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シャーロット・ブロンテ初期作品研究(3) : アングリア伝説にみる人物造形とテーマの形成(承前)

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(1)

岩 上 は る 子 (1991年6月29日受理)

C.女

傑型 ヒロイン

C-1

ゼノウビア・ エル リン トン (Zenobia Ellrington) 初期作品の最初 に登場す るヒロインはマ リアン・ ヒュームをはじめ とした人形型である。 それ と 対照的なのが妖婦型お よび女傑型 のヒロインたちであった。女傑型 のひ とリゼノウビア・ エル リン トンは初期作品全体 に登場 し主要な位置 を占めているが

,彼

女が主人公 となった物語 はない。ゼノ ウビアが最初 に登場す るのは「アル ビオ ンとマ リーナ」 (`Albion and Marina',lo.1830以 下

AMと

略記

)で

,そ

こで は主人公 のマ リーナ (=マ リアン

)と

ことごとく対照的に描かれている。例 えば 純 白あるいは新緑色 の衣 をまとった色 白の華奢で清楚 な美少女マ リーナに対 して

,ゼ

ルジア

(=ゼ

ノウビア)は浅黒い大柄 な体 を羽根飾 りと真紅 のベルベ ッ トの衣装で包んだ妖艶な女性である。1)ま たマ リーナは父親 と森 の奥 に隠棲 して「森 の妖精」 にた とえられているのに対 して

,ゼ

ル ジアはグ ラスタウンの社交界 に君臨 し

,そ

の才媛振 りは「現代 のクレオパ トラ」あるいは「ヴェル ドポ リス のスタール夫人」 と称 えられている。分 マ リーナの造形がスコッ トのロマ ンス とりわ け『湖上 の麗人』のエ レンに基づいていることは, 前回すでに考察 した。純真無垢で可憐 なマ リーナに対 して

,ゼ

ルジアは誇 り高 く情熱的な強 い個性 の持主 になっている。物語でゼルジアはマ リーナの婚約者であるアル ビオン

(=ア

ーサー・ ウェル ズ リ

,後

の ドゥアロウ侯爵

)を

その華麗 な容姿

,巧

みな話術

,臆

す ることのない態度で接 して誘惑 す る。 こうしたゼルジア (ゼノウビア

)の

像 についてC・ アングザ ンダーは

,シ

ャー ロッ トが キー ス リーの図書館か ら借 りて読んだエ ドワー ド・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』

(Edward Gibbon,勁

ι 財Sカヮ げ 励ι Dιεttι α%′ 員泌 げ 励ι Rοttα

鬱れ,1776-1788)に登場す るパル ミラの女王ゼ ノビアの影響であることを指摘 している。

9教

養 の高い美貌の女王ゼノビアの面影 は

,AMの

ゼルジ アのローマ人 のような端正 な目鼻立 ち

,美

しい黒髪や深い瞳 ばか りでな く

,ア

イスキュロス を原典

(2)

152 岩 は る 子

で読 む とい う豊かな学識 にもうかが える。 またしばしば指摘 されるスタール夫人の影響 を

,ゼ

ノウ ビアの社交界 における華やかな姿やブルー・ ス トッキング としての活躍ぶ りにみることがで きる。 実在 のスタール夫人 (Anne Louisa Germaine Necker,BarrOne de StaёI―Holstein,1766-1817)

,フ

ランス革命前 のパ リのサロンの中心的存在でウェリン トン公爵 とも親交があ り

,バ

イロンが `時代 の知性'と 称 えたフランス・ ロマ ン主義 の先駆 けをした女流作家であった。 ウェ リン トン公爵 やバ イロンはシャーロ ッ トが崇拝 していた英雄的存在であ り

,そ

の彼 らと対等 に接す るスタール夫 人 はシャーロッ トの憧れの女性像であった と推察 され る。 だが シャーロッ トが彼女のゼノウビアに 取 り入 れたの は

,そ

の名前

,容

姿

,華

やかな社交界での姿 に とどまっていた。 なぜな らシャーロッ トが描 こうとした ものは男勝 りの知性で も教養で もな く

,そ

れす ら無 にして しまう激 しい女の情念 だったか らである。 ゼノウビアの場合

,そ

の情熱 は 〈嫉妬〉 とい う形で もっ とも劇的に表現される。

AMか

ら2ヵ月 後 に書かれた「 ヴェレオポ リス訪問 :第

1巻

」(`ViSits in Verreopolis,volume l',12.1830)に はマ リアンに対す るゼノウビアの凶暴 ともいえる嫉妬が描かれている。その第

2章

にはアーサー とマ リ アンの睦 まじさを語 るチャールズに怒 ったゼノウビアが

,彼

を階段か ら蹴落 とす とい う場面がみ ら れ る。 さらに第

3章

で は気絶 したチャールズがバ ッ ド大佐 の家で介抱 され

,そ

こで大佐 の劇作「恋 がた き」(`The Rivaぼ

)を

読む といった展開になる。劇 で は嫉妬 に駆 られたゼノウビアがマ リアン に向かってナイフを振 りかざし

,そ

の場 に登場 したアーサーに

,マ

リアンで はな く自分 に愛 の証 の 春薇 の花 を贈 って くれ るよう哀願す る。

Give me the rOse,Lord Arthur,fOr methinks/1 merit it more than my girlish rival;

I pray thee now grant my request, and place/That rose upon my forehead, not on hers,

Then、vill l serve thee am my after_days/As thy poor handmaid, as thy humblest slave,

Happy tO kiss the dust beneath thy tread, / TO kneel submissive in thy lordly presence,4)

ゼノウビアは容貌

,知

,身

分 などあ らゆる点でマ リアンに勝 っているという自負か ら

,ア

ーサー の愛 を受 けて当然 だ と思い込んでいる。その一方では愛のためには誇 りを捨て

,彼

の足元 にひざま づ くことも厭わない とまで思いつめている。 ここではゼノウビアの鬼気迫 る気配 に恐れをなしたア ーサーが

,望

み どお りに者薇の花 を与 え

,ゼ

ノウビアが勝 ち誇 ったように舞台 を去 り

,芝

居 は幕 を 閉 じる。 日頃 は才媛 の誉れ高いゼノウビアが恋 に我 を失い

,ま

た人々の尊敬 を集 めるアーサーが女 性 たちに翻弄 され る様 を

,バ

ッド大佐 とチャールズ は恋の喜劇 として舞台の袖で眺 めてい る。

AMの

続編である「婚礼」 (`The Bridal',7.1832)に は

,報

い られない愛のために狂気 に駆 り立 て られてい くゼノウビアの姿がある。 ドゥアロウ侯爵 とマ リアンの恋人たちを主人公 としたこの物

(3)

語 は

,同

時 にゼノウ ビアの嫉妬 の物語 として読む こともで きる。物語 の梗概 は次の とお りである。 ドゥアロウ侯爵 とマ リアンはヴェル ドポ リスを遠 く離れた田舎 の別荘 に滞在 している。ふた りの 館 を訪ねた弟チャールズは

,そ

こで「命 より愛 し く思 う ドゥアロウ侯爵のつれない仕打ちを

,今

は 我 これを許す」 とい うゼノウビアの銘 の刻 まれたアポロ像 を目にす る。 それには次のようない きさ つがあった。すなわち侯爵 に思いを寄せていたゼノウビアは

,彼

がマ リアンと結婚す ると聞 き

,狂

乱 して彼の前 に現れ

,結

婚 を思い とどまるようにか き口説 く。聞 き入れ られない とわかったゼノウ ビアは

,ふ

た りの結婚 は不幸 をまね くと警告 して忽然 と姿 を消す。 その後 もなお彼女 は侯爵への思 いを断ち切れず

,次

には妖術 をつかって彼 に愛 を誓わせ ようとす る。だがそれ も失敗 に終 り

,そ

れ か ら

1週

間後マ リアンとドゥアロウ侯爵 は結婚式 をあげる。ゼノウビアは傷心の うちにも

,や

がて 常軌 を逸 した自分 の行動 を恥 じて

,先

の銘 を刻 んだ像 を ドゥアロウ侯爵 に贈 ったのである。 ゼノウビアの姿が とつぜん現れた り消 えた り

,あ

るいは妖術 をつか うといった ことは

,か

つての グラスタウン物語 の魔法の世界 を思わせ る一方

,AMに

おいてアル ビオ ンの夢枕 に立 ったマ リーナ と同様

,女

の愛の情念 の深 さを意味 させているとも考 えられる。 ドゥアロウ侯爵 に対す る凄 まじい ばか りの愛執 に

,ゼ

ノウビアはヴェル ドポ リスか ら500マイル もの道 の りを歩いて

,彼

の前に狂乱 し た姿で立ちはだか る。

Her head was bare,her tam person was enveloped in the tattered remnants of a dark velvet mantle.Her dishevemed hair hang in wild elf― locks over her face,neck and shoulders,alrnost

conceahng her features, which were emaciated and pale as death. IIe stepped back a few

paces,startled at the sudden and ghastly apparition.She threw herself on her knees before

him,exclaiming in wild,rnaniacal accents:`A/1y lord,tem me truly, . . .4/here you have been

. . . have you seen that wretch Marian Hume?Have you spoken to her?ヽ 「iper!ヽ「iper1 0h, that l could sheathe this weapon in her heartt'5)

ここに描かれた髪振 り乱 し幽鬼のように青 ざめ憎 しみに燃 えたゼノウビアの姿 は

,後

のロチェスタ ーの狂人 の妻バーサ を紡彿 させ る。 ラチフォー ドが検証 してい るように「背が高 く色 の浅黒い堂々 とした感 じの美人 であること」「ラテン系のクレオールの血筋 を引いていること」「母親がふ しだ ら な身持 ちの悪い女であること」な ど

,ゼ

ノウビア とバーサには一致す る点 を多 く指摘で きる。 さら に結婚式 を控 えたジェイ ンの寝室 に現れヴェール を引 き裂 く姿 (虎

%2つ

能,Ch.25)や 屋根裏部屋 を 訪れた人び との前でロチェスターに襲 いかかる姿 (乃″.,Ch.26)の 描写 には

,先

の引用 と重なる形 容 も見 られる。0 だがゼノウビア とバーサの最大の共通性 はそうした外見や状況 の類似 という以上 に

,彼

女たちが

(4)

154 岩 は る 子

ともに情熱 の犠牲者である点 にある。ふた りはいずれ もが内部 に潜む情熱 を制御することがで きず, 我 を失い狂気 に駆 り立て られてい く。 しか もその情熱 とは明 らかに性的情熱であ り

,シ

ャーロッ ト

はそれ を狂気 につなが るもの として描 いていることがわか る。「婚礼」において ドゥアロウ侯爵の演 説 に感激 したゼノウビアは,ふたたび彼 に向って`My Lord,_.your eloquence,your noble genius,

has again driven me to desparation.I am no longer mistress of rnyself and if you do not consent to be mine and mine alone,I will kill myself where l stand,'7)と 訴 える。ゼノウビアは抑 えきれ

ない情熱に翻弄 され る犠牲者 とい うだけでな く

,み

ずか ら理性 をすて情熱 に身 をまかせ ようとす る 傾向がある。 その ことは「画集 をのぞ く」 (`A Peep into a Picture B00k',56.1834)に おいて も, 語 り手のチャールズ・ ウェルズ リによって `Who would think that that grand form of feminine majesty could launch out into the unbridled excesses of passiOn in which her ladyship not unfrequently indulgesP'0と 皮肉まじりに紹介 されている。′性的要素があまり感 じられないマ リア ン・ ヒューム と対照 をなす ようにして造形 されたゼノウビアは

,抑

制で きない情熱 を体現す る人物 であ り

,シ

ャーロッ トは語 り手チャールズあるいはバ ッドを通 してその姿 を第二者の眼か ら語 らせ ている。 その後ゼノウビアがアングザ ンダー・ パーシィ (こ とロウグ

)と

結婚す る展開 は

,ブ

ランウェル の作品`The Pirate'(2.1833)に ぶた りの結婚が はじめて告 げられていることか ら

,シ

ャーロッ トよ りもむ しろブランウェルの発想 によるもの と思われ る。当時のパーシィは海賊で

,捕

らえた商船 の 船長エル リン トン卿 の娘ゼノウビア と結婚す ることにす るが

,そ

の心境 は

`Why,man,1'm going

to settle dOwn and become Alexander Rogue, Viscount ElringtOn, and husband of the Lady zen。もia Elrington,the bonhiest lass in the Glass tOwn.'9と きゎめて簡単な記述が見 られ るのみ

である。 シャーロッ トが主人公たちの恋愛感情や嫉妬 といった吉悩 を微細 に描 こうとしていたのに 対 し

,ブ

ランウェル は複雑 な内面描専 を試みることはな く

,姉

のテーマにもほ とん ど興味 を示 さな かった。 パーシィはこの結婚 によって貴族 に列せ られ

,ヴ

ェル ドポ リスの上流階級 にカロえられ

,や

がて ド ゥアロウ侯爵の政敵 として勢力 を拡大 してい く。 シャーロッ トはブランウェルの主人公であったパ ーシィを自作 に巧みに取 り込 み

,強

烈な個性 をもつ二人 の男 の対立葛藤 とい う新 しいテーマを生 み 出 していった。「捨 て子」 (`The Foundling1 6.1833)は ドゥアロウ侯爵 とエル リン トン卿 となった パーシィが対決する最初の作品 と思われる。その第

5章

でエル リン トン卿夫妻 はそろってパーテ ィ に出席 している。 ドゥアロウ侯爵に含む ところのあるエル リン トン卿 は

,妻

が侯爵 と踊 った ことに 嫉妬 し

,そ

の仕返 しにマ リアンにダンスの相手 を無理 じいす る。断 られた稟Iは立腹 し妻 に命 じて退 席 しようとす るが

,彼

女 は夫 の命令 には従がわず

,落

ち着 きは らって こう答 える。`I know your

(5)

treatment, You are sensible that when my deter■lination is once fixed it seldoln alters, therefore give yourself no furher trouble,for l will not go home yet.'1の この毅然 としたゼ

ノウビアを支 えているの は, ドゥアロウ侯爵によせ る思いであることが

,続

く`I reSOlved that you

at least should not see me cowed and degraded by him'と ぃう候爵に向けた言葉か ら知 られる。 パーシィの妻 となった今 もなお

,ゼ

ノウビアの心 はかつての実 らなかった恋の相手 に向いているの である。彼女 に とってパーシィとの結婚生活 は

,愛

とは無縁 な相克の日々で しかない。 パーシィはこれ までにも多 くの愛人 をもち (その代表的な女性がルイーザ・ ヴ ァーノン

)す

でに 三度結婚 している。最初の妻 はマライア・ セゴウヴィア という放蕩なイタ リア人女性で

,次

はマラ イア・ ヘ ンリエ ッタ 。パーシィである。彼女 との短いが幸福 な結婚生活 の うちに

3人

の息子 (エド ワー ド

,ウ

ィリアム

,マ

リアン・ ヒュームの幼 い許婚者であったヘ ンリ

)お

よび娘 (ザモーナの妻 となるメア リ・ ヘ ンリエ ッタ

)が

生 まれ る。パーシィは二人 目の妻 を亡 くした後

,16年

にわたる海 賊生活 を経て

,ゼ

ノウビア・エル リン トンとの三度 目の嵐 のような結婚生活 に入 ったわ けである。11) ゼノウビア とパーシィは男女の性別があるだけで

,

ともに過剰 な性的情熱 の持主である点で共通 し ている。 そうしたぶた りがいずれ も譲 らず

,激

しい対立 を繰 り広 げる。女性 を征服 し支配 したいサ ディスティックな性癖 を もつパー シィに とって

,妻

ゼノウビアの不従順 は許 しがたい行為である。 パーティの翌 日

,妻

の侮辱 に怒 りの収 まらないエル リン トン卿 はゼノウビアに対 して

,詫

びなけれ ば殺す といって脅す。内心で は残虐 な夫 の復讐 を恐れていたゼノウビアだが

,さ

げすむべ き夫 の許 しを乞 うことな ど誇 りが許 さない。詰 めよる夫 に彼女 はこう言い返す。

`Base viHain,I scorn your forgiveness,I trample your offers of rnercy under foot;and think

not to harm the A/1arquis―he is far above your power. That bloodstained that crilne―

blackened hand cOuld not harm one hair Of his noble head.Yet know,wretch,that though I

honour hirn thus highly,though 1 look upon hiln as more than man,as an angel,a den god, yet rather than break my faith even with you l would thisinstant fan a corpse at your feet.' 12)

ゼノウビアは夫 をさげすみ激 し く罵 りなが ら

,そ

れ とは対照的に ドゥアロウ侯爵 にはまるで神 に対 す るような崇拝す らしている。た とえ生命 を奪われて も卿 には従わない とい うゼノウビアが

,侯

爵 にはどのような屈辱 にも耐 え生命す ら捧 げて悔 いない とい う。 これはひ とつにはゼノウビアが侯爵 にたい して今 なお断ち切れない思いをもち続 けているために

,現

在のエル リン トン界Ⅱとの生活が耐 え難 く

,夫

に反逆す るのだ とも考 えられ よう。 またひ とつにはゼノウビアにとって侯爵 はもはや手 の届かない人 であ り

,彼

女の愛が報い られ る望 みはない。だがそれゆえにいっそ う彼女 は激 しい愛 執 にか りたて られている。ゼノウビア もまた幸昆い られない愛 に身 を投 じようとす る多 くのアング リ

(6)

156 岩 は る 子 ア伝説のヒロインの一人 なのである。 シャーロッ トはその後 の作品で もしばしばエル リン トン卿夫妻を登場 させている。ふた りは激 し く火花 を散 らす ことも次第 に少な くな り,`The Secret'(11,1833)で はエル リン トン・ ホールの居間 の暖炉 のまえで

,ぶ

た りが読書の感想 を述べあった り夫が妻の髪型 に注文 をつけるな ど

,夫

婦 らし い会話 を交わす場面が見 られる。 また`Passing Events'(4.1836)で は愛人 の もとに行 った きり何週 間 も戻 らない夫 を

,怒

りも嫉妬 も忘れ択独 に くじけそうにな りなが ら耐 えているゼノウビアの姿が 次のように描かれている。

. . . she was weary of sitting up a10ne忠 乙strugghng against thoughts that tamed her pride& lowered her soaring spirits, She had been by herself an day, solitude is not the nurse of haughtiness,ttt the very imperial expression she usuaHy wears had faded gradually fronl her

face,her hair was uncurled a little&drOOping on her neck,10(表 記 は原文 のまま)

パーシィの浮気性 は相変わ らずだが

,ゼ

ノウビアは孤独感か ら夫 を黙 って許 し受 け入れ ようとい う 気持 ちになっている。そうした妻の感情 をしばしばさかなでするパーシィだが

,放

蕩 の末 に疲れ果 て帰 るところは結局ゼノウビアのもとである。次に取 り上げる`Captain Henry Hasti襲 (23.1839)

の最後 の二章 には,今や中年 になったアング リアの主人公たち(ゼノウビア とパー シィお よびザモー ナ とメア リの夫婦)の家庭 における姿が描かれている。男 たちはその性 としてい まだに愛人 を追い続

,妻

たちはそれ を飽 きもせず怒 り嘆 いてみせ るが

,か

つての激 しい情熱 (passiOn)は 時間 と経験 の中で穏やかな愛(10Ve)へ と変わ りつつあることが印象づけられる。10

C-2

エ リザベス・ ヘイスティングズ (Elizabeth Hastings) もうひ とりの女傑型エ リザベス・ヘイスティングズは

,初

期作品のほぼ終期 に位置す る「ヘ ンリ。 ヘイスティングズ」 (`Captain Henry Hastingぎ

,23.1839,以

HHと

略記 )のヒロイ ンである。

`Julia' `Mina Laury' ℃aroline Vernon'な どと同様

,こ

の作品のタイ トル も後 に付 けられた もの

,シ

ャー ロッ ト自身 によるもので はない。ヘ ンリ・ ヘイスティングズはブランウェルの主人公の 一人で

,1834年

か ら35年にか けて書かれた彼 の作品で は

,ア

ング リア王国の新進気鋭の作家

,詩

人 として描かれている。だがその後 の1837年の作品におけるヘ ンリは

,自

分 の才能が認 め られないの は周囲の人々の嫉妬のためであると不満 をか こち

,酒

や賭事 に憂 さばらしをする`a debauched and reckless desperado'へ と変貌 している。10シ ャーロッ トはこうしたヘ ンリを自作 にも導入 し

,た

えば `Julia'(6.1837)で は女性 たちに得意気 に戦争 の手柄話 をするが

,か

らかわれていることに気 づいてむっ とす るといった滑稽 な,だ が 自意識過剰で傷つ きやすい繊細 な青年 として描いている。10

(7)

やがて

HHに

登場す る彼 は上官殺 しの脱走兵であ り

,エ

リザベスはその堕落 したヘ ンリを一人かば う妹 として登場す る。 物語 は

2部

に分かれ

,第

1部

はお もにヘ ンリとエ リザベスの関係 を

,第

2部

はエ リザベス とウィ リアム・パーシィとの恋 を中心 に展開す る。以下 に梗概 を示す。 物語 の語 り手チ ャールズ 。タウンシェン ドはヴェル ドポ リスに向 う馬草 の中で

,ひ

とりの若 いア ング リア女性 と出会 う。美人で はないが知的な瞳の

,ま

た珍 しくザモーナ公爵 に無関心だった こと か ら彼 の注意 を引 く。 ローフテ ィ卿 にお茶 に招かれたチ ャールズ は

,そ

こでゥィルソンと名 のる人 相のよ くない若 い男 に引 き会わ され る。後 日

,警

察 に呼ばれたチャールズはウィリアム・ パーシィ か らその男 について きかれ る。一方,マ ッシンジャー・ホールのエ リザベス(先日のアング リア女性) のもとに一人 の若者が訪ねて くる。彼 は酔 ったはずみに上官 を撃ち殺 し追われ る身 となったウィル ソンこと兄ヘ ンリで

,エ

リザベス とは

2年

ぶ りの再会であった。彼女 はひ とり兄 をかばい続 け

,息

子 を勘 当 した父の家 を出て

,い

らいコンパニオ ンや家庭教師 をしなが ら一人で生計 を立ててい る。 ウィリアムは舞踏会 の席でヴェル ドポ リス随―の美女 ジェイン・ ムーアの付人エ リザベスに目を とめる。髪 をひっ詰 めにし地味 な月艮装 に小柄 な体 を包んだその女性 は

,

とうてい美人 とはいい難 い が

,辺

りの賑 いにひ とり溶 け込 まず

,男

性 に無関心 な様子 にウィリアム は興味 をもった。後 日

,彼

はジェインと雑談 の席で

,エ

リザベスがその平凡 な外見 とは異 な り

,教

養豊かな魅力的な女性であ ることを知 らされ る。 さらに彼女がヘ ン リの妹で

,彼

が妹 のいるマ ッシンジャー・ ホールに潜 んで いるらしい ことを察知す る。ウィリアムはハー トフォー ド卿 と共 にヘ ンリ逮捕 に向う。エ リザベス は意外 にも激 し く抵抗 し

,兄

を逃 そうとす る。だが結局

,ヘ

ンリは捕 らえられ る。 以上が第

1部

の粗筋である。第

2部

で はヘ ンリは裁判 にか けられ るが

,容

疑 は上官殺 しで はな く, ザモーナ暗殺未遂 となっている。1の エ リザベスはザモーナ王妃メア リの もとへ ,兄の助命嘆願 に出か ける。泣いて同情 を引 くことが得策 とわかって はいて も

,誇

り高いエ リザベスにはそれがで きず兄 を熱烈 に弁護 し

,か

えって工妃 の機嫌 を損ねてしまう。裁判 では暗殺計画の全容 と仲間の氏名 を明 かすな らば

,死

刑 は国外追放へ と減ぜ られ るとい う条件 にヘ ンリが応 じ

,彼

は不名誉 な生 を手 にす る。世間 は彼 を卑怯者 とそしるが

,エ

リザベスの兄 に対 す る思いは変わ らない。 事件後

,エ

リザベスはコンパニオ ンをやめ

,自

分 の学校 を経営 し周囲の尊敬 を集 めている。 しか しヘン リのいない今

,彼

女の心の空洞 は埋 めがたい。時お り

,戦

線 にいるはずのウィリアムに思い を馳せて は択独 を慰 める。 その彼 と思いが けず再会 したエ リザベスは

,誘

われて夕暮れの教会 に散 歩する。ウィリアムはエ リザベスの気持 ちを知 って 自分 の ミス トレスになるよう申し込む。「情熱 に 身 をまかせ よ」 とい うウィリアムの言葉 にエ リザベスの心 は揺れ るが

,け

っ きょく彼女 は申 し入れ を退 ける。物語 は今で はすっか り中年太 りになったザモーナ

,夫

の浮気 を愚痴 るゼノウビア

,夫

に 構 つて もらえない とすねた り甘 えた りす るメア リな どの日常的な家庭風景のスケッチで終 っている。

(8)

158 岩 は る 子

これ までのアング リア伝説 はその大半がザモーナ公爵をめ ぐる恋愛物語で

,そ

れ らは主 にヴェル ドポ リスの上流社会 を背景 に展開 されていた。だが

HHで

はザモーナ はわずかに顔 を見せ るが

,物

語の展開にはほ とん ど関係 な く

,政

治抗争 も戦争 も華麗 な社交界の様子 も描かれない。 そ こにある

C)は `an insignificant一unattractive young woman whomy without the bloonl' とセゝう3卜とりてDどで

性の造形である。エ リザベ スはこれ までの ヒロインとは異 なって

,美

人で はな く社会的地位 も低 く, 故郷 をはなれ一人 ヴェル ドポ リスにあって自活 しなければな らない状況 におかれている。従来 の ヒ ロインたちが物語や歴史上の人物 をもとに構想 された ものであったのに対 し

,エ

リザベスはその容 姿,お かれた状況,性格 な どにおいてシャーロッ ト自身 に もっ とも近い ヒロインになっている。19ま た堕落 してい くヘ ンリを一人かばいつづけるエ リザベスに

,当

時のブランウェル とシャーロッ トの 関係が投影 されているとい う指摘 もある。19さらにウィ リアムのプロポーズについて も,シャーロッ トが1839年 3月に親友 メア リ・ ナ ッシの兄ヘ ンリ・ ナ ッシ牧師か ら結婚 を申 し込 まれ

,そ

れ を断 っ た とい う経験が反映 されていることも十分 に考 えられ よう。 このようにシャーロッ トは

HH創

作 に おいてはこれ までの物語 と異 な り

,自

伝的な題材 を用 い

,ヒ

ロインのモデル を自分の内に求めてい た ことが分か る。

HHの

数 ヵ月前 に

,シ

ャーロッ トが800語程度 のエ リザベスの素描 を描 いていたことが,ア レグザ ンダーによって明 らかにされている。2oそ れはミス・ ウェス トという名の家庭教師を描いたもので, 彼女 もまた賑わ うパーティの席 を一人 こっそ りと抜 け出す ような女性である。だが`But it is not in

Society that the real chacacter is revealed'と ぃ ぅ冒頭 の文章が暗示 しているように, ミス・ ウェ

ス トはその地味で控 え目な外見 とは異なって

,内

に激 しい情熱 を秘 めてい る。装われた外見 の下 に 本当の自分 を隠 した ヒロインの造形 はこれ までにはなかった ものであ り

,そ

れは主人 に仕 えるコン パニオンあるいはガヴァネス といった立場 にヒロインをおいて

,は

じめて生 み出された ヒロイン像 であった。 ジェイ ン・ ムーアに仕 えるエ リザベス は`Miss A/100re pretends to have a great regard

for me & says she can't live 、vithout me――一二because l flatter her vanity & don't rival her

beauty'21)と 自嘲気味 に兄 に語 っている。 この言葉か らガヴァネス とい う召使 とも教師 ともつかな い曖味な立場 に身 をお くエ リザベスーー そしてシャーロッ ト自身―― のや りきれない思いが伝わっ て くる。 シャーロッ トは自分 の性格が家庭教師には不向 きであることを認 める一方で

,な

じめない 人 び との中にあっていつ も本当の自分 をお し隠 し

,外

見 をつ くろわなければな らない苦痛 を感 じて ぃた。22) エ リザベスはヴェル ドポ リスにあってよそ者 というばか りでな く

,そ

の華やかな社会 に も溶 け込 まない。ザモーナ公爵 にたい して無関心なの もその一つの顕われ といえる。 また主人 ジェイ ン・ ム ーアがその艶姿 をみせ る社交界 も

,エ

リザベスにとって はたんなる仕事 の場 というに過 ぎない。彼 女 にとってそれ は自分 とは別 の世界 というばか りでな く

,憧

れの世界です らない。エ リザベスはア

(9)

ング リアの享楽的 な世界 の外側 に位置 づ け られ てお り

,そ

の こ とは従来 の ヒロイ ンの多 くが ア ング リア上 流階級 に属 し

,そ

の世界 に深 くと りこまれていたの とは大 きな違 いで あ る。 エ リザベ ス はい わ ば反 ア ング リア的 な視点 を もつ最初 の ヒロイ ン とい える。 だが その一 方 で

,エ

リザベ ス はその地 味 で 日立 たない外 見 に はそ ぐわ ない激 しい情 熱 を秘 めてい る。彼 女 が ウ ィ リアム婢,との出会 いのな かで

,そ

の内な る情熱 に目覚 め解 き放 ってい くとい う展開 において

,エ

リザベ ス もや は リア ング リ アの ヒロイ ンのひ とりで あ り

,HHも

またア ング リア伝説 につ らな る恋愛物語 の一 つで あ る ことが わか る。 エ リザベ スが容 姿や社会 的地位 な どの点で

,

これ までの ヒロイ ンたち とは異 なっていた ように, ウ ィリアム卿 もザモーナ公爵や エル リン トン婢Iのよ うな華 やか さはない。「 ス タ ンク リッフ・ホ テル」 (`Stancliffeζ Hotel',6.1838)で は

,む

しろチ ャールズ・ タウンシェン ドとの類似 が強調 され てい る。

ヽヽre were both young,both thin,both saHow and light―haired and blue― eyed,both carefuHy and somewhat foppishly dressed,with small feet set off by a slender chaussure and、vhite

hands garnished with massive rings.A/1y friend however was considerably taller than l and had besides more of the air r htary.23)

痩 身 で青 白 く金髪 とい うウ ィ リアム卿 の容 姿 は

,肌

浅 黒 く頑健 な体 姫 のザ モ ー ナ公 爵 とは対 照 的 で あ る。 またア ング リアの寵児 で あったザモーナ公 爵 に くらべ

,少

年 時代 の ウ ィ リアム卿 は逆境 にあ る。彼 はア レグザ ンダー・ パー シ ィの次男 として生 まれなが らも

,残

酷 な父親 に よって兄 エ ドワー ドとともに家 を追 われ

,飢

えや貧 囚 そ して兄 との確執 に苦 しみなが ら成長 し

,兄

の商会 を とびだ し よ うや く軍人 として一人立 ち した ところであ る。20肉親 の愛薄 く辛酸 をなめて きた ウ ィリアム は,表 面 的 に はシニ カル で

,容

易 にその本 心 を明か さない複雑 な人 間 に見 え る。 だが択独 な彼 が愛 を必 要 としてい る ことは

,心

和 む時 を求 めて妹 の メア リ(現 ザモーナ公 爵夫人 )を しば しば訪 れ る こ とか ら も知 られ る。

HHの

お よそ 6ヵ 月前 に シャー ロ ッ トは「 ザモーナ公爵」(`The Duke of Zamorna',7.1838)と

して知 られ る13章 か ら成 る作 品 を書 いてい る。 と くに一貫 した構成 を もたないエ ピソー ドの寄 せ集

めだが

,前

半 で はお もにノーザ ンガー ラ ン ドの経歴 や ドゥア ロウ侯 爵 との出会 い とい ったお な じみ

の題材 が取 り上 げ られてい る。 だが後 半 で は こうした話題 に飽 きた語 り手 チ ャールズ 。タウ ンシェ ン ドは

,第

9章

の 冒頭 で `I grew weary of heroics and lollged for some chat with men of common

Clay'と 述 べ

,続

きを友人 ウィ リアム・パー シ ィに譲 って しまう。 チ ャール ズ ことシャー ロ ッ トはこ

(10)

160 岩 は る 子

日常 的 な世界 へ とその関心 を移 していった よ うに思 われ る。 ウ ィ リアム はチ ャールズ 。タウンシェ

ン ドヘ の書簡 のひ とつで

,自

分 の貧 しか った子 ども時代 や青春時代 をぶ り返 った後

,結

婚 につ いて

次 の よ うに語 ってい る。

. . . I will never marry till l can find a wOman wl10 has endured sufferings as poignant as I

have dOne who has felt them as intensely who has denied her feelings as absolutely and in the end,has triumphed over her woes as successfuny.

A wOman so gifted with youth and refined education, vould attract my love far more

irresistibly than the beauty of Helen or the niaiesty Of Cleopatra.Beauty is given to dolls―

rnaJesty to haughty vixen―

but nd, feehng, passion, and the crowning grace of

fortitude are the attributes of an angel.25)

ここに見 るか ぎ リウ ィ リアム は

,享

楽 的 なア ング リア上流階級者 たち とは

,生

き方が異 な るように

見 え る。女姓 に対 して美貌 よ りも知性 や感情 や誠 実 さを求 め

,何

よ りその人 生観 を共有 しうる女性

を理想 とす るウィ リアム卿 は

,女

性 を美 しい花 の ように愛 で るが枯 れて しまえば捨 てて顧 ないザモ

ーナ公爵や

,女

性 を征服 し支配 す る対 象 としか見 ないエル リン トン卿 とは確 か に異 なってい る。 だ

が その一 方で,ウ ィ リアム卵,のなか に もや は リア ング リアの男性 として の放 蕩 な一面 が あ る ことが,

次 の発言か ら知 られ る。す なわち

HHに

お いて彼 は `it's mighty convenient to be in 10ve with FrenchwOmen― 一 ― ―one'S passion never interferes、 vith One's cOmfort― ― ―=I think I'1l never marry,

but spend my life in finding out resemblances to the single Shape l gIOrify.'26)と △べてヤゝるの

である。恋 は快楽 を目的 とした遊戯 に過 ぎない という考え方が彼 にもあ り

,そ

うした生 き方 を彼が 選ぶ可能性 はおおいにある。 ここにい うsingle Shapeと は「ザモーナの蓄薇」 と呼 ばれ るジェイ

ン・ ムーアの ことで

,卿

はひそかに彼女 との結婚 を考 えている。

そうしたウィリアム卿 にとってはじめて濠!場で見かけたエ リザベス は,ガヽ柄 な体 を「 クェーカー 教徒 のように」質素な灰色 の服 に包 んだ魅力のない女性である。 また後 日

,舞

踏会 に遅れて きた卿 ′ま`to my horror&cOnsternation nothing left fOr rne to patronis― but the same little dusk

apparitiOn'20と ぃって

,ェ

リザベスを無視 しダンスの相手 に誘お うともしない。そのエ リザベスは だれの限 にもとまらない ことを幸い

,ひ

とり人々の賑わいを離れて壁 にか けられた一枚の戦いの絵 に (おそ らく兄 を思いだ し

)涙

ぐむ。だが まもな く気 を取 り直 し涙 をぶ くと

,そ

れ までの悲 しみは 気ぶ りも見せず主人 にかいがい し く仕 える。エ リザベスは主人 に人々の注 目が集 まるよう心 を配 り なが ら

,自

分 自身 は異性 の視線 を浴びたい とい う気持ちはまるでない。 その様子 をウィリアムはじ つ と見つめなが ら

,や

がて気づ くのである。

(11)

→ et the creature,on a close exanination,was by no means ugly―――11ler eyes were very

fine & seemed as if they could express anything...but her features were masked with an

expression foreign to them― ――Ther movements were restrained & guarded―――=she wanted

opennes―

originality―

frankes-28)

表情 ゆたかな目はエ リザベスの魅力のひ とつで

,馬

車 の中で はじめて彼女 を見かけたチ ャールズ 。 タウンシェンドもその目を`a quick wandering eye of singular&by no means common place

significance'と 印象深 くおぼえている。それ は見 る者 を魅了せず にはおかないジェイ ン・ ムーアの

口がたんに`a large blue imperial eyes'と しか描 かれず

,後

にウィリアムが `she does not penetrate

into the minds of those about her'と 語 っているの とは対照的である。29ェリザベスの秘 め られた

情熱的な素顔 は

,や

がて兄ヘ ンリの逮捕の際 にあ らわになる。 ウィリアムはエ リザベ スが大方の女 性 のように泣いた り気絶 した りす ることを予測 して

,ハ

ンカチや気付 け薬 を携 えてい くが

,意

外 に も彼女 は激情 もあ らわに抵抗す る。彼 はその驚 きを`Sparks of fire danced in Miss Hastings'eyes

――――there was very little resemblance bet、 veen what now stood before me &the Submissive―

dexterOus retirilag individual l had seen at Verdopolis'3ω と日記 に記 している。`炎のゆ らめ く眼'

は激情 にか られたゼノウビアを思い起 こさせ る。だがゼノウビアが 自ら情熱 に身 を投 じようとして いたの とは対照的に

,エ

リザベスは`still she struggled to keep wrapt about her vell of reserve&

propriety'と ぁるように

,取

り乱 しなが らもなお 自分 を抑 えようとす る。エ リザベスが これ までの ヒロインと異なっているのは

,彼

女が もの静かな外見 の下 に激 しい情熱 を秘 めてい る点 ばか りでな く

,内

なる情熱 を抑制 しようとして葛藤す る点である。 メア リやゼノウビアな どこれ までのヒロイ ンの多 くは

,雄

弁 なまでに恋 の情熱 を語 っていた。だ がエ リザベスは秘 めた思いを

,他

人 にはお ろか自分 にさえ語 ろうとはしない。彼女 はひ とり暖炉 の 火 を見つめ

,身

分違 いのウィリアムが 自分の ことな ど思 って くれ るはずがない と言い きかせ なが ら も

,彼

の言葉のひ とつひ とつ を思い返 してみた り

,遠

く戦場 にある彼 の姿 を思い描 き

,そ

の夢 を飾 るであろう女性のことを思い,自分の恋の虚 しさを嘆 く詩 (`HOW Sad tO die concealing/The anguish born of love'で 終 るスタンザ)を創 ってみた りす る。 ところがエ リザベスは心の中で はロマ ンテ ィ

ックな想像 をめ ぐらしなが ら

,そ

の詩 を回ず さもうとはしない。恋 の情熱 に憧れなが らも

,エ

リザ ベスはそれ を解 き放 とうとはしないのである。語 り手 はそうしたエ リザベスの様子 を次のように観 察 している。

(12)

162 岩 は る 予

hke a song in herlnind words,ho、vever,neither spoken nor suntthe dared not so far

confess her phrenzy to herself―――'31)

語 り手 はエ リザベス自身す ら自覚 していない

,抑

圧 しようとす る心の動 きを読者 に伝 える。昼間 は 有能で知的な学校教師 として

,生

徒や父兄 の尊敬 を集 めるエ リザベスが

,一

人 きりの夕暮れ にはも はや帰 ることので きない故郷 を思い激 しく泣いた りす る。父 と兄 のほかに身 よりのない彼女が

,人

の愛(affeCtion)に飢 えてい ることは

,す

でにや は り語 り手 によって 烙he was always burning for

warmer,dOser attachment一

she couldn't l e without it'と観察 されている。語 り手 はエ リザ ベスを外側か ら眺めなが らも

,彼

女 自身以上 にその心 の渇 きを明確 に捉 えているのである。エ リザ ベスの情熱 は抑圧 されその全貌が見 えないだけに

,奔

放 に発散 され るゼノウビアやメア リの情熱 よ りも息苦 し く閉 ざされてい ることを感 じさせ る。 じっさいエ リザベスの情熱 には

,つ

ねにそれ を抑 制 しようとす る理性的な意志が働 いていることがわか る。だが理性 と情熱 は対立す るように見 えな が ら

,理

性 に抑圧 され ることによって情熱 はいっそ う激 し くか きたて られているのである。3分 物語で は,やがて思いが けずウィリアム と再会 したエ リザベスが

,冷

静 さを装 お うとしなが らも, か えって胸 は高鳴 り頼が火照 る様子が描かれ る。散歩 に誘われたエ リザベスは

,夕

暮れに男性 と二 人 きりで歩 くのは女 のた しなみに反するので はとため らいなが らも,その一方で lt WOuld be sin&

nOnsense to thrOw away the moment Of bliss Chance had offered her'と 思い直 して

,心

の まま に従 うことにす る。つづ く`Having thus set aside scruples&wholly yielded herself to the wild

delight fluttering at her heart'33)と ぃ ぅ表現 に

,エ

リザベスがそれ まで内に秘 め認 めようとしな

かつた情熱 に

,い

ま理性 を捨てみずか ら身 をゆだね ようとしていることが感 じられ る。ぶた りはや がて うっそうと繁 る森 の小径 を抜 け,月の光 に照 らされたスカー・チャペルに至 る。34)ゥ ィリアム卿 は過去 の恋人 たち とのロマ ンスを語 り

,エ

リザベス は`its confidential tone charmed her Hke a

spell'と 書かれているように,彼の親密な話 し方 に魔法 にかけられたようにうっ とりと聞 き入 る。そ れ に対 してウィリアム卿 は`hoW magical was the effect一 二how profound was the interest of all this sweet confidential interchange of feehng. it was more be、 vitching even than the open

language of lovざ 39とぁるように

,エ

リザベスの心 をた くみに読み

,自

分の手際に満足気である。 やがて話題 は

RESURGAM(「

我 よみが えらん」の意)とい う不思議な碑銘 の刻 まれた墓石 の ことに及ぶ。 それ はかつてザモーナ公爵 に庇護 されていた美貌 のロザマン ド・ ウェルズ リが葬 られ ている墓地である。彼女 は公爵の誘惑 に身 をまかせたが

,後

にその身 を恥 じて自殺 した。公爵 は今 もなお彼女の面影 を求 めて しばしば墓 を訪れ るとい う。 このロマ ンテ ィックな事件 は

,恋

の情熱 の 激 しさ と

,そ

れに身 を滅 ば した女性の悲劇 を物語 るばか りでな く

,こ

の後 に続 くウィリアム卿 によ る求愛への伏線 となる。婢Iの姿 にザモーナ公爵の面影が重な り

,エ

リザベス もこれ までの ヒロイン

(13)

たちと同 じように強い誘惑 にさらされ る。彼女 は彼の巧みな リー ドによ り

,そ

の秘 めやかな思いを

`I adore you―

&thaザ

S a confession death should not make me cancel'30と 告 白す る。エ リザ

ベスがその情熱の扉を開け放った瞬間育あつた。だがそれに対する卵

Hの

申し入れは

,い

かにもアン

グリアの男性らしく,エ リザベスを妻ではなくミストレスとして望むものであった。

`You said just now that alllnen of rank were scoundrels― 一一I'rn a man ofrank Win you be my nlistressP'

と続 く彼の言葉 は

,直

前 にエ リザベスが放蕩 なザモーナ公爵 を非難 した言葉 をそのままに繰 り返 し た ものである。そ こにはそれ と知 りつつ恋 の誘惑 に落 ちていか ざるを得 ない女の弱 さへの挑戦 めい た ものがある。 ここでエ リザベスは作品 に通底 していた性的放縦 なアング リア的世界 と向 きあうこ

とになる。JHllは求愛 を退 けようとす るエ リザベスを激 し く誘惑 し

,エ

リザベスの瞳にささや く。

“EHzabeth,your eyes betray you― ――一they speak the language of a very ardent,very imagina―

tive temperament―――ithey cofess not only that you love rne,but that you cannot live without

m―

yield tO your nature&let lne clailn you this moment as my o、vn―――''37)

「僕 な くして は生 きて ゆかれ ない」 あ るい は「情熱 に身 を まかせ よ」 とい うこ とば は

,こ

れ まで

多 くのア ング リア の ヒロイ ンた ち を誘 惑 して きた こ とばで あ る。 だが

HHに

お いて は yieldと い う

語 に暗示 され るよ うに

,そ

れ はエ リザベ ス に とって打 ち勝 つべ き誘 惑 として捉 え られ て い る。

生iss Hastings was silent一 but she was nOt going to yield一 only the hard conflict of passionate love with feelings that shrank horror― struck froni the remotest shadow of

infamy compelled her for a moment to silent agony.38)

エ リザベスの前 にはウィリアム卿の ミス トレス となって愛 を成就 させ るか

,あ

るいは自己の尊厳 を守 りひ とり生 きるかの選択 しかなかった。 ミス トレス として はマイナ・ ロー リ(後述す る)のよう に男性 に全面的に依存す るか

,ル

イーザ・ ヴ アーノンのように自己本位 に享楽的に生 きるしかあ り 得 ない。 この葛藤 は一見 した ところ Sexualityと mOralityの対立 のように見 え, じつさい世間の 嘲笑や恥辱 を理 由にあげるエ リザベスは

,い

かにも伝統的価値観 に沿 っているか に聞 こえる。だが 彼女 はかつて周囲の非難 を受 けなが らも兄 を一人かばい続 けたように

,社

会的価値観 に左右 され る 女性ではない。エ リザベスを踏 み とどまらせた ものは

,じ

つ は`I am afraid of nothing but myselF

という彼女 の言葉が示 しているように,情熱 に理性 を見失 うことへの危惧である。39月明 りのもとで プロポーズがなされ

,月

がかげつた瞬間 にエ リザベスは幸 うじてウイリアムの腕 を逃れ る。 この場 面 はエ リザベスが これ までのヒロインたちが遭遇 した同 じ状況 におかれなが らも

,自

らその誘惑 を

(14)

164 岩 は る 子 退 け

,ア

ング リア的世界 に背 を向けたことを象徴するものである。エ リザベスは理性 を失わせよう とす る情熱 をはじめて相対化 し

,そ

れ を誘惑 として見つめ

,葛

藤 しなが らも自己の主体性 を守 った アング リア伝説 における最初 の ヒロイ ンであった と言 うことがで きよう。 これ までのメア リ・ ヘ ンリエ ッタやゼノウビア・ ェル リン トンな どの ヒロインたちは

,報

い られ ない恋 に駆 り立 て られ る女性たちであった。彼女たちにとって恋の情熱 は

,理

性や意志 を無力 にし 主体性 の放棄 を強いるものであった。彼女たちは恋することによって自尊心 を傷つけられ

,自

己嫌 悪 にか られなが らも

,な

す術 もな く情熱 に引 きよせ られてい く。ザモーナ公爵を愛する女性たちは みな共通の運命 をた どり

,ヒ

ロインの姿 はパターン化 した ものになった。だがエ リザベスに対 して ウィリアム卿 を配 した ことで

,シ

ャーロッ トは画一化 された女性 たちの生 き方 とは異なった選択肢 をエ リザベスに与 え

,彼

女 に愛 を離れひ とり生 きることを選 ばせた。 しか しこの結末 は必ずしも情 熱の否定 を意味す るもので はない。次作 の `Caroline Vernon'で はェ リザベス と同 じような状況に おかれたヒロインが逆 の選択

,す

なわちザモーナ公爵への愛 を選 び自ら情熱 に身 を委ねてい くさま が描かれているのである。

HHに

おいて も

CVに

おいて もヒロインの選択 は二者択―であ り

,そ

れ らを両立 させ る生 き方への模索 は見 られない。 シャーロッ トの関心 は選択の もつ意味あるいはその 解決策 の堤示 にあるよ りも

,む

しろ選択 の まえに立 たされた ヒロイ ンの心の葛藤 を描 くことにあっ た と考 えられ る。エ リザベス は再藤 という形で情熱 をもっともよ く表現 し

,さ

らに情熱 を自らの内 に潜行 させ

,孤

立 した情念 に生 きる道 を選 んだ

,シ

ャーロッ トの生 み出 した独創的な ヒロインであ った。

D.分

裂型 ヒロイン

D-1

マイナ 。ロー リ (Mina Laury) これ までアング リア伝説 に登場する主要なヒロインについて三つの型 に分類 し

,そ

の特徴 を作品 にそって紹介 して きた。最後 に取 り上 げるマイナ・ ロー リは

,男

性 に伍 して戦場 に赴 くことも厭わ ない という勇敢で聡明な女傑型 の女性だが

,反

面ザモーナに対 して は絶対服従 し

,彼

の前では主体 性 を欠いた自己犠牲的な人形型 の女性へ と変貌 して しまう。彼女の中には二つの相反する要素が性 格 の二面性 として混在 しているように見 えることか ら

,分

裂型 ヒロインとして紹介することにした。

マイナ 。ロー リが最初 に登場するのは「アーサーについて」 (`SOmething abOut Arthuゴ,5.1833, 以下

SAと

略記

)で

,こ

れ はアング リア伝説 の初期 に位置す る作品である。マ リアン・ ヒューム と ゼノウビア・ ェル リン トンに続いて二人 目のヒロインで

,前

二者 に比 して陽のあた らない日陰の人 生 を歩む ことになる。悲恋 はシャーロッ トの初期の恋愛物語 に見 られる特徴の一つだが

,SAも

ま た若い恋人 たちの別離で終 っている。 しか しその後マイナはアング リアの舞台か ら消 えて しまうの

(15)

ではな く

,ザ

モーナの愛人 として生 きるようにな り

,ア

ング リア伝説全体 にわたって登場 し

,愛

人 としてのヒロイン像 とい う重要な役割 を演 じることになる。後 の作品で はザモーナの正妻 となるマ リアン・ ヒュームやメア リ・ ヘ ンリエ ッタ とマイナが接触す る場面 もみ られ

,ア

ング リア伝説の複 雑 に絡 みあう恋愛模様 を織 りなしてい くのである。以下 に

SAの

梗概 を示す。 語 り手チャールズ 。ウェルズ リは自分 の属す る上流社会 を捨て

,半

年あまりを下層階級 の人々 と 過 ごしていたが

,や

がて自分 の行動 を悔 い改 め「放蕩息子 の帰退」そのままに

,父

の もとに戻 る。 だが教師のランデルに嫌味 を言われた ことか ら

,チ

ャールズ は品行方正 と思われてい る兄 アーサー の15歳の時の二つの事件 について語 り出す。 アーサーはサ ンダーボル トとい う名馬が 自慢で

,キ

ャバ シャム男爵の謀 とも知 らずブェル ドポ リ ス大競馬大会 に出場 させ る。 ところが買収 されていた騎手のために

,サ

ンダーボル トは失態 を演 じ る。観衆 の面前で赤恥 をかか されたアーサー は

,怒

りにまかせて愛馬 を撃 ち殺 して しまう。後 に事 件 の真相 を知 った彼 は

,男

爵 に決闘 を申し込 むが逃 げられ る。怒 りのおさまらないアーサー は

,仲

間 を連れて男爵の工場 を襲撃 し

,騒

乱の中で撃 たれ重傷 を負 う。 舞台 は転 じてウェ リン トン国の山中の小屋。騒乱 の首謀者 として追われてい るアーサー はネ ッド によってか くまわれ

,彼

の娘マイナの手厚い看護 を受 けている。 ようや く意識 を取 り戻 したアーサ ーの前 に

,一

頭 の虎が現れ る。マイナ は身 の危険 もかえ りみず剣 をもって虎 に立 ち向かい

,ア

ーサ ーの命 を三度 にわたって救 う。傷 も癒 え狩 りで 日増 しに退 し くなってい くアーサー はマイナに恋心 をよせ

,や

がて地位 も名誉 も捨て この山岳地帯で猟師 としてマイナ と暮 らしたい と言 い出す。 ネッ ドか ら知 らせ を受 けたウェ リン トン公爵 は山小屋 をお とづれ

,息

子の早す ぎる結婚 を認 めず

,直

ち にウォータールー宮殿へ帰 るよう命 じる。 アーサー はしばらく塞いでいるが

,ま

もな く男Jの女性へ と心 を移 してい く。一方マイナ は失恋の痛手か ら立 ち直れず

,命

す ら危ぶ まれ るようになる。 だが アーサーの母 の心遣 いで宮殿 に召使 としてあが ることにな り

,よ

うや く回復 の兆 しを見せ る。 しか しかつての淡刺 とした若々 しさは三度 と戻 らない。 シャーロッ トの恋愛物語 はこれが第二作 目である。すでにアーサー とマ リアン・ ヒュームの恋 を 描 いていた (「アル ビオ ンとマ リーナ」で は悲恋 に終 るが,「婚礼」では結 ばれている)が

,シ

ャーロ ッ トは

SAに

おいてさらに時 を遡 り

,ア

ーサーの秘 め られた過去 を書 き加 えている。 それ まで は非 の打 ち所 のない若者 として描かれていたアーサーが,こ こで は短気で頑固な性格 の一端 をのぞかせ, さらに重要な ことに最初 の恋愛事件 をお こし

,そ

の後 の女性遍歴 を予感 させ るのである。

SAに

は まだかつてのグラスタウン物語 を思わせ るような競馬大会

,決

,工

場襲撃4の な どドタバ タ劇 的な 要素が

,

とくに前半部 に残 っている。だが後半部 は荒涼 とした山岳 を舞台 に幼 い恋 の芽生 え

,情

熱 の高 まり

,引

き裂 かれた恋人たち といったロマ ンティックな恋物語が展開され

,シ

ャー ロッ トの関 心の推移 を明確 に示 している。

(16)

166 岩 上 は る 子

初期 のアング リア伝説 の ヒロイ ンたちは

,多

くが物語や歴史上の人物 をモデル として創 り出され ていた。前回すでに考察 したように「 アル ビオ ンとマ リーナ」(`Albion and Marina',以 下

AMと

略 記

)の

マ リアン・ヒュームはスコッ トの『湖上 の麗人』のエレンに基づいた ものであ り,「緑 の こび と」(`The Green DwarP,以 下

GDと

略記

)の

エ ミリ・ チ ャールズワースは『アイヴ ァンホー』の ロウイーナ姫 にかな り依拠 している。4り またゼノウビア・ エル リン トンがパル ミラの女王ゼノビア やスタール夫人 な どを下地 に形象化 されていることも

,本

論 の冒頭で述べた とお りである。 これ ま でマイナ・ ロー リのモデルについて指摘 はないが

,同

じ頃 に作 り出されたヒロインたち と同様 に, 彼女 にもなん らかの原型があった と推察 され る。

SAの

お よそ 4ヵ 月後 に書かれた

GDは

,そ

の登場人物 ばか りでな く

,物

語の設定や筋書 きもほ とん ど『アイヴ ァンホー』の模倣 に近い作品になっている。 ところがロウイーナ姫 とな らぶ もうひ とりのヒロイ ンであるレベ ッカは

,GDに

はまった く登場 していない。『アイヴァンホー』で は色 白 で青い 目で

,亜

麻色 の髪 の美 しい可憐 なサ クソンの王妃 ロウイーナ姫 に対 して

,レ

ベ ッカは浅黒い 肌

,輝

く黒い瞳

,豊

かな黒 い巻毛

,均

整 の とれた体つ きの美 しいユダヤ人娘 として描かれている。 彼女 は槍試合で深傷 を負ったアイヴァンホーを献身的に看病 し

,幽

開されている城が落 ちる際には, 味方の攻撃 のようす を動 けないアイヴァンホーに冷静 に伝 え

,そ

の才媛ぶ りを発揮す る。アイヴ ァ ンホー とレベ ッカは互 いへの思いを胸 に秘 めているが

,ふ

た りのあいだには越 え難 い身分差 と宗教 の違 いがあ り

,彼

らが結 ばれる望 みはない。物語 の最後で は

,騎

士アイヴ ァンホー は愛 を誓 ったロ ウイーナ姫 と結婚 し

,ア

イブァンホーによって火刑台か ら救われたレベ ッカは

,父

親 とともにユダ ヤ人 の王国 を求 めてイギ リスを去 って行 く。 こうしたレベ ッカの容姿や聡明で勇敢 な性格

,さ

らに アイヴァンホーによせ る切 ない恋 と失恋 の痛みな ど

,SAを

初 め としてその後 のマイナ・ ロー リの 造形 に与 えた影響 は大 きいように思われ る。421 シャーロッ トの恋愛物語の うち

,特

に初期 の作品において悲恋 を生む一つの要因 として

,身

分差 がある。貧 しく美 しい少女が高貴 な生 まれの若者 と恋 に落 ちるのはシンデンラ物語のパター ンだが, シャーロッ トの物語では多 くの場合

,そ

の結末 はハ ッピー・ エ ンディング とはな らない。恋人 たち が身分の違いを乗 り越 え愛 を実 らせ る姿 よ りも

,報

い られ ることのないヒーローヘの愛 に身 を捧 げ るヒロインの姿 に

,シ

ャーロッ トはより関心があったように思われ る。 ドゥアロウ侯爵(アーサー) とマイナの恋 について

,語

り手チャールズ は次のようにコメン トしている。

Yes the proud, Aristocratic,high― minded, refined, elegant h/farquis of Douro had actua■ y

fanen in love with a poor low― born Peasant's Daughterl ttt his affection was not unanswered. A/1ina indeed could not be said so much to love as to worship him he appeared to her in the light of a superior beillg, as an angel, an archangel, & a spieces of a、 ve filled her mind

(17)

whenever she looked at him.40(表記 は原文 のまま) 誇 り高い侯爵が卑 しい生 まれの百姓娘 と恋 におちた ことが まず驚 きであ り

,そ

の不釣合いな恋 はマ イナにとって侯爵が神 にも似 た存在 であ り

,愛

す るというよ り崇拝すべ き対象 となっていることが 示 しているように

,ぶ

た りの身分差 を拡大 こそすれ縮小す るもの とはなっていない。 侯爵 は家柄 も財産 も家族 もすべてを捨てマイナ との恋 に走 ろうとす るが

,父

によって恋人 と引 き 離 され

,や

がて時が過 ぎて彼 の目の前 に別の女性が現れ ると彼女 に心 を移 し

,マ

イナのことは忘れ てい く。 そうした兄 のようす をチ ャールズは皮肉な口調で語 っている。

Arthur for a long time continued to glooln&10ヽ Ver,ぞ壺fret&pine away,till he became mere

skin and bone.But tilne the great Physician did not vainly apply his balsaln to his broken& bleeding heart,and an angel coコ apleted the cure.this was― ―一二but“(Dh no、ve never mention

her."Suffice it to say that brightせ 監beautiful creature on whose brow rny brOther has lately

placed his coronet quite effaced/the remembrance of Simple Mina Laury.that wild little

daisy could not stand before a flower so fair,sO elgant ttι so highly cultured;!笠 acCOrdingly it quickly shrunk into the obscurity of its own green leaves.44)

野 に咲 くひなげしの花 は

,優

美 な花 (マリアンは「画集 をのぞ く」で は白百合 に例 えられている) の前に影が薄 くなる。 この後 も侯爵 をめ ぐる女性 たちが薔薇 をはじめ様々な花 に例 えられ るのは, 彼女たちが侯爵の気 の向 くままに摘 み とられ

,色

あせれば捨て られ る運命 を暗示 しているか らにほ かならない。 じっさいザモーナ公爵 となった彼 にとって

,女

性 たちは気 まぐれに手折 られ

,い

つ と きその目を楽 しませ る花 に過 ぎない ものになってい くのである。

SAに

おけるマイナはそうした悲 劇的な恋 を生 きた最初 の ヒロイ ンとして位置付 けることがで きる。 マイナ はその後 ドゥアロウ侯爵(ザモーナ公爵)がマ リアン・ ヒュームさらにメア リ・ヘ ンリエ ッ タ と結婚 し,その一方で次々 と愛人 をもつ間 も

,彼

に対 して変わ ることのない愛 をもち続 けている。 「呪文」(`The Spell',6.1834)ではシャーロッ トは

,ザ

モーナ公爵 をめ ぐるふた りの女

,す

なわち正 妻 メア リと愛人マイナ とを出会わせている。一人の男性 をめ ぐる三角関係 は

AMい

らいアング リア 伝説 にしばしば見 られ る構図だが

,一

人 の女性 をめ ぐる逆 の設定 はほ とん ど見 られない。ゼノウビ ア とマ リア ンの場合 はゼノウビアが一方的に嫉妬 に逆上す るのみだが

,マ

イナ とメア リは表面的に は平静 を装 いつつ

,た

がいに激 し く火花 を散 らしあ う様子が描かれ る。マイナ はメア リの回調 にさ げすみを感 じなが らも

,侯

爵 によせ る献身的なその愛 を自信 をもって語 り,メ ア リに衝撃 を与 える。

(18)

168 岩 は る 子

She〔

Mary Henrietta〕 may please and entertain him and b10ssom brightly in his smiles,but when adversity saddens hinl,when there are hard duties tO perforrn,when his bro、 v gro、vs dark and his vOice becomes stern and sounds only in cO■ llnand,I warn you,he will care for another handmaid;One whose f00tis as fanliliar tO wild and cOmmon as to gnded sa10n,、 vho knows the fee1 0f a hard bed and the taste of a dry crust,whO has been rudely nurtured and not shielded like a hOthouse flower from every blast of chilling wind.45)(〔

〕 は筆者) 逆境 の時 にザモーナ公爵の伴侶 としてぶさわ しいのは

,育

ちのよい苦労知 らずのメア リで はな く, 辛酸 をなめなが ら怯 まず戦 うことので きる自分であるとマイナは主張する。彼女には公爵のためな ら命す ら投 げ出せ るという自負があ り

,彼

女 はその自己犠牲 の精神 によって

,結

婚 という制度 の外 にはじき出されお としめ られた公爵への愛の純粋性 を模索 しようとしていたのかも知れない。40マ イ ナ・ ロー リは愛人 として生 きる印象的なヒロイン像 になっている。

やがて「 その年の出来事」(`Pas ng Events',4,1836,以

PEと

略記

)に

おいて

,ア

ング リア王 国 は戦火 に包 まれ る。 シャーロッ トは1835年 7月 か ら1838年12月まで

,ウ

ーラー女史 の私塾の教師 としてロウ・ ヘ ッ ド(37年 6月 以降 はデューズベ リー・ ムーア)にいた。姉 の不在中にブランウェル は第二次アング リア大戦 に着手 し

,シ

ャーロッ トは手紙 のや り取 りによって状況 を把握 しなが ら, 1836年の復活祭 の休暇 に帰省 した折に

PEを

書 き

,事

態の推移 に追い付 こうとしている。アング リ ア王国 はヴェル ドポ リス連合か ら追放 され

,首

都エイ ドリアナポ リスは仇敵 クォーシャの手 に落 ち る。ザモーナ はオ リンピア丘陵に立てこもリゲ リラ戦 を展開するが

,ノ

ーザ ンガーラン ドが彼 を裏 切 って武装蜂起 し

,捕

えられたザモーナは昇天島へ と流刑 になる。ブランウェルによるこうした目 まぐるしい政変 の筋書 きを

,シ

ャーロッ トは断片的に自作 に取 り入れている。そのため

PEは

一貫 したス トー リーのない七つのエ ピソー ドを集積 した ものに成 っている。そのひ とつクロス・ ォブ・ リヴォーを舞台 とする場面で は

,戦

火の迫 るアング リアか らの脱 出を促 されたマイナが

,ザ

モーナ の部下 ウォーナーに対 し

,こ

の窮地 にあって こそ主人 とともに戦 うと主張 して譲 らない。

YOu knOw l am hardened Warner,shame忠 ごreproach have no effect On me,I dO not care for

being called a camp―f0110、ver ln peace &pleasure all the ladies of Africa would be at the Duke's beck,in war ttt suffering he shall notlack One poor peasant― girl,Why Sir,I've nothing

else to exisit for,I've n0 0ther interest in life 47)

camp follOwerと は軍隊 の後 をお って移動 す る売春婦 な どの ことで あ り

,マ

イ ナ はザモー ナ公爵 の

(19)

られるが

,後

に流刑地 に向か う途 中で

,マ

イナ は花売 り娘 に扮 して船 に乗 り込む ことになる。 この エ ピソー ドは母国イギ リスか ら追われるようにして大陸に渡ったバイロンを慕ってい くオーガスタ。 リーを思わせ る。マイナ 。ロー リの造形 にバイロンの影響が見 られ ることは

,C・

アレグザ ンダー の分析 にもある。すなわち版画家

W。

フィンデンカラヾイロンの『チャイル ド・ ハ ロル ドの遍歴』の ために需J作した作品の一枚 に「サラゴーサの乙女」があ り

,そ

れをシャーロッ トは模写 している(そ の作品 は現在 ブロンテ博物館 に残存 してい る)ばか りでな く

,マ

イナ。ロー リの容姿 を描写す る際 に モデルにした ことを手旨摘 している。4o マイナに とってはザモーナ公爵が彼女の全世界であ り

,彼

な しには彼女の人生 はあ りえない。マ イナは公爵がアーサー と呼ばれていた少年時代か ら彼 に仕 え

,彼

masterと

呼び続 けている。 そ れ は前章で とりあげたエ リザベス・ ヘイステ ィングズが

,自

分 の主人 は自分である といっていたの とは対照的である。49jマイナがザモーナの愛 に全身全霊 を捧 げる姿 は

,後

に『ジェイン・エア』にお いてロチェスターヘの愛 に自己を見失お うとしていたジェインを紡彿 させ る。時 を経てジェインは, その頃の自分 の姿 を次のように振 り返 っている。

`My future husband was becoming to me my

whole、vorldi and more than the world,almost my hope of heaven.He stood between me and

every thought of rengion,as an echpse intervenes between man and the broad sun,I could not, in those days,see god for his creature:of wlloln l had rnade an idol.50) 後 に叔父の遺産 とこよっ て経済的に自立 したジェイ ンは

,ロ

チェスター と再会 した とき「私の主人 は私です」 と答 える。彼 女 はもはやロチェスターをmasterと して慕 っていた時のジェイ ンで はな く

,自

分 自身のmistress として現れ るのである。彼女の変化の中に初期作品のマイナ 。ロー リか らエ リザベス・ ヘイステ ィ ングズヘの ヒロイン像 の推移 を辿 ることがで きる。 一方で は男勝 りの英知 と勇気 の持主であるマイナを

,ザ

モーナ公爵 は「子供 の ように力な く一一 自分 を失わせて」 しまう。忠実 な家 臣 ともい うべ きマイナにたいす る公爵の報酬 は

,気

まぐれな抱 擁や接吻である。ザモーナを神 のごとき存在 として崇拝するマイナにとって

,彼

に愛 され ることも その身 を生 けにえとして捧 げるに似てい る。アング リア脱出前夜 にクロス・ オブ・ リブォーの別荘 を訪ねたザモーナに抱 きよせ られ るマイナの姿が次の ように描かれてい る。

Absorbed in this grateful task she hardly felt that his Maiesty'S arln had encirceld her

、vaist,&yet she did feelit too and would have thought herself presumptuous to shrink frOm his endearment,She took it as a slave ought to take the caress of a Sultan,だ 並obeying the gentle effort of his hand,slowly sunk on to the sofa by her master's side.51)

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