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日本の教師におけるインクルーシブ教育への態度 : Moberg Attitude Scale による結果と関連要因

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Academic year: 2021

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日本の教師におけるインクルーシブ教育への態度

─ Moberg Attitude Scale による結果と関連要因─

牟田悦子、安藤壽子、是永かな子、月森久江、木下智子

キーワード:インクルーシブ教育,教師の態度,インクルージョン

Ⅰ はじめに

2014 年に日本でもようやく障害者の権利に関する条約が批准され(外務省 , 2015)、これにも とづくインクルーシブ教育システムの構築が進められている。中央教育審議会の報告書(中央教育 審議会 , 2012)では、インクルーシブ教育には特別支援教育の推進が不可欠であると報告されてい る。日本では 1979 年に養護学校教育の義務化が完成し、障害の重さにより特別な教育の場へ振り 分ける分離教育の傾向が強まる中、障害者団体や保護者によるすべての障害のある子どもを普通学 級へという「統合教育」の運動が 70 ∼ 80 年代に活発化した。しかし、障害のある子どもが適切な 支援のないまま通常の学級で放置されているような状況もみられた。一方文部科学省は分離した上 での「交流教育」を推進してきた。そして 90 年代には、これまで特別な教育の対象外であった知 的遅れのない LD や ADHD への教育の整備が求められるようになり、2007 年に特殊教育が特別支 援教育へと変更された。特別支援教育では、あらたに LD、ADHD、高機能自閉症等が特別な支援 の対象となり、また特別な教育の場への措置によるものから子どものニーズにもとづく教育へ、す なわち通常の学級においても特別な支援が行われるものへと大きく変化した。そして現在、文部科 学省によるインクルーシブ教育システムの構築が進められている。 こうした経過の中で、障害のある子どもの教育にあたる当の教師はインクルーシブ教育に対して どのような意識をもっているのだろうか。日本では文部科学省主体でこれらの改革が進められ、教 師はそれに対応しているという現状がある。 インクルーシブ教育は 1994 年のサラマンカ宣言(UNESCO, 1994)により、世界的な潮流となり、 各国で分離教育からインクルーシブ教育へと変化してきた。インクルーシブ教育については様々な 議論がある(Dyson, 1999)が、その背景には人の権利・平等を追及する思想と、もう一方では、 教育の効果や効率の考え方がある。いずれにしてもこれが学校現場で機能していくためには、イン クルーシブ教育についての教員の意識・態度が鍵を握ると思われる。しかし日本ではこれまでイン

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クルーシブ教育についての議論は活発とはいえず、教師の意識・態度の実態も明らかになっている とはいえない。

インクルーシブ教育についての教師の意識・態度を測定する尺度として、フィンランドで作成さ れ た Moberg Attitude Scale(Moberg, 1997、Moberg & Savolainen, 2003) が 知 ら れ て い る。 Dyson(1999)によるインクルージョンについての社会的公正さや倫理的な考え方に関する次元と 教育上の効果や実施における実際上の問題に関する次元を考慮して作成されている。これまで、 フィンランド、米国、エストニア、ザンビア等で用いられインクルージョンについての態度が測定 されている。

Ⅱ 目的

フィンランドで作成された、障害のある子どもを通常の学級で教育することについての教師の意 識・態度を測定する質問紙である Moberg Attitude Scale(Moberg, 1997、Moberg & Savolainen, 2003)の日本版を作成し、日本の教師のインクルーシブ教育に対する態度を測定する。そして、態 度と関連する要因について探る。また、今後のインクルーシブ教育システム構築のための特別支援 教育の推進において検討すべき要因を探る。 なお、質問紙では「インクルーシブ教育」「インクルージョン」の用語は使わず、「すべての児童 生徒をいっしょに教えることについての意識調査」としている。

Ⅲ 方法

【質問紙】

1.Moberg Attitude Scale :フィンランド語版と英語版を参照しながら筆者らにより日本語に 翻訳したものを使用。日本語版はフィンランド語に翻訳し直し原版作成者によるチェックを実施し た。この尺度には次の尺度Aと尺度Bの2種類が含まれる。尺度A:すべての児童生徒をいっしょ に教えることについての意識・態度に関する 21 項目。6段階のリッカート尺度による解答を1∼ 6点に点数化。高得点の方が、インクルーシブ教育に肯定的。尺度B:8種の障害ごとに通常の学 級への受け入れを「どんな場合でも受け入れない」∼「無条件で受け入れる」まで4段階で評価  2.態度との関連を見る項目:特別支援学校教諭免許の有無・現在の担当学級・通常の学級で障 害のある子どもを指導した経験の有無と有る場合の満足度 3.インクルーシブ教育推進のために必要な条件についての項目:12 項目について「全く必要 ない」から「絶対必要」まで4段階で評価。また、現在の校内の支援について7項目をある・なし で評定

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【調査協力者と調査方法】 関東地方、中部地方、四国、九州の 10 の都府県と政令指定都市で教員対象の研修会等で質問紙 を配布し協力が得られたものについてその場で回収。一部は学校単位で協力を得られたものについ て調査用紙を留め置きし後日回収。調査期間は、20013 年7月∼ 2014 年1月。 【分析方法】 統計処理は SPSS ver.11 を使用。

Ⅳ 結果と考察

【分析の対象者】 回答数 1,645 件のうち、有効回答数 1,457 件分を分析対象とした。有効回答率は 60%であった。 分析対象の回答者の内訳は Figure 1 に示す。 ⏨ᛶ 30% ዪᛶ 66% ↓ᅇ⟅ 4%

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䠎䠌௦ 14% 䠏䠌௦ 21% 䠐䠌௦ 25% 䠑䠌௦ 37% 䠒䠌௦ 2% ↓ᅇ⟅ 1%

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ᑠᏛᰯ 53% ୰Ꮫᰯ 26% ≉ูᨭ᥼Ꮫᰯ 13% 䛭䛾௚ 7% ↓ᅇ⟅1%

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Figure 1 回答者の内訳(性別、年齢、学校)

【Moberg Attitude Scale による調査】

1.すべての児童生徒をいっしょに教えることについての意識・態度(尺度A) 1−1 意識・態度の 21 項目の合計点による全体的傾向 全 21 項目について信頼性を見るためにクロンバックのα係数を算出したところ、0.784 であった。 意識・態度の 21 項目について、各項目の得点(1∼6)の合計得点を算出した。平均 63.81(range:27 − 110、SD=11.05)であった。Figure 2は合計得点の分布である。肯定的な回答(4∼6点)と 否定的な回答(1∼3点)の中間の合計点を 73.5 点とすると、やや否定的な傾向で正規分布に近 い分布であった。de Boer 他(2011)による 26 の研究レヴューによると、教師のインクルーシブ 教育への態度はほとんどが、中立的か批判的であり、明確な肯定的な結果を示した研究はなかった という。今回の結果も同様であった。

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1−2 意識・態度の 21 項目についての因子分析 主因子法・Kaiser の正規化を伴うオブリミン回転による因子分析を行った。4因子が抽出され た。回転前の4因子で全分散を説明する割合は 32.67% であった。Table 1に因子分析結果を示す。 各因子に負荷の高かった項目は以下のようであった。第1因子は社会的公正さと通常学級にいる障 害のある生徒への教育の質、第2因子は障害のない生徒への教育の質、第3因子は重い障害のある 生徒の指導、第4因子はすべての子どもをいっしょに教えることによる効果的な教育と社会的公正 さの促進であった。 Table1 意識・態度 21 項目の因子分析結果 項目 番号 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 4 全時間を通常の学級ですごせれば、障害のある児童生徒の自尊 感情は高まる 0.5826 -0.1405 -0.0158 -0.1138 14 障害のある児童生徒は、全時間通常の学級にいれば、「ばか」と か「変わっている」というレッテルをはられることはない 0.5240 -0.1055 -0.0126 -0.0036 5 障害のある児童生徒を全時間通常の学級で教育するということ は、すべての児童生徒にとっての公正、公平を意味する 0.5040 -0.1798 -0.0381 -0.3108 6 通常の教育は、すべての児童生徒の個別の教育的ニーズに対応 する物的、人的資源を備えている 0.4896 -0.0131 0.0784 -0.0368 17 全時間通常の学級にいれば、障害のある児童生徒の学力レベル は向上する 0.4780 -0.1065 -0.1037 -0.2030 1 すべての児童生徒は、通常の学級で適切な指導が受けられる 0.4473 0.0873 -0.0706 -0.1334 10 通常の学級の教師は、学級にいる障害のある児童生徒の学習上 のニーズに対応することができる 0.3599 0.2721 0.0343 0.0348 8 障害のある児童生徒が通常の学級にいると、障害のない児童生 徒に対する教育の質が下がる -0.1802 0.6493 0.0003 -0.0120 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 % Figure 2 意識・態度の合計得点 (21 項目)

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16 障害のある児童生徒が通常の学級にいると、障害のない児童生 徒に対する指導時間は減る -0.0403 0.4964 -0.1404 -0.0841 9 特別支援教育の訓練を受けた教師だけが、重い障害のある児童 生徒を効果的に指導できる -0.0508 0.3694 -0.1143 -0.0122 11 障害のある児童生徒を通常の学級で教えるということは、すべ ての児童生徒に質の高い教育をすることを意味する 0.1716 0.3502 0.0798 -0.2828 19 重い行動上の問題のある児童生徒には、特別支援学級や特別支 援学校での特別支援教育が必要である 0.1116 0.0090 -0.6785 -0.0819 12 特別支援学級は、重い行動上の問題のある児童生徒のために必 要である 0.0086 -0.0022 -0.5004 0.0388 18 重い障害のある児童生徒には特別な教育的ニーズがあるので、 特別な集団で指導するべきだ 0.0137 0.2563 -0.4943 -0.1367 7 重い障害のある児童生徒は、特別な学級で指導するべきだ。 0.0526 0.2682 -0.4104 -0.0970 21 すべての児童生徒をいっしょに教えるということは、本来、効 果的な教育を促進するということである 0.0471 0.1006 -0.0318 -0.7495 20 すべての児童生徒をいっしょに教えるということは、本来、社 会的公正さを促進するということである 0.0669 -0.0309 -0.0153 -0.7436 1−3 因子別の得点 第1因子から第4因子の項目の得点の平均を Table2に示す。得点が高い方が肯定的であり、中 間点は 3.5 点である。障害のない生徒への教育の質(第2因子)に関する項目において、やや肯定 的な傾向、そのほかの因子については否定的な傾向がみられた。 Table 2 因子別の得点の平均 因子 平均得点 I 社会的公正さと通常学級にいる障害のある生徒への教育の質 2.46 Ⅱ 障害のない生徒への教育の質 4.01 Ⅲ 重い障害のある生徒の指導 2.77 Ⅳ すべての子どもをいっしょに教えることによる教育の質と社会的公正さの促進 3.0 障害のある生徒が教室にいても障害のない生徒への教育の質を落とさず、通常級の教師は指導す る能力があると考えているといえる。一方、障害のある生徒への教育の質を保つこと、重い障害の ある生徒への教育は通常級では適切ではないと考えている傾向がみえる。 また、インクルージョンには、「社会的公正さ」という倫理・人権の側面と「教育の効果・質」 の側面という異なる側面があると考えられている(Dyson, 1999)が、因子Iと因子Ⅳで、両者に かかわる項目が両方とも含まれているように、日本の教師はこの二つを別のものととらえていない のではないかと思われる。

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2.各障害の通常の学級への受け入れについての態度(尺度B) 各障害のある児童生徒を通常の学級の教師として自分の学級に受け入れるかどうかについての結 果を Figure 3に示す。 どぬ㞀ᐖ ⫈ぬ㞀ᐖ ⫥య୙⮬⏤ ▱ⓗ㞀ᐖ ᝟⥴࣭⾜ື㞀ᐖ ゝㄒ㞀ᐖ Ꮫ⩦㞀ᐖ ⱥᡯඣ 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100% ↓᮲௳࡟ࡍ࡭࡚ཷࡅධࢀࡿ ≉ᐃࡢ᮲௳࡛ࠊ࠶ࡿሙྜࡔࡅཷࡅධࢀࡿ ↓ᅇ⟅ ≉ᐃࡢ᮲௳࡛ࡔ࠸ࡓ࠸ࡣཷࡅධࢀࡿ ࡝ࢇ࡞ሙྜ࡛ࡶཷࡅධࢀ࡞࠸ Figure 3 障害別の通常の学級への受け入れ 受け入れは相対的に、英才児、学習障害、言語障害は高い傾向、身体障害は低い傾向がみられた。 行動・情緒障害と知的障害はその中間であった。これまでのインクルージョンに対する教師の態度 についての研究のレヴューでは、一般的に身体障害は知的障害や情緒・行動障害よりも受け入れら れやすい傾向があるとされている(Avramidis & Norwich, 2002)が、今回の結果は、逆であった。 とくに聴覚や視覚の感覚障害がもっとも受け入れが低かった。低頻度のために教師に経験がない、 教員養成段階では学ぶことがない、学校に感覚障害のある子どもの指導に必要な機器や知識が備え られていないなどの理由が推測できる。 【インクルーシブ教育への意識・態度と関連する要因】 1.態度についての 21 項目の合計得点(尺度A)と関連する要因 特別支援学校教諭免許の有無・現在の担当学級・通常の学級で障害のある子どもを指導した経験 の有無と有る場合の満足度について分析した。

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1−1 特別支援学校免許状の有無 合計得点は、特別支援学校免許状の有る群と無い群で差はみられなかった。しかし因子別の得点 をみると、第1因子と第4因子では特別支援学校免許状無し群の方が高く(第1因子 有:M =15.79, SD=4.453  無 : M =17.65, SD=4.826 F =40.18, p <0.001 第4因子 有 : M =5.73, SD=2.36 無 : M =6.07, SD=2.378 F =5.335, p <0.05)、第2因子では反対に有り群の方が高かった(有:M =16.69, SD=3.303 無 : M =15.82, SD=3.148 F =19.433, p <0.001)。第2因子は、障害のない生徒へ の教育の質に関する因子である が、特別支援学校免許状の有る群の方がより肯定的にとらえてお り、第1因子、第4因子の内容である社会的公正さ、通常学級での障害のある生徒への教育の質に ついては、より批判的に捉えているといえる。 1−2 現在の担当(通常学級・通級指導・特別支援級・その他) 合計得点では、現在の担当間に差はみられなかった。しかし、因子別に見ると第1因子〔F (3, 1387)= 18.216, p <0.001〕、第2因子〔F (3, 1387) =11.785, p <0.001〕、第3因子〔F (3, 1387) =5.604, p <0.01〕で群間差があった。Tukey HSD による多重比較を行ったところ、第1因子では 通常学級の担当が他の3種の担当よりも合計得点が高く(通常学級:M =18.22, SD=4.852 通級指 導:M =15.75, SD=4.213 特別支援級:M =16.09, SD=4.476 その他:M =16.92, SD=4.82)、反対に 第2因子では、通常学級の担当が他の3種の担当よりも合計得点が低かった(通常学級:M =15.5, SD=3.144 通級指導:M =16.89, SD=2.958 特別支援級:M =16.64, SD=3.253 その他:M =16.17, SD=3.245)。そして第3因子では、通常学級の担当が特別支援級の担当よりも合計点が低かった(通 常学級 : M =10.76, SD=3.522 特別支援級 : M =11.73, SD=3.757)。 第1因子は社会的公正さと通常学級にいる障害のある生徒への教育の質についての因子である が、通常学級の担当者の方が、通級や特別支援級などの担当者に比べて、批判的な程度が低かった。 第2因子は障害のない生徒への教育の質についての因子である。通常学級担当者による第2因子 への負荷項目の平均評点は 3.9 で、通級指導や特別支援級などの担当者の平均評点は4点以上だっ た。すべての生徒をいっしょに教育する際の障害のない生徒の教育の質について通常学級担当者の 方が肯定的な程度が低いといえる。 第3因子は重い障害のある生徒の指導についての因子であり、通常学級担当者の方が特別支援学 級担当者に比べて、通常学級でいっしょに指導することにはより厳しく評価しているといえる。 1−3 通常級で障害のある子どもを指導した経験の有無とその満足度 通常級で障害のある生徒を指導した経験の有無と合計得点との関連は見られなかった。しかし、 第2因子には群間差がみられ(有:M =16.26, SD=3.206 無:M =15.63, SD=3.198 F =11.824, p <0.01)経験有りの群の方が得点が高かった。 経験が有る群の中での満足度の違いには、群間差があった〔F(2, 932)= 15.5, p <0.001〕。

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Tukey HSD による多重比較を行ったところ、満足できなかった群は他の群よりも有意に合計得点 が低かった(満足できなかった : M =62.45, SD=10.917 満足できた : M =67.39, SD=11.817 どちらで もない : M =65.38, SD=9.759)。経験の質が態度に関係すると思われる。 Table3に要因との関連をまとめた。 Table 3 態度の 21 項目の合計得点・因子別得点と関連要因 I II III IV 合計得点 特別支援学 校免許状 無>有 ** 有>無 ** 無>有 * 現在の担当 通常学級>通級・ 特別支援級・その 他 ** 通級・特別支援級・そ の他>通常学級 ** 特別支援級>通 常学級 ** 通常学級で の障害児指 導経験 有>無 * 指導経験の 満足度 満足・どちらでも ない>不満足** 満足>不満足* 満足>不満 足* 満足・どちらでも ない>不満足** *p< .05  **p< .01 2.各障害の通常の学級への受け入れについての態度(尺度B)と関連する要因 障害種別の受け入れを3点(無条件に受け入れる)から0点(どんな場合でも受け入れない)ま で得点化して、障害のある子どもについての指導とかかわる変数について、平均値の差をみた。 2−1 特別支援学校教諭の免許状の有無 言語障害(有:M= 2.24, SD=0.701 無:M =2.08, SD=0.684, F =14.759, p <0.001)、視覚障害 (有:M =1.81, SD=0.672 無:M =1.68, SD=0.672 F =10.08, p <0.01)、聴覚障害(有:M =1.87, SD=0.672 無:M =1.71, SD=0.707 F =13.655, p <0.001)、知的障害(有:M =1.95, SD=0.731 無: M =1.83, SD=0.718 F =8.673, p <0.01)について有意に免許状ありの群の平均値が高かった。LD と肢体不自由については有意差はなかったが同様の傾向がみられた(p< 0.1)。免許状の取得によ り障害についての知識や経験がある方がより受け入れる傾向があることがわかる。英才児と情緒・ 行動障害は特別支援学校教育の対象ではないため、免許状の有無で差がなかったのかもしれない。 2−2 現在の担当(通常級・通級指導・特別支援級・その他) LD については群間差があり〔F(3, 1492)=6.662, p <0.001〕、Tukey HSD による多重比較を行っ たところ、通級指導担当者は通常学級・特別支援級・その他の担当者に比べて平均値が高かった(通 級指導:M =2.48, SD=0.645 通常学級:M =2.26, SD=0.639 特別支援級:M =2.28, SD=0.622 その 他:M =2.17, SD=0.697)。言語障害についても群間差があり〔F(3, 1486)=6.859, p <0.001〕、 Tukey HSD による多重比較を行ったところ通級指導担当者は、通常級とその他の担当者よりも平

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均値が高かった(通級指導:M =2.36, SD=0.646 通常学級:M =2.08, SD=0.693 その他:M =2.08, SD=0.702)。知的障害については、群間差があり〔F(3, 1493)=5.669, p <0.01〕、Tukey HSD に よる多重比較を行ったところ特別支援級担当者が他の3つの担当者よりも平均値が高かった(特別 支援級:M =2, SD=0.647 通常学級:M =1.84, SD=0.714 通級指導:M =1.75, SD=0.719 その他: M =1.81, SD=0.771)。経験によりその障害や指導法を知っていることにより受け入れやすくなって いると思われる。 2−3 通常級で障害のある子どもを指導した経験の有無とその満足度 LD(有:M =2.29, SD=0.655 無:M =2.17, SD=0.665 F =10.428, p <0.01)、言語障害(有:M =2.15, SD=0.696 無:2.05, SD=0.695 F =6.675, p <0.05)、情緒・行動障害(有:M =2, SD=0.68 無:M =1.83, SD=0.692 F =19.577, p <0.001)、知的障害(有:M =1.91, SD=0.717 無:M =1.76, SD=0.735 F =14.253, p <0.001)については、経験のある方がない方よりも平均値が高かった。ま た、その経験の満足度についても差があった。LD〔F(2, 1005)=5.388, p <0.01〕、言語障害〔F (2, 1010)=4.549, p <0.05〕、情緒・行動障害〔F(2, 1015)=8.569, p <0.001〕、肢体不自由〔F (2, 1015)=4.11, p <0.05〕、知的障害〔F(2, 1015)=3.999, p <0.05〕で群間差があり、Tukey HSD による多重比較の結果、満足できた人たちの平均点が高かった。 Table 4に要因との関連をまとめた。英才児については知識や経験との関連が見られなかった が、その他の障害については、受け入れの態度となんらかの関係がみられた。 Table 4 障害種別の受け入れの得点と関連要因 英才児 LD 言語障害 肢体不自由 視覚障害 聴覚障害 情緒・行動 障害 知的障害 特別支援 学校免許 状 (有>無) 有>無 ** (有>無) 有>無 ** 有>無 ** 有>無 ** 現在の担 当 通級>通常 級・その他 ** 通級>特別 支援級* 通級>通常 級・その他 ** 特別支援級 >通常級・ 通級・その 他** 通常学級 での障害 児指導経 験 有>無 ** 有>無 * 有>無 ** 有>無 ** 指導経験 の満足度 満足>不満 足・どちら でもない* 満足>不満 足・どちら でもない* 満足>不満 足* 満足>不満 足・どちら でもない* * 満足>不満 足* *p <.05 **p <.01

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【インクルーシブ教育推進のために必要な条件】 12 の条件についての「絶対必要」から「全く必要ない」までの4段階の回答を絶対必要と評価 した割合の多い順に作成した図を Figure 4 に示す。 どの条件も 90%以上の回答者が多少とも必要と答えている。その中でももっとも必要としてい るのは、「学校全体のとりくみ」、「校長による推進」という条件で、組織としての取り組みが必要 であるとの意見であった。70%近くが絶対必要と回答し、それと合せて約 95%が必要と考えている。 「保護者の理解」、「特別支援教育の専門性のある教員に相談できる」が続き、学校としての組織的 な取り組みにこれらを含むことが必要であるとの意見と考えられる。 絶対必要∼必要という回答が相対的に少なかったのは、「特別支援の専門性のある教員が教室に 入る」「学級の子どもの人数が少ない」「校内に特別支援学級がある」であった。特別支援の専門性 のある教員に相談できることは必要だが、その教員が教室内で支援することはそれほど必要ないと いう結果である。「アシスタントが学級に入る」の方が「特別支援の専門性のある教員が学級に入 る」よりも必要と回答している割合が高く、学級運営に対する教員のリーダーシップについての考 え方によるのかもしれない。 「学級の子どもの人数が少ない」も絶対必要 必要と回答したのは 70% であり、必ずしも人数の問題ではないととらえているようだ。 ≉ูᨭ᥼ࡢᑓ㛛ᛶࡢ࠶ࡿᩍဨࡀᏛ⣭࡟ධࡿ Ꮫ⣭ࡢᏊ࡝ࡶࡢᩘࡀᑡ࡞࠸ ᰯෆ࡟≉ูᨭ᥼Ꮫ⣭ࡀ࠶ࡿ Ꮫ⩦ᨭ᥼ဨ࡞࡝ࡢ࢔ࢩࢫࢱࣥࢺࡀᏛ⣭࡟ධࡿ ᰯෆ࡟ಶูᣦᑟࡀཷࡅࡽࢀࡿᏛ⩦ᨭ᥼ᐊ➼ࡀ࠶ࡿ Ꮫᰯእ㒊ࡢᑓ㛛ᶵ㛵ࡢᨭ᥼ࡀᚓࡽࢀࡿ 㐺ษ࡞ᩍᮦࡀࡍࡄ࡟౑࠼ࡿ ≉ูᨭ᥼ᩍ⫱ࡢ◊ಟࡀཷࡅࡽࢀࡿ ≉ูᨭ᥼ࡢᑓ㛛ᛶࡢ࠶ࡿᩍဨ࡟┦ㄯ࡛ࡁࡿ Ꮫ⣭ࡢಖㆤ⪅ࡢ⌮ゎࡀ࠶ࡿ ᰯ㛗࡟⌮ゎࡀ࠶ࡾ᥎㐍ࡋ࡚࠸ࡿ Ꮫᰯ඲య࡛ྲྀࡾ⤌ࢇ࡛࠸ࡿ ⤯ᑐᚲせ ᚲせ ከᑡᚲせ ඲ࡃᚲせ࡞࠸ ↓ᅇ⟅ 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 % Figure 4 通常の学級への受け入れのために必要な条件

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一方、現在、校内でどのような支援があるかについての回答を Figure 5に示す。 校長による推進は 27.8%、学校全体の組織的な取り組みである校内委員会の活動は 23.1%と低い 回答であった。必要な条件として最も求められているが、現状では、もっとも得られていないとい う結果であった。統計上は、校内委員会の設置、特別支援教育コーティネーターの指名は、公立小・ 中・高ではほぼ 100% となっている(文部科学省 , 2014)が、実効をあげていないと思われる。 校内の研修があるが 67.9%と最も高く、校内の専門性のある先生が担任を効果的にサポートして いるは 56.5%、巡回相談が 56.3%と続く。必要な条件として、どれも 90%以上の人があげている ものである。効果を上げてきているものであるが、まだ十分いきわたってはいないのが現状であろ う。 ᰯ㛗ࡣ㞀ᐖࡢ࠶ࡿඣ❺⏕ᚐࡢ㏻ᖖࡢᏛ⣭࡛ࡢᩍ⫱࡟✚ ᰯෆ࡟ࣜࢯ࣮ࢫ࣮࣒ࣝࡀ࠶ࡿ Ꮫ⩦ᨭ᥼ဨ➼ࡀ฼⏝࡛ࡁࡿ ᑓ㛛ᐙࡢᕠᅇ┦ㄯࢆཷࡅࡿࡇ࡜ࡀ࡛ࡁࡿ ᰯෆ࡟࠸ࡿᑓ㛛ᛶࡢ࠶ࡿඛ⏕ࡀᢸ௵ࢆຠᯝⓗ࡟ࢧ࣏࣮ ࢺࡋ࡚࠸ࡿ ≉ูᨭ᥼ᩍ⫱࡟ࡘ࠸࡚ࡢᰯෆ࡛ࡢ◊ಟࡀ࠶ࡿ ≉ูᨭ᥼ᩍ⫱ࡢᰯෆጤဨ఍ࡣ㢖⦾࡟㛤࠿ࢀ࡚ຠᯝࢆ࠶ ࡆ࡚࠸ࡿ ᴟⓗ࡛࠶ࡿ ↓ᅇ⟅ ࡑࡢ௚ 0 10 20 30 40 50 60 70 80 㸣 Figure 5 校内で得られる支援

V おわりに

インクルーシブ教育は、すべての子どもが同じ場で必要かつ適切な教育が受けられるように学校 自体が変化することを目指している。たんに障害のある子どもの個人の中にあるニーズを評価して ニーズに応じたリソースを割り振るというのではなく、多様な子どもたちが同じ場で学べるように 学校教育自体を変革するということがインクルーシブ教育である(Ainscow, 1991、Clark 他 ,

(12)

1995、European Agency for Development in Special Needs Education, 2013)。しかし現実には、 できる限り通常の教育の場で必要な支援を段階的に連続して提供することと解釈されて各国で取り 組まれている。そうした文脈で最近、学校での支援の3段階の階層モデルが提唱されている。まず、 すべての子どもに効果的な質の高い教育を提供し、それだけでは不十分な場合は、取り出し指導や 教室内での個別的支援など少し強化した支援を提供し、なお不十分な場合は特別な教育課程を組む などかなりの程度強化した集中的な支援を行うというものである。日本の場合も多様な学びの場を 整備することでインクルーシブ教育を構築することが考えられている(中央教育審議会 , 2012)。 今回の調査で、すべての子どもを通常の学級で教育することについては、全体として批判的な傾 向が見られ、抽出された4因子別にみると通常の学級の障害のない生徒への教育の質についてのみ やや肯定的な傾向がみられた。この肯定的な傾向について、次のように解釈できるかもしれない。 教師は、教師の専門性について、学習指導のみならず、児童生徒指導、学級経営にあると意識して いるという調査(竹本・高橋 , 2011)があるが、障害のある子どもが教室にいることは障害のない 子どものそれらの指導に問題とはならない、もしくは集団作りにとってむしろ意味があるという意 識があるのかもしれない。 また障害種によって通常の学級に受け入れる態度に違いがみられた。 そして、それらの態度には障害のある子どもの指導の知識や経験、また経験の質との何らかの関 係がみられた。障害のある生徒の受け入れについては、知識や経験があるほど受け入れの得点が高 いという傾向があったが、意識・態度の合計得点と特別支援教育免許状の有無、現在の担当につい ては、因子によっては、逆の関係もみられた。インクルーシブ教育に対する態度とそれに関連する 要因は、領域によって異なることについてより吟味する必要がある。 また、欧米のインクルージョンのモデルで想定された、「社会的公正さ」の次元と「教育の効果」 の次元が分離されていないという結果が見られた。学校では、インクルーシブ教育についての議論、 とくに人権とインクルーシブ教育を問う議論は活発とはいえない。日本の教師は社会的公正さも実 際的な教育の効果もひとつの次元のなかでとらえていると思われる。たとえば真城(2015)は、イ ンクルーシブ教育を「多様性を包含する範囲を拡大するプロセス」ととらえているが、社会的公正 さという次元についての言及はなく、インクルーシブ性、学級集団の形態、学級集団のサイズ、多 様性といった、実施に関する側面についての教師の態度を測定している。欧米のインクルーシブ教 育が、人種や社会的階層の社会的な差別の歴史をふまえ社会的な公正さや平等の実現を目指したと ころから提唱されてきたのに対し、日本では、少なくとも第二次大戦後には9年間の義務教育制度 が行き届きみかけの平等があるようにみえたことから、そうした意識が希薄なのかもしれない。ま た、欧米に比べ特別支援教育を受けている子どもの割合が低く、英国が 20%、米国が約 10%に対 し、日本は 1990 年には 0.89%でその後増加したが 2014 年現在で 3.3%である(文部科学省 , 2015)。 行動、社会性の困難や学習の困難のある子どもは通常の学級に多数いるためである。欧米ではそう した子どもたちが差別されて特別な場に置かれ、しかもそのような子どもたちは社会経済的に低い

(13)

階層、黒人や移民などの出身者に多いという経緯があり、インクルーシブ教育の推進には、そうし た子どもたちの権利を守り公正な社会を実現するという背景があった。たとえば Osgood(2005)は、 米国のインクルージョンの歴史について述べているが、米国のインクルーシブ教育は、特殊教育の 対象にはマイノリティが多くスティグマが与えられていたという問題から開始されたという。した がって、社会的公正さという次元はインクルーシブ教育において重要な要素になっている。しかし、 最近日本でも学力格差の拡大と社会経済的格差が問題となってきている。学力と家庭の経済力との 関係は明らかにされてきており(耳塚 , 2014)、学校において社会的公正さについての意識を高め ていく必要がある。インクルーシブ教育は、現在別個の課題として学校現場に課されている学力向 上、道徳教育とも深く関連した課題であることを意識して取り組む必要がある。 インクルーシブ教育の推進のために必要と教師が考えているものと、現在学校で得られているも のには、ギャップがあることが調査からわかった。今後、教師が必要としている要件が実質的に整 備されることが求められる。 引用文献 Ainscow, M. 1991. Effective Schools for All. David Fulton: London

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(14)

(2015.11.30 閲覧)

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参照

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