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第I部(序論) 中国・アジアビジネスにおける人材育成上の課題 : 中国・アジア留学生教育の意義

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(1)

部 (

序論) 中国 ・ア ジア ビジネスにおける人材育成上 の課題

一中国 ・ア ジア留学生教育 の意義

-姥 ノ 名

(新 潟 経 営 大 学 教 授)

問題 の所在

本稿が研究対象 とす る問題 は次の三つである。一つは、 日本企業の経営戦略において中国 ・アジア ビ ジネスが如何なる意味を持 っているのか とい う点である。 いま一つは、中国 ・アジア ビジネスにおける 人材育成問題である。 最後 は中国 ・アジア留学生教育 に関す るものだ。 最初の問題を考える上で、 まず現代 日本企業 における経営戦略上の課題を明 らかに しておかなければ な らな

い。

その場合、課題の一つ として中国 ・アジア ビジネスが挙 げ られる。今 日多 くの 日本企業の経 営戦略は中国 ・アジア ビジネスを巡 って展開されている。 とくにアジア経済圏 ・共同体形成を考慮すれ ば、その成否のカギを握 っているのが 日中共生なかんず く経済共生である以上、 日本企業 にとっては中 国 ビジネスが とりわけ重要である。課題の もう一つは人材育成である。 現代企業経営 における戦略的課 題 は技術 ・知識の集積であるが、その集積 は、経営資源たるヒ トすなわち知的人材の育成如何 にかか っ ているか らだ。 か くして、現代 日本企業の経営戦略にとって、中国 ・アジア ビジネスなかんづ く中国 ビジネスにおけ る人材育成が如何 に重要であるかは容易 に理解 される筈である。 では、 中国 ・アジア ビジネスにおける人材育成上の課題 とは何か。 この場合 さ・らにこっの問題が登場 して くる。一つは中小企業が抱える問題である。大企業 は事業活動のグローバルな展開に備えて人材育 成の面で も怠 りがないが、大企業 に比べて経営資源 に限界のある中小企業の場合 には、必ず しもそうは いかない。 にもかかわ らず、取引関係が従属的である場合、親企業である大企業の海外進 出に伴 い、準 備がないか或 いはそれが不十分なままで も、下請 け企業たる中小企業 も進出を余儀な くされるケースが 少な くない。 こうした場合 には、人材育成面での立 ち後れが中小企業経営を破綻 に追い込む結果を招き かねない。その意味で、今 日では、中国 ・アジア ビジネスにおける人材育成が中小企業の経営戦略にお いて も最重要課題の一つ とな りつつあることは容易に理解 されよう。二つには、地域が果たす役割につ いてである。 中小企業の多 くが集積地域企業で もあるということを考慮すれば、中国 ・アジア ビジネス における人材育成 において も、地域協力 とくに地域 における産学官協力が果たす役割が重要であると云 えよう。 その際、「地域MBA」を重視すべきである。 最後 に問題 とすべきは、 中国 ・アジア ビジネス人材育成論 における留学生 とりわけ中国 ・アジア留学 生教育のあ り方 に関 してである。 中国 ・アジア留学生教育 については、教育 自体 としての意義 と共 に、 地域産業 ・企業の発展 ひいては地域活性化 という観点か らもその意義を改めて考えなければなければな らない、 ということである。 か くして本稿では、 まず、 日本企業 にとって中国 ・アジア ビジネスとくに中国 ビジネスが持つ重要性 について考察 し、 さらに日本企業の経営 における人材 とりわけ知的人材育成の戦略性を明 らかにす るこ とによbて、 中国 ・アジア ビジネスにおける人材育成の意味を浮 き彫 りに してみることに しよう。次い

(2)

-7-で、 中国 ・ア ジア ビジネスにおける人材育成上 の課題 を明 らか にす る。 と くに中小 企業の場合の人材育 成 に対 して果 たす 「地域

MBA」

の役割 につ いて新潟県 を事例 と して考察す る.

,

掛 こ、 中国 ・ア ジア ビジネス人材育成論 の一環 としての留学生教育 と くに中国 ・ア ジア留学生教 1′1'7

,

Jr

l・えてみる。 中国 ・ア ジア留学生教育 の意義 の一つ は正 にこの点 にあると考 え られ るか らだ0 本稿 の構成 は以下 の通 りである。 第

1

章 中国 ・ア ジア ビジネス と日本企業 第2章 現代 日本企業 における知的人材育成 の意義 第3章 中国 ・ア ジア ビジネスにおける人材育成 の課題 第4章 中国 ・ア ジア ビジネスの一環 と しての留学生教育 なお

、「

『地域

MBA』

構想 一新潟県 を事例 と して

-」

は補論 と してを取 り上 げる。 また、本稿 の図表 については、煩雑 さを避 けるために報告書 の末尾 に [付属資料] として掲載す る。 J

(3)

1

中国 ・アジア ビジネスと日本企業

1

.日中経済共生論 の重要牲

中国 ・アジアビジネスが 日本企業にとってどのような意味を持 っているのか という問題を考える場合、 日中両国経済の 「共生」をどう考えるべきか、 ということがまず問われなければな らない。何故か。そ の理 由は三つある。一つは

FTA

の進展である。二つ には企業経営論 の変容である。 三つ には人材育成 論の今 日的意義である。 まず

FTA

の進展が 「共生」 に何故関わるのか。両国経済 はアジアにおいて最 も影響力を持 ってお り、 かつ今ではお互 いに分かち難 く依存 し合 った関係である以上、その両国経済 における 「ビジネス」 (注

1

)が緊張 ・対立状況 に陥入 っているようでは、 アジアにおけるビジネスの安定的な発展は到底望むペ くもないか らだ。 しか も、今 日、 アジアなかんづ く東 アジアにおいては 「自由貿易協定

(

Fr

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e

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nt;FTA)

論が喧 しいが、それによって東 アジアにおいて経済圏形成が期待 され、 さらにそ れを通 じて 「束 アジア共 同体」構築す ら展望 されているとすれば (注

2

)、本来東 アジア

F甘A

を牽引す る役割を担 っている筈の 日中両国における共生モデルの重要性 はますます増すであろうということは想 像 に難 くはないであろう。 か くして、両国経済 における 「共生」如何が、東 アジア

FTA

の成否 ひいて は経済圏及 び共 同体形成の鍵 を握 っていると云えよう。 このように、

FTA

時代 においては、 中国 ・ア ジア ビジネスの発展 という観点か ら日中共生論 は避 けては通れない課題 となるのである。 次 に企業経営論の性格変容が何故共生論 に関わるのか。経済学の教科書が教えるところによれば、経 済がマクロ論 に立脚 しているのに対 して、企業 は ミクロ論 に依拠 している。そ して産業や立地 は両者の-中間すなわちメソ論 (セ ミマクロ論) に区分 けされる。だが これは、あ くまで も国民経済を前提 とした 類型化である。国民経済のボーダ レス化 に伴 って企業活動がグローバル化すれば、そ うした単純な類型 化は最早意味をなさな くなる。 とくに企業を ミクロ論の対象に閉 じこめてお くことは到底できな くなる。 何故な らば、 グローバル企業 においては経営戦略 もまたグローバル戦略へ と変容を余儀な くされること になるが、その結果企業経営の分析 フレームに関 して も、 ミクロ的フレームワークとマクロ的フレーム ワークの双方か ら成 る 「重層的分析 フ レームワーク」 (注 3) を用意 しなければな らな くなるか らであ る。事実、 日本 とアジア諸国なかんづ く中国 との相互依存関係が深 ま り、それを背景 に して 日本企業の 中国 ・アジア進 出が進展すればす るほど、企業経営 における重層的性格 もまた強 まって くる (注4)。 か くして、本来マクロ的な問題である筈の両国経済における 「共生」 もまたグローバル企業の経営にお いては決定的に重要な戦略変数 とな らざるを得ないのである (注

5

)。 最後 に人材育成論の今 日的意義 もまた共生論 に関わ っている。相互依存関係の深化が企業経営の変容 を促 し日中共生モデルの重要性を高めるという上記の文脈 は、それだけでは貫徹 しない。企業経営変容 論の延長線上 には-すなわち現代企業経営論 においては-人材育成 における戦略性 という問題が控えて いるか らである。後述す るように、現代企業経営における戦略上の課題 は技術 と知識であるが、その技 術 ・知識の集積体は ヒ トに他な らないのであ り、従 って人材なかんず く知的人材育成 もまた今 日では企 業経営上の戦略課題た らざるを得ないのである。 日中共生モデルの下で 日本企業 に求め られる新たな付 加価値源泉 において、やは り技術 ・知識の重要性が増大す るとすれば、知的人材育成論 と共生論の関連 性 もまた無視 してはな らないであろう。 か くして、中国 ・アジア ビジネスと日本企業の関係を考える場合、 日中経済共生論 は避 けては通れな い課題なのである。

(4)

ー9-2

.日本企業の中国進出と日中共生の可能性

では日中両国経済共生の可能性や条件 は果た して存在す るのか。われわれ一.日 ㌧ドニの,・1沌 両国経済 に おける相互依存関係の検討を通 じて明 らかに しておかなければな らない。 (1)輸出拡大効果 まず 日本企業の中国進 出が 日本の輸 出拡大効果 に結びついているという点を挙 げなければな らない。 例えば機械産業の場合を取 り上 げてみよう。 機械産業 における中国進 出は二つの面で 日本の対中輸出拡 大を もた らしている。一つは直接的な効果であ り、今 ひとつは間接的な効果である。 この点を一般機械 を取 り上 げて検証 してみよう。 日本の一般機械企業の対 中投資 は、

1

9

9

0

年度の

5

,

0

0

0

万 ドルか ら

2

0

0

0

年 度 には

8

,

6

0

0

万 ドルへ と増加 しているのに対 して、 日本の一般機械の対中輸 出は

1

9

9

0

年 には

1

1

億 ドルで あったが

1

9

9

9

年 には

4

9

億 ドルへ と急増 している。 このように両者 の間には強い相関性を兄いだせ るが、 その場合の相関性 は、二つの側面 -すなわち一般機械の対中投資が一般機械の対中輸 出に直接結びつい ているという側面 と、製造業 における対 中投資が一般機械の対中輸出に間接的に繋が っているという側 面 一か ら成 り立 っている。 か くして、 日本企業の対中投資は、 日本の輸 出拡大を通 じて相互依存関係深 化 に貢献 していると云えよう。 (2)逆輸入効果 他方、中国企業進 出は 日本の対中国輸入拡大 にも係わ っている。 いわゆる "逆輸入''である。 これは 生産基地化を 目的に した企業進出にみ られる。例えば、電気電子機器 における対中投資の増大 は、電気 電子機器関連製品の 日本への輸 出拡大 に繋が っている。その結果、 日本の製造業の在 中国 ・香港現地法 人か らの輸入額が 日本 の中国か らの輸入総額 に占める比率すなわち 「逆輸入比率」 は、

1

9

9

8

年度 には

2

1

.

8

%

であったが

、2

0

0

0

年度 には

2

4

.

5

%

へ と大幅に増大 しているのである。 このように ``逆輸入"効果 による相互依存関係深化 も見落 としてほな らないであろう。

(

3

)

産業内分業 と直接投資 -ところで、 日本企業の海外進 出が輸出入双方を通 じて相互依存関係を探化 させる効果を発揮するのは、 今 日においては、貿易構造が水平分業 に移行 し、 しか もそれが産業内分業 によって担われてお り、そ し て産業内分業 は直接投資 によって支え られているか らに他な らない。 日中間において もそ うした傾向は 明確 に表れている。例えば

、1

9

9

0

、1

9

9

5

年、

1

9

9

8

年 という三時点 における日中の産業内貿易指数を時 系列的に比較 してみると、それは時間の経過 と共 に大幅に増加 してお り ([付属資料]図

1-[1

]参照。 な串以下では付図 ・表 と略記す る。) と くに技術集約型産業 における

1

9

9

0

年か ら

1

9

9

5

年 にかけての増加 にはめざま しい ものがあるが (付図1-[

2

]参照)、そのことはまた中国の輸出に占める日本の対中直 接投資ス トックの大幅な増大 と密接 に関係 しているのである (付図

2

参照)。 (4) 代替性 と補完性 以上か ら明 らかなように、 日中間の相互依存関係 においては、代替性 と補完性の双方が伏在 している が、 日本の企業進 出はその何れにも関わ っている。

2

0

0

3

年 における日本の対中輸入 は前年 に対 して

1

3

%

と大幅に拡大 しているが、それは

I

嗣 R機器関連部 門における輸入拡大を主因に している。例えば

2

0

0

2

年 における対中輸入商品構成をみてみると、織推製

(5)

品のシェアが

2

5

.

7

%

と依然大 きな比重を占めてはいるが、機械機器が

3

3

.

5

%

とそれを大 き く上回るに至 っ ている。 とくに情報機器関係の製品で、抑パソコン周辺機器、複写機な ど事務用機器が前年 よ り

7

5

.

4

%

も増加 し

9

.

2

%

の♪シェアを保持 していること、(ロ)携帯電話、

PHS

な ど通信機 も同 じく

4

8%

増加 し

1

.

3

%

の シェアを持つに至 っていること-か らもそのことは明 らかであろう。 こうした情報機器関連部門の対 日 輸 出における躍進 は、上述 した 日本企業の対中投資を背景 に した中国における情報機器関連産業 におけ る著 しい競争力強化 に因 っていることは云 うまで もない (付図2・3参照)。 そ してこうした中国製品 の 日本市場進出が中小企業や地域産業を中心 に空洞化要因をな しているということも周知の通 りである。 この間題 はいわゆる代替性 に関わ っている。云 うまで もな く代替論 は中国脅威鞠の根拠 をな しているの である。 他方、 日本企業進出による対 中輸出拡大 もまた見逃せない。やは り

2

0

0

3

年における日本の対中輸出を みてみると、前年 に対 して

3

3

.

2

%

とこれまた大幅に増加 している。輸 出商品構成をやは り

2

0

0

2

年のデー タでチ ェックしてみると、電気機器が

2

6

.

9

%

と太宗を占めてお り、次 いで一般機械が

2

0

.

9

%

、金属及 び 同製品が

1

0

.

5

%

とな っている。つま り機械 ・金属製品で

6

割近 くを占めていることになるが、 これまた 日本企業の中国進出と密接な関係を持 っている。 このことはいわゆる補完性の根拠をな している。補完 論 は日中共生論 において不可欠の条件をな しているということは云 うまで もないであろう。 このように日本企業の中国進 出を基軸 として 日中相互依存関係は急速 に深化 しつつあるのだが、そこ には代替性 と補完性 とが併存 している。つま り、 日中相互依存関係深化の中には中国脅威論 と日中共生 論 とが混在 しているのである。従 って、 この混在性の中にこそ 日中経済共生の可能性が伏在 していると いうことになる。だが注意 しなければな らないのは、それは可能性 とい うよりも不可避性 と云 った方が よいということである。われわれが、中国脅威論 に代わ って 日中共生論 を採 り、 さらにそれを推 し進め なければな らないとすれば、代替性を回避 し補完性を強める以外 にそ もそ もわれわれには選択肢 は残 さ れてはいないのである。

3

.共生 と日本企業の課題

(

1

)

産業構造調整 と日本企業 では、上記のような意味での 「共生」 -すなわち代替性回避 ・補完性強化-のためには一体何が必要 なのか。 まず産業構造調整が不可欠である。 この点で とくに重要なのは 日本企業の高付加価値化諭であ る。それは二つの方向性を持 っている。一つには、技術開発力を一層高めることによって既存産業の高 付加価値化を図ることである。 二つには、新付加価値概念 に基づ く高付加価値化諭 の構築である。 ①既存産業の技術開発力強化 まず前者 について。既存産業の技術開発力強化 としては、(1)統合型 (摺 り合わせ型)完成財、(ロ)高機 能部品 ・素材、、い)高級消費財

国製品 ・サー ビス融合財 -などに特化 してい く必要がある. これ らの分 野 においては今なお 日本企業の競争力が保持 されているか らだ。 しか しなが らこれ らの分野 における 「後発者 の利益

を考慮すれば、 中国はそ う遠 くはない時期 に日本 に対 してキ ャッチア ップを可能 にす るであろう。その意味では、既存産業 における技術開発力強化 にはそ もそ も限界があるとい うこともま た認めない訳 にはいかないのである。 ②新高付加価値化論 と知的人材育成の重要性 そこで後者の新高付加価値化論が登場 して くることになる。それは、後述す る経済社会の成熟化 に伴

ニ 1

1

(6)

-う消費者ニーズの変化を背景 に して、付加価値概念その ものを見直 し、新 しい付

加価情

概念の下で付加 価値を高めていこうという試みである。 すなわち、従来の高付加価値化諭が叫 ら

格、!t三産性、技術革 新 に依拠 した付加価値概念を拠 りどころに していたのに対 して、品質や信相性などの

価格要因や、感 性 ・知性などの非商品性 にも依拠 した付加価値概念に基づいて高付加価値化 という問血を改めて考え直 してみようではないか という試みである。何故な らば、消費者 は従来型の高付加価倍化諭だけではな く こうした新たな付加価値概念の下での高付加価値化論 にも強い関心を示 し始めているか らだ (注 6)0 そ して重要なのは、 こうした新高付加価値化 に対 しては日本 は中国に対 して強い有利性を持 っている ということだ (注 7)。一つ には、 こうした感性や知識な どに依拠 した新高付加価値分野 は、専 ら成熟 し洗練 された-イ ・エ ン ド市場を もつ 日本が中国に対 して圧倒的に有利であるという点だ。二つには、 新高付加価値分野への移行 に伴 い必要 となる新 ビジネス ・モデルにおいて 日本企業 は極 めて巧妙 にIT を活用 しているということだ。∫ 要す るに、 日中経済共生を図る_のであれば、 日本企業 は、単なる既存技術力向上 による高付加価値化 論か ら、以上で述べた新高付加価値化論へ と移行す ることによって質的競争力を強化す る必要があるし、 またその可能性 は十分 あるとい うことだ (注 8)0 さらに見落 としてほな らないのは、 こうした新高付加価値化論の下では、技術 ・知識が経営戦略上一 層重要性を増 し、技術 ・知識の集積体である人材 とくに知的人材の育成が経営戦略上の最重要課題 とな らざるをえないという点である。例えば、経済産業省 ・厚生労働省 ・文部科学省 『製造基盤 自書

』(

2

0

0

3

年度)によれば、今後の国内製造基盤 は、川高度な技能 と生産技術を要す る製品の製造拠点、(ロ)コア技 術の先行開発 ・熟成を計 る開発 ・製造拠点 -を中心 に した ものになるとされてお り、それに応 じて今後 の製造業 における人材 も、抑品質管理やISOに関す る能力 ・知識、(ロ)新 しい機械 ・設備を使 いこなす知 識 ・能カ ーな どが一層求め られることになるとされている (注9)0(なお 日本企業 における知的人材育 成の意義 については、次章で改めて検討す る。)

(

2

)

経済社会発展路線の転換 とアジア共生型教育 システム L しか しなが ら、 日中経済共生のためには企業 レベルでの課題だけではな く、両国の経済社会の発展路 線 について も転換が求め られているということも見落 としてはな らな

い。

まず 日本経済 については、後述す るように成熟社会へ移行す る中で人 々のニーズ もまた変化 しつつあ り、 こうした新たなニーズに依拠 した新たな成長路線の選択が迫 られているが、それは、成熟社会 と経 済成長 とを融合 させた 「社会的成長」路線 (注

1

0

)

への転換 に他な らない。 では中国についてはどうか。同国の場合 も、輸 出主導型成長路線を今後 も採 り続 けることは決 して好 ま しくはない以上、内需主導型成長路線 さもな くとも内外需双方を活用 した複線型成長路線への転換が そ う遠 くはない時期 に選択 され る可能性が強いと観てお くべきであろう (注11)。 この点に関連 して注 目してお くべきは、企業経営上の課題 と国民経済上の課題がいずれ も人 々のニー ズの変化-すなわち成熟社会への移行 とともに社会的 ・文化的 ・知的ニーズの重要性が増す ということ-↑の対応 に置かれているという点である。すなわち技術 ・知識集積体 としての人材育成 とりわけ知的人 材育成 は、単 に企業経営戦略上の課題であるばか りではな く、社会的な課題で もあるということが重要 である。 か くして 日中共生論 は、北東アジアさらには東 アジアにおける新たな教育 システムの必要性 にも結 び つ くのである。 すなわち、教育 システムはそ もそ も社会 システムの一環をな しているが、その社会 シス

(7)

テム自体 がア ジア共生型 システムへの転換 を余儀 な くされているとすれ ば、教育 システム もまたア ジア 共生型教育 システムへの転換 を迫 られているとい うことは容易 に理解 され得 よ う (注

1

2

)

. (注 1) 「ビジネス」 とい う言葉 には二つの概念が混在 している。一 つ は広義 の概念 であ り、 もう一 つ は狭義 の概念 であ る。 広義 の概念 とは、 「ビジネス」 を企業活動全体 を意味す る もの と理 解す る場合である。狭義の概念 とは、逆 にそれを単 に企業間の取引関係 と捉え る場合である。 ここでは前者 の概念すなわち広義 の概念 と して 「ビジネス」 という言葉 を使 うことにす る。 (注2) 但 し、「東 ア ジア共 同体」 にまで検討対象 を広 げた場合 には、 そ もそ もア ジアにおけるアイ デ ンティティーを どのよ うに考 え、 その形成 に対 して 日本が どのよ うな役割 を果 たすべ きな のか、 とい う問題 にまで議論 が及ぶ とい うことも見落 と してほな らないであろう。 (注3) 「重層的分析 フ レーム ワー ク」 とは、企業活動固有 の領域か らなる 「ミクロ ・プロセス」 と 企業活動 を取 り巻 く産業 ・市場 ・経済 な どの領域か らな る 「マ クロ ・プ ロセス」 の双方 を統 合 した企業経営戦略の分析 フ レームワー クの ことである。企業活動 が グローバル化す るにつ れて -すなわ ちグローバル企業 においては-、後者 のマ クロ ・プロセスの重要性が糊す こと にな る。詳 しくは、付図

4

「グローバル経営戦略の分析 フ レームワー ク」 (荻野典宏

中国 ビ ジネス』Ⅲ [CD-ROM]よ り) を参照の こと。 (注

4)

と くに中国への進 出に関 しては、 それを通 じて 日本企業 の グローバル化が進展すればす るほ ど企業経営 における重層的性格 もまた強 ま らざるを得 ない とい う論点 については、経済産業 省 ・厚生労働省 ・文部科学省 『製造基盤 自書

』(

2

0

0

3

年度) が抽的 に説 明 して くれている。 すなわち同自書 は、 日本の製造業企業 の場合、今後 中国 における耶業展開に関 しては凡そ

9

0

%近 くが拡大す るとしてい るが、 それ と共 に、(1)税制等 中国政府の政策 E日本の不透明牡、(ロ) 中国企業 による知 的所有権 の侵薯、再 内陸部を中心 とす るイ ンフラの未雅備 -な ど

WTO加

盟後 に もかかわ らず 中国固有 の制度や システムに係わ る耶業展開上 の課題が今後一層深刻化 す ると認識 されてい る、 と指摘 してい る (同上

、p.

1

3

及 び

p1

6

参照). (なお、 中田 における 事業展開上 の課題 はこれ以外 に も多岐 に亘 って存在 している。詐 しくは在中田 日本商工会議 所

WTO

加盟後 の中国経済

2

0

0

3

』 を参照 の こと。) この ことは、 ア ジア諸 国 との

FTA

と り わ け 日中

FTA

において は、単 に関税 引 き下 げ ・撤廃 な ど貿易 自由化 に止 ま らず、 ビジネス 環境 とりわけ投資環境 の整備 もまた重視 されなければな らない とい う論点 に も繋が っている (姥名 『日中韓 「自由貿易協定」構想 一北東 ア ジア共生経折田をめざ して -』 [明石習店刊] 参照)0 (往 5) この点 に関連 して、 日本企業の対 中国進 出には、北東 ア ジア固有のカ ン トリー リスクすなわ ち冷戦未終鳶 に伴 うカ ン トリー リスクー朝鮮半 島問題や中台関係な ど-が伏在 しているとい うことも見落 としてはな らない。例えば、伝え られ るところによれば、 中国政府 は "台湾独 立派''と目され る陳水扇政権支持派の企業 の中国における活動 を 「容認 しない」方針 を強 め ることによって、陳水扇政権 に対す る本格 的な経済的包囲網作 りに乗 り出 した とされている (朝 日新

聞2

0

0

4

6

1

9

日参照)。 (注

6)

後述す るよ うに、新高付加価値化論 の背景 には、 日本社会 の成熟化 に伴 う人 々の価値観の変 化 とい う問題が横 たわ っている。 (注

7)

蛇名 『日中韓 「自由貿易協定」構想 一北東 ア ジア共生経済 圏をめざ して -』 (明石書店刊)

-1

(8)

3-p.133参照。 -(注8) 誤解のないように付言 してお くと、「新高付加価値化」論 と

雌†

i・0_)l高付加†LIMIlHと」論 は実 際には連続的に捉え られる必要があるということだ。すなわち、現行の

付加価値化論が拠 り所 としている価格 ・生産性 ・技術 に基礎を置 く従来型付加価佃概念 と祈付加価値化論が依 拠 している非価格要因 ・非商品性を重視 した新付加価値概念 はあ くまで も概念上の区分であ る。従 って両高付加価値化論 は、実際には相互連関性を持 っている。そこで、後述す る社会 的 ・文化的 ・知的ニーズな ど新 しいこ「ズへの企業の対応 もまた、 こうした相互連関性を通 じて行われるペ きだ とい うことになる。 (詳細 は、姥名 『日中韓 「自由貿易協定」構想 -北 東 アジア共生経済圏をめざして

-

』 [明石書店刊]p.131-132を参照のこと。) (注9) 経済産業省 ・厚生労働省 ・文部科学省 『製造基盤 自書』(2003年度)p.34-35参照。 (注10) 社会的成長論 については、姥名 「日本経済再生のための課題 一社会的成長試論 -」 (新潟経 営大学 ・地域活性化研究所 『地域活性化 ジャーナル』10号)を参照のこと。 (

ll) 中国経済成長転換論 に関 しては、蛇名 『日中韓 「自由貿易協定」構想 一北東 アジア共生経済 圏をめざして

-

』 (明石書店刊)。p.33-78参照のこと。 (注12) この点は、上述 したアジアにおけるアイデ ンティティー構築問題 とも関わ っている。

(9)

2

章 現代 日本企業経営 にお ける知的人材育成 の意義

次 に、現代企業経営 において人材 とりわけ知的人材の育成が企業経営戦略上最 も重要視 されるに至 っ たのは何故か、 という論点 に移 ろう。

1

.成熟社会 におけるニーズの変容 と企業経営

(

1

)

社会的 ・文化的 ・知的ニーズの台頭 現代 日本 は成熟社会へ移行 しつつあ り、 しか もそこに急速な少子高齢化がオーバーラップ している。 こうした変化の下で、人 々のニーズ も大 き く変容す るのは当然である。変容の方向は、単なる経済的要 素だけではな く、社会的 ・文化的 ・知的要素が次第に重要性を増 して くるというものである。その結果、 新たなニーズが登場 しつつあるが、それは、(1)消費者ニーズの変容 一機能性 ・利便性 ・低価格性を専 ら 志向 してきたこれまでのこ-ズか らそれだけではな く新たに個性 ・感性 ・文化性を も志向 しさらには環 境問題な どの社会性を も重視す るといったニーズへの変容 - (注

1

)、(ロ)良質で長持 ちす ることによっ て公共的価値を高めた住宅 に対す る人 々のニーズの高ま り、い)少子化時代 に必要 とされる新たな都市環 境 ・住環境 -すなわち若者 にとって魅力 ある都市環境 ・住環境 -の整備 ・改善、国少子化時代 に不可欠 な次世代教育 に対応 した教育の在 り方、㈹高齢者の安心 と生 き甲斐を重視 した年金 ・介護 ・ワークシェ ア リング、(∼)経済的条件 に基づ くのではな く社会的基準 に基づ く希少資源配分方式が求め られている医 療サー ビス、(ト)食の安全性 ・信頼感や食文化を重視 した食農環境型地域社会の形成、(+)地球環境問題の 深刻化 に伴 う環境保全要求の高 ま り、(リ)経済の内発的発展の担い手である中小企業 ・集積地域企業が依 拠す る地域経済再生 に向けての地域ニーズ密着型研究開発投資 ・産学官協力の必要性 -な どである。だ が、そのいづれを取 り上 げてみて も、それ らは単なる経済的要求 という性格 に止 まらず、社会性を も色 濃 く帯び、かつ文化や伝統、知識や知性 さらには環境を重視す るという性格を も併せ持 っている。その 意味で これ らは、社会的 ・文化的 ・知的ニーズとみなされるべきであろう (注2)0 しか もこうした社会的 ・文化的 ・知的ニーズ台頭の背景 には、人 々の価値観の変化 と多様化 という社 会構造の変化が横たわ っている、 ということも見落 としてほな らないのである。すなわち、経済的な価 値な ど物質的な価値だけではな く、社会的 ・文化的 ・知的価値を も重視 し、かつ後者の重要性が次第に 増 してきているという訳だ (注 3)。

(

2

)

社会的 ・文化的 ・知的ニーズと地域 そ して社会的ニーズの充足 に関 しては、川地域を中心 に行われていること、(ロ)中小企業の事業機会創 出に繋が っていること-の二点が重要である (注

4)

0 まず前者 について、社会的 ・文化的 ・知的ニーズはそ もそ も地域性を帯 びているということを見落 と してはな らな

い。

都市 ・生活環境整備、教育サー ビス、社会的サー ビス、食農循環型社会づ くり、環境 規制 さらには日本文化 ・伝統の再評価 -これ らの どれを取 り上 げてみて も、その充足は地域が係わるこ とな しには困難であろう。 後者の中小企業の事業機会創出との関連性 についてはどうか。 この点に関 して も、社会的 ・文化的 ・ 知的ニーズの充足 については大企業 よ りも中小企業の方が有利であるということを指摘す ることができ る。 社会的 ・文化的 ・知的ニーズはそ もそ も市場構造の変化 と係わ っているか らだ。つま りそれは、大 企業 にとって有利な大量生産 ・大量消費型の市場構造を通 じて充足 されることには必ず しも馴染 まず、 - 1

(10)

5-む しろ中小企業が得意 とす る多品種少量生産 ・非画一的消費型の市場備 貴.SI3滴してのJJ-が充足 され易い のである。 しか も今 日では、そ もそ も市場構造 自体が前者 (大量生産 ・火届 l'1押uHJ一

構造)か ら後者 (多品種少量生産 ・大量消費型市場構造)へ と変化 しつつある訳だか ら、 中小企業の付利性 はますます 強まるということになる。 ところで、前者 と後者 における有利性すなわち地域性 と小規模性 における有利性をJT(ね合わせて考え れば、実は集積地域企業の場合 には二つの有利性 におけるシナ- ジー効果を期待できるということであ る。従 って中小企業なかんづ く集積地域企業 にとっては、社会的 ・文化的 ・知的ニーズの台頭はまた と ない ビジネスチ ャンスの到来を意味 しているのである。 か くして、社会的 ・文化的 ・知的こ-ズの台頭が企業経営に重大な影響を及ぼす ことは想像 に難 くは ないであろう。 とりわけ中小企業 ・地域企業 にとって このことが持つ含意 は重要である。では社会的 ・ 文化的 ・知的ニーズが企業経営 に及ぼす影響を企業価値論の観点か らどのように捉えるべきなのか。 こ の点が次 に問題 となる。そこで以下ではこの間題を検討す ることに しよう。

2

.企業価値転換論 と知的人材育成 の意義

企業価値転換論 は、学会 において もまた政策領域 において も既 に重要な論点 とな り始めている。 前者 については、「顧客信頼度」 (注 5) とともに、社会的こ-ズへの対応力すなわち 「社会的適合性」 を ``見え ざる資産" として企業資産会計 に組み込 むペ きだ とい う注 目すべ き見解が登場 してきている (注 6)。 こうした ``みえざる資産''を推計 してみると、 日本企業の場合、医療 ・健康、住宅 ・都市環境 ・ リサイクル、交通 ・安全関係の三分野だけで、最低

7

5

-1

0

0

兆円の潜在的な ``見えざる資産''を持 って いると試算 されている (注

7

)。 後者すなわち政策論 に関 しては、

OECD

において 日本政府が企業の "知的資本"の評価 ・開示方法 についての世界的な論議の場形成 について提案を行 ったと伝え られてい る (注 8)。 この場合、 ``知的資本" とは、特許な どの知的財産権だけではな く、企業の人材や組織形態、 ブラン ド、経営 ノウハ ウな どを幅広 く含む概念であるとされているが (注

9

)、であるとすればそれは、 前者の "見えざる資産''だということになる。つま り "見えざる資産''の政策化が意図されていると考 えてよいであろう。 ところで社会的 ・文化的 ・知的ニーズはそれを充足す るための固有でかつ高度な技術や知識を必要 と してお り、 さらにそれ らを生み出 し得 る頭脳つま りヒ トを必要 としている。従 って社会的 ・文化的 ・知 的ニーズに対 して企業対応力を高めるということは、言 い換えれば、技術 ・知識が経営戦略上重要性を 増す ということを意味 してお り、かつその集積体である人材なかんず く知的人材 (注

1

0

)

こそが最重要 な経営資源の一つ となるということに他な らない。 か くして現代企業経営おいては、知的人材育成 こそが経営戦略上の最重要課題 となるということは容 易 に理解 されよう。つ ま り、現代企業経営 における人材育成の意義 は正 にこの点 にこそ求め られるので ある。 (注

1)

この点は、前述 した新高付加価値化論 にも係わ っている。 (注2) 姥名 「日本経済再生のための課題 一社会的成長試論

-

」 (新潟経営大学 ・地域活性化研究所 『地域活性化 ジャーナル

』1

0

号)

p

.

6

9

-7

0

参照。 (注3) 同上参照。

(11)

(注4) (注

5)

(注

6)

(注

7)

(注8) (注

9)

(注10) 同上 p.72よ り。 「顧客信頼度」 とは

や製lllflを

る頼

'弁と企業と

関係

深 さを

指 して

いる

(

竹内

佐和子 「日本企業、『W

r

度.

qで

f

.

J

本経済新聞2004年

3

月1

8

日] よ り

)

0

竹 内佐和子 「同上」参照。 同上 よ り。 日本経済新聞2004年 5月1311よ り。 同上。 ツエ リチ ェフ教授 によれば、 こうした知的人材のなかで も 「ゴールデ ン ・カラー」 と呼ばれ る一群 の人 々の存在が企業経営戦略上 と くに重要 だ とされている。 「ゴールデ ン ・カラー

」t

とは、川一定の理念や コンセプ トを纏 め、他人 にそれを理解 させた上で、その実施を リー ド す るいわゆる 「リーダー」、(ロ)既存の業務パ ター ンを見直 し、新製品 ・技術 ・サー ビスを開 発 し、新 しい ビジネスモデルをつ くり、組織改革、働 き方 の効率化な どを含 めて企業の体質 強化 に繋が る一連 の革新的な構想 を打 ち出せ る 「イノベーター」、い)高度 な技能 を持つ と同 時 に、仕事ができ、業績 も優れてい る 「クイ ック ・ラ ンナー」 -な どか らなるとされている (ツエ リチ ェフ 『日本 を豊か にす る3つの方法 一暮 らし方 と働 き方 を変 え、 グローバル化の 波 に乗 る

-

』 [小学館]p.120-129よ り)0 ー 1

(12)

7-第

3

章 中国 ・ア ジア ビジネ スにお ける人材育成上 の課 題

この間題を検討す る上で、われわれは問題を二つに分 けておこう。 まず 「人材

1

f成」のカテゴ リーを 明確 に しておかなければな らない。それに応 じて 「人材育成」上の課題 も異なるか らである。次いで、 そのカテゴ リーに別 して、「人材育成

とくに中小企業 における 「人材育成」の方途を考察 してみよう。

1

.中小企業進 出 と人材養成 ・育成 問題

われわれはまず、「人材育成」 と 「人材養成

という概念の違 いを明確 に しておかなければな らない。 「人材育成」 における人材 とは、一般 に教育 (education)を通 じて得 られる人材の ことを意味 している 以上、「人材育成」 は中長期的な概念であると云える。教育が中長期的な性格を帯 びている以上、 それ に依拠 した 「人材育成」 もまた中 ・長期性を免れ得ないか らだ。 これに対 して 「人材養成」 は、それを 通 じて得 られる人材が即戦力 としての人材すなわち養成 (trainning)を も含めて得 られ る人材の こと を指 している以上、短期的な意味を も含む概念であると理解す るのが妥当であろう。 (1) グローバル企業の段階的進出モデルと人材養成 ・育成 ところで、 中国 ・アジアなかんず く中国への企業進出に伴い企業が必要 としている人材 とは、多 くの 場合両者すなわち 「人材育成」 と 「人材養成」の双方を通 じて得 られる人材のことを指 している場合が 多い。 企業が中国へ進 出す る場合の典型的なモデルを考えてみよう。 (尤 もこの場合のモデルは主 としてグ ローバル企業を対象 に している。) まず、貿易か ら始 ま り、次 いで企業進 出に移行す るが、その場合、 (1)委託加工、(ロ)合弁企業、(,)独資企業へ と段階を追 って進 出 してい くのが通例である。 こうした段階的 進 出に際 しては、人材養成 ・育成の面で も、次第 に高度な人材を必要 とす るために、「人材養成」か ら 「人材育成」へ と順を追 って レベルア ップされることになる (注1)。すなわちそこでは、企業経営 にお ける 「人材育成」の戦略的な意味が明確 にされているのである。 まず、(1)の委託加工の段階では、技術移転が中心課題である以上、①委託提携先か らの研修生受 け入 れによる技術移転、②提携先企業へ短期派遣す る技術指導者の 「養成」、などが中心 となる。 これに対 して、(ロ)の合弁企業へ移行す るに従 って、現地工場の生産管理、経営が課題 となる以上、① 現地企業か らの社内留学 による技術移転、②現地企業へ短期派遣す る技術指導者 の 「養成」、③現地企 業へ長期派遣す る生産管理者及 び経営者 の 「養成」 (注2)、④現地人管理者の 「養成」、な どが重視 さ れる。 さらに、い)の独資企業の段階に至 ると、現地工場の独 自経営が課題 とされるので、①現地企業か らの 社内留学 による技術移転、②現地企業へ短期派遣す る技術指導者の養成、 に加えて、 さらに③現地企業 へ長期派遣す る経営者の 「育成」、④現地人管理者の 「育成」、な ど経営者及び現地管理者の 「育成」が 課題 とな って くる (注

3

)。 そ して、 こうした経営者 ・現地管理者の 「育成」を通 じて事業拡張が可能 となるが、その場合 には、 さらに、①販売網の構築ができる人材の 「育成」、②現地人経営者の 「育成

な ども課題 とされなけれ ばな らな くなる。 要す るに、 中国 ビジネスが企業経営 において重要性 を増す につれて、「人材育成」 もまた経営戦略上 重要性を強めることになるのである (注

4)

(13)

(

2

)

急務 とされる中小企業の人材養成 ・育成 ところで、上記の段階的進 出モデルは大企業の場合 には適用可能であるが、中小企業の場合 には適用 困難であるということは既 に示唆 しておいたところである。 中小企業の場合 には、実際には、取引先で ある親企業の進 出を受 けて、突然ない し短期間に進 出を迫 られ るケースが多い。 その結果、「人材育成」 は無論 のこと、「人材養成」す ら、 その暇がないまま一気 に上記の段階を駆 け上 ることを求め られるこ とになる。 そのことは、人材養成 ・育成 において企業経営戦略上の対応が成 り立たないばか りか、進 出 その ものが経営破綻 に繋が りかねないということを意味 している。要す るに、中小企業の場合 には、人 材育成 ・養成 とりわけ経営戦略上重要な 「人材育成」が中長期的な課題である以上、 ある程度時間的な 余裕を必要 としているにもかかわ らず、取引先である大企業に付随 して進 出を余儀な くされる場合には一 実際には大部分がそうであるが-進 出によって短期的ない し突然の対応 を迫 られ るために、時間的な ミ スマ ッチが経営上の命取 りにな りかねない、 ということである。 つま り、 ビジネスチ ャンスである筈の中国 ビジネスが、大企業 とは逆 に中小企業にとっては、人材確 保 に失敗すれば、たちどころに経営破綻 というリスクを負 うことになる、 ということを意味 しているの である。 以上のことか らも、中小企業の中国 ビジネスにおいては、人材養成 ・育成が如何に死活的な問題であ るかが容易に窺い知れよう。そこで中国 ビジネスにおいては、 とくに中小企業の人材養成 ・育成が急務 とされているのであるが、そのためにはどのような方途があるのだろうか。次 にこの点を検討 してみよ

う。

2

.人材養成 ・育成 の方途

人材養成 ・育成方法 に関 しては、大 き く分 けると二つの方法がある。一つは企業を主体 とす るもので ある。 この場合 は、 どち らか と云えば、「養成」が中心である。 もう一つは高等教育機関 とくに大学を 通 じた ものである。云 うまで もな くこの場合 は、「育成」が中心である。 まず前者か ら見てみよう。

(

1

)

中小企業を対象 と した人材養成支援 企業を主体 とす るものの中で も、 ここでは中小企業 に焦点を当てて観てみよう。その場合 も、全国 レ ベルで展開 しているもの と、地域 レベルの ものとがある。 (丑 全国 レベル 全国 レベルでは、政府 による支援を伴 った ものと、 日本商工会議所の支援 によるもの とがある。

A.

公的支援制度 まず前者の公的支援制度の活用 について。中小企業 においては、人材養成 ・育成を個別企業独 自で行 うことは極めて困難である。 そこで公的支援制度を如何に有効 に活用す るかが、企業経営上重要なカギ を握 っている。そ うした観点か ら、中小企業が活用可能な公的支援制度を概観 してお くと付表

1

の通 り である。 さらにそれを企業の事業展開に対応 して事業別 に分類す ると、以下の通 りとなる。 外国人研修生 の受 け入れ支援 としては、(1)海外職業訓練協会

(

OVTA)

の国際人材育成セ

ミナ-(

Wo

r

l

dWi

deAdv

e

nt

ur

e

)

、(ロ)日本貿易振興会

(

JETRO)

の国際イ ンター ンシップ制度

(

I

nc

ube一a

p

an)

、再国際研修協力機構

(

JI

TCO)

の支援 ・助言事業 -などがある。

現地 に派遣す る技術指導者 の養成 ・育成 としては、

(

1)

OVTA

の海外派遣援助制度、(ロ

)

OVTA

の シル

(14)

9-バーコンサルタン ト事業 -などがある。

現地従業員の技術 レベル等の向上 に対 しては、(1)海外貿易開発協会

(

Joュ

)

C)

の比川1!I・門家派遣事業く (ロ)海外技術者研修協会

(

AOTS)

の受 け入れ研修、

MJI

TCO

の外国人研修制庇

F)

OVTA

の受 け入れ 研修、

桐AOTS

の海外研修 一な どがある。 現地管理者の養成 ・育成 に関 しては、川 中小企業総合事業団の現地管理者セ ミナー、(ロ

)

AOTS

の受 け 入れ研修及び海外研修 一な どが挙げ られる。 問題 は、 これ らの公的支援制度を如何 に有効 に活用す るかである。それは、中小企業がこれ らの支援 政策を自らの企業進出において どのように活用す るのか、 という点に専 らかか っていると云えるが、、こ の間題 に関 して、通産省の九州経済産業局 は、 フローチ ャー トを通 じて体系的なア ドバイスを行 ってい るので、参考 までにそれを掲げておこう (付表2参照)。

B.

日本商工会議所の支援事業 日本商工会議所 も中小企業の中国 ビジネスとりわけ人材養成 ・育成支援 に対 して関心を示 し始めてい る。 しか しなが ら、それはまだ明確なコンセプ トを形成す るのには至 ってお らず、従 って支援政策 とし ての確たる姿を とってはいない。 例えば、「人材確保 ・育成」 自体 に関 しては、(j)教育のあ り方、(ロ)外国人労働者問題への対応、再人 材マ ッチ ングの推進、国無料 ・有料職業紹介事業への取 り組み-な どを挙 げてお り、積極的な関与を打 ち出 している (付表 3参照)。 さらに 「海外市場の開拓 一束 アジア重視

-」

として、(1)輸 出促進、(ロ)海外投資支援、

い)

FTA

(自由 貿易協定)の推進、(I)海外経済界 との交流促進、(a) 模造品等知的財産対策、N地域における国際化事業-などについて具体的な政策を掲げている (付表

3

参照)。 問題 は、中国 ビジネスにおける人材養成 ・育成 に関 しては、上記の二つの課題すなわち 「人材確保 ・ 育成」 と 「海外市場の開拓 一束 アジア重視 -」のマ トリックス化が必要であるが、残念なが ら、今の と ころそこまでは具体的な展開はみ られない。 しか しなが ら、 日本商工会議所が、各地域の商工会議所会員企業の参加 によって 「中国 ビジネス研究 会」 (注

5

) を立 ち上 げようとしていることか ら観て も、 同会議所 もやがてマ トリックス的展開に向か うことが期待 される。 (多地域 レベル 中小企業 に対す る地域 レベルでの中国 ビジネス人材養成 ・育成支援 としては、 とりあえず次の二つを 挙げておこう。一つは福岡県及び福岡市が構造改革特区として提案 している 「福岡アジア ビジネス特区」 構想である。二つには、神戸市が推進 している 「新たな中国人街形成促進」構想が挙 げ られる。

A.

福岡地域 「福岡アジア ビジネス特区」構想 まず前者の 「福岡アジア ビジネス特区」構想 とは何か。それは、福岡地域の地域的 ・歴史的 ・経済的 な特性を活かす ことによって、 アジアでの ビジネス展開を 目指す国内外の企業やベ ンチ ャー企業の福岡 集積を加速 させ ることであるとし、そのためには、抑外国人研究者の活用等産学連携の促進、(ロ)博多港 の国際ゲ ッ トウェイ機能強化 -の二つを主要手段 として採用す るとしている (注

6

)。 このことか らも明 らかなように、福岡地域 はアジア ビジネス展開のために福岡集積をさらに強化 しよ うとしているのだが、注 目を要す るのは、そのための手段 として人材 とりわけ知的人材の内外 に亘 る結 集を打 ち出 していることである。 そのために、同地域 はさらに具体的に、(1)九州大学 ビジネススクール の活用、(ロ)アジア九州 ビジネススクールの設置、い)高度

I

T

人材 アカデ ミーの設附など、鍾学官連携方

(15)

式を提案 している (注

7)

占へ 要す るに、 中国 ・ア ジア ビジネスに向けての人材養成 ・育成支援が、地域 レベルではすでに知的人材 の内外 に亘 る結集 と関連づ け られている、 ということを このことは物語 っているのである。

B.

神戸市 「新たな中国人街形成」構想 神戸市の 「新 たな中国人街形成」構想 も福 岡地域の構想 とある意味では軌 を一 に している。 それは、 中国 ビジネス人材育成 を、 中国か らの研究者招塀 と留学生受 け入れ (留学生 につ いては第

4

章 で検討す る) によって形成が期待 され る中国人研究者 ・学生を中心 とす る "知的中国人街"構想 に結 びつ けるこ とによって、中国 ・アジア ビジネス集積 における神戸地域の主導権 を一気 に確立せん とす るものである、 と云 って も決 して過言ではないようだ (注8)。 それは同構想の生 い立 ちか らも領 けよう。 同構想 は、 そ もそ も神戸市の 「上海 ・長江交易促進 プロジェク ト」の一環 と して捉起 された。すなわ ち、 同プロジェク トは、川上海 ・長江 と直接神戸を結ぶ専用船 を開発 ・建造す る、(ロ)神戸港 に専用船 に よる直接交易 を図 るための 「港 区」 を設定す る、再 その背後 に 「中国人街」 (中国 ・ア ジアを主 な対象 に した幅広 い交易 ・交流拠点) を整備す る-とい うものである (注 9)。要す るにそれは、神戸地域 と 上海地域 との提携 によって、阪神 ・淡路震災 によって蒙 った壊滅的な打撃 さらには引き続 き直面 させ ら れた 日本経済の長期にわたる不況か ら神戸地域を再起 ・再生 させ るために、同地域の経済界が中心 となっ て促進 した 「起死回生策」 に他な らないのである。 問題 は、新 中国人街形成構想が、上記の 「起死回生策」 の一つである新 中国人街構想の具体化である ということだ。つま り、新 中国人街形成構想 は、単な る人材養成 ・育成構想ではな く、神戸地域が 自ら の浮沈を賭 けて取 り組んでいるものだ と理解 され るべ きなのである。 しか もその内容が、 中国 ビジネス における人材養成 ・育成を知的集積形成 と結 びつ けているとい う意味で画期的かつ先駆的な構想である と云 うべ きであろう。地域産学官協力 による地域経済再生計画であるという点で、それは、われわれに も極 めて重要な示唆を与えて くれているのである。

(

2

)

大学を通 じての人材育成 中国 ・アジア ビジネス人材育成 は、大学 においては高度専門職業人教育 として位置づけ られている。 すなわち

MBA

が中心的な役割を負 っているのである。 だがそれは、全 国的な レベル と地域 レベル とに 分 けて考え られ るべきである。既 に述べたように、中小企業の場合 には、中国 ・アジア進 出 も集研地域 企業が中心 をな してお り、従 って人材育成 も地域 を基盤 に した育成が求 め られているか らだ。 そこでま ず全国的な レベルの

MBA

を概観 し、次 いで地域

MBA

問題 を取 り上 げてみよう。但 し後者 に関 しては、 北東 アジア ビジネススクール構想 に係わる新潟県の場合を取 り上 げ、後掲の [補諭]で改めて考察す る ことに しよう。 全国的な レベルでの中国 ・ア ジア ビジネスに関わ る

MBA

の代表的な もの としては、九州大学の ビジ ネススクール と早稲 田大学 のそれを挙 げることができよう。 (丑 九州大学 ビジネススクール 九州大学 ビジネススクールは、

MBA

取得可能 な専 門職大学院 と して

2

0

0

3

4

月 に発足 した。詳細 は 付表

4

の通 りであるが、それは二つの特徴を備えている。一つは技術 と経営に通 じた ビジネスプロフェッ シ ョナルの育成であ り、二つには、 ア ジア ビジネス戦略 に関わ るプロフェッシ ョナルの育成である。 と くに後者つま りアジア ビジネスのプロフェッシ ョナル育成 に本格的 に乗 り出 した とい う点では、後述す る早稲 田大学 と並んで 日本では先駆的な試 みであると云えよう。 しか もアジア ビジネスの中では、 と く

- 2

(16)

1-に中国 ビジネスが重視 されてお り (付表

4

参照)、 その意味で、 中国 ビジネスの プロフェッシ ョナル育 成 と しては画期 をな していると云 うべ きであろ う。 ② 早稲 田大学 ビジネススクール 西 の九州大学 に対 して東 では、早稲 田大学がやは り中国 ・ア ジア ビジネスのプロフェッシ ョナル育成 に取 り組 んで い る。 同大学 で は既 にア ジア ビジネ スに特化 した ビジネスス クールを開溝 して いるが、 2003年4月か らは、 さ らに新 たに中国 ビジネスに特化 した コースを設 けている。 同大学 は、 そのために 中国の清華大学 と提携 してMOT (ManagementOfTechnology;技術経営学) コー スを設置 した。 しか も同大学 は、清華大学 との提携 を、単 にMOTコース開設 だけに終わ らせず、学部 レベルでの提携、 教材 の共 同開発 さ らには卒業生 の起業支援協力 な ど、 日中共生型 ビジネス形成 に向けての ``ァ ジア共生 型教育 システム"へ と発展 させてい こうとしているようだ (注10)0 なお早稲 田大学 はさ らに、社会人 と くに中国 ビジネスに携 わ っている現役 のスタ ッフを対象 に して、 対 中進 出企業 の ビジネス専 門 コース として 「対 中 ビジネス即戦力 の養成」講座 を開設 している (注11)。 (注1) 信用 中央金庫 ・総合研究所ア

7業務相談室 『信用金庫取引先 における海外進 出 と人材育成 一 人材育成 における公的支援制度 の活用 -』(2002年8月21日)[URL]よ り。 (注

2)

この場合 の 「養成」 は、生産管理 と自社権利 の確保 を中心 とした 「管理」 を中心 に して行 わ れ ることにな る。 (注

3)

この場合 には、経営 ・管理 に関す る全 ての事項 が対象 とな るので、 「養成」 で は済 まされな くな り、新 たに 「育成」が必要 とな る。 (注

4)

上記 の信用 中央金庫 ・総合研究所アシ

ァ業務相談室が行 った信用金庫取引先 の海外進 出状況調 査 において も、進 出企業 の問題点 と して最 も多 く解答 があ ったのは、 「現地社員 の教育」 で あ った とされている (信用 中央金庫 ・総合研究所アシ十7業務相談室 『信用金庫取引先 における 海外進 出 と人材育成 一人材育成 における公 的支援制度 の活用 -』 (2002年 8月)[URL]よ り)。 この点 は、JETRO中国投資 ア ドバ イザーで あ る藤 田氏 が行 った中国 日系企業 に対す るア ンケー ト調査で も同様 の結果が報告 されている。 同氏 の調査 によれば、「現地人の教育 ・ モラル向上」(45%)と 「有能な人材採用 ・定着」(45%)とを合わせ ると、やは り人材確保 ・ 養成 問題 が経営上 の最重要課題 とな っているとされ る (藤多庸雄 『中国での人材育成 と人事 労務管理』(2004年2月27日)[URL]よ り)。 なお、現地企業 における従業員 の研修 ・教育 につ いて は、藤多庸雄 『中国での人材育成 と人事労務管理』 (2004年 2月27日)[URL]の 他、在 中国商工会議所調査委員会 『中国経済 ・産業 の回顧 と展望』第 Ⅲ部第5章 「日本企業 の中国 における人材養成」 が参考 にな る。 (注5) 日本商工会議所 『地域産業空洞化特別委員会 中間 と りま とめ』 (2002年 6月20日)[URL] 参照。 (注6) 福 岡県及 び福 岡市 『構造改革特別 区域計画』 [URL]よ り。 (注7) 同上 よ り。 (注8) 新 たな中国人街形成促進研究会 『新 たな中国人街形成促進研究会

用て

!

,

'

n(2001年2月)秦 照。 (注9) 『上海 ・長江交易促進 プロジェク ト』 [URL;

(17)

(注

1

0

)

日本経済新聞

2

0

0

2

1

2

7

flJ-7.照

(荏ll) 早稲 田大学 ビジネスス クー ル ・(/-

∴;

・グ/†

糾 l

:1-ス [URL]参照。

(18)

3-第

4

章 中国 ・アジア ビジネ ス教育 の一環 と しての留学生教育

中国 ・アジア ビジネスにおける人材育成 という観点か ら、外国人留学生なかんず く中国 ・アジア人留 学生教育を見直 してみようというのが本章の課題である。 そこで ここでは中岡 ・アジア留学生 に焦点を 当てて、(1)世界的に急増す る中国人留学生動向、(ロ)中小企業 ・集積地域活性化の一環 としての中国 ・ア ジア留学生受 け入れ政策、再新潟県の高等教育機関とくに本学における留学生受 け入れの現状 と問題点-などの検討を通 じて、与え られた課題 に迫 ってみよう。

1

.国家戦略化 す る中国人留学生問題

中国 ・アジア人留学生を国家戦略的に位置づ け直そ うと試みている国 としては、受 け入れ国の代表例 としてイギ リスを挙 げることができるし、送 り手国 としては当の中国 自体 に注 目しておかなければな ら ないであろう。

(

1

)

戦略的受 け入れを進めるイギ リス イギ リスにおける中国人留学生 は、 中国本土か らは約

8

万人、台湾 ・香港か らは約

1

万人 に及んでお り、全体 として10万人 に近 い数 に達 しているとされるが (注1)、注 目すべきは最近の急増ぶ りである。 イギ リス政府の調べでは、中国本土か らイギ リスの大学への留学申請 は2001年 には約1万人であったの が2003年 には3万2,000人へ と大幅に増加 してお り、 さらに英高等教育統計庁 によれば、LSE (London SchoolofEconomicsandPoliticalScience) ・ケ ンブ リッジ ・オ ックスフォー ドの3校 に限れば、 2000年の200人か ら2003年 には745人 に急増 しているとのことである (注2)。 こうした急増の背景 には、財政難 に嘱 ぐイギ リスの大学経営にとって留学生 とくに中国人留学生が貴 重な収入源であるという事情があるということも否定 はできない。だがそれだけではないことも確かで ある。 そこには、財政問題を超えて世界中か ら英知 -とくに台頭著 しい中国 ・アジア人の英知 -を結集 す ることが大学の将来を左右す るのだというイギ リスの大学人の判断が伏在 しているということも見落 としてはな らないようだ。すなわち 「海外か らの 『知』を吸収 して研究 ・財政水準を維持す る」 (注3) というのがイギ リス人の 「戦略」であるという訳だ。 (2) 「海亀族」の積極的活用に転 じた中国 「海亀族」 とは海外帰国者のことであるが、一般 には海外留学か らの帰国者のことを指 している。帰 国 した 「海亀」 は、総計

5

0

万人を超える留学生の うち年間

2

万人を超えているとされるが (注

4)

、そ れは中国政府が彼 らの帰国に対 して積極的な優遇策を採 っているか らである。 中国政府 は、 とくに天安 門事件以降増加 した海外留学生 に対 して、 当初は自国にとって好 ま しか らざる人物の ``国外追放" とい う観点でみていた。だがその後、 自国の急速な経済発展 につれて、人材不足 とりわけ知的人材不足を補 うために、海外留学生の帰国促進 に転 じざるを得な くな ったようだ。すなわち中国政府は、 "国外追放'' とは逆 に、川研究や起業の資金を援助す る、(ロ)帰国後の戸籍問題の解決を計 る-など様 々な優遇政策を 講 じて、彼 らの帰国を奨励す るという中国人留学生の本国回帰政策を採用す るに至 ったのである。 その 結果、帰国者が大量 に現れたという訳である。 但 し見逃せないのは、 中国政府の場合、単 に留学生を帰国させ るというだけに止 ま らず、 さらにそれ を通 じて技術や経営 ノウハ ウの自国への移転を も計 ろうとしているという点である。 中国政府 は、 自国

(19)

海外留学生の海外 における勤務を奨励 しているだけではな く、海外の技術 ・経営 ノウハ ウの自国への移 転 に国家 レベルで も動 き始めている。すなわち中国政府 は、国家重点大学の産学官協力を促進 し、それ を通 じて 「校弁企業」を起 こし、 こうした移転を計画的に推進 しようとさえ しているのである。例えば、 校弁企業 の一つである 「復旦大学科学技術公司」 は、 「日本国際協力機構」 と提携 し新 たに合弁会社

(「上海 中和軟件有限公司

[

S

ha

ng

ha

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,

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]

を設立 し、 中国人

S

E

(システムエ ンジニア) を養成 ・育成す るために 日本 の ソフ トウェア開発企業 の

OJ

T

研修を積極的に活用 し始 めて いるとされ る (注

5

)。つま りそれは、 中国が 自国の海外留学生や研修生 を使 ってわれわれが課題 とし ている ``中国 ・アジアビジネスにおける知的人材育成''に対 して逆 位積極的に取 り組み始めているとい うことを物語 っている。 か くして、人材 とくに知的人材のボーダ レスな確保 は、今や中国政府 にと〉っては 「国家戦略」 にす ら な りつつあるのである。 (3) 日本の中国 ・アジア留学生受 け入れ状況 では、 日本の中国 ・アジア留学生受 け入れについてはどうか。 まず受 け入れ状況か ら観ておこう (注

6

)。 日本の海外留学生受 け入れ数 は、

2

0

0

3

年度で

1

0

9,

5

0

8

人 に達 している。受入数 を教育機関別 にみる と、大学 (学部)

5

2

,

9

81

人、大学院

2

8,

5

4

2

人、専門学校

2

1

,

2

3

3

人、短大

4,

4

7

9

人、高専

4

5

1

人、 準備教育課程

1

,

8

2

2

人 とな っている。 出身地別では、 アジアが全体の

9

2

.

8%

を占めてお り、国 (地域)別では中国が

7

81

4

人 と全体の

6

4

.

7

%を占めてお り圧倒的な シェアを誇 っている。 次 いで韓国が

1

5

,

8

7

1

人で

1

4.

5%

、台湾が

4

,

2

3

3

セ4

.

5

%をそれぞれ占めている。従 って上位

3

カ国だけで

8

3%

と日本の留学生受 け入れの大部分を占めている ことになる。 なお増加数で も

2

0

0

3

年 には、全体で

1

3

,

9

5

8

人 (前年度比

1

4.

6%

増) と大幅に伸 びているが、 その 中で も中国が

1

2

,

2

81

(

2

1

%

増) とやは り最 も大幅な増加を記録 している。

2

. 中小企業 ・集積地域活性化政策 としての中国 ・ア ジア留学生政策

(

1

)

神戸市 「新たな中国人街形成」構想 と中国 ・アジア留学生政策 では 日本 は中国 ・アジア留学生受 け入れをどのような 「戦略」で捉えているのか。 この点を中小企業 の中国 ・アジア ビジネスにおける人材育成問題 に絞 って考えてみよう。 この間題 に対 してわれわれに重 要な示唆を与えて くれるのは、前述 した神戸市の 「新たな中国人街形成」構想である。 同構想 は、それが阪神 ・淡路震災 によって壊滅的な打撃を被 った神戸地域の産業 ・企業 -その多 くは 中小 ・零細企業か ら成 り立 っている-の復活 ・再生を賭 けて推進 されている 「上海 ・長江交易促進 プロ ジェク ト」の一環 として打 ち出されている以上、そ もそ も中小企業 ・産業集積地域の再生を至上命題 と しているか らである。 こうした 目的に沿 って同構想は以下の提案を行 っている。 第一に、中国 ・アジア関迎の ビジネスタウンを形成する。そのために、中国 ・アジアか らヒ ト・モノ ・ 情報を呼び込み、 グローバルな ビジネスを双方向で展開できる拠点 として、「新たな中国人街」 を形成 す る。 第二 に、 中国 ・アジアの人梓I草

/

卜を 「祈たな中国人街」の中心的な担 い手 として期待す る。「新たな

- 2

(20)

5-中国人街」形成 のためには、 中国 ・アジアの優秀な人材や先端的な企業の受 け入れが是非 とも必要であ るが、 そのためには中国 ・ア ジアの優秀で意欲 あふれ る留学生 や留学生OB及 び本国で一定の学業 ・就 業 を経験 した次代を担 う若者達が起業 ・就業す る場所 を提供 しなければな らない。 第三 は、そのためには、「新たな中国人街」の中核的な施設 として、「中国アジア留学生起業セ ンター」 を行政 の責任 において整備す る。 そ こで行政 としては、(1)中国 ・アジア留学生 の学業終了後の起業 ・就 業 を促すための 「イ ンキ ュベー シ ョンセ ンター」、(ロ)その活動 を支援す るための 「中国ア ジア留学生起 業基金」、再 さ らにそ こで働 く人 々に対す る 「快適 な住宅」 -な どに対 して支援す る計画 であるとされ る。 (2)新中国人街構想の意義 以上か らも解 るように、神戸市 の新 中国人街構想 は、神戸地域の産業 ・企業再生 のために中国 ・アジ アの留学生 を積極的に活用 しようとい うものである。 従 って この構想 の成否 は、神戸地域の再生 にとっ て重要であるばか りではな く、 中国 ・ア ジア ビジネス人材養成 におけるヰ 国 ・アジア留学生 の活用 とい う観点か らも注 目しておかなければな らないのである。 (注

1)

外 岡秀俊 「留学 ブーム 英 中に 『戦略』」 (朝 日新聞

2

0

0

4

4月 4

日) よ り。 (注 2) 同上。 (注3) 同上。 (注

4)

朝 日新聞

2

0

0

5

2且1

5

日よ り。 (注

5)

茂住和世 「異文化環境 に適応す る人材 に求め られるもの一 日中合弁企業 における社員研修の 事例か ら-

[

URL]

参照。 (注

6)

文部科学省

URL

よ り。

参照

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