して米国では,06年1年間で状況は大きく変 わった。テレビの人気番組はことごとくイン ターネット経由で配信され,パソコンや携帯 端末で見られるようになっているのである。 放送局がネットで番組を配信する事業に着手 したのは,実は日本の方が早かった。05年7月に NHKとフジテレビが開始して以降,各キー局も 乗り出していた。しかし配信される番組は限定的 で,人気番組はほとんどない。これに対して米 国では,05年10月に動画対応のiPodが登場した 際に,4大ネットの1つABCがドラマなどの配信 を始めたのが最初だった。しかしそれから1年あ まりで,人気ドラマなどが全て配信されるように なった。日米の状況は完全に逆転したのである。 なぜ米国の放送事業者はテレビ番組のネッ ト配信に積極的なのか。ネットと放送の関係 をどう位置づけているのか。本稿では,今年 1月に開催されたCES2007と関係各社へのヒ アリングに基づき,“通信と放送の融合”が米 国でどう進んでいるのか,そしてその背景に はどんな考え方があるのかを検討したい。 < 本稿の項目 > はじめに ①“映像”に向かう通信事業 ②“番組ネット配信”に向かう放送事業 ③ 日本の状況との比較 おわりに
はじめに
2006年の日本では,“通信放送融合”に関 わる出来事が多く起こった。まず制度の問題 として,竹中平蔵前総務大臣の私的懇談会「通 信・放送の在り方に関する懇談会」(いわゆ る竹中懇)で年が明けた。結果は6月に政府 与党合意となり,9月の「通信・放送分野の 改革に関する工程プログラム」1)につながっ た。また法制度の部分では,12月に著作権 法の一部を改正する法律案が国会で成立し た。これによりIPマルチキャストで地上デ ジタル放送の同時再送信が可能となった。 インフラや端末でも,“融合”関連の出来事は 少なくない。4月にワンセグが始まり,12月まで に340万台の対応携帯が出荷された。パソコン で視聴するための外付けチューナーも,登場ま もなく月間50万台ほど出荷されるようになって いる。通信を介して映像配信を実現するIPTV の技術要件や運用ルールを議論するための フォーラムも10月に立ち上がり,NTTは実用 化に向けたトライアルを12月から始めている。 以上のように“融合”はさまざまな局面で動 き始めているが,そのペースは必ずしも早 いとは言えない。竹中懇が目指した「ネット でテレビ番組を自由に見る」状況2)までには, 解決すべき問題が山積している。これに対“融合”が進む米国の通信と放送
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
鈴木祐司
“融合”が進む米国の通信と放送
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
“融合”が進む米国の通信と放送
“融合”が進む米国の通信と放送
“融合”が進む米国の通信と放送
“融合”が進む米国の通信と放送
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
“融合”が進む米国の通信と放送
“融合”が進む米国の通信と放送
“融合”が進む米国の通信と放送
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
∼ CES2007と事業者ヒアリングから∼
〔 1〕
“映像”に向かう通信事業
CES2007 での特徴 今年1月8日から4日間,米国ラスベガス で「2007インターナショナルCES」3)が開催 された。開催40周年の今年は,展示床面積 180万平方フィート,出展2,700社,来場者 14万人超,海外からの来場者2万6,000人と, いずれも史上最大となった(写真1)。 展示会場では,より多くの機能,サー ビス,そしてコンテンツを組み込んだ新製 品が2万件以上並んだ。またキーノートス ピーチとして,マイクロソフト社のビル・ ゲイツ氏,モトローラ社のエド・ザンダー 氏,ディズニーのロバート・アイガー氏, デル社のマイケル・デル氏,そしてCBS のレスリー・ムーンヴェス氏など,通信・ 放送・コンテンツ産業を代表する企業の 経営者が講演を行った。 展示でまず目に付いたのは,各社が ハイビジョンTVの大型化を競ったこ と(写真2)。06年末時点では,ソニー とサムスンが出していた液晶82型が 世界最大だった。しかし今回は,韓 国の大手家電メーカー LG電子が液晶 100型,サムスンが液晶102型,日本 の松下電器産業がPDP103型,そして シャープが液晶108型を発表した。 ハイビジョンTVのサイズ以外に も,家電メーカーの大型化や高機能化 へのこだわりは随所に見られた。次世 代DVDは「ブルーレイディスク(BD)」 と「HD DVD」の両規格が覇権を争っ ているが,韓国LG電子は両方のソフ トに1台で対応するプレイヤーを出展 し,世界初を喧伝した。 また両規格については,「BD」が容量の上で先 行していたが,東芝はそれを上回る「HD DVD」 を発表した。記録層を3層にすることで51Gバイ トの容量を実現したのである。さらに日立グロー バルストレージテクノロジーズ社は,3.5インチ型 で1テラバイトに達する世界最大の記憶容量を 持つハードディスク駆動装置を発表した。 写真 2 CES2007の時点で世界最大となったシャープの液晶108型 写真 1 40回目となった「2007インターナショナルCES」以上のように,大きな展示スペースをとる 家電コーナーの新製品が目立ったが,共通す るキーワードとしては“映像”が挙げられる。 しかも“映像”については,家電メーカーに限 らず,今回は通信事業者も前提としていたこ とが大きな特徴だった。 映像処理を競ったパソコン業界 パソコン関連で最も大きな展示スペースを 誇ったのはマイクロソフト社とインテル社 だ。両社の展示のコンセプトは,高度な“映 像処理”だった。 マイクロソフト(MS)社は,今年1月30日 に新OS4)「ウィンドウズ・ビスタ」を世界で 同時に発売した。その直前のタイミングと なったCESでは,MS社の展示はビスタ一色 となった。CES基調講演のトップを飾った 同社ビル・ゲイツ会長も,約90分の講演の 大半を新製品の紹介に充てた。 ここで紹介されたビスタの特徴は,ハイビ ジョン画質にも対応する映像処理の操作性 だった。複数のファイルを開いた場合にも, 立体的な画像で表示するために,処理がしや すくなると言う(写真3)。2次元の地図をス クロールする従来方式を進化させ,ラスベガ スの街並みを3D映像で再現し,縦横無尽に 浮遊するような視点移動が可能となるソフ トも紹介された。集合写真で1人だけ目をつ むってしまっている場合,複数の写真から良 いとこ取りして1枚の写真に合成するソフト も登場した。他に,動画の壁紙,動画を写真 のようにしてファイリングするソフトなどが 売りとされた。 ビスタの他に,ゲーム機「Xbox360」がHD DVDに対応していること,GUI5)が優れて いることなども挙げられた。また未来のデジ タルライフとして,バス停で地域情報を呼び 出してレストランを予約したり,台所の調理 台がパソコンのディスプレイも兼ね,調理を サポートしたり,部屋の壁紙がパソコンの ディスプレイになったりする暮らしの実例な ども紹介された。 06年にViivテクノロジー6)を発表したイン テル社の展示も,映像処理の高度化を謳った ものが主だった。ダンスの映像を自由に連続 写真のように表示するシステム,対戦ゲーム の体験コーナー,映像を加えることで楽しみ ながらトレーニングできる健康器具(写真4) など,注目を集めていた新製品はいずれも映 像がらみだった。 両社以外にも,パソコン関連企業の展示に は映像に関係したものが多数見られたが,こ の流れに対しては疑問の声もある。もともと パソコンは情報処理のための機械として,主 に仕事や学問の道具として発展してきた。そ の過程で処理速度が上がるにつれ,より重い コンテンツを処理できるようになり,結果と して映像を中心とした娯楽的な要素が増えて いった。しかし映像処理ではテレビ,デジタ ル録画機,ゲーム機など専用端末があり,そ 写真 3 マイクロソフト社「ウィンドウズ・ビスタ」の画面
れぞれ進化してきている。音楽においても iPodなどの専用端末が急速に普及した。つ まりパソコンにこうした機能を求めるユー ザーはどれくらいの比率を占めるか不明だと いうのである。 ただし一定数のユーザーが,映像の処理を 高速で行う高機能パソコンを支持することも 否定できない事実だろう。その意味では,テ レビやゲーム機など既存の専用端末と激しい 競争となることは必至だ。映像を享受する手 段として,端末やインフラの多様化が進むと 言えよう。 IPTV 参戦 05年現在の米国のTV所有世 帯は約1億1,200万。うちCATV 加入が約6,530万,DTH加入約 2,700万だった7)。CATVとDTH の加入に全く重複がないと仮定 す る と,CATV加 入 率 が58%, DTH加入率24%,有料多チャン ネル加入率は82%となり,ほぼ 飽和状態にあると言える。 米国の2大通信事業者AT&T 社とベライゾン社は,この有料多チャンネル市 場にIPTVで参戦した。AT&T社はU-verseと いう名のIPTVサービスを去年6月から開始し た。FTTH(Fiber To The Home)ではなく, FTTN(Fiber To The Node:顧客近隣のノー ドまで光接続をし,その先は既存の同軸回線を 利用)方式を採用し,投資額を大幅に節約して いる。テキサス州の一部など,サービス提供エ リアは限定されているが,去年12月までに4万 世帯が加入している。 一方ベライゾン社はFios TVという名の IPTVサービスを05年9月に開始した。AT&T 社のU-verseと異なり,光を家庭の中にまで通 す方式を採用しており,投資額は大きくなっ ているが,より高度なシステムを採用している 分だけ,より多チャンネル化と処理の高速化 を達成している。例えばチャンネル数は600ほ どあり,VODコンテンツも4,000タイトルに及 ぶ。またリモコンもテンキーのみで簡単に単 語入力などができるようになっており,操作性 はかなり良くなっている(写真5)。サービス地 域はやはり限定されているが,開始1年3か月 で加入者は20万7,000人に達している。日本 写真 5 写真 4 インテル社が展示した映像を絡めた健康器具 ベライゾン社のFiosTV 写真右はリモコンのテンキー操作。単語も簡 単に打ち込めるシステムが採用されている。
のIPTV事業は,中には開始から3年以上を 経過している社もあるが,加入者はいずれも 10万に届いていない。 数字で見ても,米国のIPTVがある程度順 調に立ち上がっていることがわかる。有料多 チャンネル世帯が82%に及ぶことも,今後 の展開に期待を持たせている。これまでの IPTV加入者も,ほぼ全てが既存システムか ら乗り換えたユーザーで占められている。 CATVとの競合では,IPTVはトラブル発 生率が格段に低く,VODの反応も3倍ほど 速い。CATVをデジタル化する際に,IPTV に乗り換えるユーザーが少なくないという。 また衛星放送との競合でも,IPTVはチャン ネル数で勝り,双方向機能でもワンストッ プ・サービスとなっている分だけ有利と言え よう。そもそも米国は引越し社会で,その際 に競合他社のサービスを対等に比較する習慣 がユーザーにはある。その意味でもIPTVは, 82%の有料多チャンネル契約世帯の中で一定 比率に達する可能性があると言えそうだ。 ホームネットワークが次の市場 各 家 庭 へ の ア ク セ ス 系 は, 光,CATV, ADSLなど方式争いはあるものの,ほぼブ ロードバンドへの道は見えてきた。今回の CESでは,ラストワンマイルの次は,家庭 内での端末をつなぐラスト数メーターが大き な市場になると見る事業者の展示が多く見ら れた。ホームネットワーク構築の動きである。 各社の展示は,大きく分けると,3つの方式 のいずれかをメインとするか,それらの組み合 わせを採っている。3つとは,同軸ケーブル, 無線通信,PLCである(写真6)。 同軸ケーブルとは,CATV加入率の高い 米国では,CATV用同軸ケーブルが多くの 家庭で各部屋まで既設されているので,それ を有効利用して従来の放送と新しいIP放送 を重ねて送り届けようという方法である。こ の通信技術を標準化するための団体MoCA (MULTIMEDIA over COAX ALLIANCE)
が指標の標準化などを行っているところであ る。アンテナ経由で届く従来の放送はVHFお よびUHF帯を使って各部屋の端末に送り届 け,光ファイバなどブロードバンド を介して届けられるIP放送やVOD コンテンツは,UHFより高い周波数 を利用してIP通信で各部屋に届ける 方式である(図1)。 無線通信とは,Wifi やUWBなど の無線LAN8)を使ったシステムで ある。他の機器が発する電波との混 信や,壁などの遮 物による障害な どが起こりやすいために,図1のよ うに有線系の通信システムと組み合 わせて利用する提案がCESでは多 く見られた。 写真 6 ホームネットワーク関係の展示 同軸利用(写真左),無線利用(写真右上),PLC(写真右下)の3方式が登場
PLCとはPower Line Communicationの略 で,家庭内の電力線を利用した通信システ ムを言う。日本でも去年暮に,短波帯(1.7∼ 30MHz)を通信に利用する端末が発売になっ ている。CESでも多くの企業がPLCを使っ たホームネットワーク構築の提案をしていた が,図2のように従来の放送は同軸ケーブル を使い,IP放送やVODコンテンツをPLCで 図 1 Home Network Solution
COAX と UWB の組み合わせを利用した場合
-図 2 Home Network Solution PLC と Wifi の組み合わせを利用した場合 -TV モニタ 【寝室】 【居間】 【個室】 UHF帯の上の周波数を利用して IP通信用伝送路を確保(MoCA) MoCA&UWBでHDMIをマルチルーム展開→居間にあるチューナーを各部屋の TVモニタから利用可能 HDMI HDMI All CH 既存COAX 地上波(VHF/UHF) Selected CH(1対向) UWB HDMI UWB ONU 光ファイバ IP放送 VOD STB Private TV 【寝室】 【居間】 【個室】 All CH 既存COAX 地上波(VHF/UHF) Selected CH 電源線 Wifi Wifi 光ファイバ IP放送 VOD STB ONU
伝送し,しかもパソコンなどの通信では無線 LANでPLC端末とやりとりをする方式が現 実性を持つと注目されていた(図2)。 こうした主に通信サイドから出されてい るホームネットワーク構築の提案に対して は,疑問の声も出ている。例えばCATVや DTHなど有料多チャンネル事業者は,1台の チューナーで各部屋のテレビに映像を映し出 すのは,同時には同一チャンネルしかチュー ニングできないので,システムを構築するに 値するかが疑問だという。複数のSTBを割 引契約すれば,同時に異なる番組も視聴でき るし,新たなシステム構築費もかからない。 デジタル録画機の録画番組を共有するという 考え方も,既に値段の下がっている録画機を 複数台設置すれば済むことで,ホームネット ワークにはコストパフォーマンスの優位性が ないと言うのである。 どちらの言い分が正しいかはやがて市場が 決めるだろう。しかし少なくとも,新提案を している通信事業者と既存の放送事業者との 間に,激しい競争が始まろうとしていること だけは言えそうである。 携帯端末への動画配信 通信事業者が“映像”を前提にし始めてい る点は,携帯電話の世界も同様だ。CESに 際して業界2位のベライゾン・ワイヤレス社 は,07年第1四半期中に本格的な携帯放送を 開始すると発表した。サービス名は「V Cast Mobile TV」,米クアルコム社の子会社メディ アフローから,放送サービスの提供を受けて 実施するもので,CES展示会場でも対応携 帯端末が韓国サムスン社とLG電子から出品 されていた(写真7)。 類似のサービスである日本のワンセグは, 6MHzの帯域を13セグメントに分割し,そ の1つを利用して400Kbpsほどの情報レート で毎秒15フレームの映像1チャンネルを送っ ている。これに対してメディアフローは, VBR9)を利用することで1チャンネル平均 250Kbps,毎秒30フレームの番組合計20チャ ンネルほどを伝送できると言う。実際には 15チャンネルの放送と1日800時間分のファ イルキャスティング10)を行う予定と言う。 メディアフローについては,ベライゾン・ワ イヤレス社に約1か月遅れて,AT&T傘下の シンギュラー・ワイヤレスもサー ビスを始めると発表した。これ でトップ2社がメディアフロー と契約したことになる。また番 組提供者としては,音楽専門局 MTVの他,米4大ネットワーク のNBC,CBS,FOXなども名乗 りを上げ,コンテンツも出揃い 始めている。 メディアフローでのビジネ スモデルは次のようになって いる。クアルコム社の完全子 写真 7 メディアフローに対応する携帯電話 サムスン製(写真上)と LG電子製(写真右)
会社メディアフロー社が,自ら放送帯域を確 保しネットワークの運営にあたる。NBCや CBSなどの番組提供者を確保するなど,コ ンテンツ・アグリゲーションも手がける。こ のようにインフラとコンテンツを用意した上 で,通信事業者にサービスを卸売りする。こ れを前提に携帯電話会社は,対応携帯の販売, サービスのパッケージ化,加入手続きや課金 などユーザーへのサービス提供を行う。つま り提供された番組は,卸売りと小売を経て ユーザーに届けられ,代金が3者に分配され る仕組みとなっている(図3)。 この際,卸売りを担当するメディアフロー 社が最も大きなリスクを背負う。番組提供者 はコンテンツに対して最低保証を得るので, 大きく損をすることはない。小売に相当する 携帯事業者も,普及が思わしくない時は比較 的小さい損失の内に撤退が可能だ。しかし卸 売りのメディアフロー社は,送信設備に莫大 な投資をし,しかも電波帯域を確保している ので容易に撤退できないし,その場合には大 きな損失を蒙ることになる。 では大きなリスクを背負い込んでまで,何 故クアルコム社はメディアフロー社を設立 し,事業に乗り出したのか。実はそこには, 携帯電話のLSIやミドルウェアのメーカーゆ えの計算がある。同社の収益の6割は携帯端 末のLSI販売から,そして3割はミドルウェ アなどのパテント料から成ると言う。しかし 欧米の携帯電話は,第3世代が大半となった 日本ほどは高度化していない11)。そこでクア ルコム社は,映像配信により携帯の高度化を 促進し,結果として端末の買い替え需要を喚 起し,LSIやパテントの販売量アップを狙っ たのである。つまり映像の処理が端末の高度 化につながり,そこにビジネスチャンスが生 まれると踏んだのである。 携帯の映像配信に限らず,パソコン関連業 界,IPTV,そしてホームネットワーク関連 業界でも構造は似ている。映像を絡めること で,端末やインフラへのニーズを喚起し,そ こに「高度化=高価」な商品を投入し,収益 増を狙っているのである。実際に映像が需要 喚起にどこまでつながるかは今後市場が証明 していくだろうが,CES2007が市場最大規 模で賑った背景には,ブロードバンドが一定 程度普及し,相応しいコンテンツを模索する 時代に入ったという状況が前提にあったとい う構造だったのである。
〔 2 〕
“番組ネット配信”に向かう放送事業
通信事業者が“映像”を前提にし始めてい るのに対して,放送事業者は“番組のネット 配信”を前提にし始めている。今年のCES基 調講演では,6人の経営トップが壇上に立っ た。そのうち2人が,放送やコンテンツ企業 の代表として壇上に立った。ディズニーのロ 図 3 メディアフローのビジネスモデル コンテンツ プロバイダー 番組 提供者 コンテンツ 供給 ネットワーク 運用 メディア フロー コンテンツ アグリケーション 携帯事業者 への卸売り 端末の販売 サービスの パッケージ化 携帯電話 事業者 エンドユーザー へのサービス提供 (加入処理、 課金処理) エンド ユーザー コンテンツの流れ 利用料の流れバート・アイガー CEOと,CBSのレスリー・ ムーンヴェスCEOである。2人の講演内容は, CESに出品した通信関連事業者の多くが“映 像”を前提にしたのと対照的に,“映像コンテ ンツのネット配信”を前提とした経営方針を 明らかにするものだった。新しいメディアや デバイスへ番組や映像コンテンツを積極的に 提供していくというものである。 ディズニートップの基調講演 4大ネットワークの1つABCとスポーツ専 門チャンネルESPNを擁し,06年1月にはCG アニメのトップ企業ピクサーを買収したディ ズニーのロバート・アイガー CEOは,CES 初日に登壇した。傘下のABCは,05年10月 に動画対応のiPodが登場すると同時に,人気 テレビ番組を4大ネットの中で最初に配信し ている。スポーツ専門チャンネルのESPNも, 各種スポーツの統計やアンケート結果をリア ルタイムにサイト上で表示し,人気を博して いるという。フットボール中継「マンデーナイ ト・フットボール」(毎週月曜)では,放送前 後で2,500万ヒットを獲得しており,高い広告 収入にもつながっていると言う。 これらネットへの積極展開は,違法コピー・ 海賊版による被害が拡大するという現実にも 直面している。しかしアイガー氏は「適正な 価格で広く提供することが重要」と,映像コ ンテンツの積極的な提供を今後も続けるとし た。この考え方の背景には,「ブロードバン ドが一大市場に成長した以上,人気コンテン ツはネット配信しないと海賊版が横行する。 逆に直ぐに出てくると分かっていれば,海賊 版は少なくなる」という発想がある。 実 際ABCは,iPodへ の 有 料 配 信に 続き, 06年4月には人気番組の自社サイトでの無料 配信に踏み切っている。さらに同年9月には 系列局のサイトでも人気番組の無料配信を始 めるなど,4大ネットの中では最も早くネット にオープンな姿勢を打ち出してきた(写真8)。 『デスパレートな妻たち』『ロスト』など ABCの人気ドラマは,05年10月にiPodで発 売開始以来,3か月で150万ダウンロードを 超えたと言う。4億円近い売上に相当する。 また06年4月末に自社サイトで無料配信を始 めた人気番組の数々は,当初2か月で1,600 万件もの視聴を得ている。番組のネット配信 は,接触率向上にも大きく貢献していると ABCは言う。 CBS の戦略 CBSのレスリー・ムーンヴェスCEOは基 写真 8 ABCの番組配信サービス 写真 9 CES基調講演に立ったCBSのレスリー・ムーンヴェスCEO
調講演の最後を飾った(写真9)。講演のタイ トルは「Audience Nation(視聴者の王国)」, IT・デジタル化が進む中で視聴者の選択権 が拡大する状況に対して,CBSは積極的に マルチ・プラットフォーム戦略に打って出る という趣旨を象徴するものだった。 話はまず,今年第1四半期に開始予定のベ ライゾン・ワイヤレス社が展開する「V Cast Mobile TV」に同局が1チャンネル参加する話 から始まった。次に人気ドラマ『CSI』が,テ レビ以外にパソコンやモバイルでも視聴でき るようになっていること,さらにファンサイ ト,YouTubeのクリップ,CSI携帯ゲーム, そして双方向型DVDなど,あらゆるプラット フォームに展開している現状が紹介された。 トップの話にある通り,CBSはテレビの枠 を超えて,ベンチャー的な取り組みにも積極 的に関与している。例えば同局は,学生スポー ツを専門に取り扱うCSTV(College Sport TV)を買収した。大学スポーツの中継を行っ ているサイトで,主に若年層6,700万人が毎 週視聴している(写真10)。 3大ネット時代から,CBSは最も中高年層 の視聴者が多いと言われて来た。ネットの登 場で,若年層のテレビ離れも言われている。 CSTVは若年層へのアプローチとして,大き な一歩と位置づけられている。しかもサイト は試合の中継をするだけでなく,画面左端に 複数の解説者やファンが顔を出し,さまざま なコメントを提供している。まるでスポーツ・ バーに集って友人とスポーツ観戦をしている ような演出で,若者に好評だと言う。 既存メディアの中でも古いメディアに属 すラジオでも,ネットとの連携が始まってい る。視聴者がネットで参加するラジオショー 「Paltalk.com」である。視聴者はウェブカメラ を使って自宅からラジオショーのゲストとして 参加できる。キャスターはリスナーの出社前 の様子やキッチンで料理をつくる姿など,視 写真 11 CBSラジオのネット連携 写真 10 CBSが買収したCSTVのサイト 写真 12 CBSが運営するSNS
聴者の姿をマルチ画面に投影し,彼らと会話 を交わしながらショーを展開する(写真11)。 一般のリスナーも,ラジオスタジオの様子や, ネットを介して登場したゲストの姿をウェブ で見ることができる。YouTubeのビデオ投稿 を中継しているような趣だが,正にラジオと ネットの融合と言えよう。 ゲイ・コミュニティーを取り上げた番組「The L Word」もユニークだ。CBSが自らSNS12)を 運営し,そこに寄せられた視聴者の声を番組 に反映させたり,サイトの中で番組PRや物 販を手がけているという(写真12)。「create more community around contents」(=番組 の周りにコミュニティを作り出す)という方針 がCBSにはあるが,その代表例と言えよう。 CBSがネットとの関係で一躍有名になっ た の は,Google が YouTube を16億5,000万 ドルで買収すると発表した2006年10月9日 に,CBSとも契約したと発表したからだった。 CBSのスポーツ,エンターテインメントなど のショートビデオをYouTubeで配信すると いうのが契約内容だった。同時にCBSに著 作権のあるコンテンツが同サイトに保存され ているか否かを確認する契約も交わした。 以後06年11月からCBSは,人気番組のハ イライトを毎日YouTubeに自らアップロー ドするようになった。そのサイトでは,視聴 者がどの場面でどんな感想を持ったのか,書 き込まれた文言が番組の進行にあわせて表示 されるようにできている(写真13)。テレビ とは異なる視聴者,例えば若年層,テレビ非 視聴層などへの番組露出ができるようになっ たという。その結果として,例えば深夜のトー ク番組で視聴率が上昇した実績を持つ。 ちなみに提携以降CBSは,「15SECONDS」 という15秒の視聴者動画投稿コンクールを 実施した。その最優秀作品は,全米で9,300 万人が視聴した第41回スーパーボウル(2月 4日)の中継番組で,一般のCMに混じって 放送された。内容は,語りかける1匹の猫の フルショット。しかし「ペットは肌の色に関 わらず,他のペットと遊ぶよ。君もそうした 方が良いよ」という猫の台詞と,「人種差別 は自然ではない。我々もペットに学ぼう」と いうテロップが強いインパクトとなり,多く の人々を印象付けた(写真14)。CBSにとっ ては,新しい視聴者層を知る契機になったこ とと,ネットユーザーをテレビに誘導するこ 写真 13 YouTubeにアップロードされたCBS番組 写真 14 「15SECONDS」の紹介画面。右上がスーパーボウルで放送された最優秀作品
とに成功した点がメリットだったと言う。 さ ら にCBSは, 直 ぐ に は 放 送 に 結 び 付 かない部分でも新たな試みを始めている。 Linden Lab13)が運営するオンラインゲーム 「Second Life」との提携だ。「Second Life」と はオンライン上で成長を続けるバーチャルな 世界。参加者は登録して会員になると,アバ ター(自分の代理人)が与えられ,仮想空間 で生活を始める。そこでは「リンデンドル」 という通貨で商品の売買もでき,現実のドル との交換もできる。今年1月時点での住人は 290万人,月間17億ドルが動く経済圏にまで 成長している。 CBSは「Second Life」に,かつての人気ド ラマシリーズ「スタートレック」のパビリオ ンを設置した(写真15)。ここで訪問者は, 船長やスポックとなり,ドラマの名場面を追 体験できるようになっている。訪問者はかな りの数に上っているというが,CBSとして はこれを放送にどうつなげるかは未だ模索中 だという。今のところは「シリコンバレーの 先端企業にコンテンツを提供する放送局」と いうブランディングの一環と位置づけられて いる。いずれにしても「新しい技術を恐れず, 連携して前進していく」という姿勢が,テレ ビの新たな可能性を切り開いて行くという方 針は明確なようである。 4 大ネットに共通する姿勢 番組のネット配信については,NBCも早 くから積極的に取り組んできた。ABCに はわずかに遅れをとったものの,iPodへは 05年12月に有料配信を開始した。人気ドラ マの無料の配信は06年2月の実験的な配信 の後,自社サイトに定着させた(写真16)。 YouTubeとの提携は06年6月と,4大ネット の中では一番早い。特に有料配信については, トップ100番組の内の4∼5割をCBSの人気 番組が占め,06年中に50億円近い売上があっ たという。 一方FOXは,4大ネットの中では番組の ネット配信に最も慎重だった。iPodへの有 料配信を始めたのは06年5月,自社サイトで 人気ドラマ全てを無料配信したのが06年10 月と,4大ネットの中で最も遅く始めている (写真 17)。FOXが慎重路線を採った背景に は,資本の論理もあった。唯一FOXだけが, ネットワークであると共に,メジャースタジ オでもあるという点である。つまり番組の制 写真 15 Second Lifeとの提携 写真 16 NBCの番組配信サービス
作とテレビでの放送の2面性を持つがゆえ, 著作権問題など制度問題を慎重に詰めた結果 だったという。 以上各局の番組ネット配信の流れを概観し てきたが,4局には共通点が幾つかある。ま ず最大の部分は,各局とも去年10月までに 「デジタルメディア局」的な新しいセクショ ンを設置していることである。制作される放 送番組について,テレビだけでなく,ブロー ドバンド,CATV,携帯端末など,どのメディ アにどう配信していくと最も効果があるかを 設計するのがミッションになっている。 コンテンツの保護を図りながら,効果を最 大にするという仕事だが,では実際の収支を どう見ているだろうか。まず視聴率について は,YouTubeにハイライトをアップロード した結果,深夜のトーク番組の視聴率が上昇 したというCBSの例にあったように,各局 ともやり方次第で上げられると見ている。当 初はネット配信がテレビ視聴を食ってしま うと危惧していたが,現実は異なっていた。 テレビは高画質化に向かい,ネットは300∼ 500Kbps程度の画質で大きさも限られている ため,ネットで見た人も一定程度テレビに 戻ってくる。ネットで従来の非視聴層に届け られれば,十分テレビ視聴率に反映するとい うのである。 接触率の上昇も番組のネット配信で果せる という。テレビは中高年ほど視聴時間が長く, ネット利用者は若年層が多くなっている。つ まり番組のネット配信で,両方の層を取り 込むことができ,結果として総接触率も上昇 するという認識を各局が得ている。放送を見 逃した人も,話題を聞いていつでもキャッチ アップできるネットの効果は,想像した以上 に大きかったという。 iPodなどへの有料配信による収入もばか にならない。年間50億円ちかくを売り上げ たNBCの例もある。当初心配されたDVDな どパッケージメディアの売上に悪影響を及ぼ すということもなかった。ハイビジョンテレ ビが2割の家庭に普及している現在,携帯画 面と大画面のニーズは明らかに異なり,結果 としてDVDの売上にマイナスはほとんど出 ていないという。中にはFOXのように,ネッ トで無料配信をしているにもかかわらず,放 送翌日からDVDを販売し,それが売り上げ 増につながったという例もある。 以上のように米国4大ネットは,06年1年 間の試行錯誤を経て,番組のネット配信は完 全に前提となった。テレビの視聴率を上げ, 接触率にもプラスになり,パッケージメディ アなど有料収入にもつながるという認識が確 立したのである。番組のネット展開で,利益 最大化が図れるという手応えを,各局は異口 同音に語っていた。 写真 17 FOXの番組配信サービス
〔 3 〕日本の状況との比較
番組ネット配信をめぐるスタンスの差 06年の1年間,さまざまな試行錯誤の末に, 米国は番組のネット配信を戦略の前提とし た。これに対して,日本の状況はかなり異な る。前述の通り,06年1年間で“通信放送融合” についてかなり議論をしながら,番組のネッ ト配信については変化がほとんどなかった。 あらゆるプラットフォームに番組やその モチーフを展開し始め,「もはや番組がテレ ビに封じ込められる時代は終った」(CBSの ムーンヴェスCEO)という認識すら出てきて いる米国に対して,日本の放送事業者は地上 波テレビ優先で発想している。「人々のテレ ビ視聴時間は3時間40分でずっと動かない。 この限られた時間を,最も効率の良いテレビ で消費してもらうのがベストだ」という認識 が前提にあるからである。 現に地上波テレビの人気番組は,ほとんど ネットでは配信されていない。米国の動画共 有サイトYouTubeへは,日本人も月間1,000 万人ほどがアクセスするようになっている。 その際視聴しているコンテンツは,違法に アップロードされた日本のテレビ番組が圧倒 的に多い。つまりテレビ番組のネット配信へ のニーズがかなりあることが,YouTubeに よって証明されたのである。それにもかかわ らず,日本ではテレビ番組のネット配信はほ とんど動いていないのが現実だ。 そのYouTubeへの対応でも,日米の放送 事業者は対照的となった。米国では4大ネッ トのうち,NBCとCBSが提携を結んだ。敵対 的に振舞うのではなく,現実的なメリットを 協力しながら模索する道を選んだのである。 これに対して日本では,提携を結ぶ状況 とはほど遠い。まず去年10月,放送事業者 を含む著作権関連事業者・団体23社が著作 権を侵害している映像約3万件の削除依頼を 行った。その後12月には,著作権侵害の防 止策を講ずるように要請した。これには違法 アップロードを防ぐ抜本的な侵害予防システ ムの導入,違法投稿者の名前・住所を登録・ 保持する仕組みの導入などが含まれていた。 そして2月,両者は話し合いの場を持ったが, すぐに実施することになったのは,ユーザー が動画をアップロードする際に日本語の警告 メッセージを画面表示することだけだった。 携帯端末をめぐるスタンスの差 携帯端末への動画配信でも,スタンスは やはり大きく異なる。日本では去年4月から ワンセグが始まり,去年暮までに対応携帯が 340万台出荷された。またパソコンのUSB外 付けワンセグチューナーも去年暮頃からワン セグ携帯を上回る勢いで出荷され始め,月間 50万台ほどに達している模様だ。 ワンセグは現状では地上波と同じ番組がサ イマルで提供されている。しかし08年から は独自放送が可能になる可能性が高い。それ でも実際には,どれだけ独自コンテンツを流 すかは疑問とする放送事業者が多い。コンテ ンツ制作などのコストに見合う収入が期待で きないからである。 一方米国では,各局がメディアフロー社と 提携し,有料専門チャンネルへテレビ番組を 提供していくことになった。しかもハイライ トに編集し直すなど,基本的には地上波とは 別の番組にする方針だという。「自宅で大画 面で見るテレビと,リビング以外でモバイル 端末で見る際の番組ニーズは別もの。視聴者のニーズに基づけば,当然独自番組となる」。 メディアフローに報道と娯楽の2チャンネル を提供することにしたNBC担当者の発言で ある。 米国の放送事業者が携帯端末への番組配信 に積極的な理由の1つは,テレビと連携する ことで視聴者をテレビへ誘導できる可能性が 高いと見ているからである。そしてもう1つ は,モバイルの場合は有料収入も期待できる と見ているからである。 「ネットは無料文化だが,1人1台の個人 ユースが前提のモバイルは初めから有料文化 になっている点が大きい。リングトーン10 秒の音楽に2ドル99セント支払ってくれる文 化だ。ビジネスの可能性は大きい」(NBC担 当者)。「ワンセグでは視聴率も出ないし,ビ ジネスに結びつけるのは容易ではない」とす る日本の担当者とは,考え方が大きく異なっ ているようだ。 著作権をめぐる差 番組のネット配信,YouTube への対応, 携帯への動画配信などでことごとく異なる日 米の差には,実は著作権問題が大きく影響し ている。日本の場合,1997 年の著作権法改 正により,放送番組をネット配信するには権 利者の事前許諾が必要となった。しかしドラ マやバラエティ番組などでは権利者が 100 人 を超える場合もあり,ネットへの二次利用が 事実上困難になっている。 一方米国の場合,オールライツで番組が制 作されていることが多い。その場合には実演 家の事前許諾が不要となる。またオールライ ツで制作されていない番組でも,法律が事前 許諾を規定していないため,権利料の交渉を ネット配信した後に行っている場合が多いと いう。つまり二次利用を先ずして,その後に 権利関係者との契約が決められることが頻繁 にあるというのである。かくして米国の放送 事業者は,短期間に番組ネット配信に出て行 くことが可能になったのである。
おわりに
以上,今年1月に開催されたCES2007と関 係各社へのヒアリングに基づき,“通信と放 送の融合”が米国でどう進んでいるのかを見 てきた。通信は“映像”を前提に,新しいビジ ネスを切り開こうとしている。一方放送も“番 組のネット配信”を前提に,パワーアップし ている。言葉としてはあまり使われていない ものの,“融合”が実態として進んでいるよう に見える。 その背景には,技術の進化をビジネスにど う結びつけるか,力強いデザイン力があるよ うだ。イノベーションの成果として情報処理 能力が高まった通信の世界は,より重いコン テンツ“映像”を視野に入れた。しかも簡単さ と便利さを売りにすることで,端末やインフ ラへのニーズを喚起し,そこに「高度化=高 価」な商品を投入し,収益増を狙っている。 米国の放送業界も,技術の進歩でネットの 世界に市場性があると見るや,4大ネットの いずれもが前進を始めた。現実にはコスト増 が伴い,成功が約束されているわけではない。 それでも各種メディアの連携により,効果最 大化の道があると踏み,最善の道を模索し始 めたのである。 一方日本の放送事業では,著作権という課 題があることが実際に大きいが,その制度を 隠れ蓑にして,変化に消極的な姿勢をとっているかに見える。背景には,成功の保証が見 えないところで敢えて動く必然性はないとい う,判断があるのかも知れない。 かつて米国は,第一次世界大戦後の1920 年代,映画で世界を席巻した。次にテレビが 登場した1950年代以降,今度はテレビ番組 で世界を席巻した。そして製造業が国際競争 力を失い始めた1980年代,米国の映像コン テンツは圧倒的な地位を確立し,米国に膨大 な外貨をもたらした14)。 さらに今,パソコン・インターネットが普 及し始めた1990年代にソフトウエアで世界 を席巻したのに続き,米国はブロードバンド コンテンツを大きく進化させようとしている ように見える。 大状況が見えていながら,簡単には動けな い日本。個別の事業者の事情を超えた大きな デザインを以って,新たな時代に対応する必 要があるように思えてならない。 (すずき ゆうじ) 注: 1)06 年 9 月 1 日に総務省が発表。「政府与党合意」 に基づき,通信・放送分野の改革を着実に推進 する観点から,2010 年までの 5 年間に取り組 むべき具体的施策として,「NHK 関連」「放送 関連」「融合関連」「通信関連」の 4 分野の検討 項目を明示した。 2)05 年 12 月 6 日の記者会見や,06 年 1 月 8 日 のテレビ番組で,「なぜテレビ番組をインター ネットで自由に見られないのか」という国民の 疑問に答えなければならないという旨の発言を 竹中前総務相はしている。
3)CES は Consumer Electronics Show の略,家 電およびコンピュータ関連展示会の意。主催は CEA(Consumer Electronics Association)。 4)Operating System の略。アプリケーション・ソフ
トとコンピュータ,もしくは人間とコンピュータの 橋渡しをしたり,ハードウェアの制御を行うもの。 5)Graphical User Interface の略。状況を視覚的 に表現し,画面上を自由にポイントして行動を 指定できる,直感的な操作システム。 6)同時に複数の処理を実行できるプロセッサー をベースに,HD 映像など重いコンテンツにも 従来より速く対応し,他の PC と共有すること もできるように設計されたパソコンのプラット フォーム。
7)Nielsen Media Research-NTI,NCTA,SBCA の HP による。
8)無 線 通 信 を 利 用 し た LAN(Local Area Network) のこと。主に IEEE802.11 シリー ズ(周波数帯が 2.4GHz ∼ 5.0GHz)を言うが, これとは別に業界団体が認定した無線 LAN 機器が Wifi と呼ばれている。UWB は(Ultra Wide Band: 超広帯域無線)の略。データを 1GHz 程度の広い周波数帯に拡散して送受信す るシステム。データは微弱な強さで送られるた め,同じ周波数帯を使う機器との混信がなく, 消費電力も小さい。
9)Variable Bit Rate の略。単位時間当たりに伝 送されるデータ量を,回線の混雑状況と各チャ ンネルの容量などに併せて自動的にビットレー トを変えつつ制御する方式のこと。例えばアニ メや静止画など動きの少ないシーンではビット レートを低くし,動きの激しいスポーツなどで はビットレートを高くすることで画質の劣化を 抑えるなど,全体として合理的に帯域を利用す る放送方式。 10)ここでは,放送波を介してプッシュ型で送っ た番組ファイルを,契約に基づき自動的に端末 に収録したり,あるいは無差別に収録した番組 ファイルを再生視聴する際に課金するサーバー 型放送と類似のサービスを指す。 11)日本は携帯キャリアが携帯端末のコストの一部 を販促費の形で背負い,通信費でリクープして いる。しかし欧米ではこうした商習慣はなく, 端末はユーザーが市場価格の中で買い切る形を とっている。この結果,初期コストが安価ゆえ に買い替えが進み,高度化が急ピッチで進んだ 日本と異なり,欧米の携帯は長期使用者が多く, かつ高度化があまり進まなかった。
12)Social Networking Service の略。人と人との つながりを促進するコミュニティ型のサイト。 03 年頃から登場し,世界最大の SNS となった 「Myspace」などが有名。 13)99 年創業のベンチャー。シミュレーションゲー ム「シムシティー」で有名になり,03 年に「セ カンドライフ」サービスを開始。06 年 6 月頃 から人口が急増し始めた。 14)「放送研究と調査 年報 2007」『映像メディアの 国際化∼日米英の政策比較を中心にして∼』沈 成恩