・早植え栽培用 極早生水稲品種の異常(不時)出穂に関する研究.高知 農技セ特報 4:1-75. 澤田富雄・三好昭宏・松本純一(2008) 晩植が水稲の生育・ 収量・品質に及ぼす影響.兵庫農技総セ研報(農業) 56:19-23. 澤田富雄・田中萬紀穂・松本 修(1996) 水稲極早生品 種「兵系 54 号」の移植時期が生育・収量・品質に及ぼ す影響.兵庫農技研報(農業)44:21-24. 田中萬紀穂・澤田富雄・吉川年彦・岩井正志・池上 勝・ 陳 友訂・張 旭・孔 清霓・黄 農栄(2004) 水稲 極早生新系統「兵系 69 号」の育成.近畿作物育種研究 49:1-4. 山本由徳・吉田徹志・吉川義一(1988) 短期栽培用水稲 品種の生育と養分吸収経過に及ぼす作期移動の影響.日 本土壌肥料學雜誌 59(3):279-287.

(6)

Nitrogen absorption and grain yield in short-term rice cultivars.

Tanaka Ryo1), Hiromo Inoue2) and Tatsuya Inamura2)

1. NARO Kyushu Okinawa Agricultural Research Center (Izumi 496, chigo, Fukuoka 833-0041 Japan),

2. Graduate school of agriculture, Kyoto University (Oiwakecho, kitashirakawa, sakyo-ku, Kyoto 606-8502 Japan)

Summary: Short-term rice cultivars, Fujihikari and Hanahyogo , were cultivated in both direct-seeding and transplanting

methods with two levels of planting density, low and high. Rice dry weight and nitrogen uptake were measured through rice growth stages and at the mature stage yield and yield components were measured. Yielding ability when cultivated in direct-seeding with high planting density was the highest in Fujihikari, while yielding ability when cultivated in transplanting with high planting density was the highest in Hanahyogo. In both cultivars, rice dry weight with high planting density were higher than that with low planting density through rice growth stages. In Fujihikari, at mature stage rice dry weight when cultivated in direct-seeding with high planting density was the highest among all the cultivation methods, while in Hanahyogo at mature stage rice dry weight when cultivated in transplanting with high planting density was the highest among all the cultivation methods. In both cultivars, nitrogen uptakes with high planting density were higher than that with low planting density through rice growth stages. In Fujihikari, at mature stage the values of nitrogen uptake were almost the same without the value when cultivated in transplanting with low plant density, while in Hanahyogo the values of nitrogen uptake with high planting density were higher than the values with low planting density. It was revealed that to obtain much dry weight in early growth stage with high planting density is important in order to obtain high yield in short-term rice cultivars. In addition, it may be necessary to select the adequate cultivation method, either direct-seeding or transplanting, for each rice cultivar.

Keywords: short-term rice, dry weight, nitrogen uptake, yield

Journal of Crop Research 60: 37-42(2015) Correspondence: Hiromo Inoue (inohiro@kais.kyoto-u.ac.jp)

参照

関連したドキュメント

We present sufficient conditions for the existence of solutions to Neu- mann and periodic boundary-value problems for some class of quasilinear ordinary differential equations.. We

In Section 13, we discuss flagged Schur polynomials, vexillary and dominant permutations, and give a simple formula for the polynomials D w , for 312-avoiding permutations.. In

Analogs of this theorem were proved by Roitberg for nonregular elliptic boundary- value problems and for general elliptic systems of differential equations, the mod- ified scale of

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

Correspondingly, the limiting sequence of metric spaces has a surpris- ingly simple description as a collection of random real trees (given below) in which certain pairs of

 Failing to provide return transportation or pay for the cost of return transportation upon the end of employment, for an employee who was not a national of the country in which

As a result of the Time Transient Response Analysis utilizing the Design Basis Ground Motion (Ss), the shear strain generated in the seismic wall that remained on and below the

 このような状況において,当年度の連結収支につきましては,年ぶ