家庭学習ノートを活用した自主学習指導
~学習習慣の改善を促す学級システム作り~
東久留米市立第十小学校 主任教諭 三浦 尚介 1.はじめに 平成19年度から実施されている全国学力・学習状況調査の都道府県別資料によると、秋田県 は毎年全国の平均正答率を大きく上回り、調査開始以来トップを維持し続けている。東京都につ いては全国平均を上回っているが、秋田県の平均正答率には及ばないという状況が続いている。 そこで、「学校外での学習習慣」に着目して両地区の質問紙調査の結果を比較(表1)してみる と、次のような実態が浮かび上がってくる。 ①学校外の学習時間に大きな差はないが、秋田は家庭、東京は塾等での時間が多い。 ②どちらの地区も宿題にしっかり取り組めているが、秋田はそれに加えて予習・復習、 苦手教科の学習、テスト直しなどの学習に取り組んでいる児童が多い。 これらの点から、秋田県は家庭での自主的、主体的な取り組みが多く見られ、東京都は宿題や 塾などの受動的な取り組みが多いということが推察される。 私は、学力向上のヒントは、秋田県の小学校に見られる「自主学習指導」にあると考え、東京 都の実態に合わせて実施できるよう試行錯誤を繰り返してきた。本稿は、7年間にわたる実践に よって構築した自主学習指導の方法について報告するものである。 (表1 平成25年度 全国学力・学習状況調査 児童質問紙回答結果集計 抜粋) 東京都 秋田県 学校の授業以外 に、普段(月~ 金)、1日 当たりどのく らいの時間学習します 65.4% 72.4% か。(学習塾や家庭教師含む)[1時間以上] 学習塾(家庭教師含む)に通っていますか。 51.5% 17.1% 家で、自分で計画を立てて勉強をしていますか。 61.5% 78.6% 家で、学校の宿題をしていますか。 95.6% 97.6% 家で、学校の授業の予習をしていますか。 40.0% 61.4% 家で、学校の授業の復習をしていますか。 44.9% 89.0% 家で、苦手な教科の学習をしていますか。 52.4% 79.1% 家で、テストで間違えた問題について学習していますか。 52.0% 77.2% 2.秋田県の家庭学習の実際 以前、秋田県の教員に話を伺ったところ、秋田県では県内全域で家庭学習について手厚く指導 しているという実態が見えてきた。 秋田県では、日々の家庭学習は「家庭学習ノート」を中心にして行われている。学習内容は自 分で決めるのが一般的で、計算問題、漢字練習、調べ学習、予習・復習など各人各様のスタイル で「自主学習」に取り組んでいる。ノートは毎日提出させ、担任はアドバイスや賞賛を書き込んで返却している。また、よい取り組みをしている児童のノートを他の児童や家庭に紹介するなど、 効率的で効果的な学習の仕方を具体的に指導している。 このようなノートを用いた自主学習の取り組みは、全国各地でも見られるものではあるが、秋 田県では特に普及率が高く、県内全域で小学校低学年から当たり前に行われているという点は特 筆すべきであろう。このような取り組みが「学習習慣の定着」と「学力の向上」に及ぼしている 効果は大きいと考えられる。 3.東京都の実態に応じた工夫 東京都でも家庭学習指導を工夫することで、「学習習慣の定着」と「学力の向上」が期待でき る。しかし、東京都は習い事や塾など放課後の過ごし方が多様化しているため、それを考慮した 仕組みを作らなければならない。また、児童も保護者も「宿題を中心とした家庭学習」に慣れて いる場合が多く、自主学習に抵抗感のある方も多い。そこで、次のような工夫をして自主学習指 導を行ってきた。 (1)自主学習と宿題のそれぞれの良さを活かす仕組み作り 毎日の家庭学習を「自主学習と宿題のセット」にし、学習に対する主体性・自主性を育みなが らも、基礎基本が定着できるようにルールを工夫した。完全に自由にするのではなく、ある程度 の枠組みや目安を作ることで、児童は安心して学習に取り組むことができる。 このような工夫をすることで、担任による学習状況の確認も容易になった。また、選択の自由 を得られたことで、以前よりドリルや練習プリントへの取り組みが大変意欲的になった。 ・毎日の家庭学習 = 自主学習 + 新出漢字2文字 + 音読 全て合わせて、「10分×学年」以上の時間を取り組むこと ・音読のテーマは自分で決める。国語以外の教科書や、本、新聞なども可。 ・計算と漢字のドリルは自主学習として取り組む。自分のペースでどんどん進めてか まわない。ただし、計算ドリルは単元末のワークテストまでに終わらせること。 ・学習の進度に合わせて練習プリントをプレゼント。やる、やらないは自由。 (2)塾や習い事への対応 塾 や 習 い 事 で 忙 し く 過 ご し てい る 児 童 に 、 その こ と を 考 慮 せ ず に 家 庭 学 習 を 強 い るの は 酷 な 場 合 があ る 。 そ こ で 、 塾 で の 取 り 組 み や 宿 題を 自 主 学 習 に 含め て よ い こ と に し た 。 忙 し い 児 童 は 、塾 な ど で 取 り 組ん だ 時 間 や 内 容 を 家 庭 学 習 ノ ー ト に 記録 し て 提 出 し てい る 。 中には塾のプリントやテキストを提出する児童もいる。 発 展 的 な 内 容 に 進 ん で 取 り 組 む様 子 が 伺 え て 、教 師 に とってもよい刺激になる。 塾の学習だけしかしないという児童はほぼ見られず、テスト前など要所要所でポイントを押さ えて学校の学習にも取り組んでいる児童が多い。塾と自主学習は両立可能である。児童には、「学 校も塾も上手に使って、自分で勉強をしよう。」と日頃から指導している。
(3)良い学習習慣を身につけさせるための工夫 児童が主体的に学習する良い学習習慣を身に付け るためには、「先の見通しをもつこと」「自分の力を 知ること」ことが大切である。 そこで、教室前方に小さい黒板を設置し、先々の 学習を知らせるようにした。特に、単元末のテスト の情報はなるべく一週間前までに知らせるようにし ている。また、テストの点数を記録する用紙を用意 し、教科毎に時系列で点数を記録させている。これにより、努力したことに実感をもつことがで きる。「勉強してよかった」という喜びは、次の努力への強い動機付けとなる。 (4)児童・保護者への説明と確認 自主学習の取り組みを始めると、慣れていない児童や保護者は、家庭学習の範囲が明確に示さ れないことに不安を覚える。また、経験が無いために、何をしたらいいか分からなくなってしま うことも多い。そのため、本格的に自主学習を始める際には説明会を開くことが必要になる。用 意してほしい物や具体的な取り組み方、得られる効果などについて細かく記載したプリントを用 いて説明を行う。 その後、保護者に対しては学期末の保護者会などで状況を確認し、不安な点や疑問な点には丁 寧に答えるように心がけている。児童に対しては、毎日ノートを回収して内容に対してのアドバ イスを書き込むようにしている。 学習が軌道に乗るまでは、このような適切なケアが非常に重要になる。
(5)取り組みの充実させるための工夫 自主学習を続けていくと、短い時間で効率よく学習できるようになる児童が現れる。そのよう な児童の家庭学習ノートを紹介し共有することは、他の児童の学習の質を高めるのにとても有効 である。よい取り組みをしているノートは、教室内で回覧したり、学級通信に載せたりして積極 的に広めていくようにしている。 お 手 本 に な る ノ ー ト を 児 童 や 保 護 者 の 協 力 を 得 て 、 学 級 文 庫 に し て い る 。 1 年 生 か ら 6 年 生 ま で 、 全 学 年 の ノ ー ト を 取 り そ ろ え て い る が 、 他 学 年 の 児 童 の 取 り 組 み を 見 る こ と も 、 児 童 に とってよい刺激になる。
(6)教師側の続ける工夫 忙しい日々の中で、毎日家庭学習ノートの添削を行うのは大変な労力である。しかし、ちょっ とした工夫で負担が軽減し、指導が充実する。ここではいくつかの工夫を簡単に紹介したい。 ①ノートを2冊用意させる。交代で提出させることで、放課後を利用して添削できる。 ②日付入りのスタンプを活用する。提出状況の確認に大変便利である。また、どうしても時間 がないときは、スタンプだけで返却して後でコメントすることもできる。 ③提出の確認を児童の当番や係にする。集める側の立場に立つことは、児童の内面に様々な影 響を与える。提出が苦手な児童は、この仕事を担当することで克服できることが多い。 ④ページに付箋やしおりを挟んでもらう。添削作業がとてもスムーズになる。思いやりの気持 ちを育むことにも繋がる。 4.成果について 取り組みを始めると、単元末のワークテストの点数が目に見 えて向上していくことが多かった。 右のグラフは、私が担任したある学級の自主学習を初めてか ら半年間の平均点の記録である。単元の難易度によって多少上 下するが、全体的に右肩上がりで推移していったことが分かる。 自主学習によって授業の復習に進んで取り組むようになったこ と 、 分 か ら な い こ と や 苦 手 な こ と に 積 極 的 に 取り 組 む よ う に なったことの成果が現れている。 良 い 点 数 を 取 れ る よ う に な る と 、 さ ら に 良 い点 数 を 取 り た く な る 。 ど ん ど ん 自 分 か ら 進 ん で 学 習 す る よ うに な り 、 家 庭 学 習 の 充 実 は も ち ろ ん 、 授 業 に 対 す る 集 中 力 も向 上 し た 。 熱 心 に 学 習 に 取 り 組 む 子 供 達 の 表 情 は 、 自 信 と 喜び に 満 ち て い る。「やればできる」という実感を与えることができたことが 一番の成果ではないだろうか。 5.終わりに~今後の課題~ 右 の 作 文 は 、 児 童 の 書 い た 意 見 文 で あ る 。 自 主 学 習 と 宿 題 に つ い 比 較 し て い る が 、 結 論 部 分 で 「 自 分 の ペ ー ス で し っ か り と 勉 強 す る ことがいい」と述べている。 「 家 庭 学 習 ノ ー ト を 活 用 し た 自 主学習指導」は、「児童を信じてや ら せ て み る こ と で 、 そ の や る 気 と 力 を 引 き 出 す も の で あ る 」 と 私 は 確 信 し て い る 。 こ の 取 り 組 み を さ ら に 広 げ て い く こ と を 、 今 後 の 私 の課題にしたい。 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 算数テストの学級平均の推移 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100 1 2 3 4 5 6 7 社会テストの学級平均の推移