小児大腿骨骨幹部骨折
担当 入船秀仁
【はじめに】
大腿骨骨幹部骨折は整形外科医が扱う小児外傷のうちでメジャーなものである。そのほとん どは治癒にさほど期間を要しないが、保存的な治療では思いのほか合併症が多く、長期入院に 伴う費用も問題となっている(ここは欧米と日本では異なる)。それ故に推奨されている様々な保 存的治療法に対して再考が起こってきた。Hip Spica cast は 6 歳未満の小児に対しては非常に有用な治療法である。一方骨の成熟した ティーンエイジャー(高校生以上)には成人と同様に順向性髄内釘固定が適している。問題は、こ の間の年齢(-骨成熟がまだ十分でない学童期の小児-)の患者に対してどのような治療法を選 択すべきかである。かつては、この年齢に対しては直達牽引後に spica cast を行なうのが一般的 であった。しかし過去 20 年間で、骨折治療において早期可動の重要性が叫ばれてるようになっ てきた。ほとんどの整形外科医は、直達牽引後に spica cast では、患児にとってもその家族にと っても入院期間が長く、しかも長期の固定による精神的肉体的ストレス、筋萎縮、関節拘縮など の合併症は無視できないことを認識していた。直達牽引後+spica cast のよる治療で十分な結果 が得られていたにもかかわらず、入院期間を短縮し、合併症を最小限にするような手術治療に傾 いてきたのである。
【手術法の決定】
小児大腿骨骨折の手術適応は骨癒合後のリモデリングについての知識に基づいて考慮され る。リモデリング能は 10 歳未満、成長軟骨帯近傍での骨折、関節可動方向の変形(つまり外側 凸変形よりも前方凸変形の方が矯正されやすいということ)で最も高いということがわかっている。 今まで以下のようなことが一般的に知られている。リモデリングは、受傷後 2 年間は急速に起こり、 さらに数年間は少しずつ継続して生じる。角状変形は膝関節近傍より股関節近傍の方が許容さ れる。一般的に、小児において骨癒合までに許容される骨折の変形は、2-10 歳では内外反変形 15°、前後変形 20°、回旋変形 30°までとされている。 短縮と過成長に関する研究は多数なされている。過成長は年齢、骨折型、骨折部位、短縮の 程度、治療法に影響されることがわかっている。2-10 歳の小児では、平均 0.9cm(0.4-2.5cm)過成 長することが知られている。過去に発表されたデータによると 10 歳以下の小児では 1.5-2.0cm 以 上の短縮は許容されず、これ以上の年齢では 1.0cm 以上の短縮は許容されないことがわかって いる。 小児の大腿骨骨折に対する治療計画を決定する上で、リモデリングに加え、ほかにもいくつか の要因を考慮しなければならない。それは、骨折型、安定性、骨折部位であり、これらが治療法 の選択にとって重要となる。たとえば、Flexible 髄内釘は螺旋骨折、粉砕骨折、関節近傍骨折に は適さない。また 6 歳以上の小児に対して直達牽引+ギブス固定の適応がより少なくなるのは、 肥満、多発外傷、頭部外傷、floating knee 損傷、遠位部での骨折症例(牽引ピンによるトラブルの 率が非常に高い)などである。保存治療における合併症率は 30%ともいわれているので、この年 代の患者には手術治療のほうが望ましいと言える。すべての局所因子、全身的素因、患者背な どを十分に考慮して、以下に述べるような治療法を、合併症を含めて十分に患者と家族に提示す べきであろう。【創外固定】
創外固定は”portable traction”として考えるべきものである。本法は長大な皮切や骨折部の展 開、出血、骨端線損傷や骨壊死の危険がなく、脚長やアライメントの整復を得ることのできるすぐれた方法である。創外固定は多機種あり、それぞれ似たようなデバイスで、比較的短時間で設置 できるので、重度軟部組織損傷を合併した開放骨折、多発外傷、髄内固定が不適切な骨折など の症例に対して有用である。 しかし近年、6-16 歳の小児に対する主要な治療法としての創外固定は、その合併症の多さと Flexible 髄内釘固定の有用性の多数報告により廃れつつある。創外固定に対する家族の受け入 れ方、pin-site の滲出液や感染、膝関節拘縮、大腿部の瘢痕などが創外固定の合併症として頻 繁に問題となる。しかし、より問題なのは、創外固定では(とくに適切な dynamization がなされなか った場合)十分な仮骨が得られず、骨癒合遅延や創外固定抜去後の再骨折の頻度が非常に高 いということである。 Flexible 髄内釘は骨幹部の横骨折に最適の治療法であるが、創外固定は、高度の粉砕骨折、 長斜骨折、骨幹-骨幹端での骨折(つまり、Flexible 髄内釘の挿入が困難、あるいは、不十分な固 定力しかえられない場合)に有用である。つまり、Flexible 髄内釘と創外固定の適応は、骨折型、 骨折部位によると言える。 創外固定は、通常、X 線透視あるいは骨折手術台を用いて行なう。骨折手術台は、手術開始 前に脚長、回旋、角状変形を矯正できるので有用である。使用する創外固定の機種と骨折型を 十分に把握し、pin の刺入位置を術前に十分検討しなければならない。それぞれの部位に pre-drilling を行ない、まず最近位と最遠位の pin を骨幹の長軸に対して直角に刺入する。ついで、 中心部の 2 本の pin を刺入する。この pin が骨折部から遠く、かつ先に刺入した pin と近ければ、 フレームの強度は減少し、stress-shielding も減少する。X 線にてアライメント確認後に、テント状 になった pin 周囲の皮膚を release し、無菌状態でドレッシングする。Pin-site care は術後 2 日目 より過酸化水素水にて開始し、刺入部が治癒するまで継続する。その後は石けん洗浄をシャワ ー 浴 に て 行 な う 。 通 常 、 荷 重 は 疼 痛 に 応 じ て 許 可 し 、 仮 骨 が 確 認 さ れ れ ば フ レ ー ム の dynamization を行なう。仮骨が成熟したら(通常は 2-4 ヵ月、X 線 2 方向撮影で少なくとも 3 つの 面で仮骨が確認されれば)創外固定を抜去し、骨折部と pin 刺入部を保護する目的で装具あるい は膝関節固定装具を併用しての部分荷重を数週間行なう。
【Flexible 髄内釘固定】
ー釘や titanium elastic nail 使用による良好な成績が報告されていたのである。最近の変化とい えば、flexible 髄内釘を骨成熟をしていない 6 歳以上の小児の大腿骨骨幹部横骨折治療に用い ることである。 flexible 髄内釘は、より近位、遠位の場合や粉砕骨折、螺旋骨折の場合にはアライメント保持 に不安がある。このような場合には、ギブス固定や装具の併用が必要となる。唯一のrandomized trialによると、flexible髄内釘の方が創外固定より、仮骨形成、再骨折率、関節拘縮の点などです ぐれていることが示されている。
エンダー釘と titanium elastic nail はともに flexible 髄内釘固定であるが、両者にはかなりの違い がある。まず第1にエンダー釘はステンレス製で titanium elastic nail よりも固い。第 2 にエンダー 釘による安定性はネイルの彎曲の位置とブロッカーネイルによって髄腔を満たすことにより得ら れるが、Titanium elastic nail の場合は 2 本の対象に刺入されたネイルによるバランスによって得 られる(Fig 2)。刺入部位、ネイルの径、ナイルの長さは対象でなければならない。回旋防止は titanium elastic nail strategy にはさほど重要視されていないのである。本法における合併症はネ イルの先端による刺入部位周囲の軟部組織損傷である。 術前計画として、大腿骨長と髄腔の最峡部の計測が必要である。髄腔径×0.4 が最適なネイ ル径であり、最峡部の髄腔径が 10mm ならネイルは 4mm を使用することになる。創外固定同様 に X 線透視台にて手術を行なうが、骨折手術台を用いた方が術前に整復操作を行なえ、患肢を 外転位に保持しやすいので有用であろう。ネイルは遠位骨端線より約 2.5cm ほど近位の部位か ら刺入する。実際の手術は、まずこの部位から 2-3cm 遠位に小皮切を置き、注意深く切開し骨幹 端部に達する。次いで、刺入するネイルよりも少し太い径のドリルで、骨孔を内外側ほぼ同位置 に作成する。このときドリルを斜めにして髄腔に通路を作成する。ネイルは骨折部位で凸になる ように少し曲げておく。骨折部位まで 2 本のネイルを刺入し、アライメントを整えてからそのうちの 1 本をまず近位へと刺入する。次いでもう 1 本を近位へ刺入する。近位へと刺入したネイルはそ の先端が外側は大転子の骨端線、内側は大腿骨頚部内側に向かうように、その直下まで刺入 する。最終的な刺入部位まで刺入したら、ネイルを少し引き抜いて皮膚のレベルでネイルを切っ て 1-1.5cm 程度皮下に埋め込む。ネイルの先端は少し曲げておくと、骨癒合後抜去する際に楽 であるが、あまり曲げすぎると軟部組織を痛めることになるので注意が必要である。 髄内固定が終了したら牽引を緩め、骨折部位に徒手的にインパクションを加える。回旋変形が ないことを確かめてから手術を終了する。後療法は骨折型に基づいて決定する。安定型横骨折 ではシーネで膝関節を固定して部分荷重を開始する。骨折部位に仮骨が認められれば(通常 6 週でみられる)、外固定は除去する。ネイルの抜去は骨折線が見られなくなる受傷後 6-12 ヶ月の 間で抜去する。 残念ながら、上記のネイルは日本では未承認の製品であり、日本では径の太いキルシュナー ワイヤー、あるいはエンダー釘を用いて上記の方法を行なうのが良いであろう。
Fig 2
【Rigid 順向性髄内釘固定】
Rigid順向性髄内釘固定によって最大の固定性とload-sharingが得られる。成人同様に、骨成 熟した小児の大腿骨骨幹部骨折治療の第一選択である。過去、近位骨端線閉鎖前の小児に順 向性髄内釘固定を行なった報告が多数存在する。成績は良いが、合併症として大腿骨頭壊死が 多数報告されている。 順向性髄内釘はよく知られた手技であり、成績も非常に安定している。本法を行なう際には、 刺入口は大転子頂部とするのがよい。なぜなら梨状筋窩に刺入口を作成すると高率に骨頭栄養 動脈を損傷することが知られているからである。しかし、小児の場合には大転子頂部から刺入し ても骨頭壊死の頻度が高いと言われている。ネイルの形状を改良したとしても骨頭壊死の危険 を回避できないと考えられるので、骨成熟前の小児に対しては別の方法を選択するのがよいで あろう。【Open Reduction and Plate Fixation】
プレート固定は小児大腿骨骨折治療に有用な器械のひとつではある。この方法は誰もが慣れ 親しんだ方法であり、正確で強固な内固定を行なえ、早期可動を可能にする方法である。しかし、 長大な皮切や多量の出血、再骨折、プレート抜去の必要性などのため、他のより良い方法 (Flexible 髄内釘固定など)が主流となり、プレート固定が選択されることは少ない。 その数少ない適応は、12 歳以下の多発外傷症例と大腿動脈損傷合併症例である。また、より 近位あるいは遠位の骨折に対してプレート固定を好む外科医もいるが、他のデバイスと比べて 有用性は見いだされていない。テクニカルなこととして、もしプレート固定を選択するのであれば、 4.5mm の DCP プレートを用いて骨折部遠位近位とも 6 cortex で固定するのがよい。
【まとめ―推奨する治療方法】
小児大腿骨骨幹部骨折治療についての最近の流れを紹介してきたが、残念なことに日本では まだ、titanium elastic nail が市販されておらず、これの代用となる方法(エンダーなど)で治療しな ければならない。また、プレート固定を選択する際には、LCP プレートを使用し MIPO テクニックで 施行するようにする。 最後に小児大腿骨骨幹部骨折治療のアルゴリズムを示すので、これを治療計画の上で参考に していただければと考えている。 小児大腿骨骨幹部骨折 年齢は? 6歳未満 6歳以上 Spica Cast 血管損傷+ 血管損傷-骨折型は? 横骨折 長斜、粉砕、関節近傍 骨端線は? 骨端線+ 骨端線-順向性髄内釘固定 創外固定 弾性髄内釘固定 プレート固定、創外固定 参考文献 1. Buckley SL.
Current trends in the treatment of femoral shaft fractures in children and adolescents. Clin Orthop. 1997;338:60-73.
2. Hinton RY, Lincoln A, Crockett MM, Sponseller P, Smith G.
Fractures of the femoral shaft in children. Incidence, mechanisms, and sociodemographic risk factors. J Bone Joint Surg Am. 1999;81:500-509.
3. John M. Flynn, David Skaggs, Paul D. Sponseller, Theodore J. Ganley, Robert M. Kay, and K. Kellie Leitch The Operative Management of Pediatric Fractures of the Lower Extremity.