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Environment Research and Technology Development Fund 環境省環境研究総合推進費終了研究等成果報告書 水銀の全球多媒体モデル構築と海洋生物への移行予測に関する研究 (5-1405) 平成 26 年度 ~ 平成 28 年度 Study on Globa

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Environment Research and Technology Development Fund 環境省環境研究総合推進費終了研究等成果報告書

水銀の全球多媒体モデル構築と海洋生物への移行予測に関する研究

(5-1405)

平成26年度~平成28年度

Study on Global Multimedia Fate and Bioaccumulation to Marine Organisms of Mercury 国立研究開発法人国立環境研究所 環境省 国立水俣病総合研究センター 新潟工科大学 平成29年5月 環境省 総合環境政策局総務課環境研究技術室 環境保健部環境安全課環境リスク評価室 地球環境局総務課研究調査室

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I.成果の概要 ・・・・・・・・・・ ⅰ 1. はじめに(研究背景等) 2. 研究開発目的 3. 研究開発の方法 4. 結果及び考察 5. 本研究により得られた主な成果 6. 研究成果の主な発表状況 7. 研究者略歴 II.成果の詳細 (1)水銀の全球多媒体モデルおよび海洋生物移行モデルの構築 ・・・・・・・・・ 1 (国立研究開発法人国立環境研究所) 要旨 ・・・・・・・ 1 1. はじめに ・・・・・・・ 2 2. 研究開発目的 ・・・・・・・ 2 3. 研究開発方法 ・・・・・・・ 2 4. 結果及び考察 ・・・・・・・ 11 5. 本研究により得られた成果 ・・・・・・・ 24 6. 国際共同研究等の状況 ・・・・・・・ 25 7. 研究成果の発表状況 ・・・・・・・ 25 8. 引用文献 ・・・・・・・ 26 (2)水銀の安定同位体分析による媒体間動態の検討 ・・・・・・・・・・ 33 (国立研究開発法人国立環境研究所) 要旨 ・・・・・・・ 33 1. はじめに ・・・・・・・ 33 2. 研究開発目的 ・・・・・・・ 35 3. 研究開発方法 ・・・・・・・ 35 4. 結果及び考察 ・・・・・・・ 39 5. 本研究により得られた成果 ・・・・・・・ 48 6. 国際共同研究等の状況 ・・・・・・・ 49 7. 研究成果の発表状況 ・・・・・・・ 49 8. 引用文献 ・・・・・・・ 50 (3)遠洋・沿岸海域での水銀の動態観測と解析 ・・・・・・・・・ 52 (国立水俣病総合研究センター) 要旨 ・・・・・・・ 52 1. はじめに ・・・・・・・ 52 2. 研究開発目的 ・・・・・・・ 53 3. 研究開発方法 ・・・・・・・ 53 4. 結果及び考察 ・・・・・・・ 57 5. 本研究により得られた成果 ・・・・・・・ 72 6. 国際共同研究等の状況 ・・・・・・・ 73 7. 研究成果の発表状況 ・・・・・・・ 73 8. 引用文献 ・・・・・・・ 75 (4)大気中水銀の連続観測によるモデル検証 ・・・・・・・・・ 78

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2. 研究開発目的 ・・・・・・・・ 79 3. 研究開発方法 ・・・・・・・・ 80 4. 結果及び考察 ・・・・・・・・ 84 5. 本研究により得られた成果 ・・・・・・・・ 100 6. 国際共同研究等の状況 ・・・・・・・・ 101 7. 研究成果の発表状況 ・・・・・・・・ 101 8. 引用文献 ・・・・・・・・ 101 III.英文Abstract ・・・・・・・・・ 110

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課 題 代 表 者 名 鈴 木 規 之 (国 立 研 究 開 発 法 人 国 立 環 境 研 究 所 環 境 リスク・健 康 研 究 センター センター長 ) 研 究 実 施 期 間 平 成 26~28年 度 累 計 予 算 額 115,768千 円 (うち平 成 28年 度 :37,860千 円 ) 予 算 額 は、間 接 経 費 を含 む。 本 研 究 のキーワード 水 銀 、メチル水 銀 、多 媒 体 動 態 モデル、生 物 蓄 積 、水 銀 同 位 体 、分 析 技 術 、大 気 -海 洋 間 交 換 、海 水 、形 態 別 連 続 観 測 、粒 子 状 水 銀 研 究 体 制 (1)水 銀 の全 球 多 媒 体 モデルおよび海 洋 生 物 移 行 モデルの構 築 (国 立 研 究 開 発 法 人 国 立 環 境 研 究 所 ) (2)水 銀 の安 定 同 位 体 分 析 による媒 体 間 動 態 の検 討 (国 立 研 究 開 発 法 人 国 立 環 境 研 究 所 ) (3)遠 洋 ・沿 岸 海 域 での水 銀 の動 態 観 測 と解 析 (国 立 水 俣 病 総 合 研 究 センター) (4)大 気 中 水 銀 の連 続 観 測 によるモデル検 証 (学 校 法 人 新 潟 工 科 大 学 ) 研 究 概 要 1.はじめに(研 究 背 景 等 ) 水 銀 に関 する水 俣 条 約 の採 択 により、各 国 で排 出 削 減 対 策 が講 じられていくことになる。水 銀 は元 素 状 、酸 化 態 、有 機 水 銀 などの化 学 形 態 をとりながら、大 気 、海 洋 、陸 域 、底 質 など複 数 の環 境 媒 体 (多 媒 体 )間 を移 動 して例 えば公 衆 への曝 露 経 路 となる遠 洋 魚 に到 達 する可 能 性 があり、このような諸 過 程 を包 括 的 に予 測 可 能 な 全 球 多 媒 体 モデルが必 要 とされている。本 研 究 では、全 球 規 模 で輸 送 と多 媒 体 の動 態 過 程 を包 括 的 に扱 う新 たな水 銀 の全 球 多 媒 体 動 態 と海 洋 生 物 への移 行 予 測 の研 究 を行 う。 図 1 水 銀 の全 球 多 媒 体 モデル構 築 と海 洋 生 物 の移 行 予 測 に関 する研 究 の概 要 2.研 究 開 発 目 的 本 研 究 では、超 微 量 分 析 技 術 による遠 洋 観 測 と安 定 同 位 体 分 析 による水 銀 形 態 の起 源 推 定 など新 たな研 究 手 法 を導 入 し、これをPOPs(残 留 性 有 機 汚 染 物 質 )研 究 によって実 績 のある全 球 多 媒 体 モデル手 法 と融 合 することで、新 たな水 銀 の全 球 多 媒 体 モデルを構 築 し、国 際 的 な行 政 課 題 にこたえることをめざす。サブテーマ (1)では、POPsの全 球 多 媒 体 モデルFATEに水 銀 動 態 諸 過 程 を導 入 して水 銀 の全 球 多 媒 体 動 態 を記 述 するモ

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して全 球 多 媒 体 モデルに統 合 する。サブテーマ(2)では、多 重 検 出 器 型 誘 導 結 合 プラズマ質 量 分 析 装 置 (MC-ICP/MS)を用 いて、分 析 前 処 理 方 法 も含 めた高 精 度 な水 銀 同 位 体 分 析 技 術 を確 立 する。そして沿 岸 域 と 外 洋 域 で、魚 類 と底 質 試 料 を採 取 し、それらの水 銀 同 位 体 組 成 から、起 源 や反 応 機 構 プロセスを検 討 し、媒 体 間 動 態 の解 明 を図 る。サブテーマ(3)では、遠 洋 ・沿 岸 海 域 での水 銀 の大 気 -海 洋 間 のフラックス観 測 、沿 岸 域 動 態 ・生 物 移 行 の観 測 ・実 験 を行 うことにより、大 気 -海 洋 間 および生 物 動 態 データを取 得 しサブテーマ(1)の多 媒 体 環 境 モデルおよび生 物 移 行 モデル構 築 ・検 証 する基 礎 を確 立 する。サブテーマ(4)では、大 気 中 形 態 別 水 銀 の連 続 観 測 および沈 着 量 調 査 を国 内 で実 施 し、モデルの大 気 検 証 データを得 て、また観 測 手 法 を確 立 する。 具 体 的 には、データの少 ない地 域 における形 態 別 大 気 ・沈 着 観 測 を進 め、モデル予 測 結 果 の検 証 の基 礎 とする ことを目 的 とした。これらから新 たな水 銀 の全 球 多 媒 体 モデルを構 築 し、例 えば排 出 量 の削 減 による、環 境 の各 媒 体 の濃 度 ・存 在 量 や 海 洋 生 物 中 の濃 度 などの応 答 を予 測 可 能 な技 術 的 手 段 を提 供 することを目 的 とする。 3.研 究 開 発 の方 法 (1)水 銀 の全 球 多 媒 体 モデルおよび海 洋 生 物 移 行 モデルの構 築 水 銀 の全 球 多 媒 体 モデル(FATE-Hg)の構 築 では、モデルコードの開 発 、入 力 データの整 備 、モデルパラメー ターの検 討 を行 い、開 発 したモデルを検 証 した。FATE-Hgは大 気 -海 洋 -底 質 -陸 域 -海 洋 生 物 に亘 る水 銀 の生 物 地 球 化 学 的 物 質 循 環 を推 定 する。大 気 -海 洋 結 合 化 学 輸 送 モデルを土 台 とし、これに、大 気 -海 洋 -底 質 -海 洋 生 物 における水 銀 プロセスを導 入 した(図 (1)-1)。大 気 -雲 水 中 の形 態 変 化 、沈 着 と拡 散 拡 散 による大 気 -海 洋 間 の輸 送 、海 水 -底 質 中 の形 態 変 化 、拡 散 と再 懸 濁 による海 水 -底 質 間 の輸 送 、表 層 堆 積 物 から深 層 (地 質 ) への埋 没 、海 水 から粒 子 状 有 機 物 (POM)への生 物 濃 縮 と生 物 ポンプに伴 う鉛 直 輸 送 、POMから魚 類 への食 物 網 蓄 積 が考 慮 されている。大 気 -雲 水 中 の形 態 変 化 等 の化 学 反 応 については既 往 プロセスモデルを参 照 し、平 衡 定 数 と速 度 定 数 は文 献 値 より取 得 した。海 洋 -底 質 の形 態 変 化 と媒 体 間 輸 送 は新 たにサブモデルを構 築 した。 このサブモデルでは、元 素 水 銀 (Hg0)、酸 化 態 水 銀 (HgI I)、モノメチル水 銀 (MMHg)、ジメチル水 銀 (DMHg)の4形 態 を取 り扱 い、海 水 中 におけるHg0-HgI I間 の光 酸 化 、光 還 元 、無 光 酸 化 、無 光 (生 物 )還 元 、海 水 -底 質 中 のメチ ル化 と脱 メチル化 、海 水 -底 質 間 の輸 送 が計 算 される。海 洋 生 物 への移 行 については、生 物 濃 縮 係 数 (BCF)を 用 いて海 水 -POM間 の定 常 分 配 が計 算 され、食 物 網 蓄 積 係 数 (TMF)を用 いて、POMから魚 類 への食 物 網 蓄 積 が計 算 される。 図 (1)-1 FATE-Hgの入 力 データ(左 )と、考 慮 されている大 気 -海 洋 -底 質 -海 洋 生 物 における水 銀 プロセス(右 ) FATE-Hgを用 いて、2001年 から2010年 の10年 間 のシミュレーションを実 施 し、2010年 の結 果 を検 証 した。入 力 データとして、人 為 的 な排 出 量 インヴェントリにはAMAP/UNEPによる最 新 のインヴェントリを用 いた。気 象 データ はECMWF (ヨーロッパ中 期 予 報 センター) Era interim、海 洋 物 理 データはGFDL (地 球 流 体 力 学 研 究 所 ) ODA (ocean data assimilation experiment)、反 応 物 質 濃 度 はECMWF MACC (monitoring atmospheric composition and climate) より取 得 した。共 に再 解 析 データである。衛 星 データにはNASA SeaWiFS/MODISで測 定 されたデ ータを用 いた。モデル検 証 を行 うために、まず、モニタリングデータを整 理 した。計 21文 献 の本 文 、図 、表 より海 洋

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タベースを構 築 した。この内 、遠 洋 広 域 に亘 るデータ数 の比 確 的 多 い、大 気 と海 洋 表 層 における元 素 水 銀 濃 度 を検 証 した。 遠 洋 海 域 での海 洋 生 物 移 行 モデルの構 築 では、まず、水 銀 の生 物 移 行 動 力 学 モデルの基 本 構 造 を、文 献 調 査 に基 づく検 討 により確 定 した。その上 で、MMHgの生 物 蓄 積 を記 述 するために、生 理 学 的 モデルと結 合 したマ スバランス動 力 学 モデルにより、MMHgの生 物 移 行 動 力 学 モデルを構 築 することとした。次 に、マグロにおける生 理 学 的 エネルギー収 支 、MMHgの移 行 動 力 学 について、モデルの予 測 結 果 を既 往 研 究 との比 較 等 により議 論 し た。その上 で、MMHgの生 物 移 行 動 力 学 モデルによる予 測 を実 測 値 と比 較 し、その妥 当 性 を議 論 するとともに、 FATE-Hgにおける生 物 中 濃 度 予 測 モデルの妥 当 性 の検 証 を行 った。 (2)水 銀 の安 定 同 位 体 分 析 による媒 体 間 動 態 の検 討 分 析 前 処 理 も含 めた高 精 度 で環 境 試 料 中 (生 物 と底 質 )の水 銀 同 位 体 組 成 を計 測 する手 法 を開 発 するため に国 際 標 準 物 質 を用 いて分 析 確 度 の確 保 および精 度 管 理 を実 施 する。そして海 洋 の鉛 直 構 造 に起 因 する水 銀 動 態 と生 物 移 行 過 程 を顕 示 するために、外 洋 の表 層 回 遊 魚 と中 深 海 水 層 回 遊 魚 の筋 肉 中 に蓄 積 されたメチル 水 銀 の同 位 体 組 成 を計 測 する。さらに海 洋 生 物 に蓄 積 されている水 銀 の起 源 が底 質 であると知 られている沿 岸 環 境 において、沿 岸 魚 の筋 肉 中 の水 銀 同 位 体 組 成 を計 測 し、外 洋 環 境 との相 違 を顕 示 するのと同 時 に、沿 岸 環 境 における水 銀 動 態 を検 討 する。最 後 に、外 洋 および沿 岸 海 底 質 の水 銀 同 位 体 比 を計 測 し、起 源 からの水 銀 動 態 に関 する検 討 を実 施 して、多 媒 体 モデル構 築 に貢 献 する。 (3)遠 洋 ・沿 岸 海 域 での水 銀 の動 態 観 測 と解 析 海 水 中 水 銀 の大 気 放 出 及 び濃 度 分 布 、並 びに化 学 形 態 に関 する情 報 を得 てサブテーマ(1)におけるプロセス モデルの構 築 や全 球 多 媒 体 モデルの検 証 に資 するため、対 馬 海 峡 の壱 岐 島 西 側 海 域6地 点 、東 シナ海 23地 点 、 太 平 洋6地 点 、久 米 島 西 方 沖 4地 点 において水 銀 放 出 フラックスの観 測 と海 水 試 料 の採 取 を実 施 した。なお、季 節 変 動 に関 する情 報 を得 るため、対 馬 海 峡 における観 測 は秋 季 と夏 季 に行 った。また、東 シナ海 及 び太 平 洋 に おける調 査 は2015年 10月 (秋 季 )に実 施 し、久 米 島 西 方 沖 の観 測 は2016年 8月 (夏 季 )に実 施 した。ガス交 換 モデル法 により水 銀 の大 気 放 出 フラックスを試 算 するため、海 水 中 の溶 存 ガス状 水 銀 と大 気 中 水 銀 、その他 フ ラ ッ ク ス の 算 出 に 必 要 な 気 象 要 素 お よ び 水 質 特 性 も 同 時 に 観 測 し た 。 水 銀 放 出 フ ラ ッ ク ス の 観 測 と 併 せ 、 各 地 点 の 鉛 直 方 向 に 任 意 の 深 度 で 酸 洗 浄 済 み の ニ ス キ ン 採 水 器 を 用 い て 海 水 試 料 を 採 取 し た 。 採 取 し た 海 水 試 料 は 船 上 も し く は 国 水 研 の 実 験 室 に お い て 採 取 後48時 間 以 内 に 0.45μmメ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー で ろ 過 し 、 ろ 過 水 中 の 水 銀 ( 溶 存 態 水 銀 ) と フ ィ ル タ ー 上 の 水 銀 ( 粒 子 態 水 銀 ) を そ れ ぞ れ 米 国 公 定 法EPA method 1631に て 分 析 し た 。 ま た 、 環 境 省 水 銀 分 析 マ ニ ュ ア ル に 記 載 さ れ て い る ジ チ ゾ ン 抽 出 法 と 米 国 公 定 法EPA method 1630に 記 載 さ れ て い る 誘 導 体 化 -原 子 蛍 光 検 出 法 を 組 み 合 せ た ハ イ ブ リ ッ ド 法 に よ り 、 溶 存 態 メ チ ル 水 銀 と 粒 子 態 メ チ ル 水 銀 を 分 析 し た 。 メ チ ル 水 銀 の 分 析 に あ た っ て は 分 析 法 の 最 適 化 を 行 い 、 よ り 低 濃 度 の メ チ ル 水 銀 分 析 が 可 能 と な っ た 。 一 方 、 水 銀 の 生 物 移 行 に 関 す る 情 報 を 得 る た め 、 上 記 の 調 査 に お い て プ ラ ン ク ト ン を100μmメ ッ シ ュ の プ ラ ン ク ト ン ネ ッ ト を 用 い て 採 取 し た 。採 取 し た 試 料 は あ ら か じ め 酸 洗 浄 し た500mlテ フ ロ ン 瓶 に 海 水 と と も に 入 れ 、冷 凍 保 存 し て 国 水 研 に 持 ち 帰 っ た 。 そ の 後 、 実 験 室 に て ガ ラ ス 繊 維 フ ィ ル タ ー で ろ 過 し て 得 た プ ラ ン ク ト ン 試 料 を 凍 結 乾 燥 し て 分 析 ま で 暗 所 に 保 存 し た 。 ま た 、 調 査 海 域 で 捕 獲 さ れ た 魚 介 類 も 入 手 し 、 冷 蔵 で 国 水 研 ま で 送 付 し て 全 長 、 体 長 、 体 重 を 計 測 し た 後 、-80℃ で 冷 凍 保 存 し た 。プ ラ ン ク ト ン 及 び 魚 介 類 中 の 総 水 銀 濃 度 は 、 環 境 省 水 銀 分 析 マ ニ ュ ア ル に 従 っ た 酸 分 解 法 に よ る 前 処 理 と 還 元 気 化 冷 原 子 吸 光 法 に よ り 分 析 し た 。 ま た 、 食 物 網 を 介 し た 水 銀 の 生 物 移 行 過 程 に 関 す る 情 報 を 得 る た め 、 プ ラ ン ク ト ン 及 び 魚 介 類 の 炭 素 ・ 窒 素 安 定 同 位 体 比 の 分 析 も 実 施 し た 。 (4)大 気 中 水 銀 の連 続 観 測 によるモデル検 証 大 気 中 形 態 別 水 銀 の連 続 観 測 として、新 潟 県 柏 崎 市 藤 橋 に位 置 する新 潟 工 科 大 学 北 棟 屋 上 において、 Tekran社 製 大 気 中 形 態 別 水 銀 自 動 測 定 装 置 (Model 1130,1135,2537B)を用 いて、平 成 26年 10月 から平 成 29 年 3月 の冬 季 に、元 素 態 水 銀 (Hg(0))、ガス状 酸 化 態 水 銀 (GOM)及 び粒 子 に付 着 した水 銀 (pHg)の連 続 観 測 を 行 った。浮 遊 粒 子 状 物 質 (SPM)等 の大 気 汚 染 物 質 濃 度 は北 方 約 3kmに位 置 する柏 崎 一 般 環 境 大 気 測 定 局 に おける測 定 値 を用 いた。また、大 気 中 pHgの粒 経 別 濃 度 測 定 として、(1)と同 一 地 点 で柴 田 科 学 社 製 アンダーセ ンサンプラー(AN-S)に石 英 繊 維 ろ紙 を装 着 し2週 間 毎 に大 気 中 PHg及 び水 溶 性 成 分 等 の粒 径 分 布 測 定 を行 う とともに、柴 田 科 学 社 製 PM2.5サンプラー (PM2 . 5-S)に石 英 繊 維 ろ紙 を装 着 し1週 間 毎 のPM2.5及 びPM2.5 -10中 の PHg測 定 を行 った。Hgの測 定 には加 熱 気 化 -金 アマルガム捕 集 -加 熱 気 化 -冷 原 子 吸 光 光 度 法 を用 いた。水 銀 等 の湿 性 沈 着 量 測 定 として、 (1)と同 一 地 点 で小 笠 原 計 器 製 作 所 製 自 動 降 水 採 取 器 US-330-Hにガラスロー

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量 からそれぞれの沈 着 量 を算 出 した。 4.結 果 及 び考 察 (1)水 銀 の全 球 多 媒 体 モデルおよび海 洋 生 物 移 行 モデルの構 築 FATE-Hgで用 いられるモデルパラメーターの内 、海 洋 -底 質 における形 態 変 化 と媒 体 間 輸 送 の速 度 定 数 、 MMHgの植 物 プランクトンへの生 物 濃 縮 係 数 (BCF)、MMHgの食 物 網 蓄 積 係 数 (TMF)について検 討 した。形 態 変 化 と媒 体 間 輸 送 の速 度 定 数 については、先 行 モデル研 究 と文 献 値 を参 照 して規 定 値 を定 めた。ただし、不 確 実 性 の大 きい無 光 (生 物 )還 元 の速 度 定 数 についてはFATE-Hgを用 いた試 行 実 験 に基 づき決 定 した。BCFについ ては、遠 洋 と沿 岸 域 でサイズクラス別 に実 測 されたBCFを取 りまとめ、衛 星 データから推 定 された表 層 クロロフィ ルa濃 度 ([Chl a];mg/m3)との関 係 を検 討 した。この結 果 、[Chl a]が0.2以 下 ではBCFは増 加 し、0.2以 上 ではおお よそ一 定 値 となる結 果 が得 られた。この結 果 を経 験 的 にモデル化 した。TMFについては、これまでに公 文 化 され ている淡 水 (101食 物 網 )、海 水 /汽 水 域 (33食 物 網 )の結 果 を取 りまとめて精 査 した。水 銀 のTMFは海 域 や食 物 網 による相 違 が比 較 的 小 さいという論 調 が強 いが、一 方 、緯 度 (海 水 温 )に依 存 するという指 摘 もなされている。 高 緯 度 (低 海 水 温 域 )で若 干 大 きくなる傾 向 が見 られるものの、明 確 な依 存 性 は確 認 されなかった。そこで、本 課 題 では平 均 値 (5.2)を全 球 一 律 で設 定 し、この値 の妥 当 性 について海 洋 生 物 移 行 モデルを用 いて検 討 した。 図 (1)-2は表 層 大 気 と海 洋 表 層 における元 素 水 銀 (大 気 :GEM、海 洋 DGM)の広 域 分 布 を検 証 した結 果 の一 例 である。GEMとDGMともに、おおよその濃 度 レベルと広 域 分 布 は再 現 できている。GEMについては最 大 0.5オー ダー程 度 の相 違 が見 られ、南 大 西 洋 上 では、モデル予 測 結 果 の分 布 がやや強 く付 きすぎる結 果 となった。DGM については、太 平 洋 赤 道 付 近 の再 現 性 は非 常 に良 いが、大 西 洋 上 の緯 度 分 布 では最 大 1オーダー程 度 の相 違 が見 られた。海 水 と海 洋 生 物 中 の水 銀 濃 度 を予 測 可 能 な全 球 モデルはそもそも少 なく、再 現 性 も悪 い。これらの 先 行 研 究 と比 較 すると、最 小 限 のパラメーター調 整 で、濃 度 レベル、全 球 分 布 、季 節 性 ともに比 較 的 良 好 な検 証 結 果 が得 られた。 図 (1)-2 (a)表 層 大 気 (GEM)と(b)海 洋 表 層 (DGM)における元 素 水 銀 広 域 分 布 の検 証 結 果 遠 洋 海 域 での海 洋 生 物 移 行 モデルの構 築 について、人 間 への曝 露 に対 する関 心 の観 点 から、MMHgを生 物 移 行 動 力 学 モデルの記 述 対 象 とした。既 往 研 究 に基 づくデータの解 析 により、魚 体 内 および消 化 管 内 での無 機 二 価 水 銀 からMMHgの生 成 は無 視 できる程 度 であると判 断 した。日 本 におけるMMHgの主 要 な曝 露 源 と考 えられ

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学 モデルの記 述 対 象 とした。 生 物 移 行 動 力 学 モデルは生 理 学 的 エネルギー収 支 モデルにMMHgのマスバランスモデルを結 合 する立 式 とし た。生 理 学 的 エネルギー収 支 モデルにより、稚 魚 期 からの摂 餌 、成 長 、代 謝 、排 泄 の収 支 の時 系 列 を予 測 した。 マスバランスモデルは、魚 体 を一 画 分 とし、濃 度 変 化 を一 次 速 度 論 で記 述 し、生 理 学 的 エネルギー収 支 モデル により予 測 された鰓 での換 水 速 度 と摂 餌 速 度 に基 づき、魚 体 内 へのMMHgの取 り込 みを推 定 した。浄 化 速 度 定 数 は文 献 の推 定 式 を採 用 した。魚 体 の大 きさは、平 均 的 な成 長 曲 線 によった。体 温 、植 生 、溶 存 酸 素 濃 度 、水 中 MMHg濃 度 等 のパラメーターは、生 理 、生 態 の特 性 を踏 まえた上 で、文 献 および他 サブテーマの結 果 を参 照 し て設 定 した。モデルパラメーターは、必 要 に応 じて、キハダ等 の近 縁 魚 種 の情 報 またさらに他 魚 種 の値 や魚 類 に ついての一 般 的 な値 により補 った。 以 上 で構 築 したモデルにより、生 理 学 的 エネルギー収 支 については、マグロについての既 往 研 究 や魚 類 につ いての一 般 的 な知 見 と矛 盾 しない推 定 結 果 が得 られた。MMHgの動 力 学 について、魚 体 中 のMMHg量 は時 間 と ともに漸 増 し、取 り込 み経 路 は大 部 分 (>99%)が食 餌 で、海 水 中 のMMHgの鰓 からの取 り込 みによる寄 与 は小 さ かった。魚 体 中 濃 度 ならびに生 物 増 幅 係 数 (BMF)は100日 程 度 まで急 激 に増 加 し、その後 は漸 増 した。5年 時 点 の生 物 増 幅 係 数 は5.6であった。さらに、遠 洋 海 域 における水 生 生 物 中 の、栄 養 段 階 ごとのMMHg濃 度 を文 献 実 測 値 と本 研 究 でのモデル予 測 とを比 較 して検 討 した。餌 生 物 中 濃 度 とメバチ中 濃 度 のモデル推 定 値 は文 献 濃 度 範 囲 と合 う予 測 結 果 となったが、メバチ中 予 測 濃 度 は実 測 範 囲 の下 限 近 くであった。マグロに至 る食 物 連 鎖 において、生 物 移 行 動 力 学 モデルにより推 定 されたBMFの範 囲 は2.5-20、幾 何 平 均 値 は5.4であった。 FATE-Hgで採 用 されているTMFの値 (5.2)はこれと近 く、異 なった手 法 によるモデル化 の結 果 から一 定 の妥 当 性 を有 することを確 認 できた。 (2)水 銀 の安 定 同 位 体 分 析 による媒 体 間 動 態 の検 討 国 際 標 準 試 料 を用 いて、比 較 的 簡 易 な分 析 前 処 理 方 法 を確 立 した。開 発 した試 料 燃 焼 ・水 銀 濃 縮 システ ムを用 いて過 マンガン酸 カリウム溶 液 と硫 酸 で作 成 した捕 集 液 に効 率 よく水 銀 を濃 縮 し、濃 度 調 整 を行 った 後 に多 重 検 出 器 型 誘 導 結 合 プラズマ質 量 分 析 装 置 での高 精 度 な水 銀 同 位 体 計 測 が可 能 となった。また試 料 燃 焼 ・水 銀 濃 縮 システムでは比 較 的 低 い水 銀 濃 度 の生 物 と底 質 試 料 の濃 縮 も可 能 となり、分 析 技 術 の向 上 がなされた。 向 上 された水 銀 同 位 体 計 測 技 術 を用 いて、遠 洋 と沿 岸 魚 類 に蓄 積 している水 銀 、特 にメチル水 銀 の発 生 源 推 定 および反 応 機 構 の解 析 を行 った。外 洋 の表 層 回 遊 魚 の筋 肉 中 の2 0 2Hgは約 0.2から1.3‰で、1 9 9Hg は約 2.0から3.0‰であった(図 (2)-1)。また外 洋 の中 深 層 海 水 回 遊 魚 の筋 肉 中 の2 0 2Hgは約 -0.1から1.3‰で、 1 9 9Hgは約 1.7から2.1‰の範 囲 であった(図 (2)-1)。2 0 2Hgと1 9 9Hgの変 動 は、微 生 物 による脱 メチル化 反 応 、 光 による脱 メチル化 反 応 、そして、生 物 内 での代 謝 プロセスの影 響 で変 動 しており、詳 細 なデータ解 析 によっ て、遠 洋 域 では、得 られた水 銀 同 位 体 比 の鉛 直 構 造 から、中 深 海 水 層 でのメチル水 銀 の生 成 を示 す結 果 を 得 た。その一 方 、沿 岸 域 に生 息 する魚 類 の水 銀 同 位 体 比 は、水 深 30メートル以 下 の水 俣 湾 で、2 0 2Hgが約 -0.75から0.4‰、1 9 9Hgが約 0.0から0.6‰、そして水 深 200メートル以 下 の玄 界 灘 で、2 0 2Hgが約 0.25から1.3‰、 1 9 9Hgが約 0.8から1.6‰であった(図 (2)-1)。これらの地 域 では同 魚 種 でも水 銀 同 位 体 比 が異 なることから、そ れぞれの環 境 で蓄 積 している水 銀 の起 源 、または生 物 移 行 における反 応 機 構 、そして生 態 学 的 な餌 の選 好 性 が異 なることによって水 銀 同 位 体 比 変 動 が起 きていることを示 唆 している。 最 後 に遠 洋 および沿 岸 域 の底 質 中 の水 銀 同 位 体 比 を計 測 し、遠 洋 域 と沿 岸 域 の底 質 中 の水 銀 同 位 体 比 は類 似 して、2 0 2Hgが約 -0.4から-1.3‰、1 9 9Hgが約 0から0.1‰であった(図 (2)-1)。上 記 のことから、底 質 に 比 較 的 近 い水 俣 湾 のような沿 岸 域 では、そこに生 息 する海 洋 生 物 に蓄 積 している水 銀 に影 響 を及 ぼすが、 玄 界 灘 のような底 質 とは少 し距 離 がある陸 棚 域 、そして底 質 とは1,000m以 上 も離 れている遠 洋 域 では、底 質 からの水 銀 ではなく、水 柱 で生 成 されるメチル水 銀 が生 物 に移 行 していると考 えられる。総 合 的 に、生 物 に蓄 積 している水 銀 は、生 息 環 境 毎 に同 位 体 比 が異 なり、沿 岸 と遠 洋 では水 銀 の起 源 が異 なることに加 えて、生 物 移 行 プロセスにおける反 応 機 構 が異 なる事 から、複 数 のパラメーターを多 媒 体 モデルでは考 慮 する必 要 が ある。

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図 (2)-1 外 洋 のマグロ類 、水 俣 湾 と玄 界 灘 の沿 岸 魚 、そして外 洋 域 と沿 岸 域 の底 質 中 の水 銀 同 位 体 比 分 布 (3)遠 洋 ・沿 岸 海 域 での水 銀 の動 態 観 測 と解 析 対 馬 海 峡 における溶 存 ガス状 濃 度 は、秋 季 (2014年 10月 )に22 ± 7 pg/L であり、夏 季 (2015年 8月 )の値 27 ± 6 pg/Lの方 がやや高 かった。一 方 、東 シナ海 の黒 潮 海 流 域 の秋 季 (2015年 10月 )における溶 存 ガス状 水 銀 濃 度 は17 ± 3 pg/L であり、夏 季 (2016年 8月 )に久 米 島 西 方 沖 で観 測 した値 35 ± 7 pg/Lの方 が約 2倍 高 かった。 このことから、海 水 中 溶 存 ガス状 水 銀 は夏 季 に高 い傾 向 をもつことがわかった。対 馬 海 峡 における溶 存 ガス状 水 銀 濃 度 と総 水 銀 に対 する溶 存 ガス状 水 銀 の濃 度 の割 合 は、日 射 量 と有 意 な正 の相 関 がみられており、光 化 学 反 応 による溶 存 ガス状 水 銀 の生 成 が示 唆 された。しかしながら、黒 潮 海 流 域 では夜 間 と日 中 での濃 度 差 がなく、 日 射 の影 響 はみられなかった。溶 存 ガス状 水 銀 の光 生 成 には鉄 や腐 植 物 質 の存 在 によって促 進 されることから、 陸 域 からの距 離 などに伴 う水 質 の変 化 、とりわけ陸 起 源 物 質 の供 給 が大 きく影 響 していると考 えられる。これら の海 域 における溶 存 ガス状 水 銀 濃 度 は総 じて過 飽 和 な状 態 にあり、海 面 から水 銀 が放 出 していることが示 唆 さ れた。黄 海 や東 シナ海 大 陸 棚 部 における観 測 値 と本 研 究 の結 果 から、東 シナ海 全 体 から放 出 される水 銀 量 を 49 ±17 ton/yrと概 算 した。これは日 本 の人 為 放 出 源 からの水 銀 放 出 量 の約 2倍 である。しかしながら、モデル計 算 等 により試 算 されているアジア大 陸 からの水 銀 輸 送 量 に比 べると小 さい値 である。表 層 においては海 面 から水 銀 が放 出 されていることもあり、海 水 中 の総 水 銀 濃 度 は表 層 で低 く、深 度 が深 くなるにつれて高 くなる傾 向 がみ られた。とりわけ、遠 洋 域 ではその傾 向 が顕 著 であった。また、溶 存 態 メチル水 銀 濃 度 も沿 岸 域 ・遠 洋 域 ともに表 層 でほぼ検 出 限 界 濃 度 (1.0pg/L)以 下 であったが、中 深 層 で高 くなる傾 向 がみられ、栄 養 塩 濃 度 と似 た鉛 直 分 布 を示 した。見 かけの酸 素 消 費 量 との関 係 などから、この鉛 直 分 布 には表 層 における生 物 取 込 と生 物 遺 骸 の沈 降 に伴 う中 深 層 での再 溶 解 (再 無 機 化 )が大 きく影 響 していると考 えられる。遠 洋 域 では水 深500m付 近 に溶 存 態 メチル水 銀 濃 度 の極 大 層 があり、水 温 と塩 分 のダイアグラムからこの深 度 を流 れる北 太 平 洋 中 層 水 の影 響 に よるものと推 察 された。北 太 平 洋 中 層 水 における高 濃 度 メチル水 銀 の存 在 は他 の海 域 でも観 測 されているが、 その要 因 は明 らかでなく、今 後 検 討 していく必 要 がある。日 本 近 海 における海 水 中 メチル水 銀 の動 態 や大 気 へ の放 出 フラックスについてはこれまでデータが皆 無 であり、本 研 究 により極 めて貴 重 なデータが得 られた。一 方 、 海 水 中 の鉛 直 平 均 水 銀 濃 度 とプランクトン中 水 銀 濃 度 から対 馬 海 峡 及 び東 シナ海 における海 水 からプランクト ンへの水 銀 の生 物 濃 縮 係 数 (Bio Concentration Factor, BCF)を計 算 したところ4.65~6.15であった。この値 は海 水 中 総 水 銀 濃 度 に対 してプランクトン中 総 水 銀 濃 度 が1~100万 倍 に濃 縮 されていることを示 しているが、こ れまでの研 究 で報 告 されている値 の範 囲 内 であった。プランクトンから魚 介 類 への水 銀 蓄 積 についても窒 素 安 定 同 位 体 比 と総 水 銀 濃 度 との相 関 関 係 から算 出 されるTrophic magnification Slope (TMS)を基 礎 として検 討 し たが、対 馬 海 峡 及 び東 シナ海 での値 が低 く、また相 関 関 係 にない場 合 もあった。そのため、これらの海 域 では、プ

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(4)大 気 中 水 銀 の連 続 観 測 によるモデル検 証 大 気 中 形 態 別 水 銀 の連 続 観 測 では、Hg(0)の5分 間 値 の平 成 26、27、28年 度 測 定 における平 均 値 は、それぞ れ、1.49 ng/m3、1.51 ng/m3、1.52 ng/m3であり、米 国 ネバダ州 RenoやアイルランドのMace Headでの測 定 値 と同 程 度 で比 較 的 低 い値 に属 していた。また、粒 子 状 水 銀 (PHg)の平 成 26、27、28年 度 測 定 における平 均 値 は、そ れぞれ、8.1、7.6 、12.9 pg/m3であり、GOMの平 成 26、27、28年 度 測 定 における平 均 値 は、それぞれ、1.8、1.2、 1.4 pg/m3であった。これらのPHG及 びGOM濃 度 平 均 値 はこれまでの報 告 値 の中 では低 い方 に属 する。連 続 濃 度 測 定 において短 時 間 的 に観 測 された高 濃 度 は市 内 の工 場 ・事 業 場 の影 響 と考 えられ、SPMと連 動 して日 単 位 でのピークは、後 方 流 跡 線 解 析 により東 アジア大 陸 からの長 距 離 移 流 によるものと考 えられた。SPM、Hg(0)、 pHgがほぼ同 時 に濃 度 上 昇 が見 られた平 成 27年 1月 5日 には、渤 海 湾 -遼 東 半 島 から北 朝 鮮 、日 本 海 を横 断 し 柏 崎 地 域 に至 る流 跡 線 が得 られており、これらの物 質 の同 時 濃 度 上 昇 事 例 として挙 げることができる。また、平 成 29年 1月 3日 にはSPM、Hg(0)、PHgが共 にやや高 濃 度 となっており、中 国 北 京 付 近 から北 朝 鮮 北 部 を経 てエア マスの流 入 が推 定 された。各 形 態 間 濃 度 の相 関 性 には年 度 ごとに違 いが見 られたが、PHg-GOM間 には3年 度 とも有 意 な相 関 性 が見 られた。 大 気 中 粒 子 状 水 銀 (PHg)の粒 経 別 濃 度 測 定 では、PM2.5 -Sを用 いた測 定 では、PHg1 0中 の粗 大 粒 子 側 の PHg2 . 5 - 1 0の占 める割 合 と、AN-Sを用 いた測 定 では全 粒 子 状 水 銀 (T-PHg)中 の粗 大 粒 子 の粒 子 状 水 銀 (C-PHg) の占 める割 合 とサンプリング期 間 中 の気 温 には、両 捕 集 方 法 とも有 意 な正 の相 関 性 が見 られ、暖 候 期 にはPHg 中 の粗 大 粒 子 のPHgの割 合 が高 く、寒 候 期 には逆 に微 小 粒 子 のPHgの割 合 が高 くなることが判 明 した。暖 候 期 において粗 大 粒 子 のPHg濃 度 が上 昇 する理 由 として、大 気 中 においてGEMからO3等 による酸 化 反 応 で生 成 した GOM、及 び気 温 上 昇 等 のより微 小 粒 子 のPHgから揮 散 したGOMが粗 大 粒 子 として存 在 するNaCl、KCl、NaNO3 などにガス-粒 子 分 配 により吸 着 し、粗 大 粒 子 のPHgが生 成 している可 能 性 が、また、冬 季 には温 度 低 下 による 微 小 粒 子 のPHgからのGOMの揮 散 が低 下 すること及 びGOMのガス-粒 子 分 配 において表 面 積 の多 いEC等 の微 小 粒 子 への分 配 が優 先 的 に大 きくなり、微 小 粒 子 のPHg濃 度 が高 くなる可 能 性 が考 えられる。こうしたPHg粒 径 分 布 の気 温 依 存 性 のメカニズムについては、降 水 による洗 浄 や輸 送 過 程 での粗 大 粒 子 の沈 着 を含 め更 なる検 討 が必 要 であるが、水 銀 の乾 性 沈 着 量 を推 計 手 法 によって求 める場 合 には、特 に沿 岸 地 域 においてPHgの粒 径 分 布 の気 温 依 存 性 に考 慮 する必 要 があることが示 唆 される。 降 水 に伴 う水 銀 沈 着 量 観 測 では、平 成 26年 7月 4日 から29年 1月 30日 の間 に捕 集 された降 水 中 水 銀 濃 度 は、 降 水 量 重 み付 け平 均 値 で6.9 ng/L、週 毎 の平 均 沈 着 量 は317 μg/m2、年 間 沈 着 量 は16.5 μg/m2であった。これ まで報 告 されている降 水 中 の水 銀 濃 度 は、数 ng/L、年 間 沈 着 量 として数 ~十 数 μgm- 2y- 1の沈 着 量 が多 く、本 研 究 で得 られた値 はこの範 囲 内 にある。暖 候 期 (4月 -10月 )・寒 候 期 (11月 -3月 )別 の平 均 値 を比 較 すると、降 水 量 は寒 候 期 に多 く、pHは寒 候 期 にやや低 く、多 くの成 分 で寒 候 期 濃 度 が高 くなっているが、水 銀 ・ニッケル・銅 ・ア ンチモン・亜 鉛 濃 度 は寒 候 期 ・暖 候 期 で大 きな差 は見 られなかった。 5.本 研 究 により得 られた主 な成 果 (1)科 学 的 意 義 本 研 究 では、水 銀 の全 球 多 媒 体 モデルを概 成 させ、全 球 スケールにおいて、人 為 起 源 により排 出 された水 銀 が、大 気 、海 洋 などによる輸 送 過 程 と媒 体 間 輸 送 、またメチル水 銀 を含 む化 学 形 態 の変 化 を経 て遠 洋 海 域 の魚 介 類 に到 達 する過 程 の予 測 を可 能 とした。これにより、現 時 点 での公 衆 への曝 露 起 源 として大 きな割 合 を占 め る遠 洋 魚 介 類 中 に存 在 するメチル水 銀 と、人 為 起 源 により大 気 に排 出 される元 素 状 (および酸 化 態 )無 機 水 銀 との直 接 的 な連 関 を初 めて確 立 したことが本 研 究 の成 果 の科 学 的 な意 義 である。 全 球 多 媒 体 モデルの構 築 にあたっては、これまで詳 細 な研 究 例 が少 なかった環 境 試 料 中 の高 精 度 な水 銀 同 位 体 組 成 を太 平 洋 、インド洋 また沿 岸 域 等 の魚 介 類 において明 らかにし、光 脱 メチル化 プロセスの影 響 を受 けメ チル水 銀 の蓄 積 を示 唆 する新 たな知 見 を得 た。これは世 界 的 にも最 も先 端 的 な科 学 的 成 果 と言 える。この成 果 を得 るために、低 濃 度 の環 境 試 料 において高 精 度 に水 銀 同 位 体 組 成 を分 析 する高 度 な分 析 手 法 が確 立 された ことが同 時 に重 要 な科 学 的 成 果 である。 また、遠 洋 海 域 におけるメチル水 銀 を含 む存 在 状 態 の把 握 や大 気 -海 洋 間 フラックスの観 測 がモデル構 築 の 基 礎 となった。このために、極 低 濃 度 の海 水 中 溶 存 態 メチル水 銀 と粒 子 態 メチル水 銀 の新 たな分 析 法 を開 発 し、 これを用 いて東 シナ海 を中 心 とする海 水 及 びフラックスの観 測 結 果 を得 た。これはモデル構 築 および検 証 の基 礎 となるとともに、観 測 結 果 自 体 がこれまでに報 告 のない新 たな科 学 的 知 見 であると考 える。 我 が国 日 本 海 側 において、研 究 開 始 当 時 は大 気 中 の形 態 別 水 銀 の連 続 観 測 結 果 は得 られておらず、本 研 究 において実 施 された観 測 は新 たな知 見 を与 えることとなった。また、粒 子 状 水 銀 の粒 径 分 布 には明 確 な気 温 依

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ことが示 唆 された。これは、新 たな観 測 結 果 としての科 学 的 意 義 を有 するとともに、モデル構 築 においても粒 子 状 水 銀 の過 程 記 述 を検 証 する重 要 な成 果 となった。 (2)環 境 政 策 への貢 献 <行 政 が既 に活 用 した成 果 > 研 究 開 始 時 点 において、水 銀 排 出 量 の多 いアジア大 陸 に近 く、また、測 定 報 告 値 の少 ない日 本 海 側 において 大 気 中 水 銀 の形 態 別 連 続 観 測 、粒 子 状 水 銀 の粒 径 別 観 測 、降 水 に伴 う沈 着 観 測 値 を得 ようとする初 めての観 測 を試 みたものである。直 接 には引 用 されていないが、環 境 省 における大 気 中 形 態 別 水 銀 の観 測 プログラムの 設 計 において、本 研 究 の知 見 が検 討 委 員 等 から指 摘 された知 見 として、プログラムの検 討 過 程 において有 効 に 活 用 された。 <行 政 が活 用 することが見 込 まれる成 果 > 本 研 究 成 果 は、全 球 スケールにおいて、例 えば大 気 への排 出 削 減 対 策 が、大 気 あるいは海 洋 のどのような経 路 をたどって、最 終 的 に曝 露 媒 体 である遠 洋 海 域 の魚 介 類 の濃 度 のレベルおよび将 来 の変 動 や削 減 に寄 与 す るかを明 らかにする手 段 を提 供 するものである。水 銀 に関 する水 俣 条 約 が発 効 すると各 締 約 国 での水 銀 排 出 削 減 対 策 が進 んでいくと考 えられる。現 在 、条 約 暫 定 事 務 局 を中 心 に、水 銀 の全 球 モニタリング計 画 の検 討 が進 められているところであるが、本 研 究 成 果 により、例 えば排 出 削 減 対 策 が、曝 露 媒 体 にどのような時 間 スケール によって、また程 度 をもって応 答 するかを予 測 することが可 能 となると考 えられ、条 約 に基 づく排 出 対 策 の効 果 予 測 と水 銀 曝 露 量 削 減 への程 度 に関 する推 定 を与 えることによって、条 約 の第 22条 に基 づく有 効 性 評 価 の実 施 などの環 境 政 策 に貢 献 できると考 える。 また、同 じく水 俣 条 約 の第 19条 で、環 境 中 の水 銀 循 環 における反 応 機 構 の解 明 および発 生 源 の識 別 を可 能 にすることができる指 標 開 発 という記 述 があり、本 研 究 で開 発 した分 析 技 術 あるいは知 見 を活 用 することにより、 環 境 中 の水 銀 発 生 源 の識 別 を可 能 とする方 法 あるいは方 法 の開 発 の基 礎 的 知 見 として利 用 されることが見 込 まれる。 これまでに定 量 が困 難 であった極 低 濃 度 の海 水 中 溶 存 態 メチル水 銀 と粒 子 態 メチル水 銀 の検 出 限 界 濃 度 の 向 上 を果 たした。これにより、今 後 の海 洋 モニタリングにおいて利 用 可 能 な分 析 手 法 を提 供 することが出 来 ると 見 込 まれる。また、東 シナ海 における海 水 、プランクトン、魚 類 の水 銀 に関 する広 範 なデータを取 得 しており、これ ら東 アジア域 における行 政 における種 々の検 討 において基 礎 データとして活 用 されることが見 込 まれる。東 シナ 海 全 域 の海 面 からの水 銀 放 出 量 もまた、東 アジア域 における水 銀 観 測 の今 後 の設 計 において重 要 な基 礎 情 報 となり、有 効 性 評 価 の実 施 において貢 献 できると考 える。 測 定 報 告 値 の少 ない日 本 海 側 における大 気 中 水 銀 の形 態 別 連 続 観 測 値 、粒 子 状 水 銀 の粒 径 別 観 測 値 、降 水 に伴 う沈 着 観 測 値 は貴 重 な観 測 データであり、行 政 における観 測 データを補 完 し、また通 常 の観 測 では得 ら れない粒 径 別 データなどの基 礎 的 観 測 値 として、行 政 における活 用 が見 込 まれる。 6.研 究 成 果 の主 な発 表 状 況(※別 添 .報 告 書 作 成 要 領 参 照 ) (1)主 な誌 上 発 表 <査 読 付 き論 文 >

1) K. MARUMOTO, A. TAKEUCHI, S. IMAI, H. KODAMATANI and N. SUZUKI: Geochem. J., Accepted, Mercury evasion fluxes from sea surfaces of the Tsushima Strait and Kuroshio Current in the East China Sea. <査 読 付 論 文 に準 ずる成 果 発 表 > 特 に記 載 すべき事 項 はない (2)主 な口 頭 発 表 (学 会 等 ) 1) 河 合 徹 、櫻 井 健 郎 、鈴 木 規 之 :第 24回 環 境 化 学 討 論 会 (2015)「水 銀 の全 球 多 媒 体 モデルの構 築 と地 球 規 模 の動 態 予 測 」 2) 櫻 井 健 郎 、河 合 徹 、鈴 木 規 之 :第 25回 環 境 化 学 討 論 会 (2016)「水 生 生 物 へのメチル水 銀 蓄 積 経 路 の移

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3) 河 合 徹 、櫻 井 健 郎 、鈴 木 規 之 :第 25回 環 境 化 学 討 論 会 (2016)「全 球 多 媒 体 モデルを用 いた水 銀 の海 洋 生 物 への移 行 予 測 」

4) 河 合 徹 :第 25回 環 境 化 学 討 論 会 自 由 集 会 (2016)「水 銀 の地 球 規 模 動 態 モデルの開 発 ~水 銀 に関 する水 俣 条 約 の有 効 性 評 価 に向 けて~」

5) T. Kawai, T. Sakurai, N. Suzuki: 2nd International Forum on Sustainable in ASIA (2nd NIES International Forum), Bali, Indonesia, 2016.“Development of a New Global Multimedia Model for Mercury”

6) 河 合 徹 、櫻 井 健 郎 、鈴 木 規 之 :第 32回 環 境 研 究 所 交 流 シンポジウム「水 銀 に関 する水 俣 条 約 の有 効 性 評 価 に向 けた全 球 多 媒 体 モデルの構 築 」

7) 河 合 徹 、櫻 井 健 郎 、鈴 木 規 之 :第 26回 環 境 化 学 討 論 会 (2017)「全 球 多 媒 体 モデルを用 いた水 銀 の発 生 源 寄 与 率 解 析 」(アブストラクト提 出 済 )

8) T. Kawai, T. Sakurai, N. Suzuki: 13th International Conference on Mercury as a Global Pollutant (ICMGP2017), Rhode Island, USA, 2017.“Assessing mercury biogeochemical cycles in the global ocean using a 3D dynamic multimedia model”(アブストラクト受 理 済 )

9) 柴 田 康 行 、武 内 章 記 、山 川 茜 :日 本 分 析 化 学 会 第 75回 分 析 化 学 討 論 会 (2015)「水 銀 同 位 体 に認 められ る質 量 非 依 存 性 分 別 MIFと環 境 動 態 研 究 への応 用 」

10) Akane Yamakawa, Yasuyuki Shibata, Akinori Takeuchi:12th International Conference on Mercury as a Global Pollutant(2015)「Hg isotope determination for Human Hair, CRM No.13 at NIES」

11) 武 内 章 記 、山 川 茜 、末 木 幸 世 、柴 田 康 行 、野 田 明 :第 24回 環 境 化 学 討 論 会 (2015)「日 本 近 海 とインド洋 中 深 層 におけるメチル水 銀 の生 成 」

12) 武 内 章 記 :2015年 度 日 本 地 球 化 学 会 年 会 (2015)「海 洋 環 境 における水 銀 の形 態 変 化 と生 物 移 行 」 13) Akinori Takeuchi, Toru Kawai, Takeo Sakurai, Tatsuya Hattori, Noriyuki Suzuki: Regional Workshop of

Monitoring of Mercury under the Minamata Convention(2017)Development of Global Multimedia Fate Model for Mercury & Other Related Hg Projects in Japan

14) 武 内 章 記 、森 敬 介 :第 64回 日 本 生 態 学 会 大 会 (2017)水 俣 湾 に生 息 する魚 類 の餌 選 好 性 による水 銀 同 位 体 比 変 動 15) 丸 本 幸 治 、今 井 祥 子 :日 本 海 洋 学 会 2015年 度 春 季 大 会 (2015)「対 馬 海 峡 における海 水 中 の総 水 銀 及 び メチル水 銀 の濃 度 分 布 」 16) 今 井 祥 子 、丸 本 幸 治 :平 成 27年 度 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2015)「瀬 戸 内 海 及 び対 馬 海 峡 におけるプラン クトン中 総 水 銀 濃 度 」

17) K. MARUMOTO, S. IMAI : The 12th International conference on mercury as a global

pollutant(ICMGP2015), Jeju, Korea, 2015“Observation of dissolved gaseous mercury and mercury evasion flux in surface seawater of some sea areas in western Japan.”

18) S. IMAI, K. MARUMOTO, K. MORI : The 12th International conference on mercury as a global pollutant (ICMGP2015), Jeju, Korea, 2015“Mercury uptake in breeding red spotted grouper (Epinephelus akaara) and devil stinger (Inimicus japonicus).”

19) 丸 本 幸 治 、今 井 祥 子 :日 本 海 洋 学 会 2016年 度 春 季 大 会 (2016)「対 馬 海 峡 における海 水 中 ガス状 水 銀 の 観 測 と水 銀 放 出 フラックスの推 定 」

20) 今 井 祥 子 、丸 本 幸 治 :平 成 28年 度 日 本 水 産 学 会 春 季 大 会 (2016)「対 馬 海 峡 における生 物 中 総 水 銀 濃 度 と窒 素 安 定 同 位 体 比 の関 係 」

21) K. MARUMOTO, S. IMAI : The 26th Goldschmidt Conference, Yokohama, Japan, 2016“Vertical profile of mono- methyl mercury in seawater of the Genkai Sea, Japan.”

22) 丸 本 幸 治 、武 内 章 記 、児 玉 谷 仁 、今 井 祥 子 :第 25回 環 境 化 学 討 論 会 (2016)「東 シナ海 における海 面 から の水 銀 放 出 フラックスの推 定 」 23) 今 井 祥 子 、丸 本 幸 治 :第 25回 環 境 化 学 討 論 会 (2016)「対 馬 海 峡 における海 洋 生 物 中 水 銀 モニタリング調 査 」 24) 丸 本 幸 治 、武 内 章 記 、児 玉 谷 仁 、今 井 祥 子 、小 畑 元 、張 勁 :2016年 度 地 球 化 学 会 第 63回 年 会 「東 シナ海 黒 潮 海 流 域 における海 水 中 水 銀 の形 態 別 濃 度 とその鉛 直 分 布 」 25) 丸 本 幸 治 、武 内 章 記 :第 26回 環 境 化 学 討 論 会 (2017)「日 本 近 海 における海 水 中 メチル水 銀 の濃 度 、形 態 、 鉛 直 分 布 」(アブストラクト提 出 済 み)

26) N. Fukuzaki, N. Suzuki, Y. Shibata and K. Marumoto:Observations of Atmospheric Mercury in

Kashiwazaki City in Japan during Winter;Abstract, 12th International Conference on Mercury as a Global Pollutants, Jeju, Korea, 2015-6-14/19, 186, Jun. 2015.

(13)

境 学 会 年 会 講 演 要 旨 集 ,166-167,2015,9. 28) 福 崎 紀 夫 ,鈴 木 規 之 ,柴 田 康 之 ,丸 本 幸 治 :柏 崎 地 域 における大 気 中 水 銀 の動 態 観 測 (第 2報 );第 57 回 大 気 環 境 学 会 年 会 講 演 要 旨 集 ,214,2016,9. 7.研 究 者 略 歴 課 題 代 表 者 :鈴 木 規 之 東 京 大 学 工 学 系 研 究 科 修 士 課 程 修 了 、博 士 (工 学 )、現 在 、国 立 環 境 研 究 所 環 境 リスク・健 康 研 究 セ ンター・センター長 研 究 分 担 者 1) 櫻 井 健 郎 東 京 大 学 大 学 院 工 学 系 研 究 科 博 士 課 程 修 了 、博 士 (工 学 )、現 在 、国 立 環 境 研 究 所 環 境 リスク・健 康 研 究 センターリスク管 理 戦 略 研 究 室 長 2) 高 見 昭 憲 京 都 大 学 工 学 部 卒 業 、オックスフォード大 学 大 学 院 博 士 課 程 (化 学 )修 了 、博 士 (D.Phil.)、現 在 、国 立 環 境 研 究 所 ・地 域 環 境 研 究 センター・センター長 3) 柴 田 康 行 東 京 大 学 理 学 部 卒 業 、国 立 環 境 研 究 所 フェロー 4) 武 内 章 記 ワシントン州 立 大 学 理 学 部 卒 業 、国 立 環 境 研 究 所 研 究 員 5) 丸 本 幸 治 広 島 大 学 総 合 科 学 部 卒 業 、電 力 中 央 研 究 所 主 任 研 究 員 、現 在 、国 立 水 俣 病 総 合 研 究 センター環 境 化 学 研 究 室 長 6) 福 崎 紀 夫 新 潟 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 化 学 専 攻 修 了 、現 在 、新 潟 工 科 大 学 教 授

(14)

5-1405 水銀の全球多媒体モデル構築と海洋生物への移行予測に関する研究 (1)水銀の全球多媒体モデルおよび海洋生物移行モデルの構築 国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター センター長 鈴木 規之 環境リスク・健康研究センター リスク管理戦略研究室 櫻井 健郎 地域環境研究センター センター長 高見 昭憲 <研究協力者> 環境リスク・健康研究センター リスク管理戦略研究室 河合 徹 平成26(開始年度)~28年度累計予算額:30,653千円(うち平成28年度:10,019千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 水銀の全球多媒体動態を記述するモデル(FATE-Hg)を構築し、遠洋海域での生物移行モデル を開発した。水銀の全球多媒体モデル(FATE-Hg)の構築では、モデルコードの開発、入力デー タの整備、モデルパラメーターの検討を行い、開発したモデルを検証した。FATE-Hgは大気-海洋-底質-陸域-海洋生物に亘る水銀の生物地球化学的物質循環を推定する。大気 -海洋結合化学輸送モ デルを土台とし、これに形態変化、媒体間輸送、生物移行等の、大気 -海洋-底質-海洋生物におけ る水銀プロセスを導入した。FATE-Hgを用いて10年間のシミュレーションを実施し、得られた結 果を検証した。モデル検証を行うために、海洋上表層大気中のガス状元素水銀濃度、海水中の各 形体形態別の水銀濃度に関するモニタリングデータを整理し、データベースを構築した。この内、 遠洋広域に亘るデータ数の多い、大気と海洋表層における元素水銀濃度を検証した。先行研究と 比較し、濃度レベル、全球分布、季節性ともに比較的良好な検証結果が得られた。遠洋海域での 水銀の海洋生物移行モデルは、モノメチル水銀( MMHg)を対象に、魚体における生理学的エネ ルギー収支モデルとMMHgマスバランスモデルを結合して構築した。モデルパラメーターは、文 献および他サブテーマの結果を参照して設定した。生理学的エネルギー収支について、既往知見 と矛盾しない推定結果が得られた。また、魚体中の MMHg量は時間とともに漸増し、取り込み経 路は大部分(>99%)が食餌であると予測された。マグロにおける5歳時点の生物増幅係数は5.6と 予測された。遠洋海域における水生生物中の文献実測値と本研究でのモデル予測とを比較してモ デルを検証した。FATE-Hgで採用されている食物網蓄積係数の値は、マグロに至る食物連鎖にお いて生物移行動力学モデルにより推定された生物増幅係数の幾何平均値と近く、異なった手法に よるモデル化の結果からその妥当性を確認できた。 [キーワード] メチル水銀、多媒体、動態モデル、生物蓄積

(15)

1.はじめに 水銀に関する水俣条約(水銀条約)の採択により、各国で排出削減対策が講じられていくこと になる。水銀は元素状、酸化態、有機態の化学形態をとりながら、大気、海洋、陸域、底質など 複数の環境媒体(多媒体)間を移動し、公衆への曝露経路となる遠洋魚に到達する 。水銀条約の 有効性を評価するために、このような諸過程を包括的に考慮し、広域多媒体に亘って信頼できる 動態予測を行えるモデルが求められている。全球での水銀の 動態予測について、大気における輸 送や形態変化の理解は比較的進んでいるものの、海洋を含む多媒体でのモデル研究は限られてい る1)。また、現行の広域水銀モデルでは、海洋大循環による長距離輸送、メチル水銀の生成、マグ ロ等の高次捕食者を含む海洋生物へのメチル水銀の移行が取り扱われていない。水銀動態の把握、 予測、およびそれに基づく人への水銀曝露の主たる関心の一つは、海洋生物からのメチル水銀の 摂取である。メチル水銀の水生生物への移行動力学については、淡水魚を中心に研究が進められ てきているが、濃度やその動力学また関連する生理学的パラメーターの観察や実験が困難である 外洋の大型水生動物については、依然として不明な点が多く2)、検討が求められている。このよう な背景を踏まえて、本研究では、全球規模で輸送と多媒体の動態過程を包括的に扱う新たな水銀 の全球多媒体動態と海洋生物への移行予測の研究を行う。 2.研究開発目的 POPsの全球多媒体モデル FATE3, 4)に水銀動態諸過程を導入して水銀の全球多媒体動態を記述す る新たなモデル(FATE-Hg)を構築する。また、サブテーマ(2)、(3)、(4)と連携して 遠洋海域での生物移行モデルを開発し、全球多媒体モデルに統合する。これによって、水銀条約 の発効に伴う排出量の削減による、各環境媒体や海洋生物中の水銀濃度への応答を予測可能な技 術的手段を提供すること目的とする。 3.研究開発方法 (1)全球多媒体モデル(FATE-Hg)の構築では、モデルコードの開発、入力データの整備、モ デルパラメーターの検討を行い、開発したモデルを検証した。1)~8)に FATE-Hgの概要とモ デルプロセスの詳細、9)に入力データ、10)に解析条件等を記した。モデルパラメーターの 検討結果と検証結果については4に記す。また、(2)に遠洋海域での生物移行モデルの構築に ついて述べた。 (1)全球多媒体モデルの構築 1)概要 全球多媒体モデルFATE-Hgは排出量、気候データ、反応物質濃度、衛星データ等を入力データと して用い、大気-陸域-海洋-底質-海洋生物に亘る水銀の生物地球化学的物質循環を推定する全球多 媒体モデルである[図(1)-1]。移流拡散による長距離越境輸送を計算する、大気-海洋結合化学輸送 モデルを土台とし、これに、衛星データを利用した低 -高次生態系モデルと、図(1)-1に記す大気-海洋-底質-海洋生物の水銀プロセスを導入した。大気-雲水における形態変化、揮発と拡散による 大気-海洋間の元素水銀の輸送、沈着による大気から海洋への輸送、海水と底質中における形態変 化、拡散と再懸濁による海洋 -底質間の輸送、プランクトン等低次消費者 (粒子状有機物;POM)

(16)

への生物濃縮と、その後の生物ポンプに伴う鉛直輸送、 POMから魚類等の高次消費者への食物網 蓄積が考慮されている。大気に加え、深海まで含めた海洋に おける物理輸送を考慮していること、 有機水銀を陽的に取り扱っていること、高次消費者まで含めた海洋生物への生物移行を取り扱っ ていることが本モデルの特徴であり、類似の先行研究に対する優位性である。以下、化学輸送モ デル、生態系モデル、および上記の各水銀プロセスの概要を記す。 図(1)-1 FATE-Hgの入力データの種類(左)と、考慮されている大気-海洋-底質-海洋生物におけ る水銀プロセス(右) 2)化学輸送モデル

大気と海洋のGCM (General circulation model)より計算された風速、流速等の物理データを入力デ ータとして用い[9)参照]、球座標における移流拡散方程式[式(1)-1]と連続式[式(1)-2]を解くこと により、水銀の3次元非定常輸送を計算する。 C C S K z q w q v cos cos 1 q u cos 1 t q                          (1)-1 z wρ φ φvρ cos φ cos 1 λ uρ φ cos 1 = t ρ              (1)-2 ここに、ρは流体の密度、qは水銀の混合比、u、v、w風速/流速の東西、南北、鉛直成分、φ、λは 経緯度と経度、γは地球の直径、zは鉛直次元、KCは乱流拡散項、SCはソースシンク項である。移 流項[式(1)-1右辺1-3項]を計算する移流スキームには4次精度の修正Bottスキーム4)を用いた。式 (1)-1に加え、式(1)-2を連立して解くことにより、内挿 /外挿した物理データを用いた場合にもトレ ーサーの質量が保存される。KCは勾配拡散型とし、乱流拡散係数を計算する境界スキームには、

(17)

大気はYSU-PBL (Yonsei University PBL)5)、海洋はKPP (non local K Profile Parameterization)6)を用い た。座標系と空間解像度は物理データを計算する GCM[9)参照]と同一とした。すなわち、大気 は水平0.75°、鉛直60層(σ=1~0)、海洋は水平1°、鉛直50層(z=0~5500 m)である。図(1)-2は人 為的に排出されたガス状元素水銀と酸化態水銀の大気輸送を示した計算結果の一例である。元素 水銀の大気中における滞留時間は1年程度と長く、数週間で半球、数か月で全球に拡散する。一方、 酸化態水銀は溶解性が高く、比較的排出源近傍で雲水に溶解し、湿性沈着により海 /陸面へと輸送 されている。 図(1)-2 FATE-Hgで計算された人為起源の(a)元素水銀と(b)酸化態水銀の大気輸送の様子 (計算開始から1、2、3、4週間後の結果) 3)海洋生態系モデル 低次生態系モデルは、衛星データ[9)参照]を利用し、POMの濃度(バイオマス)、生物ポンプ に伴う除去フラックス、海水中の再石灰化フラックス、堆積物への埋没フラックス、堆積物から の再石灰化フラックスを計算する。海洋表層の粒子状有機炭素(POC)濃度は特定波長のスペクト ル反射と高い相関があることが知られている。これを利用した経験モデルを用いて混合層内の POC濃度を計算し、混合層以深のバックグラウンド濃度には 15 mgC/m3を設定した7)。POCからPOM へ変換する際は、レッドフィールド比より、湿重量ベースで、POM中の84%がPOCであると仮定し た。POMフラックスは、POMの有光層からの除去フラックス8)、無次元フラックスプロファイル9) 堆積物への埋没効率8)に関する経験モデルより推定した10)。中-高次生態系モデルは衛星データから 推定可能な基礎生産量と海表面温度のみを用い、代謝理論に基づき、魚類等中 -高次消費者のサイ ズクラス毎の存在量と栄養構造11)、及び死骸の除去フラックスを計算する。この詳細は引用文献 に記されている。基礎生産モデルにはCbPM (Carbon-based production model)12)を用い、死骸の除去 フラックスは、代謝理論に基づく、死亡率に関する経験モデル13)より推定した。一例として、図(1)-3 に表層POM濃度と魚類の存在量の推定結果を示す。

(18)

図(1)-3 海洋生態系モデルより推定された(a)表層粒子状有機物(POM)濃度と、(b)全魚類の存在量 (2010年の年平均値) 4)大気-雲水中の形態変化 大気-雲水では、反応物質の大気-雲水間の平衡分配(A1-4)、水銀の大気-雲水間の平衡分配(A5-7)、 反応物質の雲水中の電離平衡(A8-10)、水銀の雲水中の電離平衡(A11-14)、水銀の大気中にお ける形態変化(酸化; A15-19)、水銀の雲水中における形態変化(酸化還元; A20-25)、水銀雲水 中粒子への分配(A26)が計算される[表(1)-1]。各化学反応は既往のプロセスモデル14)を参照し、 平衡/速度定数は表中引用文献より取得した。水銀2形態(例えばHg0とHgII)間の形態変化[式(1)-3] の解析解は式(1)-4、(1)-5となる。 ] Hg [ k ] Hg [ k dt ] Hg [ d dt ] Hg [ d II II 0 0 II 0      (1)-3

 

   

Hg Hg

1 exp

k k

t

 

Hg exp

k k

t

k k k Hg 0t IIt 0 II 0t 0 II II 0 II t t 0     (1)-4

       

IIt t 0t IIt 0t t Hg Hg Hg Hg      (1)-5 ここに、k0とkIIは速度定数、[Hg0]と[HgII]はHg0とHgIIの濃度である。水銀濃度が反応物質濃度に比 べて十分に低いため、形態変化の計算において反応物質濃度は変化しないと仮定できる。この場 合、大気-雲水中の形態変化はこの解析解を用いて計算できる。このような解析的な手法を用いる ことにより、計算コストが大きく削減される。計算に必要な、雲水量と反応物質濃度は入力デー タとして与え[9)参照]、時間積分間隔は1時間とした。 表(1)-1 FATE-Hgで考慮されている大気における水銀と反応物質の平衡分配と形態変化 平衡分配/化学反応 平衡/速度定数 出典 A1 O3(g)a ⇔ O3(d)c 1.2×10 -2 M atm-1 15) A2 HCl(g)a ⇔ HCl(d)c 1.1 M atm-1 15) A3 SO2(g)a ⇔ SO2(d)c 1.23 M atm-1 15) A4 OH(g)a ⇔ OH(d)c 25 M atm-1 15)

(19)

A5 Hg0(g)a ⇔ Hg0(d)c 0.11 M atm-1 14) A6 HgCl2(g)a ⇔ HgCl2(d)c 1.4×10

6

M atm-1 14) A7 Hg(OH)2(g)a ⇔ Hg(OH)2(d)c 1.2×104 M atm-1 14) A8 HCl(d)c ⇔ H+(d)c + Cl-(d)c 1.7×106 M 14) A9 SO2(d)c + H2O ⇔ HSO3-(d)c + H+(d)c 1.23×10-2 M 15) A10 HSO3-(d)c ⇔ SO32-(d)c + H+(d)c 6.6×10-8 M 15) A11 HgCl2(d)c ⇔ Hg 2+ (d)c + 2Cl -(d)c 10 -14 M2 14) A12 Hg(OH)2(d)c ⇔ Hg 2+ (d)c + 2OH(d)c 10 -22 M2 14) A13 Hg2+(d)c + SO32-(d)c ⇔ HgSO3(d)c 2.1×1013 M -1 14)

A14 HgSO3(d)c + SO32-(d)c ⇔ Hg(SO3)22-(d)c 1.0×1010 M

-1 14)

A15 Hg0(g)a + O3(g)a → HgO(g)a 3×10-20 cm3 molec-1 s-1 14) A16 Hg0(g)a + HCl(g)a → HgCl2(g)a 10-19 cm3 molec-1 s-1 14) A17 Hg0(g)a + H2O2(g)a → Hg(OH)2(g)a 8.5×10-19 cm3 molec-1 s-1 14) A18 Hg0(g)a + Cl2(g)a → HgCl2(g)a 2.6×10-18 cm3 molec-1 s-1 14) A19 Hg0(g)a + OH(g)a → Hg(OH)2(g)a 8.7×10-14 cm3 molec-1 s-1 14) A20 Hg0(d)c + O3(d)c → Hg2+(d)c 4.7×107 M-1 s-1 14) A21 Hg0(d)c + OH(d)c → Hg 2+ (d)c 2×10 9 M-1 s-1 14) A22 HgSO3(d)c → Hg0(d)c 0.0106 s-1 14) A23 HgII(d)c + HO2(d)c → Hg0(d)c 1.7×104 M-1 s-1 14) A24 Hg0(d)c + HOCl(d)c → Hg2+(d)c 2.09×106 M-1 s-1 14) A25 Hg0(d)c + OCl-(d)c → Hg2+(d)c 1.99×106 M-1 s-1 14) A26 HgII(d)c ⇔ Hg II (p)c 34 L g -1 14) 注)(g)はガス状形態、(d)は溶存態、(p)は粒子関連形態である。下付き文字のaは大気中、cは雲水 中を表す。HgIIは全2価水銀[Hg2+、HgCl

2、Hg(OH)2、HgSO3、Hg(SO3)2 2-]である。 5)大気-海洋間のガス交換 元素水銀(Hg0)は大気-海洋間において、界面での揮発と、界面付近での分子拡散と乱流拡散に よって双方向に輸送される。Hg0の海洋から大気へのフラックス(F OA; ng/m 2 /s)は輸送抵抗型の定 式化を行い、下記のガス交換モデルより計算した。

W A

T OA h C H C F   (1)-6 W A T h H h 1 h 1 (1)-7 ここに、hT (m/s)は大気-海洋合成輸送速度、 HはHg0の無次元ヘンリー定数、CA (ng/m3)は大気参照 高度におけるガス状Hg0濃度、CW (ng/m3)は海洋参照深度における溶存態Hg0濃度、hA (m/s)は大気 側の輸送速度、hW (m/s)は海洋側の輸送速度である。 Hには温度依存性を考慮し、

(20)

1551 . 0 T 0074 . 0 H  (1)-8 より計算した16)。ここに、T (°C)は海表面温度である。界面近傍における分子拡散によるスカラー 物質の輸送抵抗は摩擦速度に依存し、実験的にモデル化する必要がある。 hWについての実験式は 多数報告されている。この内、 Liss and Merlivat (1986)17)による実験式[式(1)-9]を規定とした。

2/3 Hg 10 7 W 4.72 10 U Sc /600 h     (U 3.6m/s 10 )

0.5 Hg 10 6 W 7.78 10 U 3.4 Sc /600 h      (U 3.6m/s 10 ) (1)-9 ここに、U10 (m/s)は海上10 mのスカラー風速、ScHgは水銀のシュミット数である。hAは大気安定度 と参照高度に依存するため、モニン・オブコフ相似則 (MOST)を用いて算出した。スカラー粗度 の算出にはBrutseart (1982)18)による半理論式を用い、MOSTの数値解法にはルイススキーム19)を用 いた。 6)乾性・湿性沈着 湿性沈着では、雲水中の水銀の輸送と、雲下のガス状水銀の掃気(scavenging)を考慮した。降 雨に伴う雲水中と雲下の水銀濃度の時間変化は、

IC P PC

IC IC IC C R M dt dC (1)-10

c2

P 1 BC BC BC BC R c C dt dC (1)-11 より計算される。ここに、CIC (ng Hg/m3)は雲水中の溶存態または粒子関連形態の 水銀[Hg0(d)c、 HgCl2(d)c、Hg(OH)2(d)c、Hg2+(d)c、HgSO3(d)c、Hg(SO)32-(d)c、HgII(p)c]濃度、λIC (1/s)は降雨による 雲水の回転率(turnover rate)、RP (L/m2/s)は降雨強度、MPC (L/m2)は降雨に関与する雲水量、CBC (ng Hg/m3)は雲下のガス状 または粒子関連形態の 水銀[HgO(g)a、HgCl2(g)a、Hg(OH)2(g)a、HgII(p)a]濃度、 λBC (1/s)は降雨によるガス状水銀の掃気率、 c1、c2は物質固有の無次元定数である。ガス状水銀の 掃気はHgII(g)a、HgII(p)aのみ考慮し、HgII(g)aに対してはc1=0.3924、c

2=0.6、HgII(p)aに対しては、 c1=0.0684、c2=1.33と設定した。湿性沈着フラックスは降雨に関与する雲が存在するグリッド以下 の水銀減少率として計算される。 乾性沈着の計算には粒径解像モデルを用いた。乾性沈着フラックス [Fdry (ng Hg/m2/s)]は

   

  v r C r dr Fdry P P (1)-12

参照

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