• 検索結果がありません。

Microsoft Word - 意思決定型授業で公民的資質の基礎を育てる

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Microsoft Word - 意思決定型授業で公民的資質の基礎を育てる"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

意思決定型授業で公民的資質の基礎を育てる

~『3人の武将と全国統一』の2つの実践を通して~ 江南市立門弟山小学校 教諭 高 橋 宏 滋 Ⅰ 意思決定型授業の必要性 1 公民的資質の基礎 社会科の目標は,「公民的資質の基礎」の育成である。では,「公民的資質の基礎」とは何か。このことについ ては,『小学校学習指導要領解説社会編』に,次のように記述されている。 公民的資質とは,国際社会に生きる民主的,平和的な国家・社会の形成者,すなわち市民・国民として行動す る上で必要とされる資質を意味している。したがって,公民的資質は,民主的,平和的な国家・社会の形成者と しての自覚をもち,自他の人格を互いに尊重し合うこと,社会的義務や責任を果たそうとすること,社会生活の 様々な場面で多面的に考えたり,公正に判断したりすることなどの態度や能力であると考えられる。こうした公 民的資質は,これからの国際社会において,日本人として主体的,創造的に生きていくために必要な資質である。 ここで着目すべきは,「民主的,平和的な国家・社会の形成者」に必要な資質と明示している点である。国家・ 社会の形成者は,単なる構成員とは違う。形成者は,自らの意思で,よりよい社会を築き上げようとする主体でな ければならない。今の社会に上手く適応して生きていくだけでは,形成者としては不十分なのである。 その形成者に必要な態度や能力については,先の引用の2文目後半以降に書かれている。すなわち,①自他の人 格を互いに尊重し合うこと②社会的義務や責任を果たそうとすること③社会生活の様々な場面で多面的に考えた り,公正に判断したりすることの3つである。これら3つの態度や能力を育てることが,公民的資質の基礎の育成, 言いかえれば,社会科学習の目標の達成につながるのである。 2 意思決定型のねらい 社会科の授業を,大きく次の3つに分類する。 A 知識理解型 B 疑問追究型 C 意思決定型 Aの知識理解型とは,例えば,「早く火を消すための消防署の工夫を調べよう」など,知識を獲得することが目 標とされる型の授業である。 Bの疑問追究型とは,例えば,「駅前商店街がシャッター通りになったのはなぜだろう」など,疑問を解き明か すことが目標とされる型の授業である。こちらはAと異なり,どちらかと言えば思考力を育成することに重点が置 かれている。しかし,最終的には一つの認識にたどり着くことで授業の目標が達成されるという意味では,知識理 解型と同じである。 A・B二つの型は,最も一般的に行われている社会科の授業だろう。これらの授業によって子どもが獲得するの は,社会認識である。 社会科学習において,社会認識の形成は重要な要素である。確かな社会認識の形成なくして,社会科学習とは呼べ ない。しかし,それだけでいいかと言えば,そうではない。認識は,それを実生活の中で活用できたときにこそ意 味をもつからである。 そこで,Cの意思決定型の授業について説明する。意思決定型とは,例えば「新しい環境センターをどこに造る べきか」というように,問題に対する最もふさわしい解決策を考え,意思決定することを求める授業である。A・ Bが社会認識の形成を目標にしているのに対し,意思決定型は,獲得した社会認識を活用しながら価値判断力,意 思決定力を育成することが目標である。目の前の問題を解決するために,様々な情報を獲得することを通して社会

(2)

認識を育み,最善の解決策を価値判断,意思決定する授業なのである。 A・BとCとの違いは,先の項で述べた社会の構成員と形成者の違いにつながっている。すなわち,A・Bの授 業では,社会の仕組みや人の営みを学ぶことで,社会に適応できる力を育てることができる。つまり,よりよい社 会の構成員の育成が可能だ。しかし,今の社会を改善し,新しい暮らしを創造する力を育成するという意味では不 十分である。社会の形成者としての資質を育てる授業にはなっていないのである。現在,多くの教室で行われてい るA・Bの型の授業が公民的資質の基礎の育成に直結しなかった理由がここにある。認識は育てたが,それを使い こなす力を育てなかったのである。 一方,Cは,現実の社会に見られるような問題解決場面に必要な価値判断力や意思決定力,つまり認識を使いこ なす力を育てる授業である。言いかえれば,公民的資質の基礎を培い,社会の形成者を育成する授業なのである。 だが,全ての社会科授業を意思決定型にせよと主張しているのではない。知識理解型・疑問追究型・意思決定型 の3つを上手く組み合わせる中で,社会の形成者に必要な態度や能力を育てることが重要である。 3 意思決定型の特色 意思決定型の授業は,課題の設定に大きな特色がある。課題は基本的に次のような構造になっている。 今,○○○○が問題となっている。この問題に対して,あなたは□□の立場として,どのような解決策を選択 するか。 先に示した環境センターの例も同じ構造である。つまり,「今,△市で新しい環境センター建設の問題が起きて いる。この問題に対して,もしあなたが市長なら,どの候補地を最善策として選択しますか。」ということだ。 いくつかのポイントを示す ポイント1 仮定であること 「今○○という問題に直面している」という仮定をするのである。現実の社会で起きている問題である必要はな い。あくまで仮定である。もちろん現実の問題を取り上げる場合もある。しかし,それを子どもが実際に解決する ことは不可能だ。よって,子どもが考えた解決策も仮定に過ぎない。 ポイント2 立場を設定すること 現実の問題が解決困難なのは,立場によって最善策が異なるからだ。異なった立場で各各が主張し合うために, 議論が空転する。そこで,誰の立場で考えるのかを設定する。この立場は,高所から全体を俯瞰できる位置にある 人物であることが望ましい。 ポイント3 正解がないこと ほとんどの場合,解決策は一つではない。唯一の正解と呼べるものが見つからないのが現実である。あるのは, 現時点でのよりベターな選択である。そこで,正解のない問題を取り上げ,最善策の選択を子どもに求めるように する。価値判断,意思決定する力を育てることが目的なのであるから,正解は必要ないのである。 Ⅱ 研究実践 本研究では,平成 15 年度・17 年度に実施した,小学校6年社会科『3人の武将と全国統一』の2度の実践を取 り上げる。そして,二つを比較しながら,意思決定型授業における指導の工夫とその有効性について述べていく。

(3)

1 学習計画の比較 15 年度実践 17 年度実践 課題 今の日本の総理大臣を選ぶとしたら,三人の誰 に投票するか 課題 三人のうち,誰の家来として天下統一を目指す べきか 時 段 階 テーマ 学 習 活 動 時 段 階 テーマ 学 習 活 動 1 2 課題設定 意思決定① 情報収集① 三 人 の 業 績 を 調 べ よ う ○ 課題を設定する。 ○ 3人の業績を調べカ ードに記入する。 (KJ法) 1 2 課題設定 意思決定① 情報収集① 三人の 業績を 調べよ う ○ 課題を設定する。 ○ 3人の業績を調べ カードに記入する。 (KJ法) 3 情 報 の 分 析・整理 意思決定② 人 物 像 を 明 ら か に し よう ○ 業績を書いたカード を,「政治」「経済」 「軍事」「外交」「教 育・文化」の5項目で 分類し,比較すること で3人の人物像をつか む。 3 情 報 の 分 析・整理 人物像 を明ら かにし よう ○ 業績を書いたカー ドを,「政治」「経済」 「軍事」「外交」「教 育・文化」の5項目で 分類し,比較すること で3人の人物像をつ かむ。 4 5 情報収集② 意思決定③ さ ら に 情 報 を 集 め よ う ○ さらに情報を得る方 法を話し合う。 ○ 選んだ人物ごとに分 かれ,グループで調査 活動をする。 4 意思決定② 3人の 業績を 比較し よう ○ 意思決定表①を作 成し,3人を比較し ながら,誰の家来に なるべきかを決定す る。 6 意見づくり 情 報 を 交 流 し て 討 論 に 備 え よう ○ これまでに集めた情 報をもとに,討論に向 けて意見づくりをす る。 5 天下統一ゲ ーム 論戦で 天下統 一を目 指そう ○ 誰の家来になるべ きかについて,相手 と論戦しながら天下 統一を目指すゲーム をする。 7 討論 よ り よ い 日 本 を つ く る の は 誰か ○ 『今の日本の総理大 臣を選ぶなら三人の中 の誰に投票するか』 6 意思決定③ 討論 よりよ い日本 をつく るのは 誰か ○ 意思決定表②を作 成し,日本の将来を 見通して誰の家来と して天下統一を目指 すべきかを討論す る。 8 意思決定④ 振り返り 学 ん だ こ と を 振 り 返 ろう ○ これまでの学習を踏 まえて課題に対する自 分の考えを文章にまと める。同時に,今回の 学習での自分の成長を 振り返る。 7 意思決定④ 振り返り 学んだ ことを 振り返 ろう ○ これまでの学習を 踏まえて課題に対す る自分の考えを文章 にまとめる。

(4)

2 15 年度実践の経過 (1) 学習課題 今の日本の総理大臣を選ぶなら,3人の中の誰に投票するか。 この課題が,あり得ない仮定であることは言うまでもない。信長,秀吉,家康の3人から総理大臣を選ぶのは時 代を超越しているし,また,総理大臣を直接投票することもない。しかし,課題としては成立している。この課題 で,最もふさわしい総理大臣候補を検討することを通して,3人が天下統一に果たした役割,当時の時代背景など の事実がきちんと認識できればよいのである。 (2) 目 標 ア 信長,秀吉・家康の三人の業績に関心を持ち,その人物像を意欲的に明らかにしようとすることができる。 また,総理大臣を選ぶ活動を通して,日本の今に関心を持つことができる。 イ KJ法を使って三人の業績を分析し,それぞれの人物像を調べることができる。また,メールやアンケート を活用したり,新聞記事を読んだりして必要な情報を収集できる。 ウ 三人の業績をもとに,国家の指導者としの視点から三人の人物像をとらえることができる。 エ 三人の活躍により戦国の世が統一されたことが理解できる。 (3) 授業の経過 【第1・2時】課題設定・意思決定①・情報収集① ~3人の業績を調べよう~ まず,教科書の『3人の武将と全国統一』の単元を音読し,時代の全体像を把握した。 その後,教師側から次の課題を提示した。 『今の日本の総理大臣を選ぶなら3人の中の 誰に投票しますか?』 ここでの情報収集は,KJ法を使った。付箋紙を大量に用意し,3人の業績を1つ見つけるごとに,1枚の付箋 紙にその内容を記入させていくのである。児童には,「1人の人物につき最低 10 個は見つけましょう。」と呼び かけた。「1つ見つけるたびに付箋紙が1枚増える」ということが,児童にとっては喜びとなったようで,皆集中 して作業を進めた。 第1時での情報は,教科書と資料集のみである。まずは,教科書と資料集をすみずみまで読むことが大事である。 最初から大量の情報に出会うと,何が重要で何が些末なことなのかの見極めができなくなる。まずは教科書で基本 を押さえるのである。 第2時でも,付箋紙に業績を書き出す作業を続けた。この時間には,教科書と資料集に加えて,児童が家から持 ち寄った資料と,教師が用意した資料を用いて情報収集した。 【第3時】情報の整理・分析 意思決定② ~人物像を明らかにしよう~ 第3時には,児童が書き出した付箋紙を,グループで内容ごとに分類し,用紙に貼っていった。ここでは,政治, 経済,軍事,外交,教育・文化の5項目で分類させた。本来ならどのような項目で分類するかも考えさせるべきで ある。しかし今回は,児童がKJ法を初めて行うこともあり,方法を学ぶと いう意味で項目は教師が示した。 ここでのグループは,各班4人の生活班を使った。グループで3人の業績 を検討しながら分類,整理していくのである。児童は,付箋紙に書かれた業 績が,5つの項目のどこに分類されるかを話し合いながら作業を進めていっ た。グループで活動するのは,お互いの情報を共有するためである。また, 話し合いながら分類していくことで,付箋紙に書かれた内容を確認していく

(5)

という意味もある。 【児童のノートより】 織田信長: まず,政治を見てみる。これを見てみると,ざんこくといいことのさかいめくらいになっているの がわかる。これはまあまあだ。次に,経済を見てみると楽市・楽座で,経済がなりたっていると思う。 この楽市・楽座があるといいと思う。次に,軍事である。自分もびっくりするほど,火なわじゅうを 使うのがとくいだったと分かる。室町幕府や武田氏をほろぼしたことからすごいと分かる。最後に, 教育・文化である。これでは,キリスト教保護などで,選んだのである。これでいいと思った。 豊臣秀吉: 豊臣は,もと村人なので多少やさしい面もあると思うし,頭がいいから政治もちゃんとやってくれ るからです。信長はきしょうがあらいし,(すぐ流罪とかになりそう!!)政治もちゃんとやってくれ そうにないからです。家康は,政治はちゃんとやってくれそうだけど,家がいっつも赤字になりそう? だからです。 徳川家康: まず家康は江戸幕府を開いて政治をよくするのでいいと思う。次に家康は利益の大きい貿易の発展 に努めて外国との貿易をさかんにしようとしたものに,朱印状を与えるということは,家康は,貿易 をさかんにすることがいいことだと思っている証拠だから,家康にする。次に,家康は,信長のよう に性格があらくなくいい性格だから,外国のえらい人とうまくいくと思う。最後に家康は政治や経済 がうまかった。 【第4・5時】 情報収集②・意思決定③ ~さらに情報を集めよう~ 第4時には,さらに情報を集めるための方法を話し合った。児童からは,市の図書館,博物館,電話,メールな ど,さまざまな方法が出された。その中から,市の歴史民俗資料館へ出かけることと,博物館の学芸員などの専門 家にメールで質問すること,地域でのアンケート調査を実施することが決まった。アンケートは,授業後に時間外 の活動として行った。回答は合計 200 件ほど集まった。近所の家,同じ通学班の子の親が中心だったが,スーパー マーケットで調査した子もあった。 第5時には,アンケート結果を集約し,書かれていたことを皆で読み合った。集約した結果は,徳川家康が1位 であった。先の見えにくい不確実な現代の社会では,安定を求める傾向が強く,それが家康の得票に反映したのだ ろう。アンケートなどの新たな情報が加わった段階で,三度目の意思決定をさせた。 【第6時】 意見づくり ~討論に備えて情報を集めよう~ 第6時には,次時の討論に向けての意見づくりを行った。 最初に,これまでの情報を総合して個人でノートに意見を書いていった。各自の意見がおおよそまとまったとこ ろで,同じ人物を選んだ児童同士が集まり,情報の交流を行った。いわゆる作戦会議である。 ここでは,話し合いの中で,自分の根拠に新たな根拠を付け加えていくことがねらいである。同時に,同じ情報 を持った児童と出会うことで,自分の意見に自信を持つことにもつながる。さらに,情報を交流するためには,他 者への説明を繰り返し行うことになる。自分で声に出して説明すること(発信)で,認識がより確かになるという 効果もある。 【第7時】 討論 ~よりよい日本をつくるのは誰か~ 全体での討論でまず話題になったのは,信長の性格である。気性の激しさで増え続ける犯罪の防止に効果がある というのである。この時,校区周辺で不審者による事件が多発しており,児童にとって犯罪防止は最も身近な問題 だったからである。しかし,これには多くの反対意見があった。「厳しさだけでは国民に信頼されない」「厳しす ぎたために信長は部下の反乱を受けた」というのがその理由である。討論で話題になったのは,以下の内容である。 このように現代の問題と3人の人物像を関係付けながら討論は行われた。

(6)

信 長 秀 吉 家 康 ① 楽市楽座と景気回復 ② 関所の廃止と高速道路問題 ③ 激しい気性と犯罪防止・政治家の汚 職防止 ④ 神学校の建設と学力低下 ⑤ 刀狩りと犯罪防止 ⑥ 検地と脱税の防止 ⑦ 大阪城の建設と高い技術力 ⑧ 低い身分からの出世と国民の気持ちの 理解 ⑨ 二度の朝鮮出兵と北朝鮮問題 ⑩ ねばり強い性格と環境問題への 取り組み ⑪ 穏やか性格と消費税廃止 ⑫ 対オランダ貿易と外交のうまさ 【第8時】 意思決定④・学びの振り返り ~学んだことを振り返ろう~ 討論を経ての最終的な意思決定をさせた後,今回の学習で学んだ成果を文章記述によって振り返らせた。 今の日本の総理大臣を選ぶなら秀吉に投票する。以下その理由を述べる。まず秀吉は信長から受け継いだ全国統 一という夢をやりとげた。というのは,今の日本では国民が信用してくれるということであり,あとは行動力と決 断力さえあれば日本はうまくやっていける。秀吉はその2つの力を持っているので秀吉にした。次に秀吉は庶民の 気持ちを一番わかってくれると思う。それはもともと身分の低い武士の子に生まれてきたことや,刀狩りを行って 争いがおきないようにしたことからわかる。さらに秀吉は,その刀狩りで取り上げた武器は大仏づくりに使ってい て,庶民の利益のことも考えている。このようなやさしさ,行動力,決断力が今の日本に必要だと考えるから秀吉 に投票した。しかし,秀吉は,全国統一という夢をやりとげたにもかかわらず,朝鮮を2度もしんりゃくしようと よくばってしまった。そのことがなければ秀吉はもっとえらくなれたと思う。しかし,この根気強さも今の日本に 必要だと思う。 今回の授業で今の日本の総理大臣には次のような力が必要だとわかった。 まず秀吉のように失敗しても再度ちょうせんするような根気強さ。これは今の日本の経済をたてなおすのに必要だと 思う。この根気強さが今の日本には見られない。 次に信長のようなきびしさが必要であるといえる。犯罪をきびしくとりしまることができれば犯罪が減っていくだ ろう。しかし,きびしすぎてもいけないだろう。それはきびしすぎると国民に信用されなくなってしまうからである。 さらに必要とするのは,国民を思う気持ちだろう。秀吉のように,身分の低い武士の子に生まれてきたのなら庶民 の気持ちが1番わかるだろう。 以上のようなことからぼくが投票するのは,行動力と決断力,それを実行する根気強さを持っている人を選びたい。 今回の学習を通したぼくの成長を振り返ってみる。 はじめは,今の日本の問題はあまり自分には関係ないと思っていた。それと歴史にはあまり興味をもっていなくて, 社会はつまらないとおもっていました。 しかし,6年生になって,歴史上の人物の勉強をして,今の日本の問題もくわしく調べたりして,自分もできるこ とからやってみようと思うようになってきました。いままで社会はきらいな教科だったけど,6年生になって歴史の 勉強をしてからは社会が好きになりました。歴史だけではなく,今の日本のことにも興味を持つようになり,ニュー スや新聞などもよく見るようになりました。 今回の学習は,ぼくにとって,自分の育ってきた日本の問題を知り,歴史のことから日本の未来を考え,自分の国 のことを考えていくようになる第1歩だと思います。 この児童のまとめから,秀吉の業績や人柄と現代社会の問題を関係付けることによって,秀吉という人物につい ての認識を深めていることが読み取れる。また,刀狩りや朝鮮侵略などの認識を総合的に価値判断し,日本の将来 を見つめようとしている。さらに,国家の指導者に必要な資質を考え,秀吉が「行動力」「決断力」「根気強さ」 を備えた人物であると結論付け,総理大臣にふさわしい人物であると意思決定している。つまり,一つ一つバラバ ラであった秀吉の業績をつなぎ合わせることで新たな意味を獲得し,その意味を国家の指導者の資質という視点か ら捉え直すことで,より上位の概念にたどり着いているのである。この実践の成果をまとめてみる。

(7)

① 現代社会の問題と関係付けることで,三人の武将の業績の意味を認識した。 ② 日本の将来を考えるという有権者の立場に立つことで,人物の業績を総合化し,価値判断した。 ③ 国家の指導者に必要な資質を,より上位の概念でとらえ,意思決定した。 (4) 15 年度実践の問題点 この実践のポイントは,一つ一つバラバラな人物の業績を,総理大臣選出という視点を与えることで総合化して 価値判断し,そこで得られた認識をもとにより上位の概念を導き出して意思決定することにあった。総理大臣選出 という場面を設定することで,児童は様様な問題を総合化せざるを得なくなるという発想だったのだが,実際には ここに壁があった。場面を設定すれば総合化する思考が生まれるというのは早計であり,具体的な手立てが欠けて いたのである。そのために,人物の業績を並べていくことはできても,それを総合化して上位の概念にたどり着く ことができない児童もいたのである。この反省をふまえ,17 年度に再度実践を試みた。 3 17 年度実践の経過 (1) 課 題 3人のうち,誰の家来として天下統一を目指すべきか。 今回の課題は,もし自分が戦国武将ならという仮定である。戦国時代に自分の視点を移し,そこから日本の将来 を見据えて家来になるべき人物を選択するのである。 今回,15 年度実践の時のような現代社会との接点は設けなかった。それは,単に時間数の制約からであり,現代 社会との関係付けに問題があるととらえたからではない。 (2) 目 標 ア 信長,秀吉・家康の三人の業績に関心を持ち,その人物像を意欲的に明らかにしようとすることができる。 イ KJ法を使って三人の業績を分析し,それぞれの人物像を調べることができる。 ウ 三人の業績をもとに,国家の指導者としての視点から三人の人物像をとらえることができる。 エ 三人の活躍により戦国の世が統一されたことが理解できる。 (3) 授業の経過 ここでは,15 年度実践と重複する部分を避け,17 年度実践で新たに取り組んだことを中心に述べていく。 【第1・2時】課題設定・意思決定①・情報収集① ~3人の業績を調べよう~(省略) 【第3時】情報の整理・分析 ~人物像を明らかにしよう~ (省略) 【第4時】意思決定② ~3人の業績を比較しよう~ 15 年度実践では,意思決定は児童に委ねていた。ここまでに得られた情報を比較し,総合的に判断して意思決定 するのだが,児童任せであったのだ。そこで,今回,3人を比較するために意思決定表を作成させた。3人の政治, 経済,軍事,外交,宗教,文化,人柄の各項目について3人を比較し,◎○×で順 位付けを行い,そして,順位付けの根拠を書き込むのである。 この意思決定表の作成により,全体をおおよそ見比べた印象で意思決定していた 15 年度に比して,17 年度では, 3人を具体的に比較して意思決定することができた。さらに,意思決定段階で,もう一度3人の業績を丹念に振り 返ることになり,理解が深まるという効果もあった。 私は徳川家康の家来になりたいです。最初、信長にしましたが、信長について調べたら、信長は自分の家来たち に厳しいということが分かったため、やめました。秀吉は問題外でした。小さい頃の秀吉はサルみたいでかわいい

(8)

から好きだったけど、大人になって朝鮮を侵略するという意味不明の 行動に出たため嫌いになりました。この二人に比べて、家康は、家来 にも優しく、頭がいいです。家来に優しくないと、たくさんの家来が ついてこないため、家来に優しいと言えます。頭がいいというのは、 今までに幕府は3つ開かれていますが、その中で一番長く江戸幕府は 続いています。長く幕府を続けるためには、いろいろな決まりを厳し く作らなければなりません。決まりを厳しく作るには、頭が良くなけ ればなりません。だから、頭がいいと言えます。こんな頭が良く家来 に優しい人は、家康しかいません。なので私は、家康の家来になりた いです。 【第5時】天下統一ゲーム ~論戦で天下統一を目指そう~ 天下統一ゲームのねらいは,次の2点である。 ア 3人の業績を根拠に「誰の家来になるべきか」を討論すること により,3人の業績や戦国の時代背景についての理解を深める。 イ 1対1で討論することにより,討論技術と表現力の向上を図る。 ゲームの方法を示す。 ① 実在の戦国武将の名前を書いたカードを学級の人数分だけ用意する。 ② 児童全員にカードを配付し,一人ずつ実在の戦国武将名を割り当てる。 ③ 三人のうち,誰の家来になるかを決定する。 ④ 選んだ主君別にカードを集め,3つのグループ(信長軍・秀吉軍・家康軍)をつくる。 ⑤ 3つのグループから無作為にカードを抽出し,対戦相手を決定する。 (信長軍の○○対秀吉軍の●●のように,1対1の対戦を組む。対戦は6組,つまり合戦場を6カ所つくる。) ⑥ 対戦しない児童は,6つの合戦場に分かれて審判になる。 ⑦ 対戦時間は3分間とし,1対1で論戦する。 ⑧ 対戦終了後,審判員は,声,話し方,意見内容の3つの観点で評価し,総合判定を出す。 (審判員は評価表を持ち,各項目10対9で採点する。) ⑨ 審判員の多数決で勝敗を決定する。 ⑩ 負けた児童は,勝った児童が主君とする武将の家来になる。勝敗に従っ て教師がカードを移動する。 (負けた信長軍の○○のカードを勝った秀吉軍のグループに移動する。負け たら,次の対戦は新しい主君の家来として戦う。) ⑪ 新しいカードを抽出し,2回戦目を行う。 (⑤~⑩までを数回繰り返す。) ⑫ 最終的に最も多くの家来を集めた武将を天下統一とする。 このゲームに,児童は大いに喜んだ。一人あたり2回から3回ほどの対戦を 行ったのだが,日頃ほとんど発言しないような児童からも,もっとやりたいと 言う声が上がった。1対1であることや3分間という短い対戦時間であること, 即座に判定されること,負ければ相手の家来になることの緊張感が,雰囲気を 盛り上げることになったのだろう。また,自分が戦国武将になったつもりで, 学んだ成果をぶつけ合い論争するという設定も,知的興奮を喚起するのに効果

(9)

的であった。 私は、天下統一ゲームをして、まず、家康が昔、「たぬきじじい」と呼ばれていたことにびっくりしました。な ぜ「たぬきじじい」と呼ばれていたかというと、農民をだましてばかりで、政治を進めていったからだそうです。 なのに、教科書とかには書いてなくって、「がまん強い人」などと書いてあったから、なんでそういうことは、書 かないのだろうと思いました。最後に、天下統一ゲームで一番心に残ったことは、戦いに負けたら、ちがう家来に なることとか、逆に逆らったりすると殺されてしまうということが日常で行われていたことを学び、そんなことを 思うと、昔はこわかったと思った。それに比べて、今は平和だなと思った。 【第6時】意思決定③・討論 ~よりよい日本をつくるのは誰か~ 先の天下統一ゲームは1対1の討論であったが,この時間は,学級全体で討論した。課題は,『日本の将来を考 えたとき,誰の家来として天下統一を目指すべきか』である。個人の私利私欲ではなく,日本の将来を見据えて誰 に天下を取らせるべきかを判断するの である。討論に備えて,この時間にも 意思決定表を作成させた。 意思決定表②は,家臣,農民,商人・ 職人,キリシタン,その他の項目を設 け,それぞれの立場で誰が天下を取る べきかを比較し,項目ごとに◎○×で 判定させた。一つ一つの項目を設定し, それぞれの立場で価値判断すること で,より確かな根拠を伴った意思決定 につながった。討論での発言も,天下 統一ゲームのときとは異なり,3人が 天下統一した後の社会の変化を予測し た内容のものが続いた。 【第7時】意思決定④・振り返り ~学んだことを振り返ろう~ この単元で学んだ成果を記述させた。15 年度実践でも,児童はそれぞれに根拠を示し,誰に投票すべきかを述べ ていた。しかし,信長や秀吉など,個々の人物についての記述は詳しくされていたが,3人を具体的に比較する視 点は弱かった。その反省をふまえて,17 年度実践では2度意思決定表を作成させた。意思決定表で3人を丹念に比 較したことにより,振り返りの中にも,3人の長所短所が具体的に比べながら意思決定をしていることが読み取れ る。 私は、家康の家臣として天下統一を目指すべきだと考える。そして信長と秀吉の家臣になるべきではない。まずな ぜ信長と秀吉に天下を取らせるべきではないかを述べる。 はじめに信長という人物を一言で言うとざんこくである。例えば、延暦寺の焼き討ちや石山戦争で無差別に人を殺 している。もし、信長が天下を取るようであれば、日本は戦争の絶えない国になるだろう。信長は性格がざんこくで あり、子どもや大人、男や女などだれでも反対したものは殺しました。さらにそのようなたいどが家臣にもでていま す。その例は本能寺の変です。この本能寺の変で信長は明智光秀におそわれます。信長が光秀におそわれた理由とい うのは、信長が光秀に対して冷たいたいどで接していたからといわれています。なので、信長が天下を取ったら家臣 との争いが絶えないと思うので信長にはつかえない。 次に秀吉という人物は、一言で言うとよくばりである。例えば朝鮮出兵で朝鮮の領土をとろうとしたり、キリスト

(10)

教を禁止しても貿易だけは続け、よくばりだ。もし秀吉が天下を取るようであれば日本は、海外と戦争などの問題が 多くおこる国になるだろう。秀吉はよくばりで問題が多い。朝鮮出兵も日本だけでなく海外までせいふくしようとし た秀吉のよくぼうである。秀吉は、一度敗戦したが二度目も出兵させた。この二回の朝鮮出兵で多くの武士が死んだ。 しかし、秀吉はその出兵の最中にお花見をしていた。これは許せない。さらに、秀吉は死ぬ前に「秀頼をたのむ」と 言い死んだ。出兵で多くの人を死なせたのに、自分の子だけ守ってもらおうとした。このような人が天下を取れば、 外国と問題をよくおこす日本になってしまう。 そこで家康という人物について考える。家康は一言で言うとがまん強い人間といえる。例えば、天下取りをぎりぎ りまでがまんした。これはなかなかできないことである。もし家康が天下を取れば、日本は安全な国になる。家康は キリスト教を禁じ、貿易もやめた。秀吉のようによくばりではない。外国とのつきあいがなければ戦争を外国とやる 確率がなくなる。これで外国との問題がなくなり安全だ。次は国内についてだ。信長とちがいざんこくな性格ではな いので、家臣をまとめることができる。さらに、全国を統一していて幕府を開けるほどの信頼があると言うことだ。 なので国内も安全である。これが、もし私が戦国武将なら家康の家臣として天下統一を目指す理由である。 今回の学習を通して、戦国時代とは悲しいものだと知った。この時代は平気で人を殺したり、家族を殺されたりし ている。このようなことの絶えない時代は悲しいものであり、死んでいった人々がかわいそうでたまらない。なので 悲しい時代とえらんだ。今回の学習は、私にとって悲しい時代の現状を学べる機会となりました。この今住んでいる 日本でもこんな悲しいことがくり返されていたのを考えると不思議です。今はこんなに平和なのに、戦いばかりだっ た日本があるということが知れてよかったです。 Ⅲ 考 察 1 意思決定型授業の効果 (1) なぜ児童は燃えるのか 意思決定型の授業に児童は喜んで取り組む。やってみれば分かることである。学力の差に関係なく,意欲的な姿 勢が見られる。その理由は,先に述べた「仮定である」「立場を設定する」「正解がない」の3つポイントの効果 による。粗く言えばゲーム感覚なのである。仮想現実の場面を設定し,自分が登場人物になりきって,シミュレー ションを楽しむのだ。課題そのものに正解がないのであるから,知識の量だけで優劣はつかない。学力優位者が活 躍して正解を出して終わる授業とは,全く様相が異なる。誰でも活躍できるのである。ゲーム感覚のおもしろさだ けではない。提示された場面でシミュレーションをしていく過程で,新しい事実と出会ったり,思わぬ発見をした りといった知的興奮を体験をするからでもある。15 年度 17 年度ともに,設定の違いこそあれ,どちらも仮想現実 の中で,知的興奮を味わいながら学んでいったのである。 (2) 価値判断力・意思決定力は育ったか 見える学力と見えない学力があるとするならば,価値判断力・意思決定力は,極めて見えない学力に近い。今回 の二つの実践における児童のまとめを読むと,児童はいくつもの情報をつなぎ合わせ,新しい意味を発見しながら 判断し,自らの意思を決定している。この点からすれば,児童の価値判断力・意思決定力は鍛えられたことになる。 しかし,現実の場面でどれだけ有効に働く力となっているかは不明である。本番で使える力かどうかという問題だ。 本番というのは,もちろん現実の公的社会問題に直面するような場面である。今回の二実践は過去の歴史を取り上 げているので,現実の場面と比べて虚構性が大きい。この二実践は,価値判断力・意思決定力を発揮する訓練とし て授業なのだと言える。この見えにくい学力をより見えやすい形で評価するためには,現実の公的社会問題を教室 に持ち込んでシミュレーションするような学習を仕組む必要がある。 2 意思決定表の効果 17 年度の一番大きな改善点は,2枚の意思決定表の作成である。15 年度では,「場面を設定したので,どうぞ

(11)

自力で価値判断,意思決定をしてください」といった形であった。それでも児童は,懸命に情報と格闘しながら考 え,結論を出していった。15 年度は,その部分に,意思決定表という支援をしたのである。児童にとっては比較の 観点が提示され,一覧表の形で整理されたことで,3人の比較がより確かなものになった。項目ごとに◎○×で順 位付けしたことも,判断力の訓練になった。また,集めた情報を表の形で整理していくことで,3人の業績などの 情報を再確認し,より確かな認識の形成に役立った。反省点としては,意思決定表の作成が個人作業の段階で終わ らせたことである。全体で確認し合ったり,話し合いながら表を埋めていくような場を設ければ,より充実した意 思決定表になったと思われる。 3 今後の課題 現実社会の問題解決場面に直面したとき,使える価値判断力,使える意思決定力を育てる。それが,公民的資質 の基礎,すなわち社会の形成者としての資質の育成につながる。これが二つの実践の出発点であった。結論から言 えば,大きな手応えを感じている。児童が書いたまとめの内容と量から見ても,学習の過程で活発に思考したこと が伺われる。意思決定型以外の授業では鍛えられない力が,この学習で鍛えられた。それは身に付けた認識を使い こなす力でり,問題に直面したときに自ら打開して進んでいく力である。今後必要なのは,より現実の場面に近い 形での意思決定型の学習を行うことである。また,さらに効果的な意思決定表を工夫し,児童の価値判断と意思決 定を支援していくことである。

参照

関連したドキュメント

いかなる使用の文脈においても「知る」が同じ意味論的値を持つことを認め、(2)によって

を高値で売り抜けたいというAの思惑に合致するものであり、B社にとって

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

「欲求とはけっしてある特定のモノへの欲求で はなくて、差異への欲求(社会的な意味への 欲望)であることを認めるなら、完全な満足な どというものは存在しない

 県民のリサイクルに対する意識の高揚や活動の定着化を図ることを目的に、「環境を守り、資源を

いてもらう権利﹂に関するものである︒また︑多数意見は本件の争点を歪曲した︒というのは︑第一に︑多数意見は

討することに意義があると思われる︒ 具体的措置を考えておく必要があると思う︒

ぎり︑第三文の効力について疑問を唱えるものは見当たらないのは︑実質的には右のような理由によるものと思われ